Lv.005『ラ・バ・ト、さん?』
変人はラバトという名前らしい。名乗ってきたから、仕方なく名乗り返した。
僕はラバトを中心部の外へ放り出したのに、無傷で帰って来た。こんなんでも強いみたいだ。一人で中心部に来るだけの事はある。
「それで、お前達はなぜこんなところにいるんだ?」
「ん~まぁ、ちょっと訳アリでね。ここの精霊に育ててもらったんだよ」
自我があるから手はそれほどかからなかったと思うけど。
「精霊に?それはめずらしいな。妖精の子供は精霊にとって危険なんだが」
食べるからね。
「む?……あぁ、ハーフなのか。ならそういう欲求が弱いか異常に強いかのどちらかだな。お前らは弱かったというわけか」
強い場合もあるんだ。人間の血が混ざったせいで妖精としての能力を制御できないとか?とことんついてるんだなぁ。僕らって。
「精霊に育てられた金髪幼女の双子……」
「ラ・バ・ト、さん?」
「はいぃぃっ!」
なんかこの人、普通にしてたらモテるだろうになぁ。時々脱線してしまうみたいだ。それ以外はまともなのに。
「魔術も精霊に?」
にやけてた顔を元に戻し、ラバトが言う。
「うん。一般常識とかはあんまりわからないみたいだったからね。その代わりちょっと早いけどって」
「ちょっとどころじゃないけどな。普通は十歳過ぎてから習い始めるぞ」
へぇ、そうなんだ。
「じゃあ、十歳まですごく危険なんじゃないの?」
立夏が尋ねる。主に狩人とか狩人とか狩人とか。
「あぁ。確かに、子供が一番狙われやすいな。でも、体ができてないから十歳前に魔術を使える奴は少ない。練習しても意味がないな」
やっぱりチートだな。この体。うん。
「それでねー、私達、この世界の事全く知らないんだ。教えてくれると助かるんだけど」
この人に頼むのか、立夏。まぁ、暴走しなければいい人みたいだけど。僕を女の子扱いしたり、男の娘って言ったりするのはいただけないな。
一般常識って知ってて当たり前だから、ラバトは何から話していいかわからないようだった。それなら、と僕らが質問すると、淀みなく答える。きっと頭が良いんだろう。
この世界はアルヴェディアっていう名前らしい。ゲームのままだ。精霊はその辺り全く気にしてなかったから、知らなかったんだよね。
大陸に国は五つ。北のカンルド王国、西のフレシア王国、南のイーニス王国、東のユリール王国、中央のエフェソス王国。三百年前にあったオリアン帝国が分裂したようだ。リーンテアの森はフレシア王国の東寄りの場所にある。
それから、ずっと気になっていた名前の事も聞いてみた。僕の名前って明らかに日本っぽいよね。レソトとかはカタカナなのに。
すると、僕らのような名前は珍しくないという答えが返ってきた。昔からいるにはいたが小数で、三百年前に増えたとか。
……もしかして、もしかしなくてもプレイヤーだよね。ほら、カタカナ使う人とそうじゃない人がいるし。
あと、アルヴェディアの名前は貴族や商人の場合、『名前・家名』になるようだ。平民の場合は『名前・住んでいる土地名』で、王家は『名前・王族でない方の親の家名・国名』となる。両方の親が王家の場合『名前・嫁(婿養子)に来た方の国名・国名』になるのかな。
「じゃあ私はどうなるの?」
「本名は別にあるだろうが、名乗るなら『リッカ・リーンテア』になるな」
そうそう。漢字の名前は正しく発音できる人とできない人がいるらしい。名前が漢字の人は大抵ご先祖様が漢字だったとかで、普通に発音できる。が、カタカナの人はできない人が多い。その“ご先祖様”がプレイヤーなのかそうでないのかも確かめたいところだ。
地理の話に戻るけど、リーンテアの森から一番近いのはルルスっていう村だ。森を出てから歩いて十日ぐらい。まぁ、魔物の多い聖域の近くに住もうとする人なんて妖精くらいのものだからね。
ルルス村は南側にあるけど、北に十三日歩いたところにはトリアナという町がある。そんなに大きくはないが、活気のある町らしい。西側のマッシューブへは二十日歩かなければならず、馬か何かがあった方がいいとの事。とても大きな街だそうだ。
東側には何もない。騎馬民族や遊牧民なんかが行ったり来たりしていて、エフェソス王国との国境には小さな山がある。山と山の間を川が通っており、リーンテアの森の川とつながっているらしいが、僕らがエフェソス王国出身だと断言はできなさそうだ。この川はたくさんの川の水が集まっていて、リーンテアの森の北側にもつながっている川がいくつかある。つまり、フレシア王国出身という可能性もあるわけだ。
いずれ生き別れた母親を探す時は、フレシア王国とエフェソス王国を中心に探す事になるのかな。