Lv.004『それで、どうしようか。アレ』
「おぉ、何と素晴らしい魔力!このニニアスの木から発せられる魔力の純粋さは私が見た中でも最高だ!ぜひとも研究を……」
どうしよう。何か変な人がいる。
『あの人頭おかしいよ、雨水』
立夏が念話で伝えて来た。この子、思った事を率直に言うから天然の毒舌なんだよ。本人気付いてないけど、結構グサッてくる事をさらっと言うし。
『立夏、ああいう人と関わっちゃダメだよ』
何かすごく疲れそうな感じがする。無視するのが一番だ。
リーンテアの森の中心部に来たんだから相当な使い手なんだろうけど、あんな人は嫌だ。何と言うか、魔力馬鹿?僕ら妖精には魔力が見えるから妖精か精霊かはすぐわかるんだけど、確認するまでもない。妖精だ。
『あの人の羽、透明だね』
立夏が言った。
そう、彼は羽を出していたのである。妖精は羽を狙われるし、羽自体あんまり丈夫じゃないからしまっておくのが普通なのに。
『聖域の中心部だし、たまには羽を伸ばしたいんじゃない?』
『あ、すごい。虹色にも見える。シャボン玉みたい』
立夏は身を乗り出すようにして見入った。
ちなみに、僕は濡羽色、立夏は乳白色をしている。レソト達曰く珍しい色で、妖精狩りの人達に見つかったら全力で逃げないとヤバイらしい。
というか、もしかして透明も相当珍しいんじゃ?
僕らは数分前まで、ニニアスの木にもたれかかって昼寝をしていた。
ニニアスの木っていうのは御神木みたいなもので、大量の魔力を発している。地面とか他の木からも出てるんだけど、全く比べ物にならない。ニニアスの木があるからここは聖域なんだ。
精霊は自然のものに宿るけど、レソトはニニアスの木に宿る皇位精霊だ。皇位ってのは精霊の力の強さを表す位みたいなもので、上から皇位、高位、中位、低位になる。つまり、一番強いのだ。そして、ユーランは高位精霊である。宿っているものはマニの木、だったかな。
おぉっと、話がずれた。閑話休題。
そしたら、反対側にあの男が来た。見た目は二十代くらいだけど、妖精は長寿らしいから当てにはならない。髪は紺色で、ストレート。背中の中頃まである。目は残念ながら見る事ができないが、相当整った容姿のようだ。
妖精が容姿端麗な種族だって本当だったんだね。っていうか、こういう転生パターンでは見る人皆美形ってのが王道な気がするんだけど。あ、でもレソトはおじいちゃんだし、ユーランは十人な……殺気を感じるからやめておこう。
『それで、どうしようか。アレ』
運の悪い事に、レソトもユーランもこの場にいない。寝てたからどこに行っているのかわからないけど、いないものは仕方ないな。
『あの羽は興味あるけど、放っておくのが一番なんじゃあ……?』
『でも、数日居座りそうだよね』
数日どころか数ヶ月とか普通にいそうだ。妖精は聖域では食べ物に困らないし。聞いた話では、聖域に住んでいる人達もいるらしい。三百年前だけど。
『変な人には捕まりたくないな……うわっ』
目の前に金色の目があって飛び上がりそうになった。うわ~、金の目とかファンタジーだなぁ。
僕らは魔術師だし、体術とかに関しては修行中だから気配には疎い。でも、それにしたって普通の人よりはわかるはずなんだけど、全くしなかったよ。この人。
「おや?こんなところに子供がいる。この辺りに町や村があるって話は聞いた事がないんだが」
そりゃあ、町や村に住んでるわけじゃないしね。
「それにしても、見事な金髪。新緑色の瞳も、翼族のように真っ白な肌も素晴らしいじゃないか。見た感じまだ五歳前後かな?かわいらしい姉妹だな!」
「僕は男なんだけどねぇ……」
笑顔で、少々低めの声を出して言った。ユーランにもかわいい、かわいいって言われるけど、男としてはうれしくないんだよ。確かに僕の容姿は天使だけどさ!
あ、言っておくけどナルシストじゃないからね。僕と立夏は髪の長さ以外本当にそっくりだから、僕の容姿をけなすと立夏の容姿もなす事になる。それが嫌なだけだ。
だからといって、女の子みたいな扱いをされるのは非常に不本意なんだ。あくまでも僕は男だし。
「男の娘!美少女兄妹!さわっていいか!?」
男が鼻息荒く、手をワキワキさせながら近寄って来た。
うん、なんか色々残念だな。この人。せっかく整った容姿なのに、宝の持ち腐れってやつだ。……いや、これで美形じゃなかったら本当にただの変態か。
『うわぁ……』
立夏が本気で引いている。優しい子だから、こんな事滅多にしないのに。よっぽど怖かったんだな。よし。
【駆け抜ける風よ、我に従え――――セルーション】
男には空を舞ってもらう事にした。