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駅前

純ラブストーリーです。よろしくお願いします。

 悠二は混雑する駅前で立っていた。待ち人が来るのを待っているのだ。

 悠二こと水坂悠二ミズサカ ユウジは桜花学園高等部の二年生だ。背は高く、すらりとした体型。幼さを残した顔には、人の良さがにじみ出ている。決して目立つ方ではないが、存在感がある。それは身のうちにある強い芯の一本通った男だからだろう。

 悠二はちらりと改札の方を覗き見た。そこから目立つ人物―男―が出てきた。その男は不機嫌な顔を隠そうともせず、ずんずん人を蹴散らし、進んでいく。目つきが悪く、人はその男を避け、道を空ける。彼の道が出来上がっているようだ。

 しかめ面をしているが、顔立ちは整っており、背が高く、シャープな体とよく合っていた。はっきり言ってかっこいい。しかも、人を気にしていない。

 (俺もあんな風だったらなぁ)

 そんな風に思いながら、見ていると、不意に男が歩む方向を変えた。その先にいるのは、一組のカップル。

 俺が言うのもなんだが、あれはないだろう。二人で一つのマフラーを使うなんてさ。俺なら恥ずかしくて無理だ。根性があるとしか言いようがない。

 などと考えていると、男は何を思ったのか、そのカップルの方に突っこんでいく。

 (え、それはマズイんじゃ……)

 悠二の心配をよそに男は足を止めなかった。そして、激突した。

 なぜかは知らないが、二人の間に入り、両手を挙げている。その姿は、徒競走でゴールテープを切った風に見えた。

 苦しそうに咳き込むカップルを尻目に男はどこかに行ってしまった。全くもって理解不能。恐ろしい人だと思った。

 (おっと、あんな事に気を取られてる場合じゃない)

 そう、彼は今宵、人生の一大イベントを迎えようとしているのだ。彼が待っている相手は女の子。しかも、ただの女の子ではない。自分にとって大切な女の子だ。今は友達以上、恋人未満という恐ろしく曖昧な位置関係を保っているが、今日はその関係を壊すつもりだった。つまり、告白。このクリスマスという、幻想的な日に想いを告げる。それは、誓い。どんなものにも負けない誓い。それを立てるべく、勇気をだして彼女を誘ったのだ。

 ……まあ、誓いっていうのは大げさだな。でも、そのくらい彼女のことが好きだ。振られたら、といった嫌なことが頭をよぎることもあったが、無視した。

 一人、悶々としていると、見知った顔が改札から出てくるのが分かった。

 (来た!)

 高鳴る鼓動を抑えながら、一度言ってみたかった台詞を口にすべく、呼吸を整えた。大丈夫。彼女なら、きっと期待にこたえてくれる。

 「ごめんね!待った?」

 下から覗き込むようにして訊いてきた。ほのかな香水の匂いがする。くらくらしそうだ。彼女は人ごみの中にいたせいか、頬がほんのり赤くなっていた。

 彼女の期待通りの質問にこう答える。

 「いや、待ってないよ。今来たところ」

 悠二は心の中で、ガッツポーズを決めた。これが、前から一度言ってみたかったのだ。くだらないことかもしれないが、やってみたかったのはしょうがない。

 悠二の答えに安心したのか、彼女は可愛らしく舌出し、その後、屈託のない笑顔を見せた。

 やめてくれ。そんな顔されたら、脳みそが溶ける。それにいつも以上に可愛いと思ってしまうのは、クリスマスマジックか?いや、違う。きっと俺が舞い上がってるだけだ。そうだ。そうに違いない。

 彼女の名前は、海津伊織カイズ イオリ。高校二年生で悠二のクラスメート。背は女子の平均よりやや高め。肩まで伸びるさらさらの髪。顔はくりっとした愛らしい大きな瞳に薄い唇。綺麗というよりは、可愛いの部類に入る。そして、流麗な曲線を描く体は、完璧といってもいい。

 そんな彼女とは高校からの仲だ。入学当初、迷っていた彼女を教室に送り届けたことで仲良くなった。まあ、その後の朝会で、貧血を起こして運んだのも俺なんだが。そのことは彼女は知らない。

 それから徐々に話すようになり、二年で同じクラスになったことで更に仲を深めた。そして、何度か二人で遊んでいく内に気が付いたら、俺は好きなってたって訳だ。で、現在に至る。

 悠二は今日のために色々な雑誌を読み漁り、デートコース?を考えていた。友達を誘い、コースの下見も入念に行い、完璧にしてきた。その成果が今、報われる。

 「じゃあ、行こうか」

 さりげなく言い、主導権を握ろうとしたが、そうはいかなかった。

 「うん、行こう!」

 伊織はそう言って、悠二の手を引っ張った。

 こうして、悠二はいきなり出鼻を挫かれたのだった。

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