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金の悪魔と金の天使  作者: 活字中毒
リーンテアの森編
12/32

Lv.011『一途で馬鹿で不器用な友人でした』


『どうか、安らかに眠ってください。ウルファ――――』


 鱗の色が黒から青に変わったドラゴンを前に、クロードは黙祷するように目を伏せた。ドラゴンの体は残る事なく、少しずつ姿を消してゆく。それがクロードの魔法である事は、すぐにわかった。






 ◆◇◆






『さて、まずはお礼を申し上げます。雨水様』


「そうは言っても、僕は何もしてないし。それに仮契約だしね」


 僕は苦笑して答える。


『そう、それです。頼んだ者として失礼かもしれませんが、なぜ本名をおっしゃってくださらなかったのですか?』


 契約は本来、本名でなければならない。本名を名乗らなかった場合は仮契約となり、契約よりも聖獣や神獣の力は弱くなってしまう。しかし誓約による縛りは強く、契約と同等かそれ以上である。


 クロードが目を見張ったのは本名でない事に気付いたからだろう。それはすなわち対等に扱っていないという事で、僕がクロードを侮辱したも同然の行為なので何を言われても仕方がない。でも。


「雨水というのは本名だよ。リーンテアは仮名。捨て子だから名前がわからないんだよね」


 僕や立夏は本名がわからない。だから、仮契約しかできないのだ。母親を探したい理由はこれもあった。


『そう、でしたか。すみません』


「別にかまわないよ。知らなかったんだし」


 僕が本名を言わなかった事に違いはない。


『それにしても、誓約はあれだけで良かったのですか?』


「僕は友達を縛りたくはないからね。それとも、絶対服従とか言ってほしかった?」


『いいえ。ただ、変わった人だなぁ、と』


 立夏でも同じようにしたと思うんだけど。どこぞの欲深い人とかと比べてほしくはないな。仕方なくそうする事があるかもしれないけど、基本的に同意なしでは成り立たないのが契約だから無理強いはしたくない。


 あ、だからこそ変わった人だって言ったのか。クロードに断るという選択肢はなかったようだし。


「でもまぁ、クロードも十分変わってると思うよ。自分から主従の契約をするなんて」


 最後の“僕となる事を誓う”ってところだ。僕は“友となる事を誓うか”って言ったのに。


『貴方なら、と思ったんですよ。直感みたいなものです』


 あー、それは裏切られたと思っただろうね。本名じゃなかったわけだし。不可抗力とはいえ、悪かったなぁ。


 でも、主従の契約って結局絶対服従に近いんだよね。そこまで強くないけど。僕が魔力込めて放った命令には絶対に逆らえないし。何でわざわざそんな事をしたんだろう?ドラゴンはMなのか?




 とりあえず立夏に連絡して、中心部へ帰る事にした。詳しくは後で話すと言ったら、立夏は若干不機嫌になりながらも了承してくれた。


 クロードはドラゴンのままだと邪魔なので、人型になった。これは古代竜特有の魔法で、地竜や翼竜には使えないのだそう。紫の髪に銀の瞳の中性的な美形で、本人曰く「せっかく妖精になるのですから、きれいな容姿の方がいいでしょう」だそうだ。これはあくまで仮の姿で、変えようと思ったらどんな姿にでもなれるとか。種族も自由自在。ただし、実際にいる人物にはなれない。


「さっきのドラゴン何だったの?様子が変だったけど……」


 言いたくない事かもしれないが、後で説明すると言われていたので聞いてみた。


「……あれは邪竜ですよ」


「邪竜?」


「ドラゴンは確かに強いですが、精神面は脆いんです。特に怒りや悲しみの感情が強くなると暴走して、自分でも止められなくなります。それが邪竜。鱗は黒くなり、魔力が淀み、力が普段の数倍にまで跳ね上がる」


 そういえば、前世の本にもドラゴンは精神面が弱いとあったような気がする。まさか本当とは。


「ウルファは、愛する者を人間に殺されました。そのショックで邪竜になり、暴れていたんです。そのままでは国の一つや二つ、軽く滅ぼしてしまうので私が後始末を」


「人間に……」


「雨水様が人間の血を引いているからってどうこう言うつもりはないですよ。私が認めた人ですから。でも、人間は嫌いです。あの人が殺されたのだって、ちゃんとした理由があるわけではなく欲望からだった……」


 きっときちんとした理由があったって、ウルファというドラゴンは邪竜になっただろう。でも……。


「友達、だったんだね」


「えぇ。想いが通じない事もわかっていたのに、ただあの人だけを想っていた一途で馬鹿で不器用な友人でした」


 クロードの心が泣いているような気がして見上げ、僕の身長では届かないから頭でなく背中をポンポンと叩いた。



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