第5章~ヘラクレスの童戦祭・後編~
ってなわけで童戦祭編最終章です。
これはもう全てVS.ヘラクレスでお送りします。
お楽しみください♪♪
『さあさあ!三日も始まり!大盛り上りのこのビル特設コロシアム!
モニターじゃなくて、みんなが外で見れる仕様の舞台となってるよぉー♪♪』
ジャックランタンの言葉で歓声が上がる。
本当、マンガとかで出てきそうなコロシアムだ。
「このコロシアムの回りにあるオブジェ…」
「それがどうしたんすか?」
俺は先輩に言われて辺りを見渡す。
まるで時計の時間のように均等な距離にならんでる十二個のオブジェ
ライオン、蛇、三つ首の犬…ほかにも沢山。関係性がわかんねぇ…。
「あれはヘラクレスの十二の功業だろ?」
すると今度は車田が言ってきた。
え?わかってないのって俺だけ?
「いや、俺も全部が全部何かまでは知らないんだがな…狩羅なら知ってんじゃねえか?」
「ってなわけで!狩羅さん!是非俺にご教授を!」
気になった俺は狩羅に頭を下げて頼んでみる。
「はぁ…。知っても意味ねぇぞ?
ヘラクレスの12の功業。ヘラクレスが起こした功績や事件を言うんだよ。
《ネメアーの獅子》《レルネーのヒュドラ》《地獄の番犬ケルベロス》などがある。
どれもこれも神話の凄さを語るには申し分ない話だ」
端的に語ってくれる狩羅。
なるほど…今度図書館にでも行って読んでみようかな。
『なお♪このコロシアムは絶対に壊れません!後、観客席に攻撃が届くことも絶対にないです!ほれ!』
そういうとジャックランタンが石を観客席に向けて投げる。しかし、バリアのようなものがそれを遮る。
『これはビル側が作ってるものだからたとえヘラクレスの力でも壊れないから安心してね♪♪』
『さて♪この三日目のヘラクレス攻略!のルールを説明します♪
一応クジを用意したんだけどぉー基本的に残った皆様で決めてもらいます。
何を決めるかって??それは……《ヘラクレスと闘う順番》デス☆』
「「「「「っ!?」」」」」
俺たち六人は一斉に驚く。
「なら、クジはいらん。私が一番手に行こう」
「「「「っ!?」」」」
その言葉に俺たち4人…。
さらに観客たちまでもざわざわとしだした。
「どうした?私が一番手では不服か?」
そういって先輩が俺を下から睨む。
「ふ、不満はないっすけど?いいんすか?一番手って……」
「なんだ?君は私にはあのヘラクレスが無傷な状態だったら勝てないって言いたいのか?」
「い、いえ……そういうわけじゃないっすけど」
「なら、私が一番手だ。いいな」
「おっ、一番はピクシーか…。いいねぇ、その威勢の良さ。
とても見た目小学生のチビには思えねえなぁ。無傷の俺に挑むのか?
正直、お前が六番目だったら俺に勝てたかもしれねぇぞ??」
「ふっ……私が最後だと、他の者たちに先を越されて戦えなくなるかもしれないからな。
それにこの祭りも早く終わらせたい。」
「はッ!本当に威勢がいいねぇ」
「なら、二番手は俺だな」
そういって名乗りを上げてきたのは……狩羅だった。
「か、狩羅さんッ!」
「言っただろう龍二。俺はお膳立てしかしねぇ。だからこれでいい……」
「…ッ!わかりやした!なら俺は三番に行く!」
「「「ッ!?」」」
俺たち残った三人またも驚く。
どうしてそんなポンポンと順番出来るんだよ!
俺が悩んでる間に三番まで決まっちまったよ。
「なら、俺が四番行こうかなぁー」
「ジャ……じゃなかった三浦お前もか!?」
「晴嵐。こういうのは、早めに決めといたほうが勝ちだぜ?」
「じゃ、俺五番な」
「あぁ!?車田まで!?」
俺がグダグダしている間に、みんながポンポンと順番を言ってしまって、なんか俺が駄々こねれない状況に…。
『ってなわけで!!順番が決まったよぉー!
一番。黒金寧々!二番。蛇道狩羅!三番。葵龍二!四番。三浦秀人!五番。車田清五郎!
そしてラストを飾るのは明知晴嵐という順番になりましたぁ!この中でヘラクレスを倒すモノが現れるのか!?』
観客たちがアドレナリン全開で歓声を上げる。
俺たちは、この観客たちを超えてこの場に立っているのか。
「晴嵐。俺はどっかで期待してるぜ」
「俺もっ。おめぇに期待してるから、先に順番をもらった」
「えっ?」
よくわからないことをいいながら、車田と三浦は俺の肩を叩いて先に部屋に戻った。
「おら、ぼーっとしてんな。これからてめぇらのリーダーが勝負すんだ。邪魔してんじゃねぇよ」
狩羅にそう言われる。そ、そうだった!俺も控え室に向かわないと!」
先輩と俺を除いた4人を追うように俺も控え室に向かって小走りをする。
「あっ!先輩!」
俺は思い出したように先輩の方を見て言葉を放つ。
振り返る先輩。
「…頑張ってください!」
「あぁ…。ここで終わらす。無理でも、きちんとバトンを回すとしよう」
そういうと先輩は俺に背中を見せる。
その先輩は、俺よりも20cm以上も小さいはずなのに、どこか頼もしくて……あぁ、これが先輩なんだなって思った。
そして俺が控え室に入る。
『さあさあ!それでは第一試合!!ヘラクレスVSピクシー!開始するよぉー!』
ゴングが鳴り響く。
「行くぞッ!ゴーレム!」
先輩がいきなりゴーレムを召喚する。
あれ、少しサイズが小さい?
「さらに行くぞ!」
そういうと、なんと先輩が乗ったゴーレムの後ろにさらに二体のゴーレム。さ、三体!?
「ほぉ…面白いことしてきたじゃないか。」
「最初から本気で行く」
ゴーレム三体が先輩の号令でヘラクレスに挑む。
「確かに三体のゴーレムは驚異だな…俺以外が相手のときならな!」
そういうと一番先頭にいたゴーレムのパンチを己の拳で相殺する。
その瞬間だった。ゴーレムの腕に皸が入る。
「くッ!」
先輩は急いでその場から逃げて他のゴーレムに乗り移る。
ヘラクレスの拳でゴーレムの腕が破壊された!?
「しかし!私のゴーレムは再生する!」
破壊された腕が回りの岩を集めて修復される。
不死身の三体のゴーレム……。流石に黄鉄さんでもやばいんじゃ。
「へッ!そうこなくっちゃな!」
そういうと黄鉄さんは大きくジャンプした。
するとゴーレムの心臓部分に大きく拳を放つ。
粉々になるゴーレム。そのゴーレムを確認した黄鉄さんは、接近してくる後ろにいたゴーレムに裏拳。
粉々にならないまでもその腹部に巨大なクレーター。そこに飛び移ったヘラクレスさんはそこから
三体目のゴーレムの頭上まで飛ぶ。するとゴーレムの頭めがけて思いっきり頭突き。
蹴り押された二体目と頭突きをされた三体目がよろけて倒れる。
そして宙から着地するヘラクレス。
わずか数秒で、先輩のゴーレム一体を粉々、二体を地面に臥させた…!
「それよりも驚くところがあるだろう?」
「えっ…?あっ」
俺、あんなに動くヘラクレスさんを始めてみたかもしれない。
そこまでさせる先輩の強さなのか?
「ピクシーの強さもあるだろうが、ヘラクレスが今回本気だってことも意味するぞ?」
「……ッ!」
そう聞くと俺はゾクっときてしまった。
「くッ!シューティング・メテオ!!」
先輩は一瞬で三体のゴーレムを解体。
その岩をまるでミサイルのようにヘラクレスにぶつける。
「くそッ!」
ヘラクレスは頭を守るように腕をクロスさせ、そのミサイル攻撃を受け止めた。
数十秒に渡る岩のミサイル。あれを喰らったらまともな奴は立てねえぞ!?
「…はぁー。流石に今のは聞いたぜ」
しかし。黄鉄さんは身体中傷だらけだが、なんともないかのように立っていた。
「さあ……こっちも行くぜぇー!」
すると黄鉄は地面に向けてパンチを繰り出す。来た…。
地面がビキビキと割れる。地割れを引き起こしてる!!
「宙に受ける私に地割れは意味ないですよ!!」
空を飛んだ先輩は巨大な岩塊を浮かせて、それを黄鉄さんに叩きつける。
しかし、黄鉄さんもそれを殴り、砕く。砕いた岩を一つ掴んでそれを先輩にめがけて投げる。
「ッ!?」
破壊された岩塊のせいで視界に入らなかったのか、突如飛んできた岩に対処出来なかった先輩。
ヘラクレスのパワーで投げられた岩は、先輩の頭に直撃した。
「先輩ッ!!!」
俺は思わず叫んでしまう。
能力が切れて落下していく先輩。やばい!このままじゃあ地割れで出来た溝に落ちる!
「うッ!」
寸前で意識を取り戻して能力で止まる先輩。
「結構本気で投げたんだがな?効かなかったか?」
「いや…効きすぎだ。ただの岩がどうやったらあんな弾丸みたいな破壊力を生み出すんだ。
能力でなんとか抑えたのに打った頭から血が出て止まらない…」
「そうか…ならもう一発くれてやる!」
そういって黄鉄さんが岩を投げる。確かに弾丸級の速さだ。
あの大きさであのスピード…当たったのを想像しただけで目を背けたくなる。
飛んできた岩を先輩は能力で食い止める。そして先輩は両腕に巨大な岩の集まりを纏わせる。
「ほぉ…俺相手に近距離戦か。いいねぇ!!」
先輩がまとった岩を盾とし、矛とし、あの黄鉄さんと戦っている。
「…てめぇ。何を企んでる?」
「なんのことだ?私は今も必死にお前と殴り合っているだけだが?」
「目が俺を見てねぇんだよ!!」
先輩と黄鉄さんが何か話していると思ったら先輩の身体に黄鉄さんの拳が当たる。
物凄いスピードでぶっ飛んでいく先輩。
コロシアムの壁に激突する先輩。
「先輩ッ!先輩ッ!!」
壁にぶつかった先輩はぐったりと倒れ、身体中から血が流れていた。
俺みたいな丈夫な能力じゃない人がまともに黄鉄さんの拳当てられたら…。
「はぁ…うッ」
先輩の口から血反吐が吐かれる。
俺は思わず目を背けてしまう。先輩がここまでボロボロなの…初めてみた。
いつも…劣勢でも先輩は勝つとどこか信じていたけど
今回ばかりは先輩が弱りきってる。
「ピクシー。てめぇの攻撃はだいぶ効いたぜ。お世辞抜きで最後にてめぇだったら俺は負けてたかもな。
ほら、一人目だってのにこんなにボロボロだ。あぁー頭いてぇ…」
黄鉄さんが先輩の前に立つ。もう弱って動けないのに!!止めを刺すつもりか!?
俺は思わず黄鉄さんに暴言を吐こうとしてしまった「やめろ!」と…。けれど、それを狩羅が止める。
「しっかり見とけ、てめぇんとこの大将は。お前以上に根性のある女だ」
「…ヘラクレス。やはり貴方には私は勝てません。
アンデルセンでも勝てない貴方だ。私では無理だ。『私だけ』……ではな」
すると先輩は弱々しく手を上げる。
「だか、ら。私は一番手を名乗り上げた。皆が、バトンを繋げれるように。
仲間の誰かが貴方を倒すためのバトンを繋ぎやすくするために!私は……!貴方に挑んだ!!」
先輩が黄鉄さんを睨む。その目は……決意がこもっていた。
「私は、この歳でいうのはなんだが…このビルでは老害だ。貴方の次に長くいるだろう。
そして今、若い新人たちが力を付け、貴方を越えようとしている!
私は!その者たちの未来につなげる!『デッド・フューチャー』!」
先輩は怒鳴るようにそう叫ぶ。
「な、なんだ?この音?」
「え?どっから」
「お、おいッ!なんだあれ!?」
観客たちが騒ぐ。俺たちも慌てて空を見る。
なんだあれ…隕石?
「ちッ!」
「逃がさないぞ!」
「ッ!?おいおい……」
「これで消えないのはわかってますよ黄鉄さんでも、これで勝機が見える」
先輩は能力で黄鉄さんを縛る。
防ぐ構えも出来ないヘラクレスに、大量の隕石が落下していく。
「後は……頼んだぞ……みんな」
先輩は最後に俺を見て言って、倒れていく。
「はぁ…はぁ…」
隕石が落ち終わり、ボロボロながらも今だに立つ黄鉄さん。
『勝者!本郷黄鉄!あの最強のピクシーも神の子には一歩及ばなかったかぁー!』
実況が流れる。全員、絶句していた。
「わかってんだろうなぁ?てめぇら?」
狩羅がどこを見ているわけでもなくただいう。
俺たちは狩羅の言葉に、無言を返事をした。
その目には、決意しかなかった。
そして、狩羅が控え室から去る。
二戦目、ヘラクレスVSバジリスクの闘いが始まる。
☆
おかしいな。
俺は、極悪非道で手段を選ばず、気に食わないやつは潰すようなクズ野郎だったはずだ。
なのに、なんで俺が出てきて……歓声が沸き起こる?
『さあさあ!ピクシーの猛攻での歓声が止まない中!!
続いての挑戦者の登場だ!!ビル組織《蛇》のボス!!知略を巡る戦闘スタイルはヘラクレスに届くのか!?』
ジャックランタンが適当なこと言って盛り上げてくれるが…。
「へっ、てめぇとも長い付き合いだな。狩羅」
「そうだなぁ、強すぎて目障りだった」
「はっ!そういうなよ!!俺はおめぇのこともどっか気に入ってたんだぜ?
俺にはない闘い方だ!賢い!!勝てない相手には逃げると言う手段を使えるやつだ。
本来はそれが正しいはずなのに、それが出来る強者は少ない…」
そう言って煽ててくるヘラクレス。
俺はそれを細い目をして、にらみ付ける。
今の奴はピクシーとの戦闘で確かにダメージがある。
けれど………俺みたいな奴はあいつに一発拳を当てられただけで負けちまう。
「なのに……なんでこんな場所立ってんだろうなぁ」
「?何か言ったか??」
「いや…蛇は表舞台に立つべきじゃねぇなって思っただけだよ」
その瞬間。俺は姿を消す。
《透明蜥蜴》…俺の能力だ。あらゆる者を透明化させる。ただそれだけの能力。
「おっ?消えちまったか…仕方ねぇ!!!」
地面をぶん殴るヘラクレス。
また地面に皸が入る。ピクシーみたいに浮くことの出来ない俺は慌てて逃げる。
「……その辺か?」
するとヘラクレスは何かを察していきなりこっちに向けてダッシュしてくる。
やっぱり気配で感づかれたか!?
「………ん?」
殴った先に、謎の壁。
ヘラクレスは困惑している。
「……ッ!?」
その時、奴の足元に痛みが走る。
2、3匹の蛇がヘラクレスの足を噛んでいるからだ。
さらに彼の頭上から一匹こちらに飛んでくる。
ヘラクレスはそれを払いのけるが、さらに背後から飛んでくる蛇に首根っこを噛まれる。
「……くそッ!!」
噛んでくる蛇全員を払いのける。
蛇たちが倒れていく、払いのけられた威力でもう動けそうにない。
「…そこぉ!!!」
急にこちらに気づいたヘラクレスは拳を放ってくる。
ただ拳を振るっただけ、それなのに突風が俺に襲い掛かり俺はそのまま吹っ飛ばされる。
「…くッ!!」
「やっぱりそこに隠れてたか…狩羅ぁ」
壁に衝突した俺。は能力での透明化が解けて姿を現す。
あぁーやっべ…今のでもうずたぼろだ。動けねえ…。
つくづく龍二や晴嵐のようなタフさがほしいと思うぜ……。
俺はなんとか起き上がる。
普通の人間は、壁に思いっきりぶつかるだけでふらふらになる。
それどころかヘラクレスみたいな馬鹿力相手だったら一発だけで死んじまう。
「だから、俺は…できることをやる」
そして俺は大きく息を吸う。
「いいかぁ!観客席で見てる野郎共!
そして俺の後に控えてる野郎共!!てめぇらは俺よりも強い!!
……恐らく俺はこれから奴に瞬殺される!みっともねぇところを見せる!!
だがよく見ておけ!!人間勝てないとわかった相手には……『足掻かない』といけねぇってところをな!!」
俺は大量の蛇を一斉にジャンプさせてヘラクレスに向けて突進させる
俺は一本のナイフを取り出す。
「おぉぉぉぉぉ!!!!」
蛇の攻撃で一瞬目と閉じるヘラクレス。今だ!俺は透明化する。
「ちッ……!!!」
透明になった俺を探すために当たりを見渡すヘラクレス。
しかし彼の視界を蛇共が遮る。
「てめぇが付けた!傷!!利用させてもらうぜピクシー!!!」
俺はナイフでヘラクレスの横っ腹についていた切り傷をえぐるようにナイフで刺す。
「うッ……」
「恐らくただのナイフじゃあてめぇの筋肉に止められて刺しきれないだろうからな。利用させてもらったぜピクシー」
そして俺は服の袖から蛇を飛び出させる。奴の傷口めがけて。
蛇が血を吸うようにその傷口を噛む。
「てめぇ!!!」
俺はそのままヘラクレスに成すすべもないままぶん殴られた。
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「狩羅さん!!!」
観客席で叫ぶメアリーちゃん。
たった今、狩羅さんがヘラクレスに殴られてぶっ飛ばされた。
『…………気を失っています!
蛇道狩羅選手!ヘラクレス選手の一撃で沈んでしまいました!!
強い!ヘラクレスの強さはここまで来てしまったのか!あの狩羅が赤子のようでした!!』
あまりに呆気ないやられ方。
これには流石に観客たちも静まり返ってしまう。
でも……あの人はちゃんと足掻いている。
「ちッ!邪魔だぁ!!」
ヘラクレスが身体を揺さぶる。
蛇たちが……まだ噛んでいるのだ。
ヘラクレスに引きちぎられるまで……必死に噛んでいるのだ。
一匹。また一匹と引っ張られてヘラクレスの肉を剥ぎ、叩きつけられて死んでいく。
その蛇の行動が、狩羅さんの言っていた『足掻き』な気がして…俺は思わず涙を流した。
貴方らしい闘い方じゃないっすか…狩羅さん。
「わ、わたし!行かないと!!」
彼の元へ駆けつけようとするメアリーちゃん。
俺がそれを静止する。
「古田さん!なんで止めるんですか!?」
「もぉ…行ってくれてるよ」
俺の言葉を聞いたメアリーちゃんが観客席を見る。
既に龍二が狩羅さんの元へ行き、肩を抱いて歩いていた。
「君は先に医務室にいるべきだ。ピクシーの治療も完璧じゃないんだから」
「……ハイッ!!」
メアリーちゃんは目に涙を溜めて去っていった。
「意外と優しいんですね」
「ん?そうでもないさ」
美鳥ちゃんが沈黙阻止のために話しかけてきてくれる。
けれどその目は何かを教えられたかのように、倒れている狩羅さんを見つめていた。
全員そうだ。呆気なさすぎてシラケたんじゃない。全員が生唾飲んで、狩羅さんの闘う様に感心したんだ。
俺は……狩羅さんとの闘いでもうちょっと『足掻く』ことが出来たんだろうか…。
狩羅さんと闘った俺以外の奴らは、もうちょっと足掻けば狩羅さんを倒し、自分があそこに立っていたんじゃないか?
足掻いても勝てないかもしれない。けれど…あそこに立った六人ってのは…必死に足掻いた奴らだ。
弱くても、卑しくても、必死になって足掻き続けた。これが…蛇道狩羅と言う男のスタイルか。
本当は誰よりもヘラクレスに勝ち目のない人なのに。
ここにいる能力者誰よりも弱いはずだ。彼は透明になれるだけで肉体の強化はゼロ。
正直力がある一般人にも負けちまうぐらいの人が…。本当に普通の人だった彼があそこまで頑張ったんだ。
観客も全員、何かを悟らされたように黙ってしまう。
蛇道狩羅の強さを理由と……ヘラクレスの圧倒的強さを目の当たりにした。
「確実に、後の奴らに残すべきモノは残しましたよ……狩羅さん」
俺は静かに呟いた。
静まり返った会場で、その声の波紋だけはひっそりと響き渡った。
「狩羅……すげぇなあいつ…」
「あぁ、うちのボスだからな。すげぇだろう…」
「俺たちも、教訓になったな。俺ちょっと涙したぜ」
三浦がそういって目を拭う。
「あれが、このビルの三大長…蛇道狩羅の真髄か」
車田も言葉を続ける。
俺たちの心に確実に届いたぜ。狩羅…。
その教訓を一番心にしみさせている奴が一人いるけどな……。
「絶対に、あんたのお膳立て…無駄にはしねぇ…」
龍二の目が怖いほどに本気だ。
そういえば古田から聞いたっけ、千恵ちゃんが負けたときのこいつの顔っつったら鬼のようだったって
やべぇ…今も鬼みてぇだ……。冷静そうにしてるけど、やっぱり狩羅がやられて怒ってるのか?
『さあさあ!第三試合を開始するよぉー!!!
みんな黙ってしまったけれど、次からも盛り上がっていこう!!!!
三人目は蛇道狩羅の弟子!彼の言葉を胸に抱き、彼の弔い合戦となることが出来るか!?
三人将宿木福籠を倒したその爆発的なパワー!!ヘラクレスとどちらが上か!!《ヨルムンガルド》!葵龍二!』
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
あの狩羅の後だからだろうか。
龍二の入場は、今まで以上に歓声が上がった。
「おぅらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
龍二も負けじと雄叫びを上げる。
「…狩羅の弟子。福籠をやった奴か。
あいつの教えがよく見える。あの福籠との試合でてめぇが狩羅の意志を受け継いでるのがわかる。
さあ……てめぇも俺を楽しませろよ」
パキポキと腕を鳴らす黄鉄さん。
黄鉄さんを倒すことを許された人数……残り4人。
『それでは!!試合!開始してください!!』
そして、ゴングが鳴り響いた。
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「………ん」
「起きましたか!?狩羅さん!!」
「…あぁ、メアリーか」
「君にしては大胆な闘い方をしたな」
目が覚めてメアリーの顔を見た後。
俺の隣で寝ている小さな少女に声をかけられる。
「ピクシー…」
「以前の君なら勝てないとわかってても遠距離で逃げて闘っていたはずだが?」
「ああやったほうが、盛り上がるだろう。それに、ヘラクレス相手に小細工はむしろ意味がねぇ。
ビルが舞台ならまだしも、完全なコロシアムだ。こっそり壁を持ち込むことぐらいしか出来なかったぜ」
「…わたしたちは、きちっと彼らに繋げれただろうか。伝えれただろうか」
ピクシーが少し不安そうに言う。
こいつとも、因縁での腐れ縁だが、長い付き合いだ。性格もよくわかっている。
「なら、今からやる龍二の試合見とけ、俺たちの意志はあいつが体現してくれる」
「君がそこまで信頼しているのか?彼のことを?」
「あぁ、あいつは確かにバカだが、それゆえにスポンジみたいにいろいろ吸収していく」
「そうか。なら、楽しみだな…」
そういうとピクシーはモニターを見続けていた。
「むぅー…」
「ど、どうした?メアリー??」
メアリーがなぜかピクシーを睨んでいた。
「いえねぇ。寧々ちゃん、狩羅さんと親しげだなぁーってなんか二人だけの世界を感じたので…」
「なんだ?狩羅、もしかして私はこいつに嫉妬されているのか?」
すごく困った顔でこっちを見てくるピクシー
「狩羅さんと対等に話してる女性を見たことがないデス!」
「なぜかすごい敵意を剥き出されているんだが…」
「あぁ…放っておけ。こいつはいつもこうだ」
「そ、そうか…安心しろ。メアリー、確かに私と狩羅は敵対と言う形も含めて付き合いは長いが
それでも私のことを女と見たことは恐らくない。奴が女として見るのは恐らくお前だけだ。安心しろ」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、私と狩羅は悪友だ。そもそも奴が女に後ろを任せてるところを私はお前以外に見たことがない」
そういうとすごくキラキラした目で俺のほうを見てくる…鬱陶しいな。
「あぁー、そうだそうだ。お前が嫉妬する意味なんかどこにもねぇよ」
「狩羅さん!!」
「べふっ!!」
突然タックルしてくるメアリーまだ……身体の痛みが…。
「あぁー!狩羅さぁーん!!」
ゆ、揺らすなよ…おい……。
やばい、龍二の試合見たいんだが……また、気を失いそ―――――
そして俺はガクッとなってしまい、気を失ってしまった。
「狩羅の奴も、随分と丸くなってしまったな。
これも全てメアリーのおかげなのか……それとも」
私は、今モニターで戦っている少年の姿を見る。
彼が変身する《ヨルムンガルド》の姿は
龍と言うよりは、青くて巨大で気味の悪い蛇のようにも見える。
宿木との闘いを見たとき、狩羅が丹精込めて鍛えたのがよくわかる。
「弟子の時代……なのかもな…」
私はぼそりと呟いた。
そして、今も必死に闘う狩羅の影を物語る葵龍二の闘いを私は見続けることにした。
☆
俺はどうしようもねぇバカだった。
いや、バカなだけならまだ俺はバカだ、狩羅さんみたいに頭使った戦い方は出来ない。
けど、今はあの人のおかげでそこそこまともな人間になれていると思っている。
ただ悪に憧れていただけで、姉ちゃんに頼りっきりだったんだ。
そして千恵の存在にも甘えていた。俺がもし本当に悪になっても、二人が止めてくれる。
だから俺は姉ちゃんらに任せっきりになってたんだ。何が悪だ。一番弱かったのは俺じゃねぇか…。
見ていてくれよ狩羅さん、姉ちゃん、千恵、古田さん…俺、がんばります!」
「いくぜぇー!!」
俺は龍の姿になって突進する。
相手はあのヘラクレスだ!パワー勝負なら俺だって負けるはずはねぇ!正面勝負!!
「その心意気……よし!」
そういって、ヘラクレスは、俺の鼻部分を両手で掴む。
おいおい!龍姿の俺の突進を真正面で受け止めるやつなんて―――――。
「どっせい!!」
「っ!?」
俺の突進の勢いも利用してヘラクレスは龍の姿をした俺を思いっきり背負い投げした。
この姿の俺が返り討ちに避けられることもなく返り討ちに会うなんて……くそっ!!
俺は龍の姿から元に戻って手を龍にして伸ばす。
それをヘラクレスが抱きしめる。手のときは腕と同じ大きさだからな…。
「だけど!それがあんたの間違いだ!!」
俺は龍になっている腕を縮ませる。相手の方向に!!
俺は腕の先端に引っ張られたように飛ばされ、ヘラクレスの方向に物凄いスピードで向かう。
俺は脚を伸ばす。ヘラクレスは成すすべもないまま、俺のキックを顔面で喰らい飛ばされる。
「っしゃあ!!!」
あのヘラクレスにダウンを取った!!!
「いちち…くっそぉーこの間見たときはただのバカだと思ったんだが
福籠んときの戦いと言い…ちょっと闘いに知恵を持ちだしやがったな?」
起き上がったヘラクレスはそうやって愚痴る。
確かに昔の俺はパワーに任せっきりのバカだった。
だから初めて晴嵐と戦ったときも見切られて姉ちゃんたちが来るまでピンチだったんだ。
あいつが俺たち三人を相手にしているときに最初に潰すべき…簡単に攻略出来そうと思われて
俺は晴嵐のあのきつい一撃を喰らってしまった。俺が単純な攻撃しかしないバカだから…!!!!
だから狩羅さんに教わったんだ。知恵を、戦略を、スタイルを…!!
「狩羅さんの仇はとらせてもらうぜぇ!!」
俺は脚を一瞬龍の姿にして上空高くへ浮上。
そのままヘラクレスのほうへ近づき、大きく息を吸う。
「福籠にやったやつか!!!」
ヘラクレスはそういって、急いでバックステップ。
俺は息を吸った口を閉ざし、体を捻らせ、龍の姿となりヘラクレスを追う。
「ッ!?」
ヘラクレスの体をも飲み込んでしまいそうな巨大な龍の姿。
そして俺は口を開く。ヘラクレスは怯えた顔をして思わず高くジャンプ。
俺はそのまま口から何かを放出…。青色のエネルギーの塊。
「…福籠にやったのと違うな。なんだそのビームは…」
上空で冷や汗掻いたヘラクレスが言った言葉が俺の耳に届く。
「へへっ!俺様の最強必殺!名付けて!!『俺様ストリーム』!!!!」
「「「…………」」」
客全員がげっそりとした顔でしらける。
「やっぱり龍二は……バカだわ」
観客席にいた刹那がただ一人、そうつぶやく。
「へっ!俺様ストリームねぇ!!俺は好きだぜそういうネーミング!!!」
そういいながら落下してくるヘラクレス。決してそんな重いはずはないのに奴が着地した瞬間。
地震のように会場が揺れる。思わず俺も足をぐらついてしまう。……しまっ!完全に隙作っちまった
「おせぇ!!!」
俺が体勢を整えようとしたが間に合わず、物凄いスピードで向かってくるヘラクレスの拳を
龍にした腕で受け止めるぐらいしか出来なくて、そのまま会場の壁までぶっ飛ばされる。
なんだよ…これ!!反則だろ…。今の一発だけで瀕死になりそうだ…。
「くっそぉー…!!!」
「おっ、目が変わったな。さあ来い!狩羅の弟子!!!!」
「いくぜぇー!!」
すると俺は龍の姿になって、地面に潜る。
『おぉーっと!これは龍二選手!!とんでもない作戦に出ましたぁー!!
地面に潜ってしまうという急展開!?ヘラクレスは彼の位置を掴むことが出来るかぁー!?』
ジャックランタンも思わず目立つように実況してしまう。
へへっ、俺の作戦はただ潜るだけじゃねぇぜ!!!!!
「……ちっ!どこだ…」
必死に気配を追うヘラクレス。
「……ッ!?」
その直後だった。ヘラクレスの足場が突然割れて、彼を落とす。
「おぅらいくぜいくぜ!!」
俺は地面から飛び出す。
俺が作った穴のおかげで地盤が緩んで奴のいた場所を落とし穴にしてやった!!
俺はそのまま真下にいるヘラクレス目掛けて龍の姿になって飛び込む。
俺が空けた穴めがけて突進した俺。土煙が会場を包みこむ。
これでヘラクレスは終わり!!狩羅さんのおかげで俺の勝ち!!!」
「…ッ!?」
俺は驚いてしまう。
当たった…感触がしない!?
「てめぇの計算は少し間違い。テストなら三角だヨルムンガルド」
「ッ!?」
その直後、龍の姿の俺の胴体にとんでもねぇ痛み!!骨が砕ける音が響く。
「て、てめぇ…!!」
俺は元の姿になって、ゆっくりと倒れていく。
その視線の先にいたのは、ぴんぴんしているヘラクレス。
「てめぇが穴掘ってきたんなら、その穴に逃げりゃぁいいだけだろ?なぁ??」
にやりと笑いながら俺に言うヘラクレス。
だけど…あの短い間に俺が掘った穴を通って脱出して、俺に攻撃したってのか!?この化け物は!!
「く、くっそぉー!!!」
「おぉまだ立つか!龍を身に宿してるだけあるなぁ!!」
そういって俺を叩き潰すように拳を放ってくるヘラクレス。
俺はそれをなんとか避ける。そしてピクシーが付け、狩羅さんが抉った傷口を蹴る。
「…くっ」
やっぱり!ここを攻撃すればダメージはある!!
俺は深追いせずにバックステップで逃げる。
「おもしれぇ!どんどん来いよ!!」
ヘラクレスはそれでもヘラヘラと笑って俺を挑発してくる。
「こねぇなら……こっちがいくぜ!」
その瞬間ヘラクレスがこっちに向かってくる。
対処する方法を……俺は大きく息を吸う。
「また俺様ストリームかぁ!?」
そういうとヘラクレスは少し横に逃げる。
あれを喰らったらいくらヘラクレスでもただじゃあ済まねぇのは本人が一番わかってんだな。
だから俺がやるのは!!
「…《ポイズン・ハウリング》!!」
上を向いて放つ毒霧。
俺に向かっていたヘラクレスはこれをモロに喰らう。
それと同時に俺はもう一発ヘラクレスから思いっきり拳を喰らう。次はノーガードだ。
また会場の壁に叩きつけられる。壁に当たった瞬間意識が突き放されそうになる。
「はぁ…っ!ぼはぁっ!!ぶぇっ!」
口から何か出る。血だ…。
しかも止まらない。流れ出るように血が出てくる。
「足掻け…足掻けば、道は開ける…」
俺はふらふらになりながら立ち上がる。
「おいおい、もう限界なんじゃねぇか?その地面に流れてる血…量的にやべぇだろ」
「…うるせぇ」
あぁー駄目だ。なんにも頭に浮かばねえ。
今の衝撃で培ってきた知恵も飛んでいったかぁ?ははは、狩羅さんに怒られらぁ
「すぅーふー…すぅーふー…すぅーふー…」
何も考えず、ただ呼吸を整える。
なぜだろう。ちょっと回復した気がする。ちょっと力が漲る気がする。
『な、なんでしょう!?あれは!?龍二選手の腕に……《蒼い鱗》が!?
こ、これは…いったいどうなってしまっているんだぁー!?』
あのカボチャ野郎がなんか言ってる…。
俺の腕がなんだって?やべぇふらふらしすぎてよく聞こえねぇ
目の前にはヘラクレス。俺の口がにやりと笑った気がした。
「ッ!?」
弾丸のようなスピードで突進した俺。
ヘラクレスはそのスピードに驚いてガードの体勢をとる。
俺はそのままヘラクレスに飛びつき、思いっきりラリアットをかました。
『な、なんということでしょうか!?あ、あのヘラクレスが!!か、壁に激突!
ぶっ飛ばされて……壁に激突していきました!なんだ!あの龍二選手の力はぁ!!』
「まだまだ…だ!!」
ヘラクレスが立ち上がり、俺に向かってくる。
彼の拳を俺が受け止める。受けとめれ……た?
俺はそのままヘラクレスに拳を放つ。利いてる!?これはいける!!
俺はヘラクレスに殴打し続ける。しかし、ヘラクレスが放つ一発一発が俺の意識を引き離そうとする。
「……ふんっ!!」
そして、思いっきり奴の拳は鳩尾に入る。
あぁー駄目だ。疲れた。ふらっふらだ、あぁーなんかヘラクレス立ち上がってきてるよ。
マジで化け物だありゃ……すんません。狩羅さん、俺…あなたのお膳立てを無駄にしました…。
『おーっと!ここで龍二選手がダウン!!三人目の挑戦者!葵龍二選手もここで敗退!
立ち上がっているのはヘラクレス!しかし!彼も強者三人を相手に少しバテ気味かぁ!?』
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「さて、次は俺だな!!」
「お前…大丈夫なのかよ?」
「なんだぁ?晴嵐。もしかして俺のこと信用してねぇのか?
確かに俺は弱い。いつもてめぇに負けてばっかだしな。だけど……今回はちょっと違うぜ?
まあ、瞬殺はされちまうだろうから、車田……今のうちに準備運動しておけよ。龍二の後だと俺はダサく移るな」
そういって会場へ向かう階段を一歩、また一歩と歩む三浦。
あいつの手首には……見覚えのないブレスレットと、少し目立つ金色のシューズを履いていた。
『さあさあ!黒金寧々!蛇道狩羅!葵龍二を破ったヘラクレス!本郷黄鉄!
続いて彼に挑むのは謎のダークホース。誰が彼に注目していただろうか!?
だからこそ未知数!三人のダメージを蓄積されたヘラクレスを倒すのは彼なのか!?三浦秀人ぉぉ!!』
そして入場する三浦。
俺はあいつに期待して、じっとモニターを見つめた。
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「…ん。」
「お疲れ。龍二」
「お疲れ、お兄ちゃん」
「あっ…姉ちゃん。千恵」
「あんたにしては、がんばったほうなんじゃない?」
「お兄ちゃん…珍しくカッコよかったよ?」
「……へへっ、そうかぁ」
「龍二の奴、いるか?」
そんなとき、医務室からそんな声がした。声のほうを見ると、そこには
「……っ!と、トールさん!?」
「よぉ、おめぇ…随分強くなってたな。ただ…まだ本気出せただろう?」
「「っ!?」」
「…………」
トールの言葉に、思わず俺は黙っちまった。
姉ちゃんと千恵も驚いている。
「まだ、制御出来てねえんだな?」
「はい…。完全龍化、一回トールさんとヴァルキリーの姉御を苦しめたって…」
「あぁ、あれが本気で出来りゃぁヘラクレスにももしかしたら…」
トールさんがそういってくれる。俺は覚えてないけれど、本当に化け物だったらしい。
「…悪になりたい俺としたことが、ビビっちまったんすよ。へへへ…」
俺は誤魔化すように笑った。
「…まぁ、いいか。おかげで新しい可能性が見つかったしな。あの鱗、覚えているか?」
「えっ?なんのことっすか??」
「……覚えてねぇか。《バジリスク》に言っておくか、一応…」
そういってトールさんはぶつぶつと何かを言いながら病室を出て行った。
呆然としていると、視線を感じるので見る。すると、姉ちゃんが俺をじっと見ていた。
「……本当に、昔から無茶だけが取り柄なんだから」
いつもみたいに呆れたように微笑んで言う姉ちゃんにほっとして、俺は眠りについた。
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「…始まったのですね」
「あぁ、シュートの野郎。目立っちまっていいんか?」
「ま、ええんちゃうの?うちは悪いことやとは思わんよ?」
「はっはっは!ええことやんけぇ!男である以上目立つのが一番っちゅうやん!!」
「おめぇは目立ちすぎやねん阿呆……」
「んで?仏はん。シュートはどないなってんの?
シュートの状況今わかるんは、仏はんだけやんやから教えてーな」
座っている一人の女性と、一室で個々に寛いでいる四人の男女。
「…一応。トラさんにあれを渡せに行かせてあります。なので、まあただでは負けないでしょう。
彼なら。いくら彼の我侭でとはいえ、私の目の届かないところで無残に負けるのは許せないので」
「おぉー怖い怖い。仏はん怖いで、ほんま『仏の顔も三度まで』っちゅうやっちゃなシュートも」
その中にいた一人の女子が大袈裟に言う。
『それでは!三浦秀人VS本郷黄鉄の第四戦を開始しまぁーっす!!』
そして、二人の戦いのゴングが鳴り響く。
☆
数時間前。
「ちょっと」
「ん?あ、虎坂」
「これ、仏さんからの土産や。勝てとまでは言わないけどボロ負けすなやとさ」
そういって渡されるブレスレット…。
「これ、何?」
「仏はんがゲットしたんやと、それはめとったら、シュートも普段どおり闘えるらしいわ」
俺はためしにはめてみる。なるほど…なんか力が湧き上がる気がする。
「うちもあのヘラクレスの強さ知っとるから、負けんなまでは言わへんけど、
仏さんに言うとおりただでは負けたあかんで。」
「……おう」
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『それでは!三浦秀人VS本郷黄鉄の試合を開始します!!』
一気に湧き上がる歓声。
「さてっと、俺…てめぇのことはよく知らねぇんだ。
驚いたぜ、俺が知らないところにまだこんな金の卵が埋まってたなんてなぁー」
「金の卵かどうかはしらねぇが、後の晴嵐たちもいんだ。負けても跡は残させてもらうぜ!!」
俺の前の少年。三浦秀人が足から炎を噴出する。炎系の能力者か?
「いくぜぇ!」
炎をジェット機のように噴出させてこちらに飛んでくる
炎を纏った蹴りが俺に炸裂する。それを俺は腕で受け止める。
「っ!?」
その瞬間、俺は驚く。
奴の足から…刃!?その刃が俺の腕の肉を抉っていた。
「おらおらぁ!!」
炎を纏った脚で何発も蹴りを放ってくる三浦。
俺はそれを掴む。脚から生えている刃で手が裂かれるがそんなことは気にしない。
「おぅら!!!」
そのまま思いっきり地面に向けてたたきつける。
「ちっ!この野郎!」
叩きつけられても意識のあった奴はそのまま俺の手を解くように蹴る。
その勢いで俺は思わず手を離してしまい、一気に距離を離されてしまう。
「…おめぇなんだその力。俺の手が切り傷でいっぱいになっちまった
それに見るからに戦闘慣れしてやがる。明らかに新人の動きじゃねえぞ今の?」
「……それは秘密だ」
そういうと、突然三浦とか言う奴のブレスレットが光出した。
「…これの使用限度も三分弱、まーくんの趣味か。ったく」
そして光輝くブレスレット。その刹那……奴の姿が消える。
「すんません。三分間だけ、本気でいきます!」
その瞬間俺の目前に現れる奴。
奴の蹴りを俺が受け止める。
それをものともせずに俺に蹴りを繰り出し続ける奴。
「おぅら!!」
俺が拳を放つ。
それを脚で受け止めた奴はそのまま吹っ飛ばされる。
しかし……。
「いちち、やっぱり化け物だなヘラクレス…」
あいつは、壁に衝突する前に自分の脚を杭代わりに地面に突き刺し、難を逃れてやがった。
そして奴は俺に向けた方向に脚を空振りさせる。いったいそれが何に……。
「……っ!?」
俺の胴体に切れ傷が現れた。
「ほんとぉ…なんだぁ?てめぇのその能力は!!!」
俺はもうダッシュ。そして奴に一発喰らわせる。
次こそぶっ飛ばされて壁に衝突。しかし立ち上がる。頭から血が流れている三浦。
脚からさらに炎を放出している。そして再び俺のほうに向かってくる。
奴の攻撃を受けると少し痛みが走る。
くっ…やはりピクシーたちとの戦闘での傷が響くか……。
「やっぱりな!先の三人のせいで弱ってる!
俺の本気とあんたの今!!おそらく互角ぐらいだろうぜぇ!!!!」
奴の蹴りを受け止め続ける。
奴はこちらにひるむことなく延々とけり続けてきやがる。とんでもねぇ厄介さだ。
しかし、なぜか奴の脚は時折刃に変形する。
その度に俺の肉体は抉り取られていく。
「おぅら!!」
奴がけりこんでくる。
その先。
「今のあんたの一番の弱点はそこだろぉ!!」
炎を纏った脚で、俺の三人に抉られた傷を蹴られる。
炎で焼けるせいでかなり痛い。
「……っ!?」
その瞬間だった。
奴のつけていたブレスレットが粉々に砕けたのは
「やっべ!もう三分立っちまった!!」
一瞬。奴が怯んだ。
その瞬間を俺は見逃さない。
「はっ!しまっ!!」
今度こそ、決まると思って思いっきり拳を奴にぶつける。
奴の体は無造作に地面を転がり続けて、最後には派手に壁にぶつかる。
「あぁーくっそ…。これで俺雑魚に逆戻りじゃんかよぉ…」
そういいながらも立ち上がってくる少年。
こいつは何かを隠している……ふっ。
「面白い!!貴様の能力は一体なんなんだ!?俺には教えてくれねぇのか?今までに見たことがねぇ!
光のスピードで動くわ脚が刃に変わるわ炎は出るわ統一性がねぇ!!てめぇ気に入ったぜ……。三浦秀人」
「ははっ、神の子に気に入られたら俺もがんばった甲斐があるってもんっすかねぇ」
まだ立ち上がる奴。
本当にタフな野郎だ。
「もうちょっと……『奴隷根性』見せてやんねぇとな!!!!」
そういってまた脚から炎を噴出する。
しかし、さっきまでとはぜんぜん威力が違う。
下がりすぎている。体力が減ったからとかそういう問題のレベルじゃない。明らかに弱くなってる。
しかし奴は俺に挑んでくる。
「晴嵐たちにもかっこ悪いとこ見せれねえからなぁ!!!」
奴の脚を腕で受け止める。刃は出てこない。それに威力も弱い。
「さっきまでの威勢はどうした三浦ぁ!!」
俺は脚を掴んでぐるぐると振り回す。
そしてそのまま思いっきり地面に叩きつける。
これで終わっただろ…。さすがにもう、終わったはずだ。
「おぉぉぉぉぉらぁっ!!」
「ッ!?」
最後、土煙から突如現れた奴の足。俺は対処できず、そのまま顎に奴の足が炸裂する。
こいつ。叩きつけられてから、手で自分の体を引き上げ、攻撃してきたのか!?
「へへっ、見てるか……仏さん。俺は一人でも……出来るだろ…」
顎を蹴られた衝撃で話した俺に向けてではなく、誰かに向けて言った三浦はことばを残して
そのまま倒れていった……。
『み、三浦秀人選手!!観客たちが息を呑むような圧倒的力を見せましたが!!
やはりヘラクレスには届かず!ここで敗北してしまいました……!しかし、ヘラクレスの鼻からは血!
これは確実に一歩!またヘラクレス攻略の一歩となったでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
ジャックランタンがそういってくる。
あぁ…確かに、まだあの車田と晴嵐が残ってると考えたら俺負けるんじゃねえかとも思えてきたぜ…。
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「……お疲れさん」
「虎坂、お前最後まで見てたのかよ…」
「当たり前でしょ?一応あんたとうちは仲間やで??………もう満足したやろ?帰ろ」
「…やっぱ、そうしねぇといけねぇよな」
「当たり前や!今はっちんから電話会ったけど、『仏の顔も三度まで』っちゅうとったわ」
「そうか。結構楽しかったんだけどな、弱くても…」
「その言い方やとまるでうちらとおるのはつまらんみたいやで?」
「いや、ちげぇよ。とにかく……ここはいいところだ」
「………しゃあないなぁ。せめてこの祭りが終わるまで待ったる、それでええやろ?」
「おう、虎坂は本当にいい奴だな。ありがとう」
そして、俺は負けて医務室のモニターから見守る。
これから、車田の戦いだ。そろそろ、ヘラクレスがバテてきている。どっちが勝ってもおかしくなくなった。
『さあさあ!!三浦秀人選手の健闘を晴らすことは出来るのか!
あのこのビル最強の一人北風太陽を打ち破った歩く爆撃機!その見た目とは違い、
知略を使う戦術を得意とする彼は!!ヘラクレス攻略法を見つけることが出来るのかぁ!!!』
ジャックランタンの実況で、戦闘場に姿を現す。
「さぁ…先に負けた四人のためにも、てめぇは俺が倒す!!!」
「へっ、てめぇに俺を爆破させられてたまるかよ。若造が!!!」
『それでは!試合!!開始してください!!!!!』
そして、ジャックランタンの言葉とともに、ゴングが鳴った。
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「んじゃ、まずはこいつからだ!!」
車田は、丸めた爆弾をヘラクレスに向けて投げつけた。
ヘラクレスはそれを受け止めてすぐに上空へ投げた。
上空で爆発する爆弾。触れたら起爆する設定だったんだろう…。
「へっ…そうくると思ってたぜ」
「ッ!?」
すると、上空から何か降ってくる。あれは……ナイフ!?
「へッ、ここに来る前に飛来の奴に頼んでな、爆発で出てくるようなナイフを作ってもらったんだよ!!」
ヘラクレスの頭上から降り注ぐ小さなナイフの雨。
「これがあの飛来のてめぇに挑めなかった悔しさの結晶だ。存分に喰らえぇ!!!」
ボロボロのヘラクレスの身体を痛めつけるナイフたち。
降り終わると、ヘラクレスの身体中にナイフが突き刺さったまんまだった。
「……ふんッ!!」
筋肉を隆起させて、ナイフが飛び出る。
本当…黄鉄さんはマンガのラスボスみたいだ。強すぎる。
「いくぜぇー!!!!」
そして黄鉄さんは車田に襲い掛かる。
車田はしゃがむ。そして足元を爆破させる。
そのクレーターに入ってヘラクレスの攻撃を避けた車田はヘラクレスの胴体に紋章を付ける!
しかしその直後に車田の横っ腹に蹴りが炸裂する。壁までぶっ飛ばされる。
「……BOMB!!」
車田がそう叫んだ直後ヘラクレスの身体が爆発する。
「どうだ!とりあえず挨拶代わりにくれてやったぜぇ!!!」
「……いいねぇ、てめぇの爆発のおかげで燃えてきたぜぇ…」
そこにあったのは、爆発したのに、身体が焼けているだけで五体満足のヘラクレス。
直接紋章付けられてたのに……マジかよ!!!
熱から出る煙が、まるでヘラクレスの闘志を表しているみたいで、見ている俺は恐怖した。
「ま、やっぱりその程度じゃぁ消えてくれねぇか化け物様は」
「あぁ…まだまだ満足したいんだ。おめぇも今のパンチぐらいでへばんなよ」
そして、車田と黄鉄さんの戦いは白熱する。
☆
「清五郎…」
「安心しなよ。アン、彼は誰よりも強い男だよ」
「……そうですね。清五郎はただじゃあ終わらない男です
私を救ってくれたときも……そうでした」
二人が見つめるは、今闘っている自分の仲間の姿を。
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「おぅら!!」
「てめぇのちんけな爆弾なんか利かねぇぞ!!」
爆炎の中を潜って俺の前に現れてくるヘラクレス。
奴は俺の身体を拳で殴り飛ばす。
「ガハッ!!」
「おらおらぁ。どうしたどうしたぁ??」
「へっ、余裕ぶっこいてちゃいけねぇぜ!BOMB!!」
こちらに歩み寄ってくるヘラクレスが踏んだ地雷を爆破させる。
「ははっ。てめぇはやっぱり面白い!!」
「笑ってられるのも今のうちだぜ!!」
俺は爆弾を二つ持つ。
片方をヘラクレスに投げる。ヘラクレスはそれを首を軽く捻って避ける。
俺はもう片方を的外れな場所である壁に向けて投げる。
「おいおい何やってんだよ阿呆」
俺は急いでバックステップして地面に紋章を付ける。
「へっ、てめぇが何か企んでるのはわかっ―――――」
その瞬間。突然ヘラクレスの背中が爆発する。
「て、てめぇ……」
背中から湯気のようなものを出しながらヘラクレスがにらんでくる。
「壁を沿って、ちょうどてめぇのところに行くように障害物を作っておいたんだよ。急に来る爆弾。ビビっただろ?」
そういって俺は次の攻撃を始める。
つっても俺は爆弾を投げることしか脳がねぇんだけど!!
「おらぁ!!」
俺が投げた爆弾をキャッチして上に投げるヘラクレス。
しかし、普通の爆弾じゃないってことをどうやら理解したらしい。
「っ!?」
突然爆弾が開き、掃除機のように風を吸い込む。その吸引力は上にいたヘラクレスを宙に浮かせるぐらい。
「その爆弾は外から空気を集めて圧迫した空気を爆弾にさせる圧力爆弾だ!
作るのに時間かかるからあんまりないが、破壊力は最強クラス!!!!」
「くそっ!!」
ヘラクレスが宙に浮いて足掻いている。
『これは!車田選手の勝利は確定か!?あのヘラクレスが地に足を付けていない!!!』
そして、爆弾は爆発する。
爆発とともに会場一体を吹き抜ける突風。
しかし………粉々になったのは…布だけ…。
「ふぅー危ない危ない…。てめぇあれ俺が喰らってたらエグイ死に方してたぞ!?」
俺の目の前には、上半身が裸になったヘラクレスの姿…。
あの一瞬であの野郎!!服を脱ぎ捨てやがった!!
服に張り付いた爆弾から逃げるために、冷静に確実に服を脱ぎ捨てやがったんだ!!
目の前のヘラクレスの肉体は物凄いものだった。
裸になったその上半身を見て改めて化け物だと思った。
能力を得たからといって、外見的肉体はさほど変わらない。
現に力の能力を持った赤野瞳は決して筋肉隆々とした姿はしていない。
けれど奴は…違う。もう、あれは能力ではなく単純な彼の力なんじゃないかと思わせるほどの
盛り上がりすぎた筋肉。あんなのジャンプマンガでも滅多に見ねぇぞおい……。どこのラ○ウだよ。
それに、身体中にかすり傷や切り傷があり、至るところが赤くなっている。
火傷跡も多々ある。俺や三浦の攻撃で焼けたものだろう。身体中ボロボロだ。
なのになんでだろう、ボロボロなのに…それがまるで無意味だったみたいなこの威圧は!!
いや、違う。こんなに傷だらけなのにまだその闘志を無くしていないからこそある威圧感なんだ!!
「さぁ…坊主。もっと力を見せてみろ」
そういって静かに深呼吸するヘラクレス。
本当に、こいつは……俺の前に4人と戦っていたんだろうか。
RBの知り合いのヴィヴィアンって女が正十字騎士団100人以上を相手に戦い抜いたって聞いたが
あのピクシーもいる俺たちと戦い抜いているヘラクレスはもしかしたら1000人相手でも勝つんじゃねぇのか?
そうとまで思わせてしまう圧倒的な威圧感。
「あ、あぁ!!見せてやるよ!!!」
ただ、ここでへたれてちゃあいけねぇ!!!
前の4人が必死こいて闘ってくれてんだ!俺もここで弱音を吐いちゃあいけねぇ!
俺はヘラクレスに向かって走る。ヘラクレスの拳がこちらに襲ってくる。
俺は避けることも出来ずに吹き飛ばされる
「だが俺は…てめぇにカウンターをかける!!」
「っ!?」
俺の言葉で気づいたヘラクレス。
奴の腕に付けた紋章を爆発させる。
それでも奴の腕はもげてくれず、ただ皮膚が焼ける音だけがする。
「……ふぅー」
ヘラクレスは落ち着かせるように息を吐く。
くっそぉ…チンケな爆発じゃあ身体も心もダメージを与えれねぇ。
「なら……これならどうだ!!!!」
俺は大量の爆弾を展開して上空高くへ投げ飛ばす。
その数50!!この爆弾は小さいが上空へ飛び、時期大きくなり、重さで落下してくる爆弾だ!!
「……確かにやべぇな。こりゃ…」
そう呟くヘラクレス。しかし、ぜんぜんやばそうな雰囲気ではない。
すると、奴は右足を前に出して地面を踏みしめ力をこめている。何をする気だ?
落下してくる爆弾。地面についた瞬間に大爆発を起こす。俺は避難できそうな場所へ移動する。
しかし……その必要はどこにもなかったのだ。
ヘラクレスが踏ん張った力で思いっきり拳を上に上げる。
そこで起こる風。その風が、爆弾を上空へさらにあげる。
さらに、衝撃に触れた爆弾は上空ですべて爆発してしまう。
すさまじい爆音の中。ヘラクレスがこちらを睨んでくる。
「…5…4…3…2…1!!!」
俺はそれに怯えながらも口に出して数えていた。
そして、ヘラクレスの足元が爆発。
「てめぇなら50の爆弾防ぐと思ってたよ!だから仕掛けさせてもらったぜ時限爆弾!!」
俺がそういった直後、土煙から姿を現したヘラクレスは俺に思いっきり拳を放つ。
壁近くにいた俺は壁にぶつかったあと、バウンドして宙に浮く。
それをジャンプしたヘラクレスが受け止めて地面に向けて叩きつけるように投げる。
「ガハッ!!」
身体が壊れるのがわかった。
骨のいくつかがバキバキと音が鳴った気がした。
あぁ……もぉ駄目だ。早いなぁーったく。俺がどんだけ頑張っても、こいつの一発には程遠い…。
「立て、坊主」
そういってくるヘラクレス。
立てるかよチキショー殴られ続けて挙句地面に叩き捨てられたんだ。
今一瞬ドラゴンボールの敵に同情しちまったっぜ…あんなの喰らったらひとたまりもねぇよ。
「どうした?根性を見せてみろよ??イソップを倒したんじゃねぇのか??」
ヘラクレスが俺の頭を掴んで持ち上げる。俺は奴にもたれている状態になる。
薄っすらと見える視界に映るヘラクレス。
「……へっ!くたばるなら今しかねぇよな!?」
俺は身体中に紋章を展開させる。自分自身の身体に。
「なっ!?てめぇ何を!!」
俺はその瞬間余力を使ってヘラクレスの身体にしがみついてやった!!
「ははっ!しってっか!?俺の得意技が引き分けってのをぉ!
しってっか!どんな世界でも最強の必殺技はこうやって相手を巻き添えにする……『自爆』なんだぜ!?」
そして俺の身体は光る。
必死に引き剥がそうとするヘラクレス。
俺の身体を殴るヘラクレス。その度に意識が飛びそうになる。けど、この手を離しちゃあいけねぇ!!!
そして俺は、ヘラクレスを巻き込んで…………爆発した。
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「あいつ…やりやがった!」
一人残った控え室。
俺はそこで、あいつの闘う様を見守っていた。
そして、車田が最後にとった手段……自爆。
会場が壊れるんじゃないかってほどの大きな爆発。
真っ黒な煙幕が当たりを包みこむ。
そして煙がゆっくりと消滅していき、そこに見えたのは……ぶっ倒れていた黄鉄さんの姿だけだった。
『……車田くんの姿は、ありません。粉々に砕け散ったということでしょうか……。
そして、倒れているヘラクレス…。これは、車田くんの引き分け…で終わるのでしょうか??」
「……ま……だだ……」
『ん?何かが聞こえたような気が…』
「まだだぁ…俺は…まだ……終わっちゃいねぇ!!」
そして、立ち上がる…黄鉄さん!!!!
『な、なんと!ヘラクレスが立ち上がったぁー!!!
あの最強の攻撃にも屈することなく!立ち上がった!!彼こそ本物の英雄王だぁー!!!』
「はぁ…はぁ…はぁ……」
ボロボロだ。息も荒い。本当に負ける寸前だったんだろう。
しかし、先輩の攻撃、狩羅の毒、龍二のパワー、三浦の蹴り、車田の爆破を受けても
まだ倒れねぇなんて……マジかよ…。
すると、ヘラクレスは懐から何かを取り出した。
『おぉーっと!ヘラクレス選手何かを取り出したぞ!?あれはぁ……ビン?』
ヘラクレスはそれを一気に飲むと、彼の身体から白い蒸気が湧き上がる。
そして心なしか、少しだけ傷が減っている気がした。
「あんなボロボロの状態じゃあてめぇの相手は出来ねぇからな!晴嵐!!
ちょっくら昔友から借りたもん使わせてもらったぜ!!」
さっきのビン…もしかして回復したのか!?
傷を見るからに全回復まではしてなさそうだが、こいつはまずいぜ…。
そして俺は、黄鉄さんの待つ戦闘場への階段を一歩。また一歩と歩みを進めた。
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「清五郎!清五郎!!」
「大丈夫ですよアンさん!私が必死に能力で治して見せます!
全身消去するような痛み……早く消さないと本当に死ぬ恐れがあります!!フレイを呼んできてください!」
「大丈夫。フレイヤ。もう呼んでる」
「ヴァルキリー様からの連絡で着ましたよフレイヤ」
「二人係で治します!いいデスね!?」
「はいっ!!」
そうして、フレイとメアリーちゃんの二人係で清五郎を治していた。
そのすぐそばで車田に寄り添って泣いているアン。彼女が泣いている姿なんて始めてみたよ。
清五郎…。君は頑張ったけれど、今の君は引き分けに持ち込んだら悲しむ人がいるんだよ…。
……僕は、泣いているアンに歩みよる。
「大丈夫だよ。アン…君が愛した男はこの程度で死ぬような奴じゃない」
「………っ!!」
「大丈夫だから。安心して」
「……はい」
そういうとアンは静かになり、そっと彼の身体に寄り添った。
さて、とうとう。この祭りも終わりだ。
謡い手として、最後まで見守ろう。そして自分の弟子も同様。この祭りを語り広めるんだ。
歴史に名を残す祭りとして――――――――。
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「寧々ちゃん。いよいよだね」
「あぁ、晴嵐くんならやってくれる。私はそう信じている」
「そうね、あいつなら……やってくれる。なんでか知らないけど、そんな気がするわ」
「お兄ちゃんは変態だけど。強い」
「けっ!信じるも何も!せっかく俺がお膳立てしたんだ。あいつには勝ってもらわねぇといけねぇ」
「またまたそんな意地張って♪素直にあいつを認めてるって言えばいいのに」
「うっせぇぞ古田ぁ!!」
「わぁー!ごめんなさい」
「古田さん余計なこと言うから…」
呆れたようにいう美鳥。
蛇とメルヘニクスが同じ医務室で、一人の男の闘いが始まる様を見つめていた。
『さあさあ!!いよいよヘラクレスに挑む強者もあと一人になりました!!
さまざまな強者を破ってきたヘラクレス!!その強者たちの想いを一身に背負い
不死鳥は!!その不死身の炎を神の子に届かせることが出来るのだろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
観客の歓声が今まで以上に激しさを増す。
当然だ。勝っても負けても、これがラストバトル!!
「黄鉄さん。俺はあなたが最初に負けた相手でよかった。上には上がいるって教訓になった。
あんたが飛来を鍛えてくれて、俺の最高のライバルにしてくれて、ありがとうございました。
そして俺は今からあんたを………みんなを倒したあんたを…みんなのために……倒す!!」
「いいねぇ、その表情。こっちもてめぇがここまで強くなってくれてうれしいぜ!」
『それでは最終決戦!ヘラクレス・本郷黄鉄VSフェニックス・明知晴嵐の闘いをはじめます!!』
そして、俺とヘラクレスの闘いは、始まった。
☆
「あぁ?俺に武器だぁ??」
「あぁ、いくらお前が化け物級に強くてもいつか勝てない相手が出てくるぞ?
ほら、そういう時のために持って、これは回復用のビン。『ヴィーナスの聖水』だ。もう一つ」
「だからいらねぇって俺はそんなんに頼らず拳で行くんだよ!」
「そういうなよ。多くの人間を引き抜いているとな。いつも思うんだ。
俺はいつか消える、上に立つ人間って言うのはそういう運命を背負っているんだ。
けれどお前は違う。お前はいつも一人で孤高に闘う。だから、お前に託したいんだ」
「………わかったよ。仕方ねぇな」
「あぁ、持つだけで使わなくてもいいからさ。お前が本当にピンチのときに俺は力になりたいからさ」
「はぁ……ったく。てめぇもつくづく物好きだよな。今度は武器製作か?…《アンデルセン》」
「あぁ、いくつか作った武器を俺が所持し、ゆくゆくは仲間や協定仲間に配布していこうと思っている」
「それをして……どうするってんだ?」
「いや、特に理由はないさ。アーティストってのは無意味に曝したい欲望があるもんさ」
「…そういうもんかねぇー」
俺はまだ若い頃。二人とも名を連ねだしたときの会話だった。
《アンデルセン》…奴は俺と同時期にスカイスクレイパーを始めた。
奴の能力。名は《童話創り(メルヘン・メーカー)》はまさしくなんでも作れる力だった。
もちろん作れてもそれを使いこなすことが出来なかったら意味がない。
だから最強の矛を使うにはそれ相応の能力が必要だから、決して奴が弱いわけではない。
強い精神力を浪費する能力ではあった。
俺が奴から受け取ったのは『ヴィーナスの聖水』と……もう一つ。
俺ももう引退だ。宝の持ち腐れにならないように、使わせてもらうぜ。アンデルセン。
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『さあ!それでは!!ヘラクレス・本郷黄鉄VSフェニックス・明知晴嵐の闘いを開始してください!!』
と、同時に、黄鉄さんは俺に襲い掛かってきた。
逃げることも出来ず俺はいきなり壁に吹っ飛ばされる。
「いちち…やってくれるじゃねぇか黄鉄のおっさん!!」
「てめぇは最初にそんぐらいやっとかねぇと力使えねぇだろうが!…来い!!」
その言葉に反応して俺は炎を身体に纏わせて黄鉄さんに攻撃を仕掛ける。
今度は俺が黄鉄さんの頬を殴る。
しかし、踏ん張り、その場に踏みとどまった黄鉄さんはさらに俺の鳩尾に重い一発。
一瞬地から足が離れる俺。その瞬間を見逃さなかった黄鉄さんが回し蹴りをかましてきた。
俺は一瞬で突き放された。そして背中に衝撃。また壁に追いやられたんだ。
「おらおら!どうしたぁ!!もっとこいよ!」
「くっそがぁー!!」
俺は炎を噴出させてさらに殴る。
ヘラクレスの拳を喰らっても地に足付けて踏ん張る。
俺も奴に拳を浴びせる。今もボロボロのはずだ。さっきの回復薬を飲んだとしても
そうそう全回復出来るようなダメージじゃなかったはずだ!現に初めて闘ったときよりも拳が軽い!!
「おらおらおらぁ!!!」
「おらおらぁ!!!」
二人して怒号をあげながら拳を浴びせあう。
170ある俺に対して185以上はくだらない黄鉄さんとの殴り合いは見ていてきついものがあった。
「おぅら!!」
俺がアッパーをかける。
一瞬。浮いた!!
「これは先輩の分だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!《ガントレットフォーム》!!!」
そう叫んだ瞬間。俺の身体の炎は右の拳一点に集まる。
そして宙に浮いたヘラクレスの胸部に一撃。
黄鉄さんは遥か彼方へ飛んでいき、会場の壁に衝突する。
「っしゃあ!!!!」
『あ、あのヘラクレスが!壁まで吹っ飛ばされました!!今の彼のパワーはなんでしょうか!?』
「てめぇ…やっぱり最高だ……」
瓦礫の中から姿を出す黄鉄さん。
「炎を足・胴体・拳のどれかに集約することによって、バランス良く強化されている炎の無駄を省き
攻撃のときは拳、速攻のときは足、守りのときは胴体と使い分ける。賢いやり方だ…狩羅の教えだろ?」
「あぁ…あの人が俺に教えてくれた」
「ははっ!だろうなぁ。あいつはそういうところがある。賢い奴ってのはすげぇ。
俺やてめぇみたいな力バカをさらに強く出来るんだからな……」
突然べらべらと話し出す黄鉄さん。
いったいどうしたんだ?
「いや、教えてやろうかと思ってな。
俺にもいたんだよ、一応……てめぇんとこの狩羅みてぇに『俺に知恵を差し伸べてくれた奴』ってのがよう」
そういうと、黄鉄さんは懐から何かを取り出す。それは、本当に小さい。卵みたいな丸い物体だった。
「いいか。晴嵐。てめぇは強い、能力がとかじゃあねぇ。その精神力のことを言っている。
だから俺は、おめぇに……いや、今まで俺に挑んできたやろうどもに敬意を表して隠し玉を使う!!!」
「ッ!?」
おれが驚いた直後。
黄鉄さんが持っていた。卵が突然光り出す。
『な、何が起きているのでしょうか!?ヘラクレスが取り出した球体が突然光始めました!!
これが彼の《隠し玉》!!!あれには一体、どんな力があるのでしょうかぁ!?』
「……あれは…!!!」
「ん?寧々ちゃん。知ってるのかい?」
「あ、あぁ…間違いない。アンデルセンの能力のモノだ」
「アンデルセン?」
「あっ…。そういえば君には言ってなかったな。私の師匠とも呼べる人のものだ」
「っ!?ね、寧々ちゃんの師匠……!!!」
「アンデルセンが創ったいくつかの武器は、
使用者を選びすぎて彼には対処出来なかったモノだ。それを……あいつが持っていたのか!?」
「さぁ!!皆の衆!!!見やがれ!!このヘラクレス!一世一代の最終形態だぁ!!!!!」
その光を拳の中に閉じ込めた黄鉄さんがこの拳を天高く突き上げる。
すると、光は黄鉄さんの拳から放たれ、彼の身体にまとわりついていく。
「な、何が起きている…」
「俺も使用方法を聞いただけでどうなるかはしらねぇんだがな……」
黄鉄さんがにやりと笑う。
やばい。俺は直感でそう感じた。
これは……やばい。ただでさえ強い黄鉄さんを本物の化け物にするとわかっていた。
そして光ははじけるように消えていく。胴体にはライオンの顔を模したものが刻まれている。
黄金の鎧……それが黄鉄さんの身体に装着されていた。
「えーっと名前はなんつったかな?あぁ、そうそう……」
思い出したように黄鉄さんはすると、俺のほうを見てにやりとしながら言い放った。
「《12の伝説》だったっけか?相変わらずあいつのネーミングは悪い」
ヘラヘラと笑いながら言う黄鉄さん。
俺に相手の力を読み取る力なんてないけれど、それでもわかる。圧倒的に力を付け出したのを。
「おらぁ!行くぜ!!」
「ッ!?」
その瞬間黄鉄さんが懐に入ってくる。い、いつの間に!?
そして間髪いれずに黄鉄さんのアッパー。俺は上空高くまで飛ばされる。……と思っていた。
「ッ!?」
俺は驚く。俺の脚に、長い蛇のような金属が絡まっていた。
「どっせい!!」
上空にいた俺を、力ずくで叩きつける黄鉄さん。
立ち上がった俺の元にもう黄鉄さんの姿があった。
俺は思わず宙に逃げる。空を飛べる俺のほうが有利なは―――――
「俺が飛べないとでも思ったか?」
「ッ!?」
「そらよッ!!!」
俺よりも上空にいた黄鉄さんに踵落としを喰らった。
俺は物凄い勢いで地面に叩きつけられる。
薄っすらとする視界の中、地面に着地してくる黄鉄さんを見ると、そこには……鳥の羽が生えていた。
「どうやら俺に12個の能力が備わったらしいな。ま、俺が使えるのはせいぜい4つってところか…。
ほかの奴の使い方わかんねぇし…。ったく、アンデルセンのやろうとんでもねぇ武器を作りやがったな」
手を開き閉じ、しながら独り言を言っているヘラクレス。
初めて使う武器を実験している…ってところか?舐めやがって。
「そんな装備…得たからってどうだってんだぁ!!!」
俺は立ち上がって炎を噴出させる。
「《レッグフォーム》!!!」
俺は刹那にも使った足を強化する技でヘラクレスに挑む。
「今の俺はスピードも遅くはねぇぜ!」
そういって黄鉄さんも姿を消す。
その瞬間。俺の前に現れる。
俺は慌てて拳を放つ。黄鉄さんも同じ考えだったらしく、俺と黄鉄さんの拳がぶつかる。
俺の拳が裂けていき、血が出てくる。そしてそのまま力負けして押し出される。
飛ばされそうになった俺は脚を地面に突き刺し、壁衝突を免れた…が。
「まだまだぁ!!!」
その瞬間。185を超える巨漢である黄鉄さんからの強烈なタックル。
これには耐え切れず壁に衝突する。心無しか…タックルの威力、攻撃力が上がっている…。
それにスピードも…あれじゃあまるで馬じゃねぇか!!タックルも猪みたいに猪突猛進の威力…。
それに蛇のような金属器。そして鎧の獅子の顔……。
「ヘラクレスの12の功業……!!!」
「か、狩羅さん?どうしました??」
「そのアンデルセンっつうのは、ヘラクレスに12の功業をモチーフにした武器を渡しやがったんだ!
まさしく伝説を起こした男、本郷黄鉄に送るにはぴったりの武器だな。だが…あんなのが12個あると考えると」
「さすがに、晴嵐くんも危ないかもな」
同じ医務室で横になっている狩羅と私が二人話す。
とんでもないことが起きた。あの力だけでも化け物のヘラクレスが武器を持ち出した。技を使い出した。
これは流石に……まずいぞ…。
「安心しなさいよ。寧々」
そんなとき、声をかけてきたのは龍二のところから戻ってきた刹那だった。
「あいつは、どんなときだって負けない奴よ。特に、仲間の想い背負ってるときはね」
彼女の目は、疑うことを微塵ともしていないまっすぐな目だった。そして私も目が覚めた。
「そうだな。私たちが頑張って傷を付けたんだ。負けてもらっては困る」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「どうした?もうへばったのかぁ??」
「…んなわけ、あるかよぉ…」
俺はなんとか立ち上がる。
そして炎を噴出。体力が削られていってるのがはっきりとわかる。
俺は炎の出力をあげて黄鉄さんを殴り飛ばす。鎧のない顔面を狙ってやった!
飛んでいく黄鉄さんは壁に衝突する。よしッ!なんとか同じレベルのパワーは手に入れた!
しかし、土煙から現れたのは9つの蛇の頭。それに俺の身体はつかまる。
そしてそれに引っ張られる無抵抗な俺。待ち伏せていた黄鉄さんが踏ん張りを利かせている。
そして、一発。強烈な一発。
端から端へぶっ飛ばされる俺。
「へへッ!どうだぁ!!」
「…それはこっちの台詞だ!!」
俺は腕をクイっと引く。
「ッ!?」
その瞬間黄鉄さんの身体がこちらに引き寄せられる。
「お返しだぁ!!!」
俺はワイヤーを引っ張って黄鉄さんを自分のほうに引き寄せて思いっきりパンチ。
黄鉄さんはまた自分がいた壁のほうまでぶっ飛んでいって壁に衝突。
また土煙から蛇が出てくる。それを俺はレッグフォームで強化したスピードで避ける。
しかし、避けた先に、同じく移動してきたヘラクレス。俺とヘラクレスはクロスカウンターのように
互いの顔に拳をぶつける。その瞬間に二人ともぶっ飛んでいく。
『な、なんというパワー合戦でしょうか!?不死身の明知晴嵐と、鎧を纏ったヘラクレス!
これはもうどちらが勝ってもおかしくない状況ではないだろうかぁー!!!!』
「おらおらおらぁ!!」
黄鉄さんの拳。拳。拳。
俺は負けじ黄鉄さんを殴りまくる。
互いに地に足踏ん張ってぶっ飛ばされないように必死に殴り合い、足掻く。
((次に吹っ飛ばされたほうが…相手のペースに持っていかれる!))
その瞬間だった。黄鉄さんの身体が右に傾いた気がした。
どうやら、本人も意外だったようで少し驚いた顔をしている。いまだ!!
俺は黄鉄さんの左の脇当たりを目掛けて蹴りを入れる。焦った黄鉄さんは腕でガードするも
傾いた身体が踏ん張ることを出来なくし、そのまま壁まで吹っ飛ばされる。
「…くっそぉ!!」
瓦礫から身体を起こす黄鉄さん。
流石にまだダウンとまではいかねぇか…しかし……。
「黄鉄さん」
「あぁ?なんだぁ??」
「俺、一つ確信したぜ」
こちらを睨んでくる黄鉄さん。
「この勝負、俺の……いや、『俺たち』の勝利だ!!」
そして、童戦祭はクライマックスを迎える―――――――――。
☆
俺は孤高だった。
常に強さを求めてきた。
小さい頃から喧嘩に明け暮れ、学生時代はそこそこ名の知れた喧嘩屋でもあった。
その積み重ねで得た圧倒的な力と肉体。ただの喧嘩に満足行かなかった俺は《スカイスクレイパー》に名乗りをあげた。
しかし、俺は予想以上に強すぎたようだった。元々の肉体の強さはやはりこの世界でも関係がある。
さらに、俺が手に入れたのは圧倒的な《力》の能力。単純明快。俺にぴったりの能力だと思った。
その能力を駆使した俺は、元々の強さも相まって最強クラスの化物になってしまった。
結局この舞台でも、俺の強さについてこれるやつはほとんどいなかったんだ。本当につまんねぇ・・・。
「やぁ、久しぶりだね」
「…おめぇか」
目の前には、初めて闘った超弱かった相手。
初戦同士の能力も糞もなかった戦いだったから仕方なさもあったが
「っ!?」
「どうしたの?俺の強さに驚いたのか??」
初戦にボロ勝ちした相手に……俺は今までで、一番苦戦してしましまったんだ。
現実でも、ここまで苦戦したのは初めてだった。それほど驚くほどにそいつは強くなっていた。
「あぁ!結局負けちゃったかぁ」
「てめぇ・・・名前は?」
俺は思わず聞いてしまった。
そいつの名が知りたかった。そいつと関係を持ちたかった。
「…本倉詩朗。詩人の詩に朗読の朗って書いて詩朗だ。よろしく」
それが、俺…《ヘラクレス》と奴…《アンデルセン》の出会いだった。
俺達はなぜか馬が合った。正確もなにもかも真逆だってのに
俺は喧嘩が好きだった。あいつは勉強が好きだった。
俺は独りが好きだった。あいつは集団が好きだった。
俺は強さが好きだった。あいつは弱さが好きだった。
本当に逆。だけどまるで磁石が引っ付きあうように互いに認め合い、酒を酌み交わした。
「黄鉄!俺……組織を作ったぞ!」
「あぁ?組織だぁ??」
「あぁ!このスカイスクレイパーにはそういった集まりを作ることができるらしいんだ。
《オーディエンス》って大きい組織もあるらしくてな?それに感動して俺は…独りの奴を集めることにしたんだ!
どうだ黄鉄!俺と一緒にチームを組んで、このあたりのビルを席巻しないか!!!?」
あのときのあいつの顔ったらなかったぜ。これから遊ぶ子供のように純粋でまっすぐな笑顔。
「…いや、いい。俺はそんなにつるみたくはねぇんだよ。それに、誰かの上は身を滅ぼす」
「…そうか。それは残念だ」
奴の言葉を断った俺に、奴は落ち込むこともなくただそう言った。
そのあと、俺が一人で強さを求め続けている間に奴の言っていた組織はどんどん勢力を拡大していった。
《メルへニクス》…それが奴の組織の名だった。奴が努力し、戦い続けることで《アンデルセン》と言う名を得て
俺も、孤高に闘う戦士として《ヘラクレス》と言う名を得ることができた。
俺は《メルへニクス》に在籍していないまでも彼らとはよく交流があった。特に太陽やピクシーとはな。
そして、あの日だった。
《メルへニクス》が……《奴ら》と闘った。
俺はその日、スカイスクレイパーにはいなかった。
久々にきたとき、顔見知りの男に聞いたとき、俺は何か嫌な予感がした。
「奴らと闘って、メルへニクスはそれ以降見てねえな。見たのは…あのちっこいのだけだ」
その言葉で、俺は走り続けた。そしてたどり着いた場所で俺は見てしまう。
ただ一人泣き崩れる少女。目が真っ赤だ、何日も泣き崩れた証拠だろう。
そしてそれが…俺が最も恐れていた結果を察しさせるには十分なものだった。
「そうか…アンデルセンはもう……」
「うっ…私のせいだ。私のせいで…メルへニクスは!」
何があったか知らない。けれど目の前の少女はそういってずっと泣いていた。
「ったく、だから人の上に身を置けば、滅ぶっつったじゃねぇか…」
その日、俺は最初で最後のライバルを失った。
それ以降。俺に白旗上げさせるような化物は誰ひとりとして現れなかった。
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「おらあ!!」
「ぐっ!!」
晴嵐の拳が俺の頬をぶつける。
俺は物凄い痛みに耐える。
そして殴り返す。しかし、奴はそれでも折れない!!
「うっ…」
体の一部から急に痛みが走る。その瞬間俺の動きは鈍る。
「どっせー!!」
その隙を逃さぬと言わんばかりに俺の腹部を殴る晴嵐。
炎を拳一点に集めたその拳はアンデルセンからもらった《12の伝説》の鎧に皸を入れるほどだった。
俺はなんとか力を貯めて奴を蹴り飛ばす。
「はぁ…はぁ…」
「…っ!ぐはっ…あんたもそろそろ限界だろ?黄鉄さん!!」
晴嵐が光り輝く目をして俺を睨みつける。
あぁ、そうだ。俺の体を…毒が回り始めたんだ。
内側は狩羅の野郎に、外側は葵龍二にやられた毒だ。
それに、みんなにやられた右腹部の切り傷…ここから体の神経が死んでいきやがる。
極めつけが車田の爆発。あれで全身が火傷してるみてぇに痛くなってきている。
《ヴィーナスの聖水》でも回復しきれなかった。それほど俺の体に溜まった痛みは絶大だったわけだ。
「だが…ここで終わってやるかよ!!」
俺は再び晴嵐に向けて飛び込む。
やつに重い一撃。奴はそれを受けて俺に拳で殴り返される。
それをずっと繰り返す。毒が回ってきて動きが鈍くなっているだからなんだってんだ!
「俺は最強の男!ヘラクレス!!てめぇに負けてやる義理はねぇ!!!!」
俺は晴嵐の顔面を殴ってぶっ飛ばす!壁に勢いよくぶつかる晴嵐。
土煙が去ったあと、炎を纏ってはいるが、動かない。体力切れか??
『明知晴嵐!動かない!!炎に身を包んだその体が動かない!!』
ジャックランタンの実況。
これで奴も終わりだ。傷が消えても体力は残る。精神面で無理だと思ったときに、奴は負ける。
「…まだ、だ。まだ…終われねぇ!!!!」
そういって立ち上がる晴嵐。本当にしぶとい奴だ。
「ここで倒れたら!先輩に!狩羅に!龍二!
三浦に車田!!それに、てめぇに挑めなかった飛来や刹那達に申し訳が立たねぇんだよ!!!!」
そういって再び俺に挑んでくる晴嵐。
奴の拳は来るたび重くなって、こっちの意識が飛びそうになる。
お互い、殴っては殴られを繰り返す。ここまで来たら根性の勝負だ。
「おうら!!」
晴嵐の重い一発。
あぁ…やべぇ、体が動かねえ…。これは流石に俺の負けかぁ?
動きがゆるくなった俺に晴嵐が連打をかましてくる。
俺はそのまま地面に倒れてしまう。
「頑張れぇー!!ヘラクレス!!!」
「っ!?」
「そうだよ!黄鉄さん!頑張ってー!!」
「黄鉄の旦那ぁー!立ってくだせぇー!」
「ヘラクレス!ヘラクレス!!ヘラクレス!!!」
どういうことだ?会場から俺への声援が飛び交ってくる。
「晴嵐!頑張れー!!」
「フェニックス!!」
「お前が歴史を変えろぉー!!!!」
晴嵐の方もだ。俺たち二人を応援している観客の声が会場に響き渡る。
くっそぉ…俺は誰ともつるまないようにしてきたのによぉー
アンデルセンみたいに下をつけたら身を滅ぼすってわかってたのによぉー…。
次第に俺が弱っていき、晴嵐が俺を倒すために必死に殴打し続けている。
「黄鉄さぁーん!!」
「黄鉄の旦那ぁー!!!!」
瞳と福籠の二人が涙を流してこっちをみている。
やめてくれ、そんなに泣くな。俺が負けてるみたいじゃねぇか。
「くそがぁ!!」
俺が晴嵐を殴る。
しかし、晴嵐がさらに俺を殴ってくる。意識が朦朧としてくる。
「喰らえ!黄鉄さ…いや、このビルの王ヘラクレス!!俺はあんたを…超える!!」
俺はその瞬間に奴の蹴りで上空に飛ばされる。
晴嵐は背中に羽を生やし俺の方に飛んできて、俺の腹部に突撃。
「これは先輩の分!!!!」
さらに上空に飛ばされた俺よりも先回りして、横に飛ばすために横っ腹に蹴りを入れてくる。
「これは狩羅の分!!」
さらに顔面に一撃。
「これは龍二の分!!」
地面に叩きつけられた俺。
急いで立ち上がるが、その時すでに晴嵐の長い脚が俺の顔めがけて飛んできていた。
「これは三浦の分!!」
そして俺は飛ばされた。
「っ!?」
その直後だった。背中がどこかの地面に当たった瞬間。爆発して俺を上空にあげる。
「それは車田が先の戦いで残してくれた地雷だ」
上空から俺は晴嵐を見下す。今までにない炎の量だ。
奴は拳を握り締める。
「そしてこれが、俺自身。そして闘えなかったみんなからの送別会のプレゼントだ。ヘラクレス」
そのまま晴嵐は俺に向けて飛んでくる。
炎が鳥の形になっている。もう…鳥、いや不死鳥そのものだ。
「俺の最強必殺!《不死紅蓮翔拳》!!」
俺の腹に当たるその拳は俺をえぐるように迫ってくる。
俺の殴ったまま上空高くまで飛ぶ晴嵐。
溜まりに溜まった威力が最後に俺を上空高くに吹き飛ばす。
晴嵐が地面に着地する。
そして俺は…地面に叩きつけられるように倒れてしまった。
『勝者!明知晴嵐!!
さあさあ童戦祭を制した者!ここに爆弾!みんなぁー!大きな喝采を!!新しいビルの王の誕生だよぉ☆彡』
「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」
観客達のアドレナリンが最高潮に登り、会場は喝采に包まれる。
その中には、俺への言葉がいくつも混ざっていた。
あぁ…これでいいんだよな?アンデルセン。
俺も、いつの間にか…たくさんの者を背負っていたらしい。
でも、これで満足だ。俺は、やっと…お前以外に負けることができたぜ。
そして俺は、そのまま目を閉じて、気を失ってしまった。
☆
『勝者!明知晴嵐!!
さあさあ童戦祭を制した者!ここに爆弾!みんなぁー!大きな喝采を!!新しいビルの王の誕生だよぉ☆彡』
「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」」
黄鉄さんが倒れた。
それを膝をついて倒れながら、俺は見ていた。
呆然と、その光景を見ていた。自分の身体が止まっていた。
声だけが響き、それ以外は時が止まってるみたいだった。
徐々に自分の置かれている状況を実感し始める。自然と目から涙が浮かび上がっていく。
朦朧としていた声も、鮮明に聞こえてくる。歓声。拍手喝采。雄叫び。
「…………っ!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
俺は両手を上げて叫びをあげた。
「晴嵐!!」
「先輩!!」
「晴嵐くんよくやった!!」
会場に下りてきた刹那、RB、優、赤井、千恵ちゃんたちが俺のほうに走ってくる。
先輩たちはまだ医務室から動けないだろう。あんだけの傷を付けられたんだ。
いくらメアリーちゃんがいても処理に追いつかないだろう。
そこから観客たちがみんな降りてきて、俺を囲むようにして、俺の身体を胴上げする。
見てますか?先輩…みんな、みんなのおかげで、俺……勝てましたよ。
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「…行きてぇんじゃねぇのか?」
「何…この身体で動くのはまだ無茶があるよ」
「…そうか」
「なら、私が急いで治します!!」
メアリーが私に能力を使ってくれる。
私たち闘った組は一応応急処置は出来たが、今から走って彼の元へ行くほどまで癒えてはいない。
狩羅の言う通り…正直言うと行きたい。言って褒めてやりたい。褒美をやると言ったら
彼はまた頭を撫でてくれと要求してくるだろうか。そうだとしたら、撫でてやらないといけないな……。
「先輩ッ!!」
「晴嵐くん!」
「い、今…勝ちましたよ!!俺!!!!」
彼はみんなからの祝福を受けた後、私の元へ駆けつけてくれたのだろう。
「狩羅、おめぇの毒のおかげだ!あれがなかったら絶対に勝てなかった」
「そうか…ま、龍二にやったお膳立てがててめぇの役に立っただけだろ」
「龍二と車田、三浦はどこっすか!?」
晴嵐くんは随分と元気なようだ。
顔をきょろきょろさせて車田たちの場所を聞く。
「車田さんたちは、違う医務室に移動しました。ご案内しましょうか?」
「あッ!ありがとうメアリーちゃん!!じゃあ先輩!俺、行きます………ね」
私の手をとってそういってきた晴嵐くんは言葉の途中でふらぁーっと意識を失って、私の上に倒れる。
「…やっぱり、傷だらけで無茶してたんですね。私が治療します」
そういってメアリーは晴嵐くんに能力を使った。
私の布団に身体を乗せて休ませている晴嵐くん。頭が手に届くな…。
「本当に……お疲れ様。晴嵐くん」
私は彼の頭を何気なく撫でてみる。いつも思うがつんつんとした髪の感触だ。
晴嵐くんは疲れきったように寝息を立てている。その顔は満足そうにしていた。
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「…はぁー、俺は…負けちまったのか」
「黄鉄さん!!」
「黄鉄のだんなぁー!!!」
「あぁ…てめぇら。何泣いてんだよ?」
「だってぇー!黄鉄さんがいなくなっちゃうんだもんー」
「そうだぜ旦那ぁー!もっとこの世界で一緒に暴れましょうよぉー!!」
目を覚ました俺の前で、瞳と福籠がわんわんと泣き喚いていた。
あぁ、アンデルセン。だから言ったんだよ。人の上に立つな。
こうして負けたとき、下の奴が悲しんじまうじゃねぇか…。
「やはり…引退なさるのですか?」
そのとき、横のほうから声が聞こえる。
俺の隣のベッドで寝ていた飛来が俺の顔に見ずに言っていた。
流石最年長というだけあるのか、瞳や福籠みたいに泣き喚いたりはしていなかった。
「あぁ、もう十分だ。これで俺が残っていたら示しがつかねぇよ。無敗の王者。初めての敗北でここに沈むってな」
「…そうですか」
そういうと、飛来は自分のシーツをぐっと握り締めた。
「なぁ…飛来。おめぇ明日もここに来い」
「え?」
「いいか、俺が引退したからって、てめぇらはやめるんじゃねぇぞ?
それに俺はこの世界をやめるだけであって、別に死ぬわけじゃねぇんだ。いつでも会いに来い」
「「黄鉄さぁーん!(のだんなぁー!!)」」
泣きながら瞳と福籠が俺に抱きついてくる。
ボロボロの身体だから抱きつかれると痛いんだがな……。
黙っていた飛来のほうを見ると、何かを耐えているだった。
「…………はいッ!!」
その返事をした顔はうつむいていたが、シーツを見てわかるほど、涙を流していた。
これで、三日に及ぶ長い長い童たちの喧嘩は終わった。
ばらばらだった無法地帯のビルは、最強の男ヘラクレスを倒した不死鳥によって治められた。
ビルの者たち全員が三日目の大激闘を胸の中に刻み込み、勝利したモノをたたえた。
そして、倒された厄災、神の子もビルの者たちの伝説として語り継がれていく。
無敗伝説。その最強の異名を持つ男を人々は尊敬し、讃え、彼の引退を涙した。
彼の名を、最強の男……《ヘラクレス》こと、本郷黄鉄と言った―――――――――――。
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あぁー疲れた。
童戦祭を終えて、治療してもらったとは言えまだずきずき痛む身体のまま家の近くの道を歩く。
そのとき、真っ暗な公園で何か灯りがあるのがわかった。俺はもしかしてと思ってその場に向かって小走りする
「おっ、坊主じゃないか。久しぶりだな」
そこには、5日前。同じこの場所で焼き芋を焼いていたおっさんの姿があった。
元スカイスクレイパーの参加者だった彼と俺はその日、熱く語り合ったのを今も覚えている。
「お久しぶりです。また焼き芋っすか?」
「あぁ、この時期は美味いんだ。ほらよ」
そういうと、もう焼きあがっていた焼き芋をくれる。
うぅーやっぱりうめぇ!!!
「それで?俺に会ってない五日間はどうだったんだ?スカイスクレイパーは??」
俺はその言葉を聴いて、熱い焼き芋をごくりと飲み込む。
「聞いてください!この間、祭りだったんですよ!!うちのビルでかなり強い《ヘラクレス》って人がいて
その人がやった祭りで、いろんな奴と闘いまくって……すごかったんですから!!」
「なら、聞かせてくれよ少年。君がすごしたって言う『祭り』を」
俺はそのおっさんに語った。語りまくった。
いろんなドラマがあったんだ。ライバル同士の闘い、師弟対決。そしてヘラクレスの猛攻。
敗北していった者たちの涙。それぞれの信念。そのとき俺がどう感じたのか。
たった三日間のことなのに、語りつくせないほど、あの三日間は楽しかった。凄かった。
こうして、誰かにそれを伝えることが出来るのが、ここまで楽しくて、うれしいことだとは思わなかった。
「……そうか。《ヘラクレス》はあの世界を引退するのか」
「えっ?おっさんヘラクレスのこと知ってるんですか?」
「あぁ、昔っからの友人だ。俺のな」
「なら、言っておいてくれませんか?」
「ん?何をだ??」
「…みんな、本当に『楽しかった』って。あの人のおかげで俺はまた強くなれた。みんなも楽しんでいた。
みんな、ビルの人全員あんたに感謝してるって……伝えておいてください」
俺がそういうと、おっさんが少し呆然としていた。と思ったら数秒して噴出すように笑った。
「そうか。あいつ人の上に立つのは嫌とか言ってたくせに……みんなに慕われてんじゃねぇか」
彼はそういって月を見上げた。俺も思わず真似して見上げる。
本当に綺麗な月だ。ヘラクレスさんの引退を祝っているかのように…。
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「……っつってたぞ。黄鉄」
「…そうか。あいつがな」
「良い奴じゃねぇか」
「そうだな…あいつは良い奴だ。昔のおめぇを見てるみたいでな」
二人で酒を交わしながら話す。
本当に気分がいい。敗北したのにこんなに気分がいいのはなんでだろう。
「決心はついたんだな」
「あぁ…俺はもう不要なんだよ。孤高の化け物は人に《集団の強さ》を教えるためにいるもんだ。
猿蟹合戦とかそうだろ?賢い猿も、一人で倒せなくてもみんなで協力すればこらしめれる。
俺は強い『猿』で、あいつらは協力することを覚えた『蟹たち』なんだ。これでいい。猿は黙っていなくなる」
「お前にしては良い例えだな。
そうだ、あの猿蟹合戦はそういう意味なんだ。
一人じゃ倒せないような悪も、協力すれば倒すことが出来る。
今の世界…これができてねぇ奴が何人いるんだろうな……」
「悪に屈しないために悪に染まる。確かに、そういう奴ばっかなのかもな」
俺たちは酒を飲んでるせいで随分とまじめな話をしちまっているが、楽しい。
「そういう奴を……俺は救いたかったんだけどな」
奴は悲しい顔をして酒を飲んだ。
「てめぇのやり方は少しだけ間違えたんだよ。そういう奴を救うのは上に立つ人間じゃない
『横に立つ人間』……なんだ。学校で言えば教師じゃねぇ。同じ生徒なんだよ。奴らはやってくれる」
「それで黄鉄?お前に一つ提案がある。おめぇの後釜を任せる奴らに向けてな」
「あぁ、おめぇの言わんとしてることはわかってるさ。明日、やる」
「…そうか」
そういいながら俺たちは酒を酌み交わした。
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翌日。
俺は、黄鉄さんに言われたとおりビルにきた。
昨日あれだけの騒ぎをして疲れた者も多いのか真昼間でここにアクセスするものが少ないからか。
過疎したビルのようにあたりに人はいなかった。
そんなとき、俺の顔がモニターに映る。対戦相手は。
「き、黄鉄…さん?」
俺は、急いで会場へと向かった。
「よぉ」
俺が現れてすぐにそう挨拶してくる黄鉄さん。
「なんで、あんた引退したんでしょ!?」
「あぁ、今日で引退だ。この試合を最後にな」
「…………」
「俺もてめぇもメアリーのおかげで全回復だ。
それにあたりは誰も見ていない。童戦祭の反省会だ。な、おめぇら」
そういうと、俺の後ろから足音が聞こえてくる。…二人分。
「…お前たち!」
「えへへぇー。拓海さん♪驚いてますね」
「無理もねぇっすよ。俺らも知ったのは今日、今さっきなんすから」
笑いながらそういう二人。
「新しいビルマスター晴嵐に頼んでな。一対三の変則マッチを行う!!」
『ってなわけで☆審判はこの僕♪ジャックランタンが行うよぉー』
「っ!?おめぇ!?」
『本当は飛来に教えてあげてもよかったんだけどねぇー♪
昨日急遽ヘラクレスが僕に言ってきたからさ!』
「そういうこった。てめぇらはこれから俺の名を背負いながらこの世界を駆けるんだ。
俺の強さを直にしらねぇんじゃいけねぇだろ??」
「「「………っ!」」」
俺たち全員、黄鉄さんのオーラで顔が強張ってしまった。
「…わかりました。俺はずっと願っていたんです。あなたとの再戦。……本気で勝ちに行きますよ」
「んいっ☆あたしたちも負けないよぉー!!」
「俺の運が今日最高なんだぜ黄鉄さん!」
「さぁ………来い!!俺のガキ共!!!」
そして誰も見ていない会場。
そこで、おれたち《三人将》と《ヘラクレス》の闘いは延々と続いた。
死闘のはずなのに、黄鉄さんは笑っていて、俺たちも笑いながら涙を流していた。
その勝敗を知るものは、ジャックランタンを含む俺たち4人だけだった。
これは、たった一人で覇を貫き通した男の最後の物語。
ビルに慕わぬものなしの最強の男の最後の物語。
優しくて、強くて、みなを照らし続けていた男の物語。
そして、時代は変わる。受け継がれる。最強の伝説は受け継がれていく。
彼の強い意志は受け継がれている。………彼のいたビルの全ての人間に。
これはたった一人の男の物語。たった一人、皆を照らし続けて生きた《英雄》の物語。
ってなわけで終わらせていただきました。童戦祭。
ブログの方ではだいぶ前に終わっていたんですけど、こっちに書くの本当に時間かかりました。楽しみにしていただいている方は申し訳ございません。
さてさて、次の物語ですが、次は今回出てきた
ジャージこと三浦秀人くんがかかわってくる!?ので
楽しみに思っておいてください♪♪('ω')ノ
最後に、カッコいい英雄ヘラクレスこと本郷黄鉄の言う
猿蟹合戦の話、出来たらこれを読んでくれた人には意識してほしいと思います。
まだまだ未熟な俺が思う持論なんでちょい恥ずかしいっすけどね♪
じゃ、次回をお楽しみください!!><




