Lv.008『立夏がカレー作るって』
『雨水~、聞こえる~?』
立夏の声が頭に響く。
『どうしたの?何か用?』
僕は仕留めた鳥型の魔物の血抜きをしながら返した。真っ青な羽に黄色とオレンジのまざった尾を持つ、鷲サイズの鳥だ。名はユークエンという。アルヴェディアでは魔物も食料らしく、ラバトの話では普通に食べるとか。そもそも、魔物が強すぎて野生の動物は全滅。家畜ぐらいしか残っていない。
『あのね、カレーのルーみたいな味がする木の実を見つけたんだけど、今日カレーとかどうかな?』
『丁度いい。ユークエンを仕留めたから、チキンカレーにしない?』
『いいね、それ!じゃあ、準備しとくね』
魔物という生き物において、“大きい=強い”という方程式は成り立たない。強い魔物ほど魔法を操るからだ。この魔法というものは魔術とは全く違う。まず、当然の事ながら詠唱の必要がない。魔法陣も必要ない。その魔物の“意思”一つで簡単に発動してしまう。それが魔法だ。ある意味、妖精や精霊の魔術は魔法に近い。
魔物が使う魔法は、一匹につき一属性だけである。例えばユークエンのような鳥型の魔物は風系が多い。たった一属性ではあるが、ランクの高い魔物の魔法は侮れない。ドラゴンなどであれば、国一つ滅びかねないほどの威力を誇るのだ。
ランクは下からE、D、C、B、A、S、SSとなる。ちなみに、古代種のドラゴンはSSでユークエンはAだ。基本的に魔物は、体の色が派手なほど強い。もちろん例外はあるが、そう考えてまず間違いないだろう。
『どうかしたのか?』
「ん~?立夏がカレー作るって」
『かれー?何だそれ』
「辛くておいしい食べ物」
前世の話はしていないので、詳しくは話せない。
『食べ物か?前の“さんどいっち”も旨かったよな!』
森の中では作れる料理などしれているが、ラバトが時々持って来てくれるパンなどの食材はありがたく使わせてもらっている。いくら食べる必要がなくても、前世の記憶がある僕らとしては物足りない感じがするのだ。精霊達も食べられないというわけではないため、一週間に三日ほどは作るようになっていた。
「ナウルは食べるの好きだね~」
『いや、オレが好きなのは食べることじゃなくリッカが作っ……』
「食べるのが好きなんだよね?」
『……はい。そうですね』
ナウルのテンションが一気に下がった気がするけど気にしない。
「サモアも食べるよね?」
『俺は別に……』
「立夏が作ってくれるんだから、食べるよね?」
『……わかった』
え、黒いって?何の冗談かな?
ユークエンは意外とおいしい。色が色だから最初は食べる気しなかったんだけどね。そのおいしさとランクがAって事から高級食材なんだって。
「んっま~い!」
「立夏、確かにおいしいけどスプーンを振り回すのはダメだよ」
器は木をくりぬいたものだが、スプーンは金属製だ。砂鉄が手に入ったから、コツコツ集めて錬金した。普通の鉄がないのは森だから仕方がない。
『これがカレーか!?すっげーいい匂いするじゃないか。……野菜は余計だが』
「残しちゃダメだよ?」
『わ、わかってる!リッカが作ったものを残すものか』
『しかし、本当においしいですね。辛さを控えれば子供でも食べられそうな……』
「あ、わかる?年齢に関係なく人気のある食べ物なんだよ~」
『ふむ、確かに食べやすいな』
森から一歩も出た事がないはずの僕らがなぜこんな料理を知っているのかとか、疑問はあるだろうに聞いてこない彼らにはすごく感謝している。
『ウスイやリッカが作ったご飯はおいしいわよね~』
「本当?フィジーありがとう!」
僕は微笑ましげにしつつ、ほわわんとしたフィジーが弓の名手で棒術までマスターしているなんて外見だけでは想像できないな、と思っていた。
「サモアは?おいしいでしょ」
『あぁ』
『旨いぞ!いくらでも食べられそうだ』
「ナウルには聞いてないけどね」
『ウスイがいじめる……』
「えぇ~?いじめたつもりはないんだけどなぁ。サモアは聞かなきゃ言わないけど、ナウルはうるさいくらいにしゃべるでしょ?」
『う、うるさくて悪かったな!』
ナウルがわめいているが、事実なのだから仕方がない。放っておけば空気になりかねないサモアにしゃべらせるのは大切だ。存在感がないってわけじゃあないんだけどね。
『大体ウスイは……』
「はいはい、しゃべってばかりいないでちゃんと食べてね~」
絶妙なタイミングで立夏が言い、僕は内心でにやりと笑う。さすが僕の妹。わかってる!
10/13 ナウルのセリフで、「立夏」「雨水」をカタカナに直しました。