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第7章~童話『奈落の月』編~ 2部

前回、メアリー・メディシアを中心にメルヘニクスとの闘いを描いていきましたが

今回も、メルヘニクスの行動、それぞれの思い。


そして明かされる明知晴嵐出生の秘密!?な第二部。お楽しみに~♪

「な、なんだよ……これ」


「どうやら何かあったみてぇだな」


「ですね。清五郎、戦場エリアでもないのに、これではまるで地獄です」


「……俺達がいない間に随分と荒らされたみたいだな」


「ひゃー、これやべぇな」


俺、明知晴嵐と


車田清五郎、アン・ヴィクトリア、飛来拓海、三浦秀人の五人は偶然同じタイミングでビルに来たのだが


その目の前に広がっている光景は、見ていられるものではなかった。


倒れている人。人。人……。それも廊下でだ、みんな転送されることなくその場で倒れている。


「待っていたぞ、貴様ら」


「……っ!?おめぇ!?」


俺は誰かに呼ばれてその声の主を見る。


そこにいたのは、まったく想定していなかった人物で


俺は少し怒りを露わにしてしまった。ここに刹那がいなかったことが幸いだな。


「てめぇがこれをやったのか!ロキッ!!」


「…………」


俺は奴の襟を掴んで奴に怒鳴り散らした。


けれど、奴は俺の目をじっと睨むだけだった。




「はいはぁーい☆2人とも不仲だったのはわかるけどその辺で♪」


「ッ!?」


そのとき、俺とロキの間に割って入ってきた、大きなカボチャを被った女の子が現れた。


「……南野か」


「もぉー♪拓海さぁー。この格好の時に僕をそう呼ぶのやめてくんない?


 僕には愛と勇気の妖精ジャック・ランタンって名前があるんだよ??」


「……初めてきいたぞそれ」


「あっはっは☆まぁ、その辺は気にしたら負け負けだよぉー♪♪」




その場の空気を一気に支配したカボチャの女の子。


ジャック・ランタンは俺達の中央でくるくると回りながらはしゃいでいる。




「ロッキーも言ってたけど、僕たちは君達を待っていたんだよ。《リムバレッド》のみなさん♪」




俺達は、その不気味なカボチャをじっと見つめるしかなかった。







--------------------------------------------------------------------------------







「やぁ、久しぶりだね。晴嵐くん」


「ッ!?赤井じゃねぇか!!」


俺はジャックランタンとロキに連れられて行った一室で懐かしい人物を見た。


赤井修一。俺の過去のライバルで、あり良き友だ。




辺りを見ると彼だけではない。


片腕がなくなっている千恵ちゃん。ボロボロの天野。そして、ベッドで苦しそうに寝ている狩羅達。


後、メアリーちゃんがずっと腕を握っている謎の女性が縄に縛られている。


「ど、どうなっているんだ?」


「晴嵐。順を追って説明するよ……」




赤井は少し俯く。


肺を抑えている。


「あぁー修一も怪我してるんだから無理しちゃダメだよぉー。僕が説明するから」


「わ、悪いねジャック・ランタン」




「ってなわけで僕から説明するね。まず僕らが来た理由から。


ま、一言で言ってしまえば、僕らも襲撃されてしまったのさ。《メルヘニクス》に。


 僕とロッキーはその時に偶然いなくてね。修一たちが狙われてしまったのさ……。


 僕が入ったときにはこれと同じ惨状だったよ。だから、修一は僕とロッキーにここに行くように言われたの。


 『次に狙われるのはあそこだ。助けてやってくれ』ってね」


ジャック・ランタンが淡々と語る。


彼女は自身の明るさを消さないように、語ってくれているおかげで頭に入っていく。そして言葉を続ける。




「それで僕とロッキーが来たら案の上さ」


そういってジャック・ランタンはちらっと縛られている女を見る。


彼女は頬を膨らませて不服そうにしている。


「えーっと、彼女は誰っすか?」


「んー?あぁー彼女はメルヘニクスの一人『白雪姫』だってさぁー♪


 そこで倒れている狩羅達をぶっ倒してぇー?ロッキーとメアリーちゃんに負けちゃった子なの♪」


メアリーが!?この女の人に勝ったのか!?


この女の人もメルヘニクスってことは相当強いはずだ。


そういえばメアリーがずっと彼女の腕を握っている。メアリーにも何か闘う方法があったのだろうか?




「それで?えーっと、葵の妹がそんな重症なのと……あのメガネがいない理由は聞いていいのか?」


口を開いたのは三浦だった。


奴はまだ残っていた疑問を言葉に漏らした。


「うん。こっからは僕もいたからねぇー♪話すよ。


 実はここにはもう一人メルヘニクス『ピノキオ』が来ていたんだよ。


 千恵ちゃんはそいつと闘って……RBだったっけ?彼は連れていかれたよ。洗脳されて」


ジャック・ランタンの言葉を聞いた後、千恵ちゃんが俯く。


「僕が駆けつけたんだけど、その時にはRBは既にね。


 千恵ちゃんを守るのが必死だったし、もう少し遅かったらダメだったよ。


 そこは、彼女の『影の変態さん』に感謝かな♪」


そういうとジャック・ランタンは千恵ちゃんの影をじっと見る。




「おいおい、影の変態って俺のことか?」


すると、千恵ちゃんの影からぬるっと長身の男が現れる。


俺達は全員驚いてしまう。


「おっ、てめぇいつも姫様にデレデレしてる奴だよな?」


「えっ、えっ?」


俺は突然現れた長身の男に睨まれる。


「それに『お兄ちゃん』とか呼ばれて浮かれてんだろ?」


「シャドー……ちょっと黙ってて」


「ちっ、仕方ねぇな」


そういうと、シャドーと呼ばれた長身の男は黙って千恵ちゃんの後ろに行った。




「はぁ、さて晴嵐くん。一応事の顛末は全て話したよ。


 これから後の話を続けていいかな?」


「あぁ、大体わかったぜ。んで?俺が来る前にしていた話ってのは?」


「うん。それは、こいつらの目的をこの女性から聞き出すためだったんだ」




そういって、赤井は縄で縛られている女を見る。


「ふ、不愉快ですわ!貴方のような男に尋問など!」


「ん?そんなに嫌ですか?私はこのような状況とはいえ、貴方のような女性と真剣に話せるのは嬉しいですが」


「え、そ、そんなの嘘っぱちに決まっておりますわ!みんな私を不気味に!」


「確かに貴方は不気味なほど強い。


 しかし、その不気味さも一つの美しさとも思いますよ?


 私は、モナリザもどこか不気味なところがあり、そこが魅力です」


「ふっ、ふんっ!下手なお世辞ですわ!」


「そういえば、貴方は動物に好かれる体質だそうですね?」


「えっ、えぇ!そうですわ。全ての動物は私に跪くのよ!」


「では」


そういうと、赤井はなぜか座っている女よりも低い姿勢になりまるで忠誠を誓うように座る。


「私も能力上『なり損ないでも蝙蝠』なので、貴方に跪かせてください。


 先ほど貴方が話してくれた言葉に、本当に感謝していると言うことを」


あ、白雪姫って女が顔を赤くしてる。


こ、これが赤井のイケメンパワーか…………。


白雪姫の機嫌が直ったのを確認して、赤井はもう一度俺の方を見る。


どうやらさっき言っていたこの白雪姫から聞いたって話をするのだろう。




「それで、晴嵐。


 彼女たちメルヘニクスの目的は『アンデルセンの宝』の回収だそうだ。


 現に、ここにもあったらしい宝を、ピノキオって男が回収して逃げたらしい。


 僕の所にも……『ピエロ』と知らない男女の2人組がきたよ」


ピエロが!?


あいつ無事だったのか!?


それに、メルヘニクスに戻って、元自分の仲間を襲撃した!?


「ちっ。相変わらずいけ好かねぇ野郎だな……」


車田が舌打ちをしてそんな言葉を吐き掛ける。


隣のアンさんも少し暗い顔をしている。この2人は特にピエロに対して因縁があるからな。






「それでね?晴嵐くん。


 僕らが今やるべきことは、彼らよりも先にアンデルセンの宝を保持することと


 洗脳され、誘拐されたRBくんの救出だね。それに伴ってメルヘニクスとぶつかることになるだろう。


 そして最後に彼ら自身のもう一つの目的は《タルタロス》の一人『マンモン』を倒すこと。らしいんだけど……」






そういって、赤井は一度言葉を止め、大きく息を吸う。


そのまま俺の瞳を見つめてくる。真剣なまなざしだ。




「今……『黒金寧々』さんは、どこにいる?」


「え?……」




俺は、今までの会話の流れで


出てくるはずのない見当はずれの質問に呆然とした。






赤井のその瞳は、一切の曇りのないものだった。 









--------------------------------------------------------------------------------







「正純さん。こんばんわ」


「ん?優じゃないか。どうしたんだい、晴嵐達は?」


「あいつらは自分のビルです。ちょっと聖十字のみんなの様子を見たくなりまして。……結花ちゃんは?」


「ん?僕たち狙いじゃあなくて、彼女目的かい?」


「ち、違いますよ……」


「どうかなぁー?あの浪花六道との闘い以降。


 君はどうもあの子にご執心な様子だからね……」


「……////そ、そんな顔に出ていますか?」


「んー、僕も伊達に初恋を済ませた人間だからね」


そういうと、目の前の聖正純会長はどこか遠くを見ていう。


彼はずっと前に馬場園涼子という女性に初恋をし、その恋心も忘れて正義と言う狂信に走った。


と、彼の過去を聞いたことがある。そのときのことを思い出しているのだろう。


「君のその様子だと、初恋だよね?」


「……っ/////」


「はっはっは、中学生に初恋とは、真面目が取り柄の君も随分はっちゃけたね」


「そ、そうですかね……。でも、彼女はたぶん僕のこと嫌いなんで」


あれ?どうしてだろう。正純さんが僕を蔑んだ目で見てくる。




「彼女ならビル内にはいるよ。さっき会ったしね。探してきなよ」


「そ、そうですね。織田さん達にもお話したいし」


「中学生に惚れたロリコンだってこと?」


「違いますっ!!それにロリコンでもないですよ。晴嵐じゃあるまいし」




そういって僕は扉を開けようとする。


そのときだった。突然地震が起こる。


「「――――っ!?」」
















「さぁ、俺の愛刀はどこだぁ……」


一歩また一歩。男が歩く。


すれ違う人々をまるで埃を払うかのように斬って捨てる。


男は口元を大きな布で覆っていた。


ボサボサの髪。真っ黒いタンクトップ。そこから見える岩のような筋肉。


持っているのは自分の身長ほどある長い大剣。






侵入者を止めようと、戦士たちがなんども彼に挑むが斬っては捨て、斬っては捨て


その瞳は目前の敵を見ていなかった。






「さぁ、勇者桃太郎は聖なる騎士団に喧嘩を売るお話『逆鬼ごっこ』……はじまりはじまりだ」


男は剣を肩にのせて、一言そういった。






男は、英雄であり……化け物だった。


その鬼を抑える鎖を持っていたのはただ一人、アンデルセンであった。


その鎖が解き放たれ、『桃太郎』の名を持つ鬼は、一歩。また一歩と歩みを進める。







--------------------------------------------------------------------------------







(黒金寧々さんは……今どこにいる?)


「……わっけわかんねぇよ。赤井の奴」




赤井の言葉を聞いてから、解散になった。


別行動をしていた刹那と優に連絡しようとしたが、まったく出てくれなかった。




俺の中で、赤井の言葉がぐるぐるとまわっていく。


そんなわけねぇ、あいつの言葉の通りなわけがない。何かの間違いだ。






「やぁ、晴嵐くん」


そのとき後ろから声がする。


聞き覚えのある声。


久々に聞く声。俺は思わず笑顔になって振り返る。


そこにいたのは、俺の愛しい先輩だった。身体が小さくて、長い黒髪、可愛らしい顔立ちの先輩だった。


「せんぱ……っ!」


俺は話しかけようとしたけれど、なぜか一瞬躊躇った。






「……誰だ?お前?」


ここはスカイスクレイパーじゃない。


一般の道路道だ。変装能力者なんてことはありえないはずなのに


目の前にいるのは紛れもなく先輩なのに、なぜか俺は無意識にその言葉を発した。


「……へぇー、流石だね。僕が「寧々」じゃないってわかるんだ♪」


「―――っ!?」


その話し方に、俺はなぜか恐怖を感じた。


知っている。俺はこの恐怖を一度経験している。




そして、赤井の言われた言葉の続きを思い出す。


(よく聞いてくれ晴嵐。


 僕を倒した相手は……『黒金寧々』さんなんだ)


「僕は一度君に会っているのに、君は僕のことをわからないのかい?」


もう答えはほとんど出ている。


だけど、それを認めたくなかった。




「『マンモン』……なのか?」


「へぇー大正解♪流石だね晴嵐くんは♪」


そういうと彼女は笑顔のまま振り返って帰っていこうとする。


「お、おい!」


俺はなぜか敬語でマンモンを呼んでしまう。


「ん?なんだい?」


「おめぇ……なんでわざわざ正体晒すような真似した?」


「さぁね。そこは寧々にでも聞いてくれよ」


そういって彼女は去って行った。




「もぉ……わけわかんねぇよ……」


去った彼女の背中を見ていた俺は


もう何がなんだかわけがわからなくなった。俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込む



                 ☆


「ふんっ!ふんっ!!」


俺、織田太郎は4m以上に伸ばしたラハイヤンの素振りを繰り返す。


(あの時……勝てなかった。年下の男に。車田とも相打ち……。みっともねぇ!!)


悔しかった。


先日の戸雷和樹との闘いを思い出す。


俺は……負けた。どう頑張って相手にダメージを与えただろうが、負けた。


自分の力に誇りを持っていたつもりだった。現実世界の剣道じゃあ名の知れた男になれたはずだ。


少なくても、現実世界では俺は『強者』のはずだ。




「だが……世界は広い!」


俺はもう一度ラハイヤンを振るう。


この聖剣も受け継いだに等しい物だ。


この能力は、代々変わっていくものらしい。


「ラハイヤン所持」と言う能力を過去に持っていた者が能力を放棄した場合などに


新しい所持者が現れるか、そのまま聖剣は放置されるか……。の二つだ。


我が聖十字騎士団のビルには全てで「7本」の聖剣がある。


『エクスカリバー』『カリバーン』『ズラフィカール』『ラハイヤン』『シュワルーズ』『デュランデル』


そしてもう一本……『叢雲』これは、いまだに所持者が現れない代物だ。


人を選ぶ。この刀は特にそれだ、聖剣は放置された後、ふさわしい人物が運命のように惹かれ、引き抜く。


絶対的王者であることを義務付けられている正純には『エクスカリバー』


人の支え、バックアップをするのに才がある隆太には『カリバーン』


それぞれおそらく個性や隠れた本質で惹かれていくものだと思う。


だからこそ、この『叢雲』が選ぶ所持者はまったく現れない。まるで誰かをずっと待っているように。






「うーっす……邪魔すっぞ」


「っ!?」


そのとき、個室の壁が破壊された―――――。




その場にいたのは、まるで鬼のような……恐怖の覇気を纏った男の姿があった。







--------------------------------------------------------------------------------









「……あぁ?てめぇ、聖剣使いか」


目の前に長くて巨大な剣を持っているガタイの良い男がいる。


俺は持っていた倒れている男をそいつの前に投げ捨ててやる。


「……っ!?」


ほぅらキレた。


そして直後に俺を「敵」だと判断しやがった。おもしれぇ。


俺は巨大な剣を取り出す。


男がその長すぎる刀を俺に振るい落とす。


俺は抜いた剣でその剣を受け止める。


「ほぉ……中々いい刀の振り方だ。てめぇは筋がいいな」


俺の言葉を聞いた直後に剣を元の長さに戻して俺と距離を取り


途端に俺に向けて突きを放ってくる。


俺はもう一回刀で止める。




「俺にも時間はねぇんだ。てめぇの漢気認めてやるが、相手が悪かったと思ってくれ」


俺は刀を捨てて奴に向けて走りだす。


その距離5m以上。だが………。


「っ!?」


「おら、反応が遅いぞ」


俺は、男の腹部に強烈な一撃を与える。


奴の口から放たれる唾液が俺の顔に付く。


俺は殴った腕を引いて、今度は前かがみになっている奴の頭部を狙って殴りつける


奴の頭が地面に叩き落とされる。地面が微かに割れる。




「さて、次行くか」


俺は捨てた剣を拾って次の場所に行こうとする。


「ま、待てよ……」


「なんだ?小僧」


倒れている小僧が俺に向けて言葉を放ってくる。


「てめぇは……何者だ」


「過去に、ここに住んでた英雄だ」


「……今は?」


「……欲望に負けた鬼だ」


すると、後ろから倒れていた男が立ち上がる音が聞こえる。


まだ根性が残っているのか。タフな男だ。


「てめぇは……危険だ。この先には……いかせねぇ!!」


「いいねぇ、かませ犬って感じで」


「――――っ!?!?!?!?」












「ったくよぉー。意味ねぇんだよ。努力だとか、悔しさとか、そういうの。


 負け続けている奴は今後さらに強い奴が現れて結局負けていくんだ。てめぇのようにな」




血みどろになりながら、今でも抵抗しようとしてくる男に俺は吐き捨ててやった。







--------------------------------------------------------------------------------









「……あぁ?」


「貴方ですわね?太郎くんをやったのは?」


「太郎……。あぁ、さっきあった男か。


 てめぇ仲間か、っつうことは……『聖剣使い』か」


「えぇ、貴方に太郎くんの弔いをさせていただきます。私の『ズラフィカール』で!!」


すると目の前の女は両腰に携えた腰刺しを抜き、俺に向けて投げてくる。


俺は取り合えず避けてみる。その2つの剣は俺を通り過ぎて言ったが


綺麗な放物線を描いて俺の方に戻ってくる。なるほど……追尾型か。


相性が相性なら勝利に持っていくことはまず不可能に近い、ある意味一番強い能力か。


「だが……。みみっちィな」


放物線を描いてこちらに来た刀が俺の横っ腹に突き刺さる。




「……さて、こっからどうするんだ?」


「……え?」


「ほぉ、一丁前に抉ってきやがってやがるぜこの聖剣!」


俺は嬉々とした顔で言ってやった。


目の前の女は何かに怯えたように目が震えていた。


「おいおい、どうしたお嬢ちゃん。せっかくの美人が青ざめてて残念な方向になってんぜ!!」


「えっ!?」


俺はそのまま彼女に急接近し、脚を思いっきり払う。


なんの対処も出来なかった女は地面に身体をぶつけて倒れる


軽く頭の脳が揺れたからか、ふらふらしちまってるな……。


俺は立とうとしている女の脚を思いっきり踏みつける。


「俺は糞野郎の自覚あるが、女にはほんの一割だけ遠慮してんだぜ?


 女が腹痛めちゃいけねぇからなぁ!」


「くっ……!」


「おぅらよ!!」


俺はもう一度奴の脚を踏みつける。骨の割れる音が響き渡り


女の我慢しても漏れてしまっている悲鳴が俺の耳に響く。


「これでうごけねぇだろう。俺の目的は別だ、許しを乞うならこのまま放っておいてやるぞ」


「だ、だれがっ!貴方のような男にっ!!」


「ほぉ……そうか。んじゃ」











--------------------------------------------------------------------------------









「次はてめぇなのか?」


「いや、生憎俺は僧侶ポジなんで、戦士が一緒にいないといけないんすよ」


「そういうことよ!!」




俺の目の前には、大きな剣を地面に突き刺しているガキと


「……まさか俺はこの『チビ』と闘うのか?」


「誰がチビよ!立派なJCよJC!少なくてもあの女よりは高いわよ!」


「……あの女?てめぇら、まさかピクシーを知ってるのか?」


「知ってるも何も私はあいつと闘ったわよ!こうやってね!!」


そういって目の前の女は己の聖剣を抜き、巨大な竜巻を放ってくる。


物凄い風圧だ……。なるほど風邪使い。ってことは『シュワルーズ』か。


「んで、そっちの男のがカリバーンか。すげぇな、その刀の適合者が見つかるとは」


「……何を言っているんだ?」


俺は自分の能力を発動させる。




「っ!?隆太さん!あいつの背中!!」


俺は風に乗って宙を舞う。




「てめぇが力の根本か」


「っ!?」


男の瞳に俺の姿が映る。


俺は自分が持っていた剣で奴の横っ腹を叩く。


男は苦しそうに腹を抱えながら倒れて意識を失う。


「次はてめぇだ。女……」


「……シュワルーズ!」


女は自分の聖剣から出る竜巻で上空に浮上。


俺も背中から翼を出現させ、女と同じく上空浮上。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」


巨大な竜巻が俺を襲う。


俺はそれを避ける。流石にさっきみたいに当たれば少なからずダメージになる。


女が竜巻を縦横無尽に操り、それを俺が逃げている状況。


なるほど、シュワルーズはここまで強力な聖剣だったのか。ぜひとも欲しかったものだな。


「だが……お前の使い方では意味がない。雑な動きが目立つぞ。女」


「っ!?」


俺は飛びながら後ろに回り込み、女の背中めがけて思いっきり拳を振るう。


「ひぎっ!」


女は可愛くねぇ悲鳴を上げてそのまま落ちていく。


頭から落下すりゃ身体になんの補強もされてない聖剣使いだ。再起不能になるだろ。






そんなときだった。


誰か女をキャッチしてのを俺は真上から確認した。




「ば、バカ優……遅いわよ」


「ごめん。遅かった理由は、これから説明する」




「っ!?」


その瞬間。


俺を真上から抑えつけられているような力が襲う。


この能力……重力か!?


上空にいた俺はそのまま地面に下ろされる。


俺が抵抗していても、俺の脚はどんどん地面に圧力をかけて、割っていく。




「貴方が何者かは知らない。だけど……仲間がこんなことになってるのは文句言ってもいいんですよね?」




「僕からも、文句を言わせてもらおうか」


そして足音が聞こえてくる。また誰か来たのか。


俺はその足音の方を見る。なんと表現すればいいかわからないが、とにかく『光ってた』






「その聖剣。おめぇまさか……」


「随分と聖剣に詳しいみたいですね。貴方の目的は拘束してから聞きましょう」


そういって目の前の男は聖剣を鞘から抜く。


間違いねえあの輝く……『エクスカリバー』だ。


驚いたぜ、まさか適合者が現れるなんてな。これは昔の……あいつぐらいじゃねぇのか?


「だからこそ……無償に腹立つなぁ!!!!」


俺は脚を上げて一歩歩みを進める。






「そ、そんな!?これでも全力で重力かけているのに!」






「おい、そこの優男。こんなチンケな重さじゃ俺は止めらんねぇぞォ!!!!」






俺は奴の重力を物ともせず、目の前の2人の元へと歩を進める。









--------------------------------------------------------------------------------









「てめぇらに足りなかったもんは、ただ『未熟だった』ってだけだな」




そんなことあるはずがない。


「優!優!!」


なんで結花ちゃんは僕の名前を呼ぶんだろう。


どうして僕の視界はさっきから天井しか向いていないんだろう。


さっきの男はどこに行った?正純さんは?今も闘っているのだろうか?


「そんな……!会長までやられるなんて!!」


結花ちゃん……そんなはずないじゃないか。


正純さんが負けるなんて、しかもこんな短時間で、ありえない。


そして僕らはまだ負けていない。動けよ。身体……。動けよ。


「動けって言ってんだろ!!!」


「……無駄だっつってんだろ?」


「っ!?」


僕が叫んだ瞬間に、僕の視界にさっきの男が映る。


「てめぇらは根本的に俺にはかなわねえ。


 幼稚園児が最強の武器持ってても使いこなせないし、大人にゃ勝てねえよ」


僕を見下すように言う男。


今すぐにでもデュランデルでこいつの頭を地面に叩き落として頭を垂れさせたい!


なのに……聖剣は何も答えてくれない!


「女?まだやるか?残ってるのはてめぇだけだぞ」


「…………っ!」


ダメだ。結花ちゃん。


闘っちゃあだめだ。それだけは絶対にいけない。


彼女の身体もボロボロなはずだ。


「貴方……『桃太郎』……ですよね?」


そのとき、正純さんの声がする。


「あぁ?そうだが?」


「メルヘニクスのNo2.『英雄桃太郎』……あの頃を知ってる人間ならだれでも知っている」


「ほォ、そこまで有名だったのか。俺の名はよ」


「だからこそ……わからない。貴方がなぜこんなことをするのか!!」


「てめぇの中で俺はどういった存在かは知らねえが。俺は英雄なんかじゃあねぇ『鬼』なんだよ。


 今まで誠実な神様に首輪をされてただけの鬼にすぎねぇ。メルヘニクス……。


 メルヘンなんつう可愛い由来使ってるが、あの組織は正真正銘『化け物の巣窟』だったって話だ」


そういって男は


背中にある鞘に納めているさきほど回収したものに目をやると元々持っていたただの大剣を無造作に捨てた。


「そうそうこれこれ。昔使ってたから取り戻しに来たんだ。


 てめぇらで試し切りでもするか?まずは……そこの女から」


「っ!?」






「っ!?やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


僕の叫びなんか届きはしない。


男が鞘から聖剣を抜く。まるで全てを喰らうかのような炎を纏った剣。




僕はどれだけ首を動かしても視界に男が映ることはない。もちろん結花ちゃんが映ることも。






ただ、無残にも肉が切れる音と、炎で肉が焼ける音だけが僕の耳に響き、僕は絶叫した。


そしてそのあと、僕の視界に現れた奴が聖剣を振り下ろそうとしている。


僕は恐怖のあまりその場で気絶した。



                 ☆


「ちっ、相変わらず胸糞悪いビルだな」


黒い革ジャンにジーンズパンツ。黒髪オールバックの渋い恰好をした男。


男は煙草を吹かしながらビルを闊歩していた。


彼を見た者たちはそれぞれ言葉を漏らす。


「なぜ今頃」「どうして戻ってきた」


「なぜあの方が……」と




「おい、お前」


「はいっ!」


そのとき、独りの男が声をかけられる。


「さっきの態度だと、俺のこと知ってる風だったな」


「も、もちろんですよ!私は貴方がいた頃からここに所属しておりましたから!!」


「かてぇ敬語使ってんじゃねぇよ。俺はここを抜けた人間だぞ?」


「し、しかし……やはり貴方は……」


「ちっ、こういうとこが胸糞悪いっつってんだよ」


そういって、男は震えている男をポンっと押す。


本当に、足場が少しふらつくほどの力でだ。


「っ!?」


一瞬だった。


何かの力が働いて、男はそのまま地面に吸い込まれるように倒れる。


「このビルの恐ろしさは俺が一番知っている。


 だからあんまりでっけぇ騒ぎにしたくねぇんだが……どうだ?」


回りを見渡しながら。その場にいた奴らに声をかける。


その場にいた全員が恐怖に震えあがる。


みな、知っているのだ。この男の強さを。


味方として、そして……敵としても。




「なら、早く爺の所へ案内しろ」


「オ、オーディン様のところへですか!?」


「あぁ、爺に用があんだ。早く連れて行け」


「は、はぁ……」






そして男は怯えながら、革ジャンの男を案内する。


男の革ジャンの後ろには、大きな狼がプリントされていた。







--------------------------------------------------------------------------------







「どうも」


「おぉ、来てくれたかフェンリル。会いたかったぞ。また胸大きくなったかの?」


「オーディン様!!」


「痛い!痛いのじゃヴァルキリー。剣でつつくのやめろ!」




この2人は相変わらずだな。


私は今、オーディン様のいるオーディエンスの中枢に来ていた。


用事があったわけではないけど、なんとなく。この人達の顔が見たくなったのだ。


ヴァルキリーさんはいつも無表情だけどオーディン様のことになると必死で


時に厳しく、けれど私たちをしっかりみているしっかり者の姉のような人だ。


メアリー様は優しいお姉さん…かな?


トール様は父を亡くした私たちの父親代わりと言ってもいい。


現に龍二はトール様のことを本気で慕っている。


私はここで育った。ここでスカイスクレイパーの全てを学んだ。


そして私がこうして楽しく生きれているのもオーディン様率いるオーディエンスのおかげだ。




「……そうじゃそうじゃ。フェンリル。2人は元気かの?」


「えぇ、元気ですよ。龍二の奴なんて最近ガールフレンド出来ちゃったみたいで……」


「なんじゃと!?かわいいのか!?その娘は可愛いのか!?」


「オーディン様ぁ?」


「……まあ、可愛いですよ?……ちょっと思い込み激しいけど。


 龍二がこのままあの娘とくっついてくれたら姉として助かるんですけどねぇ」


「ヘルの方はどうじゃ?」


「昔に比べて社交的になりましたよ。こっちも大好きな男の子作っちゃって


 前までは私たちにベタベタだったのに今じゃもぉその子の虜ですよ。


 まぁ、その子には千恵を何度か救ってもらってますし、千恵もその子のおかげで強い子に育ってくれてます」




「むぅーヘルが男にとられたかぁーあれは将来絶対にお主と違うタイプの美人になるのにのぉー」


「オーディン様?いくら若い子が好きだからって中学生に手を出しませんよね?」


「む?中学生はまだまだダメじゃ。身体付きがしっかりしておらん!せめてフェンリルレベルにはならんと」


「オーディン様。後でその首切りますね」


「待てヴァルキリーっ!今のは軽いジョークじゃ。それに主はスタイルいいだろう!」


「……そうですか/////」


そういって剣を鞘に納めるヴァルキリーさん。相変わらずだな。ほんと。






「さて……そろそろ。じゃな、ヴァルキリー」


「はい」


そういうと、ヴァルキリー様が小さな箱を持ってきて私の前に歩いてくる。


私の前でその箱を開けると、中には綺麗に納められていた二丁の拳銃。


「これを、貴方に預かってもらいます」


「えっ?私にですか?私はスピード能力者で」


「関係ないのです。どうぞ、これは……『貴方の父の形見』です」


「っ!?」


私は驚きながらも恐る恐るそれを手に取る。


拳銃の下に脚に巻くホルスターも収納されていた。


父もこのオーディエンスにいた。と言うのはトールさんから聞いたことがあったが……。


父は一体どんな能力者だったのだろう。少し気になるところだ。


「お前さんのお母さんと結婚してからは、すっかりその世界も引退したんだがのぉ。


 その道具だけは、わしが管理していたのじゃ。大事なオーディエンスの形見だからな」


そういうとオーディン様が少し暗い顔をする。


全ての者よ聴衆であれ。オーディエンスの名の由来でもある言葉だ。


その聴衆達を纏めているオーディン様は、全ての者たちに同等の情愛を持っているのだろう。


「……ありがとうございます。このフェンリル、葵刹那が。確かに承りました」


私は礼を交わしながら、ホルスターを脚にはめる。




「やはり刹那の脚は綺麗じゃのー」


「オーディン様?」


「…………冗談じゃよ冗談」


そして2人が話している間に装着し終えて


拳銃をかっこよく上に放り投げ、一回転してキャッチ。


そのまま流れるようにホルスターに収納する。やばい、ちょっとカッコいい♪


「まぁ、今のお主の戦闘スタイルでは使わないかもしれないが。お守り代わりに持っておいてくれ」


「はいっ!」




そういって、私はログアウトを宣言する。


帰って龍二達に話してやろう。この拳銃のことを自慢してやろう。


父の話を久々にみんなで交わそう。あの子たちの大好きなカレー鍋でも食べながら―――――――。










「さて、なんとか間に合ったようじゃな」


「そうみたいですね。オーディン様」


その2人の言葉の直後。扉が蹴り飛ばされる。


「よぉ……久々だなぁ、親父殿♪」


「……ドアはしっかりと開けんか。不良息子よ!」


「けっ、知ったこったねぇな。てめぇん所から抜けたら不良か?あぁ?」


黒い革ジャンを羽織った男とオーディンが対峙する。




「それにしても、まだやってたのか。こんなしけたビル。


 どいつもこいつも仲良しこよし。このスカイスクレイパーは闘わせるためにあんだぜ?


 余興の対決ばっかやってるから、ピエロの奴に攻められんだろうが。


 それも、追放した奴の復讐だって言うじゃねぇか!それに翻弄されまくったとか。がっかりだぜ……」


男は加えていた煙草を口から離し、煙を吐く。


ヴァルキリーが剣を抜く構えに入る。




「んでよぉ、爺。あの『拳銃』……どこにある?」


「っ!?やはりそれが目的か」


「当たり前だろ?亡き戦兄弟の形見だぜ?欲しがらないわけねぇだろ」


「……そんなものはない」


「……ほぅ。あくまで渡さねえってことか。いいぜぇ、なら……」


革ジャンの男は地面に落ちていた石ころを拾ってオーディンの顔めがけて放り投げる。


石ころは弾丸のようなスピードで彼の眉間に吸い込まれる。


「っ!」


その石を剣を叩き割ったのはヴァルキリー。




「おいおいヴァルキリー。俺相手にまさか喧嘩しようってわけじゃねぇよな?やめとけよ。


 そこの爺と俺は相性最強。俺が勝つに決まってんだぜ?それにてめぇも俺にゃあ勝てねえだろ?」


「勝てない。貴方がここを抜けてきた頃の私と思わないでください」


その言葉の途端にヴァルキリーの背後に生える八つの綺麗な翼。




「爺趣味の変な女だとは思っていたがその無謀さだけは惚れ惚れするぜヴァルキリー。


 そして最後に教えておいてやる。力があっても魔力があっても最終的に勝つのは『速さ』ってことをなぁ」




その瞬間。邪悪な笑みを浮かべていた革ジャンの男の目が『蒼く』輝いた。





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「……優っ!」


「……あれ?ここは?」


俺、明知晴嵐が駆けつけていたのはビル内の病室だった。


マンモンとのことで頭がいっぱいになってるってのに、優の奴が運ばれてきたって……。


「優?あんた大丈夫?」


「僕は……っ!?結花ちゃんは!?」


「今メアリー様が必死に看病しようとしたけど。


 彼女も今日は能力を使いすぎて体力切れ。残念だけど完治には時間がかかるわ」


「そうか……僕は一体どうなってしまったんだ?」


「正純会長よ」


そこで話していたのは、脚を折られた伊達美香子さんだった。


「彼の聖剣が、貴方を守ったのよ。優くん、独りしか庇えなかったんでしょうね」


悲しそうな顔をする伊達さん。


俺も状況は今聞いた限りだが優の所にもメルヘニクスが襲撃に来たらしい。




メルヘニクス。狩羅や優、龍二も千恵ちゃんもやられてRBも攫われた。


そして奴らが倒そうとしているタルタロスの一人マンモン。そしてそのマンモンの正体は……。


「……悪い、優の様子が安定してるなら……帰るわ」


「ちょっと晴嵐!?」


俺が去ろうとすると刹那が俺の肩を掴む。


「あんた……様子おかしいわよ?」


「おかしい?んなわけねぇだろ、とにかく……悪い」


俺は刹那の手を払ってそのままその場を去る。


(あいつ……絶対に相手にキレると思ったのに。どうしちゃったの……晴嵐)




「俺にだって……わっかんねぇよ!何もかも!!」


俺はビルの壁に思いっきり拳を当てる。


俺は一呼吸してログアウト。自分の家に帰ってベッドに飛び乗る。




今、俺がするべきことはなんだ?みんなやられている状況で


俺はこのビルの王なんだぞ!?黄鉄さんに託されたんだぞ!?


「くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!」


俺はベッドを殴り続ける。まだモヤモヤしている。


なんで先輩がマンモンなんだ。なんで優がやられる。狩羅たちがやられる!赤井達がやられる!






そのとき、携帯の音が鳴り響く。


着信相手は……親父?


「……なんだよ?親父」


『やぁ、晴嵐。元気じゃないか?』


「なんだよその斬新な挨拶は……」


俺は今まで抱いていた苛立ちを殺して親父と話す。


なのに親父と言えば開口一番に冗談かましてきやがる。


『いや、冗談じゃなくてさ。本当に、元気じゃない気がしたんだ。何か……あったのか?悩み事か?』


「なんでそんなことわかるんだよ?」


『んー、作家としてストーリーの匂いがした?かな?』


「ふっ、なんだよそりゃ」


『いや、違う。親の勘だ』


「……敵わねぇな。親父には」


『何言ってんだ?バスケでもなんでもお前は俺より優れてるぞ?』


「そういうことじゃねぇよ。なぁ……親父」


『ん?どうしたんだい?』


「……自分が大事に思っていた人がさ。


 ちょっと異質な人でさ。俺、その人の事信じていたいのに、なんだかわけわかんなくなってきてさ。


 俺が大事に思っていた人は、敵だったんだ。いや、正式には俺の親友の人生を陥れた人だけど……。


 俺さ、普段のその人からは想像できなくてさ。優しくて強がりで頼もしくて……。


 でさ、わかったんだ。その人……『二重人格』なんだよ。


 どっちが本物のその人かわかんなくて、俺はその人をどうしたいのかわかんなくて


 守りたいのか、やっつけたいのか。俺に優しくしてくれたその人は本物なのか、偽物なのか。


 そいつの正体知ってんの、今の所俺だけなんだ。


 そいつのせいで何人も友達が大変な目にあってるのに、みんなに言えなくて……


 俺は今、何をするべきか。どうしたいか。まったくわかんなくてよぉ……」




『……晴嵐は、本当にその人の事が好きなんだね』


「あぁ、俺の世界を変えてくれた人だ」


『でも、その人が二重人格者でもう片方は極悪非道野郎と』


「あ、あぁ……」


『……晴嵐。お前の、母さんの話をしていいか?』


「え?母さんの話?」


『あぁ、氷雨は嫌がるだろうな』


そういって父が深呼吸しているのが聞こえる。


俺の母さんは俺が幼い頃に離婚したらしい。ちっさかったから覚えてないけど






『母さんもな、その人と同じように《異質》の人だったんだ……そして今、刑務所にいる』






親父から語られた言葉は、俺には遠すぎると思っていた話だった。



                 ☆


「はぁー……。仕事しながらの執筆ってのは、きついなぁー」


今から二十年以上前。24だった俺の話だ。




まだ「暗無光秀」と言うペンネームが売れてなくて


企業に勤めながら、帰りや休みに小説を書く日々だった。


まるで絵本にあるようなメルヘンチックな世界を描くのが俺は好きだった。


絵本は子どもが読むものであるが、底を知ろうとすれば、そこにあるのは


子どもにはとても見せられない残酷な現実。夢も希望もない世界。


または、世間の過酷さを暗に意味している作品が多い。


大学時代に童話について調べてから、俺はそういう世界に惚れこんだ。


その良さを人々に知って欲しい。そして自分が描きたいという思いが今の俺を動き出している。


男女に求められるギャップ萌えってのがあるらしいけれど、俺は童話に対してそれを抱いたのかも知れない。


ちなみに暗無光秀くらなしみつひでと言う名前は暗さと光。無能と秀才って言うまったく逆さの意味を


示していて光に満ちて秀でている童話の世界の暗くて無情な世界を合わせた名なのだ!!


って何語ってしまっているんだろう俺。すっごく恥ずかしいな……。忘れてくれ。




そんなときだった。


俺にとって、そして彼女にとっても《運命の出会い》をしてしまったんだ。


サンドウィッチを手に持っていた俺は、道路脇の細い路地に目が行った。


行ってはいけなかったんだろう。けれど俺は目が離せなかった。




「……え?」


俺と目が合った女性。


長い髪、きめ細やかな肌。猫のように鋭い目線。


全てが俺を魅了した。そう……その手に持っている猫の生首も一緒に


「……っ!?」


俺はやばいと思って逃げようと考えたが、脚が動かなかった。


女性はそのまま俺に向かって走ってきて、俺の手を取り、細い路地へ引っ張る。


しまったっ!?ぼけっとしている間に逃げ遅れた!?


俺は見事な諸手刈りを喰らってその場に倒れる。


そして女性は馬乗り状態で、俺の身体を固定してくる。


近くで見ればさらに美人だ。美人に倒されて、馬乗りに合っている。うん。悪くない。相手がナイフ持ってなければ


「はぁ……はぁ……はぁ……」


女性は顔を紅潮させ、息を荒くして俺を見つめている。


エ、エロい!なんてエロいんだ!!本当にナイフ持ってなければ最高のシチュエーションなのに!


彼女が刺しやすいようにナイフを持ち帰る。


「はぁ……はぁ……」


「ま、待て!待ってくれ!俺は何も悪くない!」


俺は必死に命乞いをする。


けれど女性は依然として息を荒くして俺のことを見つめている。


彼女が右腕で突然ナイフを持っている左腕を掴む。


左腕が震えている。もしかして…………。




「……えーっと、《ナチュラルボーンキラー》。って奴ですか?」


映画で見たことがある。


人間の中には、生まれつき殺人衝動を抑えられない人間がいるって話。


実際に少なからずいるみたいで、動機などでは説明できない大量殺人を行った犯人は


これに属すると言われている。小説のネタにもなるかと思って調べたことがある。


俺の言葉を聞いた女性は、少し悔しそうに俯き、震えながらコクリと頷く。


自分でもわかっているんだ。それで必死に抑えているのかな?


「えーっと、猫殺してたのは絶対に誰にも言わないから。


 俺を逃がさないようにこの態勢でもいいから話をしてくれない?」


俺はとりあえず冷静に話をしてみる。


この子は猟奇的な子ではない。いや、病的な殺傷衝動があるけど。


「えーっと、名前は?」


「……朝霧早姫」


「早姫ちゃんか。見たところ俺より年下だけど……何歳?聞いて大丈夫?」


「……19」


ほぉーぴっちぴちか。


っと俺の下心を感じたのか持っているナイフを強く握る。


「ま、待って待て!」


「はぁ……はぁ……。ごめんなさい、我慢、してて。殺したばっかだから……歯止めし辛くて……」


我慢。


殺人衝動を常に抑えてずっとずっと生きてきて


溜まりに溜まったもので我慢できずに猫を殺して、そこを俺が見てしまったわけか。


「じゃあ、落ち着くまでこの状態でいいから。ゆっくり落ち着いて……」


と、言われても彼女の乗っている場所が腹でよかった。


腰だったら殺人衝動云々差し引いても殺されるところだったよ……。


本当に、美人だな。荒々しく髪が乱れているし目もどこか血走ってるし汗もかいてる。


ちゃんと手入れすればきっと通りすがる人が見てしまうほどの美人だと思う。


何よりも、こんな美人が殺したがりってのも……。


「なぁ、俺と付き合ってくれないか?」


「ふぇっ!?」


予想以上に可愛い反応で一瞬焦った。


なるほど、衝動的なだけで他は可愛い女の子だ。


さっきとは違う意味で顔を真っ赤にして照れてる。


だけどその瞬間に照れ隠しのようにナイフを俺に向けて振り下ろそうとしてる。


「待て待て待て待て!!!」


俺に刺さる直前でそれが止まる。


あ、危ねぇ……。


「……ふぅー。ふぅー……。すみません、多分……大丈夫です」


早姫ちゃんは少し恥ずかしそうにそういうと、俺の上から退いてくれる。


俺は立ちあがって汚れた服をはたく。


「本当によかったよ、君が冷静になってくれて」


「ほ、本当にすみません」


彼女は深く頭を下げて謝ってくる。


「いやいや、いいよいいよ。こんな美人からのアプローチだったら殺そうとされててもいいさ」


「な、なら。一発サクっと刺していいですか!?」


「……それは、ちょっと……ダメかなぁ」


俺の反応に彼女は少ししょんぼりとする。


俺は思わず頭を撫でてしまった。




「じゃ、俺帰るから」


そういって俺は彼女から去る。






帰り道。誰かに付けられてる気がした。


アパートの前で俺はふいに振り返る。


「……えーっと……」


「あの、その、えっと……」


俺の後ろでさっきの殺人少女早姫ちゃんが言い訳を考えながらおどおどしていた。


「もしかして……帰りたくない?とか?」


「す、すみません。その、私のこと知っても平然といる人初めてで……その……」


なんだこの可愛い生物は。


「うち、泊まる?」


「いいんですかっ!?ありがとうございます!」


元々それを期待してた癖に……。






こうして彼女は俺の家に泊まることになった。


どうやら独り暮らしをしているそうで、聞いてまずかったが……両親を半殺しにしてしまったらしい。


衝動を抑え続けていると、狂気じみてきてどんどん人が離れていって、いつも独りだったとか。


俺としては、美人だし、こんな特殊な人、作家としてむしろ出会いたかった人材だったから


気にすることはなかった。ときたま刃物を向けられるけど、そのときには食用のカエルとかネズミ買って


彼女に渡すと、彼女はそれをストレス発散のためにそれをぐちょぐちょと解剖してる。


少しずつ彼女との距離感の取り方を覚えて言って彼女は俺の家に住み着くようになった。






俺達2人は馬が合ったのかもしれない。


俺んは彼女の衝動を受け止める器があった。






出会ってから数か月。


俺はとある人と電話をして、終わった瞬間に早姫に抱き付いた。


「……どうしたの?光利?」


少し困惑気味に言う早姫。


急で警戒してしまったのか、さっきから長い爪で俺の背中を抉ってる……。


「……お、お前が来てから、調子良くってさ……」


「……本のこと?」


「そうそう。そ、それで……出版されるようになった。だから爪抜いてくれない?」


「ごめん、最近溜まってたからつい」


そういって彼女はなんとか爪を外してくれる。


背中触ったらちょっと血が出てる。服に染み付く前に脱がないと。


「んでさ。早姫」


「ん?」


自分の爪についている俺の血を見てうっとりしていた彼女が不思議そうにこちらを見る。


「その本が売れたら、俺は会社を辞めて作家になる。そのとき、結婚しよう」


俺はポケットに入れていた指輪を彼女に渡した。


「えっ!?だ、ダメよ!」


即効振られた。


ショックで真っ白になりそうだったが、彼女が言葉を続ける。


「だ、だって私、殺人鬼だし」


「んなこと前から知ってる」


「実際に人殺したことあるよ?」


それは初めて聞いたぞ。


「おっ、おう……だが過去のことだ。俺は気にしない」


「……」


彼女は少し迷っていた。


自分がした思った以上の暴露を俺があっさり受け入れたから困っているんだろう。


「……え、っと。こんな私でよければ……////」






そうして、俺と早姫は結婚した。







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『それで、お前の母さんと結婚して後にお前と氷雨を産んだんだ』


「そ、そうだったのか」


父さんから聞いたあまりにも衝撃的過ぎる話に俺は少し動揺した。


「あのさ、その母さんが殺した人って?」


『あぁ、母さんに向かってレイプしてきた男らしい。


 正当防衛と殺人衝動で抑えられなくなってしまったんだろうな』


「そ、そっか……」


『いやぁー、本当。母さんはいい女だったぞ?


 今の氷雨なんて足元にも及ばない女だ。夜の営みの時に首を本気で絞めてくるもんだから


 二つの意味で絶頂しそうだったよ。はっはっは』


「聞きたくねえよ、自分の親のそういう話……」


俺がドン引きしているのを感じ取ったのか親父はさらに笑う。




『ただまぁ、お前を産んだ時、母さん言ったんだ。


 「氷雨の時は逃げてしまったけれど、この子の顔を見てたら、やっぱり罪に目を背けている私が許せないわ」


 ってさ。それで俺と離婚して、過去の罪で警察に自首して今は刑務所だ。たまに会いに行っている。


 母さんが氷雨と晴嵐には内緒にしてほしいって、殺人鬼の子どもなんて自覚持ってほしくないからって


 氷雨は勘がいいから、知ってしまったんだけどな……』




「それを俺に……話してよかったのかよ」


『あぁ、いいんだ。お前は今、俺が過去に抱いたことで悩んでいる。


 だから、お前が今悩んでいることの参考になるなら、母さんも怒らないさ』


親父の声は、どこか心地よくて、聞いていて心に染みていった。


『俺は殺人鬼の夫だ。


 だけど、そのことに後悔も何も抱いていない。


 社会ってのは融通が利かなくてみんなに知られたら俺は白い眼で見られるだろう。


 けれど、それでも早姫は良い女だ。俺の人生を変えてくれた女だと俺は信じてる。それでいい。


 晴嵐、お前は……その人の事をどう思っているんだ?もう一度よく考えてみろ、そしたら答えが見えてくる』




「……わかった。ありがとな。親父」


『この年になっても、子どもの役に立てるとは親として光栄だ』


「はっ、何言ってんだよ。んじゃあな。仕事しろよ」


そういって俺は電話を切った。




その人のことどう思っているか……か。






「とりあえず、ちょっくら走るか」


俺はジャージに着替えて、外に出た。




もうすぐ春休みに入るってのに、外はまだ冬の寒さを残していた。





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「はっ、はっ、はっ」


俺はコンクリートの地面を蹴って夜の道を走っていた。


春が近づいてきているとは思えない寒さが俺の肌を襲う。




こうして走るとき、頭を一度綺麗に整理することが出来る。


身体を動かしてれば、さっきの親父の言葉について考えれる気がする。




「ふぅー、結構走ったな」


俺は疲れて一度止まる。


ゆっくり深呼吸する。吸い込んだ空気がひんやり冷たい。


「おっ、晴嵐じゃねぇか」


その時、だれかに声をかけられる。


久々に聞くその声に俺は振り返る。


そこにいたのは、最も頼もしくて、会いたかった人間だった。


「……黄鉄さん!!」


「本当に久々だな。……どうした?浮かねぇ顔して?」


「えっ?俺浮かない顔してますか?」


「あぁ、なんとなくだがな。どうだ、ちょっと付き合えや」




そういうと黄鉄さんは、悪ガキのような純粋な笑みを浮かべて俺を見た。


                 ☆


「まぁ……座れや」


公園のベンチが小さく見えるその身体をどしっと落として座る黄鉄さん。


まだ立ち尽くしている俺の方を見て買ったコーヒーを渡そうとしてくる。


俺はそれを受け取る。ずっと持って入れないほど温かかった。


俺も黄鉄さんの横に座ることにする。本当、こうして真横に座ると迫力のある人だ。


彼は冬だというのにニッカポッカに少し集めの半そでシャツと言ういまどき小学生でもしないかっこうだった。


いや、腰の方にどうやら上に来ていたであろうジャージを巻いている。さっきまで仕事だったのだろうか。


「んで?どうしたんだよ。んな浮かねえ顔して」


黄鉄さんはコーヒーをがばがば飲みながら俺に問いかけてくる。


これは話すべきだろうか。俺たちが今直面している状況を


この人はもうスカイスクレイパーの人間ではない。ただの一般人だ。そんな人に話していいのだろうか?


「…………っ」


そのとき、黄鉄さんと眼があった。


吸い込まれるような、鋭い目線、俺の全てを見透かされてる気がした。


この人には隠し事は通じない。そう思った。


「……実は、俺らのビルが襲撃にあったんですよ」


「ほぉ、それは一体誰なんだ?」


「……旧、メルヘニクスのメンバーだそうです」


「っ!?あいつらが……。そうかぁ」


「それと……」


俺は少し声を出すのをためらった。


自分の緊張をほどくために一度呼吸して、黄鉄さんの方を見る。


「奴らの狙いは先輩でした」


「ピクシーか。専らアンデルセンの復讐だとか言ってるんだろ?」


「はい。なんでわかったんですか?」


「俺は大体知ってるさ。


 ピクシーには、何か異変があるってこともな」


「っ!?知ってたんですか!?」


「いや、詳しくはしらねぇさ。ただ、俺は何度かあの女と闘ってんだぞ?


 お前が来る前から、だからわかるんだよ。『こんな奴にアンデルセンが負けるわけねぇ』って。


 そのアンデルセンがピクシーに負けたってなれば、理由はなんであれ、異形の何かがあるってわかる」


「……先輩は、黒金寧々は『二重人格』の可能性があるんです」


「ほぉ、二重人格ねぇー……」


黄鉄さんは、少し面白そうに笑った。


「そしてそのもう一つの人格が……。知ってるでしょ?黄鉄さん。三浦秀人」


「あぁ、あいつは強かったな。もっと本気で闘ってみたかったぜ」


「そいつの大事な人がいて、そいつがある女のせいで能力を奪われました。


 それが『タルタロス』の一人『マンモン』……。それが先輩のもう一つの人格です」


「……」


その話を聞いた黄鉄さんは、変わらずどしっと構えていた。


しかし顔はどこか浮かない様子だった。


「そうか、どうりでアンデルセンの奴が負けるわけだ。


 もちろん、あいつはそのマンモンなんかよりも強いと俺は知ってる……が。その正体がなぁ」


感慨深い顔をした後、彼はもう一度コーヒーを口に流す。


「んで?それでてめぇは凹んでたのか?」


「いえ……なんていうか。


 俺は三浦の大事な人に『絶対に敵討ちをしてやる』って言ってて


 でも、その敵の相手は先輩で、先輩は俺の親友の赤井をボコボコにしてて


 それが許せなくて、その先輩はマンモンの方の人格なのはわかってる。だからマンモンを倒すしかない。


 って割り切りたいんですけど……。マンモンが一度俺の前に現れたんです。


 みんなはマンモンが先輩だって知りません。俺だけが知ってるんです。あいつが自分で俺の前に来て


 自分で名乗ったから。なんであいつが俺に向かって名乗ってきたのか。俺はどうしたらいいか。


 わかんなくて、親にも相談して、考えてみろって言われて走ってたんですけど……」


「そんときに俺が出くわしちまったってことか」


「はい……」




俺が俯きながら言うと、黄鉄さんは腕を組んで唸り始める。


「俺は正直言ってバカだからな。昔っから喧嘩ばっかやってきて


 今はなんとか土木工事で若棟梁任せられてるけど、学生時代なんてロクなもんじゃなかったからな。


 そんな俺から見てだ。お前は、そんな悩む必要ないんじゃねぇのか?」


黄鉄さんの言った言葉が俺にはよく理解出来なかった。


彼には俺の悩みの答えがもう見えてるのだろうか?




「なんつーか。俺はお前の才能ってのは『考えねえ』ことだと思ってたよ」


「なんすかそれ。すっごい失礼っすね」


「あぁー悪い。端折りすぎたな。


 なんつぅーか。狩羅のときも、お前あの蛇野郎に説教したときちゃんと考えて物言ってたか?」


「…………」


「あと、ロキって奴に脅されてフェンリル達三人が闘ってるって知ったときは?


 あのRBって言うメガネ野郎が兄貴と決闘するってなったときは?赤井と殴り合ってたときは?


 あのピエロをぶん殴り飛ばしたときはどうだった?てめぇはそんなウジウジ物事考えて闘ってたのか?


 みんなのためだとか、自分がどうあるべきかとか、どっちが正義でどっちが悪かとか


 んなこと考えずにてめぇは闘ってきたんじゃねぇのか?俺と闘ったときは何を考えてた??」


「……ただ、勝ちたいって思ってたました。みんなのためにも」


「本当にそうか?」


「…………いえ、単純に、貴方に勝ちたかった。俺の手で!」


俺がそういうと、黄鉄さんは俺の頭に手を載せる。本当にデカい手だ。


「そうだ!おめぇはそれでいいと思う」


黄鉄さんはニカっと笑い、また自販機の方に行った。新しいコーヒーを買ってくるんだろう。


黄鉄さんが行った間、彼の言ったことを思い出してみる。


確かに、狩羅との闘いんときに俺は何も考えずに口走ってた。


刹那を助けたいって思ったときも、ロキの野郎に腹が立って頭がいっぱいだった。


RBの時だって、優に勝つことに必死で、勝った後も脚が勝手にRBの応援に行っていた。


赤井、黄鉄さん、飛来。こいつらとの闘いは善悪関係なくただ勝ちたい!って思った。


倒したいとか、殺したいとか、倒さなければいけないとか、そんなの関係なく……勝ちたかった。


「あ、そうだ。それとな晴嵐」


黄鉄さんの声と同時に、放り投げられている缶コーヒーを俺はキャッチする。




「お前にはもう一つ才能がある」


「なんすか?不死鳥の能力っすか?」


「ちげぇよ。確かにそれは根性さえあれば誰にだって勝てる能力だ。その根性も才能だと思いたい。 


 だけどなぁ、違うんだ。お前の強さってのは……不思議と人を引き寄せる」


俺はそれを聞いてきょとんとしてしまう。


俺に人を引き寄せる力?貴方ほど信頼の厚い人に言われてもピンと来ない。




「アンデルセンがいた頃は、あいつを慕った15人の仲間だけがいた。


 あいつが去ってからは、派閥が分かれて黒金寧々、蛇道狩羅、そして俺の三大勢力を筆頭に 


 どいつもこいつも一匹狼を演じていた。本当に、殺伐としたビルだったんだ。ずっといた俺だから言える。


 お前が来てからなんだよ。晴嵐、あのビルが変わりだしたのは」


「え?……」




「お前が来て、狩羅と闘ってからあいつらと友情を交わし


 フェンリル達やメアリーも俺達のビルに来て、オーディエンスとも昔以上に繋がりが出来たし


 RBとその兄貴のいざこざが終わってからは聖十字騎士団とのつながりが出来た。


 闇夜のサーカス団との戦争の後も、お前は向こうの新リーダーと協定を結んだんだろ?


 倒した相手と後々になって絆を深めて、広げていく。これが出来る奴は、そうそういねぇよ。


 俺は強かったが、だからこそずっと一人だった。アンデルセンに出会うまでは。


 今じゃあ勝手に家に来るちっせぇガキとか博打野郎がいて五月蠅いけどな!」


また子どものように笑う黄鉄さん。


そうか、彼は……強すぎるが故に一人だったんだ。


親友アンデルセンと出会うまで、そして飛来や瞳、福籠と出会うまで。


「俺があの三人と出会えたのも元を正せばお前が狩羅と喧嘩したおかげだ。


 俺からお前に、礼を言わせてくれ。俺に仲間を作らせてくれて……ありがとうな」


「い、いえッ!俺なんかに礼を言わないでください!」


「はっはっは!謙遜すんな!てめぇはそういう人間なんだって!」


黄鉄さんが乱暴に背中をたたいてくる。力の加減知らないこの人!痛い!




「お前は今まで相手が許せねえと思った奴ももちろんいるだろう。


 そいつにはガツン!と殴ってやっただろう?でもそんとき善とか悪とか考えなかっただろ?


 何を考えてた。思い出してみろ」


「……刹那を助けたかった。先輩を不安にさせるピエロが許せなかった」


「それは、自己中心的な考えだ」


「…………」


「でも、それでいい」


「え?」


「おめぇはまだガキだ。総理大臣でもあるめぇし。自己中心的に生きろ。


 みんなのためとか、マンモンが悪い奴だとか、友の敵とか、いったん全部忘れて


 おめぇが今までしてきたこと。そしてこれからしていきたいことを直感でいい。思い出せ」


黄鉄さんの言葉が俺の心の中で何度も波打つ。


(晴嵐、お前はその人の事をどう思っているんだ?もう一度よく考えてみろ)


親父の言葉も蘇ってくる。




俺は先輩をどう思っているか。俺は今までどうしてきたか。これからどうしたいのか。




「……何か腹括ったような顔してんな」


「ありがとうございます!なんとなくっすけど……これからやることが、見えてきたっす」


「そうかそうか!俺も是非その喧嘩に参加したかったんだがなぁ!!


 ……あいつらは強いぞ?メルヘニクスは。どいつもこいつも化け物だ。


 しかもこれだけ潜伏期間があったんだ。メンバーが増えてると考えて妥当だろう。それでもやるのか?」


「えぇ、俺には仲間がいますから。貴方よりも頼りになる最高の奴らが」


「へッ!言ってくれるねぇー……是非それが終わったら話してくれや。


 てめぇの話を肴に俺は一杯やるのを楽しみにしてるよ」


「……はい。じゃあ、俺はこれで」




そういって俺は黄鉄さんに別れを告げてそのまま走り去った。










「……行っちまったぞ。あのガキ」


ベンチにもたれかかった状態で独り言のように言う本郷黄鉄。


「お前からも一言言ってやりゃよかったのによぉ、アンデルセン」


「……今の俺が出ても意味はないよ。


 それにしても、俺のせいで偉い事件になってしまったみたいだね」


「あぁ、だが……この大事件は必要だ。


 現にいま、あの明知晴嵐ってガキは、大きく成長しようとしてやがる」


「……彼は本当に君に似てるね」


「あぁ?あいつは誰にも似てねえよ。


 あいつはあいつ。《不死鳥》明知晴嵐さ。俺達の後を継いであのビルを取り仕切ってる男だ」


「俺は、あいつにちゃんと真実を話すことが出来るだろうか」


「俺さっきな?この事件が終わったらそれを肴に酒を飲むって奴と約束したんだ。


 そんときはおめぇもこい。そして話してやれ。そして聞いてやれ。あいつが導いた答えを。あいつ喜ぶぞぉ」


「……そうだな。なら、俺達2人は彼に期待しよう」







--------------------------------------------------------------------------------









「……ったくしらけちまったなぁ。トール!」


「……ッ!」


「てめぇが来たときは一瞬ひやひやしたが、おめぇも弱くなったんじゃねぇのか?


 ほかの幹部も顔を出さねえしよぉ。んじゃあな。あの銃がねぇんなら興ざめだぜ。帰るぞてめぇら!」




「へいッ!誠司の兄貴!この佐助どこまでも!」


「…………」


去ろうとする誠司と呼ばれた男。


その横に小柄でボサ髪の少年と坊主で目を閉じている日本刀を腰に携えた男。




「待て!フェンリル!!」


「……あぁ?おいおいトール。俺の昔の名で呼ぶなよ。今の俺は《狼男》…だぞ?」


「兄貴!あんま近づくと危ないっすよ!」


「……あぁ、そうだな。おい重蔵。杭打っとけ」


「うっす」


そういうと重蔵は倒れているトールの背中を突き刺す。


「がぁ!」


「……悪いっすけど、あんたはしばらく動けなくさせてもらいやす。


 うちの兄貴がここまでやられたところを見たの初めてなんで……」


「おい重蔵!やられたとかいうんじゃねぇよ!」


「うっす」






そして動けなくなったトールはただただ目の前の三人を睨むしかなかった。




戦闘に立つ黒い革ジャンの男。


過去にこのオーディエンスの最強の名を持つほどの実力者にて


現メルヘニクスのNo.2.


名を犬養誠司。初代フェンリルにしてメルヘニクスにて《狼男》と名乗る男である。








長い序章は幕を下ろし不死鳥は動く決意をする。


鬼・不死鳥・魔王の三大勢力が動く決戦に向け、スカイスクレイパーは意外な答えを出す。












【……スカイスクレイパー参加者全員に通達。……新春サバイバルワールド発動】


舞台は整い、それぞれを思いを馳せ、奈落に沈んだ月は上がり始める


                 ☆


【この条約により


 春休みでもある3月28日~4月16日まで期間。《サバイバルワールド》を開催いたします。


 全てのビルの隔離を排除、外出許可なくさまざまなビルに移動が可能。


 ビルとビルの間の荒野や草原、町中も移動可能。


 このイベント中に敗北し、消滅した場合イベント期間中は参加は出来ないものとする。


 1日に現実世界に戻れる時間は1時間のみとする。衣・食・住もこの世界で過ごしてもらう。


 これを期に世界の広さを体験してみてね☆】




「……何?、このふざけた文章?」


あたし、葵刹那は遅れてきてこの文章を読む。


この場にはリムバレッドのメンバー全員。


みんなが立って一人の男を見つめる。そう、座ったまま俯いている。


「本当……」


「でも、確かに面白そうだよね?ねぇ?晴嵐」


「……あぁ」




「んで、俺達を呼んだ理由を話せ。晴嵐」


飛来が冷めた目で晴嵐を見ながら言う。


その言葉を聞いた晴嵐は、何か覚悟をしたような目をして立ち上がる。


「聞いてくれ!みんな!


 ……蛍原恵子を陥れた『マンモン』に……俺は会った」


「ッ!?本当か晴嵐!?」


「あぁ、まあスカイスクレイパー内でじゃなくて、プライベートでだけどな」


「はぁ?あんたここじゃないところであって相手がマンモンってわかったの?」


「あぁ、俺もそんな気が前々からしてたし、本人がそういってた……」


晴嵐は少し言いづらそうな悲しい顔をする。


「それで……だ。そのマンモンの正体を言うぞ。


 ……い、言うぞ。本当に言うぞ!!」


「何一人で緊張してんだぁ?晴嵐」


「何か私たちに言いにくいことなのですか?」


晴嵐はなんとも言えない顔で困っていた。


マンモンの正体ってそんなに言いにくいことなのかしら?


一度深呼吸して、晴嵐は私たちの顔を見る。


「……マンモンの正体は、黒金寧々だ」


「「「「「「…………は?」」」」」」


あたしも含めて全員が口がふさがらなかった。


晴嵐は何を言っているの?全然話が見えてこない。


けれど、彼の顔は冗談を言っているようではなくて、そう……真剣な顔だった。


あたし達に説教垂れたときの、真剣な顔だった。


「本当……なの?」


あたしは思わず聞き返してしまう。


「あぁ、刹那……。最近先輩、学校来てるか?」


「え、えぇ。見るわよ休むことが多くなったけど、ちゃんと……。


 だからあんたの言ってることはわけがわからないのよ」


「……先輩は、《二重人格者》なんだよ」


その場にいた晴嵐を除いた全員が驚いていた。


つ、つまり……寧々の二重人格の方がマンモン……ってことなの?




「……ふざけんなよ」


そのとき、ぼそりの声が聞こえた。


その声の主は晴嵐の方に歩いていく。秀人だ。


「おいッ!晴嵐!!ふざけんなよ!」


秀人は晴嵐の胸ぐらを掴んで彼を睨み、怒鳴りつける。


「じゃあ何かぁ?あのチビ女がマンモンで、俺は復讐相手と一緒に仲良しこよしで


 あのヘラクレスを倒したって言うのか!?


 おいッ!?あいつは!俺達を地べたに叩きつけて偉そうにしてた


 あいつは二重人格の人間だから仕方ねえって言いたいのかお前はぁ!?」


「ひ、秀人くん!落ち着いて!」


「おいッ!答えろよ晴嵐!


 それともあれか!?お前の大好きな先輩だから恵子の仇は討てないとか言うんじゃねぇだろうな!?」


「おいおい三浦、落ち着けって言ってんだろ」


「何とか言えよ!おいッ!」


「……あぁ、そうだ。


 俺達が今まで一緒にいた先輩は、否定出来ない。マンモンだ。


 俺達は、蛍原さんのためにも、先輩を……倒さなきゃいけねぇんだ……」


晴嵐の目が少し濡れてるのに気づく。


優と車田が2人を何とか引き離す。


秀人はまだ少し納得いかない様子だ。


本人もわかってるはずだ。晴嵐にぶつけても仕方ないって


それでも、自分の大事な人の人生を狂わせた人間を許せなくてその怒りの矛先がわからないんだろう。




「晴嵐……あんた、どうするつもりなの?」


「……探す。マンモンを、ちょうどいいイベントがあるしな。


 これであいつも逃げれないしな。だからお前たちに話したんだ。


 俺は、お前たちと一緒に世界を回りたい。マンモンを探して、一発ぶん殴るんだ


 そしてマンモンを狙うために狩羅たちをあんな目に合わせたメルヘニクスもぶっ潰す!」


晴嵐は自分の手に拳をぶつける。


彼が私たちを見る目はまっすぐとしてて澄んでいた。


「そういうことなら、あたしは付いていくわよ。晴嵐」


「刹那……」


「当たり前でしょ?


 ってかそもそもこの組織はあんたのための組織よ?


 みんな、あたしと同じ意見のはずだけど。ねぇ?みんな」


あたしが残りの5人のほうを見る。


全員あたしと目があったときに頷く。


秀人だけ少し恥ずかしそうだったけど、さっき起こった矢先だからかな。




「ほら、これがあんたの部下よ。晴嵐」


「あぁ……ありがとう、みんな。


 あのメルヘニクスに本気で喧嘩を挑む形になると思う。どいつもこいつも化け物だと思う。


 でも、俺達ならきっと負けることはないはずだ。それだけは……なんとなく言える」


晴嵐の言葉に全員が頷く。




「なら、早速狩羅達にも報告だ。俺達が外に出るってことを行っておかねぇとな」


そういうと晴嵐は立ち上がる。


彼が外に向かって歩いていくと、みんな自然と彼の後ろを歩いた。




あたしはただそれを眺めていた。


一番先頭の晴嵐の背を見る。何か覚悟を背負った男の背中だ。


「……あんたなりに、悩んだ結果なのよね」


あたしは思わず独り言を漏らす。


見てみると、晴嵐の左側には飛来がいたが、右側には誰もいなかった。


優も、車田も、アンさんも、秀人も誰もそこに行こうとしない。


「……あれ?おい、刹那、どうした?」


「えっ?」


突然止まって振り返った晴嵐がこっちを見る。


声をかけられるなんて思ってなかったあたしはきょとんとする。


それに対して晴嵐はさらに首をかしげている。


「あっ、そっか。待って今いく」


そういってあたしは慌てて小走りで晴嵐の元へ行く。そう、彼の右側へ




「なんであたしが来てないことわかったの?」


あたしは右後ろから晴嵐に話しかけてみる。


「ん?なんつーか。気配か?いっつも


 刹那は俺の横にいてくれてるからな。いないとちょっと違和感があった」


「……っ/////」








「ああいうこと言うから晴嵐は……」


「清五郎の横にはいつも私がいます」


「何対抗してんだお前は」


「俺がいないことには気づかないのにな。晴嵐の奴、気配ってのは嘘だな」


「おっ、飛来いつの間に後ろに」


「空気を呼んでちょっと下がってみたんだが」


「それぐれぇあいつらの絆ってのは熱いんだよ」


「清五郎、多分絆とは違うかと」


「あぁ?そうなのか?」


「えっ?もしかして車田くん知らないの??」


「えっ?優までどした??」


「お前……そんなんでこんな美人捕まえてるとかずりぃだろ……」


「そんなんってどゆことだ三浦!?おめぇだって美人の許嫁がいるじゃねぇか!」


「清五郎、だれを美人って?」


「おいっ!そこ怒るとこじゃねぇだろ!いってぇ!背中抓るな!」




「まぁ、あの2人には僕ら以上の絆があるのは、間違いないけどね」




みんなの声がしたのに気づいてあたしは振り返る。


何5人で楽しそうにしてるんだろ。


「おーい!みんな早くこっちきなよぉー」


「「「「「へーい」」」」」


あたしの呼びかけにみんなが答えた。


ふと晴嵐の顔を見てみると、彼は晴れたような笑顔だった。





--------------------------------------------------------------------------------







「なるほど、来る相手に喧嘩すんじゃなくて、こっちから乗り込むのか」


「あぁ、あいつらの目的がアンデルセンの宝なら、それの入手を食い止めたほうがいい。


 ここにいる白雪でわかってる通りあいつらは強すぎる。その上武器まで持たれちゃまずいだろ?」


俺は、狩羅に対して自分の考えを口にした。


俺は知っている。アンデルセンの宝の威力を


黄鉄さんが使った《12の伝説》あれを装備した瞬間の黄鉄さんは本当に化け物だった。


今更勝てたのが奇跡だなと我ながら感嘆する。


「確かにな……これからわけわかんねぇイベントも始まることだし、いいんじゃねぇのか?」


狩羅はそう言ってくれる。


身体の傷がもうないみたいだけど、あまり動きたくないみたいだ。


「ってぇことは守備はこっちがやるってことになるのかな?」


「姉ちゃん!このビルのことは俺に任せとけ!」


龍二は元気よく返事してくれる。


こいつのこのバカさ加減はこういう時に空気を作ってくれて助かる。




「そういうことなら、俺の出番か?」


「……シャドー?」


そのとき、一緒にいた千恵ちゃんの後ろから


長身のスーツ男が現れる。その頭には帽子を被った男だ。


「俺は、この姫さまの影だ。


 この子の影は、能力上地獄と繋がってる。


 出てくるゾンビたちはまさにそれだ。俺もその一人だ」


「じ、地獄……」


俺はその言葉に息を飲んだ。


確かに千恵ちゃんの影から出てくる奴らおっかねぇもんなぁーあれは地獄の死者だわ。


「それで?だからなぜお前の出番になるというんだ?」


すると、飛来がシャドー疑問を投げかける。






「それはだな。外に出ればわかる――――――――」






そして俺達はビルの外に出る。


シャドーが少し前に立つ。不思議なことにシャドーと千恵ちゃんの影は繋がっていた。


「顕現せよ!ナグルファル!」


シャドーがそう叫ぶと、シャドーの影が彼の前で大きく広がり


そこから何やら不気味な船が現れる。これじゃあまるで幽霊船じゃねぇか。


「移動するならこの船を使うといい。


 姫さまの腕に関してはもうこっちの世界では完治するのに時間がかかる。


 貴様に付いていくのは不可能だ。せめてこれぐらいの手助けはさせてやってくれ」


シャドーがそういう。


こいつはこいつで千恵ちゃんを慕ってるってことでいいのかな?


「ほぉ、いいじゃねぇ!おいシャドー。この船の動力はどうなってんだ?」


「一応幽霊みてぇなもんだからな、陸でも動けるぞ」


「ほぉ……。だがデザインが問題だな。内部は?」


「……済まないがあまりきれいなもんじゃあねぇな」


「よしっ!俺が生活できるレベルまで改造してやる!アン!手伝え!!」


「わかりました」


「俺も手伝うぞ車田」


そういって車田・アンさん・飛来の3人は早速船に乗り込んでいった。




「イベントが始まるのって2日後だっけ?」


「それまでの食糧調達を俺達でやるか」


「そうとなれば正純さんに助けを乞おう。あの人金持ちだから」


そういって優と三浦が話してくれてる。




「あんたはどうすんの?晴嵐」


「あぁー俺は、前から考えてたことをしようと思う。


 狩羅、赤井ってまだ帰ってないか??」


「あぁ?あいつは帰っちまったが、ロキとジャックランタンが残ってるぞ?」


「なら、2人に伝えておいてくれ闇夜のサーカス団、団長赤井にメルヘニクスに付いてのことと


 これからのことを話したい。後オーディエンスのおっさんと正純、後は蛍原さんにも話さないと


 それに、お前にも聞いてもらう必要があるんだ。狩羅」


「あぁ?俺にもか?」




「晴嵐?あんた何を考えてるの??」


刹那が俺に問いかけてくる。


彼女が疑問に思うのも無理はない。


俺が今並べた名前は、どいつも一つの組織を取り仕切っている人間だ。




「あぁ、ちょっと…………どでかいことをな」


俺は心に秘めていた野望を燃え滾らせ、にやりと笑った。







--------------------------------------------------------------------------------







一方同時刻。




「ご無沙汰じゃねぇか……太陽」


「そうだね。また凶暴さが際立ったんじゃないのかい?桃李くん」




独りの男が、メルヘクスの本拠地であるビルを訪ねていた。


彼を10人の男女が見つめる。


「君に……話が合ってきたんだ」


男は、元メルヘニクスの一人。


童話作家イソップの名を持つ男。北風太陽の姿がそこにはあった。


                 ☆


「君たちに話があって来た」


僕の目の前には総勢10人の過去の仲間たち。


《英雄桃太郎》逆鬼桃李


《暴君狼男》犬養誠司


《道化師ピエロ》黒沼遊太


《マーメイド》明知氷雨


《ピノキオ》木野奏詞


《ヘンゼルとグレーテル》天野勇樹と優希


《ロビンフット》影野直也


《アラジン》音無新太


《棘の眠り姫》夢路野ばら




昔は彼らと暴れまわった記憶は今も鮮明に映っている。


その真ん中にはいつも《アンデルセン》がいて、僕たちはみんな彼を慕っていた。


「それで?てめぇの用件を早く言えよ。太陽」


みんな瓦礫の上に座っていて、僕を見下すように見てくる


「寧々ちゃんを潰すって本当かい?」


「あぁ、そうだ」


「アンデルセンが作った武器を集めてるのは?」


「この世界を掴んで俺が支配する」


「そんなことをしても無駄なのはわかるだろ?


 僕たちは所詮狂った人間なんだからさ……」


「だからいいんだろが。俺達がこの世界を掴めばいい」


「……やっぱり分かり合えないね。僕は寧々ちゃんを消す考えにも賛同できないし


 この世界を自分たちの物にしようという考えにも賛同できない。それはアンデルセンも望んでいない」




「じゃ、てめぇは俺達の敵になるってことで……いいんだよなぁ?太陽?


 ここにいる10人の狂人相手にてめぇ一人でやろうってんだな?」




その瞬間だった。


空から無数の弓矢が僕に向けて飛んでくる。


僕は腕から竜巻を出して全てを矢を吹き飛ばす。


その直後に目の前に現れる犬養くん。僕は咄嗟に彼の拳を受け止める。


「っ!?」


「おいおい、流石にリンチだと勝ち目ないよぉー俺んときと違ってさぁー」


直後に背中に衝撃。


振り返るとそこにはピエロの姿。にやりと笑みを浮かべて僕の背骨を蹴る。


僕は両手を広げてその場の熱気を全て吸収する。ピエロと犬養くんの身体が凍っていく。


警戒した2人は咄嗟に僕の傍から離れる。


後ろから殺気。直後に砂の嵐が僕を襲う。この攻撃……アラジンか!


風で一気に砂を吹き飛ばし、腕から炎を噴出させ、アラジンの前に。


「まずは一人目!」


「っ!?」


僕はアラジンの目の前に腕を構える。


彼の顔めがけての熱気砲の発射。これは確実に決まった!


「っ!?」


僕の目の前で倒れるアラジン。


けれどその直後に僕の動きが封じられる。


「ナイスだ。ピノキオ、一瞬でもこいつの動きを封じれれば我らの出番だ」


僕の影から現れる無数の矢。


それが僕の背中を貫く。


「ごめんね太陽くん。あんたもうちの弟を知ってる重要人だからさ♪」


「……氷雨さん!」


前に現れる氷雨さんが腕にまとった水で僕の胴体を切り裂く。


「行くよ優希!」


「えぇ!勇樹!裏切り物に鉄槌を!」


「っ!?」


ヘンゼルとグレーテルのコンビネーションのあったダブルラリアットが僕の首に決まる。


意識が一気に飛びそうになる……でも!


体内に閉じ込めた熱気を一気に放出。小爆発を起こして近くにいた者たちを吹き飛ばす。




その途中でヘンゼルの腕を掴んで地面に叩きつける。


自分で風を操り、背中に刺さった矢を引き抜き、風の流れに乗せて相手に向けて吹き飛ばす。


氷雨さんが水でバリアを作って僕の放った矢を止める。


僕はそれを確認してすぐ後ろを振り返る。案の上そこにはピエロの姿。


僕は彼の腕を掴む。これで奴がテレポートを使っても逃げられない。


「おいおいマジかよ!」


僕はピエロの腕を凍らせる。


僕は腕を掴んでいない方の腕を後ろに伸ばし、熱気砲を放つ。


そこには犬養くんの姿。


「ちっ!」


犬養くんに向けて放たれた熱気砲が突然ゆっくりとスピードを落とす。


そんな間に彼はその場から離れる。元のスピードになった熱気砲は誰も捕らえることなく消滅する。


「っ!?」


その瞬間殺気がして僕はピエロから手を離す。


僕の腕があったところに、糸が見えた。


「おしいな……。あのまま掴んでてくれたら君の腕を切断出来たのに」


ぼそっと聞こえるピノキオの声。


「おいおいピノキオ。助けるならもうちょっと早く助けてくれよ。おかげで右腕が凍っちゃったよ」


「凍っただけならあとで解凍できるよ」




2人が話している。


そんな間にも、僕に対してグレーテルが攻撃を仕掛けてくる。


「よくも勇樹を!」


人の二倍の攻撃力のかかと落としが僕の腕の骨を軋ませる。


僕はもう片方の手で熱気砲を放つ。危険に感じたグレーテルはすぐに逃げる。


今のは腕にかなりダメージが……。


僕を休ませることなく、今度は水の球体に閉じ込められる。


僕は熱気を発動させ全てを蒸発させる。


「ありゃ、あたしとあんたは相性最悪だわ」


「そうだね氷雨さん。今からでも遅くない。晴嵐くんの姉として君はこっち側に付くべきだ」


「それが出来ないんだよねぇー♪生憎ながら♪」


その瞬間だった。


僕の背中に何かが貫通する。


ロビンフットの矢じゃない。長くて、太い……白色の剣。


「……どうして君が」


剣が僕の身体から元の所に戻っていく。


振り返った先には……僕も知っている少年の姿。


「すみません。太陽さん、これが僕の選択です」




「っ!?ピノキオぉ!君は一体!何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


僕は思わず彼に向かって怒鳴った。


彼にしか出来ないはずだ!こんなことをするのは!彼にしか!


「僕は何もしてないさ。


 最初に一回洗脳させてもらっただけで、今の彼には洗脳も何もしちゃいない。彼の選択だよ」


そんなことを言っている間に僕に向けてまっすぐ伸びた剣が襲ってくる。


僕はそれを何とか避ける。


「孝明くん!考え直すんだ!」


そう、僕の目の前にいるのは聖孝明くん。


今回の事件の中心でもある黒金寧々ちゃんといつも一緒にいた少年だ。




「……仲間相手で手を抜いたな、それが敗北に繋がるんだよ。太陽!」


「っ!?」


いつの間にか僕の目の前にテレポートしていたピエロに腹部を殴られる。


前のめりになる僕。そんな僕の頭上をさらにかかと落としで叩きつける。


僕は凍っている地面に頭をぶつけて倒れる。僕の頭をピエロが踏みつける。


そして僕の四肢にロビンフットの矢だと思われるものが突き刺さる。




「大丈夫?勇樹?」


「あぁ、なんとかね。君こそ大丈夫かい?」


「えぇ、私は貴方がいればそれで大丈夫なの勇樹」


どうやらヘンデルは倒せなかったみたいだ。


「……ダメだ、アラジンが光ってやがる。これは消えるな」




「そんなことよりさぁ?まあ褒めてやってもいいよ?僕ら相手に一人倒せた事実にさぁ!」


ピエロが僕を踏みつける。




「流石は《災害》とまで言わしめた男なだけあるな太陽。


 実力ならアンデルセンや俺にも匹敵するお前の実力は認める。


 だからこそてめぇは生半可に放っておくわけにはいかねぇ、もう一度聞く。


 俺達に協力するか。このまま俺に斬られるか……選べ、そこのメガネのようにな」


僕は地面に抑えつけられながら孝明くんを見る。


彼は僕と眼が合ってもその冷静な目を反らすことはなかった。




「桃李くんさ。


 僕、今から面白いことを話すけどいいかい?」


「……笑い話は嫌いだ俺は」


「そういわずにさ。遺言だと思って聞いてくれよ。


 君たちが苦戦した僕を、君たちは《強者》と言ってくれるんだね。


 野ばらちゃんは寝てるけど、桃李くんを除いた9人と僕はここまで闘ったんだ。


 君たちは9人でやっと僕を抑えつけたわけだ。だから教えてあげようと思ってね……」


「……何をだ?」




「君たちがここまで苦戦した厄介な災害を、たった一人で止めた男を僕は知っている。


 君たちは僕を警戒している暇があるなら、その小さな芽を潰しておくんだったね……


 彼らはきっと僕よりも大きい災害となって、弾丸のように君たちを襲うだろう。だから!!」




「ちょ、なんか寒くない?」


氷雨さんがそんな言葉を口にする。


「ねぇ?ピエロ……。君が育てたアン・ヴィクトリア。彼女も元気にやってるよ」


僕は頭に乗ったピエロの脚を無理やりどかして、矢が刺さっているのもお構いなしに立ち上がる。


そして目の前でテンパっているピエロの顔面に拳をたたき込む。


熱気砲を発射しようとしたらすぐにテレポートで逃げられてしまった。


「僕はここで最後の悪あがきをさせてもらう!


 これから進もうとしている新しい者達を過去が脚を引っ張っちゃあいけない!!」






「……わかった。てめぇら下がってろ。


 ここまでボロボロなんだ、俺一人で充分だろ」


目の前に桃李くんが立ちはだかる。


「叢雲とてめぇとじゃあ相性が悪いからな。勝負は控えてたが


 最後は俺が倒さねえとしまり悪いだろ?お互いにもなぁ?」


「そうだね……」




そして、僕と桃李くんの戦闘が始まった。




傷だらけなのもあったけれど、僕は必死に戦った。


もう意識なんてない。無意識に身体が動いて闘っていた。






「てめぇは本当に強いさ太陽。先に進もうとしてんだからな。


 だがなぁ、俺達にはそれが出来ねえんだ。だから、俺達はあの女を潰すんだよ」




倒れている僕。


僕に背を向けてそういってくる桃李くん


「てめぇが言ってた弾丸ってのも、俺達はぶっ潰すだろ。


 せいぜいそいつらに期待でもするんだな。イソップ……。


 おい、今殺したらイベント期間中に来る可能性がある。2日間幽閉させてから殺せ」




桃李くんがそういっているのが聞こえる。


そうか……僕はこのまま消滅もさせてくれないのか。


ボロボロの身体で体力が尽きた僕は、そのまま瞳を閉じた。











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2日後。


「っしゃー!シャイニング・ストーム号!出航だぁー!!」


「晴嵐、相変わらずネーミングセンス……」


「おい、この船にはもともとナグルファルと言う名が」




「んなこたぁ!どうでもいい!出航だぁー!!!」








リムバレッドの長い長い旅が、始まる。



To Be Contined...........

今回の話は色んな人が負けていってしまいました。


そして特別ルールにより、晴嵐達はメルヘニクス、

そしてマンモン黒金寧々を追って旅を始めます。闘いは本格的に始まってきました。

どうかこれからもご贔屓お願い申し上げますm(__)m

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