表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

第4章~闇夜のラグナロク~中編

始まったラグナロク!復讐に燃えるマジシャンこと元ロキ。


そして《黄色》のカラーを司る

ピクシーに襲い掛かる《闇夜のサーカス団》の刺客!

ピエロが仕掛けるメルヘニクスへの罠!!


そして《グリムリッパー》を追い求める車田清五郎の行方は!?

ラグナロクやピエロの刺客との戦争はさらに激化!!怒涛の中編!!開幕!








「どうして、貴方が…」


私、メアリー・メディシアは、後方で《フレイ》さんと共に待機する役だった。


《フレイ》さんと《スルト》さんが私の護衛と言うことになっていた。


この《戦争》は、始まったら最後、一度やられただけでこの戦争が終わるまでは《再ログイン》は不可能。


だから死ぬ前に、私のところに連れていき、私が治療するのが、オーディン様から授かった役割。


そしてそんな私を守ってくれるのが《フレイ》さんと《スルト》さんのはずだったのだ。なのに…!


「…お前、北欧神話を読んだことあるか?」


ぼそりと、スルトさんはつぶやく。


私は呆然としてしまって、それに答えることができない。


「読んだことねぇなら教えてやるよ。《スルト》っつう神はなぁ?


 『黒きもの』と呼ばれ、ラグナロクでは《フレイ》を殺し、《ムスペルの一族》を率いて襲撃するんだよ…!」


にやりと笑う《スルト》さん。


「さて、俺はこうしてきっちりと《演劇再現》をこなしたわけだ。


 《ムスペルの一族》は《ロキ》が用意してくれたらしいし…俺はここでお前も倒し、ラグナロクを成功させる!」


「っ!?」


今の一言で全てがわかった。


この人……ロキ側の人間だ。


「なぜ…《ロキ》の味方をするのデス!」


「味方?味方も何も…俺と《ロキ》は中学の頃からの親友で、同類だぜ?」


同類…つまり、こいつも《極道》に関わる者だったと言うことなの!?


「あいつの組が潰されてからなぁー、おりゃ困ったんだぜ?


 俺は極道じゃねぇがあいつの組を通して商売してたからなぁー…」


そう言いながら、スルトは剣を抜く。黄金に輝く剣だ。


私は懐に手を伸ばす…ここに土がない……それでも!


「行くデス!」


懐から私はあるものを投げつける…。種だ。


そして私は地面に手をついて力を使う。


種はみるみる育ち、異常な成長を見せ、巨大なモンスターのように茎がうねうねと動く。


私が闘う方法はこれしかないです。とにかくこれで時間を稼いで!!


「わりィな。《フレイヤ》…その戦闘スタイルは俺との相性最悪だ」


一瞬。そう…本当に一瞬で私の武器である植物達は灰になってしまった。


《スルト》を…彼の持つ剣を……真っ黒で禍々しい炎が包み込んでいた。





--------------------------------------------------------------------------------







「なんだ、晴嵐くんもRBも来ていないか……」


私、黒金寧々は一足先にビルへと趣いた。


夏休みと言うこともあり、朝から参加者の数は多い、雑談をしたりフリーバトルを行ったり、バトルを観戦したり


支配はされていないが、このビルは今日もいつもどおり平和だ。


そんなときだった…。


「ダブルス…申し込まれてしまったか」


モニターを見ると、私ともうひとりの対戦相手の図。どうやら強制戦闘権を使ってきたみたいだ。


ルールはダブルス……むむぅ…弱った。今は晴嵐くんもRBもいない……ほかに私と組むようなものはいない。


車田も……探してみたがいない。どうやらやつも私達と同じで遠出をしたらしい。《蛇》もオーディエンスにいるし


「仕方ない…二対一でもなんとかなるだろう」


そういって私は一人で闘技場へと向かった…。








「にゃにゃ?もしかして《ピクシー》一人かにゃ??」


戦場にいたのは、奇妙な二人組だった。


片方は、まあ私よりは大きいが一般的に小柄と言える女性。髪が猫耳のようになっている。


もう片方はむしろその逆。大きすぎる……晴嵐くんよりも…《ヘラクレス》よりも大きんじゃないか?


顔もすごく険しくて怖い。


見ていて思わず震えてしまう…この男にスカイスクレイパー以外であったら


私は思わず逃げてしまうかもしれない。


「……死にたい」


「…え?」


大男がぼそりと呟いた。その瞬間気のせいか涙目になってる。


「にゃにゃ!気を確かにするにゃダイちゃん!


 小さい子に怯えられてショックなのはわかるけど大丈夫だよ!大樹の優しさをミャーはわかってるにゃ!」


そしてなぜかその大男をフォローする猫みたいな語尾の女。なんなのだこいつらは……。


そんな私の呆然とした表情を察知したのか、こちらを見る猫女。


「あ!自己紹介を遅れたにゃ!!


 あたしは《闇夜のサーカス団》の《ケットシー》にゃ!こっちはミャーの相棒トロルだにゃ!


 ミャー達は二人で一人…サーカス団の盛り上げ役『黄色』を任されているにゃ」


ケットシーにトロル…どちらも北欧の、アイスランドで言い伝えられてる妖精の名だ。


猫のような語尾を話す女と……無愛想で失礼だが、醜悪な顔をしている大男。


なるほど、二人共その二つ名にピッタリなものだな。


「して、その《闇夜のサーカス団》とやらの二人は…なぜ私と闘う?」


「それは簡単にゃ♪お前はここで……幽閉するためにゃ」


にやりと笑う《ケットシー》。




「それをして、貴様の目的はなんだ?」


「にゃー…ダイちゃん!どう説明したらいいと思う?」


「……《座長》の名…出せば、伝わるって…言ってた……」


どうやらダイちゃんと呼ばれているトロルは喋りも下手なようだ。


本当…この《ケットシー》は、この語尾も気にならないくらいの美貌を持っている。


彼女の口調は一般的にうざがられそうだが、彼女のルックスがそれを許容出来るレベルなのは理解できる。


その彼女と対を成すように、恐らく全ての女性が恐れるであろう醜悪な《トロル》と言う男……。


このまさに『美女と野獣』と言った凸凹コンビが一緒にいるだけで、何やら滑稽なものに感じる…。


「そうにゃ!……《ピエロ》と言えば…わかるかにゃ??」


「っ!?」


その名を聞いて、私の身体はひどく硬直した。


《ピエロ》…元私の仲間、いや…先輩だ。


今の話を聴いていると、現在彼は《闇夜のサーカス団》なる組織の長を務めているのだろう。


しかし……そんな彼がどうして、急に私を襲う??


(僕はもちろん…。《みんな》君のことをどう思ってるか……考えたほうがいいよ)


心の中で、先日彼に言われた言葉が胸に刺さる。そういうことか……。


「私への復讐…のつもりなのか。あの男は…」


「復讐?ミャー達はそんな理由では動かにゃいにゃ!!」


「ん?ならなんだ??」


「ミャー達はエンターテインメントをお送りするのにゃ!これより第二幕!《妖精狩り》をはじめるのにゃ!!」


そう叫んだ瞬間に、《ケットシー》が私に襲いかかってくる。速い、しかし!!


「にゃ?」


「悪いな。伊達に貴様らのボスと《元同じ組織》に属していたわけではないんだ」


ケットシーの拳を私は捕らえる。


私の能力による《バリア》の形成…なんとか間に合った。


私は足元の小石を能力でケットシーにぶつけようと試みるが、バックステップで逃げられる。


「さあ…闘うなら……かかってこい!!」


私は能力を使って《ゴーレム》を形成する。


「にゃー本当にでかいにゃー」


「…見上げる敵は久々」


「んにゃ!んじゃあダイちゃん!頼むよ!!」


「……うっす」


そういうと、《トロル》は、肩を前に出し、無謀とも言えるような行動に出る。《ゴーレム》の足に突進したのだ。


岩で出来ているゴーレムの足を身体で突撃しても意味は……


「何っ!?」


突撃した瞬間に、ゴーレムの足が砕かれた。


足を失い、よろめくゴーレム、早く修正しなくてわ!!


「それじゃあ間に合わないにゃ♪ダイちゃん舐めた《ピクシー》が悪いにゃ!!」


気づくと、もう《ケットシー》が真後ろで蹴りの構えに入っていた!?よけれない!!


そのまま私は地面に蹴り落とされる。


私が離れたことによってゴーレムは一度ボロボロと砕かれる。


「これでわかってにゃ?ミャーらも伊達に


 《ピエロ》に認められたコンビじゃないにゃ♪本気出さないと……負けちゃうにゃ♪」


屈託のない笑みを浮かべる《ケットシー》と、その後ろで大仰にそびえ立つ《トロル》


なるほど……確かに強い。




私は、こうして……喜劇の序章を飾る役者に当てつけられてしまった。





--------------------------------------------------------------------------------





「……戦争が始まってるだって!?」


俺とRBがビルに転送されると、もうそこは戦場だった。


《闇夜のサーカス団》と言う組織が、このビルに対して戦争を急遽申請してきやがったらしい。


俺たちは、先輩が《ケットシー》と《トロル》と名乗る者たちと闘っているのをモニターで見ながら驚愕していた。


「恐らく、あの二人を先に送り込み、寧々ちゃんをバトルステージに幽閉。


 その間に寧々ちゃん不在の状態で、このビルに戦争を仕掛けたんだろうね…」


RBは冷静に解説する。な、なんかテンパってるのは俺だけ??


「それで?どうするの??戦争だよ??」


刹那もRBに聞いている。


俺達は、千恵ちゃんが先にこのビルに来ているんじゃないかと思ってここにきたわけだが


一度入ると、ログアウトするか敗北するかしなければ出れないらしい。この状態で退出なんてできない…。


「…僕らのビルの方針が弱点になっちゃいましたね……」


ぼそりとつぶやくRB。


「どういうことだよ?」


「ここには…《実質のリーダー》がいないんですよ。だから…兵力が足りてない。


 戦争で負けて消えた場合、ポイントは一気に減少する。下手すればそのままポイントが全滅する場合も…。


 だから、ただの小遣い稼ぎでやってるような人、組織意識のないものはログアウトする……」


RBが苦しそうに言う。


ビルの外を見てみると、確かに敵側のほうが多い。


「それでも……やらなくちゃ」


ぼそっと言うRB。


「先輩、フェンリル。二人だけでも僕の言うことを聞いてください!!」


振り返ってそういうRB。その目は決意そのものだった…。


そしてそのRBの後ろが光る。現れたのは10以上の忍たち…。


「各地戦場に、君たちは伝達役だいいね?」


RBがそういうと、無言で忍たちは消えていった。


「RB……今のは?」


「先輩とフェンリルはこのまま外に出て、僕の指示に従ってくださいいいですね?」


RBの威圧に負けて、俺とフェンリルはおとなしく外に出た。


俺たちの近くに、一人の忍がいることが確認できた。


『まだこのビルで残り、闘う人たち!聞いて!!


 ここからは僕…《ジャンヌ・ダルク》が指揮を取る!可能な限り従って、行動してほしい!!』




忍者たちが通信機の役割を果たし、俺達にRBの声が聞こえる。


「あぁ?ジャンヌ・・ダルクだぁ??何偉そうに言ってんだ!!」


どこかからそんな野次が聞こえる。当然だ、いきなり現れたやつに命令されて心地いい相手はいない。






「今の聞いたか?晴嵐」


そんなとき、声をかけられる。振り返ると、ジャージだ。


「さっきのジャンヌ・・ダルクって奴は…いつもお前といるあのメガネのことか??」


ジャージはもう一度俺に問い詰めてくる。俺は静かにうなづいた。


「そうか…なら信じてやる!!あのメガネは《妖精の番犬》なんて呼ばれてるほどの実力者だ。


 本人は気づいていないようだけどな…俺と教授で他のやつにもそれを教えてくる。


 なんでかわかんねぇけど始まった戦争だ……勝つぞ」


「…おう!」


そういって俺とジャージは拳を当てて、それぞれ戦地へと赴いた。







--------------------------------------------------------------------------------







「みんな!催眠をかけられているものを早く始末して!!」


俺っち、古田良介はヴァルキリーさんが、叫びながらみんなに指揮を取るのを見ていた。


おかげで操られていたとしか言い様のないイカれた連中のほとんどは捕縛、始末できた。




「ヴァルキリーさん!!報告です!!!」


どこかから走ってきた男が、息を荒くしてヴァルキリーさんに話しかける。


俺も話を聞くために彼に近づく。


「どうしたんですか?」


「はぁ…はぁ…ゾンビです!ゾンビ共がこちらに攻めてきています!!」


「…ゾンビ?」


俺とヴァルキリーさんはその一言を聞いて、困惑してしまった。


そんな……大人気ホラー映画みたいなことが本当に…?




そして俺達は見てしまった。


邪悪で、足元拙い歩き方をした…化物達の大群を―――――。





--------------------------------------------------------------------------------







「へっへーん♪僕の催眠術で仕掛けられた奴らを始末させて戦力削除!


 そして次はこれ!!僕のお気に入り…冥府の死者軍団☆君がここまで出来るとは思わなかったよ♪」


《ジャックランタン》はそういいながら、一人の少女を見る。


彼女はただ椅子に座って、大好きな狼の人形を抱きしめていた。


しかし、彼女の周囲はまるで黒い湖のように広がり、そこからうようよと、腐った肉体の化物達が出てくる。




「さぁて♪とうとう最後はこいつを解放♪これで《ラグナロク》は完全再現される」


そういって《ジャックランタン》は無音の部屋で指パッチンを鳴らした。



                    



                     ☆









「おいっ!龍二!!どうしたんだよ!!」


「がぁぁぁぁ!!!」


悶え苦しむ男。葵龍二。


それを一緒にいた男達は見て、狼狽してしまう。






「……始まるんだよ。本物のラグナロクがね…」


「だ、誰だてめぇ!?」


「僕かい?僕はね…『発明者』…コードネーム《フランケン・シュタイン》だよ。シュタインと読んでくれ」


緑の額縁メガネをかけた青年は、笑いながら問いかける。


「敵だ!迎え撃て!!」


オーディエンスの兵達はその男に立ち向かう。


「はぁ…君たちのように下品な男達相手したくないのだよ……《キメラ》!」


フランケンが叫んだ直後、彼の目前に巨大な獣が現れる。


ライオンのような風貌。蛇のしっぽ、鷲の羽、牛の角……混沌とした姿の化物。


その化物が、瞬く間にオーディエンス達の血を噴出させ、全滅させる。


その場にいるのは、悶え苦しむ龍二と、《フランケン・シュタイン》のみ。




「さあ、目を覚ますんだ…《ヨルムンガルド》。世界最大の龍よ。お前がラグナロクの主役の一人なのだから」


耳元で囁く《シュタイン》…その言葉を聞いて、龍二の鼓動が激しくなる。




「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




そして龍二は、龍の姿となり、暴れまわる…。


もう、人間の姿の面影はない………。






本物の、《ヨルムンガルド》となってしまった―――――。





--------------------------------------------------------------------------------







「おぅら!!」


「くそっ!!」


俺とジャージは同じ班として戦っていた。


指揮は全てRBが取っている。


本当に……感嘆としてしまう。さすがは勝利を齎した戦乙女ジャンヌ・・ダルクって言ったところか。


完璧だ、俺にはその手の知識がないけど…RBの言うことに従えば、順調に相手をつぶせる!!


「大丈夫か!?晴嵐!」


俺の背中に、誰かの背中が当たる。ジャージだ。


「あぁ!そっちこそ足攣ってねぇだろうなぁ!?」


「バァカ!そんなヤワに足鍛えてねぇよ!」






そういいながら俺達は再び前に出て戦線で闘う。


刹那も戦ってる…他の奴らも……。




そんなときだった。俺は向こうからくる謎の集団をみた。……あれは…ゾンビ??














「教授さん!お願いします!!」


「了解したよ」


RBの隣にいるメガネをかけた青年。晴嵐たちに教授と呼ばれている人物だ。


彼がメガネを喰いっとあげる。すると、空から何やら怒号が鳴り響く。


そしてみるみる空に映る光が大きくなる……あれは…隕石だ。


「私の能力は強いのですが、これをしている間自分が無防備になるので、


 こうして右腕のように置いてもらうと助かりますよ。《ジャンヌ・ダルク》…」


「あまりその名前で呼ばないでください。貴方の能力はこういうときに一番役にたつ」


そういいながら、RBは忍者達が映してくれる画面をじっと見つめる。


そんなときだった…。向こうからゾンビが襲いかかってくるのがわかる。


「…攻め落とすか??」


「……うん、お願いします」


教授に指示をして、また隕石を落としてもらう。


ゾンビ達がこちら付近までくるのはそうたやすくはないだろう…。


(それにしても…あのゾンビ…。間違いない。千恵ちゃんの能力だ。


けれど、あんな外に出て自立行動まで出来るのか??あの化物達は……。


それに、隆太さんとの戦いで彼女があれを出したときの彼女……苦しそうだった。




「これは…危ないかもしれない」


どんな状況なのかはわからないが、このまま千恵ちゃんが能力でゾンビを出し続けていたら危険だ。


この戦場を優位に勧めるにも、恐らく向こう側に攫われている千恵ちゃんを助けに行く必要がある…。


けれど僕はこの持ち場から離れることはできない……どうしたら。


「なら、俺に任せとけ。」






そんなときだった。背中からとても頼もしい声がしたのは―――――――。





--------------------------------------------------------------------------------







「くそっ!どうなってんだこりゃ!!」


俺はバイクでどんどん相手を撥ねながら移動している。


師匠と別れて帰ってきて、晴嵐たちに会おうとここにきたらこの様だ。


闇夜のサーカス団が戦争をふっかけにきたらしい。なんてはた迷惑な奴らだ。


《闇夜のサーカス団》…師匠から聞いた。とてもえげつない組織がいるとか……。


自分の気分で戦争をふっかけて、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回す極悪な傭兵組織があるらしい。


またこいつらに協力を仰ぐビルもいるもんだからタチが悪い。




特にこの組織には《グリムリッパー》と言う殺し屋がいるらしい。


マスターである《ピエロ》が指名した敵をなんの躊躇もなく倒す死神…。


奴に出会ったが最後……完全に殺されるそうだ。


他にも仲間を催眠させて仲間内をさせたりと、やり方の汚い奴らが多い。


「車田清五郎!?」


そんなときだった。誰かに声をかけられる。


倒れている少年だ。俺も顔を知っている奴、そいつが倒れていた。


「大丈夫か!?誰にやられた!!」


「ぐ、グリム…リッパー……俺達をやって、帰って行きやがった…」


「グリムリッパーはどんなやつなんだ!言え!!」


「…黒いマント羽織ってたけど…顔がみえた……。金髪に、藍色の目で…多分……女だ」


そんなとき、俺には一人の女性の姿が思い浮かんだ。


(私もスカイスクレイパー参加者なの)


(…言われているからですよ?マスターに)


その言葉が脳内で再生される…。


「まさか……あいつがっ!?」


「お、おい…車田……知ってるのか!?そいつを!!」


「あぁ………!!!」


そのとき、俺は鏡を見たら自分に怯えただろう。


それほど俺の形相は憤怒に染められ、怒りを露にしていたのだから。




「ど、どこ行くんだよ…」


「悪い、俺に治療技術はないからお前はここで終わりだろうな。俺は…グリムリッパーに会いに行く」


「な、なんで行く必要があんだよ…あいつは帰った、それでいいじゃんか」


「俺はあいつに……『風』を教えに行く…!!!」


そのときの俺の顔がよほど怖かったのか、その男は黙ってしまった。




そして俺もバイクのエンジンをかけて、そのまま敵側である《闇夜のサーカス団領》に向けて走っていく。







--------------------------------------------------------------------------------





「いいかぁ!てめぇら!!よく聞け!!こっからはジャンヌダルクに変わり!!俺が指揮を取るぅ!!


 死にてえ奴らだけ、この場にのこれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




これがカリスマ性と言うものなのか…。と僕は感嘆としてしまう。


ゾンビ達がきた瞬間に、ジャンヌ・ダルクの心情が変わったのは理解できた。


恐らく、あのゾンビを出している犯人に心当たりがあるのだろう。彼も過去にはいろいろあったと聞く。


そんな時に現れたのが……最強のヘラクレスだ。


彼は忍者を使って、全ての残っている者にさきほどの言葉を吐きかけた。


本当に…すごいと思ったのが、彼が叫んだ瞬間…今まで乗り気じゃなかった者達まで積極的に闘う。


完全に僕たちの兵のポテンシャルが上がっているのだ!!


しかも、彼が連れてきたと言う三人……。一人は知っている。飛来拓海だ。


あいつも《フェニックス》と同時期に入ってきたと言うのに……今や強豪の一人じゃないか!感嘆する。






少し前、《ヘラクレス》はジャンヌ・ダルクにこういっていた。


「何があったかは知らねえが、敵陣地に攻めたいって…顔してるな?」


「―っ!?」


驚いたような表情をするジャンヌ・ダルク。図星だったのだろう。


「うちんとこの飛来を連れていけ、それが条件だ。あいつは強い。そして他はお前が選べ


 人数は最大でお前も入れて5人だ…。


 強い奴を連れて行かれすぎるとこっちが終わる。残りの俺の子分はダメだぞ?」


「………わかりました」


そういってRBは去っていった。


「…えーっと……お前誰だっけ?」


「あぁー教授でいいっすよ。晴嵐くんにはそう呼ばれてます」


「そうか、あの隕石はお前か??」


「えぇ、まあ…」


「なら一箇所だけ落とさない場所調整出来るか?そこからRB達を突破させる」


「…わかりました!」


そういって僕らは能力で隕石を落とし続ける。




この戦争、もしかしたら僕はものすごい鍵を握っているのかもしれない。


僕の隕石落としをおろそかにしたら、そこからゾンビ達が入ってくる……。


僕はそんなことに覚悟を刻み、僕らの憧れのヘラクレスの背後で能力を使う。


本当……この人の後ろだと、安心して使える。






これが最強の男……《ヘラクレス》なのだと僕は感じた。





--------------------------------------------------------------------------------







「と、言うわけで…このメンバーで僕らは敵陣に乗り込むことになった」


僕、RBは集めた人たちに向けて言葉を放つ。


そこに集められたのは明知晴嵐・葵刹那・飛来拓海……そして僕だ。


「おいっ!なんでこいつが一緒にいるんだよ!!」


どうやら晴嵐先輩は飛来がいることが気に食わないようだ。


「ヘラクレスの要望だ。それに、彼は先輩よりも強いですよ?」


「うっ…それを言われると痛い……」


「それで?どうやって行くんだよ?」


飛来が僕に聞いてくる。


この人、最初あったときはただのチンピラだと思ってたけど、随分と冷静な人になったなと思う。


「先輩には空飛んで移動してもらいます。フェンリルは走れますよね?


 飛来さんは僕の『タンク君』の台車に乗ってもらいます」


そういうと僕は一人のモンスターを召喚する。まるで荷台のついたバイクのような姿。


「…これに乗れと?」


「はい、自動で動いてくれるので安心です。では…行きましょう」


「あぁ!あの赤髪野郎をぶっ倒して先輩を諦めさせてやる!!!」


先輩は拳をもう片方の手にぶつけ、決意を表明する。


「…………」


一方フェンリルはどこか様子がおかしい。


彼女にだけは……話しておくべきか。


「フェンリル…」


「何?あと、あたしのことは刹那でいいわよ」


「はい、では刹那さん……実は…」


僕は、ゾンビの真実はあえて伏せて


ただ千恵ちゃんがサーカス団領にいるとだけ伝えた。……目の色が変わった


「…本当なの?」


「うん。さっきそういう情報が入ったんだ」


完全にやる気になった。


僕らの敵だった頃の、獲物を睨む目をした狼そのものだ。




「さあ、行きましょう!!」


そういって僕ら四人は、敵陣地に乗り込もうとしていた。







--------------------------------------------------------------------------------







「ぐらぁー!!!」


「…ヨルムンガルド…。貴方は私が止めます!!」


暴れまわる龍二…いや、《ヨルムンガルド》。


既に兵は避難させた。この場にいるのは私と彼だけ、いや…あの化物だけ。


龍二は、理性を破り捨て、化物として動いている。


その力は強大としか表現することが出来なかった。まるで災害だ。


この広い一体を、トグロを巻いた龍がただ怒号を響かせている。


化物の目は確実に私を捉えている。私は剣を抜く。






「いざ…参る!!」


こうして、ヴァルキリーと、最強の化物ヨルムンガルドの戦いが始まった。





--------------------------------------------------------------------------------







「さて、僕は《蛇道狩羅》の始末しないといけないんだったね…」


フランケン・シュタインは歩きながらそんな言葉を呟く。


彼の使命は《マジシャン》が狙う男《蛇道狩羅》の捜索と抹殺。


用心深い《マジシャン》は、僕とふたりで彼を倒そうと言うのだ。僕にはそこまでの男には見えないが。




「さっきの言葉…。聞き逃しちゃあいけなかったっすよね??」


そんなときだった。


横槍を入れるように声がする。声の方を見ると、そこにはフードをつけた男。


「悪いっすけど、さっき聞こえた相手は……


 ウチの《ボス》なんすわぁー……聞いたからには止めなきゃなんねぇ」


フードから確かに見える。僕を殺そうとする殺意のある眼光が。




「…君に興味が出た。名前は??」


「………《蛇の毒》。そうとだけ覚えておいたらいいっすよ」


軽い口調とは裏腹に、彼の目は怒りを露にしていた。






こうして僕と《蛇の毒》と名乗る少年の戦いは始まる。





--------------------------------------------------------------------------------





「さあ!駒達は動く!!足掻け!オーディエンスの不抜けた観衆共ォ!!


 俺を追放した事………後悔させてやるぅー!!!」




狂ったように笑う《マジシャン》


しかし彼の言う通り、オーディエンスは確実に圧されている…。




「んじゃ、そろそろオイラも行きますかね、《ロキ》さん」


「あぁ、邪魔者に会うなよ??」


「えぇ、その辺は遠回りして確実に行きますよ。んじゃ…」


そういって男、《ガルム》はマジシャンの部屋を出た。




オーディエンス崩壊の砂時計の時の刻みが、たった今……始まった。




                   ☆






「くそっ!くそっ!!くそっ!!!何チンケな真似してんだよ!!あの女!!!!」


まるで俺の好きな『北○の拳』の舞台のような世紀末の荒野。


そこで俺は巨大なバイクのエンジン音を啼かせながら走った。


あの女……アンが『グリムリッパー』だぁ?ふざけた話だ!


誰だ、あいつに殺し屋をさせてんのは!なんでだ!?なんであいつは有無も言わずに従う!?


あいつは…そんなチンケなことをして楽しいのか!?




俺はそんなことを思いながらバイクを走らせていると前から敵の集団が押し寄せてくる


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


俺はポケットからいくつかのボールを放り投げる。全て俺の印が刻まれている。


敵の中にボールが入り、激しく爆発する。本物の爆弾だ!!


奴らが消し飛ぶ道を、俺はバイクで突っ切る。


「待ってろよ……!!お灸を据えてやる!!!おめぇにも!!おめぇのマスターとかにも!!!!」
















「…どうやら、車田清五郎が先に言ったようですね」


「車田が!?」


僕が言った言葉を聞き取った先輩は驚いたようにいう。


上空に飛んでいる先輩を見るように見上げて僕は言葉を続ける。


「えぇ、所々に爆発したクレーターのようなあとが…」


「あいつが先に行く理由とかあるの??」


「もしかしたら僕らも知らない因縁があるのかも」


「……そんなことはどうでもいいが、きたぞ?」


僕の横で座っている男、飛来拓海がぼそっと呟く。


前には敵の集団、ゾンビ達だ。まだ増援するつもりだったのか…


「……ざっと50…。あの動きだと避けるとかいう神経はないよな?」


「え、えぇ…さっきの戦いのときもそうでしたし、彼らは死にませんからね」


飛来さんが何やら僕に問いかけてくる。


「なら…足を刺して動けなくすればいいわけだ」


そういうと飛来さんは静かに瞳を閉じる。


そのとき、僕らはみんな驚嘆した。


ゾンビ達の頭上から、大量のナイフが降り注ぐではないか!!


全てゾンビ達の頭上に落ち、彼らの脳や足を切り裂く。おかげで奴らは身動きを取れないでいる。


僕たちはそれを悠然と走りきる形になってしまった。


「……すごいわね…あんた」


「まぁな。黄鉄さんに鍛えてもらったらここまでにはなるさ」


驚いたフェンリルの言葉に、特に無感情のまま答える飛来。


はじめの頃に比べて随分クールになったと思う。こんなキャラだっただろうか?






「けっ!あんな数のゾンビ俺だって簡単に潰せたよ!!」


何やら上空の先輩が対抗心を燃やしていた。


まあ、初めて勝った相手であり、前回の対決ではボロ負けした相手だ。ライバル意識があるのだろう。


そんなときだった。向こうから何かが……飛んできたのは。


「先輩!!」


いち早く気づいた僕は先輩に知らせる。


その声に反応した先輩は前を見て敵の存在を知り、戦闘態勢に入る。


ゾンビじゃない。羽が……生えてる。あれは………コウモリ??


そう思った直後に、先輩とその敵の刃物がぶつかった。


綺麗な真紅の髪、長身で整った顔立ち黒のタキシードのような格好…まるで……


「吸血鬼のようだ…」


僕がそう呟いた瞬間、止まった先輩を置いて、僕たち三人は進んでしまった。


僕が呼んだ《タンク君》は、決めた目的地まで自動に進んでくれる。止まろうと思えば止まれるが…。


「先行くわよ。あの赤髪……相当やばそうだけど…晴嵐なら大丈夫」


「そうだな。俺と同じく黄鉄さんに歯向かったことのある男だ。負けることはない」


フェンリルと飛来は、何も心配してないようかのように先輩の方を一切見なかった。


彼らは僕以上に先輩のことを理解しているのだろう…と僕は悟った。


これが先輩と闘ったことのある者と無い者の差なのだろうか。







--------------------------------------------------------------------------------







「この間ぶりだなぁー!少年!!」


「あぁー!!ついに出やがったな!!このロリコン蝙蝠野郎!!」


俺は刀で奴の剣を受け止めて互いの顔をにらみ合いながら会話を交わす。


「どいてくれないかな??僕は彼女に愛を説きに行くんだ!!」


「どくかボケェ!てめェみたいなロリコン野郎に先輩の目を入れるのもおこがましい!」


「言ってくれる…!それに僕はロリコンではないよ?ただ純粋に寧々さんを寵愛したいと思っているだけだ」


「先輩を寵愛したいのは同感だが、てめぇにだけはやらせねぇよ……この蝙蝠野郎!!」


そうとだけ言って互いに羽を動かし、距離を取る。


目の前の男の姿は異様だった。真紅の剣に、蝙蝠の形をした真紅の羽。何か似ている。


「その燃え盛るような羽に、黄金に燃える剣…なるほど、面白い」


向こうも俺の姿を見て何か気がついたようだ。


「お互い…同じ土俵で闘えるんだ。存分に楽しもうじゃないか!!!」


意味深な言葉を放ちながら、襲いかかる赤井。


お互いに空を飛ぶ空中戦は初めてだ。


同じ土俵でこういうことか??


俺達の剣戟は続く。こいつ…強い!!


刹那や優よりも……上!?


「もらった!!」


隙を出してしまった俺は奴の剣で叩き切られてそのまま地面に突き落とされる。


「がはっ!!」


俺は一気に炎を放出させる。


傷は消え、全て炎へと変換される。


「ひゅー。面白いね、その能力……まるで不死鳥だ」


「そっちのてめぇはまるで吸血鬼みたいだぜ?」


俺は向こうに言われた言葉に返してやった。


「あぁ、よくわかったね。僕は《闇夜のサーカス団》の幹部。


 『演奏者』《赤》のコードネーム《ヴァンパイア》と名乗っている」


……幹部?


じゃあ俺達に攻めてきたあの軍団の親玉の一角だってのか!?


「そりゃ……強いんだろうなぁー」


「あぁ、僕は強いと自負するよ。君のところの僕の仲間ので幹部ケットシーと《トロル》が来てるだろう?


 彼らが《ピクシー》とやらを倒して、寧々さんを巻き込むと僕は告白できなくなる。心配だ…」


「……ははっ、そいつは面白いなぁー?」


俺は赤井の言葉に思わず笑ってしまった。


《ケットシー》と《トロル》っていうのは恐らく先輩と戦ってた二人組だろう。


「あんたが言ってる《ピクシー》が俺たちの先輩!黒金寧々なんだよ!!」


「っ!?」


「そしてなぁ!もう一個言ってやる!先輩は化物みてぇに強いぞ?


 てめぇも!その仲間の二人組にも……先輩は負けねえよ」






俺は、何よりも持った自信を目に浮かべ、赤井に言い放ってやった。


先輩…俺は貴方が負けるところが想像つきません。


二人が相手でも、先輩はいつものように凛々しく戦ってくれてますよね?







--------------------------------------------------------------------------------







「サンド!!」


巨大な岩と岩で《トロル》を挟み込む。


普通の人間ならこれで圧死されていてもおかしくない。


「……おで、身体…丈夫。あと……我慢強い」


岩が崩れた瓦礫から、《トロル》が這い出てくる。本当に化物か…!!


「にゃはは!ダイちゃんはねぇ!打たれ強いんだ!どれだけ人に蔑まれようが


 どれだけ人に叩かれようが、女の子に悲鳴を挙げられようが、強く生きてきたんだにゃ!!」


油断していると、いつもこの《ケットシー》が襲いかかってくる。


こいつの攻撃も素早くて対処するのが大変だ。


頑丈すぎる男と、素早すぎる女。この凸凹コンビが私の戦闘を狂わせる。


「結構な時間経ったにゃ」


「……そうだな」


「これだと何人消えたかにゃ??」


「………知らん」


二人が何やら会話をしている。


「…どういうことだ?消えたとはどういうことだ??」


「にゃにゃ??言ってなかったかにゃ?」


相手はどうやら私が既に知ってると勘違いしているようだが…何が起きている??


「今うちらの組織が《ピクシー》のビルに戦争を挑んでるにゃ。どれだけ消えたかと思ってにゃ♪」


「っ!?」


私は思わず驚いてしまった。


てっきり私に復讐するためにこの2人をけしかけたのだと思った。


「…そういうことか。実に彼らしい。私の……唯一の居場所の奪おうというのか……」


私は思わず俯いて言葉を漏らす。


《ピエロ》はとことん私を恨んでいるのだろうな…。


「だが…。私の仲間に手を出すのは許さないぞ!!!貴様ら!!!!」


私は怒り狂った。


私に恨みがあるのは仕方がない。


私から居場所を奪いたいのもわかる。


しかし、しかり!!それで私の愛する仲間…RBや晴嵐くん達にまで手を及ぼすのは許せない。


「にゃにゃ!ものすごいオーラにゃ…」


驚くケットシー。


私の回りには、無数の小石が宙に浮いていた。


「消えろ!!!」


その宙に浮かぶ小石達はまるで流星群のように二人に襲いかかる。


「………っ!!!」


トロルが何も言わずに強引にケットシーを抱きとめ、包み込むように守る。


私が飛ばす小石は、全てトロルの身体にぶつかる。


マシンガンを常に打たれているような状況下で、トロルはずっと耐えている。


「…悪いな。私は本気なのだ。貴様らは強い…また挑戦してこい」


私はまた巨大なゴーレムを生成し、そいつにトロルを殴らせる。






「だ、ダイちゃん…??」


ゴーレムの拳が壊れる。


それでもトロルはケットシーを抱きとめているままで、喋らない。


「……もう、ダメ…みたいだ」


ぼそっと聞こえるトロル。どうやら限界のようだ。


この長時間ずっと私の攻撃を盾変わりに喰らっていったんだ。


蘇生能力を持つ晴嵐くんでも恐らく耐えられない攻撃を私はやっていた。


《トロル》の姿が消えかかる。どうやらゲームオーバーのようだ。


「……悪い。宮子」


そういって、トロルは消えてしまった。




「さぁ、盾は消えた。貴様だけで闘うか?」


「…ミャーを舐めないほうがいいにゃ。ダイちゃんなしでも闘えるにゃ!!」


そういいながらケットシーはあたしに襲いかかる。


回避からの攻撃がスムーズでガードが追いつかない。


トロルの攻撃もあって、もう身体がボロボロだ。これ以上痛めつけられると危険だ。


「にゃにゃ!?」


ケットシーの足元を岩で固定させて、地面事宙に浮かせる。


「お前達は本当に強かった…。久々だ、こんな傷だらけになったのは…」


私はケットシーに賞賛の言葉を述べて、宙に浮いた彼女を地面に叩きつけた。






「………Win!」


放送が流れる。


これから戦争に参加するとしても、表舞台には立てないな…ボロボロだ。


まあ、残りは晴嵐くんたちがなんとかしてくれるだろう…。




そう思いながら私は、元の戦場に、転送された。





--------------------------------------------------------------------------------







「ピエロ様!」


「んー?どうしたの??」


「何者かがこの《闇夜のサーカス団》のビルに乗り込んできました!!」


「へぇー♪何人なんだい??」


「それが……一人です!!」


「そいつは面白いな♪誰でもいいから相手してきてよ」


「なら……我がいくとしよう。今夜は綺麗な漆黒の夜だ」


「うん♪頼んだよぉー♪♪」


ピエロがソファーで寝転ぶ横を通りすがる男。


ガシャガシャと五月蝿い音を立てて歩いている。何やら物騒な装飾品が多く付けられている。


彼はそのまま部屋を出て、ある場所へと向かっていった。






「さてっと♪『判決者』…《紫》のコードネーム《ファントム》と闘うのは誰かな??」


そういってピエロがモニターを見ている。






そこに写っているのは、バイクに乗った青年の姿だった。









--------------------------------------------------------------------------------







「はぁ…はぁ……」


「どこだぁ!?隠れても無駄だぞ《フレイヤ》さんよぉー!!」


私、メアリー・メディシアは物陰に隠れていた。


私の戦闘スタイルは裏切りスルトには聞かない。救助を呼ぶ暇もない。


息を殺して、じっと待つ…そうだ。狩羅さんに教わったとおりに逃げ切れば






「逃げるには目立った髪だよなぁ?《フレイヤ》さん♪」


「っ!?」


「やっと見つけたぜぇー、なぁに。本当に死ぬわけじゃねえんだ。おとなしく燃やされろ!!」


そう言って《スルト》は炎を放つ。


私はもうダメだと目を閉じてしまう。








「…What’s?」


思わず英語が出るぐらい、私は呆然とした。


「ど、どうなってやがる!!」


《スルト》の炎が…私の前で枝分かれして行くです!!






「悪いな。そこには透明な『壁』がありましたとさ…」


そんなとき、どこからから声がした。


卑怯者の声。小悪党の声。小心者の声。けれど……私にはこれ以上ない頼もしい声だった。






「てめぇ…!!」


「お前が裏切り者だっつうのは最初からわかってたぜ、《スルト》さんよぉー」


完全に悪人顔で舌舐めずりをする人。


「……狩羅さん!!」


「お前も戦争の要となる存在なんだ。ぼけっと裏切り者に襲われてんじぇねぇよメアリー」


そういいながら、私の目前に《スルト》から私を守るように立つ狩羅さん。




「さあ、裏切り者のクソ野郎さんよぉ…クソ野郎同士仲良く喧嘩しようぜ?」






こうして、私の狩羅さんと《スルト》の対決は始まった。





                     ☆







俺は、本当にただのクズだったんだ。


一般人に限りなく近いクズ。悪になりきれないくせに悪を気取って、回りの目を伺ってたのさ。


先輩に勧められてタバコもやった、万引きもやった…でも、なんも感じなかった。妙な罪悪感以外と


「あぁ……なんで俺はこんなクズ野郎に付き従ってんだろ…」と言う虚無感。


もちろんそんなことを言葉に出すことは出来なかった。ヘコヘコして従うのが俺の毎日だった。








「はぁ…てめぇらみてぇな不良になりきれてねぇクズが一番嫌いなんだよ…。クソがっ」


ある日、俺の先輩がとある男にぶつかって、偉そうに喧嘩を売っていた。


あぁーあ、向こうも強そうで怖そうなのに……この先輩は本当にクズだな。と思いながら見ていたら


案の定だった。俺の先輩も、その取り巻きも…全てたったひとりの男の喧嘩に負けたのだ。


彼の仲間はそれをヘラヘラと笑ってみていた。その男が負けることはないとどこかで思っていたのだろう。


俺は足が竦んで動かなかったと同時に、彼から目を離すことができなくなっていた。


「おめぇ…。ボスがやられてるんだぞ?俺に喧嘩挑まなくていいのか??」


男はそう聞いてきた。俺は落ち着くように大きく息を吸って…吐く。


「勝てないとわかった勝負はしない主義なんスよ。アンタにはこんな先輩じゃあ勝てない」


「なっ…!古田てめぇ!!」


倒れている先輩が、俺を睨んでいる。


俺はその先輩を蔑むように見下してやった。


「はっ!てめぇもよっぽどの悪人じゃねぇか……相当腹黒いだろ?」


「そんなことないっすよ?あ、あと俺…あんたに惚れやした。舎弟にしてください」


俺のいった言葉に、彼の仲間も、彼自身も大きく爆笑した。


「てめぇ…!よっぽど腹が黒いな!毒でも入ってんじゃねえか?いいぜぇ……面白そうじゃねえか」




それが俺と、狩羅さんの出会いだった。


彼はいつだって弱くて、狡くて、悪くて、卑しくて………最低で最高の人だった。


クズが尊敬するクズ…って言えばいいのだろうか?彼には他の奴らにはなかった『本質』があった。







--------------------------------------------------------------------------------





「おやおや、《蛇の毒》さんはこの程度なのですか?」


「あんた…何もんっすか??」


「私はただの科学者ですよ?ただ少しばかり強い舞台の幹部で狂っているだけだよ」


メガネを上げる男…《フランケン・シュタイン》。


こいつは確かにさっき言ったんだ。《蛇道狩羅》を始末するって…。


おかしい、これは本来オーディエンスと闇夜のサーカス団の戦いだろう?


それに回りの奴らの反応…。この《シュタイン》と言う男は恐らく幹部クラスの強さを持った実力者。


そんな奴がなぜ狩羅さんの名を出したんだ??


「………っ!!《狡知の神ロキ》!!!」


俺は思い出したかのように声を荒げた。


そうだ…ロキを表舞台で抹消させたのは狩羅さんじゃないか。


「マジシャンも中々面白いことを考える。


 オーディエンスに喧嘩を売れば必ずメアリー・メディシアが蛇道狩羅を巻き込む。


 だから《最高神オーディン》《豊穣の神フレイヤ》《蛇道狩羅》の三人を始末するのだと…復讐するのだと」


シュタインは俺に話してくれた。


ハナから狩羅さんは…この戦場の標的になってたってわけか。


「ならなおさら…おめぇには負けらんねえっすわ」


「ん?今私に負けそうになってる君がそんなことをいうのか?面白いな」


シュタインは失笑しながら言う。


やつは強い…と言うか、あの後ろの奴だ。


シュタインは《キメラ》と呼んでいた。あの化物。




「いけ!スライム!!!」


俺は足元にいるスライムをシュタインに向ける。


「…斬れ。キメラ」


突撃した俺のスライムは彼のキメラによって無残に切り刻まれる。


そのままキメラは俺に突進してきて、その凶暴な牙が俺の腹部をえぐる。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺は噛まれた傷口を手で抑えながら断末魔を上げる。


痛い!痛い!!こんなに痛いのは久々だ!!!


「ふっ…惨めなものだな。他人の下に付くというのは…。


 そうやって、他人のために傷を負って、苦しんで…報われない。なんのメリットがある」


「うっせぇよ……」


俺はシュタインの言う言葉に強がり半分で否定する。


「それに、マジシャンがあそこまで復讐心に燃えているその《蛇道狩羅》と言う男も私には理解できまい。


 あれにこの軍を呼んで潰す1つの標的にする価値があるとは思えない…。


 聞けばつい最近新人に負けたそうではないか。それで部下をほとんど失い、残ったのは


 君とフレイヤ、そして今あそこで暴れているヨルムンガルドだけと聞く。惨めでちっぽけな人間だ。


 フレイヤやヨルムンガルドに関しては消滅したあとの仲間だろう?実質彼を慕って残ったのは君だけだ」


倒れる俺の腹部を軽く蹴り、傷口を抉り出しながら無表情に語りかけてくるシュタイン。


俺はその痛みに断末魔を上げる。


「その君も…!今はこの有様だ……詳しくは知らぬがその蛇道狩羅と言う男はよほどちっぽけで


 無価値な人間なのだろう。仲間のマジシャンのこともあるから黙るが、不良は所詮はゴミ!


 極道なんぞ、世界のクズ共の巣窟ではないか!!そのようなものを慕う君たちの狂った頭が理解できない!」


俺は悔しくて、思わず地面の砂を強く握り締める。


「てめぇ…何もわかってねぇくせにほざくんじゃねぇぞ!!!!」


俺は睨んでやった。シュタインの奴を。


俺は知っている!狩羅さんの価値を。


あの人はいつだってそうだ。自分の事しか考えてないようで他人のことしか考えてない。


明智晴嵐に負けて、自分の部下が舐められて何かされるのを恐れて奴らをやめさせて


メアリーちゃんのいざこざに自ら首を突っ込んでいって、負けた相手なのにそいつの修行に付き合って…。






「なっ!?なんだこれは!?」


驚くシュタイン。


彼と俺がいる場所を円を囲うように、紫色の液体が9本噴出する。


「てめぇみてぇな傲慢クソ野郎に教えてやるよ…」


驚いているシュタインを睨みながら、俺は痛みを我慢しながら立ち上がる。


「狩羅さんの教訓その①………よっぽどのとき以外は何があっても本気出すな。


 相手がどんなに強い相手でも、本気を出すような条件がないなら負けを選べ。今がその《よっぽど》すよね?」




俺の顔を見て、シュタインが動揺している。


「き、キメラ!!」 


また怪物が俺の胴体めがけて飛び込んでくる。


奴の胴体は俺の身体を貫通させる……毒で作った俺のレプリカを。


「ぐらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


キメラは毒で焼けた身体に苦しんで悶えている。これで少しは動きを抑えられるだろう。


「くっ……!!」


「いいこと教えてやるよシュタイン。


 俺さ……あの極道の若頭である狩羅さんに《性格が悪い》ってよくいわれんすわ。


 狩羅さんは少々優しすぎる。外側が怖いのに……。だから内面が悪い俺っちと凸凹で相性がいいんすよ」


俺の言葉と同時に9本の毒水が姿を変える。


まるで蛇のようだ……。


「……毒式《八岐大蛇》。蛇舐めてっと………丸呑みにされちまうっすよ…緑のカエルさん♪♪」


俺の八岐大蛇はそのまま無防備なシュタインの身体を九つの口で飲み込んだ。





--------------------------------------------------------------------------------









「おいおい!助けにきたのに透明になってかくれんぼかよっ!つまんねぇなぁー!!!」


メアリーはなんとか逃がせたな。


さて……問題はここからだ。あのスルトってやつ…確かに厄介だ。


能力は晴嵐と同じく炎を纏う能力者だろう。


奴の場合炎を放っている…のほうが正しいか。


「そこっ!!!」


「っ!?」


俺は気づかれて慌てて逃げる。


俺のいた場所は無残に燃えてしまった…。


「俺はこう見えても経験豊富だからな!勘で場所はなんとなくわかるぞ!!」


確かに奴の勘はあたっている…。このまま逃げ続けてりゃあ確実にやられる。


そんなとき、携帯のバイブ音がなる。メアリーからだ。


「…あったか!?」


『はい!場所はB3です!!』


「……それだけわかれば十分だ!」


俺は透明化を解いてスルトの前に現れる。




「やっと隠れるのを辞めたかこのヘタレ野郎!!」


「はっ!隠れるのも一つの戦術って知らねえのか火事バカ野郎は??」


「…あぁ?俺に逆らうこともできねぇくせにいっちょまえな口叩いてんじゃねえぞ!!」


炎を放出するスルト、俺はそこで地面に寝そべる。


透明にしてあった柱が砕かれ、俺の頭上を奴の炎が通過する。


「っ!?なんだこれは…!!」


すると急にスルトが騒ぎ出す。


俺が透明にした蛇たちに噛まれたのだろう。


俺はやつに向かって一気に走り出し、飛び蹴りをかます。


勢いよく飛ぶスルト。俺も、奴の炎でズボンが燃えたので慌てて地面に転がってそれを消す。


「てめぇ……やりやがったな!!」


スルトがマジ切れの顔をしている。


こっちに向かってやつが走ってくる。このときを待ってた!!!!


俺は透明にしててやつには見えないスイッチを親指で押す。




その直後、奴が立っていた場所が崩れ去る。


「はぁ!?」


「残念♪そこは落とし穴でしたとさ…てめぇが近接戦闘になるのを待ってたぜ?」


俺がそう言った直後…スルトはそのまま下の階まで落下していく。


俺は穴を見下ろす。きっちりメアリーが準備していて置いてくれたみたいだ。


「あちぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!あぢぃ!あぢぃ!!!がぁぁぁぁぁ!!!!」


炎に燃えて苦しんでいるスルト。奴のいる場所にある液体は……熱した油だ。




「やっぱり、晴嵐で実験した通り、炎系能力者といえど自身の能力以外の炎は聞くか……」


「てめぇ!!狩羅ぁ!!ふざけんじゃねえぞぉぉぉぉぉ!!」


それでも炎の体制があるのか、俺を見て叫ぶスルト。


俺はポケットからとあるものを取り出す。……氷の入った袋だ。


「問題だァ。その熱した油に、この…炎で溶けるビニールに入った氷を突っ込むと…どうなるぅ??」


「て、てめぇ…しょ、正気かよ……」


「大丈夫…リアルで傷になんねぇよ…ただ……一生、火が見れなくなるかもなァ??」


そういって俺は奴のいる油鍋に氷を突っ込み、踵を返してそこから歩いて去る。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺の後ろの大きな穴から、スルトの断末魔が響き渡り、


その穴を塞ぐように、大きな火柱が、ビルの壁まで登っていた。










「狩羅さん!!」


「……油、準備してたな」


「はい!狩羅さんに言われた通りデス!!」


「上出来だな。さてっと、お前をまた安全な場所に移動させないとな…」


「その必要はありません!私を襲う者はもういないのデスから!!」


「あぁ?油断してるとまた……」






「その時は《小さな蛇の王様》が助けてくれるから大丈夫です♪」


「あぁ?誰のこと言ってんだぁ??」


「秘密でぇーっすよぉー」


「とにかく、俺はまた戦場に戻るぞ…」


「YES!怪我したら来てください!優先して治しますから!」


「阿呆、効率を考えてやれ、ここで情に任せた行動取ったら負ける原因になんだ」


「……すみませんデス」


なんか拗ねているメアリーを見ていると、不意に俺は彼女の頭に手を置いた。


「まあ、とにかく……もし怪我したらそんときゃ頼むわ」


「………はい!!」




そういって俺はメアリーと別れて、再び戦場へと戻った。







--------------------------------------------------------------------------------









「もうすぐで付きますよ」


僕、RBは一緒に来ている二人にそう言った。


「……行かなくていいのか?」


突然話をしだしたのは飛来さんだ。しかも相手はフェンリル。


「何が??」


「さっき倒した敵の中で、《オーディエンス》がどうとか言っていたぞ?」


「…………」


「気になってるなら行け。闘いに集中出来ない奴は帰って足手まといだ。


 車田に俺…それにこのガキがいれば大丈夫だ。早く行け」


「………ごめん!!」


そういうと、彼女は突如として姿を消した。


恐らくさっきまで僕らにスピードを合わせてくれていたのだろう。


彼女が本気でオーディエンス領に迎えば、ものの5分もあれば付くかもしれないな。




「さて、悪いな。面識の少ない俺と2人にしてしまって…」


「いえ、貴方が以外に良い人ってことだけはわかりましたよ……」






そういって、僕と飛来さんはついに…《闇夜のサーカス団》領へと向かう。





                    ☆








「飛来さん!ここからの説明をしていいですか!?」


「……なんだ?」


「僕たちがこれから止めるのは、僕たちの領にきたゾンビを出している犯人の討伐です。


 運がよければ敵の首領の討伐…。けれど僕と貴方が手を組んでも恐らく首領には勝てない」


「…心当たりがあるのか?」


「飛来さんは新人なので、知らないでしょうけれど『メルへニクス』と言う組織があったんですよ」


「あぁ、黄鉄さんから少し聞いている。《ピクシー》もそのメンバーだったとか…」


「なら、わかると思いますよ。《ピエロ》…元メルへニクスにいた奴です」


「っ!?」


「あの《ピクシー》が恐れるほどの存在です。僕ら2人が本気を出しても……」




「そうだよねぇー♪僕らの頭領は最強だもんねぇー♪♪」


「「っ!?」」


思わず走っていた《タンク君》が止まる。


既に敵陣地のビル街に入っている。そんなビルの上から、誰かが俺達に話しかけていた。


「ばばばばぁーん!!!《闇夜のサーカス団》幹部、《橙》カラーの《ジャックランタン》さんだよぉー??」


目の前にいたのはカボチャを被った…謎の少年だった。


「…あれ?」


僕は彼から逃げようとするも、タンク君が進まない。


さっきまでなかったはずのそこに……壁があるのだ。


「くっ!」


飛来さんが不意打ちのようにナイフを一本ジャックランタンに投げつける。


すると、ジャックランタンはナイフを通過すると同時に姿を消した。


「……残念ー♪僕は実は君たちの後ろにいました~」


その言葉を聞いて、飛来さんは振り返り様にナイフを投げる。


けれどまたジャックランタンの姿はふわふわと消えていく。


「にゃはっはっは!残念♪僕は……いっぱいいるんでしたぁー♪」


「「っ!?」」


本当、幻想的な光景だった。


カボチャを被ったジャックランタンが無数に縦横無尽に姿を現す。


「「「「「「さあ?どれが本物の僕かな??」」」」」


ハモりをきかせて話しかけてくるジャックランタン。




「……数いるほうが助かる」


「「「「「「…え?」」」」」」」


その瞬間だった。


飛来の言葉と同時にナイフの雨が降り注ぎ、一体一体のジャックランタンに突き進む。


「おいっ!そこの壁を気にせずに走れ!!俺のナイフが当たらないように調整してやる!走れ!!」


突然僕に怒鳴り散らしてくる飛来。か、壁を……走るのか…このナイフの雨の中を……。


(や、やるしかない!!)


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


僕は目を閉じて、その壁めがけて全力で走る。




「…あれ?」


少しして目を開けると、もうただのビル街だった。


ジャックランタンの姿もなければ、飛来の姿もない…誰もいない場所。


振り返るとそこには……ただの道しかなかった。


逆走してもう一度飛来のところにいけるか試したがそれも無理だった。


「…どういうことだ?これが…ジャックランタンの能力なのか?」


僕はそうも思いながらも、急いでその場から走る。


ゾンビ達が向かってくる方向に行けば、確実に千恵ちゃんに会える。


「出てきて!カリバーン!!」


「あいよ。呼んだか?小僧??」


「ちょっと頑張ってもらうよ!!」


僕はカリバーンを振り回し、走る。僕に立ちふさがるゾンビ達を次々と切りつけながら。







--------------------------------------------------------------------------------





「いやぁー♪驚いたよ~もしものときのために隠れてて正解だったね♪


 あの分身の中にいたら僕もうゲームオーバーだったもぉーん」


物陰から隠れていたジャックランタンが姿を現し、そのような言葉を口にする。


「それにしてもお兄さんすごいですよね!


 僕ビックリしちゃった♪今まで会った人の中でもトップクラスかもぉー♪」


「……口が過ぎるな。カボチャ野郎」


「にゃは♪それが僕なんだもーん♪仕方ないでしょ??んじゃ、バトりますか!!」


また複数に現れるカボチャ野郎。ったく…厄介な能力だ…。


「「「「さあさあ!次もまたナイフの雨降らすの??」」」」」


さっきの抵抗か、縦横無尽にいるジャックランタン達が動き回っている。


「いや……これだよ」


俺は、巨大な二つの剣を創りだす。


「…行くぞ」


俺は走り、目の前にいるカボチャ野郎達を次々と切り刻んでいく。


こいつ…幻術の癖にきっちりと血が出るように細工してやがる。気色悪い。




「さあさあ♪僕との戦闘で、僕を見つけれるかなぁー?」


これが本当の一騎当千だと思ったよ。


本当……気分が悪い。これがこいつの闘い方か!?


「……胸糞悪い」


「ひゃひゃひゃ!それが僕の闘い方だよぉー♪」




俺と、ジャックランタンの終わりなき闘いが始まる。


RB……俺はあいつをよく知らない。ただ、聖十字騎士団で、敵のボスと闘った奴の姿はしかと見た。


あれだけで俺が奴を信用しようとするには十分だ。あいつなら……ミッションをこなすだろう。


だから俺は…この胸糞悪いカボチャ野郎を…足止めするまでだ!!





--------------------------------------------------------------------------------









「…ついたか」


俺はバイクを止めて、あたりを見渡した。


これが…《闇夜のサーカス団》の領地か…っつっても、他のビルと変わりはないな…。


「ここに……アンの野郎がいるのか」


俺はだいぶ走り、このビル街の真ん中あたりにきた。真ん中にあるビルが、本領地になるからだ。


あと少し走れば本ビルがあるはずなんだが……。




「貴様か……。我が闇の結界に入り込んだのは?」


「あぁ?誰だ??てめぇ??」


俺の目の前に、奇妙な格好をした男が現れる。


「ふっ…貴様ほどのクズに名乗る名はない。我は幽鬼の死者。この世の闇を統べる者。


 人々が恐れおののく冥府の権化。………《ファントム》だ」


……えーっと、なんか俺の苦手なタイプにあった気がするぞ。


ってか名乗ってるよこいつ…いや、恐らく二つ名なんだろうけれど…。


「我はこの異空間《摩天楼》に生きる死人。生と死…陰と陽を司った者なり」


あぁーあれだ。こいつ……あれだ。


このスカイスクレイパーに関わった者はやはりそういう環境だから、


みんな少なからずマンガのような影響力を与える。まあ、ちょっとキャラになりきっちまうってやつだな。


まあ、それはいい。本当にマンガのような能力を手に入れているんだから。だけど……こいつは………。




「ほ、本物だぁー…」


俺はため息を含んだ声で言った。


本物の…中二病野郎だ……格好とか言ってる言葉でわかる。


「我、侵入者に判決を下す者。貴様はもちろん…有罪だ。死者が冥府に送り込んでやる」


そういって突撃してくるファントム。


ならこっちも奴の攻撃が来る前にバイクで撥ねてやる!!!


「…っ!?」


「ふっ、生者に我を捕らえることはできない」


今…何が起きた!?


俺が驚いているのも束の間、突然バイクが爆発して、俺は吹き飛ばされる。




地面に強く打たれて転がり、立ち上がる……あいつ…今、すり抜けた!?


俺はバイクで撥ねたはずだ。なのに…すり抜けていきやがった。


「さあ、有罪者よ。貴様を殺す算段は完成している。幽鬼なる支配者である我に身を捧げよ」




目の前の男、ファントムと俺、車田清五郎の闘いが……始まる。





--------------------------------------------------------------------------------







「…あ、いらっしゃい♪」


「うん。相変わらずだね、《ヴィヴィアン》」


「もぉーその名前で呼ばないでよ。私は引退したんだから」


喫茶店。


海の家と両立して開いている店で、一人の女性が店番をしていた。


そこに、一人の客が入り、ヴィヴィアンこと馬場園涼子と話している。




「っていうか、貴方は行ってないのね?」


「ん?どういうこと??」


「いやねぇー、今朝。あいつがきたのよ…ここに」


「あいつって……まさか!?」


「そう、黒沼遊太。あいつが私のところに来て嬉々として語るのよ…。


 【これから妖精狩りをするんだ。そして神話再現もする。……とっても楽しいことになると思わない?】って…」


コップを拭きながら淡々と語る涼子。


それを、水を飲みながら聞き入る男…双方真剣な顔になっていた。


「私、あんた達に何があったか詳しくないよ?でも……【妖精狩り】って聞いて、ピンと来たのよ。


 昨日ね?私の友達がここに遊びにきて、そこで意外な再会をしたのよ……誰だと思う??」


「……誰だったんだ?」


彼女の問いかけに、男は不思議そうに問いかけなおす。


「…私のライバルだった子よ。《ピクシー》ちゃん」


「っ!?ね、寧々ちゃんが…」


「あんたたちに何があったか知らないけど…【妖精狩り】の『妖精』って……《ピクシー》のことじゃないの?」


男は、それを聞いて驚愕としたと同時に、合点がいった。


黒沼遊太…《ピエロ》は特に《ピクシー》を恨んでいる。


「あんたは…どうすんのよ。太陽…」


「…………。」


男は、黙ったままうつむいた。


「…涼子さん。ごめん、水だけだから勘定はいいよね?」


そういって男は携帯を取り出す。


「…いいけど、どういう意味で行くの??」


「……貴方が思ってる方で合ってると思う」


「…そう。解決したら、また歌きかせてよね」


「わかったよ」


そういって、男は携帯のある場所を押して、そのまま姿を消した。








彼は、ただ風のように流されていた。


あの事件が起きたとき、誰も彼女を擁護しようとはしなかった。


彼は彼女を憎んではいなかった。けれど…擁護しなかった。ただただ流れに任せて、口に出さなかった。


バラバラになったメルへニクス。もしかしたら自分が皆を説得していたら未来は変わっていたかもしれない。


自分がいつものように、謡い、語っていれば、こんな未来にはならなかったかもしれない。


彼はいつもそればかりを考え、後悔していた。


今、自らが変えれずに、生み出してしまった溝が、ついに行動に出てしまった。






「ごめん寧々ちゃん…もう遅いかもしれないけれど……。


 僕は罪滅ぼしをしようと思う。そして……そのあと、僕は君に謝りに行こうと思う」


男はそういって、閑散としたビル街に、一人立つ。




爽やかな顔に、透き通るような声で、その言葉を誓いに立てる。


「僕はもう一度……謳ってみせよう。この戦場で」


そう言い、戦場の謡いイソップは、一人《闇夜のサーカス団》と言う舞台に降り立つ。







--------------------------------------------------------------------------------







「……見つけたよ。千恵ちゃん」


「……お、お姉…ちゃん?」




混沌とした影の中から、ゾンビたちがうようよと出てくる。


そして、僕の目を見て、見当違いの言葉を言った千恵ちゃんの目は…狂っているように死んでいた。




「僕が……君を止めて見せるからね」


そういって、僕…聖孝明は、目の前の千恵ちゃんと対峙する。





                    ☆









「さあ、有罪者よ。貴様を殺す算段は完成している。幽鬼なる支配者である我に身を捧げよ」


目の前の男、《ファントム》がそう俺に言ってくる。


俺のバイクが……粉々になっちまった…。


「ゆるせねぇー…!!!!」


俺はやつに向かって走る。


この手袋にある印を直接あの中二病野郎に叩きつけてやる!!!






「無駄だと言っているのがわからんのか?」


「ッ!?」


まただ。俺の身体は、完全に奴の身体をすり抜けた。


「背中ががら空きだぞ?人間??」


慌てて振り返った俺は、間に合わず《ファントム》の持つ巨大な剣で殴られる。


剣のような形状だが、切れ味はほとんどない。鈍器も同じだ。


「ふッ……我が魔剣バルムンクの威力はどうだ??」


「カッ!ただの剣の模型じゃねぇかふざけやがって!!!!」


今度は床だ。奴が何かの能力者なのはわかっている!


爆炎を起こして不意打ちにしてやればきっと!!!




土煙が広がる中、俺はファントムを見つけて攻撃に映る。


奴の背中は完全に取った!奴もまだ気づいていない!!これはもらった!!!


「ッ!?」


「ふっ…気配を消すのに長けているな人間。ついさっきまで気づかなかったぞ?」


まただ。何が起こっていやがる!?


ファントムが剣を振り下ろしている。俺は慌てて身体を前転させてその攻撃から避ける。


「はぁ…はぁ……」


「我、《闇夜のサーカス団》幹部。幽鬼の支配者ファントムなるぞ?貴様のような雑種に負けん」


コスプレ衣装のような格好も相まって、このファントムと言う男…すごい威圧感を感じる。


闇夜のサーカス団の幹部は七つに分かれているって言ってたな…。


こいつがその一人……つまりこのビルではTOP10入りしているような強者ってこと。合点が行くぜ。




俺みたいな自分のビルでもTOP10入りしていないようなルーキーには荷が重い敵ってことか……。


「あいつも……こんぐらい強いのかぁ…」


俺はぼそっと、呟く。彼女の顔を思い浮かべながら。


「おいっ!幽鬼の支配者とやら!!」


「ん?なんだ??そろそろおとなしく我に判決を下される覚悟ができたか??」


「……死神…《グリムリッパー》は知ってるよなぁ?」


「………貴様。彼奴に何用だ?」


「俺はあいつに話があってきた!!奴は今どこにいる!!!!」


「…彼奴は我らがリーダー。《ピエロ》の所有物だ。我らが手を出させると思うなよ…!!!」


そういってファントムは俺にめがけて攻撃を仕掛けてくる。


俺はなんとか身を翻してこれを避け、隙を見つけて掌底を放つ。


しかしまたこれはファントムによけられる。おかしい……。


ファントムが剣を振り下ろす。ここしかない!!!


俺は逃げず、あえてファントムのふところに入る。


そして剣を振るう腕を掴んで見る。一瞬だけど………掴めた!!


その瞬間、また一瞬で何もなくなったかのような心境になり、掴んでいた俺の手は空気をつかみ、


力は行き先を失い、俺の足元を狂わせてしまい、俺は思わず前のめりにつまずきそうになる。


「……よしっ!」


「何がよしだ?たかが私の腕を掴んだぐらいで…」


ファントムはまた俺に攻撃を仕掛けてくる。


「いまだっ!!」


俺は一気に身を低くする。


その直後、ファントムの身体がいきなり爆発した。


爆風が広がり、土煙があたりを包み込む。


一瞬掴めたときに……印をつけることができた。


今の爆発…奴が攻撃をし始めたとき…。


どういう原理かわからないが、奴は身体を透き通らすことが出来るらしい。


だが、攻撃のときは別だ。実体化させないと、俺に攻撃できない。


俺に攻撃しようとしたときだけ、奴は姿を現す。そのときに爆発させれば……。








「中々に良い戦略だな。確かに今のは危なかった……」


「っ!?」


俺は距離をとって、遠くからファントムの様子をうかがろうとした。


しかし、俺の目に映った光景は思った以上に驚愕するものだった。


奴が………無傷なのだ。まったく…ひとつもダメージを負っていない。


「気に入った。貴様……名をなんという?」


ファントムが上から目線で俺に問いかけてくる。


「…車田、清五郎だ……。気に入ったついでに!《グリムリッパー》の居場所を教えろ!!」


「……ふむ、それもいいだろう。私が教えたとて、グリムリッパー本人にもピエロにも迷惑はかかるまい」


そういってファントムは、一歩…また一歩と俺に近づいてくる。




「彼奴の居場所は……ここだ。奴は使命を与えられぬ限りここに留まる。


 ピエロと共に、このビル街の中央ビルで待っているだろう。用があるならこの道で正しい」


それを聞いて、俺は少しほっとした。


この情報がデマかもしれないけれど、それでも俺には貴重な情報だった。


「しかし、もちろん我を倒さなければ意味がないがなっ!!」


そういってファントムは俺に襲いかかってくる。


俺はやつに迎え撃つために攻撃を仕掛ける。


「………消えた?」


「…後ろだ」


「っ!?」


俺は避けることができずに、また剣のような鈍器でぶっ飛ばされる。


「がはっ!」


「ほら、血など吐いてる暇はないぞ??」


「っ!?」


俺がぶっ飛ばされた先に、既にファントムがいた。


倒れている俺を思いっきり蹴り飛ばす。硬いブーツを履いている奴の蹴りは想像以上に苦痛が走る。


俺は転がると同時に、立ち上がり、持っているポーチから丸い塊を出して地面に叩きつける。


少量の爆弾だ!!爆発と同時に土煙を起こして視界をくらませる。


(くそっ!どうなってやがる?あいつはスピード系の能力者なのか?


 あの消えたりした能力も、スピードが早すぎた故の残像??


 いや、違う!スピード能力ならこんなチンケな戦闘スタイルはしねぇはずだ)


俺は様々な案を頭で巡らす。


何もわからない今のままじゃあ、ファントムには絶対に勝てない。


攻撃は効かない。空は飛べる。おまけに瞬間移動までできちまう……そんな能力に勝てるわけがない。




土煙が徐々に消える。


俺を隠してくれたものも消えてしまい、ファントムが鋭い眼光でこちらを睨んでいた。


俺はバックステップで距離を取り、爆弾を放り投げる。


出てくる土煙、しかしそれを払い除けてファントムはこちらにものすごいスピードで迫ってくる。


「がはっ!!」


思いっきり腹部に硬い拳がぶつかる。


我慢できず、思わず血を吐き出し、倒れる。


このままではとどめを刺されると思って俺は身体を転がし、その場から急いで移動する。


現に俺のいた場所には、ファントムの魔剣が突き刺さっていた。行動が遅けれど串刺しだった…。


「くそっ!!」


俺はまた爆弾を投げる。


もちろんファントムには効くはずもない。奴に当たると思っていた爆弾はそのまま通り過ぎ


ビル近くの地面に落ちて爆発する。そんなときだった。


こちらに向かってきていたファントムが突然足を止める。いや……止めさせられた?


まるで何かにつまづきそうになったというか……一瞬足がぐらついた??


何事もなかったかのようにこっちに来るファントム。すると突然姿を消す。


「後ろにいるパターンの奴だろ!!」


俺は振り返って爆弾を構える。


確かにいた。しかし俺の攻撃はまたも奴の身体をすり抜け、奴は姿を消す。


「速い対応だが、我には効かん!」


そう言葉を残してまた俺を魔剣で叩きつける。


「ぐはっ!!」


「貴様も…我に裁かれるのだ」


完全にチェックメイトをかけられた。


俺は足で踏んづけられ、剣を頭上に置かれている。


「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


俺は叫びながら、一つの爆弾を上空に放りなげる。


「ふっ、無駄な足掻きを!!」


そう言って剣を俺の頭に叩きつけようとしたファントムの攻撃を避ける。


しかし、足で身体を押さえつけられているから、逃げることはできない。


「悪あがきもここまでだ…」


またファントムが剣を上げる。




そのときだった。


どどどどどど!!と地震が起きたのは。


「な、なんだ!?」


ファントムの足元がぐらつく、しかも動きが何やら変だ。……俺は確信した。


俺は奴の足が離れた瞬間に逃げて立ち上がり、土煙を起こすように地面に爆弾を投げつける。


「なっ!貴様!!!」


ファントムは俺を必死になって探す。


俺は奴にバレても構わないと必死に走る。ある一点に!!!!






「そぉぉぉぉぉぉぉこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


俺は走って、潰れたバイクからハンマーを取り出し、思いっきり力の込めてある場所に攻撃をする。






そう……このエリアにあるビルの一つに!!!


ビルに思いっきり叩きつけられたハンマーは、そのビルに大きな大きな印を刻み込む。


俺はハンマーを捨てて、思いっきりそのビルから離れるように逃げる。


「貴様!!何を考えている!!!」


「はっ!!ここら一帯のビルを…全部爆破してやるのさ!!!」


「っ!?貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ファントムは気づかれた!?というような表情をし


必死の形相で俺に向かってくる。俺は土煙を起こして奴の視界を攪乱させる。


逃げろ。とにかく逃げろ!爆発に巻き込まれて俺までおじゃんになったらたまったもんじゃねぇ!!


俺は最後に頭を伏せて、地面に飛び込む。




それと同時に、俺がハンマーで叩きつけたビルが大爆発。その近くのビルもまとめて破壊された。


「貴様ぁぁぁ!!倒す!!我がこの手で裁きを下してやる!!!!」


伏せていたところをファントムに見つかる。しまった!!!


ファントムの攻撃が、俺を襲う。ここで刺されたら俺は確実に負ける!!




奴の剣が俺の背中を突き刺すその一瞬………何も起こらなかった。


「……どうやら…間に合ったようだな」


俺はふぅーとため息を吐き、立ち上がる。


辺り一帯が瓦礫だらけの廃墟と化してしまった。


そこにファントムの姿はもちろんない。


「てめぇの能力は…俺の予想だと《霊体化》することだったんだろうな。


 恐らくてめぇの本体はあのビルの中のどこかにいたはずだ。霊体を好きなときに実態化出来る能力。


 俺の読みはどうやら正しかったようだな………」


俺はその辺の瓦礫に座りこむ。ダメだ…傷だらけだ。


こんな状態でアンに会いにいくのは……無謀だな。


「でも…やるしかねぇよな」


俺は呟いて決意を新たにする。




こうして、俺と…幽鬼の支配者ファントムとの闘いは終わった。







--------------------------------------------------------------------------------







「はぁ…はぁ……はぁ………」


「ヴァルキリー様!こちらの兵力がほぼ奴に…」


「わかっている。私が頼りないばかりに…」




傷だらけの女性。ヴァルキリー。


彼女が見上げるのは、まるでゴジラのような巨大な化物だった。


これが元々人間だと思うと、本当に信じられない光景である。




葵龍二…現在は《蛇》と呼ばれる組織に所属している《ヨルムンガルド》の二つ名を持つ少年だ。


元々能力そのものに才能はあった。けれど……暴走して、しかも…ここまでの強さを発揮するなんて…


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


巨大な龍の咆哮が響き渡る。


そして龍の瞳孔が確実に…彼女を捕らえた。




ほとんど満身創痍のヴァルキリーは、襲いかかるヨルムンガルドの攻撃を避ける気力はなかった。


もう、終わりなんだな……と自身に悟りを開きだしていた。






「…え?」


そんなときだった。ヨルムンガルドが突然ぐねりと身体を拗らせ、苦痛の声をあげだしたのは。




「おいおい、ヴァルキリー。戦闘隊長がどうした?そのざまはぁ??」


「………貴方はっ!!!!」


「それに…ジジイをやろうとしてんのは…てめぇか?龍二??」


男は、突然現れて、ヨルムンガルドを睨みつける。


ヨルムンガルドはその男を睨みつけて、軽く威嚇の声を上げた。




「…なんだ、まだ戦えそうな面してんじゃねぇか」


「……すみません。貴方が来てくれて正気に戻りました。《トール》。オーディン様は…私が守ります」


「それで?なんで龍二があんなんなってんだ?」


「…私にもわかりません。何者かに操られているのかも…」


「そうかぁー。まあ、いっちょ……派手にやるか」




そういうと、トールの腕から黄色い電撃が、ビリビリっと走りだす。






彼は、オーディエンス最強の男。


最高神オーディンも強いが、歳老いた今は隠居している。


そんな彼が最も認め、最も信頼を置く男が……彼なのだ。




彼はまるで雷のような男だ。


現れたら最後、オーディンに逆らう者を落雷のように鉄槌を下す。






オーディエンスの者たちは、皆口を揃えて尊敬の眼差しで彼をこう呼ぶ。


《オーディンの番犬。雷神トール》と―――――――――――――――――――。






                     ☆











「もっとだ!くたばんじゃねえぞ!てめぇらのリーダー守るんだろ!!」


戦場。


敵兵数は1000を超える。対してこちらは…100といない。


奴らのほとんどが、さまよい攻撃してくるだけのゾンビだとしても、戦況は不利だ。


俺は《フランケン・シュタイン》を倒したその身体でみんなに指揮をとっていた。


よそ者の俺の指示を聞いてくれる辺り、オーディエンスの戦士たちは従順で素晴らしい。






「…ろ、ロキ様……!!」


「消えろ。クズが!!」


そんなとき、どこかから悲鳴が聞こえる。


戦場にいた俺たち全員が、その悲鳴の先を見つめる。………そこにいたのは…。


「…ロキ!!!!」


「お前は…《蛇の毒》か。面白い。ここいらの奴らは全員排除してくれる」


そういってロキは、右手からは輝く光を左手には混沌とした闇を纏わせる。


俺はもう指示することしかできないぐらい体力がない。スライムを呼ぶのも不可能だ…。




俺にはもう…何もできない。


賢い奴らは、ここでロキを倒そうとして闘い、勝つんだ。


でも………。


「蛇は決してカッコイイ動物ではない…。ですよね、狩羅さん」


俺は小さな声で呟く。


不良の癖にどこか謙遜的で、その癖お人好しな…あの人を浮かべる。


「みんな!!目の前にいるのはあのロキ!!お前らのボスを倒そうとしてる奴だ!!


 ここにいる奴らじゃあ勝てない!!だから………時間稼ぐっすよ!!!!!」


俺の言葉に叱咤されたオーディエンスの戦士たちが雄叫びを上げてロキに挑む。






戦士たち全員満身創痍だ。ゾンビたちもうようよいる。


ロキの登場で敵の兵も勢いづいてきた。絶対に勝てない。確実に負ける。時間稼ぎもできないかも。


散ることにカッコイイもくそもない。あんたのよく言ってた言葉っすよね…狩羅さん。






だから俺は……カッコ悪く散ってみようと思います。







--------------------------------------------------------------------------------











「そうか……古田が…」


「あぁ、《蛇の毒》は闇夜のサーカス団幹部フランケン・シュタインを倒した後


 俺たちに加勢してくれたんですけれど……ロキが現れて……」


「ッ!?」


俺が前線に出ようと赴いたそこは既に焼け野原と化していて、人は少なかった。


そこにいた傷だらけの奴を見つけ、かろうじて意識があり、話を聞く。


どうやらこの場で……古田の奴がやられたらしい。狡智の神ロキに……。


「…ロキの野郎はどうした?」


「どうやら、敵の殲滅だけが目的だったらしくて、《蛇の毒》たちをやったら戻っていったよ」


その行動に何やら疑問を浮かべる。


幹部シュタイン・こいつにオーディンのジジイを倒させようとしていたのか?


だったらシュタインがやられたのを知って自分から行くんじゃ……なぜ…。


「お前。」


「な、なんだよ…」


「早く戻ってメア…じゃねぇな。豊穣の神フレイヤにでもその傷治してもらえ。


 そしてこれをビルにいる奴らに伝えろ…『オーディンを狙ってる隠し球がいる』ってな…」


「か、隠し球?」


「あぁ、ロキが下がるってことは、自分がしなくてもオーディンを始末出来ると思うやつがいるんだろ。


 だから、それを伝えて、警戒させておいてくれ…」


「わ、わかった!!あ、あんたはどうすんだよ」


「………ちょっと用が出来た」




そう言い捨てて、俺はその男の元を離れる。


一歩、また一歩と歩みを進める。ゾンビがのそのそと俺の前に来るが


俺が歩くときには全員倒れている。透明にしている蛇どもがゾンビの足を潰してくれるからだ。


「……ふざけた真似してんじゃねぇぞ!!!」


俺は憤怒を感情を隠し通すこともなく、思わず言葉を漏らしてしまった。




俺は不良になりきれてねぇクズが嫌いだ…。


だが……不良でもないクズってのが一番だいっきらいだ!







--------------------------------------------------------------------------------









「おぅら!!」


「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「……いざ!!」




オーディエンス領。


傷を負い、その場にただ立ち尽くすだけの男たちは、目の前の光景に目を疑った。


まるで少年マンガを見ているように、縦横無尽に飛び回るオーディエンス最強の男、トール。


その手から放たれる掌底はこれまた化物のような姿に変身したヨルムンガルドの身体をねじらせる。


あんな化物と互角に渡り歩いているというだけでトールが本当にすごいと思う。


さらに、既に傷だらけのヴァルキリー。彼女も、隙を見てヨルムンガルドに攻撃を与える。




男たちは今……オーディエンス最強勢力の闘いを目の当たりにしているのだ。


二大最強『トール』と『ヴァルキリー』


ヴァルキリーは羽を生やし空を飛んでいる。彼女の能力は羽を生やすこと。


本当にオーソドックスな能力だ。他にも持っている者は何人も知っている。


しかし、その羽の種類はすごい。彼女の羽は8つ…まさに本物の『天使』のようなのだ。






「ガァッ!!」


ヨルムンガルドの尻尾がトールを弾き飛ばす。


それを隙有りと見たヴァルキリーはその細長い剣でヨルムンガルドの目を突き刺す。


「ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


悲鳴という咆哮を上げるヨルムンガルド。


「ナイスだヴァルキリー!!!」


そういいながら走ってヨルムンガルドに迫るトール。


右腕をひいて、掌底の構えに入る。その手はビリビリと電気が走っていた。


そのまま飛び、ヨルムンガルドの腹部めがけて放つ。


「グァァ!!」


痛みで痙攣するヨルムンガルドは怒りに身を任せるように暴れ廻る。


その大きな身体は地震を起こし、


彼の攻撃を避けきれないヴァルキリーとトールはぶっ飛ばされてビル壁に当たる。


「グァァァァァァァァァァァァ!!!!」


まるで「まだまだ闘えるぞ」と言いたげな雄叫びを上げるヨルムンガルド。


すると今度は何やら大きく息を吸い始める。全員その行動に警戒心を強める。








そしてヨルムンガルド何かを思いっきり吐き出す。紫色の……霧。


「うっ……!」


「お、おい!!大丈夫か!?」


「っ!?みんな!!出来る限りこれを吸わないで!!!」


叫ぶヴァルキリー。苦しむ人々。そう……これは毒だ。


「なるほどな…。伝説上のヨルムンガルドも毒があったもんなぁ…」


トールがそう呟きながら、立ち上がる。


「ヴァルキリー!!こうなったら徹底的に効く一発ぶつけて終わらせんぞ!!時間稼げ!!」


「了解しました。」


そういってヴァルキリーは単身ヨルムンガルドに挑む。


ヨルムンガルドはまた毒霧を吐こうとしてくる。ここからじゃあよけれない!!




「「「「「「どっせいっ!!!!!」」」」」」


「っ!?」


突然、ヨルムンガルドの頭部がガクっと歪む、複数のオーディエンス兵士が一斉に顎に攻撃を仕掛けたのだ。


放たれた毒ガスは明後日の咆哮に行き、ヴァルキリーは直撃を免れ、ヨルムンガルドの喉を攻撃する。


「ヴァルキリーさん!!俺らも手伝います!!」


毒を吸って苦しんでいる辛そうな表情で彼らは叫んだ。


各々、自分の能力を最大限に使い、ヨルムンガルドを攻撃する。


こんな大人数相手でもまだ闘えるなんて…本物の化物だ。


向こうも蓄積されたダメージで苦しんでいるようだが、尻尾をひとふりすれば、兵士たちは倒れ、消滅する。






それでも人々は闘う。


その化物と、化物ヨルムンガルド『葵龍二』を止めるために。




暴れ廻るヨルムンガルド、兵士たちは毒に犯され、叩き潰されて、消滅する。


「……負けられない。貴方に…オーディン様をやらせはしない!!」


ボロボロのヴァルキリー。たくさんいた兵士の数ももはや数えるほどしかいない。




「そうだ……俺らのジジイに手を出すってのが……どういうことがわかってんのか龍二!!」


そんなときだった。


トールが高らかにジャンプして、ヨルムンガルドの頭上から現れる。どうやら充電完了のようだ。


トールの右腕はもはや見えないほどに光輝き、まるでその手に本物の巨大な雷を持っているようだった。


「みんな!ヨルムンガルドを抑えて!!」


ヴァルキリーの命令で、みんな必死に攻撃をして、ヨルムンガルドが動けないようにする。




自分が動けないと理解したヨルムンガルドは上空にいるトールを見上げ、息を吸い込む。


そしてその毒を一気に吐き出す。直撃するトール。けれどここで止まるわけには行かなかった。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


毒を潜って、ヨルムンガルドの口内に入り込むトール。


「ニョルミル・サンダーァァァァァァァ!!!!!」


ヨルムンガルドの口内の隙間から、綺麗な光が放たれた。


ヨルムンガルドは身体を痙攣させ、身体中が焼けるようになる。






そして、龍の姿がまるで燃えかすのように消え去り、その中から倒れている葵龍二と、膝を付くトールの姿。


「「「「「や、やったぁぁぁぁぁあー!!!!」」」」」


その場に生き残った人々はみな歓喜の声を上げた。




「おいおい…あんだけの電撃喰らわせたのに、気絶するだけで消滅しねぇのか…こいつは……」


トールは倒れて気を失っている龍二の姿を見て、呆れた声を漏らした。


その後、彼はフラァーっと地面に倒れる。それに歓喜の声を上げていたみなも沈黙とし、トールを見た。


「と、トールさん!あんた毒にやられすぎたんですよ!あんな直接!!」


「いいんだよ……。北欧神話でも、ヨルムンガルドとトールは相討ちで終わるんだ。


 それよりも……ヴァルキリー。てめぇは大丈夫そうだな。フレイヤのとこ行って治しとけ。


 スルトの裏切り、ヨルムンガルドの暴走、死者の軍団、そしてロキ……。


 奴の考え方、いや……この戦争そのものが『ラグナロク』そのものだ…。忠実に再現してやがる。


 だとすれば……ジジイが危ない」


「っ!?」


ヴァルキリーはそれを聞いて、立ち上がって走ろうとしたが、身体が痛み動けなかった。


「とにかく…ジジイは任せたぞ」


そういって、トールはその姿を消滅させた。







--------------------------------------------------------------------------------







「やっと到着だぜぇ~爺さん」


「…主は何者じゃ」


「あァ?俺かい??俺の名は《ガルム》…フェンリルの代理で……ラグナロクを遂行するもんだ!!!」


そう言ってすぐ、彼はその高速移動でオーディンに襲いかかる。




しかし、そのときだった。オーディンがその攻撃を避けたのは…。


「へぇ…ロキさんが《スピード》能力者にしか倒せないって言ってたのはそういうことか……」


「主の攻撃、『視え』ておるぞ」


「……おもしれぇ!そんなヨボヨボの身体でいつまでよけれるかなっ!!」




そういってガルムはさらにオーディンに攻撃を仕掛ける。


しかし、急にどこかから来た何かが、彼の攻撃を弾いた。


「なん…だとっ!?」


「あんたがこの辺りの地形詳しくなくてよかったわ…。随分と時間かかったのね…。おかげで追いつけた」


オーディンとガルムの間に入って、オーディンの盾となり


ただガルムを見つめる……一匹の狼の姿がそこにあった。












「……おやおや、貴方からわざわざ来てくれるとは光栄ですね」


「あぁ、元々これもお前の筋書きだろ?お前の考えでは俺は…《光の神ヘイムダル》の立ち位置かぁ?」


「ご名答。でも、僕は君と相討ちになるつもりは毛頭ないよ」


「あぁ…こっちだって一緒だ。光の神?そんな立ち位置死んでも嫌だ。


 俺は……蛇。汚ねぇドブで生きて、汚ねぇ毒を体内に持つ蛇だ。………仲間をよくもやってくれたな」


最後の言葉は、いつもよりもドスの聞いた声で放たれた。瞳には怒りの感情が見える。


「仲間?あぁ、《蛇の毒》か…。不愉快だったから消した。それだけだ」










「「てめぇ(あんた)だけは、絶対にぶっ倒す!!!」」


葵刹那と、蛇道狩羅。


演目ラグナロクの最終決戦を彩る二つの劇が今……幕を上げる。





はい!ってなわけで今回活躍したのは

狩羅、RB、寧々、車田、古田、トールさんですかね?


まだメインのラスボス達が残ってますねw

そいつらとの闘いとエンディングは後編でお送りいたします^^


なのでどうかお楽しみいただくと幸いです♪

感想よかったらお願いします!!><


あ、後。忙しくてお気に入りの皆様の小説読めてない^^;

今度まとめて読まさせていただきます♪


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ