廃墟の話
見渡す限りの廃墟の中心に一組の男女が立っていた。漆黒の髪の青年はゆっくりと辺りを見回す。
木造の建物は完全に焼失し、ところどころに家具や礎の残骸が転がっている。家畜を放牧していたであろう牧草地も今は焼け野原となり、焼け焦げた家畜たちが横たわっている。
既に周りに火勢はなく、おそらく何日も前にこうなったのだろう。
少女はその金色の目を潤ませ、足元に転がっていた黒焦げの人形を手にとった。
それは、すぐに崩れ去って風の中に呑まれてしまった。
少女はそれを目で追って、呟いた。
「……なんなんでしょうね?」
青年は特に感慨無さそうに、その光景を眺め続ける。
「盗賊に火をつけられたか、魔獣に襲われたか………、どちらにしろ、もうどうしようもないことだな」
それきり無言のまま、少女と青年はその場に立っていた。
村の端には、少し古くなった村人達の墓があった。それほど大きな村ではなかったが、特殊な薬草を栽培し、のどかな生活を営んでいた。以前訪れた時は、年に一度の祭りの最中で、村を訪れた全員にご馳走が振舞われ、二人も大いに楽しんだ。
そのときのことを思い出し、二人の気分は自然と沈んでいった。
「……これからどうしましょうか?」
「そうだな……とりあえず歌っておこう」
青年は息を大きく吸い込み、その喉から静かな旋律が流れ出た。少女の高い声もそれに加わり、二人の鎮魂歌はあたりに響き渡った。
二人の歌声は静寂の中に木霊し、廃墟となった空間を満たした。
古くからこの地方に伝わっている歌で、単調だがどこか優しいリズムが直接人々の心に訴えかける。
そんな歌だった。
歌い終わると、再び辺りには静寂が満ちた。
「……帰るか」
道を引き返しだした青年の背に少女が声をかける。
「薬草はどうします?」
「山に自生しているのを探すしかないだろう」
二人が去った後、村には朽ちかけた墓と静寂だけが残った。