参
「結局……あいつ何なんだろうな……」
あの後、死神は結局名乗りもせずに簡単な注意だけ済ませると、現れた時と同じように窓の中へ消えて行った。
その内容は
1.異世界に行ってからは何があっても自分がこの世界から来たと悟られない事。
2.異世界に行く際に転生という形を取るが、その際に死神が決めた種族になる事。
3.転生の為に、死神の手によって一度死ぬこと。
そして4
俺はポケットから毒々しい紫の色をした十字架のような物を取り出した。
「何があろうとこれを心臓から10m以上離さないこと……ねえ」
十字架は掌に丁度収まるくらいの大きさで、装飾は何も付いておらず、上の方にはキーホルダーのように穴が空いている。
死神が言うにはこの十字架が俺の魂を転生した後の体に繋ぎ止めるらしい。
魂なんて信じてないから何とも言えないが、とりあえず肌身離さず持っておけって意味だろう。
「後で紐通してネックレスにでもするかな……」
正直な所、話が現実離れし過ぎているせいでいまいちまともな判断が出来ない。
自分でもなんで信じてるのか分からない程だ。
「まあ……オカルトなんざ珍しくねえか……」
足が治ったら宗教でも何でも入ってやるよ、などと考えながら夜を迎えた。
PM11:00
部屋を抜け出し、エレベーターを使い車椅子のまま屋上に上がる
「準備はよいな?」
夜風は強く、不意に横に現れた死神のローブがバサバサと揺れる
「ああ、元々俺の事を心配するのは親と静葉くらいだからな。それに……」
「なんじゃ? 心残りがあるなら聞いてやろう。」
「心残りじゃねえよ……正直な所、丸一日考えたが結局お前は訳分からんし、異世界なんか信じてねえけど……」
「けど、なんじゃ?」
「俺は、足が無いって事に耐えられない。だから、お前が医者なのか、そもそも人なのか悪魔なのか神なのか、全く知らないけど、それでもすがりたいんだ。俺は……俺は中途半端に義足やらなんやらの紛い物で歩きたくなんかねえんだよ」
精一杯の本心
少し声が震えたがそんな事気にする気は無い。
「では逝くぞ……黄泉よ、彼の者を運び、導け。」
死神は俺の胸にその骨だけの手を添え、何やらボソボソと呟いた。
胸の辺りが淡く輝くにつれ、意識が遠のく。
「うっ……」
光が消え、少しばかりの胸の痛みと共に膝から崩れ落ちる。
「安心しろ、魂を剥がすだけだ。お主らで言う所の死は魂が剥がれてから適当に突き落とすなりでそれらしく見せておくとしよう」
「人の……体を……雑……く……扱うな!!」
最後の一言に全身全霊を込めると、俺の意識は完全に途切れた。
「すまぬ……
アキラ……」
第一章終了です。
次章からは異世界編になります。