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無言の話

少女は言葉が話せなかった。

ある時、野党に両親を目の前で殺され、そのショックで言葉を失ってしまった。

自分だけはとっさに隠れたために難を逃れたが、今ではそのときに一緒に死んで置けばよかったかもしれないと思っている。

周囲の人間はとても優しくしてくれた。両親を亡くし、言葉までも失った少女に、同情

した。だが時間が経つと、そういった感情は徐々に薄れていく。

いつまでも、塞ぎこんでばかりの少女を、次第に周囲の人間は腫れ物を扱うように

遠ざけるようになった。だが少女はそれを気にも留めなかった。自分の心の傷を塞ぐのに精一杯でそこまで気が及ばなかったんのだ。何とか普通の生活を送れるようになった頃には、自分は一人になってしまっていた。

木の陰に座りこみ、会話に花を咲かせる同年代の子達を見て悔しく思った。同時に羨ましくもあった。そういった感情がさらに少女を孤立させた。


月日が流れ、少女は何とか自立した生活が送れるようになった。両親が残した家で薬草を育て、それで何とか生計を立てていた。

村で一年に一度の祭りのあった次の日、森で二人の人間が言い争いをしているのが聞こえた。ふと気になって木の陰から覗くと、吸い込まれるような黒い髪をした青年と、とてもきれいな金色の目をした少女がいた。


「絶対責任もって飼います!」


「だめだ!」


「食費とかは私が働いて何とかしますから……」


「なおさら、ダメだ!」


少女の手の中には少し大きめのトカゲが入っていた。いや、よく見ると背中に小さな翼がついている。それは少女の手の中で気持ち良さそうに眠っていた。


「ほら、馬鹿な事言ってないで、帰るぞ」


「あぁ〜、鬼〜〜」


少女は、なさけない声を出しながら、青年に引きずられていった。

その光景が妙に微笑ましくて、知らず知らずに笑みがこぼれていた。

ああ、笑うことが出来たのは何年ぶりだろう……言葉を失って依頼笑ったことなんて数えるほどしかなかった。

青年達がいた所に目をやると、そこには眠り続ける竜の子供がいた。



その小さな竜を連れて帰ったのは気まぐれだった。この寂しさが少しでも紛れてくれるならと思っていた。竜の子供は驚くほど何でもよく食べた。身体を丸めれば、掌に乗ってしまうようなサイズの時でも、自分の身体より大きなものをぺろりと食べてしまうのだ。

おなかが一杯になると、少女の指にじゃれついて、そのまま寝てしまった。

その無邪気さに、少女は笑った。

体が大きくなって、さらに食べるようになると、少女の生活はさらに忙しくなった。

なにせ、一人のときの二倍以上食費が掛かるのだ。忙しく働きながらも少女の生活は充実していた。竜の子供は、今では弟のように、あるいは昔からの親友のように思えた。

竜の子供も、少女を親のように慕っていた。


だが、その生活ももろく崩れ去ることになる。


「う、うわぁ、ばけもの!」


村人の一人が、ふとした拍子にそれを見つけてしまった。

既に少女の身体をゆうに超える大きさだった竜は、何も知らない人間にはただの怪物にしか見えなかった。

少女が怪物を飼っているという噂は、瞬く間に村中に広がった。

村の男達は武器を手に取り、少女の家に詰め掛け、初めてその姿を見て驚いた。

その中のリーダー格の男が口を開いた。


「どうゆうつもりだ!そんな怪物を村に引き入れおって!」


そう言われても、言葉を失った少女は、何も伝えることが出来なかった。おろおろしているうちに、男達はそれぞれ武器を掲げ近づいてくる。

少女はその前に、手を広げて立ちはだかり、何度も首を振った。


「ええい!どけ!何故そいつをかばう」


男が振った手は、運悪く少女に当たり、少女はその場に倒れこんだ。

自然の中を生きるドラゴンの目にそれは敵対行動としか映らなかった。


『グォオオオーーーー!!』


威嚇の声が村中に響き渡り、少女を守るための咆哮はさらに村人の敵対心を強めた。


「ヒッ、こ、殺せーー!」


群がる男達をなぎ払おうと、竜の鋭いつめが振りあがる。それを止めるように少女が抱きつき、男達も少女を切るわけにいかず、動きを止めた。


男達がなにを言っても少女は動かず、仕方なく男達は家の出入り口を塞ぎ、二人を閉じ込めた。そこで一人の男がリーダー格の男に耳打ちする


「夜中にこっそり火をつけよう。村人にはただの火事だと思わせればいい……」



















その夜、二人の男が家に忍び寄った。良心が痛まないわけではないが、あんな怪物を野放しにしては、村人全員に危険が及ぶ。少女は怪物に心を惑わされたのだ。

そう思い込み、ゆっくりと家に近づく。

その時、半鐘の音が響き渡った。


「盗賊団だーーー!」


村を襲ったのは、残酷さで名の知られた一団だった。略奪をし尽くした後村に火を掛け、

後には何も残さない。今回もそのはずだった。

金目のものをかき集め、村人を殺し、村の奥まで着た所で、出入り口が完全に塞がれた、おかしな家を見つけ、それを無理やりこじ開けた。

その瞬間家の中から、爆炎が溢れ、扉を開けた男達を焼き尽くした。

中から人の二倍ほどもある大きな影が飛び出し、盗賊たちに襲い掛かった。


次の朝

村には何も残っていなかった。

村の端には、作られたばかりの墓が朝日を浴びて建ち並んでいた。

それに背を向け、少女は無言でその場を後にした。

すぐ横に異形の親友を連れて………


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