14 迷いの森
「ふふ、どう? ここなら誰にも邪魔されることなく狩り放題よ! アイテムも盗み放題ね!」
「……ああ、そうだな」
「確かに、誰もいないっすねー。もうかれこれ数時間、他のプレイヤーを見かけてないっすね」
「そうねえ。でもこれって、迷ってますよね? 確実に……」
俺たちは、紅の森からさらに奥へ入ったところに来ていた。
紅の森に進行不可のエリアがある、という噂を聞いてやってきたのだが……。
「でも、驚いたわね。レベル40以上じゃないと入れない場所があったなんて! 他にもそういう隠しエリアみたいなのがあるのかしら?」
「お前が探索スキルがあるから迷うことなんてないとか言ってガンガン突き進むからこんなことになったんだぞ。少しは反省したらどうなんだ?」
「だって、しょうがないじゃない! まさか森自体が動く斬新なマップだなんて想像もしてなかったんだから!」
そう、俺たちはもう数時間も同じ場所を行ったり来たりしている。
いや、同じ場所かどうかもわからない。
木や植物が秒単位で生え変わり、立ち止まっているだけでも周囲が刻一刻と変化していくのだ。
「でもほら、レベルなら大分上がったわよ? レイトも嬉しいでしょ、ね? ね?」
「……俺がレベルさえ上がれば上機嫌だと思ったら大間違いだぞ?」
「まあまあ、落ち着いて。こういう時こそ、みんなが一丸となって帰る方法を見つけないとダメっすよ!」
一丸となったところで、帰れる気はしないけどな。
マップが常に変化するとか反則だろ。
「師匠、見てください! 空から女の子が!」
「……? なんだニック。ついに妄想と現実の区別もつかなくなったか?」
と思ったら本当に降ってきた。
「いたたた、おっかしいなー。座標はここで良かったはずなんだけど……」
「大丈夫っすか。怪我はないっすか。あ、あと名前とよければメアドを教えてくれると助かるっす」
空から降ってきた謎の少女に駆け寄るニック。
「私はアキ。ちょっと座標入力を間違えたみたいでさ。水の都『レスティア』につれてってもらえない?」
「僕に任せてください! 何があろうと『レスティア』に戻ってみせるっすよ!」
「おいおい、俺たちも道に迷ってることを忘れたのかよ」
「あー、ちょっと師匠! せっかく格好つけたっていうのに台無しじゃないっすかあ!」
「すぐバレる嘘をついても後悔するだけだぞ?」
謎の少女の名前はアキというらしい。
なんだか不思議な装備を身にまとっている。
「じゃー、とりあえずパーティーを組みましょうか」
「いいえ、結構です」
「なんで!?」
「なんでも、です。大丈夫、私はモンスターにやられることなんてあり得ませんから……きゃあああ」
言ってる傍から、モンスターに頭をかじられるアキ。
「ま、まあ、ちょっとの間だけだからね。べ、別に私はパーティーに入らなくても大丈夫なんだけど、あなたたちが心配だから特別に入ってあげる」
こうしてアキも俺たちのパーティーに加入することになった。
「え……レベル33? どういうこと?」
「ふっふーん。私のレベルの高さに驚いているようね。でも、安心なさい。私があなたたちを守って……って何コレ! どうなってるのよ。みんなレベル40以上じゃないの! チート? バグ?」
「いやいや、ここってレベル40以上じゃないと入れないエリアのはずなんだけど?」
「えっ! そ、そうなの!? ど、ど、どうしてかなぁ? おかしいねー? 何かのバグなんじゃない? ほら、ずっとログアウトもできないままだしー? バグの一つや二つあっても不思議じゃないじゃない?」
明らかに挙動不審になるアキ。
「そうっすよねー。バグなら仕方ないっすねー」
「ニック……少しは疑おうぜ? な?」
「何言ってんすか! こんな可愛い子が嘘をつくはずがないじゃないっすか! 師匠の心は汚れてるんすよ!」
あ、あれー?
なんだろう、胸が痛むよ。
まあ、良いか。
アキが何かを隠していたところで俺には関係ない。
とにかく、ここは水の都『レスティア』に戻ることが最優先なのだ。
「アキさん、凄いっすねー。回復魔法が使えるなんて!」
「い、いや、むしろあなたたちのほうが凄いわ……誰も回復魔法を使えないなんて」
「良かったわね、レイト! これで回復の心配もなく狩りまくれるわ!」
「いや、目的は町に戻ることだからな?」
アキとパーティーを組んでから大分時間が経過した。
しかし、俺たちは相変わらず森をさまよい続けている。
「師匠、空からロボットが!」
「えっ!?」
ニックが叫ぶと、本当に空から何かが降ってきた。
俺たちの目の前に落下してくる。
「ピピピ……。システム再起動。ターゲット確認……ピピ、完了。ターゲットを殲滅シマス」




