Lv.009『成人っていつなの?』
時は流れて、僕らは十二歳になった。十歳を超えたわけだけど、僕らの睡眠時間は半日以上だ。どうやら、前世の記憶がある事が原因らしい。
その日、久しぶりにラバトが来ていた。ここ数年は遠くを旅していたらしく、会う事はなかったのだ。妖精は滅多にいないらしいし、いてもわざわざ危険を冒してまで旅をする人なんてなかなかいない。精霊も、基本的には宿っているものの側から動かないそうだ。
「元気にしてたか?相変わらずかわいいな!」
「うるさいよ、ラバト」
僕は眉間にしわを寄せる。
「かわいいものをかわいいと言って何が悪い。美しいものやかわいいものは正義だ」
誰か、このわけのわからないオッサン(おじいさんかもしれないが)をなんとかしてほしい。何年経っても女顔で立夏にそっくりな僕のコンプレックスを的確に刺激してくれるKYを。
「そうだ、美しいもので思い出した。お前達に土産があるんだ」
そう言って取り出したのは一本のビンだった。前世で言うビールビンより少し薄い茶色に、ピンク色のラベルが貼ってある。
「それ、お酒?」
立夏が目を輝かせて身を乗り出す。未成年で死んだため、前世でも現世でもお酒を飲んだ事はない。僕らの両親はそういう所、厳しい人だったし。
「あぁ。シュカという木の実から作られている」
「……そのどこが美しいものなの?」
「シュカの花は素晴らしいぞ。真っ白な中でほんのりピンクにも見える花弁。香りもまた最高で……」
「はいはい、わかったから」
聞いておいて何だが、つまらない話を永遠と聞けるほどお人好しじゃない。
「でも、お酒飲んでいいの?まだ成人してないんじゃ……あれ、成人っていつなの?」
立夏が首を傾げる。かわいい。かわいいが、あまり人前でそういう仕草をしてほしくないな。ラバトもしっかり見て頬ゆるめてるし。頭をはたいてやる。
「った!……えぇと、人間なら十六からが成人だな。妖精は体の成長が止まったらだ。まぁ、酒を飲む年齢は定められていないから、ぶっちゃけ生まれたてでもかまわん」
いや、それは絶対不味いけどね。その赤ちゃんの健康のために!
「そういえば、妖精の成長が止まるのってどのくらい?」
「十代後半から二十代が多いが、人それぞれだからな。もっと遅い人もたくさんいる」
個人的な希望としては二十代中頃で止まってほしいものだ。さすがにそれぐらいになれば男らしくなっているだろう。
「じゃあ成人を目安にここを出たらいいかな」
「それが妥当だろうね」
僕達としては、生き別れた母親を探したい。別れた時の様子も気になるし、前世では母親というものに縁がなかったから会ってみたいのだ。
「母親を探すのなら、レソト川を遡るのがいいのだろうが……レソト川はクレメ川やらルーセア川やらフレス川やら、色々集まってできた川だからな。探すのは一苦労だぞ」
ラバトが言った。十歳の時に精霊達とラバトには前世の事も母親の事も話してある。
ちなみに、レソトの名前はレソト川から取ったものらしい。
「わかってるよ。それに厄介そうだしね」
川に捨てられた時の状況を思い出して言った。どう考えてもただの貧乏な一般庶民ではないだろう。追手とか、部下か臣下らしき人物とか。
「このまま生きるっていう手もあるんだけどね。まぁ、必死に探すんじゃなく、のんびり旅しつつ見つかったらラッキーみたいな感じで」
「そうそう。一応目的がないと面白くないし?お母さんの顔を見たいっていう気持ちもあるけど、どうしてもっていうわけじゃないから」
僕達の一番大きな目的は前世のゲームで培った力がこの世界でどれだけ通用するかを確かめる事だ。皆の話からするとゲームの時代から三百年経っているようだが、妖精のように長寿な種族もいる。知り合いがいたら面白いのになぁ、とも考えていた。
転生云々はともかく、ゲームの話は誰にもしていない。この世界にゲーム(遊びという意味のそれではなく)はないから、説明するのが面倒だったのだ。だから、こちらの目的は僕と立夏だけの秘密である。
「まぁ、話を聞いた感じでは貴族か有力商人ってところだろうな」
ラバトの言葉に、僕は深く頷いた。もし母親に会ったら面倒事になる、というフラグの匂いがぷんぷんするのだ。だから会いたいという気持ちと会いたくないという気持ちがあるわけで。
ま、運が良ければ会えるでしょう、と深く考えない事にした。
セリフだけだと雨水と立夏の見分けがつかない感じがしてきた今日この頃です。
一人称以外話し方は同じですし。
外見も性格も似ている設定なので。