扉の話
漆黒の髪の青年は扉をくぐった。そこは様々な彫刻の並ぶ店だった。
石作りの胸像や木彫りの置物、ガラス製の陶器などありとあらゆる調度品が並んでいる。店内の客はまばらで、店の奥のカウンターでは一人の男が暇そうにヒジをついて座っていた。男の背後には奥へと続く扉がひとつあった。
青年は脇目も振らずにそこに歩み寄る。それに気付いて男が顔をあげた。
青年は一枚の伝票を取り出して男に渡した。
「注文していたものはできたかい?」
「はい、勿論。少々お待ちください」
そう言って男は立ち上がり、後ろの扉を開けた。
そこには、未完成の作品が置かれた倉庫のような空間が広がっていた。部屋の反対側にはさらに扉がついていた。
部屋の中では一人の若い女が書類の束を片手に忙しく動き回っていた。男は首だけの石像を迂回して、女に声を掛けた。
「おい、例の注文の奴、取りに行ってくれないか?」
それに対して、女はあからさまに嫌そうな顔を男に向けた。書きかけの絵画を見て、手に持った書類に何かを書き加える。
「なぜ自分で行かないんですか?」
「ほら、俺は接客があるから。頼むよ」
それだけ言うと、女の返答も待たずに背を向ける。女はもう、と文句を言いながらも、書類を置いて、さらに奥へと続く扉へと向かった。扉の前で大きく深呼吸をして、そしてゆっくりと扉を開いた。
そこは、普通の部屋だった。特に飾りもなく、部屋の片隅に小ぶりのベッドとテーブル、二つのイスが置いてあった。
部屋の反対側にはまた扉がついていた。
中では一人の気難しそうな老人がイスに腰掛け、絵を書いている。
「あの〜」
むっつりと老人が振り返る、女は無言の圧力に、うっと身を引いた。
「あ〜っと、あの彫刻ありますか?」
老人はしばらく無言で女を睨んでいたが、スッと部屋の隅を指差した。
きれいな女性の胸像が置かれている。当然それは石造りで、女性が一人で持ち運ぶものではない。
「……あれですか?」
「さっさと持っていきなさい」
「……はい」
女が必死に像を持ち上げ、あのくそ上司め、と悪態をつきながらよろよろと部屋を出た。
老人はそれを見送ってから反対のドアに向かった。
扉を開けると、そこは外に続いていた。
手入れの行き届いた庭があり、中心に岩が立っていた。
近づいてみると、それが墓石であることがわかる。その後ろに一人の女性が立っていた。
その顔は先ほどの像と同じ顔をしていた。
老人は墓まで歩み寄ると、墓石に話し掛けた。女性には目を向けていない。
「あの像、売ることにしたよ。お前は怒るかもしれないが、今度新しい指輪でも買ってやるから、あいつらの店が軌道に乗るまでは我慢してくれ。」
老人は墓石に向かって饒舌に話し続けた。それを女性が温かく見守った。
それじゃ、と言って老人が背を向けると、女性も後ろを向いた。そこには扉があった。
女性がゆっくりと扉を開くと、光が漏れだし、女性を包み込んだ。
光が収まると、そこに女性の姿はなかった。
老人はもう一度振り返ってから扉の向こうへ消えた。
ゲームに夢中で小説がおろそかになっている涼です(殴
一週間に一回を目標に更新していきたいと思います。
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