第三章~ジャンヌ・ダルクと正十字騎士団編・前編~
刹那たちを仲間に加え、いつもどおりの戦闘を行う晴嵐たち。
そんなとき、RBは一つの組織のことを気にかけていた。
『正十字騎士団』国家とも言えるほど規律の厳しいビル組織の名。
そしてその正十字騎士団の刺客が晴嵐たちの前に現れる!
彼らの目的とは!?そしてジャンヌ・ダルクの正体とは!?
次の相手は聖剣!?波乱を引き起こす闘技場バトルアクション第三章!開幕!
「…。『聖十字騎士団』……か」
暗い部屋。独りの少年はキーボードを叩きながらそんな言葉を漏らす。
このゲーム『スカイスクレイパー』はでは、様々な派生がいるそうだ。
決してそれが重要と言うわけではないのだが、まあ…大学のサークルみたいなものだろうと思えばいい。
例えば僕がいる前に存在していたらしい寧々ちゃんが属していた『メルへニクス』や
隣のビルに存在するフェンリル達属する巨大組織『オーディエンス』などがある。
もちろん、そのビルを支配していない組織もある蛇道狩羅が作る『蛇』もまた着々とメンバーを増やしているらしい。
そんな中、最近また増えてきた情報。
遠征組の人々が戻ってきて、僕は彼らから情報を引き出した。
知らない名前だったけれど、その実力は未知数だったけれど、彼らの語る言葉からは、思い当たる節があった。
【あいつらはおかしい!本当に1つの国家みたいになってやがる!!!】と語る人がいた。
『オーディエンス』もそんな感じの組織だが、やはり属していない者には関係ないのだ。
けれどその『聖十字騎士団』は、まるで1つの国家。と表現されるほどらしい。
「…いやな予感が当たらなきゃいいけど……」
そういいながら少年。RBはキーボードを叩く。
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「今日も男女混合練習だが!3人ペア組め!!3on3で対決形式で練習を行う!!」
監督に集められる男女バスケ部員達。ざわざわと話ながらペアを作っていく。
基本的に男だけだったり女子だけになってしまっていたりする。まあ当然っちゃあ当然か。
「晴嵐!」
「よっ、刹那じゃんか」
「ねぇ、あたしと組まない?今回のチーム」
「おう!いいぜ、こっちには優もいるからな。ちょうど三人だ」
「チームストリートバスケ!って所かな♪♪」
「うん。そうだね。刹那さんもよろしく」
「もぉ~「さん」はいらないってのにぃ~」
「優はそういう奴なんだよ」
「んじゃあまあ。」
「「「始めますか!」」」
そして三人の試合が始まる。
「おいっ!なんだよこいつら!!」
「やっぱ刹那のドリブルやべぇ!!」
「晴嵐!パス!!」
「あいよぉー!!」
刹那から受け取ったパスを取ると、晴嵐はそのままボールを持ってジャンプしダンクを決める。
「おい、一年にあんな強いやついたのかよっ!?」
「ああ、あいつらは最近腕挙げてるな。ただ……この活躍の理由は明らかに葵だ」
バスケ部キャプテンが、試合を見ながらそんな言葉を呟いた。
葵刹那。そのドリブルのテクニックは天下一品と女子バスケの中でも注目されているらしい。
「葵がとめれねぇー!!だったら!!!!」
「くそっ!」
晴嵐の前に巨躯な男が立ちはだかる。さっきのダンクを決めさせまいと思っているんだろう。
しかし刹那がボールを渡したのは、みんなよりも一線後ろにいた徳川優に向けて放たれる。
それを受け取った優は静かに呼吸を整え、ボールを持ち上げ、放つ。
「全員!リバウンドを狙えぇ!!」
晴嵐たちの敵チームがゴールに向かって走る。
しかしそのリバウンドの期待は無駄となる。優のボールは綺麗な放物線を描きゴールに入る。
「おぉ!なんだあの一年!!あんな綺麗なスリー見たの久々だぞ!?」
「お前ら!!時間だぁ!上がれ!!」
キャプテンの言葉に言われ、晴嵐たち三人は体育館端に移動した。
「あんた達…結構すごかったのねぇー」
「へっ!いまさらかよ!!」
「…あたし褒めた瞬間調子乗る男子って嫌い」
「うっ……」
「まあ、晴嵐は確かにすごいけれど、僕は違いますよ。刹那さんのパスタイミングがよかったからですよ」
「あぁー確かに刹那のパスは絶妙だわ。引き立て役が上手いっていうか…」
「それ褒めてるように聞こえないんだけど……」
三人の何気ない会話。
「それにしても優のスリーってすごいよなぁー」
「ん?何が??」
「なんかこぉー…重力無視って言うの??放ってるって言うより浮いている?」
「そんなことないよ。僕は決して才能ある人じゃないんだからさ」
「いや、あれはさすがに見てたあたしも驚いたわ」
「だからそんなことじゃあないんですって」
三人でそんな雑談が続く。
次の試合も呼び出され、試合を行い、結局の所、この3on3で一番勝てたのは、俺達だった。
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「うっす!晴嵐!!」
「おぉー!刹那も来てたかぁー」
「うん。あ、千恵はテスト近いからログインしないって…」
「そ、そんな……千恵ちゃんがぁ……。俺今日は帰るわ」
「待てぇい!!」
俺が帰ろうとしたとき、刹那が俺の肩を掴んでとめる。
「いやだぁー!千恵ちゃんがいないなんて俺は帰る!!!」
「このロリコンめぇー!!千恵が来ててもあんたには手出させないわよ!!」
「あぁいいさ!俺には最高の先輩がいるんだからな!!」
「……なんであたしはこんな奴を…」
「あぁ?なんか言ったか??」
「言ってない!!」
口喧嘩をする俺と刹那。
刹那と千恵ちゃんは、あの一件の後、『オーディエンス』の脱退を命じられ
その後彼女達の行き場所を失ったとき、俺は当初からの目的を達することにした。
「じゃあ、メルへニクスに来いよ!」
俺は前、先輩の話を聞いたときに決めていたのだ。
『メルへニクス』の復興。黒金先輩をリーダーとした新しい『メルへニクス』を作ろうと
先輩は少し苦そうな顔をしていたが、このことを承諾してくれた。
まあ簡単に言えば『新生メルへニクス』ができたわけだ。メンバーは俺、先輩、RB、そして刹那と千恵ちゃんが
入ることになった。俺としては天国だ!先輩に千恵ちゃん!!両手に華とはこのことだ!!!
そのうちRBも女装男子にさせて………ぐへへへ…。
「晴嵐…あんた気持ち悪い顔してるわよ?」
「はぁ!?マジでか!?」
素で驚いていると、刹那は呆れた顔をしていた。
「んで?その愛しの寧々はどこにいるのよ?」
「あぁー先輩ならすぐに来るよ。っと、バトル表に俺の名前書いてるんだけど」
「なら行ってきなさいよ。相手は?」
刹那がそういって俺は画面を見る。そこに書かれていたのは懐かしい名前だった。
「やっべぇ…あいつと戦うの久々だな。楽しみになってきたぁー!!じゃあ刹那。後でな」
俺はバトルフィールドに向かって走る。
今回の俺の対戦相手は…『車田清五郎』なのだから
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「よっ!車田!!なんか久々だなぁー最近見なかったけど」
「おうおう、俺もちょーっち遠征に出ててな……。今日はその実力を試そうってな…」
そういってこちらに来た車田は、前よりも少し変わっていた。
なんというか……ハンマーを持っていない。
彼はハンマーを持っておらず、代わりにとても派手な外装をしていた…バイクだった。
「これか?これは俺の『爆破』能力の付与先を変えたんだよ。
『付与型』は自分の能力の先を変えることも可能らしいからなぁ!!行くぜぇ!!!!」
バイクのエンジンを高らかに鳴らし、こちらに突っ込んでくる車田。
流石バイクと言ったところか、車田の機動力が驚くほど上がってる!
「くっ!」
俺は突っ込んでくるバイクから逃げる。
アクセルを踏んで方向転換して、俺の方に突っ込む車田。
俺は思い切って車田が突っ込んできた瞬間に飛び、車田のバイクを持って飛び越える。
バイクの背後に俺は着地する。すると、地面が突然光始める。
「なっ!?」
大きな爆発音が響き渡る。
どうなってやがる…あいつの紋章はハンマーで捺して出現させるんじゃなかったのかぁ…。
「へっ!一発目の爆発。ご苦労さん!!晴嵐!!!」
バイクに乗りながら俺を見る車田。
「てめぇにはネタバレしてやるよ!晴嵐!!」
そういうと、車田はバイクをウィリーのように上げた。
「こ、これか……」
「あぁ、決して俺はハンマーを捨てたわけじゃあねぇ、このバイクの外装にあのハンマーを入れたんだ。
俺は走っている途中でこのハンマーから印を捺すことが可能になったってわけだ……」
「やっべぇなそれ。なんでそんな強くなってるんだよ…」
「まあ、いい師匠に出会ったってことか…行くぜぇー!!!!」
ブルルルルルルゥ!!!と嘶くバイク音が響く。
今度は俺を追いかけず、縦横無尽に走り続ける。
なるほど……このフィールドを自分の印だらけにしてやろうって魂胆か。
「まずは…そのバイクをぶっ潰さないとなぁ!!!」
俺は爆発で口を切ったときの血を刀に吐き出して血を塗る。その直後刀は炎に包まれる。
「そうでなくっちゃなぁ!!」
縦横無尽に走り終えた車田がこちらに突っ込んでくる。
別にあのまま移動してれば勝てるのに、律儀な奴だぜ!!
俺は逃げずに刀を構える。突っ込んでくる……今だ!
「おぅら!!」
俺は刀を横にして、通過した車田の身体が切れるように構える。
車田は慌ててバイクから飛び降りる。
バイクはそのまま真っ直ぐ走っていき、ビルに激突して壊れる。
「おい!俺の大事なバイクがぁー!!!!」
「どうせまた次の試合では治るだろ?」
「そうだけどさぁー!!!」
少し涙目になっている車田。そんなにあのバイク大事なのか。
「でも、これでお前はこれ以上印は捺せねぇだろ?」
「…はぁ。仕方ねぇ……」
そういうと車田はなぜか手袋をはめる。
皮製の黒い手袋だ。手の平の部分には紋章が描かれている。
「さあ!こいよ晴嵐!!俺の本気を見せてやんよ!!!」
「あぁ!!行ってやるぜぇー!!!!」
俺は炎の翼で空に飛び、車田に向かってとび蹴りをかます。
車田はその足を掴んだ。
「しまっ!!」
「修行不足だな!晴嵐!!」
車田に放り投げられる俺。その先には紋章が!!やばい!!!!
俺は羽を広げて空へ逃げる。危ない危ない…。完全に地面は奴の領土だな。
「……空に逃げたのは正しい選択だ晴嵐。だが…この勝負、お前の負けだ」
「へっ?」
その瞬間だった。
俺の身体がなぜか突然爆発してしまったのだ。
俺はそのまま無様に地面に落ちる。まるで打ち落とされた鳥のように
落とされた先にあった紋章に触れ、さらに爆発が起こる。
俺は復帰することも出来ずそのまま気を失ってしまった。
前回引き分けに終わった車田との戦いは、完全な敗北として俺の心に焼き付けられた――――――。
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「…見つけたよ。みんな」
「見つけたって…何を?」
「何って……僕らのジャンヌをだよ」
「っ!?本当ですか!?」
「あぁ……こんなところにいるなんて、連れ戻すよ」
「「「「「はっ!!」」」」
「君ももちろん来てくれるんだよね?『デュランデル』??」
「はい。僕はマスターの忠実な僕ですから」
「僕ら『聖十字騎士団』は君を必要としているんだよ。ジャンヌ」
男は、ブロンド色の髪をした少年だった。
その男は小さくその言葉を呟き、1つの写真を見つめる。その腰には、真っ白で光を放つ細い剣を携えていた。
彼らはとあるビルを支配する組織の1つだ。
全員白い装束を纏っているその組織の名を『聖十字騎士団』と呼んだ。
☆
「…ふむ。ライバル達に勝てない……か」
「はい…どうしましょう」
スカイスクレイパー内のフリールーム。
医務室とは別に、まあリアルになっているピ○やネットゲームのチャット室と思ってもらえたらいいだろう。
そこで俺は……年上とは言えど、自分よりも20cmも小さい少女に、相談していた。
「あたし最近ここにきたからよく知らないんだけど、あんたのライバルって誰なのよ??」
最近このビルを拠点とし始めた『フェンリル』葵刹那が、腕を組んで俺を見て言う。
「…明知さんのライバルと言えば、同時期にこのゲームに入って
このビル最強の『ヘラクレス』に弟子入りした飛来拓海と、先日負けた車田清五郎さんのことですね。
彼ら二人と明知さんは、このビルでも注目株の若手ですから……」
俺の代わりに刹那に説明したのはRBだった。
そう。俺のライバルとも言える二人『刀剣創造』の能力を持った飛来と、『爆破』の能力を持った車田。
先日から、俺はこいつらに負け続けている。
それだけじゃない。『ヨルムンガルド』葵龍二に致命傷を与えたとは言え、俺は敗北したんだ。
今目の前にいる少女刹那が従える『ロキの三兄弟』にも。最近の俺は負けてばかりなのだ。
「……修行だな」
「…先輩。そんな某少年人気漫画みたいな展開―――」
「いや、でもそんなものよ?こんな世界って…。
ほら、ゲームでも勝てない相手に勝つためにやりこんだりするでしょ?」
「そうですね。先輩も、毎日バスケの練習してるじゃあないですか。あれと一緒ですよ」
全員にそういわれる。そうか……ここの全員俺よりもこの「スカイスクレイパー」の先輩なんだよなぁ…
「じゃあ先輩。俺に修行つけてくださいよ」
俺は咄嗟に先輩に頼み込む。
先輩は『ピクシー』と言う二つ名を持つ名うての人物だ。
ピクシー。ポルターガイストなどを起こして人々に悪戯する妖精のことを言うらしいが
驚くことなかれ、この黒金先輩はなんとそんなピクシーを映したような能力『サイコキネシス』を使うのだ。
それで形成するゴーレムを主に戦っている先輩なら、俺の師匠に相応し―――――。
「やめときなさい」
先輩が断るよりも先に口を開いたのは、刹那だった。
「なんでだよ刹那っ!先輩ほどの実力者に教えてもらったほうがいいに決まってんだろ」
「だから……ん~この娘…こと『教える』ことに対しては、ド下手なのよぉ…」
刹那が親しげに座る黒金の肩に手を置きながら言った。
そういえばこの二人は同級生で同じクラスだったっけな。先輩と刹那だと高校生と小学生に見えるけど
刹那にそういわれた先輩は、図星なのか少し悔しそうにむむむ……と口を尖らせている。かわいい。
「うん。『フェンリル』の言う通りだね。僕も新しいゲームとか寧々ちゃんに勧められるんだけど
寧々ちゃんの紹介文だと、面白さが伝わってこないんだよ…。まあそれでもやってみるんだけど
その基本操作とかも寧々ちゃんに教授してもらおうと思ったんだけど……まったく理解できなかった。
だから今では攻略Wikiとかそういうのを頼ることにしてる。あと自力とか」
RBも、自分の経験談をもとに先輩の教える下手さを教えてきた。
そういえば先輩…俺にこの世界についての説明ってしたことないんじゃ…。
最初は車田に説明してもらったし、『派閥』とかの話もRBが言っていたし………。
「そ、そういうことだ。せ、成績が悪いとかじゃあないんだぞ!?」
「うん。この娘学年TOP10とか取ってるし……」
刹那が悔しそうにそう言った。あ、さてはこいつ成績よくないな。
「僕が教えてあげてもいいんだけど、僕は召還系能力者だしね…。
君の能力についての可能性は提示できないんだよ」
「あたしもそういうのは難しいわね。あたしの能力単純だから鍛え方は簡単だったし…」
RBと刹那もそんなことを言う。
じゃあ俺は一体誰に頼めばいいというんだぁー……。
「君は嫌がるかも知れないけれど、一人…こういうのが得意な男を知っている」
突然先輩がそんな言葉を口にする。
俺はその言葉を聞いて気分が上がる。
「ま、マジっすか!?誰っすか!?」
「んー…覚悟は出来ているか?」
「はい!あの二人に勝つためにはそれしかないというなら!!」
「そうかぁ…まあ、君なら大丈夫だろう」
そして俺は後日。
自分の師匠となる人物に会いに行くこととなった。
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「んで…。ピクシー?なんで俺がこいつの面倒まで見なくちゃなんねぇんだぁ??」
「悪いな。まあ、過去の因縁。あたしがいない間に襲撃したことはなかったことにしようじゃないか。
ただし私のこと部下をどうか君の力で強化してくれないか?飛来にあの力を与えたのは君だろ??」
「…軽く脅しに掛かってるだろ?」
「そんなことはないさ。別に昔喧嘩売ってきたくせに謝らずにのうのうといて、謝礼もしないのかとは言わない。
この空間は至って自由なのだから。君があたしからの報復を受けずにのうのうといることに何の罪もないさ」
「……一々言い方が意地悪いな。てめぇのマスターは…。あぁいいよ!受け持ってやるよ!!ったく」
先輩と、俺の師匠になる男『蛇道狩羅』の会話は、まさしく「大将」同士の会話だった。というか交渉だった。
いや……恐喝だった。
「では狩羅。よろしく頼んだぞ」
そういって先輩は去っていく。あぁー俺の愛しの先輩がぁ…
「…んでだ。てめぇと他にもう一人鍛えてやんねぇといけねぇやつがいるんだけど…。
まあ向こうは古田とメアリーに任せればいいか…」
そういうと、ソファーに座っていた狩羅が立ち上がる。
こうして近くで見ると、俺よりも身長が高い。威圧感がハンパない。
「てめぇ…飛来だけじゃあ飽きたらず、車田にも負けたみてぇだなぁ~??」
「あ、あぁ…そうだよ。こればっかりは言い訳も出来ない」
「…はっ!てめぇが負ければ負けるほど俺の評判が下がるっつうのによぉー」
だるそうに髪をポリポリと掻きながら悪態をつく狩羅。
「何が悲しくて俺が負けた男を鍛えなきゃならないかねぇ~」
まだぐちぐち言っている。結構女々しいって言うかしつこい性格なのか?こいつ。
「今しつこいとか思っただろ?」
「べ、別に思ってねぇよ!!」
「いいか。てめぇは俺の弟子。俺よりも下だ!黙って俺に従え」
「……あ、あぁ…」
あのときは必死だったから大丈夫だったけどこうして間近で接すると怖いなぁ…流石次期極道当主。
「まずてめぇに足りないのはその「バラエティ」の少なさだ」
いきなり狩羅が本題に入る。
俺はきちっと姿勢を整えて狩羅の話を聞く。
「お前俺との戦闘のときに羽生やしたよな?その前には炎で腕を作った」
「……あぁ」
「あんときはどうやった。そして今は羽をどう出している」
「どうって…こぉー最初腕が出来たから…羽をイメージしたら羽になるかなぁーってあのとき必死で…」
「てめぇも感覚で覚醒するタイプか。それが出来るっつうことは色んな可能性が出来るってこった」
「か、可能性っすか…」
「お前。とりあえず今から血を刀に塗って、その刀に羽生やしてみろ」
「え?わ、わかりました…」
俺は刀に自分の血を塗って炎を燃やす。
後はこれを羽のように………あれ??
「…どうした?できねぇのか??」
「お、おかしいな?」
曖昧にはできるけど、ちゃんとした形式にならない。どういうことだ??
「…つまりはそういうこった。てめぇは感覚で出来てばっかだから、頭で考えたとき難しいんだ。
その方法も確かにいいが、それじゃあいつまで経ってもあの二人には勝てねぇ。
てめぇの炎は形状が自由なんだ。腕の代わりに羽…ここまで出来たんなら他にも出来るだろ」
な、なんかすげえ説得力ある!?何この人!?
「後は基本的なセンスだな。今から俺は七匹の蛇を透明にさせててめぇに襲わせる。
このフィールドでの死は取り返しつかねぇし、蛇共に痛めつけるの嫌だから木刀な。
その状態でこの密室。攻撃全部防いでみろ」
「えっ!?そんなん無理っすよ!!」
「俺と闘ってるときのお前は見極めて蛇共斬ってたぞ?とりあえず一時間。まあ、頑張りな」
そういって狩羅は部屋を出て行く。
本当……言いたいこと言って出て行きやがって…
「これで、どうすりゃいいん――――」
言葉を遮るように、腹部に衝撃が走る。へ、蛇か…。
俺が倒れる隙を与えぬように、背中にも一発。さらに顎に突進されてアッパーのような攻撃を受ける。
「こんちきしょー!こうなったらやってやらぁー!!!」
そうして俺と、透明な敵との一時間に及ぶ激闘が、開始されたのだった。
「あぁ?なんだ??」
『大変です!龍二くんが!!』
「…練習でバテたか?」
『違うんですよ!狩羅さんが言ったメニューよりもハードにやっちゃって…』
「…なるほど、やっぱり馬鹿だったか」
『と、とにかくComeBackです~私が癒したんですけど、修行をENDしてくれなくてぇ~』
「…あぁーわかった。そっちに古田いたはずだが?」
『面白がって止めてくれないんですよぉ~!』
「……わかった。二人とも後で説教するか…」
『は、はいぃ…そうしてください』
そういわれて俺はメアリーからの電話を切った。
どいつもこいつもバカばっかじゃねぇかよ……ったく。
そんな悪態をつきながら、俺。蛇道狩羅は、彼らの元に向かうことにした。
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「が、がはっ!」
「ねぇ、どうして反論なんてしたの??ここのルールが気に入らない?」
「あ、当たり前だろうがぁ!
俺達新人にもルールを強要し、断ったらこうじゃ…そりゃ気にいるやつはいねぇよ!」
「ふぅーん。でも、「よそはよそ。うちはうち」だよ?ここに来たからにはここのルールに護ってもらわなきゃ。
ここにはここの『正義』と『法律』がある。それにあだ名すものは全て敵だ。粛清されるべき敵なんだよ……」
「だからって…こんなやり方…」
「このやり方に文句があるのかい?仕方ないさ。『断罪』に必要なことなんだから」
「げ、外道がぁ!!!」
「君が逆らったのが悪いんじゃないか。知ってる?警察に逆らったらこっちが正しくても
「公務執行妨害」って法律に引っかかっちゃうことがあるんだよ??それと同じさ」
「………くっ」
「まあ、『三人』で我慢できた君はたいしたものだ。
大人しくしてくれる?それとも……『追放』してあげようか??」
「…好きにしてくれ」
「そう。んじゃ――――――」
少年は、倒れる男の首に目掛けてその光り輝く剣を振り下ろす。
「…聖さま。お疲れ様です」
「うん、いやぁー悪役演じるのって疲れるねぇー」
「おや、自分で悪役とか言っちゃうんですか?あれだけ正義を掲げといて」
「まあねぇ。でも、『非情の中の正義』が僕の…いや、「僕ら」の心情だからさ」
「…そうですね」
「あのさ『デュランデル』はどうしてる??」
「今日はここには来てないですねぇ。さっき『シュワローズ』が寂しがってましたわ」
「ははは、彼女のことだからどうせ悪態ついてたんでしょ?」
「…えぇ、まったくその通りでしたわよ。ところで…『ジャンヌ』の場所は?」
「あぁ、遠征で来た断罪者に特徴を聞いたんだけど、間違いない。あそこで正しいよ」
「どうするおつもりですか?」
「そりゃ…行くよ。君もくるでしょ?」
「えぇ、私はいつでもどこでも…聖さまのおそばに」
「うん。ありがと、じゃあ明日。会議を行おう」
男はそういって、隣にいる長髪の女性を引き連れそのビルを闊歩した。
人々は彼に道を譲る。まるで王がそこを通るかのように…。
しかしその顔自体は王と言うにはあまりには中世的で、幼げな顔をしていた。
腰には光り輝く剣。髪はブロンド色。服装も『白』を意識したテイストとなっている。
それがこのビルを仕切る組織『聖騎士十字団』のボス。いや…王なのだ。
逆らう者は断罪を下し、このビルでの平和を歌うその少年の名を『聖正純』と言った―――――――。
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「……晴嵐。刹那さん」
一人、いつものバスケ場でフリースローの練習をする少年は小さく呟いた。
彼が投げたボールは、綺麗な放物線を描いてゴールに入っていく。
「やっぱり、二人に隠し事は悪いな…」
そういうと、彼は携帯を取り出し、BookMarkを開く。
そこで場所を水準し、ボタンを押す。すると、そこから彼は姿を消した―――――――――。
☆
「はぁ…はぁ……」
「おぉ~よく出来てんじゃねぇか」
もうあれから一時間立ったのか。
必死すぎて時間なんて忘れてた…。
部屋に戻ってきた狩羅はわざとらしく驚いていた。
俺は汗にまみれ、傷にまみれ、その場に立っていた。
「見えない複数の相手の打撃で一時間立ててるだけで十分だ。ご苦労さん」
そういうと狩羅の元に透明化から開放された蛇たちが向かう。足に擦り寄っている。懐かれてるなぁー。
狩羅は蛇の餌だろうか?の肉を地面に置いた。蛇たちはそれを貪るように食す。
「さてっと。まあ基本的な身体は出来てるな。次はこれだ」
そういって彼が出してきたのはなんの変哲も無い…ろうそくだ。
「ちょっとした可能性にかけようと思ってなぁ。…これでよしっと」
そういって狩羅は5本ある蝋燭を5mおきに置く。
「ちょいとてめぇの指に血つけてくんねぇか?」
「あ、はい…」
俺はそういわれて、血を入れた小瓶に指を突っ込む。
「そのまま燃やせ」
「ういっす」
そういって俺は自分の指を燃やす。
「んじゃ、そこに座ったまんまこの蝋燭に火つけてみろ」
「…は?」
「『はぁ?』じゃねえよあ゛ぁ?」
ひぃぃぃ!!マジもんのヤンキー超怖ぇぇぇぇ!!
俺はとにかく必死でやってみようとするが、どうやっていいかわかんねぇ!やばい!!変な汗出てきた。
「…まあ、最初は出来なくて当然か。おい、気持ち悪い顔して振るえてんじゃねぇよ」
「え、あ…はい!すいやせんした!!」
「本格的に俺の舎弟になってきたな…」
少し呆れた様子で狩羅は溜め息を吐く。
だって怖いんだもんこの人ぉ…。
「まあ、あくまで可能性の提示だ。出来なくても別にいい。その炎を「放出」出来ないのか。と思っただけだ」
「放出かぁ」
俺は自分の燃えている指を見つめる。
「こういうことっすかね?」
俺は投げるようにイメージして指を蝋燭に向けて振る。
「お、火飛んだ!」
「…でもなぁ」
喜んだ俺とは裏腹にまた溜め息を吐く狩羅。蝋燭に届かずに炎が消えたからだ。
「まあ、可能性はありそうだな。これもメニューに追加するか。
じゃあてめぇがするべきことを今から説明する。さっきの基本動作。そして今やった炎の放出。
そして炎の形成の特訓。これは俺が言ったような形に炎の形状が出来るかどうかだ。
そして必要以上の炎放出の制御。その炎は勝負が終われば『痛み』の権化に変わる。パワーを出したいときに
炎を必要な分だけ出せたほうが便利だろう。たまにメアリーか古田とも闘ってもらう。それで毎日だ。いいか?」
正直、バスケの練習もあるのに夜も特訓とか聞かされると耳が痛くなりそうなんすけど…。
「なんか文句あんのか?」
「いえ!どうぞよろしくお願いします!!」
俺は思わず土下座して狩羅に頼み込んだ。
いや、もう狩羅と呼ぶのはやめよう。狩羅先生だ!
そう呼ばないと狩羅先生に殺されてしまいそうだ!
「ってなわけでよろしくお願いします!狩羅先生!!」
「もう一度そんな呼び方してみろ?ぶっ殺すぞ」
「……」
先輩。俺は今猛烈に貴女と言う女性が恋しいです…。
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「なんっであたしとあんたなのよ!!」
「…まあ、毎回の行動班だし、仕方ないんじゃないの?」
「あんたと一緒とか思われたくないからもうちょっと離れなさいよ!!」
「誰に思われるんだよ一体。まあ言われたら離れるけど…」
「…誰もそこまで離れろなんて言ってないでしょ!?」
「えぇ!?わ、わかったよ…」
ビル内で異様な雰囲気を放つ二人の男女。
明らかに身長が小さい少女が、隣の男性にきつく当たっていた。
男性は困ったように彼女の言い分に答える。というか付き従っている。
傍から見れば我がままな妹と、それに振り回されている兄のようにも見える。
一人はツインテールの小柄な少女。もう一人は長身の優しそうな顔の男性。
二人共曇りひとつない真っ白なコートに身を包んでおり、腰にはお互いそれぞれの剣を携えている。
「それで?あたしとあんたがペアで最初にここにきた理由は?あたし聖様から聞いてないんだけど?」
「あぁ、事実の確証と…宣戦布告だってさ。いきなり全員で攻めるのも無礼だとか」
「相手に対して無礼とか考えなくていいのに、聖様も」
「まあ、あの人はなんだかんだでそういう人さ。いざ戦いってなったら容赦ないけどね」
「その宣戦布告にあたし達二人が選ばれたの?」
「そうだね。まあ僕達は幹部の中じゃあ若手だし、仕方ないよ面倒なら君は帰っても大丈夫だよ?」
「…別に面倒じゃないし」
「ん?どうしたの顔赤いよ?風邪?」
「ち、違うもん!それより、どうやって闘うの?」
「ん~。僕らはここに初めてきたから多分バトルは割り振られると思うんだ。
それで誰かを倒したら、そいつが闘ったリストから『ジャンヌ』。あるいは『ジャンヌ』に近い人に会うはずだ」
「そう。まああたしは会った相手をこてんぱんに倒すだけだけどね!」
「本当に頼もしいね。結花ちゃんは」
「な、名前で呼ぶなぁー!あたしにはちゃんと『シュワルーズ』って聖様から授かった名があるの!」
「そこまで怒ること?まあ君は聖さん一筋だもんね。悪かったよ『シュワルーズ』」
「わ、わかれば…いい…」
そういって談義をしていると、モニターにこれからの対戦表が表示される。
先の二戦はまったく知らない人との試合だ。しかし…三戦目。そこには僕の顔が映っており
試合形式は『ダブルス』となっている。相手として映っているのは、綺麗な黒髪の女性だった。
「…何見とれてるのよ!!」
「え!?い、いや…綺麗な人だなぁーって思って」
「ほんっとデリカシーないんだからぁ!」
「なんで怒ってるの?」
「とにかく!ダブルスならあたしとあんたで戦えばいいんでしょ!?そしてあたしにあの女と戦わせて!」
「な、なんでそんなに熱意こもってるのかわからないけど。うん、いいよ。任せた」
そういって白いコートの二人組みはまた談義をしながら歩いていった。
このビルにも自分達を知っている者たち。つまり『断罪者』がいたようだ。ちらちらと声が聞こえる。
「お、おい…あいつらって」
「あの格好、あの剣…間違いねぇ」
「でもなんであいつらが外部のビルに来てんだよ」
「俺あいつらに痛い目にあわされたから会いたくなかったぜ」
「で、でもさっき対戦表みたらあいつらの相手はあの『ピクシー』だぜ!?勝てるだろ」
「そ、そうか…あいつらの負け面が見れるかも知れねぇんだな」
そんな会話が聞こえる。
どうやら二人の相手である黒髪の女性は『ピクシー』と呼ばれこのビルでは実力者のようだ。
「…大丈夫?『シュワルーズ』??相手すっごい強いみたいだよ??」
「あたしにかかれば敵じゃないよ!絶対に倒してやる…」
「しゅ、シュワルーズ?なんか怖い…。あ、喉渇いてない?」
「え?なんで?」
「ほら、来たとき制服だったから多分家に変える前にここ着てるだろうから水分補給してないんじゃないかって」
「い、言われてみれば喉が渇いた!『デュランデル』!なんか買ってきて!!」
「うん。いつものオレンジジュースでいいよね?」
「あ、うん…」
少女は少し顔を赤く染め、答えた。男はそれに気付かずに自販機へ向かっていった。
二人は、聖正純が送り込んだ刺客だ。
宣戦布告。そのためだけにこのビルへ来た二人の剣士。
名を『シュワルーズ』と『デュランデル』と言った。
「さてっと。RB?君は出るのか?」
「僕は遠慮しておくよ。僕としては君と『フェンリル』のペアを見たいな」
「そうか。なら刹那。悪いが付き合ってくれ」
「えぇー。なんであたしがあんたの手伝いしないといけないのよぉー」
「刹那…一応君は私の組織に入ったんだよね?」
「はぁ…仕方ない。晴嵐もいないし、あたしが出ますよぉーっと」
そういって少しダルそうに立ち上がり、黒金の後ろを歩く刹那。
二人は戦闘会場に向かう。
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「さてと、私の相手はまだか」
そう思っていると、あたしの前に一人の男が現れる。
身長は大体晴嵐くんと同じくらいだろうか。優しそうな外見をしている。
「…あ、すいません。なんか僕の連れが代わってほしいみたいだから代わりますね」
ただ、そういってすぐに彼は「CHANGE」を使った。私の相手は彼のパートナーか。
そのパートナーが現れる。ツインテールの可愛らしい女の子だ。
「…なっ!?」
彼女はあたしを見てなにやら驚いている。どうしたのだろう?
「あ、あたしより小さい…」
「っ!?」
あたしはその言葉にイラっときた。
確かに彼女も小さい。とても小柄だ。
腹が立ったあたしは彼女の元へ行き、胸に手を当てる。
「ちょ!?な、何やってんのよ!!」
「……ふっ。私より小さい。」
「っ!?」
どうやら向こうも私と同じ感情を持ったようだ。
私から距離を置いた彼女はじっと私を睨みつける。
私も同様に彼女を睨んでやった。私にとって一番の屈辱…!!!許せない!!
「自己紹介がまだだったね。あたしは『シュワルーズ』。『聖十字騎士団』所属の剣士よ」
そういうと彼女は腰に携えた小さな双剣を取り出し、構えた。
「ふっ、武器まで小さいな」
「…むっかー。今のは頭に来た……」
彼女の怒りの視線が伝わってくる。
私も能力を発動させ、巨大なゴーレムを出現させる。
「ふっ、自分が小さいからって能力ででかいの出すとか(笑)
それで自分がでかくなったとでも思ってるの?(笑)」
「…むっかー」
この女。
つくづく私に喧嘩を売っているようだ。
それにさっき『聖騎士十字団』と言っていたな。
最近やけに名が上がってきた組織だ。奴らがこのビルを狙っているということか?
「…先に聞きます。『ジャンヌ』様はどこですか??」
「…なんのことだ?私は知らない。」
「そう。じゃあ…あたしに負けて」
そういわれた直後だった。
私は驚愕としてしまう。ゴーレムの腹部がまるで大きな大砲を当てられたかのように空洞になってしまったのだ。
そしてその空洞を覗き込むように、彼女『シュワルーズ』も宙に浮いていた。
彼女は飛んできてこちらと同じ目線になって、ただあたしを見下した。
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「……僕の相手は、貴女ですか…」
「あ、あんたもこの世界を知ってたのね…」
「はい。いつかは話さないとと思っていたんですけど……晴嵐には内緒なんですか?」
「生憎様。晴嵐もこの世界に入ってるわよ。あたしと同じ組織で」
「…そうですか。よかった、それなら簡単に話せますね。今度あいつと戦いたい」
「それで?なんであんたが『聖十字騎士団』に?」
「まあ、偶然ですよ。ある人に勧められて。じゃあ、とりあえず闘いますか。刹那さん」
「…そうね。優!!」
「そう呼んでもいいですけど、僕には騎士団としての名があるんですよ。『デュランデル』って名前が」
「奇遇ね。あたしも『フェンリル』って名があるの」
「フェンリル…北欧神話の狼ですね?いかにも刹那さんらしい」
「じゃあまあとりあえず…」
「「闘いますか!!」」
その瞬間。刹那はもうスピードを出す。
その衝撃に驚く間もなく吹き飛ばされる『デュランデル』。一瞬消えた刹那の姿が現れる。
「…『光速移動』。いや、本当に刹那さんらしい能力だ。能力を知らない人は対処できないですね」
そういってぐったりしながら立ち上がる『デュランデル』。腰に携えてた大きな剣を抜いた。
「じゃあ貴女の速さ……僕の前では意味がないですよ」
「そう、じゃあもう一度喰らいなさい!」
もう一度マッハで彼を攻撃するつもりだった。
突然刹那は顔面から地面に叩きつけられる。
どうして…!!!動けない!!!!
「さあ刹那さん。これでお互い不意打ちを一回ずつ。堂々と戦いましょう」
男は、『デュランデル』の名を持つ騎士だ。
聖正純の命に従う。優秀な騎士。
彼はバスケ部に所属しており、明知晴嵐。葵刹那とも交友のある。とても優しい男である。
名を、『徳川優』と言った。
☆
「さあ刹那さん。これでお互い不意打ちを一回ずつ。堂々と戦いましょう」
地面に叩きつけられている刹那を見下ろす徳川。
悪意などまったくなく、むしろ少し心配しているように見てくる。それがまた腹が立つ。
「な、何が堂々よ…あんたの能力をわかってないんだけどぉ?」
「あ、それもそうですね。その前に僕の言った仮定は正しかったんですか?」
「ええ、正解よ。あたしはとっても速く動くことが出来るの。これですっきりしたでしょ?教えなさい」
「わかりました。じゃあその前に我ら『聖十字騎士団』のポリシーを言いましょうか」
突然。
あたし、葵刹那は困惑する。
なぜ優の奴が急に聖十字騎士団の話をした?あたしは能力のことを聞いているのに…。
「まあ聞いてください。我ら『聖十字騎士団』のモットーは「弱き者」ってことなんだ」
「何が言いたいのよ。あんた達が弱いって言うの?」
「あぁ、僕は弱いよ。だって強いのは……『この剣』なんだから」
「??」
あたしは首を捻ってしまう。どういうこと??
「だから僕本人は弱い。そしてこの剣『デュランデル』の能力は『重力』。
僕はこの剣を持っている限りこの剣の加護を受けているんだよ」
そういって剣を掲げる優。確かにその大きな剣は光を放っていてとても綺麗だ。
「さあって、二人共能力を公開したことだし……続きいくよ!!」
優が剣を翳す。
またあの重力現象が起こる!と思ったあたしは即座にその場から逃げる。
あたしがいた場所を見ると、そこには大きなクレーターが出来ていた。
それだけじゃあない。
あたしを捕まえようとしているのか、無作為にフィールドにクレーターが発生する。
「さすが刹那先輩早いですね!!」
そういうと今度は剣を上に挙げる優。隙が出来た!ここで攻撃すれば―――。
「甘いですよ。」
「っ!?」
あたし突然襲われた違和感に驚いた。
あ、足が地面についていない…そして進まない!?
「重力遮断。こういうことも出来るんですよ!」
あたしは気づいた。この場に浮いているんだと。
優はそのままあたしに急接近してきてその『デュランデル』であたしに斬りかかる。
斬るというよりかは鈍器に近い痛みが全身に走る。
そのままあたしは勢いに任せてその威力に飛ばされていく。
地面についたと同時にあたしは反撃を開始する。
こうなったらマッハ5の超必殺!!
「くっ!!」
あたしを捕らえることが出来ずに優の鳩尾にスピードで重くなった拳をぶつける。
彼はそのままブッ飛ばされる途中で、自らの剣の能力からか、壁に激突せずに宙に浮いた。
優は本当に痛がっていて、口から大量の血を吐いた。息も物凄く荒くなっている。
「どうやら僕と貴女じゃあ相性が悪いみたいだ……」
血を吐いて苦しそうな表情になっている優。
剣に能力を付与させているからか、あたしのような『超人型』に比べて体が頑丈ではないのだろうか。
「僕の重力下で捕らえられない敵は物凄く苦戦するよ」
そういってまた剣を挙げる。また重力遮断か!!!
どうやらさっきのクレーターのように、重力を変えれるのはごく一部のみらしい。
ならあたしの能力でこの重力遮断エリアから逃げてしまえばいい!!!
光速で動いたあたしはそのまま優の身体に蹴りを与えようとする。
けれど優は来ることを先に予想していたのか、あたしの蹴りをデュランデルで受け止める。
「波動!!」
そう叫んだ優。
何が起こるのかと思っていると、剣から突然とてつもない衝撃波が走りあたしは吹き飛ばされる。
やばい。急だったもんだから右足の骨を完全にやられた……!!!!!
「さあ、刹那先輩。貴女の足を使い物に出来なくしました。これなら僕でも勝てるかも知れない……」
そういって剣を構える優。
何が「弱きもの」がモットーだよ!その執念深さ…弱い奴には出せないものだ!!
あの優しい男の優がこんなに勝利に執着するような顔をするなんて……。
あたしは心底この男の真意を見てこなかったのかも知れない。
さすが晴嵐の親友と言ったところか………この子も…化け物だ。
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「わ、わたしのゴーレムが……!?」
「へへっ、いい気味♪」
少女、『シュワルーズ』が持つ短い双剣の周りを小さな竜巻が包み込んでいる。
そして彼女が何かをした。何かをしたのはわかっている。けれどその「何か」がわからない!!!!
彼女が空を飛んでいるのも、その能力なのか……。
私はゴーレムを形成する力を消滅させた。
「あれ?おっきなゴーレムさんは潰しちゃうの?かわいそぉー」
「…つくづく嫌味な女だな君は」
私も『サイコキネシス』によって自身を宙に浮かせる。
この女を相手取るならゴーレムよりも本体である私であるほうが能力がわかるだろう。
「ゴーレム仕舞ったこと…後悔させてやるんだから!!!」
彼女はこちらに向かって突進してくる。
私は自分の腕に磁石のように岩たちを集めて即席の手刀を作る。
それで相手の双剣に対抗する。岩の剣が削られていっている!?
私は急いで再生を試みながら彼女の剣戟を防ぐ。この女…早い!!!
「どうしたの!?あたしの能力はわかったの!?」
彼女はそう叫んでまだ剣戟をやめない。私は大振りで攻撃を始めると、彼女は慌ててバックステップした。
「…君の能力はわかった。確かに厄介だな………風使い!!!!!」
「正解♪まあおチビちゃんにはよく出来たほうじゃないのぉー??」
「わ、私は17だ!!!」
「嘘…!?そのナリで結婚できるの……夫犯罪者になっちゃうじゃん…!?」
「何がいいたいのだ!!!!!」
くっそぉー自分もちっさいくせにぃ…。
そもそもなんでこいつはこんなに突っかかってくるんだ?
「はっ!?そういうことか……」
「な、何よ?おチビ!!」
「ふっふっふ。いくらでも言うがいい。私はこんなナリでも大人だ。君のような『嫉妬』にやられる年ごろではない」
「はぁ!?何言ってんの!?」
「いや、私の予想なんだけどな?君……さっきの男のことが好きだろう?」
「な、あ、あたし別に優のことなんとも思ってないし!!使い勝手のいいパシリとしか思ってないし!!
べべべ、別にあいつがあんたの身長小さいの知らずに「美人」とか言ってたからじゃないし!!!」
「……君、実はバカだろ?」
本当、ちょっと揺さぶりかけたらまさか理由まで言ってくれるとは…。
私は動揺している彼女の元に急いで移動する。腕に作った岩の刀をより強大にさせる。
「これで終わりだ!!」
「し、しまっ――――――」
隙だらけだった彼女の腹部を思いっきり私は切り裂いてやった。
そして彼女はゲームオーバーとして消滅した。
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「……僕の連れが負けちゃったみたいだね…」
「あの小さい子?」
「うん。木下結花ちゃん。名前で呼ぶと怒られるんだけど…どうやら向こうの『ピクシー』に負けたみたいだ」
「まあ…あれに勝てたらその子も大したものよ?本当化け物みたいに強いんだもん…」
「うーん…こんなに苦戦している刹那先輩と、その後に構える『ピクシー』か…うん。勝ち目ないね」
優は苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。
そこで初めて、あ…普段の優だ。とあたしは感じることが出来た。
「どうする?僕としては今回のこの勝負はただの『人探し』と『宣戦布告』だからこれ以上やらなくてもいいけど」
「あんた…またここに来るつもりなの?」
あたしが問い詰める。
優。本当に強い…。正直このまま続けていたらジリ貧であたしが負けていたと思う。
「うん。多分聖さ…いや『エクスカリバー』様がここに襲撃に行くと思うよ」
「ちょっと待ちなさいよ優。今…」
「あぁー、聞き逃さなかったか…。うん。僕らのリーダーはあの『聖正純』さんだよ」
その言葉を聴いてあたしは驚きとともに、優が「聖十字騎士団」に属しているのにも納得が言った。
『聖正純』……我が校の生徒会長をやっている男だ。
とにかく正義に忠実で、その癖人望が熱く『嫌うものは入れど逆らうものはいない』男である。
もちろん校則とか護らない人間が彼を嫌うだけで、他の人は大して嫌わない。
少しやりすぎなところもあるが、彼は正しいのだ。仕方がない。そして何よりも腕があるのだ。
成績優秀。運動神経も抜群。おまけにこの地域での絶対的権力を持つ『聖財閥』の御曹司ときたもんだ。
そんな彼に逆らうものはいないだろう。しかも悪行を行っているのではなく、善行を行っているのだから
誰も彼を嫌いになることなんて不可能だし
誰も逆らうことが出来ないのだ。まさに力による政治。それが聖のやり方だった。
圧倒的力から暴君になるのではなく、他者から好意を得て、多数者の支持を得ることで正義を掲げる男。
「そしてその正義で出来た国家が…『聖十字騎士団』…!!!!」
「まあ、あながち間違ってはないかな。あのビルでは『規律』が全てだから」
そういうと優は両手を挙げて、降参の意を唱えた。
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「いやぁー久々の外出だなぁー♪『デュランデル』たちはちゃんとやってるかな?」
「…というかお前。今ここにきたなら、あの二人に行かせた意味がないじゃないか…」
「そうですわよ会長~。わたしもそう思ったのですけれど……?」
「まあ、あの二人には経験をさせないとね。新人だし」
「…まあそうだが」
「強い奴と戦うと彼らは強くなるからねぇー。『ズルフィカール』もそう思うでしょ?」
「えぇ、わたしも…あの二人は有望だと思いますからね」
ビル内を歩く三人。
さっきの優と結花が着ていたコートと同じものを身に纏い歩く。
右端はとても美人のロングヘアーのお姉さん。って感じの女性だ。いかにも大人っぽい雰囲気を醸し出している
左端はとにかく縦にも横にも大きい筋肉質な男だ。顔も険しく叔父さんのようにも見える。怖い雰囲気だ。
そしてその真ん中で二人を付き従えているのは、中性的で身長も平均ぐらいの少年だった。
その少年のルックスだと間違いなく左の男の腰ぎんちゃくをしているようなものなのに、まったくの真逆。
幼い幼稚園児が小学生を引き連れているようなそんななんともいえない違和感が襲い掛かってくるのだ。
「まあ、どうせ宣戦布告するなら…大将が行かないと申し訳立たないでしょ?」
そういって少年達は歩いていった。
そしてそんな目の前に、彼らの目的が見つかる。
その人物は見つかってしまったといわんばかりにこちらを見つめてくる。
「見つけた♪……僕らの『ジャンヌ』…」
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「…あの服…!!!やっぱり!!!」
その人物はモニターで『ピクシー』と聖十字騎士団との戦いを見ていた。
彼らの服装。間違いない。とその人物は納得せざるを得なかった。一番想像したくなかったパターンだ。
とにかく、姿を隠そう。その人物はそう思った。モニターを見る人ごみを掻き分け、進む。
やっと人ごみから出たと思ったとき、その人物の視界には白いコートが靡く様が見えた。
そのときその人物は絶望した。ついに見つかってしまったのだと……。自分を探すものに
「見つけた♪……僕らの『ジャンヌ』…」
そういったのは中央の少年だ。
その言葉を聴いてジャンヌと呼ばれた者は逃げたくても足が動かなくなってしまっていた。
中央の少年は、言葉を続ける。
「いや…ジャンヌと呼ぶよりもこう呼ぼうかな。久しぶりだね♪孝明」
「……兄さん!!!!」
少年は、悔しそうにそう呟く。
そう、目の前にいる少年は…自分の兄。『聖正純』なのだ。
少年は『ジャンヌ・ダルク』と呼ばれていた。
過去に自分が兄と作った『ロイヤルナイツ』と言う組織で。
しかし少年はとある理由から兄である『エクスカリバー』から逃げ、家からも逃げた。
そしてこのビルにたどり着き、本名と2つ名を捨て、このビルで活動をしていた。
まだ2つ名も持たぬ、若手のプレイヤー。しかし彼を知っている人々はみな、口並みそろえて彼をこう呼んだ。
「リア充爆発しろ」の略。「RB」と――――――――――――――。
☆
僕の兄。聖正純は素晴らしい人だった。
世間では「次男の方が優秀になる」と言うケースが当たり前のように報道されている。
オリンピックに出ている選手は次男が多いらしい。千原兄弟も弟の方が人気もある。
某宇宙飛行士のマンガでも、先に宇宙へ旅立ったのは弟の方。そう、ほとんどの家庭では「次男」の方がいいという。
心理学者などが語るに「次男の方が長男よりしっかりする」と言う傾向があるらしい。
それはあくまで自論だが、弟と言うのは常に「兄」と言う名の「敵」「壁」があるからではないだろうか。
常にライバルがいる。喧嘩をしても勝てない。頭もいい。そんな兄が弟にとっての壁になる。
だからこそ弟と言うものは兄のブレーキ役に回ったり、その兄を超えるための努力を怠らなくなり
いつしか兄を追い越す存在になると思うのである。
しかし、じゃあ弟が兄を超えられないケースは一体どんなものなのだろうか。
それは…超えることすら不可能なほどの兄貴がいるってことしかないのではないだろうか?
「…兄さん!」
僕は思わず咆える。
目の前にいる存在に、畏怖の念を抱きつつも、憤怒の念も抱いたその咆哮は、兄には届かなかった。
「そんな怖い顔するなよ。『ジャンヌ』」
そういって僕のことを『ジャンヌ』と呼ぶ兄は、何一つ顔色を変えていなかった。
「兄さんは…何も変わっていないんですね」
彼は本当に、何ひとつ変わってはいなかった。
いや…変わっていたことを願っているのが図々しいのか。
僕はあの組織から逃げ出した人間なのだから。
「さあ、帰ろうジャンヌ。そして僕らの家にも変えるんだ…孝明」
「聖家」と「聖十字騎士団」に帰って来いという2つの意味を含めた言葉を僕に突きつける兄。
僕は思わず黙りこんでしまう。このまま僕が逆らったとしてもきっと実力行使されておしまいになってしまう。
ならもう諦めたほうがいいのか?兄に逆らうこと。この男に逆らうこと。この男から逃げることは……
「私の連れに何か用でもあるのか?生徒会長?」
そんなとき、僕の肩に誰かの手が置かれたのに気付いた。
その手は、僕を支えに置いているというより、僕の肩に手を伸ばしている。
小柄な僕に手を伸ばすものなどそうはいない。
「寧々ちゃん…」
僕は振り返ってその姿を見る。
本当に小さい。僕なんかよりも小さい少女が、伸ばしておいてくれた手。
それが一気に僕を正気に戻してくれた。あぁ…やっぱりこの人は僕が自分で遣えると決めた人なんだ。
「…これは黒金寧々さん。いや、ここでは『ピクシー』と呼んだほうがいいかな??」
「あぁ、私としてもそうしてくれたほうが助かる。そっちの二人は……副会長と…剣道部の主将だったな?」
寧々ちゃんは後ろにいる人物を見て、そのような言葉を口にしていた。
そうか…兄と寧々ちゃんは同じ学校に行っているのか。
「えぇ、貴方の噂がかねがね聞いておりますわよ?小学生が特待生として我が校にきていると…」
「わ、私は小学生じゃない!!」
「あら?そうでしたの?確かに我が校どころか日本には特待生制度はありませんでしたものね♪」
「ぐぬぬ…。私をおちょくっているなぁ…」
寧々ちゃんは「またか…」と言わんばかりの顔で『ズラフィカール』を睨む。
あの顔…さっきの対戦相手にも似たようなことを言われたのかな?
まあ僕も初めて会ったときは僕よりも3歳以上年上だったとは思わなかったけれど…。
「それにしても、お前らもこの世界を知っているとはなぁ…。『伊達美加子』『織田太朗』!!」
兄の後ろの男女を見て、彼女はそう叫ぶ。
「そうだ。俺も美加子も、正純に勧められてこの世界を知った。だからなんだというのだ?」
「いや、特に何もないさ。この世界に入ってはいけない者などいないのだからな…」
寧々ちゃんはその体格からは想像も出来ないほどの風格を見せ、兄たちに話しかけている。
本当に…この人は立派だと思う。
僕と同じ…いや、それ以上の待遇にいながら、こうして何事にも怖気づかない強さを持っている。
「それでだ。私の連れに何の用だと言っている」
少し憤怒の念を含めたその言葉に、兄は怖気づかぬに淡々と語る。
「まあちょっとね。それに『ピクシー』の連れじゃないんだよ。『ジャンヌ』は僕らのリーダーだ」
「っ!?」
「その様子だと『ジャンヌ』からは隠されていたんだね。リーダーが逃げたから探して連れ帰りにきたんだよ」
淡々と答える兄。
嘘も何もついていない。紛れもない事実。一切の声の振るえも存在しない。
それを聞いてしばし沈黙する寧々ちゃん。当然だ。僕は彼女に嘘をついていたのだから。落胆しているのだろう。
「…そんなものは関係ない」
小さく言った彼女の言葉は、兄たちは愚か僕まで驚いた。
「RBは私達の仲間だ!ジャンヌでも無ければ聖孝明でもない。ましてや『聖十字騎士団』のリーダー?
ふん。片腹痛い。今ここにいるのは私の仲間で、信頼の出来る私の友達としてのRBでしかない!!!!」
寧々ちゃんが強く言ってくれた。
それが僕にとっては嬉しかった。
はっきりと『友達』と言ってくれたのが…純粋に嬉しかった。
「…そう、RB…『ジャンヌ』はおもしろい名を名乗っているんだねぇ…僕の思っている意味で正しいのかな?」
そういって兄が僕を睨みつける。僕は思わず怖気づいてしまう。
僕の中で兄には勝てないという常識が、この恐怖心を生んでしまっているのだろうか…。
「まあ、いいや。話し合いで解決は出来ないだろう。
人間って言うのはそんなに賢い動物じゃあないんだ。
国・言語・宗教。人はその違いを否定し、争っていく。何とも醜い生き物だろうか。でも、従うしかないのが人間だ」
そういって兄は踵を返して僕らに背を向けて、歩みを始める。
「だから僕らも、君たちには『争い』で勝負をつけようと思うよ。
ルールはそうだなぁ…『チェッサー』なんてどうかな?僕ら『聖十字騎士団』と君たちの相対だ」
そういって三人はその場を去って行ってしまった。
「なんか大変ねぇーあんたんとこのメガネも…」
兄が去ってから現れた『フェンリル』は僕にではなく寧々ちゃんにそう話しかけてくる。
「そうだな。そこの所…話せることだけでいいから君に聞かないといけない。RB」
そういって寧々ちゃんは僕を少し見上げるように言った。
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「まだまだですよ!セーラーさん!」
「だから俺はセーラーじゃなくて晴嵐だって!!」
フリーバトルの舞台。
主に特訓などのために使用できるこの場所では互いの了承があればいつでも対決が出来ると言うものだ。
しかし敗北するまでではなくタイム制。ポイントに介入もされないから決戦などには向いてはいない。
そしてそんな場所で俺は今『フレイヤ』ことメアリーさんと対決している。
「むむぅーちょこまかとぉー!これでどうですか!!」
彼女はずっと地面に手を当てて座っているだけだ。
地面から生えてくる巨大な植物が俺に目掛けて攻撃を仕掛けてくる。
それを俺は空を飛びながらずっと逃げているわけだけれども…。
さすがは『オーディエンス』で最高幹部の一人として『豊穣の神フレイヤ』の称号を持っていた少女だ。
回復能力だけでもとんでもないのにこういった戦闘にも応用できるのか…
彼女曰く、傷を治しているのは活性化させて身体の傷を防いでいるという形らしく。
土の中の植物を成長させて、こうして俺に攻撃させるよう操っているのも彼女のようだ。
これも「1つの能力の応用」であるようで、俺が今修行している者のゴール地点のようなもの。と狩羅が言ってた
そんなことを考えながら飛んでいると、細い口が俺の四肢に絡み付いてくる。
「かっ!しまっ!!!」
そう言った直後、物凄い太いのが俺の腹をダイレクトに直撃してくる。やっべぇ…激痛だ!!
「セーラーさんの弱点は打撃です!傷が出来ない打撃には炎を発生させることは出来ませんから!」
そういってたこ殴りにあう俺。
何時しか体力を奪われ羽が消えてそのまま絡まった植物が離れていき、俺は地面に落下する。
「はぁ…やっぱなぁー。傷は回復しても体力は回復しない。そしててめぇは羽でしか形容がまだ出来ない。
まあ今ならそれでも何とかなるっちゃあなるが…他の形状に変えようとか思わないのかぁ?」
倒れた俺の元に駆け寄った狩羅がそんな言葉を口にした。
「するも何も…羽をしているときには他のはどう頑張っても無理なんだよ。
一応羽出してないときにはそれなりに他のも出来るけど」
そういって俺は傷から炎を出して、己の腕に盾らしき形状に炎を変化させる。
他にも腕を纏わせてそのまま炎の腕のようにしたりとしてみる。
「しかもこれ形羽みてぇに機能しねぇんだよ。盾の形にしても盾になんねぇし…」
そんなことを愚痴ってみる。
前に龍二と対決したときにためしに使ってみたんだが、まったくの無意味だった。
「そうだ。おめぇ蝋燭の方は出来たのか?」
「あぁー。なんとか出来たぜ。こうやって……こうだろ?」
俺は指元に炎を集めて、その辺に適当に炎を放出する。まるで小さな火の粉となったその炎は俺の狙った場所に
向かって飛んでいき、当たった壁に焦げ色を刻む。
「まあ、それが出来てりゃ上出来だ。今日は上がっていいぞ」
「お疲れさまっしたぁー」
俺は狩羅に言われてクタクタの身体を起こしてトレーニングルームを去る。
扉を開けて外に出てみると、ずっと俺を待っていたのか、壁に背中を預けて俺を見ている刹那の姿があった。
「どう?修行ってのは進んでるの?」
彼女は俺の現状を見てそう問いかけてくる。
それよりも俺が気になったのは、彼女がどこか重苦しい空気を漂わせているからだ。
「どうしたんだよ刹那?いったい?」
「…驚かないで聞きなさいよ?」
そういって彼女が言った言葉に、俺は約束を護ることが出来ずに驚愕してしまう。
「…優もこの『スカイスレイパー』をやってる!?」
「えぇ、しかも『聖十字騎士団』の幹部。『デュランデル』って名乗ってたわ」
「そうか…優が……。一回闘ってみてぇなぁー!!」
俺は思わずわくわくしてしまった。
あの優がぁ…一体どんな能力を使うんだろうかぁ…。
まだ闘ってはいないが、車田…飛来に次ぐ俺のライバルになるのは間違いない!
「…負けた」
「え?」
突然そんな言葉を口にする刹那。
驚いた俺が聞き返したと感じたのか、彼女はもう一度大きな声で発した。
「負けたのよ。あたしは…優に。結果としては寧々が向こうの一人を倒して優の降参だったけど
あのまんま闘っていたら……あたしは絶対に負けてた」
少し悔しそうに言う刹那。
開いていた手の平を強く握り締めるのが見えた。
「じゃあ俺は優に絶対勝たなくちゃいけなくなったわけだ!」
「え?…」
「だってそうだろ?あいつには負けたくないし、何より仲間がやられてるんだ。絶対にリベンジしてやらねぇと」
俺は笑顔を彼女に向けてそういう。
なぜか彼女はきょとーんと呆然とした顔で俺を見ていた。
しばし沈黙が走った後、彼女は我慢が切れたかのようにププッと噴出してしまった。
「な、なんだよ!俺なんか変なこと言ったか!?」
「いや…べ、別に……さっ。ただ…その願いが案外早く叶うかもよって言いたいだけなの」
笑いを堪えながら言った刹那は、笑いが収まるのを待った後、俺の顔を見て言った。
「だって、優んとこの親玉…うちの大将に喧嘩売って来たんだもん。しかも原因はRB君ってことでね」
「…え?」
俺はただただ驚くしかできなかった。
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「さてっとみんな……明日の夜。
『メルへニクス』と僕ら『聖十字騎士団』による正式な決闘が決定された。
ルールは「チェッサー」。メンバーは僕ら幹部が全員出れるようにこのルールにしてもらった。
向こうもこのルールを飲んでくれたよ。向こうの数も6人らしいからね。これに意義のある人はいるかい?」
そういうと、みんな無言で首を横に振ってくれた。
皆僕の考えに賛同してくれたということだ。
相手は強敵『ピクシー』
だからこそ僕らは証明してやりたいのだ。
強者を葬るのは……何時だって弱者なんだと
☆
「うっしゃ!出来たぜ狩羅!!」
「この短期間でそれだけ出来りゃぁ上出来だな」
「本当にお疲れ様でしたぁ~セーラーさん!」
「俺の名前は晴嵐なんだけど…まあいいっすわ。それで、古田さんと龍二は?」
「あの二人はオーディエンスに世話してもらってる。戻ってきたら強くなってるかもしれねえぞ?」
狩羅が少し笑みを含みながら笑った。
その理由を説明しようと、メアリーちゃんが口を開く。
「あの二人、ヴァルキリーちゃんに気に入られて。
あの人が溜めに溜めてた強制戦闘権で毎日一回は戦わされてるらしいんですヨ…」
少々苦笑いをするメアリーちゃん。
先輩から聞いたことがあるけどオーディエンスで本当にやばいのは三人。
リーダーの『オーディン』その側近をやってる『ヴァルキリー』。そして『トール』って男らしい。
そんなにやばい『ヴァルキリー』に毎日戦いを挑まれている龍二と古田さん…ご愁傷様です。
「とにかく本当にありがとうございました!」
俺は目の前にいる狩羅とメアリーちゃんに頭を下げて礼を言う。
我が侭聞いてもらって早朝から二人には来てもらって稽古をつけてもらったのだ。
「じゃあ、俺はこれから行く場所があるので失礼するっすね」
俺はそう言って彼らの元から去る。
俺はすぐさま待たせている場所に向かい、準備をして整える。
「おっす!待たせたか?」
「いえ、別に。それで…何の用ですか?」
「いや、ちょっと話したかっただけだよ」
俺は待たせていた場所にいた眼鏡をかけた少年に話しかける。RBだ。
彼を待たせていたのは近所の河川敷。
「さてっと、RB…座れよ」
俺は坂になっている草むらの上に座り、RBに隣に座るように言う。
彼は黙って俺の言った場所に座ってくれる。うん、素直でよろしい。
「お前の兄貴だったんだな、うちの生徒会長」
俺はいきなり本題に入ることにする。
その言葉を聞いたとき、RBは少し俯く。
その後、RBは眼鏡を外して俺の眼を見てくる。
「驚いた。眼鏡外したらやっぱり兄弟だな」
「…そうですか。自分がそこまで嬉しいことじゃあないんですけどね」
RBはいつもの単調な口調で言う。
こいつにとって兄貴っつうのはいい気分になれるもんじゃあないのかも知れない。
「なあ、なんでそんなに兄貴が嫌いなんだ?話せるところまででいいから話してみろよ」
「……」
RBはしばし黙りこむ。
話したくないのか。はたまたどこまで話すか考えているのだろうか?
「…そうですね。兄さんは僕から全てを奪いました。
いや、違いますね…。僕は兄さんから全てを与えられたんだ」
「ん?どういうことだよ??」
「僕は『兄の付属品』なんですよ。
僕一人では何も出来ない。僕が持ってるものは全て兄からの授かり者なんです。
そうじゃなくても最終的には兄のものになるんです……『ロイヤルナイツ』がそのいい例です」
「…ロイヤルナイツ?」
俺は聞き覚えのない単語を言って疑問を問い詰める。
「…元聖十字騎士団の名前ですよ。
まだ数も少なかった僕と兄さんで作った組織です。けれど数が増えて、そこまではよかった。
けれど兄のカリスマ性と、僕の「異能系能力」に対する崇拝。そうしてあの組織は成り立ってました」
「それでお前の『ジャンヌ』なわけか」
「はい。僕はみなが慕う戦場の華にして英雄『ジャンヌ・ダルク』の名を得ることになりました。
けれど、『規律』と『正義』を重んじる兄さんにとって、僕『ジャンヌ・ダルク』は傀儡に過ぎなかった」
んー話を聞いててなんかややこしくなってきたぞ?
えーっと、昔RBと兄貴が組織を作った。それが『ロイヤルナイツ』で
人数が増えていく一方の中で兄貴である「聖正純」が『規律』を創り、遵守させた。
そしてRBは組織の創設者『ジャンヌ』としてまあ所謂「司教様」に仕立て上げられたわけだ。
「でも、お前は決して兄貴に全てを与えられてないだろ?」
「え?」
RBは少し落ち込んでいたのか、暗い顔をして俺のことを見てくる。
「だって、俺はお前と一緒にいるけど、兄貴関係ねぇじゃん。
先輩もそうだし、刹那も知恵ちゃんも。
それは兄貴からの贈りもんでもねぇ、お前自身のもんだろ??」
俺の言葉を聞いてキョトンとしているRB。あれ?俺なんか変なこと言った?
「…そうですね。僕は「RB」としてなら、かけがえの無いものを手に入れた。
けれどそれは結局「聖孝明」としてのものじゃあない。それに、僕は兄さんから逃げれない…」
「何言ってんだ。なら俺が今から「孝明」とも友達になりゃいいんだよ。名前なんて関係ねぇよ」
「名前なんて関係ない……か。面白いことを言いますね明知さんは」
「それに、兄貴からも逃げなくていいんじゃねぇか?」
「どういうことですか?」
RBは本当に意味がわかっていないようで、疑問を返す。
「だから、兄貴を倒せばいいんだよ。自分で兄貴を倒すんだ。」
「…明知さん、兄さんがどれほど強いか知ってますか?」
「いや。まったく!」
「……」
なんでそんな冷たい目で見られるの俺!?お前のフォローしてんのに!
「兄さんは負けたことがないんです」
「…は?」
「だから、不敗のプレイヤーなんですよ。兄さんは。故に2つ名は…『エクスカリバー』です」
「え、エクスカリバー…」
俺も聞いたことがある。マンガとかでだけど。
確かアーサー王が使ってた伝説の聖剣だったかな?
どんな話かは詳しくはないけれど、どんなマンガでもその名の剣は「最強」の意味を持っていた。
「でも、まあそうですね。兄さんは僕が倒します」
何も変わっていない単調な口調で言うRB。だけどその顔はどこか微笑んでいた。
「あぁそうだ。俺にも倒さないといけない相手が出来たしな!」
「誰なんですか?」
RBの質問に俺は堂々たる態度で答える。
「徳川優!俺の親友なんだ。『聖十字騎士団』に属しているらしくてな。刹那がそいつに負けたらしい」
「っ!?あの『フェンリル』がですか!?明知さん絶対勝てないじゃないですか!?」
「何をぉー!!」
「だって明知さん、まだ『フェンリル』に勝ったことないじゃないですか?」
「うっ…それを言われると痛い……」
あれれ?もしかしてバスケ組で一番弱いのって俺?俺なのか?
そう考えるとなんか無性に落ち込んできた…俺…すんげぇ能力なんだよねぇ?
「…まあ、明知さんはまだ経験も浅いですしね。それでも成長は著しいですよ」
「だよなぁ!?俺頑張ってるよなぁ!?」
「…年下の中学生に泣き顔で迫らないでくださいよ」
「あ、わりいわりい。だからさ、俺もそんだけ強い奴と闘うんだ。二人で向こうのでっけぇの潰そうぜ」
俺はそういって拳を突き出す。
RBはインドア派だからか、少し戸惑っていたが、すぐに理解してくれた。
「そうですね。明知さんのおかげで、やる気が出ました。僕は兄さんを倒します」
「おう!その粋だ!!」
そういって俺とRBは拳を当てる。
河川敷で、男同士の誓い…くぅー!青春っぽい!
「おうおう、何やってんだ。俺も混ぜろよ」
そんなとき、後ろから声がした。
振り返るとかなり大型のバイクに乗ってきた車田の姿があった。
彼はバイクを止めて俺達の方に歩み寄ってくる。
「聞いたぜ?今度はあの『聖十字騎士団』とやるらしいじゃねぇか」
車田は楽しそうに俺達二人に話しかける。
本当…情報通っつうか、こういう話題大好きだなこいつ。
「しかもルールは『チェッサー』ときた。これは本格的な戦争だな」
そんなことを言う車田。そういえば俺その『チェッサー』っての知らないわ。6VS6でするってことぐらいしか…。
「この戦争……俺も混ぜろよ?」
「「っ!?」」
そんなことを突然言う車田に俺達二人は驚く。
車田は言葉を続ける。
「それにピクシーは元々そういう算段でこの話に乗ったはずだぜ?」
「どういうことだよ。それ」
「だっておめぇらんとこ。総勢しても5人じゃねぇか」
「あ…」
それを言われて俺は気付いてしまう。
俺、RB、先輩、刹那、知恵ちゃん。本当だ!5人だ!!
「大方ピクシーは俺、もしくは蛇んとこの誰かも数に入れたんだろうぜ。
向こうの『エクスカリバー』も多分俺のことメルへニクスのメンバーだと思い込んでやがると思う。
本当、なんでこんな面倒ごとになっちまったのか。俺は純粋なソロプレイヤーでいたかったのによぉー」
額に手を当てやれやれと溜め息を吐く車田。
けれどその顔はまんざらでもないと言った感じだった。
本人はよっぽど『聖十字騎士団』と闘いたいのだろう。
「よっしゃ!!んじゃあ俺と車田とRBで『メルへニクス男子同盟』だ!!」
「…なんですかそれ。ダサい」
「なっ!?RBそいつはおかしいぜ!?カッコイイじゃねぇか!なぁ車田!!」
「わりィ、さすがにそれは俺もダサいと思うぞ晴嵐」
「マジかよぉー!!」
そういって俺は価値観を理解してくれない友人に絶望する。
そんな談話を続けているうちに時間は過ぎていき、決戦の夜が近づく。
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「いいか。諸君、これはRBを懸けた戦いでもあるが、我々『新生メルへニクス』初の戦争となる!」
「おぉー!!…あれ?」
先輩の言った言葉に叫んだ俺は、その後自分がKYだったことに気付いて苦笑いを浮かべる。
なんでみんなこんなにノリが悪いんだろう。刹那もこういうの好きだと思ったのに…。
「それよりもピクシー?あたしは知ってるけど晴嵐が『チェッサー』のこと知らないと思うんだけど?」
おう!さすが刹那!!そういう気配りが出来てる!!俺も今そのことを先輩に聞こうとしてたんだ!!
「そうか。そうだな…説明を忘れていた。
まあ簡単なものだ。『王』となる者を一人選び、そのものは一定エリアから動けない。
他は特に大きな意味はないが『女王』『騎士』『僧侶』『兵士』『戦車』とランクを決めれる。
もちろん『王』は私がなるけど、そこには意義はないな?では皆は何がいいんだ??」
「俺は『戦車』でいい」
「じゃああたし『騎士』ー」
「待て刹那!『騎士』は普通俺だろ!?先輩を護る騎士!」
「…『騎士』と『女王』は相手の『王』を討ち取れないのよ?」
「うっ!…そうなのか。なら譲ろう。なら俺『兵士』ー!」
「僕は『僧侶』。『ヘル』は『女王』でいいよね?」
「うん…」
皆で話し合い、それぞれの役職を決める。
まあ、簡単なルールはあるけれどそれを除けば本当にただの名前だけの役職だ。
「じゃあ、まだ時間はある。みんなゆっくりしてくれ」
そういって先輩はどこかに行く。お茶でも飲みにいくのだろうか。
すると誰かに裾を握られているのを感じる。見てみるとこちらを上目遣いで見ている知恵ちゃんだった。
(か、かわいい…!!)
なんだこの天使!?犯罪だろこんなの!
知恵ちゃんは黙ったまま一度刹那の方を見る。
刹那も気付いたのか俺と知恵ちゃんの方を何事かと見ている。
それを確認した知恵ちゃんは再び俺のことを上目遣いで見て、少し息を吸う。
「……お兄ちゃん…」
「「っ!?」」
なななな、なんだこの天使は!?
「ち、知恵?ど、どうしたの?一体…」
「こうすると男の人は喜ぶって書いてたの」
「「何にっ!?」」
「…マンガだよ?」
「偏った知識!!でも可愛いから許す!」
「ちょっと晴嵐!うちの妹にデレデレするんじゃないわよ!!」
「知恵…晴嵐お兄ちゃん好き…」
「なっ…」
その直後だった。
俺の鼻から何かが湧き上がってきて、放出される。
「ちょ、ちょっと晴嵐!鼻血鼻血!!」
「お、マジか!?テ、ティッシュ!!」
「もう…何やってんだか……」
そういいながら刹那は自分のティッシュを出して俺の鼻をかんでくれる。
やっぱり二人の弟妹がいるし、母親代わりもやってるからか、本当にお姉さんみたいだ。
何だろう…少し照れくさい。
「…『ヘル』。楽しんでるでしょ?」
「うん。お姉ちゃん、素直じゃないし奥手だから…楽しい」
「地獄の神様の名を持つだけあるね。末恐ろしいよ…」
RBと知恵ちゃんが何か話しているのはわかるが内容までわからない…。
とにかく、倒れている俺を介抱してくれた車田が俺の一番の親友なんじゃないかと思えた時だった。
「…晴嵐くん。その血はどうした」
「す、すんません…。ただの鼻血です……」
言えない。中学生女子に「お兄ちゃん」呼びしてもらって鼻血出したなんていえない。
「まあいい。ではみんな…。行くぞ」
先輩の合図とともに、俺達と『聖十字騎士団』との戦いが始まる。
ってなわけで、前編終了です^^
RBの驚愕の真実。そして晴嵐の親友。徳川優の出現。
そしてRBの兄…《聖正純》…。
彼らとの闘いに晴嵐たちは勝利できるのか!?
後編は明日公開しますので、お楽しみください♪♪