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「さっきの映画楽しかったね」
「ああ、細かいところまで目が行き届いてたし、面白かったよ」
「うん!最後の二人が再会するところなんか、ホントよかったよ!」
「あそこは、確かによかったね。海津泣いてたしね」
悠二はちょっと意地悪っぽく言う。
「ちょ、ちょっと、そんなこと言わなくてもいいじゃない。……だって、感動したんだもん」
「はは、ごめん、ごめん。そんなに、しょぼくれなくても」
「……もう、いい!悠二君なんか知らない」
ぷいっと横を向いてしまう。恥ずかしがり屋の彼女には、通じない冗談だったのかもしれない。
慌てて、悠二は伊織の機嫌をとる。こんな顔をさせるために誘った訳ではないのだ。
「ごめん!ほんっとごめん!俺が悪かったから、そんなに怒らないで」
泣きそうな声だった。実際、泣きたくはあったが。
それでも、伊織は振り向いてくれない。心の底からうろたえた。
「すいません、海津さん!この通りです!もうしませんから!」
必死に頭を下げる。周りから見ると、かなり滑稽だったが、なりふり構っていられる状況ではなかった。
頭を上げ、伊織を見る。よく観察してみると、肩の辺りが震えている。泣き出してしまったのか、そう考えたが、杞憂だった。
遅れて、笑い声が聞こえたからだ。笑い方から察するに笑いを堪えているようだ。
伊織が突然振り返って言った。
「冗談だよ。必死で謝る悠二君がなんだかおかしくて。ちょっと意地悪したくなっちゃったんだ」
その言葉を聞いて、悠二は脱力した。
「もう驚かせないでよ。結構、本気で心配したんだからさ」
「はは、ごめんね。悠二君ってからかい甲斐があるから、ついね」
悪戯っぽく笑う。
それだけで何でも許してしまえそうだ、と思うのは甘いのだろうか。
二人は、さっきまでの沈黙が嘘のように会話が弾んだ。映画館を出て、来た場所は近くのデパート。これも悠二の考えたコースとは違っていたが、それでもよかった。伊織が笑っていてくれるからだ。
上から順に見て回り、5階の雑貨店に入った時、悠二を見つめ、伊織がこんなことを言ってきた。
「うん、やっと悠二君らしくなった」
「え?」
何のことか分からなかった。
「なんか、さっきまでの悠二君なんて言うか、力入り過ぎっていうか、硬かったからさ」
はっとした。確かに緊張や自分の考えた通り事を運ぼうとして、肩に力が入り、浮き足立っていた。痛いところを付かれ、思わず頭を掻いた。
「はは、バレてたか」
「その位分かるよ。悠二君て分かり易いしね」
「結構、平静を保ったつもりなんだけどな」
「嘘が苦手なんだから、無理しないの。……でも、きっと私じゃなきゃ分からなかったよ」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかった。
「え?最後なんて言ったの?聞こえなかったんだけど」
「い、いいの!聞こえなくて。何でもないから!」
「何でもない、って気になるよ」
「気にしちゃ駄目なの!ほら、行こう」
また、手を引っ張られる。
揺れる髪から見える耳が赤かったのは、気のせいだろうか。
それにしても、伊織が自分をリラックスさせるために、こうしてくれた事は嬉しかった。確かに、気取ることもない。自分のままでいけばいい。いつものまま。俺が好きになったのも、今の自然なままの伊織なんだから。
ここの話はかなり好きです。自分で言うのも何なんですが、共感してくれると嬉しいです。