Lv.019『うわッ!デーモンとミカエルかヨ!?』
今回は短めです。
ゲーム時代。僕と立夏が“金の悪魔”“金の天使”と呼ばれていた時代だ(といっても、ゲームとこの世界は似ているだけであって全くの別ものなのだが)。
僕や立夏の周りには、なぜか極端に人が少なかった。古参であるにもかかわらず、交流のあるプレイヤーはほんの一握りだったのだ。“悪魔”である僕だけならまだしも、“天使”と呼ばれる立夏まで。
その数少ない交流の中に、アクセルとディラクはいた。
アクセルは魔術よりも刀をメインで使う魔族だ。なんでも、外見は魔族が好みだが武器は刀が良かったらしい。魔術は補助程度という、物好きなプレイヤーである。そして戦闘狂としても有名だった。
ディラクは大剣を軽々と振り回す巨漢だ。誰が見ても強そうだ、と答える外見に反して性格は温厚。常に冷静を心がけ、気配りもできるまとめ役である。暴走しがちなアクセルを上手くコントロールできる貴重な人物だ。幼馴染みだと聞いている。
僕らの目の前にいるのは、そのアクセルとディラクに違いない。
「何でオレ達を知ってるんだァ?」
「それほど有名でもないはずだが……」
首を傾げる二人に、僕はニヤリと笑う。
「ドラゴンに飲み込まれて尻から出て来たアクセルとディラクだろ?前に酔っ払って「ママぁ」とか言ってたっけなぁ?アクセル?ディラクは泣き上戸だったよなぁ?」
「ゲッ、何でそれを……」
「その口調、まさか……いや」
「アクセルさんもディラクさんも忘れたんですか?ひどいですっ」
立夏が泣き真似をしてみせる。前世のキャラは童顔ではなかったが、金髪である事も相まってそっくりだ。
「ヘルとエル、か?」
「うわッ!悪魔と天使かヨ!?」
そう、前世で使っていたキャラクターの名はヘルとエル。正確にはサディヘルとシェリエルだ。二つ名は“金の悪魔”と“金の天使”。金は金髪からだが、悪魔は黒魔術の使い手である事、天使は白魔術の使い手である事からきているらしい。別名デーモンとミカエルである。デビルとエンジェルですらない。
「あったりー!ま、前世の話であって、今は別人だけどね」
立夏が明るく言う。
「どういう事だァ?」
「話は歩きながらにしよう。……あぁ、そうだ。こっちはクロードだよ。事情があって僕ら以外は名前を呼べないんだけど」
僕はクロードを示しながら言った。クロードは軽く会釈する。
「呼べない?」
「正確には呼んではいけないかな。一族の掟みたいなものでね、呼ばれたら(呼んだ人が)死ぬから気をつけて」
「そんな事で(クロードが)死ぬのか?」
「はい。だから呼ばないでくださいね」
完全に誤解されているのに気付いていながら、クロードはにっこりと言った。まぁ、わざわざ誤解されるような言い方をしたのは僕だけどね。
「名前の一部を取るのはいいのカ?」
「かまいませんよ」
「よし、ならお前はクロだナ。これなら呼びやすいし、とっさの時も反応できるだロ?」
「クロ、ですか。わかりました」
クロードは頷き、差し出された手を握った。
「よろしくナ」
「はい」
「あー、ところで」
クロードとアクセルを横目で見ながら、ディラクが口を開く。
「お前ら行き先は?」
「マッシューブだよ」
「そうか。それなら同じだ。聞きたい事はたくさんあるのだが……」
「ちゃんと話すから」
僕は苦笑しながら言い、皆を促して歩き始めた。鎮火済みとはいえ、ワイバーンを燃やしたせいで焦げ臭い。あまりこの場に留まりたいとは思えなかった。
それにしても、アクセルとディラクに出会えたのは思わぬ幸運だった。ラバトにある程度の話は聞いていたが、話に聞いただけなのと実際に近くにいて助けてくれる人がいるのとでは全然違う。二人には悪いが、ぜひ巻き込まなくては、と思った。