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占い師の話

「そこの二人、ちょっと待ちなさい」


「はい?」


二人は不意に呼び止められ振り向くと、そこには頭からすっぽりローブを被った人間がいた。

声の様子から察するに老婆のようだ。


「何か用でしょうか?」


「そこの娘さん、今日は非常に運気がいい。きっといいことがあるでしょう」


「……占い師か」


闇色の髪をした青年はすぐに興味を失って、元の道に戻ろうとする。


「悪いが、非科学的なことは信じない主義なんだ」


「信じるも信じないも、人の自由ですよ。ただ私の占いは良く当たるって評判ですの」


「占い師は自分からそういうことは言わないものだ」


そう言い捨てると、さっさと歩いて行ってしまう。少女も軽く会釈をして、老婆に少しばかりの料金を払い、その背についていった。道を曲がり老婆の姿が見えなくなった頃。


「あら?これって」


そこには、財布が落ちていた。かなり入っているようでかなり膨らんでいる。


「いい事ありましたよ?」


「…………」


どうしようか二人が思案しているところに、急に声が掛けられる。

「ああ、その財布!私のですよ!」


男が駆け寄ってきて、人好きのする笑みを浮かべた。


「あなた達が拾ってくれたんですか!ありがとうございます」


「あなたの財布ですか?失礼ですがそれを証明できますか?」


「ええ、中に名刺が入っていると思います」


確かに中には名刺が入っていた。ご丁寧に男の顔写真までついている。


「疑ったりしてごめんなさい。今度からは気をつけてくださいね」


「はい!あ、これ少ないですけど御礼です。貰ってください」


わーい、と無邪気に喜んで受取ろうとする少女をたしなめ、ずっと黙っていた青年が男を睨みつける。


「どうゆうつもりだ」


「え?」


「占い師の所からつけてきていただろう。何のつもりでこんな芝居をするんだ?」


顔がこわばり、急に黙り込む男。いっこうに何かを話そうとはしない。


「……さっきの占い師か」


はっと顔を上げ、すぐにしまったという顔をした。仕方なく男は観念したように話し出した。


「あなた方は悪い人ではなさそうなのでお話します。実は私はあの人に救われたんです」


「具体的には?」


「昔、少し道を踏み外しまして、どうしようもなくなってしまった時があったんです。もう生きている意味もないと自殺を考えている時にあの占い師さんにあったんです。自暴自棄になっている私をあの人は励ましてくれました。あなたにはまだ運が残っている。ためしに真面目に働いてみなさい。そうすればいい方に転がるでしょうって……」


男は昔を思い出しているのか目を細め、少し遠くを見るようにした。


「私を励ますためのでたらめだとは思ったんですが、それでもとても嬉しかった。おかげで私は人生をやり直すことが出来ました。今では小さいながらも会社を経営させてもらっています。その恩返しというわけじゃありませんが……できるだけ彼女の占いが当たるようにしてあげようと思いまして」


「それでこれか……」


「あまりいいことだとは思いませんが私がやりたいんです。私にできることならなんだってやるつもりです。」


「やさしいんですね」


男は少し照れたように笑った。


「ただの自己満足ですよ。それでこのことは……」


「言わないさ。言っても何の得にもならないからな」


ありがとうございます、と言うと男は去っていった。


「ねえ?」


「なんだ?」


「心温まる話が聞けたってことは、いい事があったってことなのかな?」


「……さぁな」



二人は何事もなかったように、また道歩いて行く。その背後では老婆が占い。それを影から青年が覗く。


「むぅ…あなたは恐ろしい目にあうでしょう。もしかしたら命を落すかもしれません」


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