第六話 夜を照らすは蛍の灯り
キャラクターファイル
リグル・ナイトバグ
蟲を操る程度の能力
通常弾幕 操る蟲達を飛ばしている
スペルカード「ファイヤフライフェノメノン」等
僕っこで相手を格下に見る傾向がある。殺虫剤には弱い。
「なるほど、君は半人半妖の妖怪でそっちの子は魔法使いだと…長いこと生きているとおかしなことを言う人間に出会うものだな」
廃屋改め、辰宮閑と名乗った老翁の小屋に入れてもらった二人は自己紹介をしたのだが、彼はまるで二人の話を信じようとはしなかった。
「おい、どーなってんだ香霖?この世界には魔法や妖怪が無いのか?」
結構期待していたのにつまらない世界だなと魔理沙はため息をつく。
「僕も外の世界にはあんまり詳しくないけど魔法っていう単語は雑誌にも書かれていたから全く存在しないって訳でもないんだろう…と思う」
駄目だ、香霖は当てにならんわ。
「じーさんよ、魔法が信じられないってんなら私が取って置きのを見せてやるよ」
ポケットから適当に触媒を取り出すと窓を開けて外に放り投げる。
閑はのそのそと魔理沙の投げた触媒を目で追うが何もない、やはりただのでたらめだったかと鼻を鳴らした。
「あ、あれ?何で何もおきないんだ?」
霖之助が慌てて窓に近づいた。
直後
「香霖、離れろっ!!」
魔理沙の悲鳴のような怒鳴り声に霖之助は反応できなかった。
後にその時見た光景を霖之助はこう語る。
「いやね、てっきり魔理沙の星屑系魔法が時間差で暴発したとおもったんだよ、だってね急に窓一杯に光が差し込んでいてそれがなんなのか理解するには時間が要るじゃないか」
そう、窓越しに黄緑の淡い輝きが部屋を照らし、徐々に大きさを増していた。
その光はまるで真夏の草原にあるような・・・蛍の光。
「いい度胸だなリグル!!」
本日三度目の奇襲、その正体は蛍を操るリグル・ナイトバグだった。
「………」
リグルは小屋の周囲を淡い輝きを放つ弾幕で囲っていた。窓から見る限り、小屋からの脱出は不可能だと魔理沙は判断する。
”灯符、ファイヤフライフェノメノン”
リグルの周囲を一度旋回してから対象へと向かう弾幕だ。
魔理沙は懐からメモリークロスを取り出し右手に巻きつける。
「じーさんごめん!!」
そして魔力を込め、槍を作る。それをそのまま壁に突き刺した。
弾幕が小屋の周囲を回っている、そして狙いは確実に魔理沙だ。小屋の中に入っていたら全ての弾幕が小屋を吹き飛ばしてしまう。
他人に迷惑を掛けることはルールブックに反する行為だがリグルは魔理沙が小屋から出ない限りは圧倒的に有利なため、強引にでも外に出る必要があった。
小屋を出るとともに魔理沙は目の前の淡い黄緑の光に二つの光球”オーレリーズサン”を発現させてそのままぶつける。
「”コールドインフェルノ”」
魔理沙の放った二つの光球から弾幕を凍てつかせる程の冷気が噴射される。以前チルノが行っていた要領を思い出しながら弾幕を一部だけ凍らせて右手の槍で貫いた。
「これで仕切りなおしだな、よくも何の関係も無いじーさんを巻き込みやがって…覚悟は出来ているか?」
魔理沙は小屋から少し距離をとってからやや上方を睨む。
「何を言ってるの?家壊したの魔理沙じゃん。それに巻き込むんだったら毒流した方が早いでしょ?」
小屋の屋根の上、そこにリグルはちょこんと座り、ニタニタと笑っていた。
リグルは人を襲う時、あまり姿を見せない。それは支配下に置いた虫を利用して人を襲うためだ。弾幕戦としては弱いが中々厄介な能力である。
「入り口や窓から素直に出たら袋叩きになるだろうがこの害虫」
「その通りだけどね、この……白黒魔女!」
魔理沙の挑発に対していい煽り文句が思いつかなかったみたいだ。
「ま、なんとでも呼べばいい。お前のスペカ全部を見てやる気はないんだ。すぐにスキマ送りにしてやるぜ!」
魔理沙は右手の槍をメモリークロスに戻す。そしてオーレリーズサンを調整し、リグルに向け二本のレーザーを放つ。
「スキマ送りはそっちだよ」
リグルはひょいと屋根から飛び降りて軽々と魔理沙のレーザーをかわした。レーザーは発射してからは速いが一直線で予備動作も分かりやすいため、不意打ちじゃ無いと軽々かわされてしまう。
「脇ががら空きだよ」
淡い薄緑の光を放つ無数の弾幕が規則的だが読みにくい軌跡を描き魔理沙を挟み込むように襲い掛かる。しかし魔理沙は動じることなく弾幕を見切っていた。
「先に狙うところを言ってたら当たらないぜ」
そう、リグルはご丁寧にも魔理沙の両脇を狙った弾幕しか放っていなかった。それを視認もせずに魔理沙は軽やかにバックステップでかわしていた。
「うん、そうだね。先に言っちゃたら当たらないよね」
いやらしくニヤリと笑ったリグルは余裕の声を漏らした。
その表情に苛立ちを感じながらも魔理沙は違和感を感じた。
今よけたはずの弾幕が先ほど魔理沙のいた位置でぴたりと止まっていたのだ。
「何!?」
「馬鹿正直に僕の言ったこと信じちゃってかわいいねぇ」
リグルが笑顔で指を鳴らすと目の前の淡い光は分裂し、まるで不規則に周囲へとばら撒かれる。被弾しないことさえ考えればこの弾幕はたやすく回避できる。
しかし
「まったく、香霖が狙いかよ」
大量にばら撒かれた弾幕は魔理沙よりも小屋へと集中して降り注いでいた。
「ちくしょう…間に合え」
走って全身を盾にすればなんとか小屋を守れるかもしれない…だが。
「させないよ」
リグルは魔理沙と小屋の間に割ってはいる。このままリグルを撃てば勝てるがリグルの後ろの小屋にまで被害が出てしまう上に一度放たれたリグルの弾幕がさらに小屋へと降り注いでしまう。
「くそ…どうすれば……」
絶体絶命の状況で魔理沙は手にしたメモリークロスを握り締めた。
その瞬間わずかに時が止まる。
『なぁ、香霖。毎度毎度変なもの拾ってくるけどさ、これはどんな用途で使うんだ?』
頭によぎるはいつしか香霖堂でのワンシーン。
『それは「ハエ叩き」っていう害虫を駆除する道具さ。きっと勢いをつけて振ってこの網目状の部分で飛んでいる害虫を退治するんだと思うよ』
『う~ん、広い面で叩きつけるか…面白いけどあたしの魔法じゃ再現できそうにないな。香霖、これヒヒイロノカネで大きいの作れないか?』
『無茶言わないでくれよ魔理沙。ヒヒイロノカネがそんなにあるわけないだろ』
『ちぇ、つまんねーの』
ドクン
記憶の再生が終わると時間がスローで流れ始めた。魔理沙は手にしたメモリークロスを見る。
(お前が、あたしにこれを見せてくれたのか?)
このことを思い出したのはこの状況を打破する手段をメモリークロス(コイツ)が教えてくれた気がした。
(やってみるか)
魔理沙はいつか見たハエ叩きをイメージする。しかしただのハエ叩きではない、ハエどころかゾウですら叩きつぶすほどの魔力の網が魔理沙の右手に現れる。
「潰れろぉ…必殺のぉ……バグズストライクッ!!!」
魔理沙は巨大な魔力の網をリグルを含め複数の弾幕すらも叩き潰した。
「なっ!? そんなのアリ?」
リグルは突然の魔力の網の出現にひるみそのまま直撃を受けた。
ピチュ――――――――ン
周囲に被弾する音が響き渡る。
その音を確認した魔理沙はメモリークロスの魔力を切り、小屋を見た。
所々外装がはげていたりしたが倒壊したりする心配はなさそうだ。
「ああもう疲れたぁ…今日はもう弾幕ごっこはこりごりだぜ」
普段雑魚を交えた弾幕ごっこを五連戦も六連戦もしているが走り回っているためか普段以上に魔理沙は疲弊していた。
だから今日のところはもう休みたくて仕方がない。
なのだが。
「卑怯じゃん魔理沙、あんな凄いのこれまで隠してたなんて」
リグルの残機はまだ残っていた。
「バグズストライク」
魔理沙が咄嗟に編み出したスペルカードもどき
魔力の網を勢いよく叩きつけ、小さな弾幕ならかき消すボム効果を持つ
しかし網目自体にはあまり耐久力がないためレーザーなどで容易く引き裂かれてしまう
これによりメモリークロスはその布だけではなく、魔力を固形化する効果を持つことが判明した