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二章~ロキの三兄弟編・後~

さまざまな敵を狩り続ける賞金稼ぎ『ロキの三兄弟』

彼らとついに明知晴嵐たちは相対する時が来た。


3対3のデスマッチ!

そしてロキの三兄弟を動かしている男。『ロキ』の正体とは!?


激しい闘いを繰り広げる『ロキの三兄弟編・後編』…ついに開幕!




「…来たな」

「そうですね…」

先輩は、対戦票モニターを見て、呟く。俺もそれに返事をする。

ロキの三兄弟の男の顔と、黒金先輩の顔が、モニターには映されている。

対戦内容は『3on3』。

『松竹梅』と違い、これは町全体を使って三対三で戦うものらしい。

全滅したほうの負けのシンプルなルールだ。

「先輩…メンバーはどうするんですか?」

「私と君、RBだ。私は人望がないから君たちぐらいしか頼れる人がいなくてね」

先輩が少し皮肉を混ぜた言い方でくすりと笑った。

それでもいい。頼れるのが俺とRBしかいないなら、それで十分だってぐらい活躍してやるまでだ!

と、俺は心に誓い、戦闘会場に向かった。





--------------------------------------------------------------------------------




「でもよぉ、姉貴いいのか?あの男姉貴の知り合いなんじゃねぇの?」

「これも仕事よ。それでも出来たら戦いたくないわね。あいつはあんたに任せるわ」

「お、マジで?姉貴に任されるとあっちゃあ男としてふんばらねぇとなぁー!!」

そういって腕をパキポキと鳴らす龍二。


あたし、葵刹那がこれから闘うのはあの『メルへニクス』の『ピクシー』だ。

『メルへニクス』と言えば一昔前なら誰もが恐れた少数組織。なぜだかわからないけどその後解体したらしいが

その伝説とも呼べる組織の一人と、今から私達は戦わなければならないのだ。鳥肌が立って仕様が無い。

「いい?あの『ピクシー』が見込んだ二人よ。

 彼女以外の二人だって、相当強い恐れがあるから…全力で行くわよ」

私は、弟と妹にそう言い聞かせて、先頭切って戦闘会場に向かった。




少女は、『ロキの三兄弟』リーダーである。

獲物を逃さない鋭い目とその逆立った毛が印象的だ。



『ロキの三兄弟』筆頭。葵刹那。

人々は彼女を2つ名でこう呼んだ――――北欧神話の狼の姿をした化け物『フェンリル』と。




--------------------------------------------------------------------------------





「…あれ?先輩?」

俺は転送された場所ビルの屋上で一人になっているのに気付き、当たりを見渡す。

『…明知さん。聞こえていますか?』

「この声…RBか?」

耳につけた通信機からRBの声がする。連携も必要となるこのバトルでは、こうして通信機が配布される。

「ところで先輩は大丈夫なのか?」

『そういえば明知さんは見たことがなかったですね。

 寧々ちゃんの闘う姿。見れるなら見たほうがいいですよ』

RBがそういう。

んー先輩の能力か…『ピクシー』って呼ばれてるぐらいだし、きっと可愛い能力なんだろうなぁー

っていうかまず先輩が闘ってる姿が思い浮かべれない…。

「おう!ここにいたか!」

「!?」

『誰かきたみたいですね。僕も移動を始めるので、また…』

そういってRBは通話を切った。

俺は声のしたほうを見上げる。自分がいるビルよりも高い屋上から俺を見下す。

短いリーゼントの男がいた。

昔みたいに胸の部分まで切り落とした学ラン。しかもボタンは全部開けている。

きているシャツには「剣参!」と筆で書かれたようなものを着ている。俺は呆気に取られた。

「おうおう!その日本刀!名は明知晴嵐であってるよなぁ?」

いかにも悪ぶっているそいつの言葉が響き渡る。

先日本物の不良(狩羅)と闘ったばかりだからどうもこいつは「なりきってる」だけのように見えてしまう…。

「…俺の名前知ってるなら話は早いけど、そっちの名前はなんなんだよ?」

俺は突っかかる勢いで、見下してくる男にそう問いかけた。

すると、その言葉を待ってましたぁー!と言葉に出しそうな勢いで顔をニヤケさせ、そしてこういった。

「俺の名かぁ!?俺こそ!七転八倒!危機一髪!四面楚歌!!

 この世で最強の男ぉー!『ヨルムンガルド』こと葵龍二だぁぁぁぁぁぁ!!」

そう叫ぶ龍二と言う男。

その迫力は確かにすごいのだが…1つ分かったことがある。

「こいつ……アホだ」


こうして、俺と龍二の闘いが始まる。





--------------------------------------------------------------------------------




「ったく!あのバカどこほっつき歩いてるのよ」

「通信機にも出てくれないよ。お兄ちゃん?」

「ほんっとバカなんだからぁー。仕方ない。あたし達二人でやりましょ。千恵」

「…うん」

あたしの前では、少女が二人なにやら会話をして話していた。

どうやら今回の敵の仲間らしい。

一人は逆立った髪で、ボーイッシュな少女。もう一人は私よりも小さくて、大きなクマのぬいぐるみを持っていた。

「お前達…私の首が欲しいか」

「えぇ、欲しいわね。あんたの首。ねぇ?黒金寧々?」

「見覚えがあると思えば、刹那さんか。同級生だったな」

「あら、覚えてくれたの?同じクラスになった覚えはないけど?」

「そちらこそなぜ私の名の覚えている?」

「……あんたの身長の低さは有名よ?」

「………」

そういわれるとすごいショックを受ける。

わ、私そこまで低いか……144cmって低いか?

「…私と同じくらい」

「君よりはまだ大きいっ!!」

ぬいぐるみを持った少女に指指されたので思わず叫んでしまう。

「ま、顔合わせはこの辺にして……狩らせてもらうわ」

その直後、刹那の姿が消える。まずい!

「…へぇー、さすが闘った経歴があるだけあるわね。ピクシー。

 咄嗟とは言え目の前に大きい岩を置くなんて」

にやりと笑いながら、刹那はまた姿を消す。その直後、背中に大きなダメージが襲い掛かる。

「…『ゴーレム』!」

私は痛みに耐えてそう叫ぶ。

大地が揺れる。

そして大地は姿を変え、巨大な化け物の姿へと変貌する。

「へぇ。それがあんたの能力なの?ピクシー??」

「これはほんの一部だがな」

私は巨大なゴーレムの肩に乗り、そこから指令を出す。

ゴーレムの拳は刹那を捕らえようとするも逃げられる。なんてすばしっこいんだ。

「貰った!」

ゴーレムの足から刹那が走ってくる。ほんの少し見えるだけでほとんど見えない。一瞬の移動だ。

あたしは指でジェスチャーをする。

「何っ!?」

すると彼女がわたっていたゴーレムの腕は突然捥げ、足場が崩れた彼女はそのまま地面に落ちそうになるも

身体を捻らせ、勢いを殺し、地面に着地する。

「…お姉ちゃん大丈夫?」

「うん。大丈夫よ千恵。それにしても…やっぱり化け物だわ」

彼女、刹那は私を見上げながら言った。

私は手を横に大きく広げる。すると、街周辺にあったビルがバコッボコッと割れて、その鉄塊が宙に浮く。

「メテオ!!」

私がそう叫ぶと、浮いていたビルの鉄塊たちは刹那に向けて突撃する。

刹那は千恵と少女を持ち上げ、移動する。

流石に一人で移動しているのとは速度が変わるのか、視認できる。

しかし彼女を捕らえることは出来ない。

「…君の能力は私と相性がいいみたいだな。攻撃が当てられない」

「…化け物女が何言ってんのよ」

刹那は悔しそうに歯軋りを立てる。そこには千恵と言う少女はいない。どこかに隠してきたようだ。

巨大な攻撃が当てれないならと、私は落下して粉々になった破片を宙に浮かせて彼女に向かわせる。

鉄塊と違ってこっちも速度はある。これで彼女の追い詰めることが出来るだろう。

「速いだけじゃないってこと…教えてあげる!!」

彼女はそういって姿を消す。私が飛ばした破片が全て弾き落とされる。

ゴーレムが腕を廻し、刹那を追い詰めようとするも、これも避けられる。

「…やっぱ龍二いないとこいつは倒せないかッ!あのバカどこで油売ってんのよぉー!!」

そういいながらも、しっかり私の攻撃を避けている彼女は本当に優れていると思う。

彼女の能力は恐らく『速さ』だと思われる。常人には出せないスピードでさっきから攻撃を避けている。


そんなときだった。

ゴーレムの様子がおかしい。動かなくなっていた。

「ど、どうしたゴーレム!?」

「お姉ちゃん。とりあえずこの大きい巨人さん…止めたよ」

「ッ!?」

その声の方を見ると、物陰から大きなクマのぬいぐるみを抱えた少女が死んだ目をしてこっちを見ていた。

ゴーレムの足元を見ると、不気味な何かがゴーレムの足にまとわりついている。

「ご苦労様千恵。これで少しは楽になったわ。あとは龍二が来るのを待つだけね」

私は、足場であるゴーレムが動けなくなり、動くことが出来なくなってしまった。

「くそっ!」

私は地面からいくつも巨大な岩の塊を作り、千恵に目掛ける。彼女を刹那が拾って逃げる。

能力は使える。問題はこのゴーレムが動けなくなったことだ。

「じゃあこいつは少しほっときましょ。動けないゴーレムから降りれないんだもん。

 能力を使っても私達を追うことは出来ないよ。いくよ千恵」

「……うん」

そういって千恵と言う少女をおんぶして、フェンリルこと、葵刹那は去ってしまった。

私は通信機の電源を入れる。

「…RBか?今どこだ。済まない。助けてくれ」

『わかったよ寧々ちゃん。明知さんの方も戦闘を開始したみたいだよ』

「そうか…わかった。こっちには敵が二人いたが、逃げられてしまった。」

『わかったよ……それじゃ』

そういってRBは電源を切る。

晴嵐くんにも連絡をとりたいが、戦闘中なら会話は難しいだろう。

さっき刹那の奴は『龍二』といっていたな。恐らく画面に映っていた男だろう。

彼がきたら私はどうなる?いないと倒せないと言っていたけど……。



(頼むよ晴嵐くん。その龍二と言う奴を、倒しておいてくれ!)





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「おぅら!行くぜぇ!!」

龍二は右腕を大袈裟に振りかぶる。

その直後、右腕は巨大な龍の頭部になり、俺を喰らおうとせんばかり襲い掛かる。

俺はそれを避ける。避けた先にあったビルを貫通し、そのビルは倒壊する。

「なんだその能力!?」

「はっはっは!知りてぇか!?この俺!葵龍二の能力は『変化』の特別仕様だ!

 俺の中には最強にして最大の龍『ヨルムンガルド』を飼ってる!この俺こそ最強と言う証はそれだぁ!!」

そういってジャンプした龍二は身体を捻らせる。その直後身体全体が龍になり俺を襲う。

龍の口でも俺よりも大きい巨大な龍だ。俺は慌てて背中を切り、炎の羽を作り天空へ逃げる。

特攻を終えると、元の姿に戻った龍二が俺を見上げる。

「空飛ぶなんてずりぃぞ!降りてこいやぁ」

そういってまた腕を龍に変えて天空にいる俺を襲い掛かる。

空を飛ぶ訓練はしてきたんだ!ここでなら避けれる!!

「あめぇよ!!」

俺が避けた直後、龍二は腕を胸に向けて振る。

すると俺を影が包む。見上げると俺が避けた龍が方向を逆にして俺に襲い掛かってくるのだ。

逃げようとするも、巨大すぎる龍の身体に包み込まれ、逃げ道を失い。

あっと言う間に身体を捻り潰されそうになる。俺は慌てて日本刀を振り、龍の身体を切り裂いた。

その直後、龍の姿は消え、龍二の方を見ると左腕から血が出ている。どうやら龍に攻撃を当てれば

龍二にもダメージが行くみたいだ。

それに奴の攻撃は単純。だから避けれる!狩羅や飛来に比べたらバカ丸出しだ!

巨大な龍だろうが、攻撃の的が大きいと思えばいい。

俺は空から勢いと付けて龍二に特攻を仕掛ける。

龍二は左腕を龍に変えて俺に突撃させるが、俺はこれを避けて、龍二との距離を詰める。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

これで龍二を切って終わりだ!!




俺がそう覚悟した直後だった。

風が……俺の横を通過した。



その直後、身体のいたるところに傷ができ、血を噴出してしまう。

「ッ!?」

「龍二。あんた何道草してんのよ」

「わりぃ姉ちゃん。そっちはどうだったんだい?」

「あんたがいないから『ピクシー』を始末できないのよ」

倒れる俺の耳に届くそんな会話。

ふと目を開けると、そこには小さな身体で黒いドレスを着た大きなぬいぐるみを持つ……少女がいた。

「……天使がいる」

「……変態。」

「うッ!心に刺さる一言をぉ!!」

俺は心臓にずきりときた痛みに耐えながら立ち上がる。

とても可愛い天使は俺を変態だと思ったようで、そのままテクテクと自分の仲間の背に逃げる。

「……っておい…。」

俺は、目の前にいる者に驚いた。

「なんっで…お前がいるんだよ」

「…明知くん。昨日ぶりだね」

「答えろよ。なんであんたがここにいるんだよ!!」

「答えは分かってるでしょ?私は『ロキの三兄弟』のボス。『フェンリル』の葵刹那よ」

「なんっで…あんたがこんな、賞金稼ぎとか…やってんだよ……」

俺は半ば絶望した。

あんなに明るくて、バスケが上手くて、真面目で、努力家の彼女が

ここ数日で仲良くなっただけだけど、それでも分かる。彼女は………賞金稼ぎなんてやるような奴じゃない。

「さあ、なんででしょうね。あんたが私たちに勝てたら教えてあげる。明知晴嵐くん♪」


こうして、俺の目の前に『ロキの三兄弟』が立ちはだかった。




                    ☆




「くそっ……」

私、黒金寧々は歯軋りをたてる。

降りようと思えば降りることは可能なのだ。

ゴーレムの高さから飛び降りても私は大丈夫なのだが

降りたところで無駄なのだ。戦力になれない可能性がある。

私の能力は『サイコキネシス』だ。物量制限はあるが、可能な限り動かすことが出来る。

しかし、このゴーレムを潰さずにほっておいて晴嵐くんの元に言ったとして、ゴーレムさえも手こずった彼女らだ。

ゴーレム無し、動かす質量も限られてる中で彼女たちに挑むのは無茶だ。

ゴーレムを無理やり潰そうとも思うのだが、それが不可能なのだ。……この足元の影の仕業だ。

呻き声が響いてくるのがものすごく気味が悪い……。

「……まだなのか?RB??」

『すいません。ゴーレムを目印にしてるんですけど、予想外に遠くて…』

「とにかく、君が来るのを待っている。」

『はい。了解しました…僕のマスター』

「その呼び名はやめてくれ、では…待ってる」

そういって私は喧騒の先を見ている。

恐らく闘っているのは明知晴嵐くんとロキの三兄弟だろう。



彼では彼女達には勝てない。あの能力でいくら回復しようが勝てない。

だから――――――――。

「せめて私がくるまで耐えてくれ……晴嵐くん」



私はそういってただその喧騒を眺めるだけだった。





--------------------------------------------------------------------------------




「がはっ!!」

俺は口から血反吐を吐く。

身体中が傷だらけだ。何回炎を放出した?数え切れないほどしてる。

三対一で不公平なのもある。けれど……これはそれ以上に鬼強すぎる!!!


俺はまた炎を放出する。

「あら、あんたまだ炎出すの?それって精神的体力がなくなったら終わりなんじゃないの??」

刹那が俺のことを見ながら言った。向こうは三人で並んで立っている。誰一人息が荒れてない。

「じゃ、第15Q行きますか!!」

そう言った直後、刹那の姿が消える。

感覚だ。感覚で彼女の姿を捕らえろ!!

俺は刀で彼女の攻撃を牽制する。勘で刀を立てにすると意外と止められる。

しかし、ところどころ切れるように皮膚に傷が出来る。全て防ぎきれていないようだ。

「………捕まえた」

「っ!?」

突然刹那がバックステップしたかと思うと俺は硬直してしまう。

まただ…!!!足元から這い上がってくる不気味な黒い影が俺の動きをとめる。

恐らくあの俺にとってのエンジェル(?)の千恵ちゃん(って刹那が言ってた)の仕業だろう。

「おぅら!行くぜぇー!!ホームラァァァァンバァァァァァァァァァット!!!」

動きが封じられた俺に目掛けて龍二が自分の腕を巨大な龍に変身させ、大きく振りかぶり

巨躯な身体が俺の身体全てにぶつかり、俺はそのまま勢いよくブッ飛ばされる。



(あぁ…そうだ。毎回こうなんだ)

刹那がスピードで翻弄し

千恵ちゃんが能力で俺を固定し

そして龍二が止めにどでかいの出して大ダメージを与える。

刹那一人では攻撃力に欠ける。

千恵ちゃんの能力は固定することだが、時間が掛かる。

そして龍二の攻撃は攻撃力はあるが、当たらない

三人とも、一人だときっと俺でも勝てるはずだ。刹那はわからないまでも、千恵ちゃんや龍二には勝てるはず。

それを三人同時で、最高のチームワークをこなす。ほとんど死角がないに等しい…。

「……明知晴嵐。ボロボロ。私たちに……勝てない」

人形を持っている少女、千恵ちゃんが言った。

「…へへっ、そうみたいだね。いくら蘇っても…無意味みたいだ。ところで千恵ちゃんの能力は何?固定系?」

「……教えない」

「つれないなぁー」

俺は精一杯に強がって話をする。



俺はもう一度炎を放出する。

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

俺は再び突撃する。

とてつもない炎を身に纏う。

これだけのパワーがあれば強い一撃を当てれる!!

「はぁ…懲りないわねぇ…あんたも」

また刹那の姿が消える。やっぱり目では追えない。

「これはもう捨てなさい!」

俺が持っていた刀を、刹那は払い落とす。

やばい!とうとう得物まで失った!!!

くっそぉー!どうするかぁ!!

「ほらほら!!どうしたのっ!?盾を失ってどうしようも出来ないの!?」

刹那の手刀が俺の身体に傷を増やしていく。

くそっ!どうにか一撃!!どうにか一撃ぃぃぃぃ!!!!

俺は手を伸ばす。どこにあるかすらもわからない刹那の姿をめがけて。



ムニッ……。

そんなとき、手のひらに柔らかい感触が広がる。

小さくもなく、大きくもない。手のひらに広がる柔らかな感触。

えーっと…これって………。

俺は顔を挙げる。真っ赤になっている刹那の顔が……映ってた。

「あ、あんた…ッ!!!」

「え、いや、これは!!!ちがっ」

「………明知晴嵐は変態。」

「……妹の前で何してんのよぉー!!」

刹那は顔を真っ赤にさせながら俺に思いっきり拳を放ってくる。

思わず放っていた炎も引っ込んでいた俺はその拳をモロに喰らってブッ飛ばされる。

あぁ……地獄が見える…。

「い、いや…本当悪い。そしてありがとうございました」

「れ、礼なんていわないでよっ!キモい!!!千恵!」

「…うん」

千恵ちゃんの足元からうねうねと黒い影がこちらに向かってくる。

俺はそれを飛んで避ける。翼にして飛ぶ。そしてそのまま龍二への攻撃に移る。

空から飛ぶとび蹴りだ!!!龍二はこのスピードについていけず、腕を龍にして盾を作る。

俺はその盾ごと龍の身体を蹴る。

「ぐっ!!」

身体自体が本体とリンクしているので、盾にしても痛みは走る。

勢いに圧し負け、ぐらつく龍二。今だ!!

俺はすぐさま地面に脚をつけ、龍二の腹部に攻撃を与える!!

「ぐはぁ!!」

龍二はそのままブッ飛ばされるも、途中で全身龍に変身し、地面を引きずる。

15回以上炎を放出してるんだ!

その力は絶大なはず!自分で言うのもなんだが、あの『ヘラクレス』並かも知れない!

この強力なトライアングルを潰すには、一番攻撃力のある龍二を潰すしか――――。



と、思った矢先、俺の身体は動けなくなる。…千恵ちゃんだ。

「…捕まえたよ。」

「ぐっ!またかよ…!!!」

「はぁはっ、はぁはっ…。わ、悪ぃ、千恵」

「ううん。いいよおにいちゃん。もう無理しちゃダメだよ?身体中ボロボロでしょ?」

千恵ちゃんが、龍二に話しかけている。

「さてっと、あんたにはそろそろDOWNしてもらわないとねぇ」

不敵な笑みを浮かべて、俺を睨んでいる刹那の姿があった。

自分でもわかっている。いくら根性を振り絞っても、これが限界ってことくらい。

「あぁ…。俺ももう限界だよ。流石に17Qまでは出来ない。

 だから1つ聞かせてくれ……。お前らの目的はなんだ!?何でこんなことをしてる!?」

「………ロキ。いえ…ロキ様の命じられるままに動いてるだけよ」

「ちょ、姉貴!そいつにそんなこと言ったら!!」

「…そうね。ちょっと気がおかしくなっちゃった。ごめん」

「……ロキ。そいつに何かされてんだな!」

「えぇ、言ってしまったからには答えるわ。そうよ。でも……あなたには関係ないわ」

そういって、刹那は俺の腹部っを鋭利な爪のついた手刀で切り裂いた。



俺は痛みに耐え切れず倒れる。

もう炎を放出できそうにない。そして身にまとっていた炎も消えた。限界ってやつだ。

意識が朦朧とする。あぁ…俺このバトルフィールド去ったらどんぐらい痛い想いするんだろうなぁー…。

「ご苦労だった。晴嵐くん!!」

そのときだった。

朦朧とする意識の中聞こえた声。

「…せ、先輩?」

「ハンゾー!!」

「っ!?」

刹那がいきなり俺の腹部から手を抜いて、誰かと戦闘を行う。黒い忍者……ハンゾーだ。

「…すいません明知さん。遅れました。」

俺の横に来たRBが、俺の顔を見ることはないまま、言葉だけの謝罪をした。

「君がヨルムンガルドに致命傷を負わせたこと。誇っていいぞ!」

そう叫んだ先輩の下の地面が盛り上がる。また巨大な化け物の姿を現した。



その姿を見て、俺は安心し、体力の限界がきて、そのまま消滅した。



「さあ、後輩くんが頑張ってくれたんだ。私が頑張る。ロキの三兄弟……覚悟はいいか?」


先輩は、刹那たちを見下し、そう呟いた。




                   ☆



「あぁ?なんだぁ?」

携帯がなる。

「どうしたんですか?」

「あぁ?古田からだ」

俺は携帯を押して耳に翳す。

『あっ!狩羅さん!め、メアリーちゃんいますか!?』

「あぁ?メアリーだぁ??いるが……」

『変わってください!!』

「あぁ?…ちっ、しゃあねぇな。ほら」

俺はメアリーに携帯を渡す。彼女はほえ?と頭を傾けてから携帯を受け取り、古田の言葉を待つ。

『メアリーちゃん?今すぐこっちのビルにログインできる?』

「はぁ…。一応出来ますけど」

『なら早くきてくれ!一人やばい奴がいるんだ!!』

「お仲間さんですか?」

『な、仲間じゃない…けどこれはやばい!下手したら死ぬ!!』

「っ!?わ、わかりましタ。すぐにそちらに向かいます。名前は?」

メアリーは最後の質問の答えを聞いてうんうん。と頷いて携帯を切り、俺に渡す。

「すいません。なにやら治してほしい人がいるみたいなので私行きます。

 ロキの三兄弟にやられたみたいですシ……」

俺はその言葉を言った直後、暗い表情をしたのを確認した。

自分の軽率な行動の被害者だって言っていたな…『ロキの三兄弟』。

俺は興味本位でメアリーに聞いてみた。

「んで?怪我したやつって誰なんだよ?」

「えーっと…古田さんが言うには…えーっと、日本人の名前覚えづらいデス…」

「早く言え」

「あっ、明知晴嵐って言ってましタ」

「…あぁ?」

俺はその言葉を聴いて、思わず眉間にしわを寄せた。

「か、狩羅さん…?」

少し怯えた様子のメアリー。

「…行ってこい。俺は『証拠』を探す。このままな……」

「は、はいっ!!」

そういってメアリーは自分の携帯を取り出し、そのまま転送されていった。

俺は去ったメアリーの姿が消えたのを確認し、歩き始める。

「俺に勝ったやつがそんな簡単に負けてんじゃねぇよ………クズが」

俺はそんな悪態をつきながら、地面に向けて唾を吐く。

ジジイ共がいくつかのヤクザに接触。『ロキ』の家はわかった。

だが、奴らがナニをしたか、その証拠までわかってはいない。そこらへんを探らなきゃなんねぇ…

ジジイ共動かしといて、後継者の俺が動かないのも癪だからな……。


そういって俺は、情報を集める散歩が続く。




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「いいか。お前ら、覚悟は?」

あたし、『フェンリル』葵刹那は今、とんでもないものを見ていると思ってしまった。

さっきのゴーレムなんて目じゃない。ビル1つ分の大きさを持つ巨大な……そいつ…!!!!

そしてそいつの前で、宙に浮いている女。『ピクシー』黒金寧々…!!!

あいつがこのビルで最強と言われてるのは知っていた。

さっき闘ったときは確かに強いと思ったが、勝てないことはないと思った。

龍二がいればこっちが勝つとも思っていた。だけど……それはあたしの傲慢だった。

今はもう龍二は変身できない。いや、出来たとしても勝てる気がしない……!!!

「寧々ちゃんばっかり見てたら首落とすよ?」

その声に反応してあたしはガードする。

あたしのガードに当たった拳の犯人は、真っ黒な服をきた忍者だった。

「あんたも、リストに入ってたわよ…えーっと。RB?これが2つ名なの??」

「ううん。僕のはニックネームだよ。

 それより、ハンゾーのスピードについてこれる。いや、それ以上とは驚きだ」

メガネの少年。RBはノートパソコンを脇に抱えて、あたしを睨みつける。

彼の操るモンスター「ハンゾー」との交戦のせいで、ビル内に入ってしまった。

千恵が今たった一人にしてしまっている。彼女一人でも強い。恐らく…あたし達の誰より。

だけど、それでも…あの女は危険!

「どけっ!RB!」

「…わかった。退くよ」

ビルの中だったはずだ。

あたしが瞬間移動をして彼に突進した瞬間彼の姿が消える。

彼のいた所に穴が空いている。今の一瞬で穴を掘り出したの!?

「…僕が闘わなくても、後は寧々ちゃんだけで十分だしね。

 それに僕が君を倒したら寧々ちゃんが怒りそうだ」

あたしを見上げながらそういうRBはそのままどこかに去ろうとした。

「止めを刺したいならお好きにどうぞ。ただ……あの人の逆鱗に触れるだけだけどね」

あたしがRBを消滅させようと攻撃を試みた瞬間に言われた言葉に、

あたしは息を呑んで止まってしまった。

そんなあたしをほったらかして、RBは電気の付かないビルの暗闇に消えていった。



外からはゴーレムが暴れている音が聞こえる。

千恵と『ピクシー』が闘っているのだ。急いで援護に行かないと!!



あたしはビルの窓を割り、見上げる。ゴーレムの腕がすぐそこだった。

ゴーレムの腕に飛び乗り、スピードに身を任せて、『ピクシー』のところまで走りだす。

(見つけたッ!!)

あたしは宙に浮いているピクシーを見つけ、ゴーレムの身体を蹴って、彼女の元へ行く。

彼女に一撃を当てて、大ダメージを与える!能力はすごいが中身はただのチビの女のはずだ!!

「…残念だったな。君が後1マッハほど早かったら間に合ったかも知れないのに」

「ッ!?」

あたしの拳は、宙に浮いている岩盤に止められる。

隙間から見えるピクシーの笑みはとても恐ろしく見えた。

その目を見入っているときだった。あたしの上を、影が覆う。見上げるとゴーレムの腕がそこまできていた。

何も出来ず、あたしはゴーレムのパンチを受けて叩き落される。


地面に叩き落されそうになったあたしを黒い影がクッションになって支えてくれる

「…お姉ちゃん?大丈夫??」

そういって千恵があたしの様子を見てくる。

「大丈夫だよ千恵。ありがとう、地面についてたら確実消滅ものだった」

あたしは影から飛び降り、もう一度ピクシーを睨む。

「ね、姉ちゃん。わりぃ…足引っ張っちまって」

苦しそうにこちらに歩いてくる龍二。

さきほど、炎を十五回以上放出して力が満ち溢れていた晴嵐の攻撃をまともに喰らったのだ。

元々身体が丈夫なのが救われたのか、あたしだったら彼の一撃で消滅してたはず。

「さあどうした?君たちは陣形が取れないとこんなものなのか?」

ピクシーが挑発気味にそういってくる。くっそぉ…学校のときとキャラが違う。

確かにあたし達は単体では強者とは呼びづらい。それぞれ欠点がある。

けれど単体でも十分に強いんだ。これでも伊達に二つ名を持っていない。

だけど…相手が強すぎるのだ。

『ピクシー』。

人々にポルターガイストを起こして脅かして楽しむ悪戯好きの妖精の名称だ。

チェンジリングと言う子どもを勝手に取り替えるなんて話もあるほど、実は悪い妖精の名前なのだ。

彼女、黒金寧々はきっとその妖精みたいな小さな身体とこの能力がネックとなってついた名だろう。

まさにポルターガイスト。

物質が勝手に動く現象を起こす妖精。それがピクシー。まさしく今の黒金寧々ではないか!!

「ほら、行くぞ。君たちの攻撃を耐えた晴嵐くんはもっと痛みを受けたのだからな!!」

ゴーレムの片腕が壊れる。その直後その破片が私たちに飛び散ってくる。

くそっ!力が入らない!!

「…お姉ちゃんとお兄ちゃんは私が守る」

あたしの目の前の岩が、全て鋭利な形をした影によって砕かれる。


「ほぉ…その末っ子の能力。なかなか面白いじゃないか。名は?」

「……『ロキの三兄弟』の『ヘル』だよ。」

葵千恵。あたしの妹。

二つ名『ヘル』の称号を持つ少女。

ヘルとは、そのまま地獄の名称の由来になったロキの生み出した女神。

その名の通り、死者の国を支配してきた女神の名称なのだ。

マンガなどで言えば閻魔大王のようなものだ。

そして北欧神話で唯一死者を生き返らせる神様なのだ。だからこその彼女の能力は『束縛』。

彼女が操る陰は、全て死者の怨念らしい。

その影で相手を捕らえ、拘束する。地獄を支配する『ヘル』の名に相応しい能力だ。

正直……あたし達兄弟の中で一番おっかない能力を持ってる。

そんなことを考えている間に、壊れたゴーレムの腕はその辺の岩を使って修復される。

「さあ、『ヘル』『フェンリル』『ヨルムンガルド』。

 貴様ら全員私を倒せると言うなら……足掻いてみせろ!」

ゴーレムがその言葉に呼応して、大きく腕を挙げる。

私は千恵を抱えて猛スピードで駆ける。


ダメだ。勝てない。あたしでは勝てない。あたし達では勝てない。




こいつに挑戦するのはあまりにも早すぎた。




--------------------------------------------------------------------------------



「…うっ」

「起きたか。不死身の」

「ん?てめぇ…えーっと。あ、スライム野郎!!」

「…その言い方酷くねぇ?」

医務室。

俺は目を覚ます。

なぜかとても心地のいい感情を抱きながら。

そして、とてつもない痛みを抱えながら。

「うぁぁぁぁぁぁ!!」

俺は断末魔を浴びる。なんだ!この激痛!すぐにあの世に行ってしまいそうだ。

「痛みが消えぬまま目覚めちまったのか。メアリーちゃん!」

「はいッ!!」

知らない少女の手から発する光を浴びていると、そのときだけ痛みが消える。

「ふぅー。お前、今どういう状況かわかってる?」

「いえ、まったく」

「…だろうな。えーっと。お前は『ロキの三兄弟』に負けた。17回も死んでな」

「ッ!!」

そうだ。俺はあのときボロボロになったんだ。

ボロボロで、それでも先輩達にバトンを繋げたくて。

最後に龍二をぶん殴って…そして……。

「ッ!先輩達は!?」

「まだ闘ってるよ。やっぱすげえな。ピクシーは。そしてあの三人もすげえ。よくあっこまで闘える」

まだ……闘ってるのか!?

俺はどれぐらい気絶してた!?長さはわからないけど、そうか。先輩はまだ……。

「すいません。全治は無理そうです。まる1日この光を当ててもまだ無理かもデス…」

知らない女の子が、俺にそういってきた。全治?あぁこの子の光が俺の痛みを癒しているのか。

「この娘はメアリーちゃん。狩羅さんの女なんだぜ?」

「はぁ!?」

俺はスライム野郎の言葉を聴いて叫んでしまった。

こ、こんな可愛い外人美女が…あ、あの狩羅の……女!?

「もぉ~古田さんったらぁ。

 私はただの狩羅さんのファンですよぉ~そりゃユクユクはそうなったりならなかったり……」

「うっ!!がぁぁぁ!!」

古田の言葉に照れて両頬に手を当てて真っ赤になるメアリー。なにやらぼそぼそ言ってる。

そして手が離れたことにより、回復が終わり、残された痛みが俺を襲う。

「め、メアリーちゃん!手!!手!!!」

「あわわ!Sorryです晴嵐さん!!」

慌てて手をかざしてまた光を発するメアリー。

そのまま俺は、メアリーに回復され続ける。



少ししてからだった。メアリーの携帯がなる。

「…はい。狩羅さん?事情が出来たから今から来い?わ、わかりました!!」

そういってメアリーは慌てて電話を切る。

「あ、あの…狩羅さんに呼ばれちゃいました。セーラーさんは大丈夫ですか?」

「俺いつの間に機関銃とセットの制服みたいになってんの??」

「あッ!すいません!!晴嵐さん!もうお体は大丈夫ですか?」

「あぁ、まだ痛むけど。この医務室にいれば大丈夫だよ」

「そうですか♪では、安静にしててください」

そういって彼女は医務室から去っていく。

「じゃ、セーラー。俺もあんたのお仲間の試合見てくるわ」

「おいっ!セーラーで定着させようとしてんだろ!スライム!!」

「そっちこそスライムで定着させようとしてんでしょ。ま、ご愛嬌ってことで、んじゃなぁー」

そういってスライムもとい古田は去っていった。とにかく俺はあいつらに救われたってことか。

「ん?この紙は??」

俺はベッドから手を伸ばし、落ちている紙を拾う。

恐らくメアリーちゃんのだ。英語で書かれている。

そこに書かれている「Roki」の文字。そして他の文も読んでいく。

「…ッ!?」


俺は、医務室を飛び出して、その紙を握り締め、走り去った。




--------------------------------------------------------------------------------





「…Win!!」

放送が流れる。

立っていたのは、ピクシー黒金寧々だ。

「…負けた。」

「いや、刹那。最後の君たち全員のチームプレー。流石に私も傷が出来た。

 晴嵐くんが龍二くんに致命傷を与えてなければ、私は負けていた可能性だってある」

「そう……。まあ負けは負けよ」

そういって刹那は消滅してく。





「寧々ちゃん。明知さんは…」

「あぁ、あの炎量を見ると、相当危ないだろう。まったく、無茶をしてくれるッ!」

私は廊下で、医務室に向かって歩きながら怒っていた。

私が来るまで耐えてくれたのは嬉しかった。ただ、あれだと下手したら死んでしまう。

それだけは絶対に許されないというのにあの男は……!!

私とRBは医務室に付く。

「具合はどうだ?晴嵐く……ん?」

「明知さんの姿が…ない??」



                  ☆




あたしの家族は、決して裕福ではなかった。

されど、貧乏でもなかった。ごく普通の家族。そういえば聞こえがよかったけれど

実際はお父さんが仕事をして、母がいない。シングルファザーの家だった。

そこで、あたし達三人は育った。

一番上の姉であるあたし、葵刹那。弟の葵龍二。末っ子の葵千恵。

あたし達三人はいつも一緒だった。父が仕事で帰ってこないときも一緒だった。

弟はなぜか「悪」に憧れている。喧嘩はそれなりに強いらしい。ただファッションはダサい。

妹は無口で引っ込み思案だ。友達と仲良く遊んでるところを見たことがない。少し心配だ。

確かに一癖も二癖もある弟妹だけど、あたしはそんな二人が大好きだ。

お母さんが亡くなってからあたしは一度も泣いていない。示しが付かないからだ。



お父さんが自殺した日も………あたしは泣かなかった。

お父さんは会社の経営者だった。その会社が……倒産するまで。

倒産してからと言うもの、お父さんは鬱病になったかのごとく暗く、荒れていた。

酒で逃げ、眠りで逃げ、外に逃げ…外で問題を起こしたこともあった。

だけど…あたし達には決して八つ当たりはしなかった。

生前の母は「お父さんは優しすぎる」と言っていた。

その性格が荒れても私たちに手を出さなかった理由だろう。

だけど…だからこそ、お父さんは一人でその苦しみを背負い続けてしまったのだ。

あたし達には無害だったお父さんがある日……遺言書を残して死んでしまっていた。

そこには

「借金は返した。で刹那はもう高校生だ。龍二も中学三年。高校も決まった。

 教育費などは何とか残せたが、そこを除いたら財産はない。そして俺は……限界だ。ごめん」

それが、優しかったお父さんの、せめてもの気遣いだったのだろう。

限界だったのだ。あたし達を幸せにして、苦しい中一人で耐えて、愛するお母さんも先に逝って

あたし達が家にいるときも、お父さんはバイトに何に、頑張ってお金を稼いだらしい。

親戚から金を集めたとも言っていた。

そしてあたし達の「苦」になるものを全て取り浚った後…彼は「苦」から逃げたのだ。

決してお父さんを恨んではいない。むしろ誇っている。

あそこまで追い込まれて、

最後まであたし達のことを考えてくれて、それで限界だったのなら仕方がない。

悪いのは………何時だって「悪人」なのだ。



「おいっ!葵一也ってのはいるかぁ!?」

突然家に押し入ってきた男たち。

あたしは応対する。彼らは少し脅し口調でこういった。

「君のお父さん借金は返済したと思ってるけど、残念♪利子がたーっぷりあるんですよぉ~。

 なのに死んじゃったって?それは残念だぁ……どうやって返してくれるのかな??」

そう……お父さんは、「ハメられた」のだ。

最近の事情を考慮し、学生であるあたし達に彼らが手を出すことはなかった。

そんなときにあたし達は「スカイスクレイパー」の存在を知り、金を稼ぐために入った。

必死だった。金を稼いで利子を返す。ただそれだけを考えて闘ってきた。

闘いで得た金で返済できるのは増えた利子と、ほんの少し返せるだけ。詐欺みたいな利子だった。

死に物狂いで金を集めていったあたし達は、いつの間にかビルでは有名になった。

『狼』まだ明確な特徴もなかったあたしが最初についた2つ名だ。

獲物を徹底的にしとめていたあたしを見て付けられたものだった。

そんなときだった。あたし達があいつらに捕まったのは――――――。

「君……葵さんのとこの娘だよね?こんばんは」

初めてあったその青年は、あたし達が借金をしている組織の息子だった。

このビルでは有名な組織「オーディエンス」で「狡知の神ロキ」の称号を持っているものだった。


「ねぇ……君たち、僕の「下僕」になれよ」

その言葉に、あたし達は逆らうことが出来なかった。

負い目、そして契約。その2つの面であたし達はロキの下についた。

彼が言ったターゲットを狩り続ける。そしてその金をロキに献上し、借金返済をする。

そんな生活を続けていると、あたし達三人は「ロキの子ども」と呼ばれ

『ロキの三兄弟』と言う2つ名を得たのだ。



彼に仕えてから負けたことがなかった。

負けたらどうなるかわからないからだ。

相手はヤクザだ。生身ではただの学生のあたし達には何も出来ない。

あたしはともかく、千恵まで毒牙にかけられたらと心配してしまうのだ。




--------------------------------------------------------------------------------





「……あぁ…あたし達。負けたのか」

目が覚める。

真っ白な天井だ。医務室みたいだ。素人時代に何度か見た。

「そうだ。」

そんなとき、声が聞こえた。振り向いてみると、ピクシーだ。

「君たちは私に負けた。しかしすごかったな。

 一対三で正常な状態からのスタートならわからなかった」

そんなフォローを入れてくるピクシー。正直お世辞にしか聞こえない。

あのとき闘っていたあたし達ならわかる。この女……本当に化け物だ。

きっとあたし達三人が万全でも結果は同じだったと思う。だって彼女には傷は1つしかないのだから。


「ん?それで私は晴嵐くんを探しにきたのだが…いないのか?」

「……あいつならいないけど…動ける身体じゃないでしょ?

 言っちゃあなんだけどあたし達あいつ17回殺してんのよ??」

あたりを見渡しても、明知晴嵐の姿がない。

それもそのはず、彼は数分前にこの部屋で紙を拾って、この部屋を去っていったのだから。





--------------------------------------------------------------------------------





「ここだなぁ…」

でかい建物…と言うより屋敷のようだ。

ここにいなけりゃ「スカイスクレイパー」にログインしてやる。

俺は建物の扉を開ける。ここに……奴がいる!!

「出てこい!ロキ!!この俺が相手だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

俺は建物に向かって咆えた。

あの紙に書かれていたのはここだ。

『Loki's location is here.』と書かれていた文と簡単な地図。

それを頼りにしてきたのだ。

「……誰かね?」

一人のメガネをかけた青年が現れる。スーツ姿で、後ろにガラの悪そうな男たちがいる。

「てめぇだな!!刹那たちになんかしてんのは!!」

俺がそう言った瞬間。そのメガネの男の表情が変わった。

「へぇ……君、葵兄弟の知り合いなのか。

 「ロキ」の名称を知ってるってことはスカイスクレイパーの人間だね。名前は?」

俺はそんなロキの言葉を無視してやつに向かって走る。

取り巻きたちがロキを護る体制を取っている。

その取り巻きの一人の蹴りが、俺の腹部に命中する。

「がはッ!!」

さっきの闘いの痛みが癒えてない中、重なって痛みが出来た。俺はそこに倒れこむ。

「君……礼儀を知らんのか?教養がなってないなぁ……。

 『極道もん』には手を出すな。習わなかったのかぁ?」

ロキが俺の頭を踏みにじる。

こいつ……極道もんだったのか!?道理で家は広いわスーツだわ怖そうな人がいると思ったよ!

「…関係ねぇよ。てめぇ……が、悪いんだろ」

「あぁ??」

「刹那たちが何したかは知らねぇ…。

 でもだからって、こき使って良いってわけじゃねぇだろ……!!!」

「だからどうした。あいつらは僕の家には逆えない。そんな人間を使って何が悪い」

「わ、悪いだろうが!!」

俺がそう叫んだ瞬間。また取り巻きに腹部を蹴られる。

意識が飛びそうになる。痛すぎる。

ロキが踏んでいた足を退けると、取り巻きが俺を囲んで足蹴にしてくる。

「こいつ…どうしやしょう?若??」

「んーそうだな。身体は丈夫そうだ。マグロ漁にでも連れていかせるかな」

そんな言葉を並べているロキ。朦朧とした意識で何を言っているかよくわからない。



「……ここかぁ…。クズ共の巣窟わぁ…」

そんなとき、門からそんな声がする。

「ッ!?てめぇ…!!!」

ロキがなにやら驚いている。誰が来たんだ?

「……蛇道組次期当主。蛇道狩羅さんが来てやったぜ?三下ぁ」

耳で聞こえる。……狩羅?なんでこいつがこんなところに……。

「てめぇらの悪事の証拠はばっちり捕らえた。

 おうおう、高校生を集団リンチか。現場証拠もゲットっと。

 性質の悪い金融やってんだろ?てめぇんち。他にも麻薬に、賭博、人攫いと……本当に最悪だな」

狩羅が流暢にそんな言葉を言っている。

俺は意識を何とか保ち狩羅の方を見る。後ろに何人もの人がいる。

あ、メアリーちゃんがこっちを心配そうに見てる。

「か、狩羅さん!あ、あれセーラーさんじゃないですカ?」

「あぁ…セーラー??あぁ……明知か。何してんだてめぇー。って…答えれそうな状態じゃねぇか」

狩羅はだるそうに髪を掻く。

「んでぇー。君たち盛隆組に言いたいことがある」

大勢のヤクザを引き連れた狩羅が、ロキを睨んで言う。

「……俺らの領土で好き勝手やってたら………咬むぞ」

脅しの言葉を言った狩羅はそのままずけずけと建物の中に入っていく。

彼の後ろにいた人たちもぞろぞろと入ってくる。

「これより盛隆組の解体を行う!!」

「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」

狩羅の号令を合図に一斉に走る。男たち。

「誠二!これはなんだ!?なっ…蛇道組!?全員やっちまえぇー!!」

な、なんかやべぇもんに巻き込まれてねぇ?俺…??

倒れる俺を他所に、ヤクザ同士の戦が始まってしまった。

「セーラーさん。大丈夫ですか?」

「あ、うん…セーラーじゃないけど」

「……行け明知。」

メアリーちゃんが声をかけてくれて、俺はなんとか立ち上がると、狩羅がどこかを見てそう言った。

「ロキの奴……「スカイスクレイパー」に逃げる。因縁あんだろ?」

「………狩羅。なんか知らないけど、お前いい奴なんだな……あと爆発しろ」

「あぁ!?最後のなんだぁ!?」

狩羅の言葉を無視して俺は携帯でスカイスクレイパーに転送される。

「さあ……蛇共!こいつらに毒食わせてやろうぜ!!」

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」





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強制戦闘権。

さっきのバトルで敗北したけど頑張った証だろう。俺のデータに1つ配布されてる。

俺はこれを早速使う。身体はボロボロ。ロキの実力は知らない。だけど……やるしかない。




--------------------------------------------------------------------------------



「…てめぇ……!!!」

「ロキ、逃がさねぇぞ」

俺とロキはバトルフィールドで相対している。

「俺はあんたをブッ飛ばさないと……晴れない」

「意味のわからないことを言う。僕は君に殴られる理由が―――――」

「俺にあれば十分なんだよ!!!」

俺は刀を持たず、そのまま拳をロキの頬に目掛けて放った。

起き上がったロキの顔は、鬼のようだった。

「貴様…!図に乗るなよ!!」

ロキが本気を出してくる。

あいつ…光に包まれて宙に浮いている。そしてこっちに来る。早い!!

「僕の能力は『魔術』だ!

 宙を浮くことも、部分強化も、こうやって相手を固定することも出来る!!」

光の矢が刺さり、俺が動けなくなってしまう。痛みはない。拘束用なのだろう。

ロキが再びこっちに向かって飛んでくる。俺は急いで光の矢を抜こうとする。案外簡単に抜けた。

「何っ!?」

本来簡単には抜けないものなのか、ロキは少し驚いていた。

俺はロキの攻撃を避ける。

ロキが蹴りをかましてくる。腕を盾にするも、とても痛い。でも……マシだ!!

俺はそのまま攻撃を受け流しロキの体勢が崩れたのを確認し、腹にパンチを入れる。

「ガハッ!!」

「いいこと教えてやるよ!ロキ!!」

俺はそういってロキの顔面を蹴ってブッ飛ばす。

ビンに入った自分の血で背中にぶっ掛けて翼を作って、ロキに向かって飛ぶ。

「てめぇが早く動けても!それは刹那よりも遅い!

 てめぇが力を強化できても!龍二には遠く及ばない!!

 てめぇの拘束能力なんて、千恵ちゃんに比べたら月とすっぽんだ!!」

そんな説教を垂れながら、俺は畳み掛けるようにロキをぶん殴り続ける。



「そんなてめぇが!!器用貧乏なだけのてめぇが!!

 あの三人をコキ使っていいわけ……ねぇんだ!!」

俺はそういって、奴の澄ました顔面に拳をぶつける。

顔が歪んだロキは、そのまま地面に倒れこんでしまった。




「……Win!!」


「はぁ……はぁ………」

勝ちの報告を聞いた直後、俺はその場から倒れた。

「あぁ……すっきりした。」

俺は最後にそういって、その場に倒れこんだ。





                     ☆




「……え?」

あたし、葵刹那が自身のビルに戻ってきたとき、そこにロキの姿はなかった。

あたしだけではないようで、龍二も千恵も驚いたようだった。

「あ、戻ってきたのですね…三人とも」

「あ…フレイヤ様」

あたし達の後ろから声が聞こえる。

振り返るとそこにいるのは

ロングスカートに白いフリルの服を身に纏った美しい女性。豊穣の神フレイヤ様だ。

この組織「オーディエンス」の2つ名は主に襲名制度があり

ボスであるオーディン様がこのビルで有能な者を勧誘し、その者に名を与えることになっている。

そんな中、一向に埋まることのなかった「豊穣の神」の位に突如就いたのが彼女なのだ。

彼女のその女神と呼べるほどの美貌と、その能力からして、これ以上の適材者はいないのだろう。

そんな彼女はきょとんとしているあたし達を見て「ん?」と首をかしげる。

「フレイヤ様、ロキ様がいらっしゃらないのですが?」

「もぉーフェンリル。私はこう見えても貴方よりも年下なのですよ?敬語はNOサンキューです!」

「はぁ……」

彼女は、大人しい女性っぽい一面と、子どもっぽい一面があるから、

どっちが本性なのかわからなくなる。

あたしたちの上司「豊穣の神」としては、頼りになるお姉さん。

なのだけど、普段が子どもすぎるのだ。

「あ、そうでした。

 ロキの所在でしたっけね?あの方ならオーディン様から「除籍」を言い渡されてしまいましたわ」

「っ!?」

「貴方達は解放されたのですよ……フェンリル。ヨルムンガルド。ヘル」

彼女の言葉にあたし達は呆然とした。

「だ、誰がそんなことしたんだよ!?ロキはヤクザだぞ!?表でも裏でも潰せる奴なんて――」

龍二が慌てながらフレイヤ様に講義していた。

「…私がある男に頼みました。表でロキを潰せるほどの男です。

 まあけれど、実際にロキを除籍させたのは、その人ではなく……一人の男の子です」

フレイヤ様は穏やかな口調で話す。

「名を……セーラーでしたっけ?」

「「「……セーラー??」」」

「あ!ち、違います!!えーっと、あ…明知!明知晴嵐でした!!」

その一言に、あたしは耳を疑った。

フレイヤ様が言葉を続ける。

「彼ね、ロキの家に乗り込んで、一人で闘ってました。貴方たちに負けてボロボロの身体で…。

 まあ、私達が行ったときには闘ってたというよりボコボコにされてた。の方が正しいですけどね。

 その後、このスカイスクレイパーに逃げたロキと闘って、倒したらしいです。

 ついさっきまで私は彼の治療をしていました。時間は掛かりましたが、ほとんど完治済みでス」

まるで物語を読んでいるような丁寧で澄んだ声。

彼女の言葉が、私たちの脳内に映像として流れる。晴嵐が……そんなことを…。

「……あたしが話したからだ。」

あたしは申し訳なさで拳を握る。

あのとき、彼に話しさえしなければ、彼はこんな無茶をしなくて済んだんだ。

彼は、あたしが漏らしたたったあれだけの言葉のために

ただバスケをしただけの友達であるあたしのために

自分を散々ボコボコにした相手であるあたし達のために

無謀とも言える相手に……自分のことなんてどうでもいいと言わんばかりに挑んだんだ。

「…あの、今その男はどこに?」

あたしはフレイヤ様に問いかける。

「もうこのビルにはいません。どこにいるか私にも……」

「そうですか。ありがとうございます」

あたしはそういい、その場を去った。


                             

「……フレイヤ。そしてロキの三兄弟…オーディン様がお呼びです」

そんなあたしが出るのと、すれ違いの形で一人のスーツの女性が現れる『ヴァルキリー』だ。

オーディン様に使える一人の女性。彼女自身も物凄い強いらしいけど、あたしは見たことがない。

「どこに行くつもりなのですか?フェンリル」

「………」

「ヴァルキリーちゃん?」

「なんですか?フレイヤ」

「フェンリルを行かせてあげて?」

「そうだぜ!ヴァルキリーの姉御!!姉ちゃんがいなくても俺と千恵がいればいいだろ!?」

「……まあ、オーディン様のことですから、気にはなさらないでしょうが…」

「なら決まりですわネ!フェンリル…。彼に言いたいことがあるのでしょ?行ってきなさい」

あたしを、フレイヤ様と龍二と千恵が微笑みかけてくれる。

あたしは感情があふれ出しそうなのを抑えて、何も言わずその場を去った。




「……あぁー!!ロキの所業に気付けなかった私についに罰がぁー!!Oh!My!God!!!」

「さあ、フレイヤ。行くわよ」

「ヴァルキリーちゃん!許してぇー!!嫌ですぅー!!!!

 I do not want to go to Mr. Odin's place.!!!」


「…千恵。俺本当にあの人のキャラがわかんねぇわ……」

「フレイヤ様……可愛い。」




--------------------------------------------------------------------------------



「お連れしました。オーディン様」

ヴァルキリーに連れられて、俺、蛇道狩羅はなぜかここにいた。

と言うか、メアリー絡みでこのビルに来ていたから、

ちょうどいいからこのビルの参加者の情報を集めようとうろうろしてたら、

なぜかスーツの女性に引きずられているメアリーを見つけて、彼女に捕まって泣きつかれ

スーツの女性『ヴァルキリー』が「ちょうどいいです。貴方にも着てもらいます。蛇道狩羅」と言われ

こうして連行されてきたわけだが……すごい場違いな感じがする。

「……おう、そうか。ご苦労だったな。ヴァルキリー」

目の前に座るおじいさん。あれが噂に名高いオーディンか。

本当にジジイだな。俺のジジイよりも年上なんじゃねぇか??

そして彼から感じられるただならぬ威圧感。白髪のおっさんが出せるもんじゃねぇぞおい…。

「おう、フレイヤ。相変わらず可愛いのぉー。バストサイズが上がっておる」

「っ!?」

オーディンの第一声を聞いて、俺は驚愕する。今…なんつった。

「お、オーディン様!ですから『視る』のはやめてくださいとあれほど!!」

「だってフレイヤは白の服で見やすいんじゃ。仕方ない。それで、お主ロキの監視を怠ったな?」

「うっ…」

お、本題に入ったか。

メアリーが俺に頼んできた理由。それはロキと言う男の悪事を見抜けなかったからだ。

それをオーディンにバレずに片付けたかったのだろうが、まあ明知が暴れたからな。

バレちまっても仕方がない。

「あの男には何かある。…と、わしは言っておいたはずじゃ。

 だからお主に任せたというのに……。罰を受けてもらわねばならぬな……」

お、始まるか。

メアリーがあそこまで怯えていたんだ。よっぽどエグイのが来るんだろうなぁー

「チキチキ!フレイヤのスリーサイズ大好評会ー!!」

「はぁ!?」

そう言い出したオーディンに続いて、クールな外見と風貌をしていたヴァルキリーが安物のラッパを鳴らしていた

「上からはちじゅ――――」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

言おうとした直前にメアリーが今まで聞いたことないような大声を出して遮る。

なんだこの爺さん……ただのスケベ親父じゃねぇか…。

「なんじゃフレイヤ。想い人には聞かれとうないのかぁ?」

「っ!?」

「…。なるほど、そういうことでしたか。なるほど」

「わぁー!ヴァルキリーちゃん変に納得しないでくださいぃ!!!」

なにやらフレイヤたちが騒いでいる。

俺と、ロキの三兄弟の二人は完全に蚊帳の外だ。


「ほぉ…まあ、罰はこの辺でいいじゃろう。

 それでだ。三人とも、いや…ここにいないフェンリルも入れて四人か」

突然威圧感を出してくる。オーディン。おいおい、本当に掴めないオヤジだな。

「…お主らを、「破門」とする」

「「「……」」」

その言葉に、三人は黙り込んでしまった。まあそりゃそうか。破門だもんなぁ…。

「まあ、そこまで落ち込まんでえぇ。ただお主らを「解放」すると言うだけじゃ」

「解放?」

龍二が一人、オーディンの言葉に疑問を投げかける。

「そうじゃ。

 だから組織としての活動はせんでええ、ただわしの『子』である証である『名』は捨てるな」

「「「……はい」」」

三人は膝をついて、頭を下げた。

三人とも、どこか嬉しそうだ。


「それと、お主。狩羅と申したか?」

オーディンに突然声をかけられる。俺は生唾を飲む。

「お主……新たな「ロキ」になってはみぬか?」

「……あぁ?」

「こやつらは、「名を残しておる」が、ロキの奴は除籍。名すら残さず去らせた。

 だから新たな『ロキ』が欲しいのじゃよ。おぬしなら適材者じゃしの…。どうじゃ?興味はないか??」

オーディンの提案は悪くはない。

あのクズの後と思うと嫌な気もするが、権威も持てるし、いい物件話だろう。

「……悪いな。断らせてもらう」

「…なぜじゃ?デミリットはないんじゃないか?」

「爺さんにこういうのはなんだが、俺は…『蛇』だ。

 「象」でも「虎」でもなんでもねぇ。「蛇」なんだよ。俺は所詮足も無く地を這う蛇なんだよ。

 そんな俺に『神様の名』なんておこがましい。ましてや『狡知の神』だぁ?笑わせんなよ」

俺はオーディンにそう突きつけてやった。

位は欲しいが、俺はあくまで蛇。

そのポリシーだけは、捨てたくはなかった。

「……なるほどの。フレイヤが見込むのもわかるわい」

「ちょ、ちょっとオーディン様!!それはどういうことですカ!?」

またメアリーがなにやら叫んでいる。一体どうしたんだ?


「まあ、ならよい。みんな、我々は「オーディエンス」…「観衆」じゃ。観て楽しめ。息子共」

「「「はい!!」」」

そういって、皆はオーディンの前を去った。





--------------------------------------------------------------------------------




「……やっぱいた。」

「ん?よう。セツナじゃないか」

あたし、葵刹那は晴嵐を探すためにある場所に行った。バスケ場だ。

ボールを持った彼は、顔や腕、身体のいたるところに包帯やらが張られていた。

「その…ロキのこと、ありがと……」

「あぁ?あぁー礼はいいよ。そんなことより…」

そういって晴嵐はボールをあたしに投げてくる。

「バスケしようぜ」

スカイスクレイパーでの痛みはないだろうけど、殴られた傷が痛むはずだ。

なのに彼はそんな素振りを見せず、ただただあたしに笑顔を向けてきた。

あたしは彼と1on1を行うことにした。



「……嘘」

「よっしゃ!捕れたぁー!!」

あたしは驚いた。

今まで簡単に抜けた晴嵐の壁が抜けない。

そしてボールをとられてしまった。晴嵐…上手くなってる。

そのまま晴嵐は捕ったボールをドリブルし、シュートを決める。

「やっと勝てたな!」

彼は子どものような無邪気な顔でそう言った。

その顔を見てると、なんだか悔しく思ってる自分がバカバカしく思い、笑った。

「やっぱ刹那はバスケしてるほうがいいな」

「え?」

突然いわれた言葉にあたしは呆然とした。

「バスケをしてるときのお前…すっげえ笑ってるからさ」

「………何よ。それ」

あたしは思わず微笑んでしまう。

あぁ…ダメだ。どうしちゃったんだろうあたし。

顔が熱い。なのに心地良い。今まで背負ってきたものが全て取られた気がした。

「……おい、刹那?」

「ん?」

「お前…泣いてるぞ??」

「え?」

「どどど、どうした!?顔も赤いし、あ、汗拭いたタオルでよければ貸そうか!?」

慌てている晴嵐を見て、あたしは思わず笑ってしまった。



「本当…どうしちゃったんだろうね……」

あたしは自分の手で涙をぬぐって、満点の星彩る夜空を見上げた。








ってなわけでロキの三兄弟編は終わりました♪

今回の作品のヒロインは葵刹那さんっす^^


ここから刹那やメアリーたちも関わっていって

物語はさらに進んでいきます♪♪


この続編は少し後に書きますので♪

楽しみにお待ちください!><


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