Lv.015『よかった!歩かなくていいんだね?』
僕はね、別にロリコンとかショタコンを否定しているわけじゃないんだよ。世の中にはそういう人もいるんだって事は理解してるし、ましてや長寿で成長が止まる種族がいるこの世界ならそういうカップルが地球以上にありうるのもわかっている。
ただね、僕や立夏がその対象にいるという事は認めたくないし、そういう対象に見られるのはゾッとする。他でやってもらう分にはかまわないんだけど。……誰だってそうでしょう?
つまり、何が言いたいのかというと。
予想外に早く成長が止まった。気付いたのは一年くらい経ってからだけど、後から思えばある時期からピタリと止まっていた。
あまりに早いからもう少し様子を見ようという事になって、そろそろ一年経とうかという頃。僕は立夏とクロードに切り出した。
「これからの旅について話し合っておくべきだと思うんだけど」
近々出発すべきだと考えている僕としては、大まかにでもどうするのか決めておきたい。
「そういえば、あんまり話してなかったね」
「うん。でも、さすがにそれはどうかと思って」
見た目でなめられたり心配されたりするだろうけど、成人してるんだし旅するのは問題ない。実力は数ヶ月前にラバトに保証してもらったしね。
「まず行き先だけど、聖域の近くは魔物も多いから町や村が少ない。前にラバトが言っていたルルス村、トリアナ、マッシューブのどれかがいいと思う」
一番近いルルス村でも徒歩十日、中心部から森を出るまでに五日というかなりの距離だ。まぁ、こればっかりは仕方がない。
「で、僕としてはマッシューブがいいかな」
「マッシューブって、二十日?二十五日も歩くの?」
「なぜそう思うのですか?」
半月以上も歩く事に渋面を作る立夏と、純粋に疑問に思ったらしいクロード。僕はここ数日考えていた事を二人に話した。
「僕らは馬を持っていないし、そもそも乗れないよね。だから、移動手段はどうしても徒歩になる。結局、どこへ行こうと大して変わりはないよ。それからお金の問題。僕らに食費はかからないけど、食料はあるに越した事はない。魔力切れなんて洒落にならないからね。宿代とかもいるし、着の身着のままというわけにはいかないでしょう?そう考えると、ギルドに入るのが一番なんだよ。でも、ギルド登録はある程度大きい街じゃないとできない」
「あぁ、それでマッシューブなんですね」
「そういう事。ルルス村にはギルド自体ない可能性が大きいし、トリアナは登録できるかどうか怪しい。その点、マッシューブなら確実だ」
マッシューブはレソト川の下流になるが、情報収集にも都合がいい。第一、川を流れて来たからといって川の上流に出身地があるとは限らないのだ。手がかりくらいはあるだろうけど。
「それならしょうがないなぁ。森に馬型の魔物がいたらよかったのにね」
「馬は平原や山ですよ」
ユニコーンは森のイメージだし、ケルピーは川に生息するんだけどね。魔物と幻獣はそういうところも違うんだろうか。
おっと、閑話休題。
「それで、行き先はマッシューブでいいんだよね?」
「うん。仕方ないね。飛んで行けたらいいんだけど」
密室や聖域以外で羽を出すのは危険だからね。幸いにも僕らは天族にしか見えないのだし、天族のふりをしていればいいと思う。天族だって、種族的に見れば白魔術が得意ってだけで他の魔術が使えないわけじゃないし。クロードには立夏が乗れない。途中まで乗せてもらうのもダメだ。
「魔術で飛べば良いのでは?」
「魔術?」
思いがけない言葉に、僕はただ繰り返して聞いた。
「魔術、か……風と結界を組み合わせたらできない事もないのかな?でも、いくら妖精でも魔力が持たないな」
聖域から遠ざかると、土地の魔力は少なくなる。僕らの場合食料でもいいんだけど、大量に食べないとダメなんだよね。そんな荷物を持って飛ぶなんて、非効率だ。
『ニニアスの果実を持って行けばよい』
突然聞こえた声に、立夏がびくっと震えた。気付いていた僕は普通に返す。
「ニニアスの果実って、黄色いアレ?」
『そうじゃ。丁度、もう少しすれば生る季節じゃしの。ニニアスの果実には普通の果物とは比べ物にならないほどの魔力が宿っておる。同様に枝や葉にも宿るのじゃが、あれは摘んだ時点で死ぬからの。除々に魔力が抜けてしまうのじゃ。しかし、果実は摘んでもしばらくもつ』
「成程、それなら大丈夫だね。果実って確か手のひらサイズでしょう?」
『あぁ』
「よかった!歩かなくていいんだね?」
立夏が心底ホッとしたように言った。
「ただし、練習がいるけどね」
空中でバランスをとるのは容易ではないだろう。足がつかないのだから、全ては自分のコントロールにかかっている。
「それぐらい、歩く事に比べたらどうって事ないよ」
歩くのが心底嫌だったらしく、立夏はハッキリと言い切った。