Lv.013『神竜とは、アルヴェディアの神そのものです』
長い付き合いになりそうだから、クロードにも僕らの事情について話す事にした。説明が面倒だったけど、ゲームの話まで詳しく。するとクロードは、少し考えてから口を開いた。
「雨水様と立夏さんは神竜をご存知ですか?」
「神竜?さぁ?」
「まぁ、そうでしょうね。地上の生き物の大半は忘れているようですから。幻獣なら誰もが知っていますよ」
神竜、ねぇ。ドラゴンの一種だろうという事はわかるが、そんな種類は聞いた事がない。
「神竜とは、アルヴェディアの神そのものです。その名の通りドラゴンの姿をしています」
「アルヴェディアの神?」
そんな話をするという事は、僕らが転生した原因を知っているのだろうか。そう尋ねると、クロードは頷いた。
「彼は金竜神と呼ばれている金のドラゴンです。神竜や古代竜は契約者などの決まった相手以外に名前を教える事はありませんので、私もきちんとは知りませんが」
「え、じゃあクロードの名前も教えない方がいいよね。人前ではどうするの?」
「知られるのはかまわないのですよ。別段何かがあるわけではありませんし。ただ、気に入った相手以外に呼ばれると我慢しがたい嫌悪感に襲われるので、命が惜しければ軽々しく呼ばない事をおすすめします。もちろん、雨水様と立夏さんはかまいませんよ」
名前を呼んだだけで死ぬ可能性があると!?
「それで金竜神ですが、今から千年ほど前に三人の人物を貴殿方の世界から転生させました。ある事故で亡くなった人間です。あの方の気まぐれはいつもの事なので私達は気にも止めませんでしたが」
どんな神様なんだ。
「山下翔という方は魔術の才能、超人的な記憶力、そして仲が良く温かい家庭に生まれる事を望んでアルヴェディアへ転生しました。藤崎莉那という方はドラゴンとしての生を望み、二柱目の神竜に生まれ変わって銀竜姫と呼ばれています。そして、遠野和彦という方は生き返る事を望みました」
「そんな事できるの?」
立夏が眉を寄せて聞いた。確かに、神様でも生き返らせる事はできないとか、事情があって無理とかいうパターンはよくある。
「はい。できます。当然の事ながら、簡単に使ってはならない力ですが」
そりゃあ、そうだろうね。
「ですから、金竜神は条件を出しました。今のままの姿でアルヴェディアへ行き、当時問題になっていた魔力枯渇を阻止する事を。金竜神は原因を知っていましたし、解決策も考えてはありましたがそれをテストにしたのです」
「魔力枯渇?もしかして英雄カズヒコ・トーノーって」
「遠野和彦さんでしょうね」
「通りで変な名前だと思った」
アルヴェディアの者なら誰でも知っている物語だ。日本っぽい名前がつけられるようになった最初の原因でもある。転生者かもなー、とは思っていたけど、裏側にそんな事があったとは。
「彼は問題の解決を見事に成し遂げ、地球で生き返りました。もちろん時間は巻き戻して。それから、向こうでアルヴェディアをモデルにしたゲームを作ったようです。金竜神が楽しげに語っていましたから、よく覚えています」
「ふぇっ?“アルヴェディア”を作ったTONOって“遠野”だったんだ。ずっと“殿”だと思ってたよ」
わからなくもないけど、何で会社名に“殿”なんだよ。……そういえば前世は天然だったな。ちなみに僕は気に止めてもいなかったみたい。
「えぇ、雨水様と立夏さんがおっしゃったゲームでしょうね。そして、今から三百年前にゲームと同じような出来事がアルヴェディアを襲った。その時に金竜神は“ゲームの世界に行きたい”と思っている方をこちらの世界に呼んだのです。問題がないように、亡くなった方限定で」
「その人達はどうなったの?」
「三百年前、アルヴェディアにゲームのキャラクターの姿で転生しました。魔王戦で活躍した者、平和に暮らした者など様々です。今も何人かは生きているはずですよ。雨水様と立夏さんの場合、“ゲームの世界に行きたい”ではなく“ゲームの世界のように魔術が使えたらなぁ”とか“ゲームの世界には行きたいけど戦争のない世界がいいなぁ”という風に思ったのではないですか?」
心当たりはある。何せ現実度を五にしていたから、戦争なんていうものが心底嫌だったのだ。必要があれば殺すし、ゲームの世界への憧れもあったけど。
という事は、立夏とまた双子なのも前世の考えが関係しているのかもしれない。仲はかなり良かったし。
「転生がそんな理由だったとはねー。まぁ、もう死んでるんだからどうでもいいけど」
「私達みたいな人が他にもいるかもね。雨水、探してみようよ」
「うん、面白そうだね」
旅の目的が一つ増えたな。