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第三章~ジャンヌ・ダルクと正十字騎士団編・後編~

ついに始まる正十字騎士団VSメルへニクス!

明知晴嵐は徳川優と決着をつけることができるか!?


そしてRB…聖孝明は兄である聖正純を相手に勝利を掴むことができるか!?

聖剣を使う敵たちを薙ぎ払え!!スカイスクレイパー三章・後編開幕!!

「いいか。私と晴嵐くんは防御に回る。

 理由はこの面子での防御力を誇るのは私達二人だからだ。

 車田くんとRBは相手の大将を目指してもらう。もちろんこれには晴嵐くんも同行してもらう。

 君には中央の防御を任せたい。刹那は独断で敵兵力を削ってもらう。知恵ちゃんにはここで待機だ」

「「「「「了解!」」」」」

さすが先輩。と俺は感嘆した。

リーダーをしたことはないと言っていたがやはり『チェッサー』の経験があると違う。

もう一度簡単なルールをおさらいしよう。

・『王』は自分のいる陣地から動けない

・『女王』『騎士』は相手の『王』を倒せない

・『兵士』『僧侶』『戦車』のみが相手の『王』に攻撃できる。

まあたったこれだけのことなのだが、範囲が広い街全体がフィールドなので戦略がいる。



「さてっと、行くぞ!RB、晴嵐!!」

バイクに跨るとエンジン音を掻き均す。

その嘶くエンジン音はまるで「乗れ」と言っているように俺とRBは感じた。

ハイウェイで走りそうなとてもデカイバイクだ。確かに雑な乗り方にはなるが俺とRBも乗れる。

「じゃあ……行くぜ二人とも!!」

エンジン音を嘶き、バイクが走り出す。

物凄いスピードだ。摩天楼の街を颯爽と駆け抜ける。

「お、おい車田!早過ぎないか!?」

「あぁ?バイクはこれぐらいのスピード出さないと意味ねぇだろうが!!!」

「それでもこの乗り方だと落ちちゃいますよ?車田さん」

「あぁ?てめぇ今から兄貴ぶっ倒すんだろ?こんなスピードで落とされてちゃあ出来るもんもできねぇぜ!!!」

そういってさらにスピードをあげる車田。やべぇ!こいつのスイッチ入れちまったぁ!!!

「ヒャッホー!!!行くぜ行くぜぇー!!」

「ぎゃー!!落ちるぅー!!!!」

「明知さん。五月蝿いです」

「えっ!?攻められるの俺ぇ!?」

そんなドンちゃん騒ぎをしながらバイクは街中を走る。

そんなときだった。

遠くから何かが光ってるのが見える。あれは………。

「あぶねぇぞ車田!!」

「あぁ!?」

そういって驚いてる瞬間だった。

遠くの光はミルミルこちらに近づいてくる。あれは……剣!?

「全員飛び降りろぉー!!!」

車田の声に一斉に全員飛び降りる。

その直後に車田が乗っていたカッコイイバイクは物凄い炎を挙げて爆発した。

RBは召還した『ハンゾー』に抱えてもらって、俺と車田は地面に転がりながらも受身を取って着地する。

「俺のバイクがぁー!!!!」

車田が叫んでいる。

まあ…このゲーム終わったら元に戻るんだから……とフォローしたいが逆効果かも知れないのでほっとく。

それより…この剣だ。まるで電車のように物凄いスピードでこちらに突撃してきたぞ。

その剣はどこかのビルに突き刺さると、また物凄いスピードを逆方向に出している。

その途中。誰かが剣の上から飛び降りたのに俺と車田は気付く。

剣がだんだん短くなり、元のサイズに戻ったとき、剣を持っていたゴツイ男も俺達の前に現れる。

あの剣………伸びてるのか?



「やあ、わりと早い再開だね。晴嵐」

「……そうだな。優」

そう、最初に剣に乗ってやってきた男は間違いなく「徳川優」だった。

「なんだ『デュランデル』。知り合いか?」

ゴツイ方の人もこちらに来て優に話しかけている。

「はい。『ラハイヤン』さん。こいつは僕のバスケ仲間ですよ」

「ほぉー、前から言ってた「明知晴嵐」って男か。こいつもこの世界を知っていて、しかも…敵とはなぁ」

ラハイヤンと呼ばれた男は俺を見て感嘆の息を吐く。

こいつ…知ってる。学校でたまに見ては怖そうな人だなぁーって感じたことがある。

「てめぇか……」

そんなときだった。

どこからともなくそんな声が漏れる。憤怒の念が籠もった呟きが。

振り返ってみるとそこには物凄い形相で『ラハイヤン』を睨んでいる車田の姿だった。

「てめぇが俺のバイクを粉々にした犯人だな!!」

「ん?どうせこのゲームが終わったら元に戻るだろう?」

「知るかんなもんっ!ゆるさねぇ……!!てめぇの相手はお前だこの糞やろう!!」

「ほぉ…俺の相手をするか。面白い……貴様知ってるぞ。『ボマー』の車田清五郎だろう」

「あぁ?『ボマー』??」

「うちのビルではそう呼んでるよ。なんでも爆発す期待の新人がいるとか」

優がそう説明している。

そうか……車田の奴にも2つ名がついたのか…。

「あぁー。もう『ボマー』でもなんでもいい。晴嵐!てめぇはそこの『デュランデル』と闘うんだろ?

 だったらこいつは俺の獲物だ………。行け!!RB!!!!」

車田がそう叫ぶと、RBは無言の返事をしてその場から走りさろうとする。

「させるか!!」

『ラハイヤン』は己の剣を伸ばしRBに向けて襲い掛かる。

「させるかよ!!」

俺は剣を燃やし、己の身体を燃やして盾となる。

それでも『ラハイヤン』の剣は突き刺さるが、貫通までは阻止してみせた。

「へへっ、さっきの鼻血がいい効果だったのかもなぁ!!」

『ハンゾー』に乗って移動していたRBの姿はもうない。

『ラハイヤン』は小さく舌打ちをすると剣を元に戻そうとする。

「てめぇの相手は俺だって言ってんだろが!!」

その『ラハイヤン』に車田が襲い掛かる。

彼は避けて車田の攻撃をかわす。地面に車田の紋章が刻まれ、そこが派手に爆発する。

俺がそれをぼーっと見ていると、どこからか殺意を感じ、咄嗟に剣を構える。

その直後だった。かなり重そうな大剣が俺の刀にぶつかったのは。

「へぇ…すごい直観力だね。晴嵐。だけど!!」

そう、俺に斬りかかろうとしていた優の姿があった。

そしてその直後に俺はとてつもなく重たい衝撃に襲われる。これが『重力』か!!!!

俺は土下座するような形で頭を地面に叩きつける。

「どうだい晴嵐。聖なるものの前では誰もが頭を垂れるんだよ」

「…へっ、そうやって異端者を土下座させてきたのか…おめぇ……!!」

「そうさ。全ては『エクスカリバー』聖様の意向だよ」

「おめぇ…そんなつまらない奴だったっけか?」

「うん。そうだよ、晴嵐は僕を買いかぶりすぎたんじゃない??」

そういって俺はその重力に逆らおうと必死に足掻く。炎の力を一箇所に集めて…!!

「……驚いた。その炎…そんなことできるんだ」

優は少し苦笑いを浮かべて俺を見る。

俺は溜めた炎を針のように鋭くして優に突き刺してやったのだ。優の頬を掠った所から血を流す。

「この日のためじゃあねぇけど修行したんでな!!」

今の攻撃で緩んで重力が下がったのに気付き俺は立ち上がり優に挑む。

「行くぜ優!!」

「あぁ!晴嵐!!!」

俺と優の戦いが始まった。





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「くっ!確かにその爆発。厄介だ」

「はっ!そちらさんの剣もめんどくせぇことこの上ねぇよ!!」

そういいながら俺。車田はなんとかスレスレで奴の攻撃をかわす。

奴の剣は変幻自在に伸びたり縮んだり出来るらしい。

しかも大きくなっても物理法則を無視したスピード出してくる。

この剣の仕様なのかハタマタこの『ラハイヤン』の筋力なのか。

大きくなっても小さくなってもスピードが変わらないってのはとても厄介だ。

広範囲に出来る攻撃が普通の剣と同じスピードできたときのことを想像すれば恐怖しか現れない。

とにかく一発。一発あいつの身体に打ち込みゃぁこっちの勝ちなんだ。

あの爆発に耐えれるのは防御に特化した能力者以外不可能に近いはずなんだからな…。


「おい、おめぇ…」

「なんだ。車田清五郎」

「あいつらに茶々入れなくていいのか?あんたの能力なら俺ごとあいつらに攻撃できるだろ」

「あぁいい。『デュランデル』は仕事の出来る男だ。俺の手助けはいらん」

「そうか。俺は信頼して晴嵐ごと巻き込むつもりで戦うけどなぁー!!!」

俺は近くのビルに向けて走りだす。

そのビルを爆発させてここら一体を瓦礫の山にする!俺が助かる確率は高くはないが

不死身の晴嵐なら100%生き残る!!

「それはさせない!!」

強烈な突き。

鈍器のような剣がそうさせた。その直後奴の剣は伸びて俺を押す形で移動していく。

「がはっ!!」

途中ビルを貫通するときの背中に異常な痛みが走る。

途中剣が縮んでいき、俺はその元いた場所より離れた場所に倒れる。

そして数秒すると『ラハイヤン』も俺を追うようにこちらに来た。

「おいおい…あの場合俺を倒すよりも大将に行くもんじゃねぇのか??」

「俺にも矜持がある。お前を倒すという矜持がな」

「へっ!そうかよ……ならあんたをまずは………『爆発』させてやんよ」


こうして俺と『ラハイヤン』との決闘が始まった。





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「……君か」

「そうよ!あたしよ!!この豆チビ女!!」

「ま、豆…!!!」

「あんたなんてねぇ!あたし一人でぶっ倒せるんだから!!」

私。黒金寧々の陣地に現れたのは先に倒した少女『シュワルーズ』だった。

「お前…私に完敗してるんだぞ?よくも挑む気になったな」

「ふんっ!今回はわかんないわよ?それに……そこの女の子も出撃させたほうがいいかもね」

シュワルーズは生意気にその場で待機していた知恵ちゃんを見てそういった。

その後、彼女は言葉を続ける。

「『カリブルヌス』の加護を受けたあたしだったらあんたにも勝てるんだから!!!」

彼女はそういって、まるで何かを待っているかのように空を浮遊し続ける。

「……なら私が潰す。」

最初に動いたのは知恵ちゃんだった

彼女の影が『シュワルーズ』を襲う。

けれど空を飛ぶ彼女はそれをいもと簡単に避ける。

そのとき、彼女の耳につけている通信機からザザーっと電波音が聞こえた。

「…ほら、来るよ♪あたしたちのターンが♪♪」

彼女は通信機から来た言葉を聞いた後、勝ち誇った笑みを浮かべていた。



その直後、彼女は片手を挙げる。

「な、なんだ……あれは………」

私は思わず驚く。

前に闘ったとき、彼女はこんなことをしてこなかった。何が起きたというのだ…!?

彼女が挙げた手が持っていた剣は……

台風と呼んでもいいほどの巨大な風に包まれて巨大な剣の形を描いていた。

「これが…あたし達の力だよ。『ピクシー』!!!」

そういって彼女は、私に向けてその大きな風の剣を振り下ろす。





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エリアのとある場所。

そこには、一人ぽつんと立つ一人の少年がいた。

彼は陣を描き、その陣の中央に己の剣を突き刺していた。

「じゃあ……みんな。頼むよ…。聖様のために」

少年は独り事をぼそりと呟く。

彼の描いている陣から光が発せられ、どこかにそれが流れ出ているようにも見える。

少年はただただそこに立ち続ける。それが彼の役目。いつもの……彼の役目。



「さてっと、僕の仕事はここを守ることだ。僕にはバックアップしか出来ないからね」



そういって彼はただそこに立ち尽くす。


彼は、聖正純のお気に入りである人物で、生徒会庶務を勤める晴嵐たちと同じ高校一年生だ。

特に個性のない。顔も普通。成績も普通。運動神経もよくなければ彼女もいない。

ラノベなどの主人公にするにはもってこいの少年だが、彼はつくづく主人公にはなれそうにない。


それが彼の本質なのだと、彼自身気付いている。

だからこそ彼は自身の出来ることを出来る限りやる。そういう男だった。




彼の名は『上杉隆太』。またの名を――――――――『カリブルヌス』と言った。



                      ☆



「さあ!!あんたなんて捻り潰してやるんだから!!!」

私は思わず驚愕してしまっている。

私は形成したゴーレムが、風で作られる巨大な剣を白羽止めしている状況だ。

ゴーレムの手がボロボロと崩れて言っている。修復をしていくのがとても大変だ。

前に闘ったときは彼女はこんな大それた技が出来なかった。

目で確認できる竜巻がかなり大きい、はっきり言って私のゴーレムよりも大きいのではないだろうか。

それを思いっきり振り下ろしている彼女はかなり余裕の笑みを浮かべていた。

確かに彼女の言うとおり、私でも今の彼女を圧倒するのは難しそうだ……。

「…『ヘル』!!済まないが、『カリブルヌス』とやらを殲滅に行ってくれ!!!」

私は足元で私を見上げていた『ヘル』…葵千恵に対して命令を下す。

口数の少ない葵千恵は何も言わずにそのままとてとてと歩いていっている。

迷わずに言っている様子を見ると、どうやら『カリブルヌス』の居場所がわずかに分かっているのだろうか?

仲間になってくれたのはいいが、なにぶん無口で能力も謎なので私としては少々不安要素のある少女だ。

「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

私が余所見をしている間に、竜巻の大剣を携えた『シュワルーズ』はさらに押し出してくる。

「くっ…!!」

「どう!?あたしはあんたみたいな豆女には負けないんだからっ!!!」

私はゴーレムの身体の一部を崩壊させ、その大きな岩石を『シュワルーズ』に放つ。

「ちっ!」

攻撃をやめて私が飛ばした岩石をその巨大な剣で砕く。

巨大だった剣は二本に分かれて、大きさも半分になる……それでも十分大きすぎるのだが、

あれは単なる風。そうわかっていても、あの巨大な剣を小柄な彼女が振り回すと考えるとゾッとする…。



「済まないな、『シュワルーズ』……私は別に負けてもいいんだよ。普段なら……な」

「あぁ?何言ってんの?あんたは今からこのあたしの風に切り刻まれんのっ!!」

巨大な片方の剣を振り下ろす『シュワルーズ』。

「――――っ!?」

その剣は私のゴーレムが片腕を挙げて見事食い止めた。

「今は……私の友!RBの雪辱戦だ!!君がどれほど頑張ろうと!負けてやるつもりはない!!!」

「……舐めてくれちゃってまぁ…!!!」

『シュワルーズ』は悔しさに思わず歯軋りを立てる。



そこでは、150cmもない小柄な少女達が壮大すぎる争いをしていた。

女同士の闘いのはずが、この戦場で最も迫力があり、力があった。

一人はビル1つ分の大きさの石像を操る少女。一人はビル1つ分の二刀のナイフを使う少女。



少女は過去に最強のチームに属していた一人だった。

その小柄な身体と可愛らしさから人々は『妖精』と呼んでいた。

けれどそれからしばらく経ち、彼女は力に目覚め、その力は人々を恐れさせた。

そして可愛らしい外見への皮肉も込めて悪戯好きの妖精『ピクシー』の名を得た。


少女の名は『メルへニクス』の『王』―――――黒金寧々と言った。





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「寧々ちゃんたち…大丈夫だろうか……」

走っている僕、RBはそんな独り事を漏らしてしまう。

僕には効果はもちろんないけれど、なんとなく発動したのはわかる………隆太さんだ。

彼も参加しているなら、僕達の勝利の可能性が…一気に減る。

「…兄さんは、逃げない……」

僕はそういって踵を返し、ある場所に走るだす。

ゲームでは目的よりも先に、それを援助するものから潰していくのも「常套手段」だ。

縁の下の力持ち。これを潰さないことには絶対に兄さんには……勝てない!!



僕は急いで隆太さんこと、『カリブルヌス』の元へ向かった。




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(急いで、相手を潰さないと…標的としては、織田太朗先輩と、伊達美加子先輩か……)

「あらあら♪お急がし中ですか?『フェンリル』??」

「――っ!?」

突然あたしの前を二本のナイフが飛び出してくる。

あたしは慌ててそれを避けるためにジャンプ。そのまま地に足をつけてあたりを見渡す。

「ここですわよ?」

またも殺気が走った。

慌てて避けるも、ナイフは不思議なことに綺麗な放物線を描きながら再びあたしの元に襲い掛かってくる。

あたしはそれをかろうじて避け続ける……あのナイフ…あたしと同じぐらい速度がある!!!

視線をとある一点に移す。そこには、白い『聖十字騎士団』のユニフォームだろう衣装を身に纏った

ふくよかな身体付きに、長くて綺麗な黒髪…白い服がその髪を強調させている。

物腰も落ち着いた女性は、ただそこに立っていた。

「貴方…『フェンリル』の相手を致します。『ズラフィカール』でございますわ♪♪」

あたしが必死に避け続けているのをいいことに深々と頭を下げてくる。

「こうなったら…!!!!」

あたしはナイフたちの隙間を見つけて、もうスピードで彼女に目掛けて突進する。

「…そうはさせませんわよ」

さっきまでのニコニコ顔はどこにいったのか、急に険しい表情になる伊達先輩。

その瞬間だった。ぐじゅり……と何かが抉れた音がした。

「なっ……」

「…『カリブルヌス』君を倒さない限り、私達に勝つことは不可能ですわよ??」

あたしの背中に…彼女の短剣が突き刺さってしまっていた。

その短剣はまるで反発するようにあたしの背中から離れていき、伊達先輩の手へと吸い込まれていく。

付いた血を払うように短剣を振る伊達先輩。

「私の聖剣『ズラフィカール』は私が許可するまで延々に相手を追い続ける剣ですわ♪

 さあさあ♪早くお逃げにならないと……死にますわよ?」

あたしはその言葉の直後に感じた殺気に怯え、思わず距離を取る。

短剣はあたしの命を狙う狼のように、物凄いスピードであたしに襲い掛かる。

相手の短剣の方が少し早い、追いつかれては肌を掠める。

「さあさあ♪楽しい鬼ごっこの始まりですわぁ~♪」



こうしてあたしと『ズラフィカール』の死の鬼ごっこは始まった―――――――――。





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「…あぁーあ。ついにここにも人が来ちゃったか」

私が向かった先、そこにいた少年はとても嫌そうな顔で私を見てそう言った。

出来たら戦いたくはなかった。そういう顔だろうか?それとも、闘えないから人がきて絶望しているという顔だろうか。

「えーっと、あっ。

 あんたのことは知ってるぜ?『ロキの三兄弟』の『ヘル』だろ?小さい子とは聞いてたけど本当だな。中学生?」

私は別に気にするような質問でもなかったので普通にコクリと頷く。

「んー、なあ?『ヘル』??僕を倒さないとダメ?」

「……貴方のせいでお姉ちゃんたちが大変。だから倒す」

「あららぁー、中学生女子と戦うとか…この世界じゃなかったら逮捕もんだね…はぁ」

気だるそうに頭を掻く目の前の男『カリブルヌス』

私は戦闘態勢を取るべく、足元から影のようなものをうようよと出現させる。


「僕の闘い方って……趣味が悪いんだよなぁー、でもまあこれも会長の命令だ。仕方ないね」

そういうと『カリブルヌス』は地面に刺していた剣を一度引き抜き、私に対して向けた。

「さあ…頑張って耐えろよ?」



その直後だった。私の意識がどこかに吹ッ飛ぶような感覚に襲われたのは――――。

なんだ、身体中から何かが湧き出てきている。怖い、痛い、怖い、痛い、助けて、お姉ちゃん!!!

思わず頭を抱えてしゃがんでしまう。脳内を何かがかき回しているみたいだ。ごちゃごちゃして気持ち悪い。


なんとか意識を保って目の前の『カリブルヌス』を睨みつける。

「な、何を……したの?」

「何も?僕は悪いことは何一つしてないよ」

ただ彼はそう呟くだけだった――――――――。




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俺の能力は『エンチャート』。分かりやすくいえば『他人の強化』だ。

自分を強化するんじゃない。他人を強化するんだ。自分以外のあらゆるものを強化させる能力。

だから僕は表舞台に立つのは嫌いなんだ。ましてはこんな中学生の小さな女の子との戦闘なんて…。

「な、何を……したの?」

悶え苦しみながら『ヘル』は僕に問いかける。

僕がしたのは簡単だ。強化しただけだ。

ただ満タンのペッドボトルの中に水を注いでやっただけだ。

力は充満して、身体を浸食する。持ちすぎた力は己を滅ぼす。

「それにしても………」

見ていていい光景ではなかった。

『ヘル』…ロキの三兄弟の末娘と言うのは知っていたけれど、どうやら足元の黒い『何か』を使っているのだろう。

強化した瞬間にあの『何か』が物凄い速度で暴れだした。まるで『別人格』でもあるようだ…。

今も彼女を中心に黒い湖が広がっているんじゃないかと思うほど、黒くて艶やかな影が広がる。

僕の足元にも影が伸びてきそうだったので離れる。

「やめて!痛い!!お姉ちゃん!!!!」

頭を抱えて叫ぶ少女。

だから嫌なのだ、人と戦うのは……俺の相手を倒す方法は…趣味が悪すぎる。



そんなときだった。

意識が飛んだかのように、首が下がる『ヘル』…逝ったか?

「……へへっ」

そんなとき、不気味な笑みが聞こえてきた。

「…へへっ、ははっ、はははははははははははは!!!!」

間違いない!『ヘル』の声だ。女子中学生特有の甲高い声が響く。

動きが不気味すぎるロボットダンスをしているかのように首がかくかくと動いている彼女は

整った顔立ちはしているが、不気味すぎて可愛いなどと考えるのも愚かなぐらい恐ろしいものに見えた。

「……待っててお姉ちゃん、私が…この人倒す…から」

見開いた目で俺を睨む彼女。片手でぶら下げて持っているクマの人形がより怖さを強調させた。

なんだ!?何が起こってる!?能力の暴走か!?

「――っ!?」

その直後だった。

影から無数の目。目。目。

そしてまるで湧き上がってくるように現れる手、そこから這い出る人の形をしていない人。

なんだよこれ!!なんだよこれ!!!!

影が俺に向かってくる。影は瞬く間に俺を包み込む。

足がまるで沼にはまったかのように沈んでいく。

「くそっ!くそっ!!なんだこの女!!!」

普通は強化されたらエンスト起こしてぶっ倒れるはずなんだ!なんだ……こいつの狂気!

俺は『カリブルヌス』を『ヘル』に向ける。もう一度強化してやる!!

沼から出てきた人ならざる人が俺の脚にしがみついてくる。



けれど途中…。そのしがみつく手が俺の脚から離れた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

頭を抱えて叫び狂う『ヘル』

能力の影が立体化して、『ヘル』に襲い掛かるように包み込んだ。

真っ黒な球体に閉じ込められた『ヘル』を俺はただ呆然と見るしかなかった。


数秒して、黒い球体が水のように沈んでいき、『ヘル』の足元の影へと戻っていく。

現れた彼女は気を失っていた、その直後……彼女は消滅する。ゲームオーバーだったみたいだ。

「あ、危なかった…って言っておいたほうがいいの……かな?」

俺はしばし困惑としてしまう。

あんな化け物を飼っているなんて、どんな神経をしているんだあの子は!それとも、無意識か…。

「と、とにかく…作業に戻ろう」

僕は持っていた『カリブルヌス』を元の陣に戻して突き刺した。




それぞれの闘いが白熱する中

『チームメルへニクス』………一人脱落。



                     ☆





「……『ヘル』が脱落…やっぱり…!!!!」

僕、RBは急いである場所に走っていた。

僕は知っている『聖十字騎士団』の集団戦の闘い方を。

今回はまさにその通り、昔と何も変わっていなかった…。

兄さんが大将を勤めて、最強の『僧侶』『カリブルヌス』を攻撃されない陣営に置くんだ。

カリブルヌスの力は、エンチャート…さらに仲間にだけ遠隔で力を与えることも可能なのだ。

陣を描き、その場にカリブルヌス…上杉隆太さんがいる限り、恐らく他のメンバーが僕らに負けることはない。

この陣営の攻略法は……目の前の敵じゃない!!まずは上杉隆太さんを打ちのめすことにある!


そして僕らのメンバーでそれが可能なのは恐らく寧々ちゃんか……僕だけだ。



「見つけましたよ!!」

「…久しぶりだね。孝明くん。背、高くなった??」

気軽に話しかけてくるカリブルヌス。

額にはなぜか汗が流れている。

「いやぁ…君の仲間の『ヘル』…だっけ?あれは化け物だね。焦ったよ。

 そして君がここにきたってことは俺は……GAMEOVERかな??」

そういいながら隆太さんは地面に突き刺していた剣を引き抜いて、僕に向ける。

「…そういいながら諦めずに足掻くところ。僕は好きですよ、隆太さん」

「お、僕にはそんな長所があったのか。知らなかったよ」

そういうと、彼はおもむろに地面に落ちてる小石を拾う。

石を投げる動作をした瞬間、彼の持つ聖剣。カリブルヌスが光り輝く。

ごく普通のスピードで僕の方に飛んでくる石。けれど僕はそれを慌てて避ける。

避けた先にビルがあった、小石は小さな音を立ててビルの壁に当たる。その直後、クレーターが出現する。


…投げた石をエンチャートで強化したってことか…。

「ものはいい。どれだけ強化しても限度は人間よりも頑丈だからね」

僕が避けている間にまた複数の小石を持っている隆太さんの姿があった。

それをでたらめに上空に投げる隆太さん…これはまずい!!!

「カリブルヌスよ!勝利の剣のなりそこないよ!!加護あるものに力を!!!」

そう叫んだ直後、ただ上空に放り投げただけの小石が霰のように素早く落下してくる。



「……ありがとう。馬頭」

僕は日陰に包まれる。

理由は僕の頭上を召還した馬頭が傘になってくれたからだ。

「…『召還』能力。これで召還されたモンスターは、強化してもパンクしないんだよねぇー…」

「すいません。隆太さん…けれど僕は……兄を止めないといけない」

僕はそういうと、手に真っ白な光を放つ。特別な『召還』をするときのものだ。

「それは、自分のため?それとも……彼女『RB』のため??」

僕と兄さんの過去を全て知る隆太さんは、おもむろにそう聞いてきた。

僕は静かに頷き、そして言葉を紡いだ。

「現れろ……『ロイヤルナイツ』!!!!」

僕が叫んだ直後だった。

僕の後ろには13体の白い鎧を来た騎士達の姿があった。

「懐かしいね…君がジャンヌダルクと呼ばれる所以にもなった…召還」

「使うのはあまり嫌だったんだけどね……もちろん兄さんには意味ないから使わないよ。

 これは僕の決別の証だ!僕はこの『ロイヤルナイツ』を貴方達のためじゃない。『メルへニクス』のために使う!」



「…これは僕の、完敗だね。んー三下らしい言葉を残しておこう。

 僕を倒してやっと、第①段階完了ってところだ。僕の力なしでもみんな強い。僕なんかよりもね」

そういって彼は降参宣言をして消滅していった。



『聖十字騎士団』から一人…『カリブルヌス』の上杉隆太……脱落。





聖十字騎士団領地。

「隆太が負けた……か。相手は孝明だろうね。僕のところに来るのかな」

そこでは一人、聖者『聖正純』がただただ来る敵を待っていた。




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「くっ!!」

「どうしたの晴嵐!君はこの程度だったのかい!?」

俺は優との剣戟を繰り広げていた。

急に強くなりやがった優に押し負けそうになっているのが悔しかったが

優の強さは認めざるを得なかった。そんなときだった。一瞬優の動きが鈍く感じられたのは

「そこだ!!」

俺は刀を大振りする。

優も自分の力の減退に驚いたのか、俺が振った刀に圧し負けてそのままバックステップして距離を取る。

「…どうやら上杉君が負けたみたいだね」

なにやら独り言を漏らしている優。

「ごめんね晴嵐、僕らのチームはさっきまでドーピングしてたみたいなもんなんだ。スポーツ選手だったら反則だね。

 でも……君の能力はもっと反則的だ。それぐらい……許してくれるだろ?」

不敵に笑う優。

そんなドーピングがなくても、優が強い。その事実だけあればいいんだと俺は感じていた。



「とにかく!俺はお前に先輩を攻撃させない!ここは絶対にとおさない!!」

「君がそのつもりなら!僕は全力で君を叩き潰すよ!!!」

そういって互いに走り出し、互いの身体を切り裂こうと襲い掛かる。




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「へっ!向こうも派手にやってんだな!」

「お前は意外とおしゃべりだな。少しは黙って闘えんのか」

「へっ!やなこった!!話して闘うのも相手を錯乱させる作戦になるんだぜ!?」

「貴様の押した韻など、俺には効かんぞ!」

かなり長くした剣を振り回すラハイヤンこと織田太朗と俺、車田清五郎の闘いは続いていた。


隙を付いて地面に韻を押すのだが、なにぶんラハイヤンは剣を伸縮させるだけで一歩も動かない。

地雷を仕掛けても向こうが動かないんだったらこれの意味はほとんどねぇ!!!!

「さあどうした?無駄に地雷を仕掛けても無意味だぞ??」

「くそっ!!」


苦戦する俺とラハイヤンの闘いは続く。




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もう!何なのあの女!!

私、伊達美加子ことズラフィカールは少しいらだちを覚えていた。

私が持つ聖剣『ズラフィカール』は他者を特殊な磁力で追い詰めると言う能力を持っている。

簡単に言えばミサイル機能のついたものだ。向こうが早ければこちらも最大限まで早くできる。


けれど!けれど!!あの女は捕らえられない!!

隆太くんの能力で強化されていたときは捕らえられていた。彼女の身体中の傷がその証拠。

隆太くんが負けてからだ。彼女をズラフィカールでも捕らえれなくなっているのは…。

「くそっくそっくそっ!!!」

「どうしたんですか?伊達先輩??取り乱したらいつものお淑やかさはどこに??」

その言葉にさらに苛立ちを覚える。さらに顔が歪む!

「消えろ!消えろ!!消えてしまいなさい!!正純様の邪魔をするものはわたくしが斬るのです!!」



何度叫んでも、攻撃は届かない。届いたとしても少しかするだけだ。

それにより一層いらだちを覚える私。もはや発狂してしまうほどである。



「へぇー…それがあんたの正義なんだ。伊達美加子先輩…」

光速移動しながら、彼女は私の耳に届くように言葉を紡ぐ。


「なら、あたしはあたし達兄弟を救ってくれた晴嵐と、その仲間のために闘う!!

 このままだったら、先輩とあたしは決着付かず……それでもいいわよ!あんたはあたしの相手をしている間

 他の奴に手は出せない!!」


この女…勝負を逃げた!

勝利をこだわらずに、わたくしの動きを封じることだけに集中してきましたわ!!


こうなったら……わたくしに出来る手段は…何もない。王手をかけられたですわ。




バトルは徐々に終盤へと向かっていく。




そして――――――――――。

「久しぶりだね。兄さん」

「そうだね……孝明」

二人の兄弟が見つめあい、バトルの流れに拍車がかかる――――――。




                        ☆





「……本当、噂以上だねぇ…」

僕、徳川優は目の前の少年を見て驚愕していた。

こんなの…本当に反則だ……!!!


目の前にいる男は、僕が『デュランデル』を使って打ちのめしたはずだ。

僕の聖剣の能力『重力の支配』は、剣先で触れたあらゆるものの重力を支配できる。

テクニックがいるけれど、剣先に触れている『空気』を通して相手に重圧を与えることもできる。

自分が強いなんて傲慢は感じていないが、弱いと自分を卑下することもない。それほど僕の力は有効なはずだ。



それでも、目の前の男は僕以上だったんだ。

「まるで……不死鳥じゃないか…」


僕の目の前にそびえ立つ男は、もはや人外の姿をしていた。

赤…いや、紅の炎を纏い、ユラユラと炎が揺らめいていた。人のシルエットを成していなかった。

それが僕の大親友――――――――明智晴嵐と言った。





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「やあ、孝明。久しぶりだね」

「……兄さん!!」

僕は目の前の男を睨みつける。

聖正純…。『聖財閥』の御曹司、明智さんや寧々ちゃんが通う高校の生徒会長。そして『聖十字騎士団』のボス。

最強の聖剣。勝利を約束された聖剣『エクスカリバー』を持つ男。そして……僕の兄。



僕は召還術式を開放させる。

地面に現れた陣から出てきたのはただ一本の剣。

「……どうしたの?孝明、召還ってモンスターを出すものだよね?どうして剣を出したの??」

兄さんはわざとらしい疑問府を浮かべて僕に問いかける。

「うん。だって兄さんには『馬頭牛頭』も『伊甲賀』も『ロイヤルナイツ』も意味を成さないからね」

「ふぅーん。それで?その剣はなんなの?」

「企業秘密だよっ!!」

その言葉と同時に僕は持っていた剣を持ち、兄さんに襲い掛かる。

兄さんも剣を鞘から抜き、僕の剣を受け止める。

「君…剣も召還できたの??」

「生憎…僕が召還できるのは『モンスター』だけだよ」

お互いバックステップで距離を測り、互いに言葉を交わる。

兄さんが持つ剣は見とれるほど綺麗な光を放っていた……本当、兄さんを具現化させたような剣だ。

「ねえ、孝明。1つ聞いてもいいかな?」

「何?」

突然話しかけてきた兄さんに、僕は少し不機嫌気味に答える。どうせ僕が不快になるような質問だからだ。

「君のRBって名前の由来……《ヴィヴィアン》のことを考えてるんじゃないかな?」

「―っ!?」

「図星か。君は優しいからね」

「兄さんはっ!?何とも思ってないのかい!?《ヴィヴィアン》が……涼子さんをあんな目にあわせて!!」

「何とも思わないね、彼女は『秩序』を守らなかった…法を守らなかった。それだけだよ」

「―っ!?貴方って人は…!!!」

「さあ、孝明…再び《ジャンヌダルク》として、僕らの元へ戻るんだ」

そういって兄さんは僕に襲い掛かる。僕は剣でそれを受け、なんとか防ぐ。

剣戟は続き、僕はなんとか兄さんの剣を受け止め続ける。

「驚いた。よく僕の攻撃を受け止めれるね、その剣のおかげ?」

「うん!そうだよっ!!兄さん達は聖剣を武器と思ってるだろうけど、僕は違う!!」

そう叫び、僕は兄さんの隙を見つけて思いっきり剣を振るう。

受け止めた兄さんは勢い余って足を地面に擦らせながら僕との距離を遠のかせる。

【とりあえずは互角だな。少年】

「あぁ、そうだね…」

僕とどこかから聞こえた声に驚く兄さん。

「孝明?今…その剣……しゃべらなかったかい?」



「…うん。そうだよ、これが僕が兄さん対策に契約した生きた聖剣……『カリバーン』だ」

そして、僕と兄さんとの闘いは続く。






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俺は、優との戦闘を繰り広げていた。

優の強さは予想以上だった。おかげで身体はボロボロ……でも、おかげで!!!

「パワーは十分だコノヤロー!」

俺は炎を勢いよく噴出させる。

「は、はや―っ!?」

何かを言おうとしていた優のことばを遮るようにぶん殴り、飛ばす。

飛んでいった優は、壁の衝突を防ぐためか、

自分自身に重力を与え、まるで足が杭になったかのように地面に突き刺さる。

「僕は負けないよ!!」

優は剣を構える。その直後に俺に重い気圧が襲い掛かってくる。

くそっ…!!うごけねぇー!!!立ってられるのが限界だ……!!

俺の体重が重くなり、どんどん地面に足が埋め尽くされていく。

ついに耐え切れなくなった俺は頭から地面に叩きつけられる。やっば…頭が割れる……!!

その直後、頭から炎を噴出。本当に便利だとこのとき改めて痛感した。

「…ははっ、本当…便利だねその能力……」

優が顔を歪ませながら、作り笑いを浮かべていった。

「あぁ、自分でもちょっと怖くなるぜ…」

「でも、僕は足掻かせてもらうよ。こうなったら立場は逆だ。君を絶対に聖さんのところには行かせない」

そう言った優の目には、決意がこもっていた。

「…そんなにその『聖正純』がいいのか?俺には弟を道具としか思ってねぇ野郎にしか思えないんだけど?」

「僕は昔のことは知らない。《ジャンヌダルク》が抜けてからの新入りだからね。

 確かに、彼のやり方は横暴だ。捕まった犯罪者はみんな死刑。そんな正義を持っている。

 でも、僕はそんな彼のやり方が正しいと思っている……。正義とは…優しいことじゃないんだ」

「優って名前のやつが、正義は優しいってことじゃないとか言っちゃう?一番人に優しいお前が??」

「ん?僕は優しく見えたのかな?晴嵐。なら、見当違いかも知れないよ??」

「……今思い返したら俺、お前に一回もノートとか見せてもらったことねぇわ…」

「うん、頼まれても断ってからね」

「まあ、それも1つの優しさだと思うぜ?…俺は困るけど」

「そういってくれると嬉しいよ」

「けど、『優しい』とか『正義』はどうだっていいんだよ。俺が闘ってんのは、ただRBのためなんだからな」

「……それもそうだね!僕も聖さんのために戦う!!!」

お互い同時の攻撃。

剣で、拳での殴りあい、同じコートで闘う同士が、同じ戦場で殴りあう。異様な光景だった。

こんな真剣で、殺気の溢れた顔の優…見たことがない。

いつも優しく笑いかけてて、真剣な顔はするけどそれでも俺達には微笑んでくれる。そういう奴だった。

けれど目の前の優は殺気に溢れていた。それほど本気で俺と闘おうという意志があるのが窺えた。

「だからこそ……倒すんだ」

俺がそう呟いた瞬間だった。

俺の拳が優の顔面を貫く、炎を纏った拳の威力は絶大で、優はそのまま地面に無残に転がされる。

「はぁ…はぁ……」

思わず息を荒くして、優が立ち上がるのを待つ俺。

けれど優は立ち上がらない。デュランデルも手元から離れてしまっている。

「ははっ!やっぱりすごいや…晴嵐は!!」

倒れていた優が、空を見上げながら言った。

「僕は君が好きだ!そういう熱血な所が!!君が僕を親友と呼んでくれることを誇りに思うよ!!」

そう叫んでいた優。

親友とは言え、さっきまで殴っていた相手にここまで賞賛されるとなんか照れくさいと同時に変な気分になる。

「君はすごいよ!まるで不死鳥!!

 何度折っても、倒れない諦めない!!初めて会った日からそういう君に憧れてたよ」

そういいながら、優はリタイア消滅の光に包まれる。

「僕の負けだ晴嵐…。敵の僕が応援するのは変だけど、聖さんの弟君……応援してあげてね?」

「おう、わかってんよ」

そういって俺は手を伸ばしてくる優の握った拳に自身の拳を軽く当てた。



こうして、『聖十字騎士団』が一人、徳川優は、脱落した。





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「へっ!向こうも頑張ってるじゃねぇか!!」

「余所見をしてたら命取りだぞ!!」

「おっと!!」

ラハイヤンの伸びた剣が俺の腹部を切り裂く。

強烈な痛みと共に、血が流れる…。

他にも体中傷だらけだ。それに対してラハイヤンの野郎一歩も動かないから傷1つない。

「…よっし!!決めた!!」

「ん?何をだ??」

「幕引きの算段だよ!ラハイヤンさんよぉー!!

 ここいらで、脇役は脇役らしく……消えようじゃねぇか!!」

「…俺を脇役と言うか。まあ、否定はしないが、消えるのは貴様だ!!『ボマー』!!!!」

そういって俺に向かって剣を伸ばしてくるラハイヤン。

怯えるな。これは作戦だ。安心しろ。今から起こるようなこと、近くで頑張ってるバカ野郎はいつも経験してる!!

「―っ!?貴様何をっ!?」

途中で気付いたのか、ラハイヤンはその顔に驚愕を浮かべる。

「あぁ?何をって??てめぇを倒すための行動だよ」

そういった直後、ぶすり…と、生々しい音が耳の鼓膜を揺らす。

激痛。激痛。激痛。脳内をその痛みが占領する。

見ようとしてなくても見てしまう腹部。そこには聖剣ラハイヤンは突き刺さっていた。

「貴様……どういうつもりだ!!」

「どういうつもりって…《ラハイヤン》。さっきも言っただろう?あんたを倒すって……。

 これでてめぇは剣を振り回しても、伸ばしても意味はねぇ……そして…」

そういいながら、俺は、自分の手を刺さっている剣の上に置いた。

「なあ、《ラハイヤン》。てめぇに聞きたい。この剣は伸びてても結局は一本の剣だよなァ?」

「……き、貴様!何を考えてる」

「なぁに…ちょっと兄貴離れしようと頑張ってる友達の友達のために、人肌脱ごうって思ってるだけだよ」

その直後。

剣の上に複数の陣が列を成して展開される。

「しまっ――――」

「さてっと……俺達脇役は、仲良く消えようぜ!!BOMB!!」



その言葉と同時に、戦場中心部で豪快な爆発が起きた。

戦場に残る7人の戦士全員がその爆発に思わず目を見やる。



「へへっ!どうだぁー…。俺様お得意…相打ち自殺爆発……だ…ぜ……」

強がったそんな言葉を吐きながら…俺、車田清五郎は倒れてしまい、意識を失った。

《ボマー》車田清五郎。

《ラハイヤン》織田太朗。脱落。





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「…正純くん。またバカやっちゃってるんだろうなぁー」

一人の女性は、自分の部屋であろう場所で、窓から外を見上げながらそんな言葉を口にしていた。



髪の長い、綺麗な女性だ。

部屋着だろうか水色のワンピースを来ている彼女はさながら湖が似合う女性だろうと思った

彼女はつぶやいたあと、一つの写真を見やる。

そこに写っているのは、とても綺麗な笑顔を浮かべる聖正純、少し照れくさそうなその弟。

そして、その真ん中で明るい笑顔で写っている……自分。



彼女は過去に、『ロイヤルナイツ』の初期メンバーにして、かなりの実力者だった。

王だった《ジャンヌ・ダルク》を支えた《エクスカリバー》を、鍛えた少女とも言われていた。



王アーサーに、その勝利のエクスカリバーを渡した少女がいた。

少女は《湖の乙女》と呼ばれているが、様々な実名が存在する。

その一つ……《ヴィヴィアン》の名を過去に襲名していた少女は、兄弟の行く末を不安に思いため息を漏らす。




少女の名を『馬場園涼子』と言った。

すべては……彼女から始まった――――――――。




                     ☆






「兄さん!!」

僕は、昔は兄のことを尊敬していた。

なんでもできて、みんなに信頼されていて、それでも慢心しない兄が大好きだった。

でも、それ本当に昔のこと…。まだ僕が自我を形成し始めた幼い頃からだった…。



だんだん、なんでもできる兄を疎ましくも思ってしまったのだ。

そんなとき……僕は『スカイスクレイパー』を知る。

《ヴィヴィアン》…馬場園涼子さんから教えてもらって……。


僕と兄さんはこの世界に入った。

楽しかった。

やっぱり兄さんには勝てなかったけれど、それでも毎日が楽しかった。

戦って、ポイントを稼いで、僕の能力『召喚』で呼ぶ契約をしたり…毎日が充実していた。

僕が契約もせずに最初から召喚できたものは、『ロイヤルナイツ』…大量の騎士軍団だった。

スカイスクレイパーの人々は僕のことを『異能系』と言って、崇めだした。

僕、兄さん、馬場園涼子さんはどんどん力を伸ばし、そして……一つの組織を作り上げた。



組織名は僕が召喚した騎士団と同じ名前…『ロイヤルナイツ』となった。




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「どうしたの?孝明??」

「あ、涼子さん。次はどこを攻めようかって思ってね」

「んー、最近ここには『メルへニクス』って少人数の強い組織があるらしいよ?

 私実は一回戦ったけど、すごかったよ…。闘った人に言われちゃった。『私は新人で下っ端だ』って…。

 苦戦して勝ったのに、これ以上がまだまだいるんだぁーってびっくりしちゃったよ」

彼女は笑顔で僕にそう言った。

彼女……馬場園涼子は僕らにとって姉のような存在で、とにかく自由な女性だった。

『ロイヤルナイツ』を作っても、組織として動かさず放浪として、ふらっと帰ってくる。

そうしては「こういう強者と闘ったぁー」だの「あいつに負けてくやしー!」などいろいろ話してくれた。

家柄上、自由なことが出来なかった僕には、彼女がとても眩しいものにみえた。

そう、僕はこの人のことに初恋のような感情を抱いていたのかもしれない。



「ん?二人ともどうしたの??」

「あ、正純!なんか孝明が次の作戦考えてるんだって」

「へぇー、どれどれ?」

僕は兄さんよりも事戦略では優れていた。

兄さんの陰に埋もれてふてくされてた僕は、ネットゲームにハマっていたのだけれど…それが理由だろう。

一つでも兄に勝っているものがある。それが僕にとっては嬉しいことだった。

しかも、この『異能系』能力を崇める形で、『ロイヤルナイツ』は構成されていき、ボスは僕だった。



兄さんはとにかくすごかった。

この世界に入ってから、負け知らず…光り輝く剣を使うことから最初は《アーサー》と言う名を持っていたが

本人は自らを『弱者』と謡い続けていたことから、強いのは彼ではなくその剣だ。と言う風潮が流れ、ついた名が

勝利を約束された聖剣……《エクスカリバー》だった。


そしてそんな兄さんとタッグを組んでいて、彼をこの世界に導き、鍛えた本人として馬場園涼子さんには

その長く綺麗な髪と、普段来ている水色の服がまるで湖のようだと言われついた《ヴィヴィアン》と名を得た。


そして僕は、小学生にして、最強の騎士軍団を率いて闘っていた。

そして皮肉にも、男とも女とも取れる抽象的な顔が功を奏して付いた名が

十代で大量の軍を率いてオルレアンを開放した女戦士ジャンヌ・ダルクの名を得た。


こうして、僕ら『ロイヤルナイツ』の名は広まり、勢力も大きくなり…一つのビルを制圧した。

そこからだったんだ、兄さん……《エクスカリバー》が変わってしまったのは……。




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「我々!ロイヤルナイツは、清く!そして強くなければならない!!

 我々は騎士だ!秩序を守り、公平なる世界を、このビルで作ろうと思う!!!」

兄さんが突然掲げた立案は、瞬く間にビル全土を飲み込んだ。

ちょうどその頃『ロイヤルナイツ』に対する反乱分子、そしてマナーの悪い暴虐な戦い方をするものが増えたのが

この立案が広がっていった結果だろう。

この頃だろうか、兄さんが伊達美加子、織田太朗を誘い、上杉隆太が気に入られて幹部入りしたのも。



そして…馬場園涼子さんの遠征が増えたのもこの時期だった。


そして……僕もそんな『ロイヤルナイツ』の居心地が、なんだか悪く感じたときだった。

「ねぇ?孝明??あんたはどう思ってるの??」

「…何が?」

「…正純のこと」

「兄さんはすごい。ロイヤルナイツをまとめあげている。僕はそんな兵士たちを使役するだけでいいんだもん」

「今の正純…好き??」

その質問に、僕は答えることが出来なかった。

兄さんは憧れる。けれど…あのときの兄さんは……何かが違った。

兄さんが間違ったことをしていたって言うわけじゃない。だからこそ答えれなかったんだと思う。

モヤモヤとした何かが…兄さんが何か違うような気がすると錯覚させているだけなんじゃないか。そうとも考えた。

「…涼子さんは、兄さんのことどう思ってるの??僕知ってるんだよ。涼子さんが兄さんの事好きなの」

「あぁー、バレてた?」

軽い感じで答えた涼子さん。

けれど、彼女の言葉に僕は少し心を傷つけられる。

その後、すぐ…涼子さんは言葉を続ける。

「……まあでも、今の正純は…つまんないかな」

「つまんない?」

「うん。なんかね…。変わっちゃったね」

そういって涼子さんは立ち上がった。

「さてっと、またどっか遠くにふらぁ~っと出かけたいけど、

 今じゃあリーダーがその補佐に許可もらわないといけないんだよねぇー……孝明?許可くれる??

 あ、なんだったら一緒に外のビルにいかない??まだまだ楽しい奴らがいっぱいいるんだよ?」

「……僕は行けない。許可は僕が兄さんに言っておくから、行ってきなよ」

僕はそっけなくそういうと、涼子さんは少し悲しい顔して、僕のところから去っていった。




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それから僕は、

中学のテスト期間で、兄さんに『ロイヤルナイツ』を任せてしばしスカイスクレイパーに行かなかったことがあった。

そしてテストを終えて戻ってきたとき……《ヴィヴィアン》の姿がなかった。

また遠征に出ているのだろう…と僕は彼女を待った。けれど、いつまで経っても彼女は戻ってこない。



そして数日して知ったのだ。僕がいなかった間に、何があったのかを――――――――。






「正純!!」

「…どうしたの?《ヴィヴィアン》?」

「二つ名なんかで呼ぶな!余所余所しい。あんた…他のビルから来たものを断罪してるって聞いたんだけど?」

「あぁ、そうだよ?このビルに僕らの仲間以外は不要だ。仲間になる気もない放浪者は断罪する」

「……アンタねぇ…!!!!」

「反逆の意思を見せるのかい?《ヴィヴィアン》??」

「あんた!今何やってるのかわかってるの!?」

「わかってるよ。このビルは仲間が場所だ。部外者である彼らの平和を脅かすよそ者は排除する。

 罪を犯したものは逮捕され、罪を償わされる。部外者がこちらのルールを守らないなら、断罪する…」

兄さんの言っていることも一理ある。

自分たちに害になりそうなものは遠ざけたいものだ。それも一つの正義。否定はしない。けれど…。

このときの涼子さんにとって、その考えは理解に苦しむものだったんだ。

「あんた……一回頭を冷やさないといけないようねぇ…!!!」


こうして、涼子さんは兄さんに楯突いた。

兄さんもこの組織の断罪方式を採用し…涼子さんを断罪した。

幹部である『騎士団』全員を相手にしないといけないと言うものだった。

幹部は兄さんも入れて13人。さらに兄さんは涼子さんの強さを知っていたから普通の兵士も戦場に入れた。

少し嫌々ながらやっていた隆太さんにあとから聞いた。

彼は兄さんのやり方を正しいとも間違ってるとも思わず付き従ってるから、こういう時僕にも味方してくれて助かった。

涼子さんは、100を超える的を次々となぎ払い、伊達美香子、織田太郎も倒し、隆太さんももちろん負けた。

何度やられても、ポイントがある限り敵と戦い、なぎ倒していった。

けれど、兄さんとの戦いで…やはり勝つことが出来なかった。

兄さんの最後の一突きで…涼子さんのポイントは全て失われて…彼女はこの世界に姿を現すことが出来なくなった




それを知った僕は…兄さん、そして『ロイヤルナイツ』から………逃げ出した。




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その後、僕は未開の地であるビルにたどり着いた。

そこで新人としてやっていこう。ジャンヌの名が広がっただけで、僕の顔自体は誰も知らないはずだ。



そんなときだった。

一人、僕よりも小さな子がいた。なんでかわからないけれど…僕と同じような雰囲気を醸し出していた。

そう……『孤独』と言う雰囲気。

「君…僕と同年代かな?」

なんで声をかけたのか僕も覚えてない。

「…君はいくつだ?」

「え?僕は13歳だけど…」

「…わ、私はこう見えても16だぁー!!!!」

そうだった。初めてあったときは怒られたんだった。

このとき僕は彼女がかなり強い『ピクシー』と呼ばれているとは知らなかった。


そしてなぜか、その日から僕は彼女とつるむようになった。

孤独なもの通しが、傷を舐め合いたかっただけかもしれない。

そしてなにより僕が……この人に付いていこうと誓ってしまったのだと思う。


ひとりでも気高い強き妖精『ピクシー』



「僕と君は……一人ぼっちだった。

 だからこそ僕は…君に付き従うことを決めたんだ」




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「だからこそ、このゲーム。あの人の敗北と言う形では終わらせない!いくよ!!『カリバーン』!!」

【御意!】

僕は兄さんに攻撃をしかける。

互いの剣と剣がぶつかり合う。


「僕が兄さんにわからせてやる!涼子さんを断罪した罪と!あの人に戦いを挑んだと言う愚かさを!」

「ふっ…僕の剣の能力を無意味にしただけでイキがっちゃあいけないよ。孝明」

「っ!?」

その直後だった。僕は兄さんに地面に叩きつけられたんだと気づいてしまう。


「能力がなくても…お前なんかに僕は負けないよ?」

兄さんの殺意ある目は…僕に恐怖を植え付けた。

兄さんが剣を振り上げ、僕の首めがけてふり下ろそうとする。

僕は慌てて体を転がし、それを避ける。

「さあ!本気を出してみなよ!孝明!!」

転がり、立ち上がった僕に間髪いれずに襲いかかってくる兄さん。

カリバーンの助けがあるとしても、やはり兄さんの剣術は一枚上手だ。



兄さんはまだ余裕がありそうだが、僕は彼の攻撃を受け流すのが精一杯。


「終わりだ。孝明」

「しまっ!!」

一瞬の隙だった。

兄さんは剣を下から上に舐めるように振り上げる。

その剣先は、僕の腹から胸にかけて大きな傷をつけた。


吹き出す血、意識が朦朧としてくる。

あぁ…やっぱり僕じゃあ…兄さんに勝てないのか………。



「諦めんじゃねえぞ!RB!!!」


その直後だった。

僕の身体が燃えた気がした。……いや、本当に燃えてる!?



「へぇ…デュランデルを倒してここにきたのかい?」

倒れている僕が兄さんが見ている場所を見てみると、そこにいたのは…。


「あ、明智…さん……」

僕の声を聞いた彼は、僕の方を見て、一言。言った。



「諦めてんじゃねえぞ!RB!!みんなお前のために頑張ってんだ!兄貴なんかぶっ倒せ!!!!」

僕は、その言葉を聞いて少し涙が流れた。


【小僧。できるか?】

「うん、できるよ…カリバーン」


僕は、明智さんを見て隙だらけだった兄さんを払い除け、立ち上がる。

「わかってますよ!そんなこと!!!だから…邪魔しないでくださいね」



そういってすぐ、僕は言葉を続けた。

「兄さんは……僕が絶対に倒す!」



そして、僕と兄さんの…決別の決戦は始まる。



                    ☆




孝明――――。

どうして、そんな目をしているんだ?

お前と僕は、いつも一緒だったじゃないか…。

幼いころから、お前は僕の弟で、僕はお前の兄だったんだ。

僕は君になんでもしてきた。守ってきた。そして、自慢じゃあないが弟にないものはなかった。

僕は頑張ってきた。今まで負けたことはなかった。


弟の孝明は僕が道を示せばいい。そう思っていた。

弟は僕とは違う。凡人だ…。親にもそういわれていたし、そう教育されていた。

なのに―――なのに―――――――。




なんだ、この孝明の目は!?

僕に対して放つ、この異様なオーラは!?

僕が持っていない…目の光を持っているんだ!!




「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

僕は焦っていた。

なぜか。簡単だ…怖かったんだ。孝明に負けるかも知れないという恐怖が。

いくら叩き割っても孝明はくじけずに僕に挑んでくる孝明が末恐ろしかった。

しかも孝明は、『カリバーン』と言う剣一本で僕に挑んできている。

孝明の能力は『召還』…決して身体能力のサポートは受けていないはずだ。こんな動き出来るはずがない!


それに、僕の剣『エクスカリバー』の能力が適応されていない。

恐らく孝明が僕と戦うために契約した召喚獣だ。対策はばっちり……か。

「それでもまだ!!僕は負けない!!!!」

僕は孝明を振り払うように剣を振るう。彼は僕の力に圧し負けて飛ばされる。

「はぁ…はぁ……」

【小僧?大丈夫か??】

「う、うん…大丈夫……だよ」

息を荒くしている孝明が剣である『カリバーン』と話していた。

そして、また立ち上がる。あの目だ…あの目が僕の心をかき乱す!!!!

「まだまだだよ……兄さん」

ドスの聞いた声で、孝明はそう囁く。

僕は形相を変え、孝明に対して襲い掛かる。

気に喰わない!気に喰わない!!孝明が僕の知らないところで変わっているのが気に喰わない!!





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兄さんのあんな顔…初めてみた。

息を荒くしながら僕は兄さんの顔を見た。

苛立っている。怒っている。激怒している…。

目が血走っている。殺気立っている。あんな兄さんを見たのは初めてだ。

兄さんはいつの間に変わってしまったのか……僕はそう考えると寂しい気持ちに襲われる。

最強だったが故に、力に溺れた人、正しかったが故に、正義に溺れた人…。

それが今の兄さんだ。昔の、優しくて頼もしい兄さんの姿は、見る影もない。

誰かが兄さんを止めないといけない。たとえ兄さんが『最強』であっても、誰かがへし折らないといけない。



兄さんはまた僕に襲い掛かる。

僕は身体の力を抜く。腕が勝手に動き、兄さんの剣戟を阻止する。

そう、僕が闘っているんじゃない。『カリバーン』が闘っているのだ。

僕は『カリバーン』の動きに従い、彼の考えに則って行動する。

僕にとっては不可能な動きも、カリバーンがサポートしてくれることで動くことが出来る。


気のせいか、兄さんから受けた攻撃の傷口から、仄かに小さな炎が舞い、傷を塞ぐ。

さっき受けた明知さんの炎が微かに残っていて、それが治癒能力を与えているのか?

他者を回復させることも出来るのか?この炎は??

兄さんとの攻防戦は続く。

傷が増えるたびに炎は小さくなって、僕を回復させてくれる。




しかし、時間が来てついに炎がなくなってしまう。

これで僕を守ってくれるものはなくなった…。今いる明知さんにそれを教えてもいいが……。

「やっぱり…自分で闘わないとダメだよね……」

小さい声で呟いた僕は兄さんの腹部目掛けて突きを放つ。

兄さんは剣を剣で受け止めて防ぐ。やっぱり強い……。

僕はカウンターを恐れて急いでバックステップで距離を取る。

「いけぇ!RB!!!そんな兄貴ぎったんぎったんに斬ってやれ!!!」

僕らの対決を見て、声援を送ってくる明知先輩。

自分が倒す相手…『徳川優』を打ち破ったのだろう。身体は傷だらけだ。

炎を纏ってもまだ傷がいくらか見える。よっぽどの激闘だったのだろう。

「……簡単に言いますねぇ、本当…」

僕は嘲笑しながら呟く。

明知さんも、倒したんだ…。自分の目標を!!

「わかってますよ!!そんなこと!!!!」

【……やるんだな?】

「うん。お願い」

【承知した】

そういうと、カリバーンは突然眩い光を放つ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

僕は光輝くカリバーンを思いっきり振り下ろす。

その光は、まるでエネルギー弾のように兄さんに向かって放出される。

「…孝明、失策をしたね。一番わかっているはずだ。僕がそういうを『効かない』ってこと」

そういうと、兄さんはまるで埃を払うように、軽く、剣を振った。

その剣が放出されたエネルギーに触れた瞬間にはじけ飛んでしまった。

そう。兄さんのエクスカリバーの能力は『無効化』相手の能力も全て無意味と貸す。

この能力を持つ兄さんは、自分が強くなるのではなく、周りを弱くするのだ。隆太さんとは真逆の能力だ。

隆太さんは、みんなを持ち上げて自分を下にする能力だけれど

兄さんは、みんなを引き摺り下ろして、自分を上にする能力。

今まで人生の失敗をしたことのない兄さんそのものだと僕は感慨深く思う。



だからこそ!攻める場所はある!!

「っ!?」

エネルギー弾を無効化した兄さんのすぐ目の前に僕が構える。

兄さんは予想だにしなかったのか慌てて僕に切りかかる。僕は斬り捨てられる。

「……なんだ、これは!?」

と、同時に…兄さんの背中を僕が切り裂いた。

「サスケ…化ける能力を持った僕の『召喚獣』だよ」

僕は突き刺さった剣を引き抜く。兄さんの背中と腹部から血が流れる。

兄さんは剣を振り回し、僕の肩を剣が掠める。

兄さんは恐ろしい形相で僕に襲い掛かる。

「しまっ!?」

僕は慌ててカリバーンを投げ、隣の手に持ち帰る。

その直後だった。僕がさっきまでカリバーンを持っていた右手が…切り落とされた。

「―――っ!?」

あまりの痛みに気を失いそうになる。

明知さんはいつもこんな痛みに耐えているのか!?

兄さんは追撃してくることなく、吐血していた。僕の攻撃も効いてくれているみたいだ。

「…『召喚獣』は、意味がないんじゃなかったっけ?」

兄さんは皮肉めいた声音で僕に聞いてくる。

「そう言って置いたほうが兄さんを油断させられるからね…」

「本当……お前は悪い子だよ!!」

兄さんにも意地があるのか痛みに耐えたゆがんだ表情のまま、僕に襲い掛かってくる。

兄さんとの喧嘩も…ここまでだ。

(ちょっと前から、実は憧れていたんだよね……)

心の中で呟くと、僕は自分の剣の表面を、斬り捨てられた右腕の傷口につける。

剣の表面が、僕の色で真っ赤になる。

「あっ、ごめんカリバーン。嫌だった?」

【いや、むしろ良い。根性と気持ちの籠もった真紅の鉄分よ】

「…ありがとう。」


実際に炎は上がっているわけがないはずだ。

けれど、僕の剣は、明知さんのように、綺麗な炎を纏っている…そんな幻覚が見えた。



「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

そして、ボロボロの僕と兄さんの攻撃は、同時に行われた。





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「…どうやら、終わったようだな」

「はぁ!?あんたらのとこのメガネ負けたの!?」

「いや……どうやら君のとこの大将みたいだぞ?」

「嘘っ!?正純様が負けるわけないじゃない!!」

「負けたものは仕方ないだろう?では…このゲーム楽しかったぞ。またやろう『シュワルーズ』」

「ふっ、ふん!かっこつけてんじゃないわよ!!絶対にぶっ倒してやるんだから!!」



そういって、ずっと闘ってきた小さき巨人達は、エリアから消滅した。





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「はぁ…はぁ……。逃げ切ったわ」

「……ご苦労様です。葵刹那さん、本当…貴方には感服いたしましたわ♪」

傷だらけの少女葵刹那と、無傷の女性…伊達美加子の二人が闘いを終わらせていた。

「ほんっと、余裕ぶっこいてるわね。あんた…」

「いえいえ、私も大変だったのですよ?傷がついてないだけで、私剣以外は丸腰の人間なので♪」

「そう、まあ…良い戦いをさせていただきました」

「あら?礼を言うんですの??」

「はい。貴方との戦い…勉強になりました。これであたしはまた強くなれる」

「……そうですか、それは…どういたしましてですわ♪」


そういって二人の女性はエリアから消滅した。





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「RB!」

俺はすぐさま倒れたRBの元に駆けつける。

RBは、最後に生徒会長を斬り付けて、勝利を手にした。

けれどRBも片腕切り捨てられているだけあって、倒れてしまっていた。

「だ、大丈夫です…。と、とにかく……」

そういうと、RBは小さな腕を挙げてきた。

「勝ちましたよ…」

「…あぁ!」

俺は頑張ってあげたRBの拳に当てる。

俺は超絶嬉しかった!思わず涙がこぼれる。



「……ははっ、負けちゃったな…」

どこかから声がする。倒れている聖正純からだ。

「…兄さん、僕は一人じゃあ勝てなかったよ。

 明知さんの炎のおかげですし、応援してくれた人がいたおかげですよ……」

「そうか、孝明に…そんな友達がいっぱい出来たんだな…俺の知らないところで……。

 あの目のことも納得したよ…」

「目?」

「いや、なんでもない。《ヴィヴィアン》に謝らないとね…」

「うん。そうしてもらう…。そして、僕は戻らないよ。『メルへニクス』が僕の居場所だから」

「……うん。いいよ」

そういって、兄さんは消滅していった。


「ほら、俺らも退場すっぞ」

「……はい」



こうして、俺達の仲間RBの兄との決別の戦いは……終わった。





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数日後。

「いてて…まだあんときの闘いの痛みが残ってるよぉー」

廊下で独り事を呟きながら歩く俺、優との痛みがまだまだ消えない。

「やぁ、明知くん」

そんなとき、後ろから声がした。

振り返ると、そこにいたのは綺麗にうちの制服を来た少年。聖正純がいた。

「……なんだよ」

「そう怪訝そうな顔しないでよ。ちょっとお願い事があってね…」

「願い事?」

「うん。孝明についてなんだ…」




                     ☆




「ん?ヴィヴィアン??まさかあの《ヴィヴィアン》か!?」

闘いが終わって、数日。

僕達は一度集まることにした。スカイスクレイパー内の医務室で。

いるのは僕達男子三人と、フェンリルと寧々ちゃんだけ

ヘルはまだ精神的に痛みが消えないらしい…学校には行っているが、やはり休養を取っているみたいだ。

そして僕が今までの事情を説明しようと、僕の過去大事だった女性の名を出すと、寧々ちゃんは驚いた。

「よく覚えている…。私は、彼女のおかげで強くなれたようなものだ……」

そういいながら、寧々ちゃんは懐かしい親友の話をするように、《ヴィヴィアン》のことを語りだした。

「彼女は、新人だった私に才能があると見込んでくれた一人でな。

 私と1対1でみっちり闘ってくれてな……今思えば、一度も勝ったことがなかった…」

「せ、先輩が一回も!?」

「へぇ…あの《ピクシー》に新人時代とは全勝するたぁー

 その《ヴィヴィアン》って女は相当の実力者だったんだろうなぁー」

寧々ちゃんの言葉に、明知さんと車田さんがそれぞれに感想を口にする。

知り合いが褒められるとなんだか嬉しい気分になってくる…。

「そうだ。RB、一個思い出したわ」

「ん?なんですか??」

「お前の兄貴に……伝言が言い渡されてんだ」

そういって、明知さんは僕にそう言い止めた。





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「………」

「………」

高校の廊下。

俺が先導しながら、RBを連れて歩く。

今からRBは兄貴である正純と話をするらしい。

それは、先日まで激闘を繰り広げた相手と会話を交わすことで、

本人からしたら緊張感やら感情が入り混じっているだろう。

「そ、そうだ!RB!!もうすぐ…夏休みだな!!」

「そうですね。」

「………。み、みんなで海とか行きたいよな!!刹那らも呼んでさ!」

「そうですね。明知さんは寧々ちゃんの水着が見たいんでしょ?」

「うっ!なぜそれを…」

「多分だけど、寧々ちゃん水着着ないよ。きるとしても上に服着ると思う」

「えぇ!?なんでぇ!?」

「寧々ちゃん泳げないし、あんまり肌露出する人じゃあないし…」

俺はそれを聞いて愕然とする。思わず廊下に頭を当てて本気で凹む。

「…ふふっ」

「ん?どうしたRB??」

「いえ…相変わらず……先輩は面白い人だなぁーっと」

「え?今……」

「生徒会室ってあそこですよね?後は一人で大丈夫です…」

そういってRB俺に背を向け、生徒会室に入っていった。

俺は、なんでか知らないけど、にやけてしまった。

あいつなりに、俺のことを認めてくれたって解釈にしておこう。




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「やぁ、着たね孝明」

「…兄さん」

生徒会室に入った僕を待っていたのは、なぜかチェス盤を置かれた机と兄さんだけだった。

「向かい側…座りなよ」

そういわれて僕は兄さんの向かいに座る。まるで今からチェスでも始めるようだ。

「よし、チェスでもしようか」

まさか予想が当たるとは思わなかった。

おもむろに兄さんは自分の駒を動かす。僕も自分の駒を動かす。

「…あれが、今のお前の持ってるものなんだな」

盤に目を向けたまま、兄さんが僕に問いかけてくる。

「うん。先輩も、寧々ちゃんも…他の人たちもいい人達です」

「そうか。なら安心した…」

本当に、ほっとした表情をしていた。先日僕を切りかかってきた人とは思えない表情だ。

「ねぇ?」

「何??」

「涼子さんには……謝ったの?」

「あぁ、謝ったよ。メールでだけど…」

「なんで、涼子さんにあんなことをしたの?」

「………。どうしてだろうね。」

兄さんは、少し沈黙してから、そんな言葉を漏らして駒を進める。

「僕は、嫉妬していたのかも知れない。君と……涼子さんに」

「嫉妬?」

僕が駒を進める。

「あぁ、僕がずっと思っていたことを、話そうか?」

そういって兄さんは、今まで隠してきた感情を、まるで蓋が開いたかのように膨れ溢れさせた。


「僕は、孝明が大好きだ。涼子さんのことも……好きだった。一人の異性として。

 親からは僕は教養を強制されていた。自分で言うと恥ずかしいけど、人々は僕を天才と呼ぶからね。

 でも、その重圧が僕には苦痛だった。今はそうでもないさ、けれど…昔はね……。

 本当に、君と涼子さんと遊んでいるときだけが、僕に重圧なく生きていられる時間だった…。

 涼子さんは自由奔放な人だ。そこに僕は惹かれていった。そして彼女に勧められたスカイスクレイパー。

 そこで三人で闘っているときは本当に楽しかった。僕はこれ以上の幸せはないとも思ったんだ…」

そういいながら、自分の駒を進める兄さん。

話しながらなのに、的確な場所をついてくる…。

「でもね?ロイヤルナイツが出来て、勢力がどんどんでかくなって、孝明がボス。僕がリーダーとして

 やってきていたグループで、涼子さんは自由にどこかへ放浪してしまった………。

 チームを手に入れた僕は、傲慢になってしまったんだろうね…。自由奔放な彼女が好きだったのに

 彼女の自由に嫉妬して…彼女が離れていくのが怖くて……『秩序』を作ったんだ。

 そのときのビルの内情も気になっていたけれどね。そんなの理由の二番目に過ぎなかった」

「………」

僕はそれを聞いて戸惑いながら、駒を進める。

そして兄さんはそのまま言葉を続ける。

「けれど涼子さんは屈しなかった。そのときの僕はそれが嫌で嫌で仕方なかった。

 いつの間にか僕のそばにいてくれた君たち二人を…『所有物』のように思ってしまっていたんだ。

 僕は、慕う人々を救うため、守るため、外には出れなかった。結局スカイスクレイパーも僕の重圧になった。

 こうなったら徹底的にやるしかなかった。僕は未熟で、そういう思考にしか行かなかった。

 他のビルからきた敵をなぎ倒していった。中には涼子さんと闘って再挑戦するために来るものもいた。

 そんな奴らに僕は嫉妬した。自由に移動している涼子さんを知る彼らに……」

「それで…粛清?」

「あぁ、もちろんそいつらの行動にも野蛮な点も多々あったからね。

 そしてついに、涼子さんを怒らせた。僕は今更謝ってこの制度をやめることも出来なかった。

 だから、彼女を粛清した。このゲームから追放させてしまった……。そして君も僕は失った…。

 僕は怖かったんだ。二人が…。

 僕は何も変わらぬまま動かなかったのに、君と涼子さんはどんどん新しいものを見つけて、

 どんどん変わっていく……。

 僕はそのままなのに、まるで君たちが別人のようになるのが、裏切られたみたいで許せなかったんだ」

「……そうなんだ…」

「本当、僕は弱い奴だよ…。僕は強くもないし、偉くもない。天才なんて持ってのほかだよ…。

 大事な人二人を悲しませて、怒らせて、離れられるような人間……天才ならそれは『弱さ』の天才さ」

そういいながら兄さんは駒を進める。

僕はあることに気付いて、駒を彼の王の前に叩きつける。

「…チェックメイト」

「……やっぱり勝てないな。孝明には…」

「え?」

僕は、突然言われた兄さんの言葉に少し戸惑った。

「もしかして自分で気付いていないのかい?僕は孝明に一度もチェスで勝ったことがないんだよ?」

そういわれて過去を振り返ってみる。本当だ…僕……兄さんに勝ってる。

「孝明、お前に昔から足りないと思ってたものがあったんだ。それは『自信』…。

 でも、それはもう……手に入れたみたいだね。明知君に黒金さん…お礼を言っておかないと」

兄さんはそういいながら立ち上がり、チェス盤を片付け始めた。

「孝明…家に戻ってくるつもりはないか?」

「……ない」

「そうか…。でもまあたまには、愚か者の兄を嘲笑いにきてくれよ」

「…それもしない。だって兄さんは…もう愚かじゃないから」

「……そうか」

気のせいか、僕に背中を向ける兄さんの足元に、雨が一粒降った気がした。


「それとこれ」

僕が去ろうとすると、兄さんは紙を一枚僕に差し出してくる。

「…涼子さんのメールアドレスと住所だ。孝明メアド変えてから僕に報告してないだろ?」

そういわれて紙を受け取る。涼子さんはあの一件の後少しして引越ししてしまったから、新しい住所だろう。

兄さんやその関連と関わりたくなかった僕はメアドを変更して教えなかった。だから紙で教えてくれたのか。

「ありがとう。今度連絡してみるよ」

「あぁ……じゃあ。また」

「うん……」

そういって、僕は生徒会室を出た。

そこには、まだ僕のことを待ってくれていた明知先輩があくびをして待っていた。

僕は小走りで彼の元へ駆けつけ、兄さんと仲直りしたことを報告した。

先輩は……心底嬉しそうに笑ってくれた。




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「はぁ…また勝てなかったなぁー」

僕は一人で座りながらそんな言葉を呟いた。

みんなにはもう帰っていいって言っているし、しばらくは一人でぼーっとでもするか…。

「どうもーっす」

そんなとき、扉が開く。

見てみると、隆太くんだった。

「帰っていい……って言ったはずだけど?」

「帰れ…とは言われてないっすよ??」

惚けた顔で隆太くんは僕の向かい、さっき孝明が座っていた席に座った。

「…目、赤いっすよ。まさか弟の前で泣いたんですか?」

「……弟の後ろではないかな」

「どんだけブラコンなんすか…」

「まあ、僕は孝明も好きだったからね…でも、これで僕は両方を失ったわけだ」

「何言ってんですか」

「???」

「俺たちがいるでしょ?伝説の剣が何弱音吐いているんですか」

そういいながら彼は鞄から菓子パンを出してもぐもぐと食べ始める。

その光景を見て僕は思わず困惑して、そして失笑する。

「ふっ、そうだね。僕は『聖十字騎士団』のボスだったね…」

「そうっすよ。たかが弟に負けたぐらいで凹まんでください」

「うん……ごめんね…。そのパン、僕にもくれる?」

「はいはいどうぞ。俺はいつだって、人に恵んでやる聖人様なんで」

「それは冗談で言ってるんだよね?」

「なんすかその目は、俺は良い人ですよ。普通に、凡人らしく、偉人のサポートをするんですよ」

そういってパンを頬張る隆太くん。

そんな君に教えてあげたい。

天下統一を果たした豊臣秀吉には竹中半兵衛。

三国志で天下三分の計を成し遂げた劉備には諸葛孔明。

いつだって本当にすごい偉人には………真にすごい『懐刀』がいるんだってことを。

「どうしたんすか?じっと俺のこと見つめて」

「いや…急に君のことが好きになってね」

「ちょ!?やめてくださいよ!!俺は普通に女の子が好きなんですから!」

「僕…女装したら可愛いって言われると思わない??」

「冗談でもやめてくださいよ!!鳥肌が立ちますよ!」

そうして、僕と隆太くんは、しばしパンを食べながら、そんな雑談を繰り広げていた。




失ったものは大きいけれど、ここからまた……僕はみんなと『仲間』になっていこうと思う。





ってなわけでジャンヌ・ダルクと正十字騎士団編終了です!!><

今回の主人公はRBでしたね♪カッコよかったっすねww


いろいろ悩んだ末に変わってしまった兄・聖正純さんのドラマも描きたかったん

ですけど、実力無いからあんまりかけてないかな?(笑)


正十字騎士団との和解も済み、物語はさらに進んでいきます。

次の話は少し長めなので「前・中・後」でお送りする可能性がありますので

どうかご了承ください♪♪


では、よかったら感想などをください♪


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