Lv.016『実ができたら出発だね』
飛行魔術っていうのは思ったよりも難しい。まず、黒魔術と白魔術を組み合わせるからどちらも使える人じゃないと無理だ。まぁ、その辺りは心配ない。何せ魔術チートの妖精だから。
問題は飛んだ時のバランスの悪さ。足がつかないからグラグラするのだ。安定させるには相当な集中力がいる。ちょっと操作を誤っただけで真っ逆さまだ。
「……無理。これは無理だ」
僕は首を振りながら言った。旨く飛べるようになるまで二、三年はかかりそうだ。出発するのは今年であって、二、三年後ではない。
「立夏、あきらめな」
「う~……」
僕と同じくバランスを崩して転倒した立夏は、むすっとしながら唸った。
「できると思ったのになぁ……仕方ない、歩くしかないのかぁ」
「まぁ、飛行魔術を使えたとしても街の近くで飛ぶわけにはいかないんだけどね」
何せ、オリジナルの魔術だ。目立つ事この上ない。
「森に乗れそうな魔物とかいなかったっけ?」
「いても悪目立ちするからやめてね」
巨大な熊とかに乗るわけにはいかない。第一、魔物を手手なずけるのはかなり難しいのだ。家畜にされている魔物は始めから人間が育てているものだし、幻獣と違ってこちらの言葉が通じない。それどころか、知性がないようなのがほとんどだからね。
「でも、ニニアスの果実はもらって行こうか。干したりできないかな?」
「あれって食べた事ないけど、おいしいの?」
立夏は少しずつ色づき始めた果実を眺めて言った。中心部にあるものだから、魔物が食べる事もない。いつもいつの間にかなくなっているのだ。
『ニニアスの実か?すっげー美味いぞ』
「え、ナウル食べた事あるの?」
『あぁ。ここの精霊は皆あるんじゃないか?毎年数が少ないから、順番にもらってるんだ。力が上がるし、オレ達にとっては貴重なものなんだ』
「へぇ、それは知らなかった」
精霊達がいつの間にか近くにいるのはよくある事なので気にしない。特にナウルは暗殺術が得意なだけあって、僕でも気配が読めない時がある。元々精霊ってあんまり気配しないし。
「ねぇ、どんな味がするの?」
立夏が好奇心いっぱいに尋ねた。
『ん~……何ていうか、不思議な味?食べた人によって違うみたいなんだよな……』
『その人が一番好きな味になるのよ~』
フィジーがのんびりと答える。
「好きな味?じゃあショートケーキとかかなぁ?チョコレートも好きだけど……」
「苦いものが好きだったら苦くなるの?」
『聞いた事はないけど、きっとそうじゃないかしら。辛いものが好きな人は辛くなったから~』
それなら僕は甘酸っぱい感じかな?メロンとかみたいに甘すぎるのは苦手だし。
「あぁっ!早く食べてみたいなぁ」
「毎年四つぐらいしか生らないんだし、非常食だよ。いざという時なかったら困るでしょ」
「いいでしょ、一つぐらい」
「ダメ」
いくら立夏でも許可できない。魔力がなかったら死活問題なんだっていう事を理解しているのだろうか。
「後のお楽しみにしておきなさい」
「むぅ……はぁい」
『リッカは食べるのが好きね~』
『そんなリッカもかわい……ぐふっ』
「何か言ったかな?」
『いえ、何でもありません!』
不満が顔に出ているけど、まぁ許してやるか。僕は寛容だからね。
「でも歩くんだったらさ、出発するの早い方がいいよね?」
「そうだね。この辺は雪が積もったりしないけど、寒い中を歩くのは嫌だし。歩きやすい内がいいよね」
ニニアスの果実が生るのに、もう一ヶ月もかからないだろう。大体十日から十五日ぐらいか。
「実ができたら出発だね」
今で大体十月の初め辺り。日本と同じ暦だからすごく助かっている。違うのは閏年がない事ぐらいだ。クロード曰く、神様が面倒くさいって省いたらしい。閏年がないからって日にちが狂う事はないので、ピッタリ三百六十五日なのだろう。
「実ができたら、かぁ」
「どうしたの、立夏?」
「ううん。なんか長いようで短かったなぁって。まだ十六歳なのにねぇ」
その話題避けてたのにサラッと言われた!
そう、僕らは今十六歳だ。成長が止まったのに気付いたのが一年前。その半年ぐらい前から止まっていたと見える。しかも、ラバト曰く童顔&女顔だから十二、三歳に見えるらしい。イイ笑顔で親指を立てたラバトには雷を落としてあげたけど。
つまりは、ロリとかショタの範囲内なんだよね。見る人にもよるんだろうけど。精神年齢は三十歳すぎているからすごく複雑だ。体に引っ張られてか、あんまり三十歳って感じはしないけどさ。
自分の身と何より立夏の身を案じていた僕だが、立夏が姉妹にしか見えない事を「都合がいい」と思っている事なんて知るよしもなかった。