四話
■
「―――独断専行、任務失敗、その上に聖魂機まで壊して帰ってきたんだもの。『療養に専念せよ』なんてのは名目だけで、事実上の謹慎処分ってワケ――――だ・か・ら、私は病人でも何でもないの!このクソ暑いのにお粥なんてほしくないの!」
「でもでもミディちゃんが元気ないのはホントでしょぉ~?だからほら、ユーディ特製の麦粥食べて元気だしてぇ」
久々に「シェハキム」領区にある自室に戻ってきたミディは不意の来客に頭を抱えていた。
「アンタの作る料理は色々不安なのよ!深刻な虫嫌いのトラウマを植えつけられたりだとか!!」
「ほえぇ、そんな前のコトよく覚えてるねぇミディちゃん。ユーディすっかり忘れてたよ」
小首を傾げるユーディと呼ばれた少女。
「忘れようとしても忘れられないのこっちはッ!つかね!さっきから何で下着一丁になってんのよアンタ!バカじゃないの!?」
「うっかりワンピースにお粥こぼしちゃってぇ、火傷しちゃうから脱いだの~」
「服なら私の貸すわよ!」
「だって~ミディちゃんのじゃサイズ合わないんだもん」
「くうっ無駄に育ってからにこの牛女!昔っからあんたのそういうトコがめっちゃイラつくのよ!」
「あは~ミディちゃん、そういってよく私のこといじめたよねぇ~。でも今はぁ仲良しさんだけどぉ」
「あああ抱きつくな鬱陶しいッ!」
ユーディト・ア・セクラ。愛称ユーディ。
学院の同期。機兵乗りの才能こそなかったが、情報統御分野で類まれな才能を発揮し若くして太教院の上級員にまで上り詰めた才女だった。単純な位階でいえばミディよりも上位である。
「…ったくこんなの上にあげてりゃそら聖府も崩壊するっての!」
「むー、ちゃあんと仕事してきたんだよぉ、ホラ。ミディちゃん知りたがってたでしょ?」
ミディは聖府周辺の動向をそれとなく調べるよう友人に頼んでいた。といっても、ミディとしてはあくまでユーディトが職務上知りうる範囲内の事について尋ねたかっただけなのだが(無論それとて立派な機密漏洩行為ではある)こと情報の収拾と精査という点において、ユーディトはまごうことなき傑物であった。
「何か目ぼしい情報でもみつかったの?」
「うん、多分ミディちゃんも気になると思うよ。戦場の各地で謎の機兵が出没するっていう話なんだけど」
「謎の機兵?所属不明機ってこと?」
「ううん、所属どころか今までみたこともない機兵で、しかも現れてはすぐ消えちゃうから詳しく確認のしようもないんだって」
「消える?映像とか?それとも空間転移したってこと?」
「うーん、それがよく分からないんだよねぇ…確かに実体はあるっぽいんだけど、次の瞬間には存在痕跡すら残さずにいなくなるって。場所なんかもバラバラで、遠く離れた場所にほぼ同時刻に現れたこともあったり」
「ちょっとそれ貸して」
ユーディの映盤を奪い、謎の機兵の出没地点を確認するミディ。
「ポルトウス、アルア、ギアヌッカ……どこも激戦区ばっかりね…相当の混乱状態だったんじゃないの?」
当然ながら目撃の信用性を問うミディにユーディトは、
「う~ん、紅軍も翠軍も緘口令を敷いてるから噂は広がってないみたいだけど、緘口令の事実自体が却って真実味を増してるって思うなぁ。それにね、幾つかの目撃証言の中に気になるのがあってぇ」
「気になるってなにが?」
「何人もの目撃者がその機兵の事をね、『まるで<ゲフェンノーム>のようだった』って…ミディちゃん?」
ミディは目を瞑り天井を仰ぎ。
「…薄々そんな感じはしてたのよね……そんな非常識な機兵なんてアイツしか知らないもの」
現在、空間断層障壁によって行来が極端に困難になっている各領区を横断して自在に出没するなど常軌を逸している。
いかなる条理も覆しうる魔獣。
その存在は混迷渦巻く真世界の先行きを指し示す凶兆以外のなにものでもない。
「―――仮に、本当にゲフェンノームだったとして、一体目的はなんなの?」
「それがぜーんぜん。殆どの場所ではホントにただ現れては消えただけで、それ以上何の手がかりもないの」
「回収したゲフェンノームを誰かが操っている?けど誰が、なんの為に…」
考えを巡らせるミディに。
背中に回り後ろからそっとミディに腕を回す。
「ねえ、ミディちゃん」
「なによ」
「…気をつけてね。教えておいてなんだけれど、この件、あんまり深入りし過ぎるのは良くないって気がする」
しばしの間。
「ごめんねユーディ、巻き込んじゃって。私だって分かってるよ」
ミディ。
「けど、もううんざりなのよ。陰でコソコソやってる奴等の思惑にいいように踊らされるのは―――」
■
草地が疎らに続く平原にぽつねんと黒黒とした湖沼だけが目立っている。
脈動する湖面を灼く機兵の電糸砲掃射。
砲撃に散った蟲たちはすぐに忙しなくより集い、重なり合って姿形を自在に変えながら機兵に襲いかかる。
『――たかが虫ころっても油断はすんな、迂闊に近づくと取り込まれっぞ!なるべく布陣を崩さず動くんだ』
『ヘイヘイ』
『返事は一回つったろブルーノ。ザックは俺の方回ってくれ!カチナはダネルの方!』
機魔・蟲の群れを相手にする機兵たち。キリヤンのもと一丸となって掃討にあたる「オルビスの枝」の面々の士気は高い。
後衛の尖闘兵部隊が可霊電糸砲で広域を焼き払い、前衛には他より対魔抗性に優れたディキオスと執金剛がたち、部隊の盾となりつつ露払いをつとめている。
戦闘の最中、ダネルは自機の性能を確かめるように操縦していた。従来のディキオスと異なる部分、同じ部分を一つ一つ精査するように。
――大幅に性能の下落した機体にあって、ダネルはこれ迄にない深度で機兵操縦というものを意識し思考する必要に迫られている。それまで聖魂機のスペックに依った戦い方をしてきた彼にとって、それは得がたい経験であったが、その事を当人が自覚するのはまだ先の話である。
「(よし、ディキオスも安定している。魔性に接触しても反応はしない…)」
『その分じゃ問題なさげみたいだな』
「ああ、みんなキリヤンのお陰さ」
『へへ、お代は貸しにしといてやるからしっかり働いてくれや』
「しかしこっちでも魔災の処理とはね」
『この先にゃいくつか集落があるからな、こういう害虫駆除も俺らの仕事のうちってね。こん位ならそいつの慣らしには丁度いいだろ』
「そうだな、―――いくぞ<灰騎士>!」
尖闘兵部隊の方へ向けて、じくじくと一際大きな塊を形成しつつある蟲群へとダネルは機体を前進させ。
剣閃一つ。
黒塊に縦の斬線が奔る。
だが、切り捨てた泥濘は直ちに二つの群蟲となって、ディキオスへ幾条もの触肢を伸ばしてきた。
『おら、油断すんなや!』
鞭のごとくのびた蛇腹刀が蟲群に巻きつくと、ほぼ同時に刀身が瞬光を放ち蟲を爆散させる。
「助かったキリヤン!」
『鞘帯砲は使えないのか?』
「こいつ普通に撃つとどこ飛んでくか分からないんだ」
『いちおう調整はしたつもりなんだがなぁ』
「俺も元々、狙撃はあまり得意な方じゃないし…」
『―――スマンしくじった、こっち頼むダネルッ!』
メイス機よりの通信に振り返るダネル。
みれば四方より追い詰められた蟲群が寄り集まって一際大きい泥塊を成していた。次の瞬間ぶくぶくと膨らむそれは瞬く間に伸び広がって、大蛟の姿をとって尖闘兵ににじり寄る。
「いけるかッ!?」
ディキオスは限界高度まで跳躍し、大蛟の上をとった。
襲いくる蛟の顎を紙一重で避けつつ、その頭に大剣を押し込んだまま滑るように下降するディキオス。
『ダネル、下がれッ』
真っ二つに身を割かれた蛟はすかさず部隊の追いうちの放射を受ける。
バラバラに崩れて地に還っていく蟲を見、安堵の溜息をつくダネル。
「(流石は腐っても聖魂機、後は操縦次第ってことだな…)」
『よっしゃ。どうやらこんなもんみたいだな』
「もういいのか」
『反応計ってみな』
「…ホントだ」
俄に湖面に沈み溶けゆく蟲群。
気づけば辺りには薄く白い霧がたちこめている。
「ひょっとしてこの霧って魔性を抑えているのか!」
『ああ、どうもそうらしいんじゃないかってな』
魔を払う清浄の霧。真実であれば天恵ともいえるべき現象であろう。
しかしダネルは目前の白霧になにかしら不吉なものを感じとっていた。
「…魔災が収まるのは良い事だけど、この霧って人に影響はないのかな」
『現状どうにかなったって話は聞かないな。シスターは何かいってたが、まああのシスターのいうこったし、なにより俺達にどうにか出来る問題じゃないだろ」
「それはそうかもしれないけど、ううん」
胸中に小さなしこりを残しながら、ダネルはその場を後にした。
■
「―――なんにしても、これであんたも晴れて機兵部隊の仲間入りって訳だ」
「ハア」
陸上艦に帰還して早々、ダネルはカチナに絡まれていた。
「郷に入らば郷に従えっていうだろ、他所でどうだったとしてもあんたはここじゃ新入りなんだ。これからはアタシらのやり方に従ってもらう」
「そりゃ勿論そのつもりですが」
「艦長のお気に入りだかなんだかしらないが、兄貴と違ってアタシはあんたを特別扱いなんかしないかんね!分かった!?」
カチナ・ボーカーは名前から分かるようにキリヤンの実妹だった。
容姿の面では兄とはあまり似ていないようだがぶっきらぼうな話し方は兄譲りかもしれない。
後ろ髪を短く結わえ。長く伸ばした前髪は片側に寄せている。その前髪の下から覗く右の瞳は今はきつくダネルを見つめていた。
腰に手をあて下から睨めあげ気味にダネルに向き合うカチナ。
「――因みにあんたさ、機兵乗りになってどの位よ?」
「そうですね、一年ちょっとくらいですかね」
鼻で笑うカチナ。
「ハッ!まだまだヒヨッ子じゃねーの。いっとくけどアタシは親父の影響でガキの頃から機兵に乗ってんだかんな!」
「へえ、お父さんも機兵乗りだったんですか」
「正確には機兵専門の機械工よ、兄貴の機械いじりの腕前も親父仕込みってわけさ」
「成程ね、道理でどちらも腕がたつわけだ」
「そだよ、兄貴とアタシはいわば生まれついての機兵乗りなんだ!…でだよ。そんなアタシを差し置いて一点物に乗ってるたあいい度胸してんじゃんよ」
どうやら彼女の拘っているのはその点らしい。
「スンマセン。俺、こいつ以外乗り慣れていないんで、他のやつはどうにも上手く扱えないんですよ」
「ふうん、みたところとても扱い易そうじゃないけどなこいつ?継ぎ接ぎっていうかなんかゴテゴテしてていかにもあり合せの急造品って感じじゃん…こいつ何ていったっけ」
「パイオンです」
名前を明かせぬディキオスは現在の機体色に因んで灰色を名乗っていた。
「灰色って…また名前までいい加減なヤツだなァ。そうそう、名前といえばだ。あんたのコトいまいち呼びづらいんだよね」
「自分じゃわりとシンプルで呼びやすい名前だと思ってますけど。覚えやすいし」
「じゃなくってさ、機兵乗りのダネルっていえばダネル・アラクシだろ?」
「!」
ダネルは内心の動揺を悟られまいと努力した。
「アンタも真世界から出てきたんならちょっとくらいは耳にした事がある筈だろ。咎人ダネルの伝説をさ…!」
「伝説………ですかぁ?」
無論、ダネルには初耳である。
「なんだよその間抜けな声は?まるで聞いたこともないとかいったいどこの辺境ほっついてたんだよ」
カチナはさも呆れたといった口ぶりで説明を始める。
「―――世界に四機しかないといわれる聖魂機級機兵の乗り手、聖霊手ダネル・アラクシ。元は一介の市民だったもののその卓越した才を見出され、特例として聖魂機ディキオスの搭乗者に抜擢された天才さ。なんでもあの最凶最悪のバケモノ、ゲフェンノームがはじめて出現した折に、聖魂機とはいえたった一機で戦いを挑んで退散させたってんだからものすげえ」
「(…相手が勝手にどっかいっただけなんだけども)」
沈んでいくダネルの気持ちとは裏腹にカチナの口調は更に熱を帯びる。
「その腕を見込まれたダネルは、彼に負けず劣らずの一騎当千の強者揃いを率いて化物追撃の旅に出たんだ。そしていく先々で人々を奴の魔の手から救ってまわったもんで人々からは歓呼を持って迎え入れられたと云うぜ」
「(…ないな)」
「そしていよいよ古戦場での決戦だ。数千倍もの軍勢を前にして、さしもの精鋭揃いの仲間たちも次々と倒れていくそりゃ絶望的な状況だった…」
段々と挙動が不審になるダネルに気づかぬ辺り、カチナは完全に己の世界に入っているようだ。
「それでも彼は諦めなかった!押し寄せる敵兵にただ一機敢然と立ち向かい千切っては投げ千切っては投げ…鬼神の如き勢いでもって群がる悪魔どもを片っ端からなぎ倒し…!」
「(…やってない)」
「どのくらいの時間が経ったろう、いつしか戦場に立っていたのはたった二体の機兵だけになってた…。魔獣ゲフェンノームと聖魂機ディキオス、因縁の対決さ―――!」
以下、ダネルにはさっぱり身に覚えのない戦闘風景が長々と続き。
「――――そして、三日三晩に及ぶ死闘の果て、怒り狂う化物の胸をついにディキオスの聖剣が貫いたッ!断末魔の絶叫をあげ炎に包まれるゲフェンノーム……ダネルはこうしてとうとう世界を救った英雄になったのさ。…くう~っ!」
己の語りに感極まったのかカチナは頓狂な声をあげた。
「(……困ったな…もうコレ話に尾ひれがついてるってレベルじゃないぞ)」
目を輝かせて語るカチナ。俯き伏し目がちのダネル。
「……だが英雄を待っていたのは非情な運命だった…ダネルは程なくして「咎人」として機関から追われる身になったんだ。勿論こりゃなんかの間違いに違いないんだ、絶対!」
ある意味では彼女の云うとおりではあろう。公にはされていないが、ダネルは叛徒ではなく単なる処分対象であったのだから。
「一説には、彼の圧倒的な求心力を畏れた聖府のお偉方が濡れ衣を着せたんじゃないかとも、或いは内輪もめを始めた真世界に失望して自ら姿を消したとも…あえて逆賊の汚名をかぶってまで真世界を糺す為に戦っているなんて声もある」
「(…どうしよう、もうどうにもいたたまれなくなってきた…!)」
「……要するに真世界の人間は待ってるんだよ、咎人ダネルの帰還をさ」
政情不安の折であれば流言飛語の類に願望を仮託する者も少なくはなかろうが、所詮およそ与太話の域は出まい。
「…ええ、と随分詳しいんですね、真世界の話に」
「当たり前だろ。あっちじゃこっちの事は話題にならないかもしれないが、こっちは真世界の
動向は一大関心事だかんな。ましてゲフェンノームの悪名となりゃ尚更さ。奴のおかげでこの辺りまで魔災が荒れ狂ってたんだぜ。ホントやられたって聞いた時は清々したよあの害獣が!」
「……奴にも何かしら理由があったんでしょう」
いってしまってから、しまったと思う。カチナの怪訝そうな顔をみればその気持ちはいっそう深まる。
「化物を庇うなんてあんた正気か…?アレのせいでどんだけの人が泣かされたと思ってんだよ」
「あいや、失言でした」
「ったく、ほんっとによく分かんない奴だよあんた…」
「すみません。ただ、今の話に語られなかった部分もあるんじゃないかなって」
「なんだよ、アタシの話が作り事だっていいたいのか!」
「そこまではいってないけど……現実はそれほど単純ではないというか…少なくとも英雄一人の力でどうこうなるようなもんじゃなかったとは思います」
殊に英雄ですらない身であれば尚の事。
「…オッケーもういいや。あんたとあのダネルとは魂レベルで似ても似つかない事がよっく分かった…寡黙だが温かい包容力、飾り気のない人柄、篤い人望、悪を釈さぬ高潔な精神。どれをとってもあんたとは正反対だ!」
「あの、カチナさん想像だけで語ってません?」
「うっせー偽物め!今からあんたの事は偽ダネルって呼ぶことにした!決定!」
「えぇー」
・
・
・
「という訳でさ、参ったよ」
「いやあ、腹がいてえや」
「他人事みたいにいうなよ、妹さんなんだろ?」
「悪ぃ悪ぃ」
機兵格納庫の一角―――キリヤンとダネルが内密の話をする時は専ら人気の少ない此処を選ぶ。
「なあキリヤン、やっぱり妹さんに本当の事話しちゃいけないのか?なんだか彼女にひどい嘘をついてるみたいで気が咎めてしょうがないよ」
「ああん、駄目駄目。あいつアホだから隠し事なんて器用な真似は出来ねーし」
「隠し事っていうならシスターだってだいぶ口が軽そうなんだけど」
「心配いらねーよ、シスタールミエラのいう事を真に受ける酔狂な奴なんてここにゃいないからな」
「(…それはそれでどうなんだろう)」
「ま、アホな妹だが俺に免じて大目に見てやってくれないか」
キリヤンが兄の顔になる。
「ウチはましな方だがまあ機兵乗りなんてのは基本男所帯だからな、そん中であいつなりに舐められないように突っ張ってんだよ」
「ああ、似たようなやつを一人知ってるから分かるよ」
「特にお前とは歳も近いし余計に対抗心燃やしてるんだろうなきっと」
「ところでさ、妹さん何だってあんなに<ダネル・アラクシ>の噂話なんかに入れ込んでるんだろう」
「あー、たぶん捻くれた憬れの投影だな。あいつ真世界に妙な思い入れがあんのさ、親父がいっから」
「親父さんって、確か機械工やってるっていう?」
「そ、かれこれもう十年になるかな…真世界で自分の腕を試すんだって、ある日ふらりといなくなりやがった。そんでそれからまるきり音沙汰なしときたもんだ、今じゃ生きてんだか死んでんだかも分かりゃしねえ。機械工としてちゃ凄腕でも人の親としちゃクズさ、あの男は」
キリヤンは事も無げにいう。
「…彼女、そんなことおくびにも出さなかったけど」
「だからアホウなんだよあれは。カチナのやつ未だに、いずれ成功した親父が俺らを呼び寄せてくれるんじゃないかって夢見てやがる」
「……俺にはなんともいえないな」
ダネルは整備中の執金剛に目をやる。
「面影ないけど、この執金剛って、歩兵機改式が素体なんだよな」
「その通り、動作不良で使い物にならなくなった改式を全面改修して造ったんだ」
「改式、みんな駄目になってたんだっけ」
「ああ、残ってた十五機全機いかれちまったらしいな」
・
・
・
「―――まぁったくッパルオーシュめッ!思い出してもクソ忌々しい奴よ!」
怒り心頭といった風のバニ。
「奴が持ち込んできた機兵は暫くすると次々に不調やら故障やらで尽く人型の鉄塊になり果てたわ!なーにが新式高性能のレア物じゃ!とんでもねー不良品大量に掴ませおってからにッ!」
「(イマハムさん…一体どんなルートで仕入れてきたんだろ)」
間者として一時の信を得るのが目的であり、いずれ元からまともなものを調達する気などなかったのだろうが。
結局、殆どの改式はジャンクとして払い下げ、代わりに手頃な旧式機兵を入手したのだという。その後、手に入れた旧式機兵が尖闘兵へと改修されたのはいうまでもない。
「それだけではない!折角育てた機兵乗りまでそっくりそのまま引きぬいていきおったのだぞあやつわッ!本当にあの男ときたら、グギギギ…!」
・
・
・
「―――ま、虎の子だった自警団が骨抜きになったせいで、俺らみたいな外様連中も取り立てて貰えたんだから、俺的には良し悪しだけどもな。頭は流れ者も別け隔てなく扱ってくれるからこれでも感謝してんだわ」
と、キリヤン。
「バニもなにはなくとも人をみる目だけは自慢できるって威張ってたよ。小さい時から面だけは取り繕った、腹の底の腐った連中に囲まれてきたからって」
「はは、あの年でそこまでいえんなら大したもんだ」
そこに通信が入る。
「噂をすればだ。ダネル、頭がお呼びみたいだぜ」
■
真世界周域にある山岳地帯。
なだらかな斜面を物資運搬用輸送艇がゆく。
「遭遇情報を総合するとこの辺に出没するって話だったんだけど」
積荷に偽装して積み込まれた機兵の足元に二人は潜んでいる。
「ちょっと!あんまりこっち近づくんじゃねーよ偽物ッ」
「だーかーらー、俺は動いてませんってば!」
真昼の陽射しを避ける為、少しでも物陰の奥に入ろうとするせいで知らぬ間に近寄っているのだろう。
「というか何でカチナさんまで志願したんです」
「感謝しなよ、直々に新入りをフォローしてうやろうってんだからさ!」
その実、ダネルへの対抗心からなのは明々白々であるが。
ダネルとカチナは機兵を用いた野盗被害の報告をうけ現地の調査に赴いていた。
被害とはいっても数件とも奪われたのは糧秣が主であり、それも大した量ではなく、機兵の目撃もたった一機である。
実際の所、わざわざ出向くほどでもない瑣末な案件なのだが、ダネルがわざわざ志願してまで赴いたのには相応の理由があった。略奪を行った機兵の特徴がダネルの知るものと符号していたからである。
確証はない。
だがだからこそ、自分の推測の可否をなんとしてもこの目で確認したかった。
「―――あーあちいなぁ…そろそろ出くわしてもいい頃合いなんじゃね-の?それとももうどっかにいっちまったんじゃ」
「カチナさん、静かに…!」
ダネルはかすかに響く風を切るような音を察知していた。機体の振動音を殺しながら近づくこの接近法は以前にダネルが叩きこまれた戦術的機兵駆動の初歩技能である。
カチナとダネルが急いで自機に乗り込んだ丁度その時。
輸送艇の進行を遮断するように地を穿つ散弾。
『―――悪いが、荷はすべて置いていって貰おうか』
急停止した輸送艇を見届けてから、前方の岩陰より現れる鋼の機躯。間近で確認してみればダネルには瞭然であった。
「(―――やっぱりこいつは聖導歩兵…ってことは…)」
彼らが真実GRDNの手のものだったとしたら、本格的な戦火がこのような僻地にまで及ぼうとしている証左となろう。
『――ひっかかりやがったなこの盗人野郎が!てめえなんかにくれてやるものなんて何もねえッ』
荷台からシーツを押しのけて立ちあがる灰騎士と尖闘機。二機を下ろした輸送艇は一目散に後退していく。
「――そちらの機体、GRDNの所属機と判断するが、」
尖兵であれば。斥候で本隊は別にいるのか。それとも部隊から逸れた者が暴れているのか。
確かめければなるまい。
「答えてくれ、GRDNの者ならば何故こんな所で略奪を働くのかッ!」
再度の問いに答えはなく、歩兵機は後じさり再び岩陰に身を隠す。
『逃がすかよッ!』
「待ってカチナさん!」
カチナの尖闘機が歩兵機の方へ銃を向ける。
連発の銃声が響く。
しかし砲撃の主はカチナではない。
左右上方より注いだ弾がカチナ機の足下の土を掘り返した。
銃撃の源を辿るダネルの目は岩柱に覆われた左右の斜面、それぞれ百メートル程先の岩間より覗く機兵の銃腕を確認した。
「…カチナさん。最低でも相手は三機います。ここは一旦退いた方がいいかもしれない」
『新入りのくせにあたしに命令すんじゃない!野盗ごときにすごすご逃げ出したとあっちゃカチナさんの名がすたるってえの!』
「たぶん相手は正規の戦闘訓練を受けた兵士です、そこらの野盗とは比べ物になりませんって!」
『へ、盗人は所詮盗人だろが。怖じけたあんたはそこで大人しくしてりゃいいよ。あたしが守ってやっからさ!』
カチナの尖闘機は小銃を構え、それに呼応するように斜面からの疎らな銃撃が再開される。
機兵を無理やり引きずって逃げる訳にもいくまいし、さりとてこうして戦端が開かれてしまった以上、相手の説得も困難であろう。
「……やるしかないかっ…!」
逡巡はいかなる戦場でも命とりになる。
覚悟を決めたダネルは機体正面の、岩柱に隠れた一機に的を絞る。
持ち前の直線加速力で瞬時に間合いを詰めた灰騎士が振り下ろす一太刀はしかし、その半分程もない歩平機の方剣を滑って虚しく地を抉る。
歩兵機はそのまま、ねじ曲がった悪路に合わせて細かな蛇行軌道をとりながら岩陰の奥へと退いていく。
敵の潔い後退の手並にダネルは内心舌を巻く思いだ。
追い縋る灰騎士の更なる一太刀は、遮蔽となった岩ごと切り裂くものの、目当ての敵機は既にそこにはいない。
その後も歩兵機は岩柱を盾にして巧みに灰騎士の追撃を躱していった。
―――劣化したとはいえ聖魂機の豪剣である。一撃さえ入ればそれで勝負は決まろうが、如何にしてもその一撃が届かない。
判断力、反射反応、操縦技術ならば遜色ない、むしろ殆どはダネルの方が優っている筈だ。となれば単純な技量と性能差を覆すのは如実な経験の差しかない。
押さば引き、引けば直ちに押し返される歩兵機巧みな立ち回りは山地の入り組んだ地形あってこそ――彼らは故なく此の地を襲撃地点に選んだわけではなかった。その一事をとってみてもなし崩し的に戦いの場に臨んだダネルとの差は雲泥の如し。
機体性能や地形特性を十全に利した戦闘技術は積年の戦場経験が培ったものに相違なく、ダネルにとっては最も警戒すべき類の相手といえる。
その証拠にこちらの動きは尽く読まれてしまっている。否、むしろ相手がこちらの動きを操作・誘導しているといった方が適当か。
ダネルは目前の歩兵機を追うことに夢中になる余り、いつしか自分がカチナ機と引き離されていたのにはたと気づく。
「カチナさん、狙いはそっちだ!下がって!」
『あん?何だって…』
左右からの断続的な砲撃に応戦していたカチナの尖闘機へと斜面側の歩兵機たちは遮蔽物越しに随分歩を詰めている。
砲撃の間隙を縫って尖闘機の足元に投げ込まれた榴弾が激しい煙を噴きあげる。
尖闘機を覆う煙幕を合図に、先程までとは一転して激しい集中奏射をかける両側の歩兵機。
『わわわッ、ちょっ、これッ…!』
カチナはパニックに陥っている。立て直しが間に合わないと判断したダネル――灰騎士は目前の敵機に背を向け鞘帯砲を左右の斜面目掛けてに続けざまにしゃにむに乱れ撃った。
乱雑な牽制の砲弾はそれでも周囲の岩塊を砕き、二機の攻勢をしばし鈍らせる。
ほぼ間をおかず、背中を撃つ歩兵機の銃弾を宙に孤をうって反転回避しつつ、鞘砲の一射で応えた灰騎士はそのままカチナ機の元へと駈けよった。
「カチナさん!動けますかッ」
『あ…んん…へーきだけど…』
後方の突き出た岩塊にカチナ機を押し込み灰騎士の機躯で庇うように覆うダネル。
岩塊は三方からの銃撃に見舞われる。
戦局は再びふりだしに戻った。
「俺が殿をつとめますからカチナさんは先に退いて下さい」
「新入りに守られるなんてゴメンだっての!」
「意地はってる場合ですか」
「…ホントいうとさ、さっきの集中砲火で足やられちまってんだよ…」
「じゃ、カチナさん残ってくれます?」
「なんでそうなんだよ!?」
「いえ、ここは『自分に任せていけ!』ってシチュエーションっぽいかなって」
「あっ、あたしヤだよ!こんなトコで死にたかないもん!」
「そこについては同感です。それじゃ、出来るだけの事はしてみますか…!」
「カチナさん、今度は俺が援護しますから、前に出てもらえますか」
「ってもアンタ射撃下手くそじゃん」
「試してみたいことがあるんで」
『…よく分かんねーけど信じっかんな!しくじるなよ!』
覚束ない足取りで、尖闘機が銃を打ちながら右側面の敵へと向かう。
一方、逆手で剣を背負うように構え、左の手を剣先に添えて腰を落とす灰騎士――機躯を循環するエネルギーを溜めこむように静止している。
要は、発振器を通して伝わる振動に一定の指向性を与えてやればいいのだ。
全身を弓に、剣を矢に見立て。
手負いのカチナ機に更なる追い打ちをかけようと、敵機が斜面から姿を垣間みせる。
標的の位置を確認したダネルは灰騎士の限界まで引き絞った層鋼圧を撓んだ撥条のごとく一気に解放し。
機兵を隠す岩崖を目がけ、灰騎士は渾身の発振を込めて大剣を投げ放つ。
灰騎士の腕を離れた剣は、一直に延びた白い軌道となって遮蔽を貫いて敵機の胸に突き刺さった。
大剣は丁度機兵を岩柱に縫い止める形となって敵機の動きを封じていた。
『--すげっ、器用なことすんな新入り!』
「狙撃は苦手ですけど、投擲は得意なんです」
そういいながらダネルは内心で胸をなでおろす。咄嗟の思いつきであれば、成功すの見込みは五分にも満たなかったであろうことは黙っていよう。
僚機をやられ取り乱しでもしたのか、左斜面に潜んでいた歩兵機が無防備に飛び出してきた。先程までの冷静な立ち回りとはうってかわった杜撰さである。
『――よくもジオフの野郎をやりやがったなぁ!』
灰騎士のもう一振りの太刀が向かってきた歩兵機の胸元を刺し貫いた。急速に力を失う歩兵機だったが道連れとばかりに自らを貫いた剣を掴んだまま離さなかった。
「くッ!」
地に倒れ伏すカチナ機を踏み越え、こちらに迫る最後の歩兵機。ダネルは剣を諦めてそちらへと向き直る。
かくして今一度対峙した歩兵機の主にむかってダネルは三度目の問いを放つ。
「戦いぶりから紛れもなく真世界の兵士だとお見受けする。貴方がたは翠軍か紅軍か!」
『――――どちらでもない…!』
方剣で斬りかかる歩兵機に今度は無手の灰騎士が防戦に回る番だった。
『我々は戦場の真ん中で部隊に見捨てられたのさ!』
「それでGRDNを離れたのか」
『ああ、今更おめおめ戻った所で戦場逃亡の罪を問われて牢獄いきだからなッ』
自嘲気味に歩兵機の主は語る。
「…それが今のGRDNだっていうのかッ?」
『その口ぶり、お前もGRDNの者か…だったらADAMの人間がどういう扱いだったかも知っているだろう。俺達は所詮使い潰しのきく部品なのさ!』
歩兵機が怒涛の攻勢をかける。刃の鋤に激情をのせて。
だがこの攻勢は、先刻の終始抑制された戦いようよりもダネルにとってはまだ与しようがあった。
幾度となく死線を潜ってきた身とあって、ダネルの瀬戸際での胆力は尋常ならざるものがある。
「(よく相手をみろ…)」
間合いと相手の呼吸を計るダネルは絶え間ない斬撃の隙を見出し。
「ここだッ!」
灰騎士は地を滑るほど体勢を低くして相手の懐に潜り込むよう突進した。
歩兵機の振り下ろす剣を持つ腕を下から掴んで抑える灰騎士。
互いの両手を掴み組み合った二機―――これで詰みだ。
灰騎士の鞘帯砲がゆっくりと前面へマウントし、歩兵機の肩口に砲口をぴたりと突きつける。
「この距離でなら外しようがないな…!」
歩兵機の肩部は光流に溶かされ武器を持った腕が地に落ち転がる。
『ダネルッ!』
間髪入れずに自らの短刀を投げる尖闘機。灰騎士は地に斜めに刺さった短剣を拾い、振り向き様に一閃。
横薙ぎに片足を断たれた歩兵機がどうと崩れ落ちる。
「―――俺の負けらしいな。こんな辺鄙な場所で終わるとは、まったく幕切れまで冴えないとくる…」
うつ伏せに倒れた機体の前に立つ灰騎士は動きをみせない。
「どうした、やらないのか」
「…もしも貴方が最後まで戦う事を望むのなら、人が人を屠る罪は甘んじて引き受けるつもりだ」
ダネルは言葉をつぐ。
「けれど。たとえ身を堕としてでも、生き抜く意志と覚悟があるんなら俺達の下に降って欲しい」
男の低い声が笑う。
「は、勿体ぶったものいいだがな。結局のところ自分の手を汚したくないとうのが本当じゃないのか」
「そうかもしれない。人を殺すのは気分のいいもんじゃないから」
「変に正直な奴だな…?」
ダネルは自機の足元に駆け寄ってくる人間の姿を二つ認めた。格好から察するに二人共敵機のパイロットであろう。
「頼むッ!隊長を助けてくれぇぇッ」
「隊長は愚図な俺達の為に盗みまでやって生かしてくれたんだッ!やるなら俺を先にやれえ!」
「てめッ先に格好つけんじゃねえジオフ!やるんなら俺が先だこの野郎!」
「うるせえハイスン!お前はいっつも一歩遅いんだよッ」
いつの間にか状況をそっちのけでいい合いをはじめる二人。
「…あー。奴等は俺の元部下のハイスンとジオフ。ちと頭は足らんがまあ、悪党にもなりきれんお人好しどもだ…投降する以上は奴等共々命の保証はしてくれよ」
「ああ、我らが主の名において約束しよう」
機中から姿を出した男は痩せぎすの体躯で、外貌から判じるなら年の頃は30半ばといったところか。
「アゲリ・シャンクションだ。元紅軍第十七方面師団所属、今じゃしがない脱走兵だが」
「ダネル・ドネル。「オルビスの枝」一員だ。」
アゲリはダネルの姿を値踏みするようにしげしげとみつめる。
「あんたも真世界の人間らしいが」
「…いっときはね」
「ふうん…ま、あえて詮索するような真似はしないが、あんたのような奴を受入れるような主君なら中々の人物に違いない」
「その点は保証できると思うよ。その、少々型破りにみえるかもだけど」
「期待しておくとしよう」
「―――またぞろムッサイのばっか連れてきたもんじゃのう」
「……」
「聞けば戻る所がないようじゃが、幸い主らそれなりに腕が立つようじゃし、儂に雇われてみる気はないか?飯と住処にはありつけるぞえ」
陸上艦帰還後、投降したアゲリら脱走兵を無事引き渡した後。
鍬を片手に農作業ルックに身を包んだバニを前にして、口をあんぐりと開けたままの彼らを見届けてからダネルは夜更け迄、愛機の整備に勤しんでいた。
「やっぱりここにいたか。差し入れだホレ」
投げ渡された小さなバスケットをダネルは難なくキャッチする。
「ありがとカチナさん、遠慮無く頂きます」
カチナが灰騎士の機中をのぞけば、ダネルは差し入れのバゲットに齧りつきつつ操作系統のチェックに余念がない。
「もう適当なとこできりあげたらどうよ」
「気になるところを覚えてる内に調べておきたいんですよ。特に、今日はちょっと無理させ過ぎたから」
「…あーなんだ。今日はその、足引っ張っちまってゴメンな」
きまり悪げに鼻をかくカチナ。
「いえ、謝るのは俺の方です。そもそも俺が調査に志願したのが発端なんですから。しかもGRDNの人間なら話せばなんとかなるんじゃないかと甘い期待を抱いて、何の準備もなく飛び込んでしまった…そのせいでカチナさんを危険な目に合わせて」
少年から小さな嘆息が漏れる。
「前いた場所じゃみんなに頼り通しだったから、ここではなるべく頼られる側に回ろうって決心したんですけど……誰かの力になるって難しいもんですね」
「…あたしがいうこってもないけどね。誰かの力になるってのと、誰にも迷惑かけないってのとはちょっと違う気がするよ」
カチナの言葉にダネルは微笑む。
「慰めてくれてありがとうカチナさん、少し気が楽になります」
「べっつにそんなつもりはねーから!ただ、気が紛れたんなら良かったんじゃねーの!?」
カチナはぷいと顔を背けてしまい、ダネルにはその表情は読み取れない。
「―――なあ、真世界はいい所かい?」
ややあって、カチナはぽつりと呟いた。
彼女の素朴な問いにダネルは目を閉じ思いを巡らせ。
「そうですね…楽しい事ばかりじゃなかったけど、俺を拾ってくれた世界ですから。嫌いになんてなれませんよ」
「だから―――この艦もきっと、俺には同じくらいかけがえのない場所です」
「…そっか。そだな、うん」
カチナの表情が少しだけ和らぎ、彼女はそれきり押し黙る。
「カチナさん?」
「カチナでいいよ、敬語ももういいや…同じ隊の仲間なんだし。偽者なんていって悪かったな、アタシもちょっと大人気なかったよ」
「それじゃあ…改めてよろしく頼むよ、カチナ」
ダネルが差し出した手を、カチナは少しためらいがちに手でとった。
「こっちこそ、これからよろしくな―――――ダネル(仮)」
「……………前よりひどくないかなその呼び方」




