Lv.000『神よ、二人を頼みます』
うるさいな。
周りが騒がしい。僕は目を開けようとしたが、開かなかった。手足も思うように動かない。まるで全身麻酔を打ったようだ。打った事ないから想像だけど。
「頑張ってね、あとちょっとだからね。かわいい私の子供達」
優しい声がして、体が少し窮屈になる。
私の子供達?という事は、転生したんだろうか。
身動ぎすると、温かいキスが降ってきた。
「雨水。いい子だから泣かないでね」
どうやら僕は雨水というらしい。よくわからないが、母親らしき女の人の言う通り大人しくする事にした。
「立夏。目を覚まさないでね」
もう一人は立夏、か。おそらく妹だろう。なんとなくわかる。
「雨水、妹を、立夏を守ってあげて。あぁ、見えてきた」
今度も兄妹か。ややこしくなくていい。
「水月様、こちらに」
テノールの男の声がする。母親はカサカサと音を立て、僕らをまた強く抱いた。
「いたぞ!こっちだ!」
「さ、お早く」
男が落ち着いて、安心させるように言う。母親が頷くのが気配でわかった。
「神よ、二人を頼みます」
震える声でかすかに呟き、僕らは硬いものの上に置かれた。気のせいでなければ、水が流れるような音がする。
「願わくは、また会えますように。しっかりと、たくましく生きて頂戴ね」
その声を最後に、僕の意識は途絶えた。
◆◇◆
『……って感じだった』
僕は覚えている事を目覚めた妹――――立夏に教えた。
『そっか。優しそうなお母さんだね』
『うん』
何があったのかはわからないが、会いに行けたらと思う。
僕らは双子だ。そして、どういうわけか前世の記憶がある。
前世でも双子だった僕らは、全く似ていない容姿だった。どちらも十人並みだが僕はつり目で立夏はたれ目、天然の立夏と面倒臭がりな僕。身長差は三十くらいあったんじゃないかな。男女だから当然なんだけど。
僕らには前世の記憶があるが、人格などが同じというわけではないらしい。まだ生まれてすぐなのに人格があるのは変な感じがする。
それから、今話しているのは前世で言うところの念話っぽい。立夏限定なのか、他の人ともできるのかは全くわからないけれど。
『でもここ、どこだろうね』
何かに乗せられて川を下ったのは確かだ。流れは結構速くて、途中でひっくり返ったりしなかったのが奇跡だと思う。滝がなかったのは幸いだ。
『川の下流……としかわからないな。目も開かないし、音だけじゃわからない』
どこかに引っかかって止まったようだ。目も開かないって事は本当に生まれてすぐなんだろう。そんな子供を捨てる――――いや、逃がすなんて、余程の事があるに違いない。
その後は赤ん坊の体が僕らの思考に耐えられなかったのか、意識はプッツリ途切れてしまった。
◆◇◆
『おや、妖精の子供ではないか』
しわがれた老人の声がして、僕は目が覚めた。
『上から流されて来たのか?……む、これは』
老人が僕の服をつかんだ。服ではなく、ただの布かもしれないけど。
『雨水に立夏、か……訳ありのようじゃな』
どうやら名前が書いてあったらしい。
『ユーラン、いるか』
『はい、レソト様。どうかしましたか』
『この赤子を育ててやる事はできるか?』
『見たところ妖精のようですし、できなくはないでしょうが……おや、人間の血も混ざっているようですね』
妖精?まさかここは地球ではないのだろうか。では、なぜ言葉がわかるのだろう。
『ハーフですか……妖精と人間の特徴をどのように受け継いでいるかによりますね。ですがまぁ、何とかしてみせましょう』
色々と疑問は尽きないが、また眠気が襲ってきた。
面倒くさいな、この体!