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第4章~闇夜のラグナロク~前編

季節は夏休み。


海を満喫しに行ったメルヘニクス御一行。

そこで出会ったのはRBのよく知る女性だった。

同時刻。車田清五郎はバイクを走らせ、夜の月をバックに風を感じる。

そんなとき…一人の女性と出会う。彼女とレースをする車田だがッ!?


そして動き出す復讐者。

彼がもたらした力はとんでもない『戦争』へと導いていくのだった。

その戦争という玉の上を踊る道化師の陰謀はッ!?


超能力を持った少年少女によるバトルアクション!!

壮大で、過去最多のバトル、キャラクターで繰り広げる第4章!ついに開幕!







「っしゃぁッ!ついにゲットだぜぇー!!強制戦闘権!!」

俺はこの日、ついに!ついに感激すべき出来事が起きた。

この日のために、先輩たちが入ってこない日も頻繁にバトルに参加し

あの手この手で無茶をして、時には身体を壊して、狩羅にしごかれて、メアリーさんに治されて・・・。

「ついにゲットだぁー!!!」

「先輩…五月蝿いです」

場所は、俺の家。

なぜか知らないが、この休みの間頻繁にRBが俺の家に遊びに来る。

そして少し遅れて先輩も着て、俺の家でゆっくりしていくのが定番となっている。

「まあまあRB。少しは許してやれ。とりあえず…おめでとう、晴嵐くん」

なぜか不機嫌なRBを他所に先輩は俺を賞賛してくれる。

あぁ……この一言…この一言が欲しかったわけですよ俺は。

「なんで…先輩が先に……」

あ、そういうことか。

どうやらRBは俺に先にこの権利を取られたのが少々悔しいみたいだ。

「お前の能力的に、闘う相手を選ぶからな。例えば刹那が相手ならほぼ勝ち目がない」

「そういうものなんですか?」

「あぁ、晴嵐くん。君はカテゴリ化するなら『超人型』に値する。

 車田や刹那もそれに属するな。車田は能力ゆえか、人より爆破耐性があるようだしな。

 しかし、そうだな…私や狩羅、RBは能力を付属させているだけのものだからな。

 能力を除けばただの人も同然。RBは闘えるタイプの人間ではないし、能力もこれだからな。

 仮に召還しようとした直後に刹那の光速移動で来られたら、太刀打ち出来まい」

先輩の言葉を聞いて、少し下唇を噛む。やはりその辺悔しいのは隠し切れないのだろう。

「そのために僕は《伊賀甲賀》を召還契約したんですけど、フェンリル相手ではそれもまだ難しそうですね」

RBもそれなりに努力しているらしい。伊賀甲賀って…あれか?狩羅戦のときも兄貴のときも使ってた忍者か?

俺はとにかく談話をしたあと、携帯のスカイスクレイパー転送アイコンにカーソルを向ける。

「ん?戦いに行くのか?」

「はい。せっかく強制戦闘権を手に入れたので、ちょっと戦いたい奴がいまして…」

「ほぉー、私たちではないとして…刹那にリベンジか?それとも車田か??」

「どっちでもないっすよ。ほとんど仲間みたいなもんですし、合宿で軽くいなくなることも報告ついでにね」

そういって俺は先輩とRBにゆっくりくつろいでおいてくれと言ってそのままスカイスクレイパーに向かった。




--------------------------------------------------------------------------------





【強制戦闘権を使用しますか?】

このビルには、簡易的な受付のようなものがある。

ここでポイントを使って、強制戦闘を行う手順を行うのだ。

俺は、初めての経験に少しドキドキしながら、受付を済ませる。



「さてっと、じゃ…行くか!」

そういって俺は戦場に赴く。




「……お、強制戦闘権で俺みたいな無名選手を指定してくれるなんてどんな酔狂な奴かと思えばお前か」

俺の目の前に現れたのはジャージ姿の爽やかな少年。身長は170cmほどだろうか?俺と似たような身長だ。

名前は知らない。というか教えてくれないのだ。

『俺は初めてまだ未熟だ。プライベートを露見するのは危険だろ?だから2つ名が出来るまで好きに呼んでくれ』

そういっていた目の前の男とは俺とは違う学校のサッカー部なんだが

偶然俺のバスケのプレーを見ていたらしく、それ以来俺のことを気に入ってくれていたらしい。

サッカーとバスケと種目は違うが、趣向が同じで、こいつとは偉く馬が合ういい友人だ。

俺はジャージって呼んでる。いつも闘うときにジャージ服を着ているからだ。

「まあ、話はあるんだけど、その前に一勝負!」

「行くか!!!」

その直後、ジャージの足元に炎が噴射される。

その噴射の勢いに身体を任せ、こちらに飛んでくるジャージ。

燃え盛る炎で威力を挙げた蹴りが俺に襲い掛かる。俺は成す術もなく吹き飛ばされる。

「へっ!どうだい俺の燃える蹴りは!!」

ジャージは勝ち誇った表情で俺を見る。

「まだまだ…こっからが俺の本気だ!!!」

俺はジャージに蹴られた傷から炎を噴出させ纏わせる。

「相変わらずカッコイイねぇー。その姿…」

「俺からしたらあんたの足から炎の方がカッコイイけどな!!」

ジャージの蹴り技。俺の拳。互いが互いを殴り続ける。



ジャージの炎がジェット機の代わりとなり、上空に飛んでいくジャージ。俺もそれを追って羽を創り空を飛ぶ。

狩羅との修行で背中を傷つけなくても羽を作り上げることが可能になった。



二人の男が、上空で激しい攻防戦を繰り広げる。

「こんのぉ!!」

「おぅら!!!」

俺の頬に蹴りが衝突する。

と同時に俺の拳がジャージの頬をぶん殴る。

二人とも、そのまま無残に地面に落下していく……。


俺とジャージは倒れてしまい、ジャージはそのまま気を失ってしまう。

「……Win!!」

どうやら俺はちゃんと勝てたらしい。




--------------------------------------------------------------------------------




「相変わらず、君はすごいですね、《フェニックス》」

ジャージの肩を組みながら、外に出て行くとメガネをかけた男が近寄ってきた。教授だ。

すごい知的な雰囲気をしていて、本人も医大に行っているとか。背も俺よりも高い。イケメンやろうだ。

後、こいつは俺のことを《フェニックス》と呼ぶ。恐らくこれが2つ名として広められることになるだろう。

そうなったら俺にもついに2つ名が……しかもフェニックスって!!超カッコイイじゃねぇかぁ!!!

「おう、ありがとな。んで教授。おめぇにも話しておきたいんだけど…ジャージが起きるのを待たないとな」

「大丈夫…もう起きてる……」

「お、そうか」

俺は、自分の足で立ち上がるジョージを見て、二人と一緒にビルの自販機近くに向かった。



「それでだ。一応俺や先輩…《ピクシー》やRB。メルへニクスはここ数日ここには来ないつもりなんだ。

 まあ、良く言えば合宿。悪く言えば観光しに行くんだけど…」

「ふぅーん。それで?なんでわざわざ俺に勝負仕掛けてきたわけ?」

「出て行く前に、お前と戦って起きたかったのさ。初めて闘ってから二回目がなかったからな」

「中々嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか」

頬を掻きながら、照れくさくジャージは言った。

「なるほど《フェニックス》と互角に闘う君の姿も中々だったね。

 君の名が広まらないのも、だんだんおかしいと思えてくるものだね」

メガネを上げながら教授はそう言った。

確かにジャージの腕は中々のものだ、いや…それに勝ってる自分を遠まわしに自慢しているわけじゃない。

「まあ、このビルには先輩に元1つのビルのリーダー張ってたRB。『蛇』の狩羅や《ロキの三兄弟》もいるし

 あの《ヘラクレス》もいるからな。このビルは統率は出来てない無法地帯だけど、強者が揃っているからな」

俺は自分が思っている自論を口にする。このビルは本当におかしいぐらい強い人が集まっている。

ってか結局最強は黄鉄さんなのだろうか?先輩と黄鉄さんはどっちが強いんだろうか?

いつか見てみたいものだな。


「んじゃ、俺そろそろ戻るわ。あくまでだけど、俺らがいない間に捕られるなよ??」

「ここはお前の領地じゃねぇだろ。安心しろ、お前らが帰ってきてもここは無法地帯もままだよ」

そういって、俺とジャージたちは分かれた。





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「かぁー!!やっぱり夜空の風は気持ちいいー!!!」

海の景色を楽しみながら、俺は夜の道を滑走していく。

せっかくの学校もない夏休みだ。こうして遠出をして、新鮮な風を感じるのも悪くねぇ。

都会の汚いギトギトの風ももちろん嫌いじゃねぇがこっちのほうもたまにはいいと思う。


そんなときだった。

走った先にある岸に、バイクが止まっている。真っ赤で綺麗なバイクだ。

そしてその岸に誰かが座っているのが見えた。

こんな時間にバイクに…しかも景色を見てやがると言うことは…同類か?

俺は奴のいる場所にバイクを止めて、話しかけてみることにした。

「おい、お前」

「ん?」

振り返ったのは…女性だった。

真っ白なライダースーツに身を包み、スラっとしているけれど、出るところは出ている…すげぇスタイルがいい。

何よりも驚いたのが……彼女の藍色の目と、綺麗でさらさらしていそうな金色の髪……。

「…………」

「…どうしたの?」

「あ、いや…。おめぇこんな時間に何をやってんだよ」

「…貴方も何をしているの?」

「俺か!?俺はぁー走っていたんだ」

「走っていた?目的は??」

「目的?走ることに目的なんかいらねぇだろ?風を感じるためだよ」

「……風?」

「あんた?わっかんねぇのか??」

女はそう聞くと無言でコクリと頷く。

喋り方も淡々としていて、まるでサイボーグと話しているみたいだ。

「おめぇ…どっち方向だ?」

「あっち」

そういって指差した方向はどうやら俺と同じ方向らしい。

「なら、レースしようぜ!」

「…レース?なんで??」

「目的の道は一緒だろ?ならいいじゃねぇか。付き合えよ」

「…断る理由も無し。いいでしょう」

「うっし、決まりだな」


そういって俺はヘルメットを被る。

彼女も真っ赤なバイクに跨りヘルメットを被る。

互いにエンジンがまるで馬の嘶きのように響き渡る。

「いくぜぇー…。3・2・1……GO!!」



その言葉とともに、二台のバイクが夜の涼しい風を切って走り去る。





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「へぇー、君が僕に直接…」

「えぇ、そろそろ復讐してやろうとお思いまして…私が貴方達に依頼したいのです」

「へぇ…傭兵が自分の属している傭兵に雇われるとは思わなかったよ。面白そうだねぇー」

チェスの駒を一人で動かして目の前の男は遊んでいる。見ていて少し君が悪い。

けれど、俺はこいつの下についたのだ。そこには確かな信用性があったからだ。

戦場に現れる喜劇団《闇夜のサーカス団》…俺が入ったこの組織は、頼まれたらその地に赴く傭兵集団。

奇術のような戦闘スタイルで、戦場を踊りまわり楽しむ。まるでサーカス団のそれだ。

「それで?《マジシャン》はどこに攻め入りたいわけ??」

「あぁーここですよ」

そういって俺は指定のビルをボスである《ピエロ》に教える。

「へぇー…。あ、ここなら僕の旧友がいる場所に近いな…ついでに悪戯しちゃおっかな♪」

「まあ、それは貴方に任せますよ」

そういって俺は部屋を出る。

サーカス団の協力は得ることが出来た。



「これで……後は俺の筋書き通りに行けば…くっくっくっ……」


男は一人、君の悪い声を出しながら笑い声を響かせる。

男は一度地に堕ちていった愚かな男。

しかし彼は愚か過ぎた、

なんと彼は堕ちたそこから這い上がり、新たなチームに属して、復讐の機会を窺っていたのだ。

そしてそんな彼が、今……その狼煙を上げるための火花を虎視眈々と用意していく。



彼は《闇夜のサーカス団》幹部。コードネーム《マジシャン》………過去の彼の名は《狡知の神ロキ》と言った。





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「うっし!いざ!!海水浴へ!!!」

俺は後ろに先輩とRB、刹那と千恵がいるのを確認してから海の見える場所で叫んだ。



                  ☆





「し、死ぬ…」

倒れている俺。葵龍二は地面を這いながら呻く。

「さあ、ヨルムンガルド。立って下さい。第35R…行きましょう」

「ばばばばばば、お、俺はこのままきゅきゅ休憩したいっす…」

「そうですよ!ヴァルキリーちゃんは少しその戦闘狂を押さえてください!」

そういってメアリーの姉さんは俺を能力で治療してくれる。あぁ…癒されるぅー

「では、フレイヤに治してもらったら35R目を始めよう。それまで私は古田と26R目を行おう」

「えっ!?マジっすか……」

「はい。強制戦闘権…発動」

「やめてくれぇー!!」

そういって古田は服をつかまれた状態でヴァルキリーに引っ張られて試合会場に消えていった。

「はぁ…ヴァルキリーちゃんの戦闘狂癖はどうにかならないでしょうか…」

「…まあ、いいトレーニングにはなるだろう」

「も、もう…嫌だ……死にたくない…」

残されたメアリー姉さんと狩羅さんと俺は、そんな言葉を繋げる。

全身が痛い…。




「あ、そうだ。姉さん、今日からうちの姉貴と千恵、晴嵐たちがいねぇんだ」

「ん?どうしてなんですか??」

「海に行くんだとよ。RBの知り合いに会いに行くとかで」

「ほぉーならあのビルにピクシーはいねぇわけか」

「そうっすね。まさか取りにいくんすか??」

「いや、俺はあくまで蛇だ。もし取れたとしても、

 帰宅してきた《ピクシー》にやられておじゃんだ。

 それに……あのビルは誰のもんでもないからな」

「海ですかぁー私も行きたいでス!行きましょうよ狩羅さん!」

「俺はああいう場所が嫌いなんだ。蛇共が嫌がる」

「そうですかぁ……残念でス」

少ししょんぼりとする姉さん。

この人は本当にこういうところが子どもっぽい。


「…今終わりました。おや、ヨルムンガルドは回復しているみたいですね。さあ……始めましょう」

戻ってきたヴァルキリー。

その手にはぐったりと倒れている古田さんの姿が……。

「あ、あのヴァルキリーの姉御…少し休憩したほうがよろしいのでは?」

「その必要はない。さあ…やろう」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

そのまま俺は35R目の試合を行うためにヴァルキリーの姉御に引っ張られる。



姉貴………そっちは、楽しいだろぉーなぁー




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「海だぁー!!!」

俺は海パンに身を包み、海を見て叫んだ。

これが海!夏の海!!おぉー水着のお姉さんがいっぱい!筋肉ムキムキのイケメンいっぱい!!

これが海だよ!!!マイパラダイス海ぃー!!!!

「本当…先輩はどこでも五月蝿いですね…」

「お、RBも着替え終わっ………」

「どうしたんですか?」

「なんでお前シャツ着てるの?」

「僕泳ぐつもりはないんで…。あと」

「ん?どうしたんだよ??」

「メガネ外して前髪が邪魔だったからカチューシャして海パンだけでいたらライフセイバーに怒られました」

「……え?」

「だからシャツです」

「…あぁ……」

俺は、なんとも返事がしにくい結果となってしまった。さーって、先輩達はまだかなぁー

「おまたせ♪」

その黄色い声に俺は振り返る!!

「「おぉー……」」

あ、今ハモったな?やっぱりRBも男だな。俺は安心したよ、うん。

「な…!じ、ジロジロ見るんじゃないわよ!」

あ、しまった。怒られてしまった。

目の前に立つのは、スポーティな彼女によく似合うビキニ姿の刹那だった。

いつものくせで腕を組んでいるせいで、そのベストなサイズの胸部が強調されて……。

「RB…夏って怖いな……」

「そうですね。ティッシュ持ってくるべきでしたね。その血どうします??」

「海に流しゃーいいだろ」

「あんた達?何言ってるの??」

呆れたように腰に手を当てる刹那。いやぁ本当…一々のポーズがモデルみたいだ。

「いや、すんげぇ似合ってるから思わず見とれちまったよ」

「そ、そうかなぁ?」

「さっきから先輩が胸ばかり見てますけどね」

「なっ……!」

「いや、ちがっ!RB!!お前も見てただろ!!!」

「僕は単純に綺麗だと思っただけですけど?胸に興味はないです」

「この野郎……っ!!!」

あぁー、刹那がすげぇドン引きした目でこっちを見てくるよ。

仕方ないんだよ!男は大概(例外はいるけど)そういうもんなんだよ!!

「お姉ちゃん…待って……」

続いて登場したのは、ワンピースのような形状の水着。大きな浮き輪を抱えてくる千恵ちゃんだった。

「千恵ちゃん泳げないの??」

「うん……。だから浮き輪、これでプカプカ浮かぶの」

「そうかぁそうかぁーなら俺が深いところまでつれてってやるよ!!」

いやぁー、本当に千恵ちゃんは可愛いなぁー。

「…あいつ、あたしのときよりもニマニマしたデレ顔なんだけど……」

「仕方ないですよ。先輩はロリコンなんですから」

「なっ!誰だ今俺をロリコンって言ったのは!?」

俺とその他三人はそう言った会話を楽しむ。


「済まない」

そしてついに!ついに先輩がぁー!!!

「待たせてしまったな。ん?どうした晴嵐くん??」

「いや……なんでもないっす…」

なんすか……なんでシャツ着てるんですか…。

「せ、先輩…シャツ着ながら入るんですか?」

「あぁ、これは濡れてもいいしな。それに入るといっても足の付くところまでだし…」

先輩で足が届くところまでとすると……ほとんど沖じゃないか!!!

「先輩…僕は泳ぐとき脱ぎますよ?」

「お前が脱いだってうれしくねぇよ!!!」


その後、結局俺は、その大きすぎるショックを埋めるかのごとく、海での遊びを満喫させた。

刹那と水平線を目指して遠くまで泳いだり、千恵ちゃんの浮き輪を引っ張ったり

先輩が無駄な才能を発揮して砂の城を写メ取ったり…やはり能力でゴーレムを作る人だ。その辺才能あるな。

RBが意外に泳げるのもよかったな。ビーチボールは本当に面白かった。



「腹減ったぁー!!」

「そろそろご飯でも食べましょうか」

そういってRBはある海の家に向かう。

けれど、途中で歩みを止める。

「大丈夫だって、行くぞ!」

「は、はい……」

そう、この海の家には…いるのだ。彼女が…。

RBと聖正純の因果でスカイスクレイパーを通報された湖の乙女が



「あら、孝明!久しぶりね!!」

……入ってみると案外軽いお出迎えだった。

彼女はRBの方に歩み寄って……。

「おぉー!あんたも大きくなったんだね?彼女は出来たのー??」

突然RBに抱きつき、その豊満な胸にRBの頭部を包み込む…羨ましい……。

「りょ、涼子ねぇ…く、苦しい……」

「キャー!涼子ねぇなんて小さい頃の呼び名で呼んでくれちゃってまぁー!可愛い!!」

スイッチが入ってさらにぎゅーっと抱きしめる涼子さん………あ、RBが死んだ。

「ありゃりゃ…ちょっとやりすぎちゃったかな♪」

ついに離してくれた涼子さんの下を離れたRBはぐったりとしていた。窒息死もありえたな…。

「久しぶりですね。《ヴィヴィアン》」

「…もしかして……」

「はい。昔貴方に敗北した。黒金寧々です、あの頃はまだ無名でしたが、今は《ピクシー》と名を持ち

 1つのビルでの強豪の一人に名を連ねるまで成長しました。それもこれも貴方のような壁に出会えたからです」

「ほぉー。あの子が…こんなに大きくなって…………器が」

言葉の途中で俺達全員の「えぇー…」って空気を感じ取った涼子さんは、最後に一言付け加えた。

「えぇ、器もまだまだ未熟です。今は貴方の弟分RBと、この…明知晴嵐君たちに支えられています」

「へぇー、君が明知晴嵐くんかぁー」

そういって俺に歩み寄ってくる涼子さん。

お、おう…女子大生に舐めるように見られているこの感じ…なんか緊張する。

「なるほどねぇー正純が評価するのはちょっと分かる気するかも…良い身体してるし♪」

「っ!?」

艶やかに胸を這う指。やばい…鼻血でそう。

「ま、とにかくなんか食べて言ってよ。この店の店長の作る焼きソバ絶品なんだから!!」


そういって俺達は涼子さんに案内され、

焼きそばを頼んで口にする…………思わず声を上げてしまうぐらい絶品だった。

本当、なんでこんな上手い焼きソバ作れる人が海の家とかやってんだよ!!って突っ込みたくなるぐらいの

絶品焼きそばだった……これテレビ出していいぞ。

「さてっと、旅館の方はあたしが手配してあるから、

 もうちょっと遊んできなさい。あたしももうちょっとしたらオフになるから」


そう送り出されて、俺達は夕日が沈み、空が真っ赤になるまで海と言う憩いの場を満喫した。





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「カッボカッボかぼちゃ♪」

「あぁ?お前新入りか??」

「うん♪そうだよ?だから優しくしてね♪♪」


そして戦闘。

しかし、ことの一分で、カボチャを被った不思議な人物はあっけなく敗北する。

「なんだよ、奇妙な格好してるからてっきり強いかと思っちまったよ」

「えへへへー、お兄さんが強いだけだよ」

そういって戦闘が終わって、転送される。



「んー、今日でとりあえず13人と戦ったかな♪

 後は観客席で、みんなに話しかけよぉー♪♪」

そういって小柄なカボチャをかぶった不思議な人物は子どものようにとてとてと走る。


「ん?」

そのとき、次の対戦表のモニターをなんとなく見る。

そこには、不良っぽい格好をした青年と、一人の男の顔が。

「お、《ヨルムンガルド》の奴こっちに戻ってきてたのか?」

「ちげぇよ。今隣のビルの『蛇』って組織に属してるけど、ちょっとこっちに来てるだけだよ」

野次馬達の会話を耳で拾うその者は、その《ヨルムンガルド》と言う言葉に引っかかった。

「ねぇねぇお兄さん!!」

「ん?なんだ??」

野次馬の男の袖を引っ張る子ども。

「ヨルムンガルドってどっちなの??」

「あぁー、あの古い不良みたいな格好してるほうだよ?すげぇバカなの」

「そうそう、あいつはバカだな」

「ふぅーん♪ありがとうお兄さん!!」

そういって子どもは野次馬達から離れる。


「カッボ♪カッボ♪カボチャ~♪カボチャを見たら、気をつけてー♪カボチャは人を惑わせるー」

一人で爛々と歌う子ども。

その歌は、まるでこれから起こる波乱を呼ぶ行進曲のようだった―――――。





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「ふぅー!早いなお前!!」

「……そうですか」

「お前…中々いい風出すじゃねぇかよ」

「私が…風を?」

「あぁ、お前を後ろから追いかけているとき、てめぇの風が心地よかったぜ」

「…貴方の言っていることはよく分かりません」

「そうか?バイク乗りなら誰でもわかると俺は思ってたんだけどなぁー」

「私にとってはバイクは移動手段であるだけ。そういう感情は湧かない。だからわからない」

ゴール地点と決めていた時点で会話をする俺と女。

すごい運転技術だった。何度かここでは同類に会ってレースをしたが、ここまでスリリングなのは久々だ。

「お前……走ってて気持ちいー!って思わないのか?」

俺が聞くと、不思議そうに顔を横に傾ける。どうやら分からないみたいだ。

「うっし!あそこまでヘルメット外して走るぞ!!」

「…危ないですよ?それに違法です」

「うるせぇんだよ。こんなとこ警察もこない。ほら、取れ」

「…貴方は横暴です。初対面の人間に命令口調で話せる神経がわかりません」

「うるせぇな。ほら!取ったらあっこまで走るぞ!レディーGO!!」

俺はなんだかんだで従ってくれる女を、自分の世界に入れようと思わず語り癖がついてしまう。

俺は半ば強引にヘルメットを外させて走る。あぁーこれこれ。風を顔で直に感じれる気持ちよさ…最高だ。

俺は横を見る。風に流れる綺麗な金髪。無表情な女が一瞬……笑った。俺は確信した。


「…どうだ?わかっただろ??」

「……少し、わかった気がする」

「いいか。風っていうのは気持ちいいもんだ。理屈はいらねぇ」

「…そうですか。貴方の自論。少しだけわかりました」

「だろだろ!?」

「しかし、私の目的地はもう到着してると言っていいほど近いです。今日はこれ以上できません」

「そうか…ちょっと寂しいな。あ、名前教えてくれよ」

「……アン。アン。ヴィクトリアです」

「ほぉーやっぱ外人か。通りで」

「…何がですか?」

「いや、なんでもねぇよ」

「そうですか……では、失礼します。………次は勝ちます」

「え?」

俺は何かを聞き逃した気がして、振り返るともうアンはバイクで走り去ってしまっていた。



「さてっと…俺も師匠に会いに行くか」

俺もそういって、バイクに跨り、エンジン音を響かせ、夜道を走り去る。




                   ☆



【最近、歌投稿しないけどしないけど、どうしたの?】

【あぁ…。ちょっとね……。バンドの方が忙しいからね】

【君は僕と違ってプロの卵だからねぇー、もしこっちでオファー来ちゃったらどうするの?】

【……どうかな。とにかく、最近はそういう気分じゃないんだ】

【そうか…。残念だなぁー。僕は君の歌声好きだよ?】

【ありがとう。じゃあ、僕はこれで】


SUNさんが退室しました。



このような文字の羅列が、僕の持つスマホの画面に映る。

それを眺めたあと僕はスマホをポケットにしまおうとするも、すぐに音がなり、耳に当てる。

「はい?もしもし??」

『師匠!俺です。もうすぐで着くと思うんで、待っといてください』

電話の相手は、僕が知るもう一つの世界で知った中々面白い男からの電話だった。

名を車田清五郎。僕は彼を強くするために鍛えてあげた。いわば師匠と弟子のような関係だ。


彼を弟子にしたのはなんとなくの気まぐれ。

今のこの虚無感と、罪悪感を埋めれたらなと思っただけ。

バイクで走るのが好きで、『風を感じる』と言う言葉を信条にしてる変な男だ。

でも、いくつも僕と共通する部分があった。風を感じる……。僕も昔はそう考えていた人間だ。

よく走ったなぁー…この道。

ここでよく同種に出会って、競って…勝って負けて、そんなこの道が大好きだった。

成績やスポーツのようなルールに縛られた勝負ではなく、真剣勝負。それでの競い合いが気持ちが良かった。

そっと目を閉じ、耳を澄ます。

高校時代、まだバンドも大きくなくて、学校で演奏する程度だった頃

練習の合間にこうして風の音を聞いて、新しい詩や音が思い浮かんだんだけど………

「もう僕には……風の音は聞こえないんだ」

一人、ぽつりと呟いてしまった。


そんなとき、バイクのブレーキ音が響く。

振り返ると、そこには黒いバイクに乗った男がヘルメットを外した姿で立っていた。

「やあ、早かったね」

「えぇ!まあ…ちょっくらレースしてまして」

「レース?」

「そうっすよ!すんげぇ女で、早かった!ギリギリ勝てたけれどありゃ次やったら負けるかも知れないっすね!」

楽しそうに話す少年。車田清五郎。

少年…と言っても、顔の質が男らしく、身長も僕と同じぐらいだから、彼の方が年上に見えなくもない。

「そうだ!師匠も昔は有名な走り屋でしょ!?いっちょレースしませんか!?」

「僕のことそんなときから知ってたの?」

「そりゃもう!!『北風のカナリア』って言ったら走り屋界隈じゃあもはや伝説ですよ?」

「…そうか。でも、僕はレースするような気分じゃないかな」

「なんでっすか??」

「ちょっとね……」


そういって僕は車田から眼を逸らし、満月を見つめる。

あの神々しい光。まるであの人とあの娘の眼のようだ。

僕は、とても小さいのに大きな心を持って勇敢に戦った少女の顔を思い浮かべる。

そしてその月を暗い雲が包む。その光景は僕が見るには少し酷だった。

それは、あの人のことも、あの娘が負った地獄の象徴ともいえるものだったからだ。

「僕は……弱虫だね」

「何言ってるんですか!?師匠すげぇ強いのに!!」

僕の独り言に、車田はフォローを入れてくれる。

「…そうだね。師匠である僕が弱音を吐いちゃあいけないね。車田?《ピクシー》は元気?」

「っ!?師匠、《ピクシー》のこと知っているんですか?」

「あぁ、ちょっとね…。僕は彼女を『見捨ててしまった』人間なんだ」

「っ!?」

僕の言葉に車田は驚愕を隠しきれずにいた。




青年は、その少年の顔を見た後、もう一度月を見て眼を閉じる。けれど風の音は聞こえない。


彼の声は聞いていて落ち着く。まるで静かな音楽を聴いてるような美しい声。

彼は、過去に『スカイスクレイパー』の英雄を、語り紡いでいく謡い手だった。

彼は、とある童謡を歌った。自分も登場人物として、それが『メルへニクス』だ。


彼、北風太陽の2つ名を物語を作り語り継いでいく作家の名『イソップ』と言った。




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「うっす、孝明」

「…涼子ねぇ」

「どうしたの?夜空なんて見上げちゃってぇーみんな探検とか言って行っちゃったよ?」

「うん…。ちょっと疲れたからね、こうして夜空を見上げてるほうがいいんだよ」

そういって僕は、隣に座る涼子ねぇに渡された、缶のサイダーを開けて口に含む。

シュワシュワと口の中で炭酸が弾けて思わず顔がぴくぴくと動く。

「んで?どれが孝明の好きな子!!」

「うざい親戚みたいだよ涼子ねぇ…」

「いいじゃんいいじゃん!誰なの!?」

「…寧々ちゃんかな。彼女には一生付き添いたい」

「付き添いたいってあんたねぇ、男なんだからもうちょっと…」

「彼女を守るのは、僕の役目だから」

僕がそういうと、鳩が豆鉄砲喰らったような顔する涼子ねぇ

「へぇー♪中々カッコイイこと言えるようになったじゃんか」

「新しく『メルへニクス』の領主になる寧々ちゃんを陰で支えるのが僕の仕事だもん」

「よかった…。自分のやりたいことと使命を見つけたんだね」

「うん……」

僕と涼子ねぇは互いに顔を見ずに満月を見ながらサイダーを飲む。

「あぁーあ。じゃああたし振られちゃったわけだ」

「えっ?」

「ん?あたしねぇーあんたのこと好きだったんだよ??」

「えっ、えぇ!?」

「まあ、振られたからあたしは新しい恋を始めます!」

「え、ちょ、涼子ねぇ!!」

僕は思わず困惑してしまう。

そりゃそうだ。初恋の相手に「好きだった」なんて言われて狼狽しない男はいない。

「はっはっは!可愛いなもぉー孝明はぁー!!」

涼子ねぇは酔ったようなテンションで僕の首に手を回して僕をぐっと引っ張ってくる。

「…守るもんと、憧れるもんが出来たんなら、もうあんたは最高の男なんだよ。孝明」

そういって囁いてくる涼子さん。さっきのテンションの高さはどこへ言ったのか…。

けれどその声は、まるで母親の子守唄を聞いているような心地よさがあった。

僕の守るもの…寧々ちゃん達だ。そして憧れるもの……それは明知先輩かもしれない。

「うん…。そうだね、涼子ねぇ……」

「あぁー!あたしもいい男が欲しいなぁー!!孝明やっぱり付き合おうか!?

 どう?巨乳女子大生?多感なお年頃の中学生にはたまらないでしょー??」

「……そんな言われ方したら『はい』とは言えなくなるよ涼子ねぇ…」

僕は彼女の言葉に思わず呆れ声で言ってしまった。

「ふふっ、それもそうね…。じゃあちょっとサイダー買って来るね」

そういって涼子ねぇは部屋を出て行く。


僕はもう一度、満月を見る。

僕は守りきるんだ。寧々ちゃんを、みんなを……。そしてあのビルも……。

涼子ねぇと話したおかげで、その決意を僕は新たに誓った。




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「おぅら!!」

「わぁー!お兄さんこわーい!!」

オーディエンスのビル。

「へっ!ヘンテコカボチャやろうは俺がぶっ倒す!!」

そういって《ヨルムンガルド》葵龍二は、カボチャの子供に攻撃をかます。

龍の姿になってからの全力突進だ。避けるか、よっぽどの力で受け止めないと太刀打ちできない力。

「わー!!!」

カボチャの子供はそのまま龍の身体に撥ねられ、気を失う。

「っしゃぁ!!」

葵龍二の勝利の一声が響き、バトルは終了する。





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「ただいま帰ったよぉー♪遊太ぁー!」

「だから、ここでは本名を口にするな…《ジャックランタン》」

「えへへぇー。ごめんごめん♪んで?《マジシャン》はどこ??」

「あぁ、あそこの部屋にいるよ。何の話??」

「これからやる演目の打ち合わせ!!」

「あ、ちょっと待って《ジャックランタン》」

「ん?何??」

「ちょっと新しい舞台を準備してほしいんだけど…」

「どういうこと?それ面白い??」

「うん。きっと君も気に入ると思うよ…」

「まあ《ピエロ》が言うなら面白いだろうけど、是非聞かせてもらおうかな!!」

そういって無邪気なジャックランタンは《ピエロ》の座る机の椅子に座る。


「それでねぇ??」

そして《ピエロ》は、着々と彼に舞台設定を話すのだ。まるで…悪魔の囁きのように




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「おし、みんないいか。一応観光兼合宿だ。夜はこの土地のビルに入って闘ってもらう。

 どんなものがいるかわからないからな。最近自分達のビルで闘うものは能力をわかった上で戦っている。

 それでは経験は詰めない。私は先輩からそう教わって定期的にこうして他方に遠征に行くんだ。では行くぞ!」

「いってらっしゃーい♪」

涼子さんの見送りをしてもらい、俺達はその言葉と同時に、携帯のURLをクリックして、消失する。




そして俺達はこの地域のビルに足を踏み入れる。―――――《闇夜のサーカス団領地》へと。




                     ☆




「…どうやら、我々はすぐに対決表に載ったようだな」

先輩は、対戦表モニターを見て呟く。

どうやら、俺たち4人全員対戦表に載ってしまっているようだ。

「では、皆…またここで立ち会おう」

そういって、俺達全員自分の戦闘場に移動することとなる。





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「私…久々のソロ戦なの」

独り言をもらしてしまう私。

いつもお兄ちゃんやお姉ちゃんの後ろに立っていたから…。

独りの戦い…この前のことを思い出す。名前は…《カリブルヌス》だっただろうか。

あのときの私は、すぐに意識を失った。何が起こったかもわからなかった。

身体の中に無理やり空気を入れられて膨張したみたいなあの感覚……。

私はその不安を振り払うように持っている大きな狼の人形をぎゅっと抱きしめる。


「やあやあ♪君が僕の相手?」

私の目の前に現れたのは、不思議な少年(?)だった。

まず顔が見えない。カボチャが顔の全てを覆っており、眼と口の所に穴が空いてる。

まるでハロウィンの被り物のよう。と言うかハロウィンの被り物そのもの。

「ここに帰ってきてすぐに相手だもんねぇー♪見ない子だけどよそ者??」

カボチャに声を掛けられ、とりあえず頷く。あんまり話すのは得意ではない。

「んじゃま…とりあえず……始めようか♪」

「っ!?」

その瞬間だった。

目の前には、無数のカボチャ。四方八方、縦横無尽に空を舞っている。

「「「「あはははは☆驚いた??」」」」

まるで立体音響のように、響き渡るカボチャの声。

私はそれでも特に驚くことはなかった。と言うかそういう感情に疎いだけかも知れない。

「「「「「…あれ?反応薄いねぇー♪まあいいや♪♪」」」」」

そういって気軽そうにぷかぷか浮かぶカボチャ。

私は足元から影を出して、臨戦態勢に入る。仕掛けてきた瞬間に影で捕縛する。

「その影……もしかして君って《ヘル》だったりするぅ?」

「…そうだけど?」

「わぁー!奇遇ぅー!!僕は君を探していたんだよ?

 いないから仕方なく戻ってきたら、出会えるなんて♪まるで運命みたぁーい!!」

感激しているカボチャ。私に会いたかった?どういうことなのだろう?

「君は…私が倒す」

私は無数の影の糸を使い、カボチャたちの足に絡まる。

「「「「わわわ!!」」」」」

カボチャたちがみな、狼狽してしまっている。もしかしてそんなに強くない…?

そう思った直後だった。私が絡めとったカボチャたちが次々と消えてしまっている。

「あ、あれ??」

「へっへーん♪一本貰ったり♪♪」

「っ!?」

気がつくと、もう目の前にカボチャがいた。

私は咄嗟に何も出来なくなってしまい、無防備になってしまう。これは…ダメだ!!

「えいっ!!」

「あうっ!!」

デコに痛みが…けれど、飛ばされてない。あれ…?デコピン??

私は驚いたけれど、すぐに我に戻り、影で目の前のカボチャを捕縛する。

「ありゃりゃ…今度こそ完全に捕まっちゃったよぉ…」

カボチャは弱音を吐きながら大人しくなってしまった。つ、次もまた変なことは起きないかな…?

私は自身の影でカボチャを締め上げる。ぎゅぎゅとカボチャの身体が軋む音が響く。

「今回は僕の負けみたんだね…。《ヘル》ちゃん」

そういったカボチャの直後、ぺキッと骨が折れる音がすると同時にカボチャはぐったりと倒れて、消えてしまった。


「か、勝った…のかな?」

頭に、何かもやもやしたものが残るものの…私はなんとか勝利することが出来た。お姉ちゃん褒めてくれるかな




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「…さてっと、あたしの相手は誰かな??」

「…おやおや?その見た目はもしかして《フェンリル》か?」

あたし、葵刹那はその一言で目の前の男に威嚇するように睨む。

ジーンズパンツに灰色のパーカーをきた、とても乱暴そうな風貌な男。

目つきも悪いし、髪もワックスを使っているのか、少し荒いウルフヘアだ。

「おいおい、そんな怖い眼で睨むんじゃねぇよ……姉ちゃん?」

「あんたに姉ちゃん呼ばわりされる筋合いはないわよ!!」

いきなり言われた一言に思わずあたしは切れて、男に攻撃をしかける。

あたしの能力を知らないものに、あたしの速さに対抗する術はな――――――。

「おいおい、遅くなってんじゃねぇのか?狼さんよぉ」

「ッ!?」

あたしの拳が、目の前の男に当然のようにつかまれる。

あたしは光速移動を駆使し、その場から距離を取ろうとするも

(こいつ……付いてきてる!?)

なんで…なんでこいつは……!!!

「なんであたしについてこれるんだ?って顔してるなぁー姉ちゃん!!」

「ッ!?」

耳元に、その声が響くとともに、あたしは蹴り飛ばされる。

かろうじてガードはするも…威力が強くて後ずさりをしてしまう。

「その理由…答えてやんよ姉ちゃん。俺は《フェンリル》であるあんたと同じ能力であんたの《代理》だからだよ!」

その直後、少年の姿は消える。

あたしは咄嗟に背後に振り返り、バックステップで距離を取る。

「さすがスピード系能力のスペシャリスト!攻撃パターンはお見通しってか!!」

さっきまであたしがいたところの背後に立っていた男。

速さを生かした後ろからの不意打ち…あたしと同じ能力を持ってるなら当然の攻撃法だ。

あたしは、少年に目掛けて攻撃を仕掛けるため、姿を消す。少年も同じく姿を消す。

この試合を観戦しているものは、さぞつまらないことだろう。

ところどころで空気の波紋が浮かぶ。直接少年の姿が捕らえられない。勘との勝負だ。

こちらの攻撃も受け流されている。この少年……かなり強い。

そんなときだった。

少年が真正面からあたしに拳を出そうとしているのがわかった。あたしは慌ててガードしようとするも。

「それじゃあめぇんだよ。姉ちゃん!!」

半ばごり押し、力のこめられた拳を受けて、あたしは思わず吹き飛ばされる。なんて力だ…。

スピードはどちらかと言えばこちらの方が速い…向こうは移動が荒すぎる。簡単に次の移動が読めるのに…。

「読めるのに、勝てない。わかるぜぇ?その気持ち…あんたと俺っちの違いは1つ。パワーの差だ」

そう叫んだ瞬間にまた姿を消す少年。

その直後、横っ腹から衝撃が…。今度は中央。顔。頭。足。次々の拳を当てられているのがわかる。

ガードしてもそのガードごと攻撃してくる。腕を痛めそうになる……。

「このッ!!」

あたしはやけくそに攻撃を繰り出す。

その拳は、少年の頬に当たる。けれど、彼は吹き飛ばされない。

「…いくら早くても、力がなけりゃあ意味ねぇんだよ。姉ちゃん…!」

血反吐を吐いた少年はそのままあたしの顎にアッパーをしてくる。

宙に浮かぶあたし。何も出来ない!!!!

「あばよ。姉ちゃん、あんたにゃ《神殺し》はどっちみち無理だったってわけだ」

神…殺し……??一体ナニを……???

その直後、あたしは頭上に踵落としを喰らって、そのまま敗北してしまう。

「姉ちゃん。あんたはもうお役御免だ。《フェンリル》の代わりはこのガルムが受け持つ」


朦朧とする意識の中、あたしは……彼の最後の言葉を聞く。

「さあ……もうすぐ《ラグナロク》が始まる」

そしてあたしの視界は真っ暗になり、謎の少年ガルムに敗北する形となってしまった。




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「はぁ…どこかに僕の理想の女性はいないものか……」

男は、その無駄に目立つ赤い髪を揺らしながら、物思いにふけっていた。

長身に、甘いマスクをしている男は、ビル内ですれ違う女性参加者が思わず見とれるほどだった。

「あっ!修一!!」

「…《ジャックランタン》。君はいい加減僕ら幹部をコードネームで呼ぶことを慣れたほうがいいよ?」

「えぇー?だってめんどくさいんだもーん」

「君の名前が一番言い難いって事実を無視した発言だね…」

「えへへー」

「それで?帰ってきたってことはできたのか?脚本は??」

「うん!ちゃんと完璧にね!!次の演劇は面白くなるよぉー♪♪」

「…僕はただ奏でるだけだからね。正直どうでもいいよ。あぁー…どこかに理想の女性はいないものか……」

「修一あんなにモテるのに女性に飢えてるの?変態だね」

「違うよ。少なくても常時カボチャ被ってる君にだけは言われたくないよ」

「あっ!そうかぁー!…ねぇねぇ?《グリムリッパー》とかはダメなの?」

「彼女は確かに美しいが、僕の理想じゃないかな。それに彼女も僕に靡くことは一生ないだろう?」

「そうだねぇー。んーどんなのが理想なの??」

「それが分かれば苦労はしない」

「え?わからないのに言ってるの??」

「あぁ…こぉー、出会ったときにあるんだよ。多分」

「……たらし男の名言だね♪」

「誰がたらし男だ。まあ良い、お前は《ピエロ》か《マジシャン》に報告しないといけないんだろう?」

「うん!じゃあまたねぇー!!」

そういってカボチャを被った不思議な男は去っていった。

同じ仲間ではあるが、どうもあれは胡散臭くて好ましくない。

「あ、あの!《ヴァンパイア》様!!」

「ん?」

「こ、これ!!」

声を掛けられて、振り返るとそこには女性が。

こちらが有無を言う隙を与えず、紙包みを渡してくる。あぁー…これか。

「あぁー、ありがとう♪大切に使わせてもらうよ♪」

「は、はいっ!!」

女性は嬉しそうに返事をして去って言った。

んー、たまに貰えるんだけど、こんなことされても困るんだけどなぁー。彼女は僕の理想じゃないし。

あぁーあ。向こうで友達っぽい人とワーキャー言ってるよ。あれじゃあダメだな。

普段なら、そのまま彼女の一人にしてもいいのだけれど

今はとてもじゃあないが、そんな気分ではないのだ。最近女性に虚無感を感じている僕は。



「どうだった?晴嵐くん??」

「えぇ、大したことない奴でしたよ。どうやら二つ名持ちではありませんでしたし」

「君も無名なの忘れていないか?」

どこかから誰かの話し声が。

なぜだろう…その声の先に向かってしまう。その声の主に会ってみたいという衝動に駆られてしまった。


人ごみを掻き分けて、声を頼りに歩みよる。

そして…僕は出会ったのだ。

「美しい……」

思わずそんな言葉を漏らしてしまう自分が恥ずかしい。

けれど、そう言ってしまっても仕方のないぐらい、目の前の少女は美しかった。

凛とした立ち振る舞い。それでいてその美貌を一身に包み込む小さな身体。

誰にも媚びていない。自らを自らであると主張するそのオーラ。彼女からは愛嬌と凛々しさを同時に感じる。

「なんだ?貴方は??」

女性は僕に質問を投げかける。見蕩れていた僕は思わず驚いてしまうも、喉を整え、我に戻る。

「これはこれは、美しい淑女様。初めまして、僕は赤井修一と言います。21歳です」

「んで?俺らになんか用かよ??」

すると、喧嘩越しにこちらを睨む少年がいた。邪魔だなぁ。

「君には用はない。安心してくれたまえ」

「だから!俺の先輩に何か用なのかと聞いてんだよ!!」

「…先輩?」

「そうだ。こちらの明知晴嵐くんは16歳。私は17歳だが?」

「…それを聞いてますます麗しい。貴方…お名前は?」

「ん?黒金…寧々だが」

「黒金寧々さんですか。どうか、僕の伴侶になってください!」

「っ!?」

「ちょ、待てよお前!」

「なんだ貴様。まだいたのか」

驚いた寧々さんと喚く男。晴嵐だったか?本当に邪魔だ。

「てめぇ…俺らの先輩に色目使ってんじゃねぇよ」

「何だ?僕は彼女にお願いしたのだ。君はでしゃばるな」

「てめぇこそ初対面にいきなり告白してんじゃねぇよ…!!」

少年は僕を睨んでくる。なんと礼儀のなっていない。

僕の彼を睨み返していると、携帯電話が鳴り響く。

「あ、もしもし…はい…わかりました」

呼び出しを喰らってしまった。まだ寧々さんと話していないというのに…。

「すみません寧々さん。急用が出来てしまいました。また会えることを祈っています」

そういって僕は彼女の元から去っていった。

隣の男はいつまでも僕を睨んでいるのが気に食わない。寧々さんの男だろうか?

「…だったら、捻り潰さないとな」

僕はポツリとそう呟いて、呼び出されたマスター《ピエロ》の元へ向かう。




男は、その妖艶なマスクと、際立って目立つ赤い髪をした長身。

アイドルも真っ青の美貌に恵まれ、世の女性を虜にしてきた。

そして彼自身も、かなりの女性好きで、その紳士的な態度と裏腹に、過去に付き合った女性は数知れず。

そして、そのチャーミングポイントとも言える八重歯はまるで女性から生き血を吸う怪物のようだった。



彼の名は赤井修一。《闇夜のサーカス団》でのコードネームは《ヴァンパイア》と言った。




                    ☆






「すみません、遅れました…《ピエロ》」


「あぁーいいよいいよ。今すぐ公演を開始するわけじゃないからね」


僕が部屋に入ると、そこには七つの椅子。


ある場所はバラバラ、机があるわけではない。


ざっくばらんにみんなそれぞれのイメージカラーの椅子を適当なところに置いて座っている。


誰も中央に椅子を置こうとはしない。それが僕らの方針。ポリシー…。


僕ら劇団《闇夜のサーカス団》は全員共有の権利を所有するもの。それぞれがそれぞれの役割を果たす。


その中にはもちろん上下関係はない。強制的な上下関係は存在しないのだ。僕は《ピエロ》の部下だと思ってるけど


実力も《ピエロ》が一番上。実質リーダーは彼だ。だけど彼はそれを良しとしない。そこに僕らは惹かれたのだ。


僕は、自分のイメージカラーである『赤』の椅子を適当なところに置いて座る。


「それで?どうして遅くなったんだ??」


僕が座った瞬間に話しかけてくる男がいた。《マジシャン》だ。イメージカラーは『青』。


どうやら過去にはあの巨大組織オーディエンスに属していたらしい男。


つい最近このビルに現れて、破壊の限りを尽くしていた。


実力派の男だ、分け合って《オーディエンス》を追放されたらしい。


《ピエロ》はそんな彼を気に入って、僕らの劇団に入れた。もちろん先輩後輩なんて上下関係は存在しない


「ちょっとね…僕の運命の相手を見つけたのさ」


「運命の相手?お前が前から言っていた『どこかにいるはずの妖精』って奴か??」


「あぁ…。ついに巡りあえたんだ。僕の理想の女性に…」


「さっきすごい勢いで走っていったのはその娘を見つけたからなの??」


すると、会話にもう一人入ってきた。『橙』の椅子に座るジャックランタンだ。


「僕も気になるな…《ヴァンパイア》ほどの男を美貌だけで魅了した女性ってのを」


しまいには『黒』の椅子に座る《ピエロ》までもが、僕の話に興味を示した。


「そうですね。小さくて、長い黒髪…とても凛々しいお姿をしていましたよ」


「…小さい?どれくらい??」


「……厚底のブーツを履いてたのでわかりませんが、140前後でしょうか?」


「へぇー、彼女…今こっちに来ているんだ♪」


僕がそういうと《ピエロ》はなにやら意味深げに笑みを浮かべる。


「…ごめん。僕はもう話を聞いているから、退席するよ。《ジャックランタン》みんなに説明お願いね」


「りょーかい♪!でも…どこ行くの??」


「ちょっとその《妖精さん》が僕の知り合いかも知れないからね。挨拶に行ってくるよ」


「…《グリムリッパー》もいないんだけど、いいのかにゃ??」


一人の女性。『黄色』の椅子に座る人が、奇妙な語尾で《ピエロ》に問いかける。


彼女が言っているのは、今空席となっている『藍色』の椅子に本来座る人のことだ。


「あぁ、いいんだよ彼女は…。上下関係のないこの劇団で、唯一僕の部下なんだから」


そういって《ピエロ》は瞬く間に姿を消した。


「うっしー!じゃあここからは僕!脚本家の《ジャックランタン》が進行を進めまーっす!!」


椅子から立ち上がり、奇妙なステップをとりながらジャックランタン


その被っているカボチャがまた彼の奇妙さを強調させている。




「僕達が次ぎにやる演目はぁー♪《ラグナロク》!!これの発案者は僕らが新入り《マジシャン》なのだぁー!!」


手を大きく伸ばし、マイクを持っているような素振りでジャックランタン


僕はその話を聞いて《マジシャン》を見る。


ラグナロク…北欧神話に伝わる《神々の黄昏》とも呼ばれる戦争のことだ。


これを演目とするということは……。


「…《オーディエンス》の襲撃か」


一人、『紫』の椅子に座っている男が、ぼそりと呟いた。


「ご名答だよ!!バロ―――あ、違った《ファントム》!!」


「確かに、それは面白そう。それに大胆だ。


 あの巨大組織…しかも自分が元いた組織オーディエンスの襲撃。《マジシャン》は脚本センスがある」


そういって顎に手を当てて納得する『緑』の椅子に座るめがねを掛けた男。


「まあ、とにかく僕らの役割を発表するから、静かに聴いてねぇー♪もう1つあるんだから♪♪」


と、普段一番五月蝿い人物が、自分のことを棚にあげて、僕らの役割を語り始めた。







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「おっ、おめぇ!!」


「…貴方は」


俺は、この地区のビルの様子がどんなんか見に、訪れた。


師匠にもいい修行になるだろうと言っていたし、ちょうどいいと思ったからだ。


このビル…変な能力者が多い。


ビルによって傾向があるとは思わないが、やはり集まる人間の本質は似るのかもしれない。


一通り勝負した後、周りを探索していると、目立つ金髪を見つけた。思わずそれを追ってみると


案の定。藍色の眼をした金髪の女性。アン・ヴィクトリアの姿がそこにはあった。


向こうはさほど驚いた様子はなく、物静かに返事をする。初めて彼女の姿を見たときは暗かったからか


明るいここで彼女の姿を見ると、改めて綺麗な金髪だと思わず見蕩れてしまう。


「お前も…《スカイスクレイパー》の参加者だったのか」


「はい。貴方もだったのですか」


「おう、まあ今年始めた新人って奴だけど……楽しいよな!!」


「……楽しい?」


「…おめぇ、もしかして金目的だけでやってるのか?」


「いえ、そういうわけではないですが…楽しいの意味がよくわかりません」


「わかんねぇ?こぉー強い奴と戦って!勝って負けてを繰り返す!!スリルがあって楽しいじゃねぇか!!」


「…それは貴方の言う《風》と同じものですか?」


「あぁー…。そうだ、近いな。おう。敵と戦ったときに感じる風もまたいいもんだ」


「……そうですか。私には楽しさは理解しかねますが」


「じゃあ…なんで続けているんだよ?」


「…言われているからですよ?」


「言われてる?誰に??」


「…マスター」


「マスターってのはあれか?おめぇどっかの組織にでも属しているのか??」


「そんなもの。」


相変わらず端的にしか話さない彼女に、俺は調子を合わせる。


「しかしまぁ、勿体ねぇな。お前」


「なぜ?」


「マスターに言われたから闘うってだけじゃあ…つまんねぇだろ?」


「…その感覚が私にはわからない」


「そうかぁー、まあ…バイクもバトルも、すげぇ楽しいもんだ。今度…闘えるといいな」


「私とですか?」


「おう!俺はお前と闘ってみたい」


「…そうですか。そのときは相手になります」


「そんときゃー俺が!おめぇに闘いの楽しさを教えてやるよ!あ、風の気持ちよさも教えてやっからな!!」


俺は、師匠からメールがきたのに気付き、そういって彼女の前から去る。


いけねぇー思わずおしゃべりになっちまったな…。偉そうなこと言ってしまったし…。


けど、これでいいような気がどこかした。あいつには……あの一瞬の時みたいに笑ってみて欲しかった。







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「やあ、久しぶりだね♪…《ピクシー》」


「………」


僕、聖孝明ことRBは、戻ってくるなり異様な光景を見てしまった。


なぜか知らないが、知恵ちゃんは具合が悪いからと先に帰り、フェンリルは負けたらしくて医務室。


あのフェンリルを倒す相手とはどのようなものなのか気になるが、今はそれ以上に気になることがあった。


僕が戻っていたときに先輩と寧々ちゃんの前に、黒いシャツに黒いジーンズの長身細身の男性の姿。


それを見た寧々ちゃんは、まるで怯えたように彼から眼を背けていた。間違いない…寧々ちゃんの敵だ。


僕はすぐにそこに向かって走っていた。


「……RB!!」


僕はその男と寧々ちゃんの前に割って入って男を睨みつける。


「…ん?君か、寧々ちゃんの新しい『捨て駒』は♪」


「―っ!?」


彼の言葉に寧々ちゃんは刃物を刺されたような苦痛を表情を浮かべる。


「僕は捨て駒なんかじゃない。寧々ちゃんの『従者』だ」


「…従者か。面白いことを言うね、まあ彼女の上に就かないのは賢いね………殺されちゃうもん」


「「―っ!?」」


「違う!私は!!」


「何が違うのさ。君は今こうしてまだ《ピクシー》の名を語っているじゃないか」


「…………」


その言葉に僕と先輩は驚く。寧々ちゃんは否定するも、すぐに論破される。


一体どういうことだ?この男は寧々ちゃんの何を知ってる??


「君が今ものうのうとこの《スカイスクレイパー》でしかも配下までつけて……!!!」


男の顔は、冷静さを残してはいるけれど、少し狂気を感じる。憎悪が込められた言葉を吐く。


「…………」


寧々ちゃんはそれに黙って聞くことしか出来ない。


「僕はもちろん…。《みんな》君のことをどう思ってるか……考えたほうがいいよ。じゃあ、また」


そういって目の前の男は言いたいだけ言ってどこかに去って言ってしまった。


僕は再度寧々ちゃんを見ると、震えていた。怯えていたというよりは……後悔したような震え。


「…ど、どうしたんすか?先輩??誰っすか…今の」


先輩が、少し動揺しながら寧々ちゃんに問いただした。


先輩がしなかったら僕が質問していただろう。それぐらい今の彼女は不安定で脆そうに見えたからだ。


「あの人は………黒沼遊太。元…《メルへニクス》のメンバーだった人だ」


「「――っ!?」」


その後、一体先輩に何があったのか聞きたかったのは本心だが、


それは開けてはいけないパンドラの箱なんではないかと悟り、それ以上の言葉が出なかった。







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翌日。




「んで?話は終わったんすか?」


「あぁ、今日宣戦布告を今からして、明日……一斉にスタートだ」


「りょーかい。俺は《神殺し》を実行する狼。あんたはその親にして神々の反逆者…だよなぁ?《狡猾の神ロキ》」


「あぁ…。私は復讐をする!!あのヘビに!あの鳥に!あの女に!!!」


そういって俺は受付場から、ビルを1つ選び、戦争を開始する申し込みを済ませる。


「…………《ラグナロク》の開始だ!!!!!!」









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「はぁ…なんで俺がこんなことに……」


「すみません~。私の同伴者ってことでヴァルキリーちゃんに……」




「それにしても、《戦争》ねぇー初めて経験するぞ…。


 ま、オーディエンスの幹部共の顔見れるだけで十分稼ぎか」




「じゃあ、Go Toです!!!」


そういって、俺は、メアリーに連れられて、オーディエンスの幹部が集まる円卓に向かう。





                    ☆



「…随分と息苦しいことになっちゃったのぉ……」


長い髭を手で撫でるようにしている中央に座っているおじさん。《オーディン》は言った。


「わしは最近老人ホームに来た可愛い女の子の話がしたいんじゃがのぉー」


「オーディン様。そのような話は皆を集めてするべきではないかと……」


それを聞いて、否定的な言葉を言いながらじとーっと《オーディン》を睨む女性、《ヴァルキリー》。


彼女はこの巨大組織オーディエンスの中で最もこのオーディンを慕っているんだそうだ。


「そうかのぉ…可愛い女子の話はみんな興味があるじゃろう?」


お爺さんは無邪気にそう言う。ただし誰もこれに対して賛同を得ることはできないようだ。


「とにかく…今は私たち《オーディエンス》が戦争を宣戦されたと言うことです」


オーディンに呆れて、自分がするかと立ち上がって話すヴァルキリー。


「んで?相手はどこなのよ??」


でかい図体でかったるそうに座る男…《スルト》がヴァルキリーに問い詰める。


「相手は…少し遠くのビルなのですが、《闇夜のサーカス団》…。


 そして直接宣戦布告をしてきたものは……《狡知の神ロキ》です」


「「「「「「っ!?」」」」」」」


その場にいる俺…蛇道狩羅でさえ、その名を聞いて驚愕した。


《狡知の神ロキ》…このビル内で、自身がリアル世界で借金を負わせている人たちを脅し


名のある参加者達を潰していき、そのポイントを自分が奪取すると言う卑怯な手口を行っていたとのことで


このオーディエンスから追放された奴の名前だ。


俺は、目の前で座っている少女…《豊穣の神フレイヤ》ことメアリー・メディシアに頼まれ、こいつの組を潰した。


あれから随分経つが……なるほど。奴は組を潰されたあと、別の場所で参加者を続け


そのまま《闇夜のサーカス団》で勢力を整えてこちらへの反逆を企てていたと言うわけか…。


「ふぉっふぉっふぉ。これではまるで《ラグナロク》のようじゃの」


爺さんは一人、笑いながら呟いた。


座っていた面々が全員耳をぴくりと動かす。


ラグナロク…俺も少し知ってる。


北欧神話の神同士の戦争だ。詳しくは知らないが、これの結果は確か……。


「…私がそんなことはさせません」


「ありがとうのう…ヴァルキリーちゃん」


ぼそっと言った言葉にオーディンのおっさんは礼を言う。


俺が見ている限りだが、ヴァルキリーのオーディンに対する忠義の尽くし方は少し異常な気がする。


ここは決して国ではないし、ビル一つも王国と言うわけではない。俺たちはあくまで一つのエリアのリーダーだ。


オーディンの爺さんも《王様》ではなく、例えるなら部活の部長…みたいなものなのだ。


そこまで重要視しない上下関係を、ヴァルキリーは徹底している。よほどオーディンの爺さんを慕っているのか。


「んで?俺たちは迎撃しねぇといけねぇみてぇだけど……《トール》の奴がいねぇじゃねぇか!」


《スルト》がぼやくように言う。


そう、この円卓には、一つ空席があるのだ。そこには本来トールが座っているらしい…。


《トール》……噂に聞く《オーディエンス三大勢力》の一人だ。


一人はもちろんリーダーの《オーディン》そしてその補佐である《ヴァルキリー》そして……《トール》。


オーディンよりも強いとも噂されるほどの男だ…俺も一目拝見しておきたかったのだが…


「トールさん、こういう場どころか、最近スカイスクレイパーにも来てないデス」


俺にだけ聞こえるようにメアリーがぼそりとつぶやく。


最強の男…不在。まるでうちのビルの《ヘラクレス》のようだ。


やはり大物は一つのモノに執着しないと言う性質があるのだろうか…だとしたら俺も《ピクシー》も小物だな。




「それで…。私が呼ばれた理由はなんなのですカ?」


メアリーがとうとう本題に乗り出した。


そう、メアリー・葵刹那・葵龍二・葵千恵の四人は名こそ残っているが、事実上除籍された身なのだ。


そんなメアリーが、ましてや幹部席に座り、部外者の俺を後ろに配置して話に参加するのは可笑しな話だ。


「そうじゃったなぁー…前言いそびれたスリーサイズをここで披露しようかと思っての…」


「っ!?」


「ひゅーひゅー!いいぞジジー!言っちゃえ言っちゃえ!!」


オーディンに言われて顔を真っ赤にさせるメアリー


そしてそれに乗るスルト。


「はぁ…《スルト》、冗談とはいえ下品ですよ?」


そのスルトの言葉を聞いて注意する美形の少年…《フレイ》と言うらしい。


伝説上では神々一の眉目秀麗で、《フレイヤ》の双子の兄…らしいが、もちろんメアリーの血縁ではない。




「お主を呼んだのはの、フレイヤ…それに《蛇》様よ、主らの力を借りたいのじゃ」


俺はその言葉を聞いてびくりと眉を動かした。


「主ら、《蛇》のメンバーを、我らの傭兵として雇いたいのじゃ」


「……ソルジャー…ですか?」


「そうじゃ、メアリー…主らが今こうして《オーディエンス》領に入れくれて本当に助かった。


 是非…力を貸してくれんかの?今回の相手はちと……厄介かも知れんのじゃ」


「厄介ってジジー。今回の《闇夜のサーカス団》のことなんにもしらねぇんだろ?」


「そうじゃ…。じゃからこそ、厄介なのじゃよ。相手がどう攻めてくるかも不明じゃからな」


スルトの言葉をそうして一喝するオーディン。


スルトもそれを聞いて黙り込んでしまう。


「…はい!是非力にならせていただきマス!!いいですよね!狩羅さん!!」


メアリーはすぐに返事をして、俺にも許可を促す。


「ん…。まあ、ヴァルキリーにはうちの部下共の面倒を見てもらった恩義もあるしな。


 こうなったのも、徹底的に潰しておかなかった俺のせいだ。ま、戦争も経験してみたいしな」


「話が早くて助かる…では……開戦じゃ!!!!」




こうして、《オーディエンス》領と《闇夜のサーカス団》による演目……《ラグナロク》が始まった―――――。





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「じゃあ、またそっちに遊びに行くね」


「うん…。そうしてくれると兄さんもきっと喜ぶよ」


電車の駅で見送ってくれる涼子さんと話すRB。


「……そのときには、あたしの告白、考えておいてね♪」


「……/////」


あれ、なんか耳打ちをしたと思ったらRBの耳が真っ赤になった…?


何を言われたのだろう??


「じゃあ!ありがとうございましたぁー!!!」


そういって、俺たちは涼子さんと別れて、自分達の土地へと戻っていく。






「…大丈夫か?」


「え?あぁ…うん」


昨日からずっとこんな調子の刹那。


前の遠征戦でどうやら敗北したらしい…。


しかも、ただ敗北しただけではないっぽい、そうでもなければこいつがここまで凹むのはおかしい。


「…ぼぉー……」


おかしいと言えばこっちもだ。


千恵ちゃんもヤケに呆然としている。さっきからずっとあの調子だ。一体どうしたというのだろう?






そんなことはまるでどうでもよくなるかのように、みんな寝てしまう。


「…RB?起きてるか??」


「はい、起きてますよ…」


そして俺は女子三人が寝ているかチェックする。


「なんですか先輩?新幹線内で夜這いするんですか?」


「んなことするか!!」


「じゃあなんですかぁ?」


少し眠たげに目をこするRB。


「いや、お前に聞きたいことがあってな…」


俺の雰囲気を察してくれたのか、さっきまでと態度を変えるRB。


「…なんですか?」


「先輩のことなんだ」


「寧々ちゃん??」


「あぁ、俺よりもお前のほうが先輩との付き合いは長いだろう?何か知らないか??あの男とか」


俺の言う「あの男」と言うのは、先日あった黒い服の長身男性だ。《元メルへニクス》…って言ってた。


「…すいません。あの男に関しては僕も知らないんですよ……」


「そうかぁ…」


「ただ、あの人が言わんとしている意味は、少し推測が付きます」


「ん?どういうことだ??」


「僕が寧々ちゃんと出会ったとき…寧々ちゃんは一人ぼっちでした。


 狩羅のように配下もいなければ、聖十字騎士団のような仲間も一人もいなかった。


 確かに過去に《メルへニクス》が活動していたのは僕たちのビルです。しかしそこにいるのは先輩だけ…。


 あの《ピエロ》とか言う人もいなければ、他のメンバーの影もありませんでした………。


 恐らく、寧々ちゃんは何かをやった。あの《ピエロ》と言う男があそこまで憤るようなことを…」


「先輩がそんなことするわけないだろっ!!」


RBの言った言葉に、思わず俺は怒ってしまう。しまった…先輩達が起きたら


「…大丈夫みたいですね」


「よかったぁー…」


「僕だって先輩と同じですよ。きっと寧々ちゃんは故意にしたわけではないと思います」


「…先輩とあの《ピエロ》って奴…《メルへニクス》に何があったんだろうな……」


「そうですねぇ…あのときの寧々ちゃん、怯えた顔してました。僕らの前ではいつも凛々しく強くいた彼女が」


「なぁRB…」


「なんですか?先輩??」


「俺達は…何があっても先輩と一緒だよな?」


「当たり前ですよ。僕は寧々ちゃんを守ると決めたんですから…」


「……先輩のほうが俺達よりも何倍も強いけどなっ!」


「…そうですね」


そういいながら、俺達は違いに笑いあった。


先輩には…何か暗い過去がある。


俺はそれを嵐のように吹き飛ばして……晴らすことができるだろうか??




そう思いながら、俺は眠りについた。






俺達が眠りについた次の日、オーディエンス領と《闇夜のサーカス団》領の大戦争が勃発し


俺達も……予期せぬ形で、巻き込まれることになろうとは…まだ知るよしもなかった―――――――――。





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「……戦争開始準備整ったって!どうする?もう僕の出番かな♪♪」


「あぁー、やってくれ…『創るもの』、《ジャックランタン》…」


「あいあいさー☆」




《マジシャン》に言われて、ジャックランタンはその場に立つ。


「……あっ!」


「…どうした?」


「詠唱どういうのにしたらいいと思う!?」


「……しなくてもできるんだろ??」


「わかってないなぁー!《マジシャン》は!!こういうのは雰囲気だよ!!」


「じゃー「パンパンプキンパンプキン」とかどう?マンガの引用だけど…」


「おっ!いいねぇー!!じゃーパンパンプキンパンプキン!!!」




そういって、その場で《ジャックランタン》は高らかに叫ぶ。


その場では何も起きていない。しかし…何か不気味なものが、空気中に走った気がした。







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「……どういうことデスカ!?」


私、メアリー・メディシアは今見る光景に驚嘆とする。


この戦争は、ビルとビルとの距離の道で行われ、相手のビルを陥落させたほうが勝ちと言うルールです。


私はビルから外を眺めていると、不思議なことが起こった。


「ど、どうしてですか…みんな……」






その場で繰り広げられていたのは我らの軍と敵との戦いではなく………「味方同士」の戦いだった。


そんなとき、電話がなる。《フレイ》さんからだ。


「に、逃げろ……《フレイヤ》…」


「ど、どうしたんですか!?《フレイ》さん!!」


おかしい!幹部である私たちはビル内の上級部屋にいる。


そんな私たちを攻めることが出来るものなど、幹部以外にありえないのに!?






「じゃあ、幹部の誰かの仕業…ってことだよなぁ?」


そんなとき、後ろから声がする。


今は狩羅さんはいない。古田さんも、ヴァルキリーちゃんも、龍二くんもいない。


味方はいない。そんな状況であたしは恐る恐る振り返る。


そこには……いたのは。


メラメラと燃える剣を持った。味方………のはずの男が。


「この組織の回復機関を潰しに来てやったぜ、《豊穣の神》さんよぉー」


そこには……長身で真っ黒なジャケットを羽織った男《黒い者スルト》の姿があった―――――。





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オーディエンス領で戦争が起きた日。朝…明知宅。


「晴嵐!開けて!!」


俺は目を覚まして大声で俺を呼ぶ刹那の声にたたき起こされて慌てて扉を開ける。


そこには、既にあちこちを走り回ったのが伺えるほど汗を掻いて、動揺して血走った目をしている刹那の姿。


「ち、千恵が……千恵がいなくなったのっ!!」


俺は、その言葉を聞いて驚愕とした。


着実に…俺達を波乱の渦に巻き込む歯車が回り始める。





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「さてっと♪まだ《ピクシー》は来てないかにゃー♪」


「……うっす」


「もぉー!なんでそれしか言わないのにゃ!?」


「……うっす」


「ま、ここで《ピクシー》がきた瞬間にバトルだにゃ!」




そういって、一人の女の子は180cmは余裕で超える大男と共にビルを闊歩する。


その腰には……トレードカラーのように『黄色』のポシェットがあった。                   




前編・END

とりあえず前章なんで、始まる直前までを書かせていただきました^^

ここから中編。後編と入っていく予定です♪♪


中編がそこそこなる予定です♪

戦争の主な闘いを描いて、後

編でクライマックスを書いていく予定~


いろいろ新キャラがたくさん出てますけど大丈夫ですかね??

まだまだ増えていきますので今回は本当に気をつけてください(笑)


いろいろバトルの始まりもかいてますので

中編の展開をわくわくしてくれると、すっごくうれしいです♪♪



中編もなんとかすぐあげますのでお待ちください♪

ではでは^^




※もし誤字などがあったらご報告くださるとうれしいです。

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