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仕事の話

不幸ってのは一度にやってくる。

最近そう思う気がする。


昨日の豪雨が嘘のように非常に晴れやかな空が広がっている。

タイルで舗装された町並みも光沢が二割増しに見えて、心なしか、道行く人々の顔も晴れやかだ。

私の心は雨模様だが……


「ふふふっ、男なんていくらでもいるさぁ……。あんな奴すぐ忘れるわぁ」


つい口をついて出る、自分への慰め。

明らかに怪しい人してるよ私……

仕事をサボるなんて、困ったねぇ、本当に。


「あら?」


前からふらふらと歩いてくる少女を発見。

手に荷物を抱えている上に、もう片方の手で暴れるネコを押さえつけて歩いている。

あれは前が見えてないね、雨上がりだから地面すべるし。

絶対こけるね、あれは。


―――ずるっ


予想通りに少女転倒。だがそこで問題が発生。

少女は丁度私の目の前で転倒したのだ。

空飛ぶネコと紙袋。目と鼻の先の私。


「ほっ」


ナイスキャッチ私。

でも、転んだ少女と同じ条件にある私。

当然無理な動きをすれば足がすべる


―――べしゃっ


今日は厄日か。

背中から水溜りにダイブ。背中が冷たい。

しかも助けてやったにもかかわらず、ネコは爪立てるし。

あー、もう嫌だ。


「だ、大丈夫ですか」


倒れっぱなしの私に、一足先に起き上がった少女が声を掛ける。

服ずぶ濡れって私も同じか。


「えぇ、気にしないで。どうでもいいから」


半分本心、半分やけくそ。

ふふふっと病んだ笑いをする私に戸惑う少女。


「と、とにかく。家までどうぞ。すぐそこですから」


そう言って少女に手を引かれていくと、本当に家は近くにあった。

一つ路地を入ったすぐ向こう。それだけなのに人通りは急に散漫になる。

少女はちょっと大きめの家のドアを開けて私を招き入れる。


リビングに続くドアをあけた途端硬直。

真っ黒な髪に、真っ白な白衣を着た青年が何かしてる。

何かとは、主に怪しげな薬品の調合。

色鮮やかと言うよりは、毒々しい色の液体を混ぜ合わせている。

青年がフラスコに緑の液体を入れたところで、少女が声を掛ける。

何故かフラスコの中身はゲル状になり、色もさらに赤く毒々しくなっている。

なにを作っているのか全く想像できない。


「ただいま帰りました」


振り返る青年、思ったよりも端整で優しそうな顔をしている。


「おかえり。どうしたんだ、それ?」


青年は、ずぶ濡れでしかもネコと紙袋を持った女を伴って帰ってきた事をひっくるめてそれ一言で表した。


「色々あったんです」


さらに一言で終わらせる少女。

通じ合ってるのか、適当なのか。

いつのまにか薬品は透明に戻っており、水と変わりない見た目になってる。

それを別のビンに入れ、小さめのカバンに詰める。

ちょっと覗いてみたが、中身に入っているものと言うと。

怪しい本、怪しい黒い塊、怪しい金属、etc……

少し眩暈がしたのでそこで覗くのをやめた。


「それじゃ、出かけてくるけど、気をつけるんだぞ」


そう言って席を立つ青年。

青年ドアを閉めたすぐ後。

打撃音と、複数の男のうめき声、次いで何か重いものが倒れこむ音。

もう、なんでもいいや。


どうでもいいけど、ネコ。いいかげん爪立てないで欲しい。

そこで私ははっとした。よく見ればネコは前足に怪我している。

膝の辺りからまっすぐに赤い筋がつま先まで伸びている。決して浅い傷では無さそうだ。


「とりあえず、シャワーでも浴びてきてください」


そう言ってネコと荷物を受け取る少女。せっかくだから浴びさせてもらおう。

ネコは気になるけど・・・・・・

案内された浴室でシャワーを浴び、用意されていた着替えに袖を通す。

なぜかサイズぴったり。


戻ってみるとさらに驚いた。

なぜかさっきまで怪我していたネコが元気に飛び跳ねている。

少女が毛糸玉を転がすとそれに向かって全力疾走。

訳がわからない。


「あ、服は乾かしてから家まで届けますね」


「いや、いい。またここに取りに来る事にする」


なぜかそのままお茶会。どこからどう見てもネコに異常はない。

魔女の家にでも迷い込んだか?

私のそんな考えなんて知る由もなく、少女は気安く話しかけてくる。


「あの人…あっ、さっきの男の人ですけど。つかみ所がなくて、最初は本当に変な人だなって思ってたんです。なにしてる人なのかさっぱり」


「あなたも相当だと思うけど……」


「えっ? なんですか」


なんでもないと答えて、出された紅茶とお茶菓子と堪能する。

とてつもなく美味しい。


適当な話をした後、見送られながら家を出た。

見送られながら歩いて、適当な所で振り返ってみる。

変わった家だったな。でも、悪くはなかった。


少し晴れやかな気分で帰路に着く。少なくても、朝の陰鬱な気分はもうない。

家のドアを開けると、目の前の壁に一枚の張り紙。仕事の催促だ。

剥がしてゴミバコに直行させる。


「さて……、行くかな」


私は収納の中からライフルケースを取り出す。中身を取り出し軽く点検する。

冷たい鉄の感触を確かめると落ち着く。そして、ケースに戻して担ぎ上げた。

今回のターゲットは、最愛の人……


「仕事、仕事。すぐに忘れる」


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