実験の話
「これ二つ下さい」
街の人間が買い物で賑わう商店街、漆黒の髪の青年は赤い果物を指差した。
あいよ、と店員の男性は愛想よく返事し、青年の手の中の紙袋にそれを入れた。
代金を渡して青年は次の店へと移る。若い女性が店員をしている花屋の前で止まった。
「これ下さい」
青年が白い小さな花を指差すと、女性は笑顔で頷いた。何に使いますか、と聞かれ、家に飾るというと適当な量を束ねてくれた。それを受け取って代金を払う。
「少しサービスしときますから。また来てください」
店員に笑顔で見送られ、青年は店を後にした。
「すみませーん」
鉄と油の匂いの立ち込める店内に、少女の声が響き渡る。店内には所狭しと鎧や銃器が並べられ、通路はかなり狭かった。
場違いな声に呼ばれて、いかつい顔の男が棚の間から顔を出す。そこに年端も行かない少女を見つけて驚いた。
少女は手に色々詰まった紙袋を抱えている。
「あんた、こんな所に何しに来たんだ?」
「いえ、品物を売ってもらおうと」
「ここはガキの遊び場じゃねえんだ! 大人しく帰りな」
そう言うと、さっさと少女の背中を押して店の外に出してしまう。扉が乱暴に閉められるのを見て、少女はため息をついた。
「全く、失礼な人ですね」
少女は店に背を向けて、再び歩き出す。次に訪れたのは肉屋だった。屋台のような露店に、新鮮な肉やハムなどが並べられ、夕食の買い物に来る主婦達で賑わっていた。その列を掻き分け最前列に進む。店の前では中年夫婦が忙しそうに作業をしていた。
「おねえさ〜ん、これ下さい!」
少女は周りの喧騒に負けないように声を張り上げる。その声に反応して、顔にいくつもしわを刻んだ女性が機嫌よくこちらを振り向いた。
「あら、かわいいお嬢ちゃんだね。お使いかい?おまけしといてあげようね。」
そう言って、予定より少し大きめに肉を切り分けてくれた。少女はお礼を言って回れ右をする。
主婦達の間を縫うようにして、素早く帰っていった。
「おいおい、お世辞言われたくらいでなに舞い上がってんだよ」
一部始終を見ていた店の主人が女を小突いた。女はにやりと笑って主人を睨みつける。
「あら? 誰かさんのまねをしただけですけど? この前鼻の下を伸ばしてたのは誰?」
主人は急いで顔を逸らして接客をすることにした。
少女は急いで商店街を駆け抜けると、他にも商品を買い足していった。そして少し歩いた先で青年と合流し帰路に着く。
青年も手に紙袋を抱えていた。
「どうだった?」
青年に聞かれ、少女は袋の中の物を見せる。
「武具屋の人には門前払いされました。でもそれ以外はいい感じでしたよ」
「なるほど、あそこの親父は気難しいからな、こっちは花屋の娘だけサービスしてくれたぞ」
ほれ、と束ねられた花を出すと、少女は顔をしかめた。
「あそこの店員、私が行くといっつもブスッとしてるんですよ。ほんと猫かぶり」
それからそれぞれの収穫を見せ合った。しばらくして、青年が先ほど買った果物をかじりながら袋の中を見て頷いた。
「やっぱり普段の買い物はお前の方がおまけしてくれるな。これからも頼むぞ」
「う〜、本当は自分が行きたくないだけでしょ?」
さてね、と呟いて青年は大きく芯を放り投げた。それは街角に備え付けられたくずかごの中心に落ちた。日が暮れ出した商店街は、さらに賑わいを見せていた
人生もスランプ気味の涼です。(汗
テスト前につき、ちょっとお休みしたいと思います。
それでもすぐに戻ってくると思います。
いつも読んでくれてありがとうございました。