Lv.007『ずっとやっててつかなかったら凹むよ』
妖精って色々複雑な立場にいるみたいだ。強いのに、いや、強いからこそ狙われる。美しく強い妖精を自分のペットのように扱って、さぞかし気分のいい事だろう。
それから、レソトとユーランが帰って来る前にラバトは出て行った。何か用事があったらしく、ここに寄ったのはついでだったようだ。ニニアスの木を見て名残惜しそうにしていたから、また来るだろう。その時に視線を感じたのは気のせいに違いない。
まさか、ショタではないよね。“幼女”って言ってたし。……それはそれで嫌だけど。
◆◇◆
初めてラバトが来た日から三年が経った。その間、ラバトは何度か来ている。ユーランと意気投合したようで、時々ユーランの言動が怪しくなるのは勘弁してほしい。
八歳になった僕らだけど、二年前から少しずつ訓練を強化している。立夏は弓術と棒術、僕は鎌を使った戦闘法と暗器の扱いについてだ。立夏にはフィジー、僕にはサモアとナウルが指導してくれている。
フィジーは見た目十五歳くらいで、おっとりした少女だ。立夏とは友達みたいな関係だが、訓練は結構厳しいらしい。サモアは無口な青年で、あまりしゃべらないものの教え方が物凄く上手い。ナウルの方はおしゃべりで胡散臭い感じだ。聞くと、二人は腐れ縁らしい。三人共高位精霊である。
訓練は地味でしんどいだけだから割愛しよう。ナウルが暗器の扱いだけでなく暗殺術まで仕込んできたのは余談である。
『おー、大分体力ついてきたな』
「ずっとやっててつかなかったら凹むよ」
僕は投げたナイフを回収しながら言った。
今、僕は中心部の外に出て実戦訓練中である。せっかく強い魔物がいるのだから、と一年くらい前から始めている。サモアとナウルがいるし、いざとなったら魔術もあるから危険はない。
初めの内は、鎌を振り回せる場所に魔物を誘導して森の中を走り回ったり、錯乱しつつナイフを投げたりするので体力がもたなかった。それなりに鍛えていたんだけど、やっぱり実戦は違う。それに、魔術の時とは異なる肉を切る感触が何とも言えない気分にさせた。
僕が鎌と暗器、立夏が弓と棒術を習っているのには、きちんとした理由がある。
まず、これから先立夏と旅するのならどちらかが前衛をしなければならない。仲間ができるかもしれないが、“かもしれない”を当てにするのは最良とは言えないのだ。だから僕が鎌、立夏が棒術を習った。
妖精が扱える前衛の武器は鎌、棒、刀、片手剣……あとは使い方によってはナイフくらいだろう。刀にも魅力を感じたが、鎌の方が相手との距離を保つ事ができるし、魔術と組み合わせやすいのではないかと思った。詠唱カットはできるようになったしね。
立夏の方は、魔術の補助に杖を使う事を想定した上での選択だろう。杖を持っていると、勝手に接近戦が苦手だと勘違いしてくれるという利点もあるとか。
弓は立夏が弓道をやっていたからだけど、暗器は鎌とは反対に障害物の多い場所でも戦えるように選んだ。鎌で戦えなくなった場合も、一見何も持っていないように見えると油断するしね。
暗殺術に関してはナウルがやった方がいいって言った。何でも、才能があるらしい。素早さはあるし、この年にしては小柄だし(これからどうなるかはわからないけど)、何より性格が。
失礼だと思わない?見た目に反して真っ白な性格じゃないのは自覚してるけどさ。あぁ、この外見もいいんだって。相手が侮るから。大きくなったら男らしくなるかもしれないのにねぇ?
……嘘だよ。希望を込めて言ってみただけ。仮に女っぽくなくなったとしても、強そうには見えないんだろうな。それに妖精って成長止まるし。個人差があるけど、できるだけ遅くがいいな。最低立夏と同じか年上が……兄としてそれぐらいは望んでもいいよね。
そういえば、僕の容姿についてちゃんと説明した事はなかったよね。鏡がないから僕自身ちゃんと見た事がないんだけど、男女の双子なのに立夏と瓜二つらしい。
立夏はふわふわした金髪に新緑のくりくりした瞳をしている。まつ毛がすごく長くて、顔が小さい。翼族でもないのに肌は透き通るように白く、きめ細やかだ。まだ子供なのに手足がスラッとしていて、綺麗というよりは可愛い系。僕と同じくこの年にしては小柄な方だ。
というか、髪の長さ以外身長も同じなのだから、正直複雑だった。立夏は腰辺りまで伸ばしていて、大抵邪魔だからとポニーテールにしている。僕は肩より少し長いくらいで、下の方で一つにまとめていた。
もうね、これでも結構鍛えているわけなんだよ。なのに見た目に全く変化がないってどういう事だろう。
いや、この顔でマッチョになっても困るけどさ。