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金の悪魔と金の天使  作者: 活字中毒
ギルド編
31/32

閑話04 妖精は強い?弱い?(4)

閑話はこれで終了です。

予定では半分のはずだったのですが……。

本編が全然進んでないのに長くなってすみません。


「戦闘になると人が変わるって、ああいう事だったんですね」


 シェリエルが先ほどの戦闘を思い出しながら言った。


 血に濡れた刀を嬉々として振るうアクセル。口調がガラリと変わり、カタコトではなくなっていた。遠巻きに音声を消して見る分には魔物が次々と始末されてゆくさまが清々しいが、近付いてみれば飛ぶ血飛沫に恍惚とした笑み。発する声は九割方高笑いと敵への罵声で、何とも残念である。


「戦うのって面白いだロ?あの緊張感とか高揚感とかがサ」


「まぁ、否定はしない」


 サディヘルが返す。彼も戦闘狂の部類に入るが、アクセルとは比べるべくもない。初めて見たサディヘルとシェリエルは引いてしまって、ほとんど見ているだけだった。


「そういや、試すんじゃなかったのか?」


「あ、忘れてタ」


 ディラクの指摘に、アクセルは気まずそうに笑う。アクセルがつっこみすぎて魔術を放てなかったのだ。自覚はあるらしいのでサディヘルは何も言わない。


「アクセル、次は控えろ。というか、参加するな」


「えー、見てるダケ?」


「実力を確かめるんだろう?強いやつを見付けたいんなら我慢しろ」


 二人よりサディヘルとシェリエルは“アルヴェディア”でも五本の指に入ろうかという実力者だが(廃人とも言う)、アクセルは二人のレベルを未だに知らない。パーティーになれば簡単なステータスは見られるはずなのに、その辺りは一切気にしないアクセルである。


「……ま、そういうわけダ。次は見てるカラ二人で戦えヨ」


「はいはい」


 心底残念そうな顔をしているアクセルに、シェリエルは本当に戦うのが好きなんだな、と思った。






 ◆◇◆






 グランドウルフにはすぐに遭遇した。今度は十二匹の群れだ。こちらが風上だったのですぐに気づかれた。


「オレが前に行く。リフィートは?」


「もう切れています」


「そうか。仕方ない、二分で終わらせる」


 サディヘルは前へ出ると、短く唱えた。


【霧よ――ミスト】


 辺り一面に霧が立ち込め、視界を遮った。これがもし画面を見ながらやるタイプのRPGならグランドウルフだけが見えなくなるのだが、VRなのでそうもいかない。サディヘルとシェリエルにも周りが見えなくなった。


【我は闇に忍ぶ獣となる――ジ・アーラ】


【我が手足となり拘束せよ――エル・ナータ】


 続けてシェリエル、サディヘルが唱える。ジ・アーラは気配消しの魔術、エル・ナータは対象を拘束する魔術だ。少し移動してからすぐにシェリエルは次の詠唱に入った。


【我が求めるは天……】


【我、其の主なり。其は誇り高き獅子の王。地を駆け天を駆け行く金の影……】


 サディヘルも言葉を紡いだ。霧は少し薄くなっていて、グランドウルフの影も見える。


【我が求めるは剣……】


【契約に基づき我、サディヘルが請う……】


 低い唸り声が響く。まだ二人は詠唱中だ。ディラクは自分が戦うよりもハラハラしながら見ていた。右手はしっかりとアクセルを掴んでいる。


【我が求めるは炎……】


【其を我が前に――ラディリオ】


 霧が晴れ、グランドウルフが襲いかかる。その瞬間グランドウルフとサディヘル達の間に魔方陣が現れ、ライオンが飛び出す。ライオンはそのままグランドウルフに食らいついた。鋭い爪を振るい、二匹目を仕留めるとグランドウルフ達は警戒するように距離を置く。


 文字通り金のたてがみ、鱗に覆われた長い尾、大人が三人は乗れる巨大な体。毛に隠れて銀の鱗らしきものがちらちら見え、顔の左半分も覆っていた。


 ラディリオ。ライオンとドラゴンが混じったような魔獣である。


「ラディリオ、グランドウルフをオレ達に近付けるな」


『了解した』


 ラディリオが守るように前へ出る。Sランクの幻獣だが、十匹相手では片付けられないだろう。


【我が欲するは盾ともなり得る強き矛……】


【我らに更なる力を与えたまえ――リフィート】


 サディヘルはリフィートを唱え、シェリエルの隣に並んだ。


【天とは、即ち天空……】


【剣とは、即ち鋼鉄……】


【炎とは、即ち聖火……】


【矛とは、即ち武力なり……】


 歌うようにしながら交互に口ずさむ。


 これはオリジナル魔術で、サディヘルとシェリエル二人がかりで行うものだ。通常の魔術よりも詠唱が長いが、威力は跳ね上がる。また、二人がかりと言うが今のように途中からでも良い。一言でもかまわないので二人共が呪文を口にしなければ発動しないという代物だ。


 いつもなら召喚魔術や精霊魔術で片付けるのだが、せっかくなので見せる事にした、という訳だった。


【天空に轟くは雷鳴……】


【鋼鉄が表すは退魔……】


【聖火が示すは浄化……】


【武力により滅する……】


【【我らは全てを切り裂くいかずちを求む――サンダーソード】】



 二人の手に剣が現れる。雷でできた、なぜ感電しないのかが不思議な剣だ。


「では――いこうか」


 サディヘルはにやりと笑い、シェリエルが頷いた。






 ◆◇◆






 一方的な戦闘であった。サンダーソードを片手に舞うように戦うサディヘルとシェリエル、そしてラディリオ。妖精とは思えない動きでグランドウルフを殲滅し、血の臭いで寄って来たもう一つの群れも危なげなく殺してゆく。


「確かに、妖精は武器や防具でカバーしきれないほど物理攻撃力と防御力の能力値が低い。だが、魔術を使えば並以上に戦える」


 詠唱の時間が欠点だが、魔物が出る場所に行く場合は身体強化をしておいたり幻獣を召喚しておいたり、対策はある。サディヘルとシェリエルほどレベルが高くなるとMP回復薬も簡単に手に入るため、魔術を出し惜しみする必要もない。


 成程、ディラクが魔術チートと言うわけだ、とアクセルは頷いた。


 ちなみに、この後アクセルが二人に決闘を申し込んだのは余談である。



◆ミスト◆

 無属性の下級魔術(ゲームでは初級)。約三分間白い霧を生み出す。敵だけでなく自分の視界も遮っていまう。詠唱は『霧よ――ミスト』。


◆ジ・アーラ◆

 無属性の中級魔術(ゲームでは下級)。対象者の気配を消す。同じスキルがあるので、戦士系の人はそっちの方が便利。詠唱は『我は闇に忍ぶ獣となる――ジ・アーラ』。


◆エル・ナータ◆

 木属性の中級魔術(ゲームでは下級)。無数の蔦が対象を拘束する。詠唱は『我が手足となり拘束せよ――エル・ナータ』。


◆ラディリオ◆

 Sランクの幻獣。文字通り金のたてがみ、鱗に覆われた長い尾、大人が三人は乗れる巨大な体。毛に隠れて銀の鱗らしきものがちらちら見え、顔の左半分も覆っている。ライオンとドラゴンが混じったような魔獣。サディヘルの召喚の詠唱は『契約に基づき我、サディヘルが請う。我、其の主なり。其は誇り高き獅子の王。地を駆け天を駆け行く金の影。其を我が前に――ラディリオ』


◆サンダーソード◆

 サディヘルとシェリエルのオリジナル魔術。雷属性の古代魔術(ゲームでは上級)。電気でできた剣がサディヘルとシェリエルに一本ずつ現れる。詠唱は『我が求めるは天。我が求めるは剣。我が求めるは炎。我が欲するは盾ともなり得る強き矛。天とは、即ち天空。剣とは、即ち鋼鉄。炎とは、即ち聖火。矛とは、即ち武力なり。天空に轟くは雷鳴。鋼鉄が表すは退魔。聖火が示すは浄化。武力により滅する。我らは全てを切り裂くいかずちを求む――サンダーソード』。

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