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01 事件発生

「命が惜しけりゃ金目のものを置いていきな!」


 振り返ると、美しい銀髪の女性がナイフを手に立っていた。

 初心者を狙ったPKの噂を耳にしていたが、まさか実際に俺が襲われることになるとはね。


「んー……ごめん、今忙しいんだ」

「えっ? ちょ、ちょっと! 逃げるなら金目のものを置いていきなさいよー」


 相手にするのも面倒なので、足早にその場を立ち去る。

 しかし、女はしつこく俺の後を追ってきた。


「なんだよ、俺が金を持ってるように見えるのか?」

「うん、その手に持ってる武器ってレアアイテムでしょ? 私の目はごまかせないよ!」


 そこまで分かってるなら、俺のことは放っておいてくれよ。


「ちっ、こんな時に……」

「ふふ、ふふふふ! 今日の私は運が良いみたいね。こんなところでレアモンスターに出会えるなんて!」


 目の前に俺が狙っていたレアモンスターが湧いた。

 そのモンスターに勢いよく飛び掛かっていく銀髪の女性。


「あべしっ!」


 一瞬で弾き飛ばされ地面に頭から落っこちた。

 受けでも狙ったつもりなのだろうか。


「ちょ、ちょっと、何よこれー! なんでこんな強いモンスターがいるわけー?」

「初心者キラーと呼ばれるモンスターだよ」

「な、なんですってええ!? よく見たらレベル24じゃない。こんなの反則よー! ちょっと、そこのあんた、突っ立ってないで早くなんとかしなさいよ!」


 意気揚々と飛び掛かったくせに。

 ったく、しょうがねえなあ。


「よっと」

「い、一撃!?」

 

 モンスターを倒し、落としたドロップアイテムを拾う。


「あ、ちょっと! それ私のでしょ?」

「はい?」

「私が、最初に攻撃したモンスターなんだから私のものだって言ってるのよ!」

「残念だったな、倒したやつがアイテムを拾う権利があるんだよ」

「横殴りよ、マナー違反よ!」

「お前が倒せって言ったんじゃないか」

「くっ……、しょうがないわねー、じゃあ分配ってことで手を打つわ!」


 め、めんどくせー。





「……! あ、分かった! あんた、レイトでしょ?」

「げげ、なんで俺の名を……」

「24時間ログインしてるのにソロプレイしかしないっていう生粋のぼっち! このゲームじゃ割と有名よ!」

「……ぼっちで悪かったな」


 それに、さすがに24時間はログインしてないぞ。せいぜい18時間くらいだ。

 せっかく目立たないように行動してたのになあ。トホホ……。


「ふふ、こんなところで会えるなんて、やっぱり私ってば超ラッキー? ねえ、あんた、私とパーティ組みましょうよ」

「だが断る」

「なんでよ! 私、これでもレベル16なのよ? 絶対、役に立つわ!」

「初心者キラーにやられてたのにか?」

「あ、あれは、ちょっと油断したのよ! まさか初心者の町の近くにあんな高レベルモンスターが湧くなんて知らなかったし!」


 これは面倒なことになりそうだ。

 俺は、そっとログアウトボタンに手を伸ばす。


「あ、あれ……?」

「ん、何? どうかしたの?」

「何故かログアウトができないんだ」

「なんで私が話してる最中にログアウトする必要があるのよ! どれどれ、むむ、確かにログアウトできないわね。何かの不具合かしら?」


 こんな時に不具合かよ、マジ勘弁してほしい。


「ま、どうせすぐ直るでしょ。それまで私と付き合ってよ!」

「なんでそうなるんだ。俺がなぜソロプレイなのか知ってるか?」

「そんなの知るわけないじゃない! バカなの?」

「……お前みたいなやつと会話するのが面倒だからだよ」

「えええ、それちょっとどういう意味よー、あ、ちょっとまだ話は終わってないんだから、勝手に先に進まないでよー!」


 これ以上、関わり合いたくもないので俺は初心者の町へ移動することにした。

 しかし、なんだか町の様子がおかしい。


「えっ? ちょっと、これ、一体何がどうなってるのよ」

「俺に聞くなよ。新手のイベントか何かなんじゃねーの?」

「そんな告知見てないわよ?」

「じゃあ、これは何なんだよ」


 初心者の町が真っ赤に燃えていたのだった。

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