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一章~蛇編・後編~

前回の前編をミスって連載にできてなくてすいません^^;


なのでこっから読んでくだされば助かります…。

読んでくださる方々に改めてお礼を申し上げます。


動き出す組織《蛇》、彼らに挑むは明知晴嵐!

彼は蛇に勝つことができるのか!?そして蛇道狩羅の能力とは!?

夜の東京で繰り広げられる闘技場超能力バトル!

第一章・後編、ここに開幕!!



「……車田が!?」

俺は医務室でRBから聞いた一言に驚いた。

意識は戻っているが、不意打ちで『毒』を盛られたのが苦痛なのか、未だに痛みが癒えず医務室生活だそうだ。

そして俺も毎日のようにRBのお見舞いとしてここにきたときに、俺は彼からそんな事を聞いた。

「うん。先日、バイクで転倒して怪我を負ったらしいんだ。僕もネットからの情報なんだけどね…」

「ど、どうしてあいつが……」

「……『蛇』の仕業かもね」

「――っ!?」

俺はその単語に酷く驚いた。

『蛇』。RBをこんな状態に陥った原因ともなる『派閥』の名だ。

黒金先輩がこのビル内の実質TOPらしい。それが現在いないのをいいことに動き出したんだとRBが言っていた。

そしてそいつらがなんで……車田を!?

「…危険因子と判断したんだろうね。力のある新人で、しかも明知さんと一緒につるんでいる車田さんは

 もう他の奴らから見れば車田さんも『ピクシー陣営』扱いされつつあるんですから。当然でしょうね」

「……マジかよ…くそっ!!」

俺は悔しそうに拳を握る。

しかもリアルでやられているのが悔しい限りだ。



俺は静かに席を立った。

「ん?どうしたの?明知さん」

「…RB。車田の病院ってわかるか?」

「近所の大型病院だよ。怪我はしてるけど人体に響くほどじゃないって医者もいるんだからさ」

「わかった。サンキューな」

俺はそういって医務室を去っていった。





--------------------------------------------------------------------------------




「…よっ」

俺は病室の扉を開けて小さく手を挙げる。

雑誌を読んでいたのか、雑誌から俺に視点を変えると驚いたように顔が豹変する。

「お、お前…なんで!?」

「RBに聞いたんだよ。大丈夫か?」

「あぁ、まあ軽症っちゃあ軽症だ。包帯は巻いてるが、骨が折れたわけでもねぇしな」

「そうか。なら安心した。それで……何があったんだよ」

俺は単刀直入に聞く。

車田が、なぜこのような状況に陥ったのか。本当に『蛇』の仕業なのか。その一部始終を知るために



「あぁ…まあいい土産話になるな。話させてもらうぜ」

車田はそういうと、持っていた雑誌の端を折って、ベッド隣のスペースに置いた。







ある日の夜。

「やっぱいいねぇー風は♪」

俺、車田清五郎はバイクに跨り道路を走り続ける。

メット越しでも感じる空気を切り裂く風の勢い。とても気持ちがいい。

これが俺の趣味であり、日課みたいなものだ。バイクでその辺を適当に走る。それだけで気分が晴れる。



「ふぅー!…『蛇』ねぇ……」

俺は公園でバイクを止め、メットを取るとそんな言葉を思わず呟いた。

俺が組んだ男が、『蛇』だった。それに気付かずに俺は『蛇』とRBを引き合わせちまったわけだ。

まんまと利用されてしまったってことだ。少し悔しい…。

「車田ぁ…そんなに『蛇』が気になるかぁ?」

独りでいたはずの暗い公園で、突如そんな声がした。

声の方を見てみると、何もない影からフードをかぶった男が現れる。俺とペアを組んだ男だ。

「…何のようだ」

俺は少し苛立ちを覚え、奴を睨む。

「そう睨まないでくれよ。なぁ……車田。狩羅さんからお前に言いたいことがあるそうだ」

「俺に?」

「あぁ……『蛇』に入らないか??」

「――っ!?」

そう。俺はこのとき、奴らにスカウトされたのだ。

彼はそのまま言葉を続ける。

「お前は有能だ。もうフリーの参加者にしておくのは勿体無い。どうだぁ?狩羅さんがお前を見込んでんだ」

フードの男は下卑た笑みを浮かべ、俺を見る。

いや、実際には目もフードで隠れているから見ていないのかもしれないけれど。

「…へっ、お断りだぜ。俺はもとよりフリーでやるつもりだ。てめぇらにも付かないし、ピクシー側にも付かない」

「ほぉ……そうか。それは悪かったな。それじゃあ」

そういってフードの男は去っていってしまった。

俺も、もう一度メットをつけて、バイクに跨り、エンジンをかけ、道路を颯爽と走る。



(……なんだったんだ?今のは??蛇のやろう…本気でピクシー共を喰いに来てるな。…胸糞悪い)

俺は、純粋にゲームを始めるためにあの世界に入った。決して金が欲しいわけでもなんでもない。

ましてや名誉もいらない。蛇道狩羅、奴は金も名誉も欲しいみたいだ。だから人員を集め『蛇』と言う組織をつくり

『ヘラクレス』『ピクシー』の次には並べるほどの実力を手に入れていた。

そしてあのビルは特にそういう組織類が欠けている。みんな個々に行動してるのが多い。

組んでも二、三人だ。あいつら『蛇』はそれとはまた違う。奴らの数は本当にわからない。

正直に言っちまうと、組織的に考えても、あのビルのボスは「狩羅」と言っても別に過言ではないのだ。

しかし、やはり自分よりも実力のある奴らが二人もいる。それが彼を未だボス面させてない所為なのだろう。

(『強さ』よりも『勝つこと』に執着しやがって……)

俺はイラついてきて、さらにスピードを上げる。

そんなときだった。

俺の隣に、一台の真っ暗なバイクが並んでいた。

乗っているのは真っ黒なスーツを着ていたヘルメットの男。


その直後、一瞬にして俺は空中に浮いた。ほんの一瞬のはずなのにとてもその時間が長く感じた。

そして浮いた俺が視認したのは、俺の隣にいた男がそのまま走り去っていくことと………。

バイクの後ろに『蛇』の形をしたステッカーが貼られていたことだった―――――――――。






「その直後俺は地面に叩きつけられて、ごらんの状況ってわけだ。なっさけねぇ…」

自分に呆れたように溜め息を吐く車田。

「悪いな…てめぇが俺と一緒にいてくれたせいで……」

「へっ!気にしてねぇよ!!フリーのほうがこういう抗争に巻き込まれなくていいと思ってたが、

 どうもそれは今日限りみたいだな。完全に俺は『ピクシー側の配下』って扱いをされちまったぜ」

俺は車田の言葉に怒りがこみ上げてきた。

もちろん車田にではない。『蛇』に対してだ。

ここまで卑怯なことをするのか。あの野郎たちは!!!!

「……俺さ。お前との戦闘の痛みもあってここ最近会場には行ってねぇんだ…」

俺の突然言った言葉に少し戸惑った車田は顔をしかめる。

「…今俺が会場に行けば、運営側は俺にバトルカードを振ってくれるだろうぜ」

俺はそういって病室を去ろうとする。

「おいっ!待て!お前まさか!?」

「あぁ……今から手当たり次第『蛇』共をぶっ潰す!!」

俺は毒島の顔を見ずにそのまま病室のドアを閉めた。





--------------------------------------------------------------------------------





「それでは、バトル。開始です」

俺1on1で選ばれて会場へ転送される。

もう独りの男。いかにも柄の悪そうな男だ。

「てめぇ……『蛇』か?」

俺は静かに問い詰めた。『蛇』にはその名の通り蛇の刺青や装飾物をつけてると聞いていたが、

長いパーカーにジーンズパンツのせいでそれが確認できなかった。

「さあ?どうだろうなぁ??」

男は卑しく笑みを浮かべて俺を睨み、そう言った。俺はこいつが『蛇』であると確証した。

俺は自分の親指の皮膚を噛み千切る。そしてそこから流れる血を、刀に塗る。

その直後、刀は黄金の炎に包まれた。感情が籠もっているのかいつもより激しい気がする。

「悪いけど……てめぇらだけは許せねぇ!!!」


そして俺はそいつに向けて刀を振り下ろした。

相手は自らの腕をこちらに向けて放つ。すると突然腕が伸びだした。

俺はその相手の伸びた腕を避けて、『傷炎刀』で切り落とす。

「ぐあぁぁぁぁ!!!!」

相手が痛そうに悲鳴をあげる。けれどそんなことはお構いなしに、俺は相手の腹部を突き刺す。


「Win!!!」

舞台の音声装置から大きくそう響き渡った。








--------------------------------------------------------------------------------



「ちわーっす。狩羅さん」

「おう、古田。なんだ?」

古田と…と呼ばれたフードの男は軽く狩羅に挨拶をした。

そしてそれに答えた狩羅を確認すると、彼は自分が持ってる情報を狩羅に知らせることにした。

「明知晴嵐…あいつが動きました。ここ数日過剰なまでの会場に依存。

 新人、しかも最近来ていなかったのも考慮されて、かなりの数の戦闘を行っていて

 相手が『蛇』と判断するやいなやまるで鬼のごとく暴れているそうです」

「…けっ!一丁前に『蛇狩り』でもしてんのかあいつは」

狩羅は下卑た表情で高らかに笑う。

そういえば昔、ピクシーがまだ新人だった頃も、こんなことされたっけか。

《貴方たちには、プライドはないのか?私はお前たちを許さない》

ちっちぇ蛙の癖にうざいのなんのだったぜ……。


蛙の子は蛙。ピクシーが推薦してつれてきたやつらも結局俺たちにとっては『蛙』なわけだ。

つまりどういうことかって?『捕食対象』ってことだ。

「さぁ……これで閉めるか。そろそろ俺の飯の時間だ」

そういって狩羅はソファーから立ち上がり、その長身を猫背にして歩き始めた。

「そうっすねぇー俺らにも残りくださいよぉ?」

歩いている狩羅の後ろを古田が付いていった。





ついに、『蛇』の親玉が動き始める。

シャー!と刻一刻と、這い続ける蛇のように―――――――――。




                   ☆




「うらぁぁ!!」

俺は炎の纏った剣を振り回す。

相手もそれを避けてこちらとの距離をとる。

相手は爪が物凄く長く、鋭い形状になっている。まるで熊みたいだ。

その爪で俺の身体を切り裂く。とてつもない痛みが全身を襲う。


俺はその傷を一気に炎に変え放出する。

そのまま俺は炎で速さを加速させ、相手の胴体に大きく切りかかった。

「…Win!!」

響く音とともに俺は元いたビルに戻る。



戻った直後、切り裂かれた身体の痛みが襲ってくる。

俺は苦しげに服を強く掴んだ。

「絶対に……やってやる…」

俺の標的はただ1つ。『蛇』だ。あいつらを倒さなきゃ俺の気がすまねぇ



「…また派手にやったの?」

医務室にいると、車椅子に座った男がこちらに近づいてきた。RBだ。

「…なんで車椅子なんだ?足になんか異常でもあったのか?」

「いや、違うよ。ただ…歩くと痛みが響くからね。こっちの方が楽なんだ」

「そうか。特に異常はねぇんだな…よかった……」

「君こそ、最近は鬼のように動いてるって言うじゃないか」

「当たり前だろ?お前も車田もこんな目に遭わせた『蛇』を許せるかよ」

「まあ車田くんのは僕も思うところあるけれど、僕の件はまた別だ。

 僕が単に油断していただけ。スカイスクレイパーで僕はただあのフードの男に負けただけだからさ」

RBが俯きながら言った。

俺が奴らに怒りを向けていた間に、そんなことを考えていたのか…こいつ。

「まあ、僕はもう大丈夫だからさ。車田くんの方はどうなの?」

そういいながら、話の趣旨をずらしにきたRB。

「あぁーあいつも順調みたいだよ。ナースさんが可愛いからまあいいか。とか言ってた」

「そう、。それはよかったよ…」

本当に安心しきった様子で微笑むRB。

『ピクシーの正式配下』であるRBにとって、関係のない車田を抗争に巻き込んだのはいたたまれないのだろう。

俺はそのまま医務室を去ることにした。

軽症だったおかげか、もう大分痛み自体和らいできた。



まだまだ俺は―――――『蛇』を狩る。





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「…学習しねぇなぁ。あのメガネに車田。二人やられてるんだから自分もやられる未来ぐらい見えるだろう」

闘っている映像を見ながら呟く。

その闘っているのは数日前から偉く積極的に参加している明知晴嵐と自分の配下『蛇』の闘いだった。

本当……豪快な闘い方をする。明知晴嵐。

あの豪快さ。まさに今TOPに躍り出ている『ヘラクレス』『ピクシー』と同じ様だ。

俺、蛇道狩羅は周囲から『No3』と呼ばれはするが、彼にはこの豪快さはないに等しい。

そう。俺は結局『蛇』なのだ。どう例えたとしても、蛇なのだ。

『ピクシー』は名前とは裏腹に動物に例えるなら象。いや、カバと言ったところだろうか。カバの方が凶暴らしいし。

『ヘラクレス』はもう動物にも例えることが出来ないほどの化け物だ。あえて例えるならライオン。まさしく獅子王だ。

それに比べれば自分なんぞは所詮は『蛇』。ただ……その蛇を舐めてる野郎どもに教えてやりたい。

アフリカのとある蟻は一匹で蟷螂を殺せるというように。

蛇だって……簡単に、象やライオンをぶっ潰すことが出来るということを。



「さてっと……始めるか」

俺はそのまま立ち上がり、とある場所に向かった

その場所は『強制バトルカード受付』これが俺にとって、奴ら『ピクシー』にチェックメイトを打つ一歩となるのだった。





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もう何日経っただろうか。と言っても車田の件から一週間も立ってはいない。

幾度となく闘い続けたからか、傷の痛みにも少しずつ慣れてきている。ようは苦しくないと思えば痛みは感じない。

まあ少々の痛みだけしかそれは効果がないのだけれども………。


今日も俺はバトルでポイントを稼ぐのと、『蛇狩り』を目的に今対戦カードが書かれたモニターを見る。

「……」

俺は目の前のモニターに自分の顔が映っているのも確認した。

その隣の画面に映っているのは知らない男だった。ただ…物凄く性格悪そうな顔をしている。

「おい、あれって……」

「あぁ、狩羅だ。あの野郎やっと表舞台に出やがった」

「そういえば最近あの『ピクシー』と一緒にいたRBって奴が蛇にやられたって聞いたぜ?」

「そろそろ本格的に攻めてきたのかもなぁ…『蛇』」

野次たちがそんな言葉を投げかけあっていた。そうか……あいつが蛇道狩羅!!

やっと引っ張りだしてきてやったぜ!奴の藪から!!

俺がそう心を躍らせていると、画面に描かれている文字に気付いた。『松竹梅』?

「…明知、晴嵐くん。だよね??」

そんなとき、声をかけられた。いかにも爽やかそうな青年だ。

「僕は小藪友則って言うんだけど、この後あの『蛇』と闘うんでしょ?」

「あ、あぁ……」

「最近『妖精狩り』を蛇がしてるって聞いたけど…。あ、君が『ピクシー』と一緒にいたのを少し見たのだけれど

 もしかして君も『ピクシー』の配下だったりするわけ?」

小藪と言う男に問い詰められて少し黙る。

配下ってわけじゃあないからなぁ……。ただ、先輩からの恩恵は受けているのは間違いないし……。

「あ、あぁ…」

俺は曖昧ながら返事をした。理由は簡単だ。本人すら曖昧だから。

「でもそれだと君誰と組むの?あのメガネの子ってこの前やられてたよね?

 それに君といっつも絡んでいた車田くんも、最近なぜか見たくなったし……」

「組む?」

「あ、もしかして『松竹梅』は始めてなのかな?うん。ここは君より弱いかも知れないけれど先輩として教えてあげる。

 松竹梅ってのはまあ簡単に言えば『三本勝負』三人VS三人で三試合行って勝ち数の多いほうが勝ちってルールだ ペア戦みたいに、主がまけたらその時点で終わりってルールもない。本当にただの三本勝負ってわけ。」

爽やかな青年。小藪さんはそういって優しく俺に教えてくれた。

それなら俺も二人の仲間を集めないといけなくなったってわけだ。けれどRBも車田もいない。…誰と組もう……

「よかったら、俺と…もう一人知り合いいるから組んであげようか?」

「えっ?」

「ほら、僕たちも実は蛇のやり方には酷く毛嫌いしててね。ああいうのを学校とかじゃあ『不良』って言うじゃん。

 僕らだけだったら因縁もないし、歯が立たないかも知れないけれど、君の闘いを見てて、君ならできるんじゃないか

 って思ったんだ。実は最初から僕は君と組んで狩羅を倒すために声をかけたんだ」

彼は俺の目を見てそう言った。

そうか…やっぱり狩羅のやり方を快く思ってない人間は沢山いるんだ。

この人と、そのもう一人が強いかどうかはわからないけれど、どうせ俺は組めるような奴がいない。なら―――。

「そうですか。ありがとうございま――――――」

「ちょっと待って!!」

俺が友則さんと握手しようとしたとき、聞き覚えのある声がその間に割って入ってきた。

声の方を見てみると、そこには車椅子に乗っているRBだった。

「そうだそうだ。生憎こいつのチームは既に満員だ。てめぇらの気持ちだけは受け取っといてやるよ」

その言葉を聞こえた直後、俺の肩に誰かがもたれかかってくるのがわかった。

「く、車田!?」

「よぉ、観戦する気分で着てみたら、面白いことになってんじゃねぇか」

車田は余裕ぶっこいた顔をしているが、全身とても苦しそうだ。骨は折れていないと言ってもやはり怪我人なのだ。 「……よかったね晴嵐くん♪きちんとパートナーが見つかって。

 けれど車田くんもそこのメガネくんも大丈夫なの?随分と痛々しい姿をしているよ?」

友則さんはそんな言葉を二人に投げかける。優しい口調ではあるのだが、先ほどまでとは違い…少し怖い。

「大丈夫です。この状態でも貴方よりは強いですよ。」

RBが友則さんを睨みながら言い捨てた。その言葉に友則さんは一瞬顔を歪ませる。

「そ、そう。言ってくれるねぇー。まあ確かに君たちがいれば明知くんも安心だ。

 僕は大人しく君たちの闘いを見守らせてもらうとするよ…」

そういって友則さんは去っていった。


友則さんは、俺達には見えないように小さく「ちっ」と舌打ちした。




「さあ!この三人で狩羅のやろうぶっ潰すぞぉー!!」

車田が大きな声で腕を掲げながら叫んだ。

しかしその直後身体がよろめく。やはりまだ痛みが癒えていないのだろう。

「さあ!俺もあいつらに仕返ししてやりてぇし!!楽しみだぜぇ!!!」

「てめぇはダメだ車田!」

突然大きな影が現れて車田の頭に強烈なチョップが放たれた。

車田が頭を押さえて振り返ると、そこには……

「……『ヘラクレス』…」

俺は思わず呆然としてただただ彼の2つ名をつぶやいた。

「よっ、えーっと。明知だっけか?金がやばくなったから着てみれば面白いことになってんじゃねぇか…」

ニカァーっと笑いながら俺たちを見下す『ヘラクレス』

俺たち三人はその姿にただただ驚くことしか出来なかった。

「それで、だ。車田」

急に空気を変えるかのように話を始めだすヘラクレス。

「な、なんだ?」

「てめぇはこの『松竹梅』出るな。俺が変わりに出る。」

「「「――っ!?」」」  

俺達三人はその場で絶句した。

今この人……なんつった?

「車田の身体じゃあとてもじゃねぇが戦闘なんか無理だ。

 見てるだけでわかる。ボロボロじゃねぇか。しかも傷が消えてないところを見ると、外部で受けた怪我。

 ここで痛みが蓄積されて、その外部で受けた怪我が一生もんになることだってあるんだぞ??わかってんのか?」ヘラクレスのありすぎる気迫で話しかけられている車田は、きっと説教を受けている気分なのだろう。

本人はそんなつもりないのだろうけれど、直接言われてない俺ですら説教してる教師以上の気迫が感じられる。

「車田さん。ここは『ヘラクレス』の言う通りにしたほうがいいかも知れません。

 それに、貴方がまだフリーの参加者でいたいなら言う通りにしておいて損はないです。

 この闘いで貴方が無茶してでも出れば相手はもちろん試合を見てる人全員が今はにわかな噂になってる

 車田清五郎は『ピクシー陣営』だ。と言うものがほとんど確証的なものにされてしまいますよ?」

RBも車田にそういって追い討ちをかける。

確かに今の車田を参加させるのは酷だ。

勝てても負けても車田は外にまで響く大怪我をするに決まってる。安静にしといたほうが得策だ。

「……わかったよ。『ヘラクレス』の旦那に言われちゃあ断ることもまず出来やしねぇよ」

少し残念そうだったが、そういって車田は会場の外へ去っていってしまった。

悪い。車田、てめぇの仮も俺がきっちり返してやるからな。

「じゃあ行くかてめぇら!!楽しい楽しい喧嘩の始まりだ!!!!」


『ヘラクレス』は高らかにそう叫び、戦闘会場へと向かった。

喧嘩が楽しいとか言う人リアルで初めてみたよ……。と呆れつつ俺とRBは彼についていく。





そして『蛇』との直接対決が今……はじまった―――――――――     



                    ☆


『それでは、松竹梅の説明をさせていただきます』

『まず先鋒「梅」、そして次鋒「竹」そして大将戦として「松」を行います』

『各種一人づつの参加となり、先に二勝しても大将戦がなくなるわけではございません』

『そしてこの闘いの戦歴は、通常の1on1同様にポイントを課せられるようになりますので頑張ってください』

放送が、流れ俺たちに『松竹梅』と言うバトルスタイルを教えてくれる。

用は剣道とか見たいなもんだって思っていいのかな??

『それでは、「梅」「竹」「松」の選手をそれぞれ選択してください』

そういわれると、携帯からメールが来て、どれを選ぶかと言う内容のメールがある。

「……僕が「梅」に行きます」

最初に口を開いたのは車椅子に乗っているRBだった。

「…大丈夫なのか?」

「うん。僕もそろそろ、君に強いところ見せてあげないといけないんだよね」

そう微笑むRB。

そういえば僕は未だにこいつの闘いを見てはいない。どうやって闘うのだろうか?

「なら、俺が次鋒だな。流れだし」

そういって言葉を繋げるヘラクレス。

「じゃあ……俺が大将っすか…」

「あぁ。これはピクシーと蛇の問題だ。俺が大将として蛇を倒しても後味悪いだろ?」

ニカァっと笑ったヘラクレスはそのまま俺を見る。まるでガキ大将のような目だった。

「わ、わかりました……全力を尽くします。」

俺はそう小さな声で呟いた。

『それでは最初の試合開始は五分後。それまで休憩してくださいませ』





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「どうしますぅ?狩羅さーん」

「…古田。てめぇが最初だ。」

「お、マジっすか。それの理由は?」

「……向こうの一番手…間違いなくあのメガネだ。二番手は誰だかわかんねぇな。

 ピクシーが戻ってきたって情報はねぇ。それにここに来る前に車田清五郎が立ち去るのを見た。

 っとなるとピクシー勢はあのメガネと新人の二人。後一人は誰か想像がつかねえ……。

 そして大将戦はあの新人だ。俺が大将戦をするとして……二番手は飛来のような奴が向いてる。

 あんまり相性にこだわらないだろ?お前のは??」

「はい…。大丈夫ですよ。狩羅さん」

飛来と呼ばれた男は、狩羅の目を見て返事をした。

「てめぇとしては初戦で負けたあの新人へのリベンジを願ってるだろうが、今回は真剣だ。

 俺があいつとやったほうが効率がいい。すまねぇが我慢してくれ」

「……わかりました。」

『第一試合を開始します。「梅」の方々をこれからバトルフィールドに転送します』

「お♪俺の番っすねぇー♪じゃあ狩羅さんちょっくらいってきまーっす」

そういって古田良介は転送された。







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「……今回は建物内なのか…」

車椅子に座っている僕、RBは辺りを見てそう呟く。

「へぇー♪狩羅さんの言うとおりメガネの君が着たんだぁー♪」

僕はその声に気付き、彼の方を見る。フードを顔を隠している。

雰囲気が少し違うがこの声…間違いない。僕に毒を持った本人だ。

「あれ?初めてあったときと雰囲気違うとか思っちゃった?ごめんねぇー

 あれはキャラ作りなんだぁーやっぱ仕掛ける先鋒ってちょっと不気味なほうがいいっしょ?」

フードを取ると、爽やかな顔をしていた。あのとき見た顔ともまったく違う。

「あぁーそれこれね♪どう?上手くできてると思わない??」

そういって彼は何かを僕に見せてくる。顔のマスクだ。くしゃっとなってるが、僕が見た顔と一致していた。



「じゃ♪今回は真面目に闘おうかな♪カメラにもここは撮られてるし」

そういうと、古田は指をパチンと鳴らす。すると床から奇妙な液体があふれ出てくる。紫で粘着質な液体だ。

「僕『召喚系』の能力なんだよねぇー。こいつはスライムの「ポチ」♪♪ま、仲良くやってくれよ」

そういった直後、そのスライムは僕に向かってその物質を伸ばしてくる。本当に気味が悪いな。

「……出でよ。馬頭牛頭」

僕は小さな声でそう呟く。

車椅子に座る僕の横に魔方陣のようなものが現れる。

スライムが僕の目の前まで襲い掛かってくる。しかし、その攻撃は僕に届くことはなく、何かに切断される。

「……う、嘘でしょ?」

古田は驚いたように僕を見る。

僕の左右横には、2mを超える大きさを持った顔が「牛」と「馬」になっている化け物が並んでいた。

その二匹は大きな斧を携え、じっと古田を睨みつけている。

「…こいつは驚いた!?まさかの複数召還師かい!?ほんっと、ピクシーのところは「異能系」が多いなぁー!」

わざとらしく驚いた古田は、またわざとらしく笑ってみせる。

「でも、やっぱり俺は負けられないんだよねぇー!!狩羅さんのためにもねぇ!!!!!」

そう叫び、彼のスライムはさらに大きさを大きくする。

「馬頭。行け」

僕は馬頭に命令を下して、彼を向かわせる。

馬頭はスライムをその大きな斧で切り裂く。

ベチャベチャ!!っと飛び跳ねたスライムは動かなくなった。

そのまま馬頭は本体である古田に目掛けて突進する。

「……甘いよ。そんな安易な方法では流石の僕さえも倒せない」

馬頭が古田に向けて斧を振り下ろす。

その斧が古田の頭上に来たときだった。古田の前に紫の壁が現れる。

さっき動かなくなっていたスライムだ。スライムに触れた斧がシューと焼けた音を立てて溶けていく。

「これで……チェックだ。」

古田は指パッチンを鳴らす。

すると、馬頭の足元から紫のスライムが湧き出てきて、瞬く間に馬頭を身体事包み込む。

恐ろしい形相で啼く馬頭の声は虚しく、スライムに吸い込まれ、しまいに動きも鈍くなり、ついには止まってしまう。

「牛頭!馬頭の救助だ!!」

僕は牛頭を向かわせる。このままでは馬頭もさっきの斧のように溶かされる!!

牛頭が馬頭の身体を包み込むスライムを取り払うように斧を振り下ろす。

包まれていたスライムから開放された馬頭は動きを取り戻し、

未だ自分の身体に付着するスライムを振り払うように斧を振り回す。

「そう簡単に倒させてくれない……か。でも、これならどう?」

もう一度指をパチンと鳴らす。

するとスライムが数体に分けて終結していき

いくつか出来たスライムが棒状の形式になり、馬頭と牛頭に襲い掛かる。

「馬頭!牛頭!!バックステップだ。絶対にそれに触れるな。そして僕との距離も離れないように!」

僕がそういうと馬頭と牛頭は僕の顔を見て頷く。そして襲い掛かるスライムを避けて僕の方に向かってくる。

スライムは地面に沈んでは足元から現れる。とても厄介だ。

「牛頭!足元から来る!!」

僕の合図とともに牛頭はジャンプする。その足元からスライムが飛び出してきた。

「馬頭!僕にスライムが来る!防げ!!」

その言葉に馬頭はすぐさま僕の元に駆けつけ、襲い掛かってくるスライムを斧で切り落とす。


縦横無尽に襲い掛かってくるスライム。触れれば溶かされる。とても厄介な相手だ。古田良介。

「君は確かに複数召還師だ。けれど僕のスライムは一体で複数の仕事をしてくれる!!」

本当に、強い。『蛇』にここまでの兵がいるとは思っていなかった。極力目立たないように行動してたのだろう。

僕でもこいつのことは眼をつけていなかった!!

「ほらほらぁ!君の大事な駒が溶けちゃうよ??」

スライムの動きは次第に速くなり、さっき攻撃を喰らった馬頭は追いつかれていく。

掠れて触れるスライム。掠れたところから聞こえる焼ける音。

牛頭も少しずつ距離を詰められているのが窺える。

僕への配慮も気にしているのだろう。忠義心が強すぎるのも問題だな。

目の前の敵よりも、僕を優先してしまっている。

それにしても、古田も実力が測れる。

僕は彼を見つめる。彼の横には、恐らく必要最低限であろうサイズのスライムがたたずんでいた。

恐らくこちらが攻撃してきてもあれで防いでやるつもりなんだろう。本当に抜かりがないな。

「よし!一人チェックだ!!」

古田が開いていた手を握りしめ、そんな言葉を吐き捨てる。

見てみると、ついに馬頭がスライムに捕まった。焼ける音が嫌と言うほど流れ、馬頭の呻く悲鳴が響き渡る。

次第にその呻き声も消えていき、馬頭が気を失ったかのように首を下げる。そして光に包まれて消えてしまう。

「よし!後はそこの牛だけだぁ!!!」

そういきまいて、複数いたスライムを一箇所に集めて元のサイズに戻して牛頭に目掛けて攻撃する。



「……今だ。ハンゾー」

僕は小さな声で呟く。

その直後だった。

刃物が何かに刺さった音が……響いた。

まるで全ての音がかき消されたかのようにその刺された音だけが聞こえる。

古田は何が起こったかわからず、ただただ自分の腹部を見る。…赤い液体が滲み出ていた。

驚いた彼はそのまま背後を見る。そこには自分にナイフを刺した忍者の格好をしていた男が古田を睨んでいた。

「な、なんだよ……これ…?」

痛みを堪えながら声を出す古田。

彼が傷害を受けたからか、スライムが溶けてただの液体として地面に広がってしまった。

「…防御用の駒『馬頭牛頭』。そしてそれが攻撃用の駒……『ハンゾー』だよ」

僕は小さな声で、けれどはっきりと古田に聞こえるようにハッキリと言った。

僕の能力は『サモナー』。まあこれは普通に配布型の能力だ。

僕一人が所持しているというわけではない。現に目の前の古田も同じ能力だ。

ただ『サモナー』は召喚する駒によって能力に無限の可能性がある。しかし基本は一体しか召喚できない。

しかし、僕はどうやら晴嵐さんと同じように『異能』なようだ。複数の駒を同時に操ることが出来る。

防御用に召喚している駒『馬頭』と『牛頭』。そして暗殺用、攻撃用の駒『ハンゾー』と僕は三体を召喚できる。

これが僕の『サモナー』だ。さっきもこっそり召喚した『ハンゾー』を影に潜ませ、ずっと隙を窺っていただけだった。


「……くっそぉー。僕本体が超弱い…ってのが『サモナー』の弱点だよねぇーあはは…」

痛みで汗が噴き出している古田はやせ我慢なのか、そういって笑ってみせる。

「…最後の最後で、君が油断してしまったからだよ。敗因は」

「あぁー…そうっすねぇー。こりゃ狩羅さんに怒られちゃうわぁー……」

そういって古田は光り始め、そのまま転送されてしまった。



「Win!」

放送で、僕の勝利を讃える音声が、響き渡った。




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「さっすがRB!チョーかっこよかったじゃねぇか!!」

俺、明知晴嵐は戻ってきたRBにかなりハイテンションで話しかける。

いやっ!だって!!かっこよすぎでしょ!?馬頭とか牛頭とかアサシンとか!!!!

「…そうですね。ありがとうございます。先輩」

あっれー。なんかテンション低くない?

「…決してテンション低いわけじゃないですよ。召還してるのもそれなりに疲労するんです」

「そ、そうかぁ…それは悪かったな……」

なんか怒られてないのに怒られた気分だよぉー…。

「ま、勝てたからいいじゃねぇか。さて…二番手は俺っか」

RBの頭を撫でた『ヘラクレス』はその後準備運動のように指をパキポキと鳴らした。



「はい。よろしくお願いしますね、…黄鉄さん」

「お、名前で呼んでくれるか。今後もそれでいいぜ?『ヘラクレス』なんて大層な名は性に合わないしな」

そういって、黄鉄さんは、会場に向かっていった。




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「あぁ?負けただぁ??」

「へぇー、いやぁーすみませんっす狩羅さん。あのメガネかなり強かったんすもん」

「……ちっ、まああの闘い見てればわかる。しゃーねぇーな。反省しとけ」

「ういーっす」

そう軽い言葉を返すも、古田は態度だけは反省の意を見せるように正座していた。

「じゃあ次。てめぇだな……飛来。負けんじゃねぇぞ?」

「……はい。絶対に勝って見せますよ。狩羅さん」

「飛来ちゃん頑張ってねぇー!」

「てめぇは黙って正座してろ!!」

「へいへい……」



「じゃあ、行ってきます」

そういって、飛来は会場へと向かった――――――。



                   ☆




「俺の相手は…誰なんだ」

俺、飛来拓海は少し苛立っていた。

理由はひとつ。狩羅さんが俺に「リベンジ」のチャンスをくれなかったからだ。

あの男。明知晴嵐に簡単にやられたあの屈辱。今でも忘れない。

奴は瞬く間に有名になった。あの『ヘラクレス』に一撃当てた……とか、そんなどうでもいい理由で。

考えてみれば遠系能力を持ってる奴なら新人でも彼に攻撃すればいづれ当てることが出来るだろう。

あんな目立った能力に目覚めただけの奴が、あそこまで持てはやされてるのは許せない。

(狩羅さんが負けることはないだろうから……。ここで勝たないと……誰だ?)



そんな感情を抱きながら。俺は相手の選手を待つ。

転送の光が現れ、そこから徐々に相手が姿を現す…。




「……あ、」

俺は、思わず声を漏らした。

そしてそれと同時に湧き上がる興奮と、世界の終わりを見ているかのような絶望感が同時に襲い掛かる。

「…てめぇが俺の相手か。よろしくな」



そう、俺の目の前にはあの『災厄』とまで謳われた最強の男……『ヘラクレス』がいたのだから――――――。





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俺の目の前に、もう転送された『蛇』側の人間がいた。

至って普通の青年だ。大学生ぐらいだろうか?高校生には見えないが、それなりに若い。

「…へへっ、まさかあんたが相手か…こいつは驚いた」

目の前の男は、ニヤケた顔でそう言った。

俺はその顔を見ただけでそいつを気に入った。

「んじゃま、驚いたついでに楽しませろや」

俺はボクサーのようにファイティングポーズを決める。

「もう…楽しませてますよ!」

そう叫ばれた直後だった。

俺の背中から何か刺さったような痛みを感じる。

肩を見てみると、両方にナイフが刺さっていた。

「……おいおいなんだこりゃ?」

「…はっ、簡単じゃないか。『ヘラクレス』に一発当てるなんて」

皮肉めいた声でそう言った飛来は両手をパーにする。

するとその手元に俺の肩に刺さったナイフを同じナイフが現れる。

なんだあいつの能力……今までに見たこと無いタイプだ。……『異能系』か。

「おもしれぇ……」

俺は乱暴に肩に刺さったナイフを引き抜く。

そしてそのまま飛来に向かって地面を蹴る。

男は突然のスピードで驚いた表情をするも手をガードするが、んなもん関係ねぇ!ブッ飛ばしてやる!!!

拳を振り切り、奴の腕に当てる。飛来はその衝撃に耐え切れず25m以上も地面を無残に転がり続ける。

「……はぁ…やっぱ化け物だ…『ヘラクレス』……」

倒れた男が息を荒くしながらそう言った。

恐らくさっきのパンチで肋骨に皹入ったんだろうな……。

「ただ…ただやられっぱなしも嫌いだ」

にやぁと笑みを浮かべながら言ったそいつは苦しそうに立った。

奴の持っていたはずのナイフがどこにもない。そして腕に微かに痛みが走る。

見てみると俺の腕にナイフが二本。見事に刺さっていた。俺はそれを簡単に引き抜く。

「…力の付きすぎで防御力まであるのかよぉ…勝てる気しねぇ……」

そう弱音を吐いている男。しかし彼の目には絶望感も、諦めも存在していない。



(あいつと……一緒だ)

先日俺が闘った男。明知晴嵐。

俺を前に臆することなく、真正面にぶつかってきた。

ボロボロになっても、自分の攻撃が喰らわなくても、そんなことはお構いなしのように俺に喰らい付いてきた。

その姿に俺は奴を気に入った。そして……こいつもそうだ。

「てめぇ……名前は?」

俺はまた両手にナイフを取り出した男に対して質問をする。

男は最初はきょとんとしていたが、自信に満ち溢れた声で言った。

「俺は……『飛来拓海』だ」

「そうか…気に入った。てめぇは俺がブッ飛ばしつくしてやる」

「やれるもんならやってみろ。けれどそんときにはあんたは串刺しだけどな」



本当に面白ぇ…最高だ。

面白い奴らが入ってきたぜ。楽しくなってきた!!

俺はそんな心を躍らせ、再び飛来に襲い掛かる。




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一撃当てた。

たったそれだけのことが、俺の自信を付けさせる。

あの『ヘラクレス』に一撃当てた。しかもきちんとした「攻撃」をだ!!

見たか明知晴嵐!俺はあんたよりも強い!!あんな能力よりも俺の能力の方が有能だ!

「てめぇ…名は?」

『ヘラクレス』にそう聞かれた。

俺は適当に自分の名を名乗った。そして奴の挑発に乗ってやった。


ヘラクレスが襲い掛かってくる。

次はきちっとする!もう一発喰らったら流石にやばい。賭けをせずに確実に!

ヘラクレスのパンチがこちらに向かってくる。俺はその瞬間に自分の能力を発動させる。

「おぅら!!」

ヘラクレスの重すぎるパンチがこちらに飛んでくる。

しかし、俺には届かない。どうやったとしても……。

「あぁ?」

俺とヘラクレスの間を、数本のナイフが降り注ぐ。

流石に怯えたヘラクレスはすぐさまその腕を引き、俺と距離を取る。

引き戻し遅れた結果か、ヘラクレスの腕にはまた数本のナイフが刺さるも、結局彼は容易く抜くだけだった。

そして、まるで楽しいゲームをしているときの子どものように、ニカァと笑ってこっちを見るだけだった。ある意味怖い。

「てめぇ!すげぇなそりゃ!!なんて能力なんだぁ?炎の坊主と違って使いこなしてる!

 自分の能力を熟知してる証拠だ。なぁ……教えろよ。どんな能力なんだぁ?」

手品の種を聞いてくる子どものように無邪気な声で言うヘラクレス。けれどその視線は殺気を出すことを忘れない。

「…『帯剣創造』。何もないところからナイフを出現させれる能力だ。

 今持っているのも、さっき降ってきたのも、俺の能力だ」

「そうかぁ……面白い!舐めたことせず本気でこいやぁ!!」

そう叫ぶ『ヘラクレス』。

その轟音で思わずよろけてしまうほど、強烈で威圧的な音だった。

俺はその声に誘われて、二本のナイフを握り締め、ヘラクレスに向かって地面を蹴る。

「おう!真正面か!?こい!!」

俺は走りながら、奴の頭上にナイフを数本作り、落下させる。

しかし、同じ手は喰らわないとこれをいち早く気付いたヘラクレスはバックステップでこれを避ける。

俺は奴のバックステップした場所とその後ろにナイフを数本生成する。

これにも気付いたヘラクレスはバックステップするも、したさきにもナイフが落ちてくることに気付かず

両方や足にナイフの先端が見事に突き刺さる。

「今だ!!」

俺は走っていたスピードを速め、足にナイフが刺さって動きが鈍っている間に攻撃する!

俺は二本のナイフをヘラクレスに投げつける。ヘラクレスはこれを簡単にはじき返す。

また手元にナイフを作り、一本を投げる。これもまたはじき落とされる。

俺はさらにスピードを上げ、はじき落とした腕にナイフを突きつけ突進する。

(これで刺さる!!!)

グサッ。と刺さる音がした。これで俺はものすごい達成感に襲われた。

「…いってぇ。流石だな飛来。これは刺さったわ」

ニカァとこっちを見て笑うヘラクレス。おいおい!ナイフ刺さってるんだろう!どうなってんだ!!

俺の視界に映るヘラクレスは、腕を振りかぶるための準備で腕を引く。

そして現れた拳は、物凄いスピードで俺の視界に迫ってきた


その直後に映された視界はコンクリートの地面だった。

地面に身体を擦り付けながら、飛んでいってしまっている。

どこかのビルに突撃してしまう。やっべぇ……これ死ぬ…。

俺が喰らったのはたった二発。俺が向こうに喰らわせた攻撃は数回は超えている。

なのに……たった二発でどうしてこんな死にかけなんだよ俺はぁ!!

瓦礫に埋もれている俺がなんとか瓦礫を持ち上げて空を見る。頭がくらくらする。触れたら赤いものが付いていた。

朦朧としている視界の中に、またヘラクレスが現れた。

「ほぉ…まだ立つか。根性も合格だな」

そういって俺の頭を掴んで持ち上げるヘラクレス。

俺はやつに頭を握られ、無力に持ち上げられてぶら下がっている。

「お前……『蛇』なんかにいて楽しいか?」

突然ヘラクレスがそんなことを言い出した。

「…はぁ?何言ってんだ。俺のボスは…狩羅さんだ。楽しいとか楽しくないとかじゃねぇよ」

「そうかぁ…。嘆かわしい話だ。あの男もつまらないものになっちまった。気に入ってたのによぉ……」

そういって俺を見つめるヘラクレスの顔は、少し寂しいものだった。

「…くそっ!!」

俺はナイフを生成し、俺の頭を掴んでいるヘラクレスの腕を突き刺す。

叫ぶほどの激痛はないみたいだが、やはり痛みはあるのか、俺を掴んでいた手が離れた。今がチャンス!

俺はナイフをまた作って奴を刺そうとした。けれど、それよりも先に奴の拳が俺の腹部を直撃する。

俺の腹から色んなものが逆流してきて、口から放出される。血反吐が止まらない。地面が赤くなる。

「……ま、まだだ…」

俺は立ち上がり、ヘラクレスを睨みつける。

ヘラクレスは少しムッとした表情をしたあと、俺の頭を掴んで俺の腹に膝蹴りを喰らわせる。

血はさらに噴き出す。鼻からも出てきた。くっそぉ……勝てねぇ……。

倒れそうになるも、俺は歯を食いしばる。

「ま、まだだ…ヘラクレス!俺はてめぇなんかが最強だとは認めねぇ……。最強は……狩羅さんだ」

このゲームで負けた俺には、名誉はなかった。

中級実力者からの指名バトル。能力もわからない俺は敗北ばかりを味わってきた。

そんなときに、狩羅さんが来た。「おめぇ…復讐したかねぇか?」ただその一言で、俺を部下にしてくれた。

古田さんが負けたんだ。このままじゃあ…このまま……

「このまま……俺が、まけたら…狩羅さんの負けになっちまう!!!!」

俺は涙を流し、鼻血を流し、全身から血を流し、そんな状態で、ヘラクレスに叫んだ。

俺は力を集中させる。ほとんど無意識だ。今から自分が何をするかわかっていない。

しかし突然光が無数に現れ、俺の後ろには無数のナイフが刃先を前にして宙に浮いている。

流石に警戒し始めたのか、ヘラクレスも距離を取った。

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

そう叫んだときだった。

浮いていたナイフが、光を失って全てぼとぼとと無残に落ちていく。その数100本を越える。

そして体力が尽きた俺はそのまま地面に倒れてしまう。

「……不発か?なんだったんだ今の…」

流石のヘラクレスも驚いていたが、今の俺は悔しさしかなくてそんな言葉に耳を貸す暇はなかった。

「くそぉ!くそぉ!!俺って奴はぁ……!!結局負けるんじゃねぇかよ!!!」

悔しさで涙が流れる。もう腕も動かせない。今の不発技でかなり体力を消耗してしまったみたいだ。

「……俺の降参だ。飛来」


その瞬間、聞くはずのない単語を俺は聞いた。俺は思わず目を見開く。



「狩羅様チーム…Win!」


放送でもそう聞こえる。どういうことだ……俺は今、動けなくて、ヘラクレスにボコボコにされて、無様に泣いてて……。

「飛来!」

唖然としている俺に突然大きな声で話しかけてくるヘラクレス。

「―――――――」

そのときに言われた一言は、呆気に取られていた俺をさらに唖然とさせた。




こうして『松竹梅』。次鋒戦『竹』は、『蛇』の勝利で幕を下ろした――。



                    ☆




「ちょっと黄鉄さん!」

転送されてきた黄鉄さんに俺は詰め寄った。

彼がまさかの降参をしてきたのだ。相手…飛来拓海に対して。

「おいおい晴嵐。俺に非を求めるのか?そいつはおかしいぜ。

 てめぇは自分が腹立つやつがいて、

 自分より強いやつにやっつけてもらって嬉しい!とか思っちまう小心者なのか??

 「正義の味方になりたい」じゃなくて「正義の味方に助けてもらいたい」とか思う他力本願やろうか??」

黄鉄さんは不敵な笑みを浮かべながら俺に問いかけてきた。

その言葉を聞いた直後に俺は、さっきまでの自分が酷く醜く、惨めで恥ずかしくなった。

「す、すいません…そうっすよね。黄鉄さんに頼っちゃあ…ダメですよね」

「まあそこまで落ち込むな。こっちの方が盛り上がるだろ?一勝一敗。最終決戦で勝負が決まる!ってな。

 てめぇの因縁はてめぇなケリつけねぇとな!」

ニカァと笑う黄鉄さん。

本当、マンガから出てきたような人だと思った。

その笑顔だけで俺たちみんな言い包められて、安心感を与えてくれる。

その姿と強さはまさに神の子とも称される『ヘラクレス』たる所以に感じた。

「はい!じゃあ俺……行ってきます!絶対あの蛇道狩羅をぶっ倒して見せます!」

「おう、その活きだ!行って来い!!」


そういって俺は、そのまま戦闘会場へ向かった。





「本当にそれだけですか?ヘラクレス」

「…なんだよ急に、疑い深いなぁーえーっと……」

「RBって名乗ってます。それもそうです。

 貴方の性格は重々承知ですが、だからこそ情で負けたりするような人間ではありません。」

「……そうか。まあ確かにこんなのは初めてだな。

 ただ隠すような理由じゃねぇぜ?俺は『あいつら』を気に入った。それだけだ」

「あいつら?」

「あぁ、明知晴嵐。飛来拓海。あの二人は別サイドで伸びるぜ。二人とも後に2つ名を持ち

 よっぽどの大物になるだろうな。まああいつら以外にも俺の目利きに適った奴らはいるんだが…」

「へぇ…それは興味深いですね。貴方ほどの男に気に入られたその飛来って男も……他の奴らってのも…」

「情報通か。獲物を見つけたみたいな目してるぞ?残念だが教えれねぇ。

 てめぇにその芽を摘まれたら嫌だしな。」

「そんなことしませんよ。僕にそんな趣味はないです。『蛇』じゃあるまいし」

「そうか。まあだが、今は教えれねぇ。あいつらには、知らず知らずに育ってほしいってな。

 ほら、期待されたらその重みに耐えられなくてダメになるやつとかいるだろ??」

「…そうですか。なら…仕方ないですね」

RBは少し悔しそうに言いながらも、それ以上黄鉄に問い詰めることはなかった。




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「…よし、ここが闘いのステージか。」

俺、明知晴嵐は転送された場所を見渡す。

大きなショッピングモールのようだ。今回の松竹梅はエリアもランダムなんだな。

RBと黄鉄さんの対決は外だったのに俺のだけは『室内』なのか。


「よぉ…会いたかったぜ。新人」

すると、声がした。俺はその声の方へ視線を向ける。

ショッピングモールの中心に置かれたソファーで足を大きく開いて座っている男がそこにはいた。

「……お前が、蛇道狩羅か!!!」

「だったらどうだってんだ?怖い顔しやがってよぉ」

「お前には言いたいことがたくさんある!まずRBへの奇襲!そして車田のことだ!あいつは関係ないだろ!?」

「関係ねぇ?あぁ、確かに関係ない。あいつは単に「危険因子」だから潰そうとした。それだけだ」

「……それだけ…だと?」

「あぁーてめぇあれか?友達が傷つけられたらキレるタイプか?マンガの主人公かっつうの」

「てめぇ!!!!」

俺は刀を構えて狩羅に突撃する。ここで切りかかってやる。

「あぁーだからなんでてめぇら自称いい奴って言うのは、そう激情して動いちゃうかねぇ?」

そう言った直後だった。俺は突然不意に顎をアッパーされたような痛みに襲われる。

その衝撃に耐えられず、俺はそのまま地面に叩きつけられる。

な、なんだ…?何が起きた……?俺の顎に…何かが当たった?

「まあ冷静になれよ。はっきり言ってやる。てめぇは俺をこのソファーから立たせることもままならねぇ」

狩羅の挑発に俺は少しイラっとしたが、奴の言う通り。ここは冷静にならないと…。

車田のこともあるからこの怒りは抑えられないが、奴に勝つにはやっぱり一筋縄じゃあダメなんだ。

「ほらほら、止まってたら意味ねぇぞ?」

その言葉とともに、俺の腹部に衝撃が走る。ほ、本当に…なんの能力なんだ。

「だぁー!俺は考えるの性にあわねぇー!突撃あるのみ!!」

俺は日本刀を構えて走りさる。

走りさる途中でポケットから取り出した俺の血を刀に塗って炎を纏わせる。

「へぇ…それが巷で噂のてめぇの能力か。だが…意味ねぇ!!」

俺は足にいきなり現れた違和感に当たり、躓いてしまう。

「おらおらどうしたぁ!?さっきから進んでねぇぞこらぁ!!!」

狩羅は挑発気味に俺に言い放ってくる。依然ソファーで余裕綽綽と座ってるだけだ。

「そうだ。ここでちょうどいい…。今跪いてる貴様に俺からご教授してやろう」

そういわれた直後、また腹部に何かがぶつかったような衝撃が走る。

そう思ったら次は頬、頭、腕、足、渠打ち、頭、様々な身体の部分にまるで体当たりされてるような衝撃が襲う。

そんな蛸殴り状態の俺を見ながら、狩羅は語り始めた。

「てめぇの能力『傷炎』は、傷を炎に変えるんだろ?だったら傷が付かない打撃ならどうだ。

 擦り傷もできねぇほどの弱い打撃を何発も当てたらどうだ?

 鋭い石を当てるんじゃなくて丸いボールならどうだ?てめぇはその『痛み』は力にできねぇ!」

確かにそうだ。ボロボロになってる俺は、痛みこそ走っているが、身体には擦り傷1つない。

確実に、傷が出来ないように的確な場所に衝撃が襲ってくる。傷が出来ぬまま、体力だけが奪われる。

「こうなると、てめぇはただのガキだ。力を手に入れたからって調子に乗っちゃあいけねぇってことだよ」

狩羅が諭すように俺を見下し、言った。図星になってしまっている今の俺が悔しい……。

衝撃が襲うのが止まる。流石にやりすぎて俺の身体に傷が付くのを恐れたのだろうか?だったら好都合!!

「やってやる…。てめぇには負けねぇ……」

俺は俯き、苦しそうに立ち上がりながら、掠れた声で言う。



そして俺は刀を上げ、振り下ろした。


自分の腕目掛けて―――――――――――――。




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「ありゃりゃ…相変わらずエグイことするねぇー狩羅さんも…」

『蛇』チームの部屋。

そこのモニターに映る。見えないものに蛸殴りにされている明知晴嵐の姿があった。

それを見ていた古田さんは、素っ頓狂な声を出しながら、呟いた。

「そういえば、俺狩羅さんの能力知らないんですけど…」

「ん?飛来ちゃん知らなかったっけ?あぁーそういえば狩羅さん仲間にも教えないもんなぁー自分の能力」

「何なんですか?狩羅さんの能力って??」

「んーひ・み・つ♪なんちゃってー」

「…焦らさないでください」

「いやいや、本当に教えれないんだって狩羅さんはああ見えて賢いから。仲間にも能力は教えていないんだ。

 いつ裏切られてもいいようにってね。能力を晒すことは自分の弱点を晒すことだ。って名台詞言ってたなぁー」

思い出に浸るように古田さんは空を見上げながら言った。

俺はもういくら聞いても答えをはぐらかされるだろうと思って聞くのをやめた。再び視線を画面に戻す。



明知晴嵐。俺が初めての対戦で負けた相手。

しかし今はそんな女々しいことは思っちゃあいない。

ただ単純にあいつは強かった。そしてあのときの俺が弱かった。それだけなのだ。


それでもやはり興味はある。あの男にいつか俺の方が上だということをわからせてやりたい。

そんな男が今、俺のボスである人と戦っている。

もし彼が狩羅さんに勝ってしまったら俺はさらにあいつとの差が開くんじゃないだろうかとひやひやする。



そんなとき、ふらふらになりながら立ち上がる明知晴嵐の姿があった。

そして彼はそのまま刀を上げ、自分の腕を切り落とした。切り落とした腕から黄金の炎が噴き出す。




俺はこの瞬間に悟った。俺とあいつの差は……その『覚悟』なんだと――――――。





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「…切り落としたのは初めてだけど…再生するんじゃなくてこうなるか…」

俺、明知晴嵐はその異様な光景に驚いた。

俺の腕は完全再生されているわけではなく放出された炎が腕の形を象っていた。

今までボロボロになったことはあったが、完全に切り落としたことはなかったから、こんなのは初めてだ。

とりあえず、これで力は手に入った。

「さあ、これで力は十分。さっきからの痛みの和らいだ!いくぜ!!」

俺は片腕の炎を噴出させ、スピードを上げる。

足に突然異様な違和感を感じたが、それごと吹き飛ばして俺はやつに向かって突進した。

後はああやってのうのうと座ってる奴の身体をこの刀で切りつけてやれば!!

俺は刀を上げ、やつの前で刀を振り下ろす!!これで勝負は決まった!

「……一瞬の油断が、絶望へのフラグ。覚えとけ」

狩羅は余裕そうにそういった。俺の刀は……奴に届いていなかった。

刀を振り下ろした途中で何かにぶつかったように刀が止まった。それにそこから伝わって振動が身体を襲う。

まるでそこに『壁』があるようだ。

「―――ッ!?」

俺は何かに気付き、咄嗟に振り返るように後ろに刀を振りかぶった。

何もないところから、赤い液体が現れる。その液体はボタボタと地面に落ちていく。



「……てめぇ!!そういうことか!?」

「へぇ…察しがいいな。俺の能力が分かったか。なら対処も出来るだろうよ!!」

そう言った直後に、俺の脚に何かが噛み付く。物凄く痛い。

俺は自分の足に刺さらないように刀を地面に突き刺す。ブシュ!と言う音とともに赤い液体が吹き出た。

しかしその直後、俺の背中に何かが突撃したような痛みに襲われる。くそっ!またか!!



狩羅は突然立ち上がり痛みに苦しんでいる俺の方を睨んだ。

「さあ…俺は立ってやったぜ?能力がわかったんだろ?対処してみろよ??

 もっとも…恐らくてめぇの見解じゃあ70点。未だ三十点ぐらいたりねぇんだろうけどよぉ!!ひゃはははは!」




その言葉からくる殺気は、まさしく鬼のようだった―――――――。




                   ☆



「……くそっ!!」

俺、明知晴嵐は走りながら辺りを見渡している。

その理由は、あの蛇道狩羅が逃げたからだ。

突然消えた蛇道狩羅を追おうとすると、突然何かにぶつかりそんなことをしてる間に逃げられた。

正直に言うと鼻が痛い。思いっきり打ったし…。

「おいおい、俺の能力わかったんだろ?他人の能力がわかったんなら対処の仕方なんてザラにあるだろ?

 ヘラクレスや、ピクシーみてぇな対処の仕様がねぇ能力ならまだしも、俺のは能力だけなら雑魚ランクだぜ?」

突然姿を現した狩羅は、自分の皮肉を混ぜた言葉で俺を挑発する。

そう。確かに奴の能力はわかった。あのヘラクレスほど対処しづらいってわけではない。

ただ……強いのだ。本当に…強い。

そう思っていると、また腹部に衝撃が走る。くそっ!またかよ!!

能力そのものはわかっているつもりだが、この衝撃の正体だけがわからない。

さっき斬ったときに血が出たってことは生物か?

恐らく透明になる生物でも召還しているのだろう。RB同様の召還系能力だろう。

っと思っていた。けれど、さっき俺が狩羅を斬ろうとしたとき……奴の寸前で止まった。

それでわかったのだ。奴の能力が。

「さあ!盛り上がってきたぜぇ!!」

狩羅の透明な攻撃が未だに続く。俺は一瞬の隙で、刀を振るう。

何かが切れた音がして、血があたりに現れる。やっぱり生物だ……。

「俺はよぉ…親切な敵じゃあねぇ…。他人に能力を教えるなんてことはしねぇ…仲間にもだ」

こちらを睨んでいる狩羅。

こいつの目は本気だ。本気でこのゲームに勝ちにきてる。

「…なら俺が今答えを言ってやる。お前の能力は……『透明化』だろ?」

俺は同じく狩羅を睨みながら、言ってやった。

奴の能力は、透明化する。たったそれだけの能力なのだ。

けれど、『それだけ』が強い。恐らくここにいるのは何かの動物。

斬った瞬間に血とともに映った斬れあとが細長かった。あんな動物は俺にはあれにしか思えない…『蛇』だ。

それで俺の攻撃が奴に当たらないのはここがショッピングモールで、やつが店の中にいたから。壁が盾になる。

そう……ここまでわかってて、対処が出来ない!!


「おら!!それが正解かは言わないが、早くしねぇと体力が切れるぞ!?」

透明になった蛇が俺の身体を突撃する。

刀を振り回して何とか斬っていくが、切りがない。

どうにか蛇の攻撃を避けることが出来れば………。




そのとき、俺は少し面白いことを思いついた。

「…なあ、狩羅。何でてめぇは車田にあんな卑怯なことした?RBに毒なんか盛った??」

「あぁ?そりゃ勝つために決まってんだろがぁ!」

「だから……なんでそこまでしたんですか?」

「あ?てめぇ何度言わせ――――――」

俺は狩羅の言葉を遮るように言った。

「あんた。そんなことしなくても勝てただろ?強いじゃねぇーかよ」

そういって俺はショッピングモールのある場所に向かって走る。

店の中に逃げて、俺はあるものを取った。ナイフだ。

「だから、俺はあんたに勝つためにいくらでも傷をつける!!」

俺は、自分の刀と拾ったナイフを両手に握り、自分の背中を裂くように斬った。

その直後、意識を失いそうになるほどの痛みに襲われる。もっていかれそうな意識を何とか保つ。


そして、その傷口から勢いよく炎が吹き上がる。今だ!!

俺は意識を集中する。今ある左腕は炎で出来ているんだ。だったらこれだって――――――!!


俺は痛みに耐えながら炎をあるものにイメージする。背中から噴き出した炎は次第に形状を変える。



「てめぇ…それなんだぁ!?」

狩羅が驚いた様子でこっちを見る。

そりゃ驚くよな。今俺も驚いてるもん…。

背中に放出されていた炎は、見事な『翼』の形状をしていた。



「てめぇ……『飛行型』かよ!!」

「飛行型?…まあなんだか知らないけど。これで蛇は効かねぇ!!!」

俺は、前にヘラクレスと闘ったときに、ジェット機の要領で空を飛んだのを思い出したのだ。

そして腕を炎の形として再生できたことを知り、この翼の可能性にかけた。そしたら見事成功だ!!

俺は翼を羽ばたかせる。炎の翼は火の粉を散らしながら俺を天へと誘う。

狩羅は驚いたように俺を見上げている。

「……負けだ。こりゃ…」

すると、狩羅はぼそりと呟いた。今…なんて?

「自分の能力を熟知しねぇクズ野郎に教えてやる。相性で勝てない相手はどんなのか理解しとけ。

 俺の場合は……『飛行型』だ。空飛ばれたら俺の武器と盾は基本的に無駄になる。」

「おい…俺が飛べただけで諦めんのか?」

俺は、安心感よりも先に…怒りがこみ上げてきた。

「それが合理的だろ?」

「合理的とかどうでもいいんだよ!!」

俺は思わず叫んでしまった。

「お前…強いじゃねぇか!!どうせこっから俺を倒す方法だっていくつか持ってんだろ!?

 試せよ!抗えよ!!俺はてめぇが気にくわねぇ!でも…諦められて勝つのはもっと気にくわねぇ!!!」

俺はそのまま狩羅のいる方法に突っ込む。驚くほどの速度だ。

狩羅は舌打ちをしたあと、自らの姿を透明にした。

俺は狩羅前にあったであろう透明な壁を壊して地面に着地する。

しかしそこに狩羅の姿がない。その直後に俺の腹部に衝撃。蛇じゃない…じゃあこれは!?

俺は刀を振る。「ぐッ!!」と声とともに、斬られた腹部を押さえた狩羅が姿を現す。

「ほら、俺今すげぇ痛かった。お前強いのに、何であんな卑怯なことした?」

「てめぇには関係ねぇだろうが!!」

そう叫んだ直後、俺の脚に痛みが走る。俺の脚から血が流れる。蛇にかまれたのだ。

俺は咬まれたところの血を炎に変え、俺を咬んだ蛇を焼却した。

そんなことをしていた間に、狩羅の足が俺に目掛けて放たれる。俺は避けることも出来ず

狩羅の蹴りを喰らい、地面に転がり落ちる。

俺はすぐに立ち上がり、狩羅の方に地面を蹴る。

狩羅はまた自分の姿を消そうとするも、傷のせいか、透明に出来なかった。

そうしている間に俺は奴との距離を詰め、刀で奴に斬りかかった。




何も出来なかった狩羅は、そのまま斬られ、俺たちの勝利となった。



「……Win!」

放送が流れ、俺たちは完全勝利を収めた。炎を解いた直後、俺は倒れた。





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「「「「「狩羅さん!!!!」」」」」

戻ってきた狩羅の元に、配下である男たちが集まる。

狩羅は、暗い顔をしていつものソファーに座る。

「てめぇら…なんでいる?」

「「「「え…」」」」」

狩羅の突然言った言葉に、配下たちはどよめき始める。

「てめぇらは負けたボスにも付く奴らなのか?」

その一言を言うと、全員ビクっとしたような、安心したような顔をしていた。

そして一人…また一人と去っていく。そうしていくうちに部屋には闘った三人しかいなくなる。

「まあ…賢い奴らだよなぁ。俺の配下にぴったりだぜ……」

「狩羅さん。」

そんな独り言を言っていると、飛来が狩羅に声をかける。

「わかってる。ヘラクレスだろ?あいつがお前に言った言葉はなんとなく察しが付く。いけ」

「……ありがとうございました」

そういって飛来も、部屋を去っていく。

「…んで、一人バカがいるように見えるんだが?」

狩羅は、睨みながらただ一人残った男、古田に言った。

「えぇー俺だけバカっすか。そりゃ酷いっすねぇー…」

「…なんでここにいる」

「俺、別に狩羅さんが強いからつき従ってるわけじゃないっすから…。あ、でももう配下はやめます」

「あぁ?」

「俺はー。狩羅さんの後輩?いや、子分??なんっつっていいかなぁー。あ。これで行こう!!」

「…なんだってんだよ」

「……友達!!」

その言葉を聞いた狩羅は少し驚いた顔をした後、

呆れたように溜め息を吐き、言った。

「…好きにしろ」

「了解ーッす♪」



こうして、ビル内にいた巨大組織『蛇』は壊滅した。




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「おめでとうございます。明知さん」

「おう…な、なんとかな……ははは、また病人生活だぜぇー」

「あんまり無理しないでください。結局は勝てましたが、危なっかしすぎます。自分で斬るなんて…」

「あぁー今やれって言われたら出来ないわ。あんときの俺は狂ってた」

「…まったく。あ、ヘラクレスなら用事があるって言って先に帰りいました」

「そうか…あの人にもお礼言わなくちゃな……」

「そうですね。とにかく、お疲れ様です」

「おう!お前も頑張ったな!!」



そう二人で会話していると医務室の扉が突然開かれる。

「晴嵐くん!あの狩羅と闘ったというのは本当か!?」

開口一番。俺に叫んだのは黒金先輩だった。

あぁー今回の件は内緒にしたかったのに…バレちゃった……。それより

「下の名前で呼んでくれるんすねぇー嬉しいっす」

「な、何をニヤニヤしてる!?今はそれどころじゃないだろ!!」

「あ、すいません…。いやぁー可愛い先輩に名前で呼ばれてテンションMAX傷も回復!!…ってて」

「む、無理をするもんじゃない。君の能力は

 このフィードバックが弱点なのだから…。まったく、なぜ私がいない間に狩羅と闘った?」

先輩は息を整えて真剣な顔になって俺に聞いてきた。

「えーっと…男の意地?」

俺は必死に考えた言い訳を先輩に言った。先輩は呆れたように溜め息を吐く。

「はぁ…意味がわからない……」

「でも、勝ちましたよ。先輩」

「……/////そ、そうだな…その、なんだ。何か希望があるなら答えよう。それほどの功績は立てたしな」

「マジっすか!?」

俺は思わずベッドから起き上がる。

その直後にフィードバックされた痛みが走る。

「そうはしゃぐな!言ったこっちが恥ずかしいだろ…」

恥ずかしがってる先輩可愛い!!やべぇよ!!これがあの狩羅さえも恐れた『ピクシー』とか信じられないよ!

目の前にいるのはまさにピクシー!妖精さんじゃないか!!

「じゃ、じゃあ…また頭撫でてください!!」

「はぁ!?」

「……僕はお先に帰ってますね」

「え!?ちょ、RB!君までどこに行く!!」

RBは空気を察したのか、小さく呟いて帰ってしまう。

「さあ!邪魔者は消えた!!お願いします!!」

「うっ…うぅ……」

改めて言われると恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら先輩は俺の頭の上に手を置いた。

「ほ、本当にこんなのでいいのか?」

「はい。べホイミより回復します」

「ふっ…なんだその冗談は…」

俺が言った冗談に、先輩は小さく笑った。




それだけで俺は、今回の闘いに意義があるものだと感じた





ってなわけで蛇編終了です!!><

狩羅さんや飛来、古田さんはこれからもちょくちょく出ます。


そして今回の話を皮切りに明知晴嵐は力を付けてきます♪

だんだん強くなる彼と、その周りの人々の闘いを

今度とも見ていってくださると嬉しいです(((o(*゜▽゜*)o)))

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