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金の悪魔と金の天使  作者: 活字中毒
ギルド編
26/32

Lv.020『ヘルとエルの記憶を持った妖精だよ』


「さて、話を始める前に聞きたいんだけど、アクセルとディラクはどこまで状況を把握しているの?」


 僕は隣を歩く二人を見上げながら言った。


「そうだな……まず最初に理解したのは、どういうわけか“アルヴェディア”によく似た世界に来てしまったらしいって事だな。それから、全員元の世界では死んでいるという事。死んだ記憶のない者もいたが、いつ死んでもおかしくない状況だった。幸いにもゲームのキャラクターの姿だったし、力も問題なく使えたから生きるのに然程苦労はしなかった。それが三百年前」


「トリップした理由はサッパリだったナ。まァ、一度は全員死んだんだし、戻りたいとか考えるヤツはいなかッタ。魔物を殺すのには抵抗があるヤツもいたカラ、その後の生活は色々だけどナ」


 元々平和な日本にいたのだから、現実世界で冒険者になれというのは無茶な話なのだろう。たとえ力があっても、それを生き物に向けるのは難しい。僕達がちょっと特殊だっただけだ。


「人間だった人達はやっぱり死んだ?」


「あァ。今生きてるのは人間以外の種族で、殺されなかったヤツだけダ。あれだけレベルが高かったら事故でも死なないからナ」


「こちらの病気なども、白魔術で治る。普通に生活していれば寿命まで生きられるだろうさ」


 竜人、魔族、翼族の寿命は五百歳である。妖精も千年生きるため、三百年程度で死ぬ事はない。尤も、アルヴェディアに来た時点で何歳だったかにもよるのだろうが。この分だと、おそらく実年齢だったに違いない。


「そっかー……何人ぐらい来てたの?」


「ざっと三十人程度だな。若干の時間差はあったが、全員半年以内にこちらへ来たようだ。今生きているのは大体半分か」


「ユファと七瀬ななせ智之ともゆきもいたゾ。……智之はもういないケド」


 懐かしい名前だ。僕らの体感時間で言えば、そんなに時間は経っていないはずなのに。


「ユファと七瀬はいるんだ?会えたらいいな~」


 立夏がにこにこと言う。


「会えるさ。今、この国にはいないけどな」


 ユファはユファーナという翼族の女の子だ。翼族はなんとなく儚いようなイメージがあるのだが、男勝りで豪快な女性である。白魔術師というよりは女剣士と言われた方がしっくりくる感じだった。


 七瀬は関西弁で話す陽気な盛り上げ役だ。空気を読むのが苦手らしくKYなのだが、なぜか憎めない。面倒見がいいお人好しでもあるので、よくトラブルに巻き込まれる苦労人だ。


「……あれ、七瀬は人間じゃなかったっけ」


「そうなんだけどな、あいつヴァンパイアの称号持っていただろう?あれは倒した敵の寿命を吸う事もできるらしい」


「何というチート」


「だよナ~」


 “ヴァンパイア”はドレイン機能がついた剣で戦いまくったらついたという称号だ。しかも半端な数ではなく、軽く五千匹以上はそれで倒したらしい。吸わないようにする事も、吸う対象を体力(HP)や魔力(MP)にする事もできるそうで、ゲームにはなかった予想外の能力である。




「じゃあ、次は僕らの番かな」


「あ、私から話すよ~。さっきから雨水ばっかりだし」


「「雨水?」」


 アクセルとディラクは首を傾げた。


「そう。私と雨水……ヘルはトリップじゃなく転生したんだよ。この世界の住人として」


 ゲームのキャラクターではなかった事がその証拠だ。最初はキャラクターが子供の頃の姿なのかな、とも思ったが、目の色が違う。成長してみれば、顔立ちも違う。キャラクターは肉体年齢十五歳じゃなかったし、髪はストレートだ。当然の事ながら男の娘でもない。


 第一、確かに前世の記憶は持っているが別人なのだ。人格は違うし、記憶にしたって自分だっていう実感はあまりない。でも、前世で学んだ事はしっかり身についている。


「転生?そんな事があるのか」


「でも、その外見の説明はつくよナ。同じ金髪でも全然違うゾ」


 それはそうだろう。サディヘルは二十歳くらいの青年、鋭いようないイメージだ。対して、僕は十三歳くらいにしか見えない少年の姿である。雰囲気も大分丸い。それにシェリエルはほんわかした天然少女だったが、立夏は元気いっぱいのアクティブな少女だ。外見だけでなく、人格の違いも大きい。


「私は立夏、ヘルは雨水っていう名前だよ。また双子で、雨水が兄。これでも一応十六歳」


「もう一、二歳下なのかと思っていたが」


「十六だよ。成人した大人だからね?妖精の成人は成長が止まったらだし」


 ラバトより推定年齢が高いのは童顔の多い日本人だったからだろう。


「オマエらまた妖精なのカ?」


「そうみたいだね。金の悪魔と金の天使は健在だよ」


 もちろんパワーアップして。


「それで、アルヴェディアに生まれたはいいけど捨てられたみたいでね~」


 立夏はリーンテアの森での話をした。精霊に育てられた事、ラバトに出会った事。クロードについては僕が話し、古代竜である事は伏せておいた。二人を信頼していないわけじゃないけど、あまり言いふらすような事でもないから。


「なるホド。つまり、オマエらは正確に言うとデーモンとミカエルじゃないんダナ?」


「そうなるかな。ヘルとエルの記憶を持った妖精だよ」


「それなら呼び方も変えた方がいいか?」


「いえ、そのままの方がいいのではないでしょうか」


 今まで黙っていたクロードが口をはさんだ。


「雨水様と立夏さんのお母様は、何やら深い事情がおありのようです。何があるかわかりませんし、本名は名乗らない方がいいと思います」


「そうだね。じゃあ、サディヘルとシェリエルの名前をもらおうか。僕もこれからクロードをクロと呼ぶから」


「私も。だから、クロードもエルって読んでね」


 立夏が言うと、クロードははい、と言って微笑んだ。



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