Lv.010『今すぐ私と契約なさい』
書き忘れていましたが、『』は精霊やドラゴンのセリフ、または念話です。
僕と立夏は十二歳になって、以前とは比べ物にならないほど強く成長した。外見は相変わらずだけど……まぁ、それは置いておくとしよう。
リーンテアの森にいる魔物は単独で倒せるから、割と自由に出入りしている。
と言っても、森の外に出るわけではない。出たところで何もないのはわかっているから、世間で大人と認められるまではここにいるつもりだ。いくら強くても子供の二人旅は危険だろうし。
毎日訓練は欠かしていないけど、最近は魔物も襲って来ないからつまらない。むしろ食料として欲しい時に追いかけないといけなくて大変だ。
『雨水~ヒマ~』
立夏の声が飛んでくる。学ぶ事は全て学び終わったし、既にサモア達より強いからする事がないのだ。
『そう言ってもねぇ』
別のところを散歩しているため見えないだろうが、僕は苦笑した。
何か面白い事はないかな~、と空を見上げた時、僕はそれを見た。念話を使う事も忘れ、思考が真っ白になる。
「なっ、あれは――――」
ドラゴン。
そう、ドラゴンだ。
片方はきれいな紫のドラゴンだった。太陽の光を反射してキラキラと輝く。もう片方は真っ黒で、魔力が淀んでいるように見える。
二頭のドラゴンは戦っているようだ。紫は雷、黒は水の魔法やブレスで攻撃を繰り返している。魔力量から言えば黒の方が圧倒的に多い。
「あっ」
『雨水?どうかした?』
立夏の声に答える間もなく黒のドラゴンの攻撃が紫のドラゴンに当たり、僕のすぐ側に落ちる。
『何!?今の音!』
離れた場所でも聞こえたのか、立夏が声を上げる。
『ちょっと、雨水!?』
『……大丈夫、僕は何ともないよ』
上の空で答える。
目の前のドラゴンは美しかった。そんな陳腐な言葉では表現しきれないほどに。そして、想像以上に大きかった。普通の一軒家(もちろん前世基準)より一回り小さいくらいだろうか。人間一人どころか、十人くらい軽く乗れそうだ。
ドラゴンが頭を振り、体を起こした。僕と目が合う。
『妖精……そうか、聖域でしたか』
納得するように目を細める。やはり妖精は聖域にいるというイメージなのだろうか。
『きましたよ。下がってなさい』
言葉と同時に強風が襲う。僕はとっさに魔術で風を逃がした。ドラゴンの翼によるものなので、防御魔術ではなく風魔術だ。
『ウルファ、いい加減にしなさい。貴方が暴れたってあの人は帰って来ません!』
紫のドラゴンが言うが、黒いドラゴンには聞こえていないようだ。何も言わず、襲いかかってくる。
『くっ、やはりダメですか……そこの妖精』
突然呼ばれて、僕は目を瞬いた。
「僕?」
『そうです。今すぐ私と契約なさい』
「は?契約?」
このドラゴンは前世で言う西洋のドラゴンのような外見といい、飛ぶ事といい、先程から連発しているブレスや魔法の威力といい、どう考えても古代種である。
ドラゴンには地竜、翼竜、古代竜があり、地竜は飛ぶ事ができない。翼竜はもっと小柄で、人三人を乗せるのがやっとだそうだ。古代竜は大きくて強く、滅多に見ない種族だとラバトから聞いている。
ドラゴンは神獣なので契約はできる。しかし、召喚術の契約は聖獣や神獣を縛るものなので、好き好んで契約する獣はいないはず。
『詳しくは後で説明します。このままではあいつに勝てません。契約する必要があるのです』
そう、契約による獣達の利点は一つ。普段抑制されている力を発揮できる事だ。術者の許可さえあれば、本来の力を解放して戦える。
事情はよくわからないが、僕は頷いた。ドラゴン、しかも古代竜と契約するような機会なんて一生に一度もないだろうし、必死なのが伝わって来る。
「わかった」
【我、雨水・リーンテアは問う。汝、我の許可なく力を使用しない事を誓うか?】
【我、クロード・ア・オセク・レイクレスは雨水・リーンテアの許可なく力を使用しない事を誓う】
【汝、我の友となる事を誓うか?】
【我、友となり僕となる事を誓う】
【以上の誓約を以て、召喚の契約と為す】
魔力の糸が僕とクロードの体に巻き付いた。クロードに見えているのかはわからないが、薄く発光しているそれは聖域の魔力のように美しい。
契約している間も攻撃を防ぎ続けていたクロードはもうボロボロである。が、僕が見上げた瞬間小さく目を見張ったように見えた。
『ウルファ、貴方を放置しておくわけにはいきません。これで終わりです!』
クロードが言うと同時に、辺りを閃光が包んだ――――。
※クロードの名前を少し変更しました。