はじまりの話
はじまりの話
いつもと同じ朝が来た。
漆黒の色をした髪の青年はまだ覚醒しきっていない脳を無理やり働かせ起き上がる。窓の外では、既に鳥達が囀りながら、餌をついばんでいるころだろう。のろのろとベッドから抜け出し、服を着替える。
歯を磨いて顔を洗うとだいぶ意識がハッキリしてきた。
寝室から出て、一階へと降りると既に朝食が準備されていた。
朝はあまり食欲が出ないのだが・・・・・・とそこへ声がかけられる。
「やっと目が覚めましたか?早く朝食を済ませてください」
少女が朝食を運びながら声を掛ける。その目はとてもきれいな金色をしていた。
席について、朝食をとりつつ、いつもと同じ朝を堪能する。一通り食べ終えると、食後の紅茶が運ばれてきた。
「一つ、昔話をしようか」
少女は一瞬怪訝な顔をしたが机に向かい合い、姿勢を正す。
「あるところに貧しい家族がいた。あるとき生活が苦しくなって子供を一人売りに出すことになった。売られた先で子供は馬車馬のように働かされ、仕事に失敗するとむちで打たれた」
少し嫌そうな顔になった相手をなだめ再び話し出す。
「あるとき、子供は生活に耐えかねて逃げ出した。近くの役所に入り、自分がどんな扱いを受けているか、どんなひどい生活をしているか訴えた。だが役所の人はこう言った。『売られた身なのだから多少の苦痛は我慢するべきだ』と子供をなだめて。」
青年は入れられた紅茶を一口すする。
「子供は結局今までの家に戻され、同じように働いて暮らしましたとさ。………さて、
この話の教訓は何だと思う?」
いきなり質問を振られて少し考え込む。しばらく考えてからまとまりきっていない考えを述べた。
「人身売買の悲惨さ?……それか他人を頼るなという教訓ですか?」
「答えは、こういう話はつまらないと言うことだ。」
言ってまた紅茶を一口すする。既にだいぶ冷めてしまっていた。
「なんですか、それは」
「別に?意味なんてない。ただの作り話だ。」
そういって、青年は立ち上がった。
そのとき机についた腕に古い小さなあざが見え隠れした。
「今日は、街まで降りてみようか、そろそろ買出しに行かないと」
「あ、そうですね。紅茶の葉も新しいのが欲しいと思っていたんです」
少女はそう答え、一緒に玄関から出て行った。
どこにでもある家庭の、どこにでもある幸せ。それは一握りの人間にだけ与えられた特権だと気付いている人間は一体何人いるのか。
今日もいつもと同じように朝が過ぎ去っていく。
初めて小説に挑戦させてもらっています。涼です。
ここまで読んでくださった読者の方々ありがとうございました。
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作者が泣いて喜びます。