Lv.001『この世界って、“アルヴェディア”だよね』
僕らは三歳になった。僕らを拾ってくれたレソトとユーランは精霊らしく、世の中の事は然程詳しくはなかったが、大体の事はわかった。
まず、生まれたばかりの僕や立夏に自我があった理由。それは妖精の血を引いているかららしい。
そもそも、妖精と精霊は一つの種族だった。それが長い時を経て分かれ、人間などに近い方を妖精、昔のままなのを精霊と呼ぶようになったそうだ。
だから、妖精は人間や他の種族(竜人、魔族、翼族)よりは精霊に近い。例えば、植物の声が聞こえたりとか。動物に好かれやすかったりとか。目に見えないはずの精霊が見えたりとか。ちなみに精霊に関しては、力の強い精霊は意識すれば見えるようにできるらしい。
そして、精霊は親というものがない。自然のもの――――例えば道端に落ちている小さな石ころなんかに宿る。いつの間にか生まれていて、姿も一生変わらない。宿っているものが死ねば――――石なら砕ければ――――精霊も死ぬ。
妖精は普通に両親から生まれるが、精霊のように自我は初めからある。そのため体に負担がかかり、子供の内はほとんど寝て過ごすのだとか。かくいう僕も、一日の三分の二は眠っている。十歳くらいになれば半分になるそうだ。
僕と立夏の念話は原因不明のままだ。精霊の話し方は頭に直接響くから、同じようなものだろう。僕らの場合はお互い限定だけど、ちょっとした先祖返りかもしれない。
そういえば、僕と立夏は生まれたばかりだったけど、食べ物をどうしたと思う?これも妖精の特徴に救われたんだ。
妖精や精霊は人間のように野菜とか肉を食べない。食べれるけど、食べても意味がないらしい。ではどうやって生きるのかというと、魔力を食べる。食べる、というよりは吸収する、という方が正しいかもしれない。
人間は生きるのに水と食糧、そして酸素を主に使うけど、僕らは魔力を使う。歩くのも、泳ぐのも、羽を使って飛ぶのも魔力を消費する。激しい動きであればあるほど。だから妖精は魔力無しでは生きられず、五つの種族の中で最も魔力が多い。妖精が魔術を得意とするのは、僕らにとって手足を動かすのと同じくらい魔術を使うという行為が自然な事だからだ。だって、同じように魔力を使うでしょう?ちなみに、精霊は宿っているものの魔力が具現化したようなものなので、魔力を食べる必要はないが引かれるらしい。
魔力を吸収する方法は三つある。一つ目は自然のものから吸収する方法。自然のものが発する魔力は純粋ですごくきれいだ。二つ目は道具から吸収する方法。魔道具なんかは魔力がない人でも使えるように魔力を込めてあるから、いざという時は妖精の食糧となる。三つ目は他人からもらう方法。魔力がある人なら触れるだけで吸収できる。が、個人の持つ魔力は自然のように純粋ではないため相性があるとか。
幸いにも、レソト達が住んでいるリーンテアの森は聖域だった。聖域とは、魔力の多い土地の事だ。あまりに濃すぎて、中心部は妖精と精霊しか入れないほどである。魔力は余るほどあった。
僕らはハーフだから魔力を吸収しないという可能性もあったんだけど、試してみたところどちらでもいけるようだ。精霊では母乳は出ないから、無理だったら人間をさらって来るところだったと笑われ、顔がひきつったのはいい思い出だ。
◆◇◆
「雨水、気になったんだけど」
母親が使ったのと同じ言語で立夏が言った。レソトは昔妖精のふりをして旅をしていた事があり、その時に覚えたそうだ。三百年前だが、まだ通じるようで良かった。
「何?」
「この世界って、“アルヴェディア”だよね」
“アルヴェディア”っていうのは、前世で夢中になっていたVRMMORPGの事だ。
「やっぱりそう思う?」
僕も前々からもしや、と思っていた。レソトの話は地名から何から、“アルヴェディア”にそっくりだったのだ。尤も、そっくりだというだけでやはりゲームとは違うのだが。
「オリアン帝国があって、魔王と冒険者達が戦ったってアレ、“アルヴェディア”の話でしょう?HPやMPを回復する薬はさすがにもうないみたいだけど」
まぁ、ファンタジーとはいえ現実あったら怖い。……いや、もしかしたら作れるかもしれないが。昔はあったのだし、三百年前の道具は高値で取引されているという話だ。
妖精の特徴についても、概ねゲームの通りだった。なら、MP=魔力と考えていいだろう。
「立夏、魔術とか覚えてる?」
「バッチリ」
「僕もだよ」
ゲーム時代は“金の悪魔”“金の天使”と呼ばれた僕達だ。容姿は若干変わっているけど、金髪は健在である。
魔術に関して右に出る者はいないと言われた実力、現実のアルヴェディアでも試してみよう。