四
突然意識が覚醒した。
「っ……」
目を開こうにも体を起こそうにも全身がギシギシとオイルの切れた歯車のようで動き辛い。
どこだ? ここは……
落ち着け、落ち着け、大丈夫、獣さえいなければどうにかなるんだ……
「ふうっ……」
少し冷静になっていると違和感を感じる。
服の隙間を縫って雑草が肌を撫で、頬には冷たい風が当たる
が、違和感はそこではない。
上半身が感じる草と風の感覚ではないのだ。
なんだ? この……
全身に感じる波のような物は……
「……全身?」
その言葉を呟いた瞬間、俺は目を開き、体を起こした。
余りに早い動きに固まっていた背中と首がボキボキと鳴り、目は突然入ってきた月明かりに目を細めようとするが、その全てを一刻も早く、コンマ一秒でも早く見ようという意思が無視する。
そうして体が送った信号の全てを無視した俺の目に入ったのは
「俺の……」
全体的に細いが筋肉が無い訳では無い腕、締まってるという表現が正しいだろうか。
そんな腕がまるで厚さ一ミリも無い薄いガラス細工でも扱うかの如き優しさで、二本の懐かしき相棒を抱き締める。
姿勢は体育座り。
お世辞とも格好良いとは言えない姿勢。
だが久しぶりに手に入れたのだ、格好が悪くともこれくらいは許して欲しい。
あの程度の短い期間にも関わらず忘れていた。
あるという当たり前を
二本という当たり前を
道があれば羽となり、障害があれば矛となっていた相棒を
その数々の当たり前を
失った事により濃く、強く、愛しく思い出していたその存在を
「俺の……足だっ……ぐすっ…………足だぁぁぁぁぁぁ!!」
たった今取り戻したのだ。
ーー同時刻ーー
闇夜に紛れて様子を伺う剣を持った十人の屈強な男
その先には一つの影
取り囲んでいる以上圧倒的に優勢なのは間違いない。
が
「くそっ……なんでこんな所に……あいつがいるんだ」
「無駄口叩くな……死ぬぞ……」
男達は焦っていた。
既に男達の前には散っていった五つの屍が転がっている。
彼等は優れた兵士だった。
それぞれが国で上位の実力を誇り、それでいて欲に溺れない。
心身共に、本当の意味で優れた兵士だった。
故に、散っていった。
いつの日からかほんの少し、それも人間として仕方ない程度の少量の驕りが混じり始めていた自信のせいだろうか。
帰りの道を示され、信頼している友からの情報だからと素直に受け止めた誠実さのせいだろうか。
今となっては知る由も無い。
「弱いなぁ……」
ふいに単身の影は口を開いた。
その口振りも、仕草も、体つきも、どうみても年端もいかない少年のもの。
だが油断は禁物
それでも、男達は動揺した。
「ガキ……?」
「こんなガキが……」
少年と思しき影は草木の暗闇に身を隠した。
「…………」
不自然な静寂。
それは唐突に破られる。
「面倒くさい……もう決めるね」
「何処だ!!」
カサッ……
草木が擦れるような音が鳴ったような音の直後
ドサッ
男達は地に伏した。
「あーあ……服汚れたよ」
少年の呟きは虚空に消える。