第5章~ヘラクレスの童戦祭・前編~
闇夜のサーカス団との決戦から数週間が立った。
最強の男こと本郷黄鉄はある決意を固めていた。
そして、晴嵐達の所属する《ビル》で大きな祭りが開催される!!!
その名は《童戦祭》!血で血を洗う!?大決戦が入り乱れる!
そして黒金寧々の所属していた《メルヘニクス》の過去とは?
ビルを中心にフェニックス明知晴嵐と仲間たちが戦う
熱いバトルアクション第五章ついに開幕!!!
「久々だなぁ……この街。あいつら元気にやってかなぁー」
独りの男が旅行カバンを持ちながら我が故郷の空を見上げる。
「っつってもみんながどこに住んでるとかまったく知らねえんだったな俺……。
とりあえず、黄鉄んところに遊びにでも行くか」
独りの男はそう言ってそのまま歩みを続けた。
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「へぇー……あのロキが」
練習後の体育館。
全員が去ってから俺達三人は遊びでバスケをやった後壁にもたれ掛かり談笑する。
「うん、《虹のサーカス団》の新リーダーとしてあの赤髪のイケメンがあたし達に頼み込んできたのよ。
『彼の反逆はこれ以上致しません。もし事件が起こったら我々も加担して彼を裁きます』だってさ」
「そうか、まああいつなら信用できるよ」
俺は病室で語らいあった赤井のことを思い出して言う。
確かにイケメンで女垂らしで、先輩を悲しませたピエロに加担した奴だけど
根は結構いいやつだって話しててわかった。とにかく……毎日を楽しもうとしてる連中だって。
「よく言えるわねあんた……。あんなにボコボコにされた相手なのに
それにあの赤髪、《ガルム》まで新メンバーとして受け入れるとか言うのよ!」
ガルムって……あぁ、刹那が倒したって言う相手か。
一回負けてたり、結構ギリギリの対決してたらしいからこいつからしたら納得の行かないことなのか。
「まったく!優!!あんたんとこの組織で2人して裁いちゃってよ!!」
「無理言わないでよ刹那。《正十字騎士団》は断罪の法を改正したからね。
それにそのロキってのとガルムっていうのもきっと反省してるよ」
「本当、あんたらは人がいいんだから……あたしは絶対に信用できない!!」
まあその場にいたからだろうか、やはり刹那は今回の結果に満足行っていないらしい。
ロキは《マジシャン》として『青』の称号を継続、
そしてあの金髪美人アン・ヴィクトリアが抜けた『藍』の称号を受け継いだらしい。
まあ、赤井なら大丈夫だろう。
そう思いながら俺達は帰る支度をして帰る。
三人で門を向かっているとき、校門で誰かが待っていた。
「よっ!」
その場にいたのは車田だった。
「車田、なんでこんなとこにいんだよ?」
「………」
俺の問いかけになぜか車田は無言だった。というか冷や汗を掻いている。
「な、なあ晴嵐……」
「な、なんだよ……」
「今日、お前んちで寝かしてくれ」
「「「っ!?」」」
俺・刹那・優の三人はその言葉に思わず同様してしまう。
「ちょちょちょ、ちょっと待て車田!本当にどうした!?」
「頼む……もう我慢できねぇんだ!お前んちで寝かしてくれ!」
「だ、だから事情を話せ!なぁ!?」
俺と車田がなぜかお互い怒鳴りながらの会話。
「こ、これがリアルBLって言うのかな?」
「優、冗談でも今それを言わないで……」
それを見ている優と刹那は若干引き気味である。
俺もこの車田の必死そうな様子に若干引き気味だ。なにより目にクマができてて怖い。
そんなとき、俺達の校門前に一つの真っ赤なバイクが止まる。
「……」
その瞬間、車田の顔から冷や汗がいっそう吹き出す。
「……探しました清五郎」
白くてボディラインのはっきり見えるライダースーツ。
ヘルメットを外したとき、解き放たれる綺麗な金髪。
間違いない。あのとき一緒にいたアン・ヴィクトリアだ。
彼女は車田の腕を強く掴む。
「なぜ……離れるのですか?」
少し懇願めいた目をしている。やばい、可愛い。
って思ってたら刹那の方から殺気を感じるのだけど一体なぜだろう?
「じゃあ、逆に聞くが、なぜ俺から離れない……」
「好きだからです。」
即答!?
なるほどどうやらアツアツなご様子で羨ましい。
アンはそのまま車田の腕にしがみついている。やば、ちょっとムカついてきた。
「アン、晴嵐達の前だ。とにかく離れてくれ……」
「嫌です。奴隷でなくなった私は自由です。好きにします」
「はぁ……」
車田は呆れているようだけれど、やはりどこか照れているようだ。
「わかった!
とにかく俺は晴嵐達と話があるんだ。お前がいると出来ない。一旦帰れ!なぁ!?」
「……仕方ありません」
そういうとアンは少し不貞腐れながらヘルメット被ってバイクでどこかに去っていった。
「……はぁ」
「随分とお暑いじゃないですかぁ~車田さんよぉ~」
「おい晴嵐。絡み方がうぜぇぞ」
「うっせえ!あんな美人外人ゲットしといて何が不満なんだよ!」
「晴嵐、流石に僕もウザイと思う」
「あんた……結構性格悪いよね」
なんだよどいつもこいつも!
普通羨ましいだろ!?あのナイススタイルの金髪外人だぞ!?
「ん、んっ!ま、とにかく困ってるんだ。アツアツなのは否定しねぇが……」
「なんかムカつくな本当に」
「とにかく落ち着いてくれ……あいつ、俺の家に住んでんだ」
「「「……え??」」」
俺達三人は呆気に取られた。
なんというか、別次元の話に聞こえてきた。
「ほら、あいつピエロの家の居候なのに出て行っただろう?だから俺の一人で暮らしてる家に来てな。
太陽さんもおちょくって助けてくれないし、なによりもアンといると……身が持たないんだ」
「……そのクマ、何か関係あるのか??」
「あぁ。あいつ、いっつもな……俺にひっついてくるんだ」
「「「……」」」
あ、俺今わかったぞ。
後ろの刹那と優も同じ感情に襲われたのに気づいたぞ。
ちょっとイラッときたのを感じたぞ。そりゃそうだよな。なに相談してんだこいつ。
「だから……寝れないんだよぉー」
でも当の本人は真剣に悩んでるみたい。
つまり、同棲してて、一緒に寝ていると……
「まさか風呂もとか言わないよね?」
「「っ!?」」
優が聞いてはいけない確信についてきた。
「あ、当たり前だ!一回はいられかけたけどな……」
「「っ!?」」
2人の言葉のキャッチボールは俺と刹那は目を見開いて聞くしかなかった。
「じゃあいっそのこと襲っちゃえばいいんじゃないの?」
「「っ!?」」
またこいつはブッ込んでくるな!?
元々こういうやつだってちょっと知ってたけど!
いい意味で素直というかなんというか……。
「だ、出せるわけないだろ…///」
車田の方は意外にも純粋らしい。
「じゃあキスは?」
だからお前はなんでそんなにぶっ込めるんだよぉ!
お前と車田そんなに親しい仲じゃないよなぁ!?
「キスなんてしてもいいのかよ?」
なぜか車田は疑問形で帰してきた。
……そういうことか。
「車田、お前の悩みはよくわかった。
でも今日は帰ってやれ、それがお前の選んだ道だ。アンの猛烈アピールもそのうち慣れる。
また辛くなったら今度こそ俺がウチに泊めてやっから……なぁ?」
「晴嵐……。やっぱてめぇは最高のダチだ!」
車田はすごく嬉しそうに俺に言ってきた。
「とにかく今日はアンとこ帰れ、あいつはお前を求めてんだよ」
「そうだな!助かったぜ晴嵐!」
そういって車田もバイクで帰っていった。
まあお互いに仕方ねぇことではあるよなぁ。
「どうしたのよ?急にあいつの肩持ち出して?」
「あぁー……知っちまったんだよ。あいつの心境も、悩みの本筋も」
「ん?」
刹那は少し納得の行かない様子。
車田はやっぱり優しいやつだ。
アンは元奴隷で今どうしていいかわからないに近い状態なんだ。
車田と言う縋る相手ができて、子供の頃から出来なかった『甘え』をしている。
当の車田はと言えば毎日惚れた女にああ密着されちゃあ理性が保てねえだろう。
でも、それでアンを襲っちゃうのが…怖いんだ。恐らく、今のアンの安心、信頼を消してしまうんじゃないか。
彼女がピエロの元で何をしてたかも知らないんだ。もし何かがトラウマのスイッチだったらと考えたら
行動に動かせれない。でも自身の欲望もあるもんな……悶々と悩むのは仕方がない。
俺や先輩達でどうにかアンに常識を持たせよう。そうじゃないと車田がパンクしそうだ。
俺は心でそう思いながら家に帰った。
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「……あれは?」
俺は刹那と優と別れた帰り道の公園。不審者がいる。
なぜか夜の公園で……火を起こしている。何か焼いてるのか?
「ん?なんだ兄ちゃん。これが気になるのか?」
振り返った男は、筋肉隆々としてて男らしい人だった。そしてなにより目が綺麗だ。
ここで無視するのも何か向こうに失礼な気がしたので俺は返事をすることにした。
「それなんすか?」
「あぁー芋だよ芋、秋のこの季節いっぱい落ち葉があるからな。
燃やして中で焼いてたんだ。ちょうど焼けた頃だし、食うか?」
そういって男は俺に焼き芋を差し出す。やばい……うまそうだ。
本当はこういうのダメって知ってるけど。
「い、いただきます」
俺は彼の方に行って彼と同じようにレンガを積み上げて椅子を作って座る。
俺は彼から芋を受け取る。俺はなぜかそんな彼の顔から目が離せなかった。
なんだろう。この本当に綺麗な目は、全ての者を魅了するような……それにどこかで見たことあるような。
「ん?どうした兄ちゃん?」
「あ、いえ」
俺はごまかすようにもらった焼き芋をほおばる。
「あつっ!あっつ!」
「がっはっは!そんなにがっつくと火傷するぞ?」
俺は恥ずかしくなって高笑いする男を睨む。
しばらくして焼き芋も喰い時になって頬張りながら、俺とおっさんは話す。
「あんた……面白い目をしてる」
「え?俺っすか?」
突然おっさんにそう言われて少し慌てる。
「あぁ、もしかしてお前…《超能力》とか持ってるか?」
「っ!?」
「目の色が変わった。図星だな。携帯の中にあるんだろ?《スカイスクレイパー》のブックマーク」
このおっさん。何者だ?
「そう怖い顔するな。ただの元参加者だ。
もう俺はアクセス出来ないんだけどな……」
そういうおっさん。あれか、馬場園さんと同じような人か。
「そうなんですか……」
「楽しいか?」
おっさんは少し照れくさそうに聞いてくる。
「はい。すっごい楽しいです。毎日が」
「そうか……。まあなんだ。なんかの縁だ。話してくれよ兄ちゃん。今の《スカイスクレイパー》を」
そう言われて、俺は彼に全てを語った。
プライバシーもあるからあえて全員の名前は出さなかったけれど
俺の強い先輩の話。そして頼りになる仲間の話。今まで闘った強敵の話。
話しているうちに秋風が身を震わすほどの寒さに襲われたけれど、暖かい焼き芋がそれを救ってくれた。
俺の話を最後まで聞いてくれたおっさんは、なぜか懐かしむような顔をしたり
どこか寂しそうな顔をしていた。過去の自分の闘いを思い出したのだろうか?
「ありがとうな兄ちゃん。すげぇいい話聞いた。今後も頑張れよ?」
おっさんは立ち上がり、俺の頭を撫で回す。
今日会ったおっさんなのになぜか撫でられて少し照れくさかった。
まるで自分の親父に撫でられてる気分だ。それほどこの短い時間で俺はこの人を信用してしまっていた。
「じゃあお前もそろそろ帰れ。俺も流石に寒くなってきたから帰るわ」
「えぇ、また……会えますか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「……さあ?もしかしたら会えるかもな」
そう言っておっさんは去っていった。
俺は彼の背中を見て、そのまま家に帰還することにした。
「……よぉ、久々じゃねぇか」
「黄鉄か。もしかして見てたのか?」
「いいや。全然。お前が焼き芋食ってるところなんて見てねえぞ?」
「見てんじゃねえか。まあいいか。ちょうどお前を探してたんだ。今晩泊めてくれよ」
「あぁ?俺の家が小さいの知ってるだろ?」
「そこを頼むぜ、《ヘラクレス》さんよぉー」
「はぁ、しゃあねぇな」
そういって本郷黄鉄と謎の男は2人夜の道を歩いた。
「あぁそうだ。」
「ん?なんだよ?」
「俺さ、そろそろ辞めようと思うんだ」
「……本気で言ってるのか?」
「あぁ、もう古株がいる時代じゃねぇんだよ。時代は新しい風を求めている」
「でも、ただじゃあやめねぇんだろ?黄鉄のことだから……」
「あぁ、最後にどでかいことやって終わらそうって寸法よ」
「それを見れないのは本当に残念だ」
「なぁに、聞けばいいじゃねぇかよ。一緒に芋食ったガキに、気づいているんだろ?」
「あぁ、彼がお前のお気に入りってことはね」
「そっちじゃねぇよ。当たってはいるけどよ……」
男二人がそんな会話を繰り広げながら、闇夜の空に消えていった。
☆
晴嵐が謎の男と芋を食っていた同時刻。
あたしも未知との遭遇ってものを経験してしまった。
「えーっと……。君、独り?」
「わっ!」
あたしは思わず声をかけずと驚いたかのように声を上げる
ランドセルを背負った少女。振り返った彼女の真紅に輝いて見える目が鮮明に映る。
「えーっと……お母さんとお父さんは?」
「……」
あたしの質問に無言の少女。
あちゃーこれはまずいことになったぞ…。
ここで警察に届けたほうがいいのかな?
「……やだ、私絶対に帰らない」
ボソっと聞こえた少女の声。
ランドセルを背負っているけれど格好もどこか大人びて見える。
だからこそこの呟きは単なる「駄々」ではない。と雰囲気で掴み取れた。
なによりも……震えているのだ。この震え……知ってる。
「……ウチくる?」
「え?」
少女も少し戸惑っていた。
それもそうか。さすがにいきなり誘うのはちょっと無茶だったかな……。
「う、うん!お姉ちゃんの家に行きたい!」
嬉しそうに言う少女。
「あっ、でもうち妹と弟いるし、部屋も狭いよ?ボロいし……」
「いいよ!泊めてもらえて文句なんて言わない!」
「そう。本当にいいの?ウチ来た後事情説明してもらうけど?」
「……。うん、わかった」
「そう、じゃあ行こうか。あたしは葵刹那って言うの。君は?」
「赤野……赤野瞳って言うの」
そういってあたしは瞳ちゃんの手を取って家に帰る。
本当はこういうのダメってわかってるんだけど、この子はあたし達と同じ気がした。
不幸な子供……こんな夜に独りで、しかも家族に対して恐怖を抱いているであろう少女を置いていけない。
そう思って手をつないでいたのだが……この子から感じる異様なオーラはなんだろう?
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「お姉ちゃんお帰り……その子は?」
「あぁ、千恵。迷子だったの。ね?瞳ちゃん」
「う、うん!えーっと、千恵お姉ちゃん。よろしくお願いします」
そういいながら千恵に一礼する瞳ちゃん。本当に礼儀正しい子だ。
千恵はと言うと末っ子で小さな体格ゆえ、こういった経験がないからか
「お姉ちゃん」と言う響きに心底感動しているらしい。とてとてと居間に移動して座布団引いて
バンバン!と座布団を叩いてここに座れと催促している。うん、嬉しいんだね。
「あぁ?なんだよ姉貴。そのガキ」
すると前の扉が開く。風呂場がある場所だ。
そこから顔をのぞかせたのはほぼ全裸の龍二だった。
「ちょ、ちょっと龍二!あんた服来てから出てきなさいよ!」
「あぁ?あぁーわりいわりい」
そういって風呂場に戻る龍二。
「ごめんね瞳ちゃん。あっちが妹の千恵。無口だけど優しい子だから
んでさっきの男が龍二、見た目怖いかもだけど、基本バカだから気にしないで」
「おい姉ちゃん!バカって説明いらねえんじゃねえか!?」
「そんなことより今日あんたが当番だけどちゃんと作ったんでしょうね!?」
「やったよ!千恵?あっためたか?」
「……完璧」
そのまま居間に入っていくと、千恵がドヤ顔で座っていた。
ちゃぶ台の前に置いてあったのは鍋。……あいつ、手抜いたな。まあ今日は一人増えたしちょうどいいか。
「とにかく瞳ちゃんも好きなところに座って」
「は、はい!」
そういって少し緊張気味に座る瞳ちゃん。
座った瞳ちゃんにさっそく千恵が話しかけて言っている。
お姉ちゃんと言われたのがよっぽど嬉しいらしい。
「龍二!あんたもちゃっちゃと服きて来なさい!」
「わーってるって姉ちゃん」
そういうと龍二は寝巻きを来てバスタオルで頭を拭きながら風呂場から出てくる。
そのまま龍二は地面に座る。床が地面のボロいアパートだ。
「じゃ、手合わせて!」
あたしが言うと龍二も千恵も手を合わせる。瞳ちゃんも見よう見まねで真似る。
「いただきます!」
「「いただきます!」」
「い、いただきます」
ちゃんと全員声を出して、それぞれ鍋を取って食す。
瞳ちゃんは少し遠慮気味ではあったけれど、龍二の食う圧力にやられたのか
遠慮してたら食えないと察していたのかモリモリと食べて言ってくれた。
そこから一緒にテレビ見たりおしゃべりして随分と瞳ちゃんは元気になってくれた。
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「……本当にありがとうお姉ちゃん」
風呂から上がった瞳ちゃんがあたしに向けて話しかけてくる。
あたしは適当に返事をして作業に戻る。宿題だけど…。
「ねぇ?私に理由を聞くんじゃなかったの?」
「……いいわよ。もうそんなこと。話したくなさそうだし」
あたしは瞳ちゃんの顔を見ずに答える。
すると彼女は突然あたしの背中に抱きついてきた。
「ん?どうしたの?」
流石に気になったあたしは手を止めて瞳ちゃんを見る。
「本当にありがとうございます!私元気出ました!」
すると、今までの『遠慮』と言う重りが外れたのか
無邪気な笑顔を見せてくれる瞳ちゃん。あたしは思わず頭を撫でる。
「うん。やっぱり子供はそうやって笑顔の方がいいね」
「えへへぇー♪お姉ちゃん。私明日には出るね」
「どうするの?」
「本当は目指してた場所があったんだけど、暗くなっちゃって、道もわからなくなってて……。
すっごく怖いところをおねえちゃんが声掛けてくれたからすごく嬉しかったんだ♪」
「そう……」
あたしは彼女を見つめながらそう答えて
その後視線を彼女のランドセルへ向ける。
彼女が千恵と一緒に風呂入っているときにみたが
中身は衣服、お菓子ではあるけれど食料。
それにお小遣いを貯めたであろう貯金箱。
間違いない。この子……家出していたんだ。
(蛇道組が警察とも繋がってるってメアリー様が言ってたわね。
メアリー様に頼んで狩羅に聞けば何か情報がつかめるか……)
「おねえちゃん……?」
「あぁ、ごめんごめん。もうこんな時間だし寝ましょうか♪」
「うん」
そして布団を引いてあたし達四人は川の字のように縦並びになって寝る。
龍二のイビキが五月蝿くて思わず笑ってしまった瞳ちゃんと一緒にあたしと千恵も笑ってしまったり
楽しい夜を過ごしながら、あたし達は眠りについた。
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「あ、お、お久しぶりです……」
「お前……本当にあいつか?それに、その格好」
葵刹那が謎の少女と一夜を共にしてから翌日。
俺…飛来拓海は黄鉄さんに頼まれて駅にいた。
ある人を『あれ』のために呼んだんだそうだ。そのお迎えを言い渡された。
スカイスクレイパー以外でもあの人の職場で働いている俺は専らこういうパシリの対象でもある。
そこにいるのは俺も馴染みのあるやつだと言われてきてみれば……。
おどおどとした小さな女の子が俺の前に立っていた。
っていうか今日『やつ』が女の子だと知った。
「あ、は、はい…。すいません。リアルで会う人全員に言われちゃいます……」
しょぼんとする少女。やめろ、なんか俺が悪いことしたみたいじゃないか。
「と、とにかく…お前が《ジャック・ランタン》で間違いないんだな?」
「は、はい!わ、わたしが……その、《虹のサーカス団》シナリオ担当ジャックランタンです……」
俺と闘ったときとまったくキャラが違う。違うにもほどがある。
まったくもって真逆だ。二重人格だったりするのかこいつは?
し、しかし持ってるポシェットがトレードマークのカボチャなのが彼女がジャックランタンである証拠か……。
「き、聞いていいかわからないが……。どうしてそんなにキャラが違う?」
「え、えーっと……。カボチャや、そのお面被って顔を隠すと人前でも緊張しなくて。
気分も好調して……あんな風に。それに、私の顔は見せれるものじゃなくて……」
何を謙遜してるのかわからない。
俺は女にあまり興味はない。少なくてもあの五月蝿い明知晴嵐よりはないけれど
このジャックランタンのおどおどした感じは男子に逆に受けがいい気がするんだが……。
「まあ、いい。黄鉄さんのところに案内しよう。ついてこい」
「は、はい……」
本当、調子が狂う。
「あひゃひゃひゃ☆」って笑ってたやつは一体どこに……。
「あ、そうだ。黄鉄さんに何を頼まれているんだ?」
「なに?あぁーそれは……運営ですね」
「運営?」
実は俺も、黄鉄さんに詳しい話は聞いていない。
何か大きなことをしたい。とだけ聞いているんだがそれ以外は何も。
だからこいつの方が黄鉄さんの考えが詳しいのだ。
黄鉄さんが入院していた赤井に彼女を呼ぶように頼んだらしい……。
(いったい俺達は……何を始めさせられるんだろうな……)
俺は空を眺めながら、そんなことを考えていた。
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「久しぶりですね。黄鉄さん」
「あぁ、そうだな太陽、お前の弟子……強いな」
「はっはっは、あの《ヘラクレス》に褒めていただけるなんて車田くんも嬉しいでしょう」
「それでな。お前んとこの弟子と、俺の弟子は……どっちが強いだろうな?」
「……どういうことですか?」
「いや、ちょっと気になっただけのことさ。
例えば、俺と《ピクシー》……そして太陽。誰が一番強いんだろうな?」
「……気になる話題ですね」
「このビルには《ピクシー》の弟子明知晴嵐とRB。お前の弟子車田清五郎、そして俺の弟子飛来拓海。
過去最強と言われた《メルへニクス》とその同期の弟子が揃ってるんだ。
さらに蛇道狩羅。オーディンの申し子《ロキの三兄弟》と《フレイヤ》。
そして《ピエロ》が手塩にかけた戦士。ほかにもまだまだこのビルには
注目株である若い奴らがたくさんいる。そいつの中で一番強いのは誰だろうな?そして……」
上を見てぼんやりとつぶやいていた黄鉄さんが突然僕の目を睨みつけて言った。
「誰が俺を倒せるんだろうな?」
「……それは何か思惑があって語ってるととっていいんですか?」
「あぁ、とってくれ。思えば俺も《やつ》がいなくなってから長くここにいる」
「もしかして……黄鉄さん」
「やめろよそんな憐れむような目はよ。オーディンのジジイもほとんど闘いに参加しねぇみてぇだしな」
「僕が思ってることで正解なんですかね?」
「知らねえが、そう受け取ってくれて構わねえ」
「でも、貴方はただで終わる人ではないでしょう?」
「そうだ。なぜお前にだけ先にこれを言ったかわかるか?」
にやりと笑いながら僕に投げかけてくる黄鉄さん。
僕はわからないと首を横に振る。
「これから始まるものお前は絶対に積極的に参加しねぇ。
ただそれだとつまらねえんだ。だから……餌を与えにきた」
「……どういうことですか?」
「お前が欲しがる情報を……俺は持っている。恐らく後『13人』のメンバーも欲しがる情報をな」
「っ!?」
僕、北風太陽は驚いてしまう。その条件で僕達が欲しがる情報はたった一つだからだ。
「餌はどうやら成功らしいな。これから起こることにお前が乗り越えることが出来たら…。教えてやるよ」
「……わかりました。何をするか知りませんが、僕を本気にさせたこと……後悔しますよ?」
「おうおう、言ってくれるねぇー若造が」
「僕もモヤモヤと悩んでいたとはいえ、経験は積んでますよ?」
「こいよ。謡い手、果たしててめぇが俺にたどり着けるならな」
「……どういうことですか?」
「さあ、そのままの意味だよ」
僕は黄鉄さんの言葉を聞いて、彼と離れることにした。
これから何が起こるのか……けれど僕は必死で頑張らないといけないみたいだ。
あの子のためにも。
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「さて、謡い手に火を付けて、運営を呼んだ。あとはやることは一つだな」
そういいながら俺は自分のビルのフロントに向かった。
「このビルの支配権を……この俺に譲り受けてもらう。
このビルで最強なのは俺ってもう認定されてるんだろう?」
コンピューターに向けて話しかける俺。コンピューターはしばらく考えているようだ。
『本郷黄鉄。あなたに支配権を譲渡するこそを認めます。このビルの指揮権は貴方のものです』
「だ、そうだ。お前ら……覚悟はいいな?」
「はい。」
「おうよ!」
「うん♪私頑張っちゃう♪」
本郷黄鉄が振り返りそういう。
真ん中に立つは、不服そうな顔の飛来拓海。
その左右に立つは、目立った髪型の男と、小さな少女。
「これより……『童戦祭』の開幕宣言の儀を上げる準備をする」
そのまま俺は、コンピューターのメール機能で、参加者全員に『招待状』を一斉送信した。
その日、街では小さな火の粉が少しずつ燃え上がるように、参加者達の着信音で響き渡った。
☆
「……三日後、ビル参加者は全員、下記の時刻に参上すること。ってなんだこれ?」
俺、明知晴嵐は学校でそんなメールを見ていた。
「……僕には来てないみたいだね」
「どうやら俺達のビル参加者だけらしい、……お、刹那もきてるって」
俺はメールしておいた刹那の返信を見て言った。
「これ、僕も行っていいかな?」
「あぁ?行っても意味ないぞ?多分」
「でも、なんか面白そうじゃん」
優がわくわくとした目をしながら言う。
その目を見てやっぱりこいつは俺の友達だな。っと少し思った。
「まあ、お楽しみは三日後ってことだな!」
そして俺達はその三日後を心待ちにするように、日々を過ごした。
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「本当に……これでいいのか?」
「あぁ?なに言ってるんですか飛来さん。楽しそうじゃないっすか!」
「……お前はいいんだな。福籠、だが俺は……」
「どうせボスが決めたことじゃないっすか。逆らえないっすよ」
「……」
俺は、メンバーである男と話しながらも、やはり納得のいかないものがあった。
先日。ジャックランタンと黄鉄さんの話し合いによって決められた……『祭り』の全容。
それを俺達はさっき聞いた。主催者側に立つ俺達は先に知るべきだと言われてだ。
しかしその内容……納得がいかない。
「俺は貴方に挑めないのか……黄鉄さん」
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三日後。
「晴嵐くん。来たか」
「はい、これなんなんでしょうかね?」
「わからない。だが、みな集まっているみたいだ」
「本当……凄い数の人ですね」
俺と先輩が話す。
辺りにはこれから祭りが始まるんじゃないかと思うぐらいの人波があふれていた。
「よぉ!晴嵐!」
「車田!」
俺は車田と合流してハイタッチをする。
彼の後ろにはやはりアンの姿があった。
(んで……どうなんだよ?アンの様子は?)
(あぁ、おめぇらのおかげでだいぶ常識持ってくれてな…とりあえず安心だ)
(そうか……)
「清五郎?何を話しているのですか?」
「なんでもねぇよ。ちょっと男同士の相談だ」
そういうと車田はガシガシとアンの頭を撫でていた。
無表情なまま清五郎を見つめる彼女はまるで猫のように見えた。
「寧々ちゃん。ごめん、遅れた……先輩達ももう来てましたか」
そしてRBも俺達と合流する。あとは刹那と千恵ちゃんか。
「ごめんごめん、遅れたぁー」
「……孝明くん。おはよう」
「千恵ちゃんもしかして寝起き?」
「うん……部屋でぼーっとしてたら寝てたの」
「それで千恵を起こしてたら遅れて」
刹那がそういうと、突然画面が光り、映像が映し出される。
『こんばんはー☆みんなのアイドルゥー♪ジャックランタンだよぉ!』
「「「「「っ!?」」」」」
画面を見ていた俺達は全員が驚愕としてしまった。
画面には摩天楼のような舞台。そこの真ん中に立つは俺達もよく知っている。
「なんであいつがこのビルにいるんだよ!」
『えーっと、若干数名驚いたかもしれないけれど♪今回の僕は《虹のサーカス団》の傭兵として
このビルの領主に雇われてきてまーっす。まあ盛り上げ役としてね♪♪』
その不気味なカボチャの仮面を被った顔をぐわんぐわん動かしながら解説をするジャックランタン。
当の俺達は全員不安でいっぱいだった。
やはり前回あそこまでボコボコにされた組織の一角がこうしていることに不満が少しあるのだろう。
『じゃあじゃあみんなが怯えているのもつまらないので!
今回僕を雇った領主様をご紹介するよ!!後は彼に聞いてねぇー最強の神の子ー!』
ジャックランタンの言葉で煙が発生して、そこから現れたのは、俺達もよく知る人物だった。
「ヘラクレス……」
「黄鉄さん……あの人なにやってんだよっ!」
俺達の言葉は届かずに黄鉄さんはジャックランタンのマイクを取った。
『よくきけぇ!てめぇら!俺は誰も支配していないこのビルの支配権を得た!』
その言葉を聞いて、参加者全員がざわざわと騒ぎ始める。
RBの兄貴である生徒会長から聞いたことがある。
ボスになると言うことはさまざまな特権が認められる。
まず一番重要なのは『戦闘ルールの自己制作』である。
これによりRBの兄貴は『断罪式』と言う戦闘ルールを作ってそれにより罪人を裁いていた。
その一番の被害者である馬場園涼子さんのことを俺達はよく知っている。
さらにあるのが『招集権』である。今回俺達に一斉メールが来たのはこれだ。
ボスに承認されるのは本当に強い者。ただし一番と言うのは決めづらく成績上位者が自ら申請してなるらしい。
そんなことをして黄鉄さんはなにを企んでいるんだろうか。
『お前ら……ぬるま湯に浸ってねえか?』
「「「「……」」」」
『俺・ピクシー・蛇道狩羅の三人のTOPがいることをいいことに
てめぇら俺達を越えようとせずのうのうといるんじゃねぇのか?』
『このビルの世界は弱肉強食!てめぇらのうのうとやってる場合じゃねぇ。
そして俺はそろそろ歳だと感じてなぁ。今まで楽しんでいたが、もうこれ以上はやってもしゃあねぇ』
「「「「「……」」」」」
『だからてめぇらに火付けてやろうと思ってな!
俺達はボスのない有象無象の無法地帯のはずだ。全員敵!横のやつも前のやつも後ろのやつも!』
『だから!俺がてめぇらの本能を目覚めさせる《祭り》を開催する!
そして俺はこの祭りを最後に!!このスカイスクレイパーを引退する!』
「「「「「「っ!?」」」」」」
そういうと黄鉄さんはまたジャックランタンにマイクを渡した。
『はいはぁーい♪ヘラクレスの威信表明を聞いたところで♪♪今回の《祭り》のルールを言うよ♪
開催日程は一応三日用意しているけれど、それよりも長くなるかもしれないし、短くなるかもしれない♪
戦闘ルールは《予選》を進んだ参加者全員が《ヘラクレス》に挑戦出来る権利が与えられるよ!
予選のルールはバトルロワイアル!ランダムに選ばれた戦闘カードに対して勝って勝って勝ちまくる!
一度負けた人はもう祭りには参加できません。けれど《観客》として見守ることは出来るので楽しんでね!
そして予選終了の基準は……《三人将》を倒すこと♪』
ジャックランタンが意味ありげに言う単語を聞いたとともに。
ヘラクレスと同じように煙がこみ上げる。そこに見える三つの陰……。
「ひ、飛来!?」
俺は真ん中に立つ飛来の姿を見て思わず声を出してしまう。
「……瞳ちゃん?」
俺の隣の刹那と千恵ちゃんが何やら驚いている。
どうやら飛来の横にいる少女を見て驚いているようだ。
けれど一番驚いていたのは……。
「ひ、瞳……なぜここに」
先輩だった。彼女は冷や汗を掻きながら瞳と言う少女を見ていた。
俺も今一度彼女を見てみる……。カメラの俺達に向けて無邪気に手を振る彼女。
「……可愛い」
「やっぱり言うと思いましたよ。ロリコン先輩」
「だ、誰がロリコン先輩だぁ!?誰がぁ!?」
そんな俺達の談笑を聞いてもいないジャックランタンは会話を続ける。
『このヘラクレスが認めた最強の弟子達三人。通称《三人将》を倒すことが予選終了の合図!
彼らを倒した時点で倒した人は予選突破が認められて《ヘラクレス》への挑戦が認められるんだ!
そして三人が負けた時点で生き残っている人も、晴れて《ヘラクレス》に挑む権利が与えられる!』
ジャックランタンの言葉を聞いてざわざわと皆がざわつく。
でも俺にはわかる……みんなのこのざわざわは……。
「武者震いだ」
俺は思わず声を出してしまった。
ここにいる全員が敵。勝ち続けたら……《ヘラクレス》に挑める。
あのボロ負けしてしまった黄鉄さんに、挑めるのか……。
(それに……)
俺は舞台の上に立っている飛来を睨む。
あいつにもリベンジ出来るかもしれねえんだよな……。
「晴嵐。俺はすげぇワクワクしてきたぜぇ……」
「あたしも、そういえばあんたに負けっぱなしだったのね?」
刹那はそういって先輩を睨みつける。
「そうだったな。運がよかったら私と当たることもあるかもな。
しかし私は負けないぞ?用が出来た。瞳と話をしなければ……」
「千恵も……頑張るのぉー」
「僕はあまりこういうの好きじゃないんだけど」
「清五郎。もし私が貴方に当たったらどうしたらいいのですか?」
「あぁ?んなもん本気で挑んでこい!」
「……そういうと思ってました」
俺達がそんな談笑を続ける。
その後俺はふと思い出したことがあった。
「そういえば。《蛇》も参加するのか……」
そう考えた瞬間物凄く怖いものになった。
あのときは狩羅に勝てたけれど……今はどうだろう。
それに龍二。あのとき勝てたのはほぼ偶然で、もし戦ったらどうなんだろう。
どんどんと闘ってみたい相手が出てくる。本気でぶつかり合いたい相手がどんどん出てくる。
「やべぇ……超楽しくなってきた!」
ここで逃したらもう黄鉄さんに挑むチャンスがなくなるんだ!
絶対に頑張って予選を受かるぞ!
俺がそう叫んだ後、ジャックランタンからマイクを受け取った黄鉄さんが大きく息を吸った。
『これより!俺の送迎会と共に!最強を決める祭りを行う!!
『童戦祭』!開幕だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!童共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」
モニターを見ていた全員が高らかに叫んだ。
これが最強の男のカリスマ性なのか。
本当に……感嘆とする。すげぇ、やっぱりあんたはすげぇよ黄鉄さん!
『じゃあじゃあ♪開幕日は明日から♪細かいルールはあとでメールで説明書を送るから
それを見てねぇー♪♪それじゃあ、今日はゆっくり身体を休めてねぇー♪』
ジャックランタンの言葉を最後に、モニターはぷつりと切れる。
全員、生唾を飲んで何かを決意した後、次々と会場から消えていった。
今日出席する参加者はいないだろう。明日に備えて今日はバトルはないかもしれない。
俺も高揚とした気持ちを抑えて、その場から姿を消した。
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「…瞳!」
「…あぁー!ピクシー♪やっぱりいたんだね♪♪」
「なぜ君が《ヘラクレス》の元にいる」
「へへぇ~私ねぇ~あの人のこと好きになっちゃったんだぁ~♪
そして私の強さは知ってるでしょ♪ピクシー♪♪」
「……」
「じゃ、あたしこれから飛来達に用があるからこの変でね♪バイバイ!」
そういって瞳が姿を消す。
彼女だけだったか……あの場にいなかったのは。
「あ、ちょっと寧々!」
「ん?どうした刹那?」
「あぁー行っちゃったか……」
私に声を掛けて走ってきたのは刹那だった。
彼女は去っていった瞳を眺めながら残念そうに声を漏らす。
「そういえば瞳のことを知っていたようだが、なぜだ?」
「あぁー。あの子が家出してるときに一度うちに泊めたことがあって……。
でもそのときは本当にただの小学生だったのよ?ちょっとマセてるかなぁーって思ったけど。
寧々?あんたの知り合いなの?」
「あぁ、知り合いも何も……彼女は、私の後輩だ。《メルへニクス》でのな。名は《赤頭巾》」
「っ!?」
刹那の驚く顔を見ながら、私はまた瞳が去っていった道を見つめた。
瞳、何を思ってこの大会に参加するんだ…?
それぞれが胸に秘めたる思いを抱きながら
その日の夜は着々と更けていく。
そして翌日。
開催日を決めていたかのように行われる三連休の初日。
彼らビルの男達は武者震いの震えを抑えつつ、ビルでただ…まだ見ぬ敵達に向けて殺意を向けた。
「さぁ……祭りの始まりだ!」
明知晴嵐が拳をもう片方の手のひらにぶつける。
今……最強を決める祭りが始まる。
☆
童戦祭。一日目。
「しゃーっ!」
Winの掛け声とともに、俺。明知晴嵐の勝利が確定する。
初試合、なんとか勝てた。まあ相手もルーキーだったからだけど。
初戦から刹那や飛来だったらどうしようとか思ってたけどとりあえず安心。
この『童戦祭』本当にランダムにバトルカードが振られる。
そして勝ち続けなければならない。そして運も重要視される。
俺はまだ一回目だったけど、もうRBが二回闘っており
刹那も既に一度バトルを終えて医務室で休憩している。
勝ってはいるので大きな怪我ではないが、連続でバトルしたら疲れるだろうな…。
「よぉー!晴嵐!」
「おっす車田!そっちはどうだったよ」
「おかげさまで一勝目だ。アンなんて既に二戦して勝ってやがるぜ?」
俺はこちらに歩み寄ってくる車田に話しかけられて談笑をする。
「あ、そういえばあのお前の彼女……強いのか?俺実はよく知らないんだけど」
俺は何気なく車田に聞いてみた。ちょっとちょっかいも入れた『彼女』に車田は反応を示さない。
くそぉ余裕ぶりやがって……。自分の能力で爆発しねぇかなこいつ…。
「その質問には、僕が答えていいかな?」
そんなとき、後ろから声がした。
振り返るとそこには―――。
「あ、赤井!?」
「やぁ、見に来たよ。晴嵐」
そこにいたのは、すっかり元気な姿になった赤井の姿があった。
彼の後ろにはネコミミ帽子の美少女と、思わずビビっちゃうような不格好で巨躯な男。
「にゃはは♪寧々ちゃんはいないのかにゃ?」
後ろの美少女は大げさな動きをしながら先輩を探す。
語尾が「にゃ」とかすげぇイタイ気もするけど……やばい、可愛い。
「ダイちゃん?そっから寧々ちゃんは見えないのかにゃ?」
「……見えない。あいつ、小さいから」
「にゃはは。ダイちゃんそれ寧々ちゃんに聞かれたらまたボコボコにされちゃうよ?」
何やらとなりの男と親しげに話している美少女。
あ、思い出した。この2人……随分前のピエロとの闘いで先輩と戦ってた2人組だ。
「ん、んんっ!話しを戻していいかな?」
イチャつく2人を咳払いで止めた赤井は俺達との話しに戻した。
「アン……グリムリッパーが強いかって話しだけど、彼女の強さは本物だよ?
そうだねぇー……闇夜のサーカス団の勢力順位を付けるなら一位は間違いなくピエロで
二位は自慢じゃないけど僕。三位にアン、4位にバロム、5位に誠二……あ、マジシャンのことね?」
「そしてその下にみゃー達、シュタイン、ジャックランタンの順番だにゃ♪」
赤井の言葉に続いてネコミミの美少女が言葉を続けた。
三位……あんだけ強かった赤井の次に強い。
「く、車田。俺、お前から聞いた話しだと、ファントムを倒したあとにアンも倒したって言ってたよな?」
「あぁ……言ったな」
「お前。よく4位と3位を連続で倒せたなぁー…」
俺は思わず車田に驚愕としながら答えていた。
「僕たちはアンのことを応援に来たんだ。
残念ながらシュタインとマジシャンとファントムはこなかったけどね」
相変わらず爽やかな声で言う赤井。回りの女性がヒソヒソと話している。
これがイケメンパワーか!くそっ!
「おぉーい!晴嵐!」
そんなとき、また俺を呼ぶ声がした。
「よっ!ジャージじゃねぇか!」
「お前…もう初戦は終わらせたのか?」
「あぁ、ついさっきな」
「俺は、今からなんだ。行こうと思ったらお前の姿を見たからさ」
「そうか!だったら応援しとくぜ!頑張ってこいよ!」
「あぁ、行ってくる!」
そういってジャージは姿を消していく。
俺はあいつの闘いを見守ろうとモニターのある場所に移動する。
赤井達は他の奴らにも挨拶してくると言って去っていった。
さぁ…頑張れよジャージ。俺はお前とも戦いたいんだからな!
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「さてっと…晴嵐も見てるし、いっちょ頑張るしかねぇよな!」
俺は一人そんな言葉を漏らしながら、敵の出現を待つ。
本当……ヘラクレス様様だ。俺にとって最高のプレゼントを置いてくれた。
「今日の相手は、あんた?」
「よぉーエンジェルじゃねぇか!」
「そ、その名であんまり呼ばないでよ恥ずかしいんだから……」
目の前に現れたのは顔見知りだった。と言ってもこっちで何度か闘っただけだが
今時風のオシャレな服装の女子高生だ。クールビューティーって方が正しいかな?
こいつも自分から名前を名乗るのがめんどくさいらしくて、俺はこいつの能力を指して《エンジェル》と呼んでる。
「んじゃま、あたしも楽しみたいから…本気で行くわよ!」
「おう。こっちも負けないぜ」
そういった直後、エンジェルはバサっと綺麗な二つの翼を生やし、空に飛ぶ。
俺も自分の足に炎を纏わせ、ジェット機の容量で噴出して空を跳ぶ。
エンジェルの腕と、俺の足が互いに強い衝撃を生みながらぶつかる。
そのあとすぐに離れて、すぐに突進。互いにそれを続けていく。
旗から見れば、紅い光と白い光がぶつかりあっているだけにも見えるだろう。
限りなく続く空中合戦が俺とエンジェルの身体を互いに傷つけていく。
「もらいっ!」
エンジェルのアイアンクローが襲いかかる。
俺は思わず驚いて、姿を消してしまう。
「……え?」
「ごめん、ちょっとズルしちまったか?」
「っ!?」
俺が言った言葉に驚いたエンジェルは振り返るが、間に合わず
背後に回った俺はそのまま強くエンジェルを蹴りで叩きつける。
俺も足の能力を一時的に止めて、地面に着地する。
「あんた…さっき、何したの?」
倒れて苦しそうにしているエンジェルが問いかける。
「さあ、何だろうね?」
「あんたの能力で出来る動きじゃなかったわよ!?」
「ごめん、エンジェル。今回ばかりは俺も負けれねえんだ」
立ち上がったエンジェルに向けて俺は炎を噴出して高くジャンプ
エンジェルも翼をはためかせて空を飛ぶ。
「だから、負けてくれねぇか?」
そのセリフと同時に、俺は向かってくるエンジェルに蹴りかかる。
エンジェルはそのまま翼をもがれたかのように地面に落下していく。
「Win!」
放送が流れる。
倒れるエンジェルの翼は、炎を纏うだけのジャージの能力ではありえない……切り傷があった。
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「あんた、わかってるんやろな?シュート」
「……来てたのか」
「そりゃそうやろ?うちら《仲間》やで?それにほとけさんも心配してるし」
「大丈夫だって、これが終わったら戻る。ちょっとした遊びのつもりだったのになぁー」
「ま、せやったらええわ。ちょうどええし、ウチもあんたの闘い見とこかな♪」
「……やめとけ、俺の弱さにビビるぞ?」
「っていうかあんた。なんでそないな口調なん?」
「……」
「あぁー!まだ『大阪はダサい』とか思ってんのか!?そうやったらウチが相手やで!」
「思ってないって、こっちのビルであんたたちと絡んでなかったからこっちのほうが慣れただけだよ」
「……はぁ、そうか。ほとけさんを戻す方法あったで?」
「っ!?」
「ま、とにかく。この『祭り』とやらが終わったら戻ってきぃや?ウチらもあんた待ってるんやから」
そういって、関西弁の女性は、俺の元から姿を消した。
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「私の相手は……貴方ですか」
「んい☆お兄さんの相手はこのあたし♪赤野瞳なのです!」
私は自分のメガネを持ち上げ、目の前の少女を見る。
これが……《ヘラクレス》の認めた《三人将》の一人。
フェニックスやジャージたちと共に勝ち残るために何人か倒してきたが。
「……やるしかないですね!」
そういって私は指を高らかに鳴る。
地鳴りのように大きな音と共に上空から巨大な隕石が多く落ちてくる。
「わわわ!お兄さんすごい!!隕石落とせるの!?」
「貴方が子供だとしても!《ヘラクレス》が認めたのは事実!最初から本気で行かせてもらう!」
一つの巨大な隕石が、とても小さな少女に向けて落とされる。
「にゃは☆でも残念♪あたしはとーっても強いんでした♪♪」
そういうと、目の前の少女は拳に力を入れて、それを天に向けて放つ。
「ッ!?」
私は思わず目を見開いてしまう。
あの巨大な隕石が……あんな小さな拳でいとも簡単に、粉々なんて
「まさか…君、あの《ヘラクレス》と同じ!」
「そう♪とーっても強くて頑丈な身体なのですよ!」
そういうと少女は私に向けて走ってくる。
小柄な分、私の小さな隕石ごときだと避けて、大きなものは砕いて
確実に私との距離を詰められる。このままでは……まずい!
「お兄さんの弱点♪自分の死守領域にはいられると隕石を落とせなくなることだよね♪
だって自分が落とされる可能性があるんだもん♪♪これで、チェックメイトだよ」
その直後、腹部に強烈な一撃が放たれる。
身体の液体と言う液体が全ての穴から流れ出しそうな勢いだ。
彼女よりも強いヘラクレスの拳を……フェニックスはいつも受けていたというのか!?
私は、意識が朦朧とする中、血反吐を吐いてその場に倒れる。
そして私は改めて《三人将》の圧倒的強さを目の当たりにして、倒れた。
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「おいおい……あれが本当に小学生かよ」
俺は、教授と赤野瞳との闘いを見守っていた。
教授がコテンパンにやられちまった。確かにあいつの能力は大げさなわりに弱点が目立つけど
それでもあんなボロ負けしていいほどヤワなやつじゃないはずだ……。
「あれが三人将か。だとすれば飛来やもう一人もこれぐらいってことか?」
「いずれにしても、強敵なのは確かですね。清五郎」
俺のとなりで見ていた車田とアンも口々に言う。
「おっす、ただいまぁー」
「おう、ジャージ。どこ行ってたんだよ?教授の試合終わっちまったぞ?」
「あぁちょっとな。それで?あいつは?」
「負けちまったよ。相手は三人将の小学生だ」
「……そうか。やっぱ強いんだな。あのガキも」
「あぁ、えげつなかったぜ?俺はあのガキにヘラクレスの面影を見ちまった」
車田はそう感想を述べる。確かに、瞳ちゃんの能力は黄鉄さんのそれとまったく同じ。
能力自体はわりとオーソドックスらしいが、あの瞳ちゃんの凄さはその身のこなし方。
完全に闘いに慣れている。ヘラクレスが本当にパワーにパワーを重ねた感じだとすれば
あの瞳ちゃんはヘラクレスよりも劣っている力をテクニックで補っているかのような……。
「それもそうだろうな。」
「先輩ッ!」
俺の心を読んだのか、俺達の下に現れた先輩は言った。
「彼女は私の元後輩だ。つまり…《旧メルへニクス》のメンバー」
「ッ!?」
「なぁに、話してきたがピエロのような感情は抱いていないよ。ヘラクレスにご執心らしい」
少し失笑しながら言う先輩。その笑みの中にどこか安堵の表情があった。
「あの子が元、メルへニクス……」
つまりあの子も、先輩やピエロ、太陽さんと同じほどに強いってことか。
それに、俺先輩の過去について何も知らないんだよな
あのときは何も知らずにピエロをぶん殴っちまったけど。
バトルも進んでいき、俺達も次々とバトルに参加し、勝利を続けていく。
そして、俺達はついに雌雄を決する対戦カードを見てしまう。
「どうやら、私の相手は君のようだな。死神」
「……清五郎。私はどうすればいいのですか?」
「頑張って勝て」
「わかりました」
同じ場所で話していた2人の、対戦カード……。
今までまだなかったけれど、やはり人数が少なくなってきて、密度が生んでしまった因果。
しかし、あまりにも意外で、だからこそ……『祭り』としての楽しみ方としては最高のカードだ!
これは盛り上げ時だと判断したジャックランタンがステージに上がって実況しだす。
『さあさあ!一日目も佳境に入ってきたところで注目カードが割り振られたぞぉー☆
僕のいる組織《虹のサーカス団》に所属していた最強の死神!アン・ヴィクトリアと
このビルで知らぬものなしの絶対的最強の妖精!《ピクシー》!黒金寧々の対決だぁー!!』
その実況に、観客たちはアドレナリンを全開にしてモニターを凝視する。
久しぶりに、先輩の本気の闘いが見れると、俺も心が踊った。
「では、死神。容赦なく行かせてもらうぞ?」
「はい。どうぞ、私は清五郎に勝てと言われました。絶対に勝ちます」
両雄……いや、両雌ここに立つ。
『ではでは!祭りを楽しめ童共!バトル開始!』
ジャックランタンのゴングと共に、死神と妖精の闘いは始まる。
☆
『さあさあ!始まるよぉー!世紀の大決戦!
赤コーナー!このビル最強の攻撃力!小さき妖精ピクシーとVS!
青コーナー!傭兵部隊出身死を呼ぶ最強の死神!グリムリッパーだぁー!』
司会役のジャックランタンが観客を盛り上げるために叫ぶジャックランタン。
俺たちもこれに思わず怒号をあげてしまう。
だって!これから始まるのは先輩の闘いだ!それに相手は車田の彼女!
「この勝負……先輩の圧勝だな。車田」
「あぁ?何言ってんだ。うちのアンがそんな容易く負けるかよ」
なぜか俺と車田が互いににらみ合い、敵対心の炎を纏っていた。
「晴嵐。寧々はあんたの女じゃないでしょ?対抗意識燃やしてて惨めになんないの?」
「五月蝿いなぁ!刹那!言うんじゃねぇよ悲しくなるだろぉ!」
「はぁまったく……」
この場にいたのは俺・車田・刹那の三人。
RBのやつは今どこにいるんだろう?あいつもきてるはずだけどなぁ。
「お、いたいた晴嵐」
そんなとき、声がしたので振り返る。
「よぉ!優にえーっと……」
「結花よ。木下結花」
そこにいたのは、優と、いつも彼の横にいる結花ちゃんだ。
聖十字騎士団の時にいたのは覚えてるけど名前を聞いたのは初めてだ。
ってかこの2人いつも一緒の気が前2人で買い物してたのを見たし……。
俺は優をちょいちょいと呼び出す。こっちにきた優は俺の口元に耳を寄せてくる。
「なぁ?お前もしかしてあの結花ちゃんってのと出来てんの?」
「ん?何を言っているの?結花さんとはそういうのないよ。本当に」
「……本当に?」
「うん。本当に」
この様子だと、本当に何もないらしい。
「ちょっと優!何コソコソ話してんのよ!」
「あぁーごめんごめん。ちょっとね」
呼ばれて俺の口元から耳を離す優。
結花ちゃんと言えば少し不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
「刹那さんも、どうも」
「よっす。優、客気取りできたの?」
「はい、まあ……聖さんが弟さんに用があるらしくて、そのついでに
今日にここにくれば、闘いに巻き込まれずに話しが出来るって近隣のビルじゃあ噂ですよ。
今このビルは内輪の参加者以外は戦闘は起こらないから、多分オーディエンスも来てるよ」
「ッ!?オーディンさまも!?」
「さあ?わからないけど……あ、さっきヴァルキリーさんを見たから、もしかしたら」
「あたし!ちょっと行ってくるね!」
そういうと刹那は走り去っていった。
まったく……これから先輩の闘いが始まるっていうのに。
よっぽどオーディン様を信頼しているんだな。
『さあさあ!この勝負どちらが勝つでしょうか!?
個人的には僕と同僚だったアンちゃんを応援するけど…それでは試合開始!』
ジャックランタンの掛け声と共に、戦闘場の先輩とアンが互いに攻撃を開始する。
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「では、参りましょう」
そういうと、私の目の前のアンは風を纏い、白いスタイルがはっきり見えるライダースーツが
身体を全て覆い隠す真っ黒な衣へと変化する。綺麗な金髪もフード内に消えてその
藍色の瞳だけが真っ黒な影からじっと私をにらみ付ける。なるほど……これが『死神』か。
「私も少々本気で行くぞ」
私はそう言いながらゴーレムを形成する。
全長200mを超える巨大なゴーレムをアンは無表情に眺める。
すると足元に竜巻を形成し、自らも私と目線が合うように上空に飛んだ。
確か彼女の能力は『風』使いだったな……。木下結花を思い出す。
「清五郎に勝てと言われました。行きます!」
そういうとアンはその場で鎌を振り回す。
そこに形成されるいくつもの風の刃が私のゴーレムに向けて放たれる。
「守れゴーレム!」
ゴーレムが腕を前で組んで防御態勢に入るが、風の刃はゴーレムを貫く。
バラバラに裂かれるゴーレム。しかし!この程度ではすぐにくっつけ――――――。
「ッ!?」
そんなとき、私は驚嘆としてしまう。
「い、岩が泥に……溶け、いや……腐敗してる?」
「YES。私の風は全てを腐らせる。貴方のゴーレムも」
私は急いでゴーレムを解体する。
あのままだったらゴーレムの身体が全て腐って
私も巻き込まれていたかもしれない。本当に……恐ろしい女だ。
対するアンは鎌を携えて、じっと私をにらみ付ける。
この女、やはり侮れない。事実上仲間にはなったが……。
私に対して向けている殺意が尋常ではない。やはりこの女、車田以外の者を信用していない。
それどころか殺す対象として見ている!
「ゴーレムを早めに潰せました。清五郎に褒められます」
「ふっ、それはどうかな?」
そういうと私は腕に岩を集約させる。
両手に集めた巨大な岩の塊が剣のようになる。
それを先輩は腕にはめ込み、アンを睨む。
「……来た」
「何がきたの?結花ちゃん」
「な、名前で呼ぶなっ!あの女の……『第二形態』よ」
観客席で見ている結花ちゃんが独り言をいう。
そういえばこの子先輩と闘ったことがあるのか。
「それで?シュワルーズ。ピクシーがあの状態だとどうなの?」
「……化物よ。本物の、ゴーレムはただの小手調べ」
少し怯えた様子で結花ちゃんは画面に映る先輩を見つめた。
「さあ、私の本気を見せてやろうグリムリッパー」
「私は必ず、勝つのです。清五郎のために!」
そういって襲ってくるアン。私はその鎌を腕で受け止める。
鎌が纏っている風が剣を綺麗に腐敗させ、消滅させられる。
私はそれをすぐに解体。
「後ろだ」
「ッ!?」
アンは慌てて振り返るも遅く、私の能力で出した小石たちのミサイルに身体を痛める。
「油断していてはいけないぞ!」
私はそのままアンに向かって剣を向けるが、彼女は鎌でそれを受け止める。
互いの剣戟が、空中で行われる。なるほど、やはりこの女強い。
このような肉弾戦でも自身のある私だが、ここまで食らいついてきたのは数少ない。
「これで終わりです」
不意に来たアンの鎌を私は『サイコキネシス』で作ったバリアで防ぐ。
カウンターを恐れたのか、アンは一度大きく後退していく。そして態勢を整えた。
私も少し整えよう。能力を連続で使っては切り捨てを繰り返すと疲れる。
彼女の鎌の風を受けた武器は全て無意味と化す。その度に解体し落とさないといけないのは気苦労だ。
しかも彼女は宙に浮いて闘う。ケットシーのように叩き落としが出来ない。
そんなことを考えながら、私はまた岩で巨大な剣を作る。
アンも呼吸を整えて、再びこちらに向かう準備を整える。
そしてなんの合図もないまま互いに互いの身に攻撃を仕掛ける。
アンの鎌を私は避ける。私の攻撃をアンが風で受け流す。
「今だ!」
私は剣になっている岩の塊を突如手の形に変え、アンの足を掴む。
これに驚いたアンは慌てて私の腕に向かって鎌を振るう。しまった!避けることができない!
私は岩の手でアンの足を握りつぶし。ブチブチと筋肉が切れる音と共に
アンが痛みで痙攣を起こしそうになっている。アンはその痛みを我慢した勢いで私の腕を
切り裂いた。私は慌てて逃げてサイコキネシスで強化した腕で切られた腕を再度切り裂く。
これで腐敗が回ることはないが……。私は血止めのために腕に岩を装着する。
これで義手を作る。能力を常時使うことになるが、まあ大丈夫だろう。
空中にいるお互いの身体の一部から垂れ流れる血。
アンは痛みを堪えるように歯を食いしばっていた。
「「はぁ……はぁ……はぁ」」
2人して息が荒くなっている。
向こうもそろそろ限界なのだろう…。
彼女は本当に楽しませてくれる。これほどの闘い久々だ。
流石はピエロ……遊太先輩が『奴隷』としてだが鍛え上げた有能な戦士なだけはある。
アンは急に構えに入り、鎌を振りかざす。
突然の不意打ち、腕を切り裂かれた痛みで反応が鈍る。
直接腐敗するものではないが、身体中に小さな切り傷がいくつもできてしまう。
そこからグジュグジュと音を立てて広がる腐敗音。しまった。完全に抜かった。
この者に私が道を譲れば、どこまで行けるだろうか?
三人将を倒すだろうか?瞳を?ヘラクレスを倒すだろうか?
(いいかピクシー、将来なんて気にすんな。今を楽しめ
人生楽しいか楽しくないかだ。ジジイになっても
ババアになってもそりゃ変わらねえよ。自分がやってて楽しいと思った方を選べよ?)
昔、言われた言葉を思い出した。私が大好きだった人の言葉
「……ふっ、何を世迷言を考えていたんだろうな。私は」
思わず笑みがこぼれる。
私は、知らぬ間に見ていたのかもな、アンの背後にピエロの闇を。
何を恐れているんだ。ピエロは晴嵐くんたちが倒してくれたじゃないか。
それに、私は……まだこの身を過去に置いた覚えはないじゃないか……。まだまだ現役。
そうじゃないと、『あの人』に申し訳が立たないじゃないか。
「……グリムリッパー。いや、アン・ヴィクトリア」
私は彼女の名を呼ぶ。必死に私と闘ってくれた相手の名を。
「私はお前と戦えて、本当に嬉しいよ」
私の言葉にきょとんとしているアン。
自分では見れないが、きっと今の私は身体が腐敗していき
とても醜い格好になっているだろう。晴嵐たちに見られていると思うと恥ずかしいな……。
「………『流星群・シューティング・メテオ』!」
「ッ!?」
アンが驚いたように辺りを見渡す。
私が解体したゴーレムや様々な武器の残骸が……まるで夜空の星のように
宙を浮遊している。アンは全てを察したかのような顔をして私に襲いかかってくる。
「本当…楽しかった。しかし、私は勝ち続けなければいけないんだ」
そういうと、前に伸ばし、開いていた手のひらをぐっと握り締める。
浮遊していた。小さな岩たちが一斉にアンの元に放たれる。
彼女の鎌の攻撃が私の胴体を貫く、けれど私が消える前に……アンの姿が消えた。
『Winnar!このビル最強の小さき妖精!《ピクシー》!黒金寧々!』
ジャックランタンの叫び声で、私が勝ったことが知らされる。
流石に最後の胴体への切りこみ…アンが攻撃に踏み出すのがもう少し早かったら、負けていたかもな。
--------------------------------------------------------------------------------
「清五郎。負けた……」
「あぁ、だけど惜しかったなご苦労さん」
「……清五郎」
「ど、どうした?」
「頭、撫でてほしい」
「はぁ!?」
アンが突然言った一言に動揺する車田。
先輩が少しにやけている。さては医務室の時に何か吹き込んだな?
「……ッ////ほらよ」
「んにゃ」
恥ずかしそうにしていたが、上目遣いでじっと見てくるアンに見かねて頭を撫でる車田。
頭に手が触れた瞬間「んにゃ」ってアン可愛すぎるだろ!あれかぁ!?その辺もピエロの調教か?
だったらピエロさんありがとうございます!いや、違ってたら今のなしだけど。
「本当に、アンは強かったよ。車田もこれから大変だぞ?」
「な、どういうことだ!?」
「彼女が負けたんだ。君は、彼女の前で格好の悪いところ見せれないだろ?」
「……。そうだな、絶対に負けねぇ。ヘラクレスに挑むまではな」
そんな格好いいこと言ってますけど車田……外人美女を撫でながら言われても。
「……羨ましいなぁー」
「ん?なんか言ったシュワルーズ?」
「ひ、独り言よッ!独り言!」
「そう?ならいいや」
「……」
こうして、先輩とアンの壮絶なる闘いは、先輩の勝利で幕を閉じた。
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「さてっと!そろそろ俺の出番じゃないっすかね?飛来さん?」
「……まだ戦闘表に映ってないだろう?なぜわかる」
「勘っすね♪あとは運!今日の星占いふたご座一位だったんすよ」
本当に、こいつの言っていることはたまに理解出来ない。
「じゃ!瞳の姉御!あっしはそろそろ来る気がするんで、アップでもしてきやすわ!」
「うん!福ちゃん、いってらっしゃーい♪
だが、黄鉄さんが認めるだけの実力もある。そしてこの異様な自信が嘘にならない。
その勘の鋭さ……。
やつが去っていったあと、俺は対戦表のモニターを見る。
そこには今まさに更新された対戦表…そこに、奴の名前が載っていた。
相手は……なるほど、面白いことになったな。
去っていった男。『宿木福籠』…。
本郷黄鉄が最後の《三人将》に選びし男。
今、その隠された力を奮い立たせ、今……戦地に立つ!
☆
「千恵……頑張るもぉー」
戦闘場に立った私、葵千恵は目の前の対戦相手を見つめる。
赤いシャツの上にボタンを外した学ラン。なんかお兄ちゃんに似てるな…。
「よぉー俺の相手はお嬢ちゃんかい?」
そういって目の前のお兄さんは私に話しかけてくる。
「うん。葵千恵」
「そうかいそうかい。俺の名は宿木福籠。福を籠めるって書いて福籠だ。よろしく♪
ところで嬢ちゃんって何座よ?星座♪♪」
「……牡羊座。だよ?」
「牡羊座は6位だったな。じゃあこの闘い……お嬢ちゃんの負けだ」
「ん?」
「ま、やればわかるさ!」
そういうと福籠さんは戦闘態勢に入る。
私も足元に影を繁殖させ続けて……そして
「……《デッド・オブ・エデン》」
影から出てくる……何体ものゾンビ。
「こいつは驚いた、もしかしてだいぶ前の闇夜のサーカス団襲撃の犯人の一人?」
「……操られていただけだけど」
「すげぇ!千恵ちゃんなんかゾンビ出したぞ!?」
「千恵ちゃん。自分で制御出来るようになったんだね……」
「あ、RB……いつの間に!?」
僕の言葉に、僕が隣にいたことを気づいていなかった先輩が驚く。
僕はそんな先輩を無視して、千恵ちゃんを見つめる。
彼女…他人に無理やりリミッターを外され過ぎて、その感覚がゆるくなってたんだ。
《聖十字騎士団》の隆太さん。そして《闇夜のサーカス団》ジャックランタンの洗脳。
二つが千恵ちゃんのリミッターを無理やり外させて発動させていた能力のおかげで
千恵ちゃんはこれを発動する感覚を手に入れることができたんだろう……本当に凄い。
この状態の千恵ちゃんなら……あるいは、勝てるかもしれない。
「行って、ゾンビたち」
私は指令を出す。ゾンビたちはそのまま福籠さんに攻撃を仕掛ける。
「教えてやるよ。今日の双子座は、一位なんだ♪」
そういうと福籠さんは突然ゾンビの大群の方に全力ダッシュする。
そんなことをしたら!自殺モノなのに!
「おっと!!」
すると突然福籠さんは……飛んだ。いや……こけた?
地面にあった小石に足をつまづいてこけた。けれどその状態から地面に手をついて
そのまま倒立状態でゾンビの海を飛び越えてきた。
あまりに自然に…やろうと思ってやったんじゃなくて、『偶然』なっちゃったようなほど自然な動き
「やあ♪偶然来ちゃったぜ♪」
「ッ!?」
私は慌てて影のバリアを形成する。
形成されたバリアを福籠さんは容赦なく殴る。こっから針を出せば―――――。
「おっ♪たまたま膜の薄い場所攻撃したみてぇだなぁー!」
「っ!?」
私が針を出現させる前に影のバリアが福籠さんの拳で潰される。
私は驚いたものの、急いで対処して影で福籠さんを捕らえようと試みる。
すると福籠さんは無気力に軽くジャンプする。
そのまま滑るように背中から落下し、受身を取って後転する。
この自然な流れが、私の攻撃を全て躱していた。
「へへっ♪お嬢ちゃん無表情で笑わないけど、笑ったほうがいいぜ?
『笑う角に福来たる』。笑ってねぇやつに、俺は倒せねえよ♪」
そういうと福籠は着地したところの地面を思いっきり踏み込む。
「ほぅら、偶然地盤が緩い場所見つけた!」
「っ!?」
そういうと福籠さんが踏んだ場所からどんどん地割れが起こる。
私は慌てて移動する。
するとなぜか私は石につまづいてこけてしまう。
これは…さっき福籠さんがこけた!
対処しきれず身体を削るようにこける私。痛い。
「ゾンビたち!」
私は指令を出して複数のゾンビを福籠さんに向ける。
それでも福籠さんはニコニコと笑っている。今度は何を……。
「じゃ、そろそろ運じゃなくて…《能力》を使いますかね♪」
「ッ!?」
そういうと彼は突然コインを取り出す。
「さあ!裏か表か!!世界を反転させろ!《ギャンブラー・コイン》!表!」
そういうと福籠さんはゾンビたちが向かってきているのもお構いなしに親指でコインを天井に飛ばす。
そのコインが、福籠さんの手の甲について、落ちないようにそれを止める。結果は……。
「表だ…!やっぱ今日はついてるぜぇー!」
表を出したコインを握り締めた手を天に掲げる。
すると腕から眩い光が放たれる。眩しすぎて目を閉じる私。
「ん…。え?」
目を開けた時、私は驚愕としてしまう。
私の影と…ゾンビたちが、消えてしまっている…!?
「…ビンゴ、こっちの攻撃するぜぇ?」
そういうと、突然こっちに向かってくる福籠さん。
大変!影をまた出さないと!
「おせぇ!」
「ッ!?」
対処できず福籠さんに殴り飛ばされる私。
「さらに行くぜぇー!《ギャンブラー・コイン》!裏!」
またコインを腕に上げる福籠さん。飛ばされている私に追い討ちをかけるのかな?
「……裏!今日は本当に調子いいぜぇー!」
今度はそのコインを地面に思いっきり叩きつける福籠さん。
すると地鳴りが響く。恐る恐る飛ばされている先を見るとそこには、
なぜか横になっているビルがすぐそこに倒れていた。
「さっきの地鳴りで倒れたんだな!」
私はそのままビルの壁に激しくぶつかる。
どうしよう。なんとか影でクッションを作ってみたけれど……痛い。
「悪いことは言わねえお嬢ちゃん。今日はやめときな。今日の俺は何をしても《当たる》気がするぜ」
そういって私に警告してくれる福籠さん。
彼の能力はよくわからないけれど……きっと明知お兄ちゃんや孝明くんみたいな『異能系』。
異能系能力は前例が少ないから対処の仕方がわからなくて困るってお姉ちゃんに教えてもらったっけ…。
「でも…千恵、頑張るの。もう、負けたくないの。誰にも!自分にも!」
「おうおう、立ち上がるか嬢ちゃん。今日の俺には尽きる『運』はねぇぜ?」
「……孝明くんも、私助けるとき、諦めなかったもん。私も諦めない」
私は影をみるみると伸ばす。
絶対に負けてなんかやらないもん!
何本もある影の糸で福籠さんを捕らえようと試みる。
けれど福籠さんはまるで踊っているように移動している。
私の行動が全て読まれているの?
「違うな。俺が動く方向に偶然影が来ないんだ」
そういうと福籠さんは腕に指の部分が切れている革手袋をハメた。
そこには……スロット?のようなものがある。
「嬢ちゃんの意気込みも悪いが!本当に俺には勝てねえよ!《ガントレット・スロット》!」
ガダダダダ!!と福籠さんの腕から激しい音がなり、右腕が痙攣のように揺れている。
そして手の甲にあるスロットが……次々と止まる。あのマークは……爆弾?
「ボム三つ!ビンゴ!これでしまいだ姉ちゃん!」
そういって福籠さんが思いっきりジャンプしてこちらに向かってくる。
私は空中に影を放って捕らえようとするも、これを福籠さんは慣れた動きで避ける。
「俺の動きは運たよりだからな!こと避けることだけは自分で鍛えてんだぜ!?」
そういって福籠さんの大きく振りかぶった拳が私の影のバリアを直撃する。
「…BOMB!」
「ッ―――――」
その直後、戦闘舞台を包み込む大爆発が起きる。
「はっはっは!絶好調絶好調!」
両手を上げて勝利の雄叫びを上げる福籠。
その足元で、爆発で大ダメージを受けた私は……そのまま失神して姿を消滅させた。
(ごめん……孝明くん。また、勝てなかったよ)
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「……あの野郎」
「ん?どうしたの?龍ちゃん?」
蛇の休憩場。
お手洗いから帰ってきた僕は、何やら異様なオーラの後輩を見て尋ねる。
けれどどうやら僕の声は聞こえていないみたい。仕方ない、画面を見よう。
あれは……《三人将》の宿木福籠と、あ、ヘルだ。あぁー負けちゃったか。
「許せねぇ……」
そのとき見た彼の顔は、切れたときの狩羅さんそっくりだった。
(彼が蛇に入ってきたのは単なる偶然だと思ってたけど…
この顔を見てると……これも『運命』な気がしてきたよ)
そういえば……《ヨルムンガルド》って龍じゃなくて巨大な蛇だっけ。
「ま、まあまあ龍ちゃん。落ち着こうよ?ね?君が勝ち抜けれたらきっとあいつとも闘えるさ」
「そ、そうっすね。すんません古田さん」
そういって僕に謝ってくる龍ちゃん。
うんうん、冷静でいい後輩を持ったよ僕は。
さてさて、これで一通りの戦闘が終わって新しい戦闘カードが出てく……。
「ありゃりゃ。こんなんありっすか?」
俺は対戦表を見て、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ふ、古田さんこれ!」
「ああーどうしよっかなぁー……」
俺に取ってとっても気まずいものになっちまった。狩羅さんこれ見てるかなぁー……。
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「千恵ちゃん!」
「…孝明くん。負けちゃった」
僕が医務室に駆けつけると、ベッドで横になる千恵ちゃんの姿があった。
「よかった…元気そうで」
「うん。フレイヤ様が治してくれました」
「はい!私にかかればNo problemです!
そのために私だけは参加免除が認められてるんですかラ!」
そういって胸を張るメアリーさん。本当によかった。
「それにしても、本当に厄介な相手だったわね。あの男」
僕と一緒にきた刹那先輩が開口一番そういった。
「あぁ、流石黄鉄さんが選んだ男ってところか」
先輩も刹那先輩の言葉に同意する。
「分析からするに《運》が重要視される能力らしいです。
『今日は双子座一位』だとかいろいろ言ってたから恐らく今日勝つことは」
「今日あいつに当たるのは極力避けたいわね」
僕の説明に刹那先輩は冷静だ。
自分の妹がやられたというのにこの人は冷静に相手を分析しているし、勝てないこともわかっている。
本当に、しっかりした人なんだろうなと思う。なんで先輩は刹那先輩の気持ちに気づかないのか……。
寧々ちゃんとは違う魅力があって、いい女性だと思うのに……。
「ん?どうしたのよRB?あたしのことなんかじっと見て」
「いえ、ちょっと千恵ちゃんの気持ちがわかっただけです」
「ん?」
こりゃ僕も刹那先輩を応援しようかな。
「あれ?そういえば先輩は?」
突然先輩がそんなことをいう。
本当だ。寧々ちゃんがいない。一体どこに行ったのだろう?
「先輩と刹那先輩は少し寧々ちゃんを探してきてくれませんか?」
「え?なんでだよ?お前は行かねえのか?」
僕の言葉にそう返す先輩。すると刹那先輩は僕の目を見て何かに気づいたように
先輩の腕を掴む。
「ほら、行くわよ晴嵐!寧々がまた赤井にナンパされててもいいの?」
「なんだとぉ!?そいつは大変だ!よし刹那!赤井を探しに行くぞ!殴ってやる」
「探すのは寧々でしょ?まったくもぉ……」
そういって先輩と刹那先輩は走って去っていった。本当に刹那先輩はいい人だ。
すると、僕の袖を誰かが掴んでるのがわかった。いや、誰かじゃないな。千恵ちゃんだ。
「負けちゃったよぉ」
「そうだね。でも、仕方ないよ。あの人には僕も勝てないかもしれない」
「お姉ちゃんや、お兄ちゃんに喜んで欲しかったのに……」
「そうだね……」
「……ひっく、ひっぐ……!」
僕はあえて彼女の顔を見ないであげた。
彼女が、本気で勝ちに行って、自分のために闘って負けたんだ。
僕の言葉で改心して、頑張ろうと決めた矢先に……負けたのだ。泣きたくもなるだろう。
僕は彼女のすすり泣きを聞きながら、千恵ちゃんが僕の袖を握る強さがどんどん強くなるのだけ感じた。
これが最強を決める祭りなんだと、僕は身にしみた。
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「あぁ?次は……面白そうになっちまったなぁー」
「ん?どうしたんですカ?狩羅さん?」
「あぁ……ほれ、蛇が共食いをするんだよ」
「ん?」
私は狩羅さんの言っている言葉がよくわからなかった。
なので戦闘表を見ると、全てが納得行きました。これは大変です。
一日目も終わろうとしている時、まさにこれをラストゲームにするかのごとく……決められた決戦。
戦闘表の一番下には…《蛇道狩羅VS古田良介》のカードがあった。
☆
「お疲れさんっす」
「ありがとう。まあ負けちゃったけどね」
「……カッコよかったっすよ?」
「そうだねぇ」
俺はいい後輩を持ってよかったなぁ、と実感する。
「大丈夫ですカ!?古田さん!」
「……あれ?メアリーちゃん?狩羅さんところに行かなくていいの?」
「大丈夫デス。狩羅さんはまだ立ってますから」
「……。ふぅーん、なんか熟年夫婦みたいっすね」
「ふ……////夫婦なんて私にはまだ早いデス……/////」
そのまま照れて顔を赤くしながらメアリーちゃんは僕の治療をしてくれる。
いやはや、本当に…出来た嫁さんだなぁ。メアリーちゃん。
狩羅さんの性格をしっかり理解してるし、多分言われたから俺のところに来たんじゃないくて
自分で、選んでここに来ている。もし先に狩羅さんところに行っても、治療を断るだろうからな。あの人は。
あぁーとにかく、今日は疲れた。
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「一日目終了で、《三人将》は一人も消えずか……」
「おっす!黄鉄の旦那!俺らやりやしたぜ!」
「そうだな。福籠、今日のお前は絶好調だったな」
「ねぇねぇ黄鉄!あたしも頑張ったでしょ!」
「あぁ、頑張ったな。よしよし」
「えへへぇー///」
俺の膝の上に座る赤野は
無邪気に話しかけてくるので頭を撫でてやる。
猫のように喜び声を上げてゴロゴロと泣いてくる。とても可愛らしい。
「お前には、今日目立った相手とぶつからなかったなぁ~飛来」
「……そうっすね。黄鉄さん」
こいつは祭りが始まってからずっとこうだ。
何か不機嫌で困っている。いつも空返事だしな。
せっかくの祭りだ。楽しんでもらわねえといけねぇんだが……。
「……そうか。飛来」
「なんすか?」
「もし、だ。もしお前が挑んでくる全員を倒すことが出来たら……俺への挑戦権をやろう」
「「「ッ!?」」」
俺の言葉を聞いた三人衆の目の色が変わった。
特に飛来の目は……さっきまでとは別人のようになってる。成功だな。
「……わかりました。必ず、勝ってみせますよ」
そういって、飛来は部屋を去っていった。あいつ、これから闘う相手には本気で行くことになるな。
「ねぇねぇ!あたしが黄鉄に勝ったら結婚してね!」
「……あぁ、いいぜ?」
「やったー!」
「な、なら旦那!俺が勝ったらラスベガス連れてってくだせぇ!」
「あぁわかったわかった。ただ……てめぇらでも俺には勝てねえし、俺ばっか見てると足元救われるぞ?」
「「………」」
「ま、てめぇらは若んだ!今を楽しめ」
そういって俺は2人を置いて部屋から去っていった。
--------------------------------------------------------------------------------
「…あっ!黄鉄さん!」
俺が外に出ると、声をかけられる。
振り返るとそこには明知晴嵐の姿があった。
「なんだ?坊主?」
「少し、お話が……」
「お、黄鉄さんじゃないですか。お久しぶりです」
そんなとき、また声がした。そこには
「よぉ!太陽じゃねぇか!一日目は余裕だったな」
「そうですね。貴方との約束……。忘れてませんから」
「?」
俺と太陽の話しについていけず首を傾げている晴嵐。
「あ、そうだ。お前の用はなんだ?晴嵐」
「あ、そ、そうっすね。出来ることなら太陽さんにも聞いて欲しいんすけど」
「僕にも?」
そう言われて、俺たち三人は、ゆっくり話せる場所に移動した。
--------------------------------------------------------------------------------
「お姉ちゃん……」
「あ、千恵。もう大丈夫なの?」
「うん……大丈夫」
あたしのところに千恵が来る。
目が真っ赤だ。やっぱり、泣いたんだ。
よかった、千恵が……私達兄弟にも見せれない弱い部分を曝け出せる相手に巡り会えて
「おねえちゃんは勝ち越したんだね」
「うん。龍二も勝ってたよ」
「うん……嬉しい。頑張ってね?」
上目遣いでそう訴えかけてくる千恵。
我が妹ながら可愛いなぁー。
あたしは手を彼女の上に乗せて撫でながら微笑む。
「うん。あたしも頑張るね……」
そのためには、強敵が多すぎるけど…。
瞳ちゃんとも闘って、勝たないといけない。
今日見た彼女の強さは本当にとんでもないものだった。
あたしは……勝てるだろうか。もしあの子にぶつかったら
あの子だけじゃない。千恵を倒した福籠もそうだし、闇夜のサーカス団で見た飛来の強さは桁違いだった。
それに、車田に晴嵐。RBに寧々だっているし、龍二も強くなってる。
あたしが勝てるかわからない相手は……こんなにもいるのか。
「でも…頑張らないとダメだよね!」
あたしは自分の頬を叩いて気合を入れる。
あたしはオーディエンスで恐れられた《ロキの三兄弟》の長女よ?自信を持つんだ。
「さてっと、千恵。今日は帰って晩御飯の支度するか」
「うん……」
そういって私達2人はそのままビルから帰ることにした。
--------------------------------------------------------------------------------
「……よぉ、久しぶりだな。ピクシー」
「なぜ、貴方が」
「そう怯えんじゃねえよ。今日は参加者以外は戦えないんだろ?
だからてめぇと交渉するのに、いいかと思っただけだよ……なぁに、すぐ答えを求めちゃいねぇ。
近くに寄ったんで、脳の隅っこに残しておいてくれたらいい……」
謎の男が、黒金寧々に話しかける。
彼女のことはお構いなしに、言葉を紡ぎ続ける。
「―――――」
そして、男が言った言葉に黒金寧々は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。
「そ、そのようなことが……できるんですか?」
「あぁ、まだ確信じゃねぇがな。てめぇには知っといて欲しかった。
他の奴らは…おめぇを許しちゃあいねぇ。もちろん俺もだ」
「……」
黒金寧々は胸が苦しくなって、目の前の顔を隠した男を見つめる。
「まあ考えておいてくれ。てめぇがまだ……《罪》の意識があるならな」
そういって、男は去っていった。
彼の言った言葉は、黒金寧々に取って苦しくもなることだった。
「私はやはりまだこの思いを背負って行かないといけないのか……!」
歯を食いしばり、彼女はただ一人、孤独に苦しんだ。
--------------------------------------------------------------------------------
「清五郎」
「なんだ?」
「まだ……ショックが癒えません。」
「そうか、まあ……頑張れ」
「……清五郎はつれないです」
「さっき頭撫でてやっただろうが」
「……あれではショックが癒えない。」
「じゃあ何しろってんだよ」
ビルから帰ろうとしている2人の会話。
アンが車田の袖を掴みながら、じーっと車田の顔を凝視している。
「今日……一緒に寝てください」
「ぶッ!」
「どうしたんですか?清五郎?」
「お、おまッ!そういうのはこういう場所で言うんじゃねぇよ!」
車田は思わずきょろきょろとしながらアンに説教をする。
「?一人は寂しいので、添い寝をお願いしたかっただけですが」
「……//////」
「清五郎?添い寝と言うのは傍に聞かれてはいけないようなことなのですか?」
「……う、うっせえな!わかったよ!やりゃいいんだろ!」
「清五郎。やはり優しいです」
2人はそのままビルから去っていった。
--------------------------------------------------------------------------------
「それで?俺と太陽に何を聞きたいんだ?」
「それはですね……。黒金先輩のことです」
「ピクシーの?」
「寧々ちゃんのこと?」
俺の言葉を聞いた瞬間2人の目つきが変わった。
大体俺の聞きたいことを察してくれたのだろう。
「先輩がたまにすごい悲しい顔をするんです。
理由はわかります。過去の……俺もRBも知らない《メルへニクス》のことですよね?
教えてください……。先輩は、太陽さんは。そしてあの赤野って女の娘が属していた《メルへニクス》の事を」
「「……」」
2人して、俺の質問に少し黙り込む。
話すべきか少し悩んでいるんだろう。
「いいか。晴嵐。俺は奴らのライバル関係だったから、答えれることは少ない。
太陽?お前は、こいつにピクシーの過去を教えるつもりはあるのかぁ?」
「晴嵐くん?」
黄鉄さんの言葉を聞いた太陽さんは、なぜか俺に対して問いかけてきた。
「な、なんすか?」
「これを聞く覚悟はあるのかい?」
「はい。俺は先輩の気持ちを知りたい。あの人が何を抱いて、あの顔をしているのか」
「そうかい。うん、でもやはりそれは本人に聞くべきだ。
だから僕は、最初の質問通り、過去にあった《メルへニクス》のことだけを話そう。
そこで何があったかは、寧々ちゃんに直接聞きなさい」
「……はい」
「じゃあ、話そうか。過去にこのビルの王者を生み出した最強の組織のことを」
--------------------------------------------------------------------------------
「あ、アンデルセン様!待ってください」
「遅いぞピクシー!!もっとスピードを出せ!」
「は、はい!」
「おいおいリーダー。まだ新人のピクシーちゃんを同じスピードで行かせようとすんなよ」
「そうよぉー!赤頭巾ちゃんなんてバテて太陽の上に乗ってるってのに」
「まったく、リーダーはスパルタ過ぎる……」
「まあまあ、それもあの人の優しさだよ。彼女も一生懸命ついて行ってるんだから」
「太陽さぁーん。まだつかないのぉー?」
「もうちょっとだよ赤頭巾」
「ねえ?僕瞬間移動で移動しちゃダメ?」
「リーダーにボコ殴りにあっていいなら、移動すれば?」
「ふっふっふ。殴られるのわかっててそんな提案するなんてピエロはドMなんですね」
「おら、てめぇら。そんな会話してるうちに、アンデルセン達は到着したそうだぞ」
「さあ……あそこにいる大群が俺たちの敵だ。準備はいいな」
全員、ニヤリと笑いながら、各々の武器を取り出し、戦闘態勢に入る。
その人数……15人。
「さあ……《メルへニクス》の一騎当千物語、開幕だ」
リーダー《アンデルセン》の言葉と共に、全員戦場に飛び出した。
これは、過去の物語。
黒金寧々たちが歩み続けてきた。過去の物語。
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「さあ……《メルへニクス》の一騎当千物語……開幕だ」
そういった直後、リーダー以外の僕ら十四人は一斉に敵陣に乗り込む。
リーダーが動かない理由はとても簡単だ。
彼はおもむろに一冊の本を取り出す。
「さあ今日はどんな《物語》で行こうか。
……よし、《みんなに怖がられていた巨人》のお話にしよう」
そう唱えた瞬間。本を閉じるリーダー。
「な、なんだありゃ!?」
「そ、空から……降ってきやがったぞ!」
恐れおののく大軍。それを見て僕らはニヤリと笑った。
「「「「「巨人が!」」」」」
巨大な足音地面に響き渡る。
「我……皆、怖がる」
「今だ野郎共!ひるんでるうちに全員ヤッちまえ!」
「「「「「おう!」」」」」
副リーダーである男、No2の《桃太郎》が巨大な大剣を振り回し俺たちを鼓舞した。
「さあ……やろうじゃないか。クズ共」
「な、なんだこいつら、この人形は!?」
「みーんな。木偶の坊だよ」
周囲にいるものが、全て殺られた。
「ここは荒野。砂のある場で俺を倒すことは誰にもできん」
突然砂が宙を舞う。
「ま、前が見えない!」
「な、なんだ!?あ、蟻食穴!?」
「や、やめろ!落ちる!」
砂の中に飲み込まれる男達。
それを、能力を発動した張本人は見下すように見ていた。
「お、おい!こいつらやはりやべぇぞ!ぐはッ!」
「お、おい!どうした!?…矢?」
「ど、どっから飛んできてる!?」
「もう面倒だ……。雨にしよう」
一人の弓を持っている少年は空中に向けて矢を放つ。
その矢は天で飛ぶ途中で、いくつもの矢が分裂し、そのまま空に姿を消す。
そして落下してきた矢は……千を超えていた。
「ちょっとぉー。私こんな冴えない男にまとわりつきたくないのだけど」
「まあまあいいじゃんいいじゃん。言い寄ってくる男の数が女の価値とも言うよ?」
「私は……興味ないわ」
三人の女が何やら話している。
その回りを囲む数人の男たち。
「おいっ!いつまでくっちゃべってんだよ!全員!ヤッちまえ!」
「「「あぁ?」」」
一人の男の言葉に、女三人は鬼のような形相を浮かべ、にらみ付ける。
「はぁ……いけ、鳥よ」
そういうとショートカットに白いワンピースの女の背後に大量の鳥の姿。
鳥たちは敵に目掛けてまるでミサイルのように突撃して攻撃をする。
「じゃあ、あたしも踊っちゃおうっかな♪」
そういうと真ん中のポニーテールの少女は敵陣に直接突っ込んでくる。
その両手には綺麗な水で出来た刃。
まるで美しい舞を踊るように目の前の敵を殲滅する少女。
「本当……男は獣で怖いわ」
最後の一人、ロングヘヤーの赤いドレス。死んだ目をした女の足元から
緑の刺の生えた植物がうねうねと出現し、敵たちの足に絡みつく。
「い、いてぇ!」
「こ、これ、茨か!?」
「足は潰したわ。後はお願い」
「はいはいさぁー!」
足を潰され動けない男たちのところにポニーテールの少女が殺戮の限りを尽くす。
「本当、こんなに大勢の男を見ても貴方が一番よ♪勇樹♪」
「あぁ、君のような可愛い子をこんな大人数に自慢できることが誇らしいよ優希」
2人で見つめ合いながら、敵のことをお構いなしに話している男女。
「でも、そろそろ見られるのも飽きたわ。全員やろう」
「そうだね。これ以上嫉妬されても困る」
そういうと2人して敵地に走る。
無数の敵を殴り飛ばし、蹴り飛ばす。
「背中がガラ空きだぜ姉ちゃん!」
一人の男が、女の背後から攻撃しようとする。
「大丈夫よ。あたしは怪我しない」
「ッ!?」
その直後、女を攻撃しようとした男に、飛び蹴りが炸裂する。
「人の女を襲わないでくれるかな?」
「きゃ!やっぱり勇樹はカッコイイ!」
どちらかが襲われそうになったらどちらかがそれを阻止する。
それを繰り返す。作戦を立てて2人の距離を離しても無駄。
「僕らの愛を阻止するやつは誰にも出来ないさ」
「そうね、私達の愛は永遠だもんね♪」
2人はそういって倒した相手の屍を囲み、熱いキスをした。
「弱い弱い弱い弱い!はっはっは!みんな弱いねぇー♪」
「こ、こいつ…瞬間移動を使ってるのか!?」
「もっとさぁー。楽しませてよ♪道化もこれじゃあ踊れないよ?」
ピエロは瞬間移動を駆使して、敵たちを殲滅していく。
その顔は残虐で、その破壊活動を楽しんでいるようにニヤリと笑い続けていた。
「おぅら!」
「な、なんで狼がこんなところにいるんだよ!」
「狼じゃねぇ…《狼人間》だこらぁ!」
彼の雄叫びは相手を吹き飛ばし、彼の爪は全てを引き裂く。
その大きな毛で覆われた姿は……まさしく狼の化物だった。
「お、鬼だ……。鬼がいる!」
「あぁ?何言ってんだ。俺は《桃太郎》だぜ?何かの間違いだろ?」
そういいながら、怯える敵を叩き切る桃太郎。
その大剣一本で一騎当千のごとく戦い切る彼。
「大丈夫かい!?ピクシー?」
「はいッ!なんとか!!皆さんには負けてられません!」
「あたしも負けないよぉー☆」
この頃、僕は新人2人の教育係として一緒に行動していた。
ピクシーもこの頃はまだ、能力を完璧に使いこなしてなくて
ゴーレムも使えなかった。赤頭巾は相変わらずだったけれど。
「て、てめぇがあの《メルへニクス》の棟梁か!?」
「あぁ、俺が《メルへニクス》のリーダー…《アンデルセン》だ。
あんたの部下は俺の兄弟共がやってんでな。俺が直々にあんたに勝負を挑んだんだよ」
そういうとアンデルセンはまた本を開く。
「なら勝負だ!《アンデルセン》!この俺の石化した鎧に勝てるほどの力があるならな!」
敵は全員を石化した鎧で身を守る。
「じゃあ俺は……今日の話《矛盾、最強の矛》」
すると本から一本の光輝く矛が姿を現す。
「行くぜぇ……!」
アンデルセンはその矛で、相手のボスを一閃する。
「ガハッ!」
「この矛盾……どうやら盾の方が不良品だったみたいだな」
そう笑ったアンデルセン。倒れる相手のボス。
《これより、『戦争』を終了します》
「はい、メルへニクス一騎当千物語……閉幕」
そういうと、アンデルセンは本を閉じた。
--------------------------------------------------------------------------------
「んじゃてめぇら!今日は戦争勝利を祝して…乾杯!」
「「「「おぉー!」」」」
この頃は本当に楽しかった。
僕たちのリーダーアンデルセンの乾杯の音頭で僕たちは酒を酌み交わす
もちろん未成年メンバーはジュースだ。
毎晩のように近所のビルを侵攻し、潰し続けた。
僕ら15人こそ、最強の15人だと、どこかで想い続けていた。
十人十色。まったく性格が異なった僕ら十五人を束ねることが出来たのが《アンデルセン》だ。
童話の神であるその名を持つ彼は、まさしく神様のような《異能系》能力者だった。
《童話作り》…これが彼の能力。全ての物語を想像し、具現化する能力。
不可能と言われている《無から有を創造する》ことが可能な能力。
『想像し、創造する』これが彼の能力である。
今思えば飛来拓海の《刀剣創造》の上位互換とも言える。それほど強大な能力だった。
最強の矛の物語を綴れば、最強の矛を具現化出来る。これ以上にチートな能力はない。
彼を倒す方法は、ただそんな物語を作る暇のないほど動揺させて、冷静さをかけさせないといけない。
けれどそれが出来たのはただ一人……本郷黄鉄その人だけだった。
本郷黄鉄とアンデルセンは、『金』と『銀』。対を成す最強の二人組だった。
互いに勝っては負けてを繰り返す。まさしくライバルのような男だったんだ。
でもあの日。彼は……姿を消した。
「ど、どうしたんだよ!?ピクシー!」
「あ、あ……」
そしてその犯人は……恐らくピクシー。
二人きりでいたピクシーとアンデルセン。
腰を抜かしてヘタレ混んでいるピクシー。涙を流していた。
何が起きたか本人にもわかっていない様子だった。
俺たち13人は、その姿を見て心配したのではなく……絶望したのだ。
こいつが……アンデルセンを消した。俺たちの寄り代を消した。最も憎むべきことをやったと。
僕らは徐々にビルから去っていった。
僕はまだ長い間いたほうだ。そして見た。ピクシーの新たに使った能力。《ゴーレム》を。
「あれじゃあまるで……《アンデルセン》の巨人じゃないか」
生きた岩の巨人。それこそまさに、アンデルセンが得意としていた巨人の創造そのものだった。
それを見てから、僕ら残ったメンバーもビルを去っていった。
あの岩の巨人を見ただけで、吐き気がするほど不快になってしまったから。
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「これが全てだよ。晴嵐くん。
あの頃の僕らには、彼女が何かをしたとしか思えなかったんだ。
僕らにとって、アンデルセンが全てだった。みんな個々に問題を抱えた人達だったからね」
「……そうだったんですか」
「それから誰もアンデルセンに会っていない。
ただ殺られただけなら、またこのエリアに来ることができるはずなんだ。なのに……」
そう語る太陽さん。目つきが少し怖くなってしまっている。
そんな彼の肩を、黄鉄さんが掴む。
「それ以上はやめとけ。せっかく冷静になった感情がまた憎悪に塗れるぞ?」
「……そ、そうですね」
深呼吸をして調子を戻す太陽さん。
今は俺たちの仲間でいてくれる太陽さんも、やっぱりまだ押さえているものがあるんだ。
「ま、そういうこった。晴嵐。てめぇが知りたかったのはこれでいいのか?」
「え、あ……はい」
俺は突然黄鉄さんに言われた言葉を慌てて返事をする。
「ごめんね、僕にはこの程度しか話せないんだ。
けれど、この話を聞いて、君は寧々ちゃんとどう接するかは自身で決めるんだ」
「はい…ッ!ありがとうございました!」
そういって俺は2人の元から去る
聞いてよかったと思う話だけど、RBや他のみんなにするのはよそう。
聞いといてなんだけど、やっぱり先輩は、みんなに知られたくないだろうし。
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「あっこまで話してよかったのかぁ?太陽?」
「うん。彼は、貴方に似てますから」
「あいつが?俺に?」
「えぇ、そっくりですよ。目の中にある火が。唯一アンデルセンと友だった貴方とね。
僕たちは彼を信仰しすぎた。彼をまるで神のように縋りすぎた。神を失った人間は、どうしていいかわからずに
狂い出す。まるで、この前のピエロのようにね……」
「そうか、あいつが俺と似ているか。黄金に輝く炎を纏ったフェニックス。……へへっ」
俺は、自分の言った言葉の後、突然笑みをこぼし始める。
「どうしたんですか?急に笑ったりして?」
「いんや……。皮肉だなぁーって。俺も一つ思ってたことがあるんだよ。
さっきてめぇが言っただろう?俺とあいつは『金』と『銀』の対を成していたって。
それで……『金』である俺が『銀』育ててんだなぁーって思うとな」
「ん?」
俺は首を傾げているのをよそに、俺はある一人の男を思い出す。
あの俺に襲ってきたときの冷静な目。そしてあの能力……。
「へへっ、この祭り……思った以上に楽しめそうだぜ」
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「はぁ……はぁ……」
「ちょっと飛来さん。無理しすぎじゃねぇっすか?」
「……福籠か。見てたんだな」
「あぁ、あんたがずっとずっと特訓してるのをな。止める野暮は出来なかったけどな。
でも本当にそろそろ辞めにしときましょうぜ?明日闘うときにバテてちゃしまいだぜ」
「……そうだな」
俺は外に出て空を見る。白く輝く月。
本当に綺麗だ。
秋になって肌寒い。自分の皮膚に冷たさが刺さる。
「福籠。ずっと見てたなら冷えただろ?コーヒーでもおごるぜ?」
「マジっすか!?飛来さんごちそうさんです!」
そうして俺たちは歩く。予感がした。
明日……俺にとって大きな闘いがあると。
俺にとっての大きな闘い。言うまでもない。
「明知晴嵐……あいつとの決着を付ける」
「飛来さん?バトルはランダムだからわかんないっすよ?」
「……ふっ、そうだな」
俺たちはそのまま夜の寒い暗闇に消えていった。
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『さあさあ!ヘラクレス主催!『童戦祭』もいよいよ二日目!
今日こそはヘラクレスが認める最強の弟子達《三人将》を超える者達はいるのでしょうか!?
一日目に負けた人も!お仲間の応援と共に、今日の激闘を楽しみに見てねぇー☆
じゃあじゃあ!ここに『童戦祭』二日目を開始するよぉー☆みんな楽しんでねぇー♪』
「「「「「「おぉー!!」」」」」」」
それぞれの想いを交差し、大歓声の中、鋭い敵意が回りに充満している。
混沌とした戦の祭り、童戦祭……二日目が開幕する。
ってなわけで童戦祭の序章と一日目を描きました。
中編は二日目。そして後半は三日目を描くつもりです^^
一日目でアンVS寧々、福籠VS千恵、狩羅VS古田などが描かれてますねw
そしてジャージもなにやら重要っぽい!?今までただのモブだったのにwww
過去編に登場した桃太郎ほか数名のメルヘニクスたちは今後出てくるのか
どうぞお楽しみにしていてください^^
さてはて、最終的にヘラクレスにたどり着くのは誰なんでしょうか!?
次回をお楽しみにくださぁーい♪