くろがね屋 ―鉄しかないけど、折れない武器で皆を支えます―
久しぶりにちょっとだけ書いてみました
短い読み切りです
くろがね屋
―鉄しかないけど、折れない武器で皆を支えます―
プロローグ
変わったガキの目指す場所
「やーい! くらえ魔王! 聖剣の一撃だーっ!」
「ぐわーっ! 覚えてろー!」
広場で木の棒を振り回し、泥だらけになって遊ぶ子供たち。
そんな同年代の歓声を背に、俺——ルークは一人、村の端にある鍛冶場へと向かっていた。
ゴーッと音を立てて燃える炉の火。
真っ赤に熱された鉄のかたまりに、無骨な槌が振り下ろされる。
カキン! カン! カカン!
飛び散る橙色の火花。叩かれるたび、無骨な鉄が滑らかな曲線を描き、一本の美しい刃物へと姿を変えていく。
「……すげぇ」
「おいボウズ。
また来てんのか。邪魔すんなよ」
「邪魔なんてしないよ!
……ただ、鉄が形を変えていくのが、すごく綺麗でさ」
男たちが英雄や騎士に憧れる中、俺が恋に落ちたのは「それを作る側」の技術だった。
数年後——
「親方! 包丁出来ました、確認お願いします!」
「……いちいち見せるな。そろそろ独立したらどうだ?」
汗を拭いながら差し出した包丁を一瞥もせず、師匠は呆れたように息を吐いた。
「まだまだ学び足りません! 俺、まだ剣も鎧も打たせてもらってないですよ!?」
「いや、ここから先は教わっても伸びん。
自分で考えて打て!
店は隣町に用意しといたから、来週からそちらへ行きなさい」
「ええっ!?」
「『必要な技術はすべて包丁に入っている』
お前にはもう、充分叩き込んだよ」
そう言われて追い出されるようにして持たされた、自分だけの小さな工房。
俺はワクワクした胸を抑えきれず、さっそく念願だった「初めての剣」を叩き上げた。
「できた……!
これが俺の、初めての剣だ!」
……が。
少し形が歪で、売り物には到底なりそうにない。
「形はまあいい……切れ味と頑丈さは、包丁で培った自信がある!」
試しにと、工房の脇にあった丸太を切ってみることにした。
ふんっと気合いを入れて振り下ろす!
スパァン!
「よし、切れた!
……って、あれ!?」
丸太は見事に切れた。
しかし、持ち上げた剣の刃を見た瞬間、俺の顔から血の気が引いた。
刃が……一発でボロボロに欠けていたのだ。
「……うそだろ……」
呆然と立ち尽くす。
もし、見た目だけ綺麗に取り繕って、これを冒険者に売りつけていたら……?
戦場の中で刃が壊れ、持ち主が命を落としていたら——。
背筋に冷や汗が伝わる。
「……考えまい。
いま重要なのは、どうすれば頑丈になるかだ」
使いやすく丈夫な形状。
そもそも「剣」って、戦場でどう使われてるんだ?
師匠の言う通り包丁ばかり打ってきた俺は、本物の剣の使われ方を知らなかった。
「……よし、冒険者に聞きに行こう!」
第1話
酒場の出会いと「くろがね屋」の開店
冒険者と言えば酒場のついた安宿が定番だ。
俺は少しの金を懐に忍ばせ、片っ端から戦士風の男たちに声をかけた。
「すみません! 酒を一杯おごるので、貴方の剣を見せてもらえませんか?」
「ああん? 酒をおごってくれるならいいぜ。ほらよ」
見せてもらった剣は……
どれもこれも酷い有り様だった。
刃こぼれは当たり前、ろくに手入れもされていない。
「な、なんだこの刃! こんなんじゃ切れないですよ!?」
「ハッ、兄ちゃん素人だな?
剣なんてなぁ、『斬る』もんじゃなくて『叩きつける』もんなんだよ!」
「たたきつける……!?」
「おうよ!
鎧の上からブッ叩く!
硬い甲羅の上からブッ叩く!
切れるに越したことはねぇが、折れたら一発で終わりだろ?
だから折れない奴が一番なんだ。
まあ、刃が潰れたら買い替える使い捨てだけどな!」
職人として「刃物を使い捨てる」という言葉には納得がいかなかった。
だが、冒険者たちが命を預けているのは「切れる刃」ではなく「折れない鉄」なのだ。
「……分かった。折れず、曲がらず、何度研いでも復活する相棒みたいな武器を作ってやる」
工房に戻った俺は、ただひたすらに鉄を叩いた。
特別な希少鉱石なんて使わない。
どこにでもある質の良い鋼を、何度も、何度も、何度も折り返して鍛え上げる。
手間は通常の倍以上。
だから、他の店の普通の鋼の剣と比べると、値段は倍くらい高い。
屋号は——『くろがね屋』
我ながら無骨な武器によく合う名前をつけられたと思う。
それから数年後。
「何だよここ!
お勧めだって言うから来てみたけど、ミスリル装備すら置かれてないじゃんか。
やっぱり所詮、田舎の店だな!」
店内に若い冒険者の高圧的な声が響く。
たまたま店に来ていた常連のベテラン冒険者が、呆れたように肩をすくめた。
「悪いことは言わん。
見た目だけの安いミスリルを買うくらいなら、ここでちゃんとした剣を買って長く使ったほうがいいぞ?」
「余計なお世話だ!」
捨て台詞を吐いて、若い冒険者は店を飛び出していった。
「すまないね店主、客を逃がしちまったな」
「あ?
いや、いいさ。
事実だからな」
俺は苦笑いしながら汗を拭う。
うちの店に派手なレア素材はない。
あるのは、地道に叩き上げた鉄だけだ。
「そうだ、今日はコイツらに装備を買いに来たんだった!
何か良い武器を見繕ってくれよ」
「そうですね……
そちらの腕力の強そうな旦那は、柄の長い『バトルアクス』なんてどうです?
そっちの戦士さんは槍ですね。
ちょっと違うけど『ハルバード』なんてどうでしょう?
戦い方の幅が広がりますよ」
「へぇ、ハルバードか!
ちょっと見せてくれ!」
今日も『くろがね屋』は、口コミや紹介で訪れた冒険者たちで賑わっている。
「ミスリルが無くたっていい。
俺の打った武器が、あいつらの命を守るなら」
新しい改良案を思いついた俺は、奥の工房へと向かう。
「よし……今日も打ちますか!」
カン! カキン! と心地よい槌の音が、今日も街に響き渡っていた。
エピローグ
ミスリルの輝きと、鍛え上げられた鉄
くろがね屋」を飛び出してから数日後。
新人冒険者の少年トールは、薄暗いダンジョンの深部で荒い息を吐いていた。
「はぁ……はぁ……!
なんだよコイツら、多すぎるだろ……っ!」
トールの目の前に立ちふさがるのは、頑丈な甲殻を持った大型のモンスター。
しかし、彼の手には大金を叩いて買った憧れの『ミスリル』が握られていた。
美しく銀色に輝く、軽量で扱いやすい名剣のはずだった。
「へっ……ミスリルなら、こんな甲殻だって一撃で——」
トールは勢いよく剣を振り下ろす!
カァーンッ!!
甲高い金属音がダンジョン内に響き渡る。
……次の瞬間。
ピキッ……バキィンッ!!
「え……?」
トールの手が軽くなった。
本来なら刺突を得意とするレイピアだが、ミスリル製の刀身は軽く、これまでの戦いでは斬りつけても問題はなかった。
あの小さな武器屋をでたあと、街で見つけた武器屋……
手持ちの金で買える一番高価なミスリルの武器だったのに……
美しい銀色の刃は、モンスターの硬い甲殻に負け、根元からあっけなく真っ二つに折れて転がった。
「う、うそだろ……ミスリルだぞ!?
なんで……っ!?」
武器を失い、腰を抜かすトール。
モンスターが鋭い爪を持ち上げ、トールへ襲いかかろうとした——その時。
ドガァァンッ!!
横から飛び込んできた一閃が、モンスターの巨体を一撃で吹き飛ばした。
「ヒッ……!?」
トールが目を見開くと、そこに立っていたのは——
先日「くろがね屋」の店内でトールに注意をしてきた、あのベテラン冒険者だった。
その手には、泥臭いほど黒々とした、一見すると何の変哲もない鉄の長剣が握られている。
「大丈夫か、ルーキー」
「あ、あんた……!
その剣……
刃こぼれひとつしてないじゃないか!?
相手の甲殻を叩き割ったんだぞ!?」
ベテランはフッと不敵に笑うと、愛剣の刀身を撫でた。
「だから言ったろ?
『くろがね屋』の剣は折れないし、曲がらないってな。
華やかさはないが、俺たちの命を絶対に裏切らない『本物の相棒』さ」
そう言うと、あのくろがね屋であったベテランとアクスとハルバードを持った3人はモンスターを次々と退け、リーダーと思われるベテランはトールに手を差し伸べた。
「ミスリルが悪いとは言わん。
だがな、まだ身の丈に合わない高級品を振り回すより、何度叩きつけても折れねぇ『泥臭い鉄』の方が、お前を生き残らせてくれるぞ」
「……っ」
トールは折れたレイピアの柄を握りしめ、赤面しながら小さく頷いた。
それから数日後。
「……いらっしゃい。あ、君は先日の……」
「くろがね屋」の店内。
カウンターで接客していたルーク(主人公)の元に、気まずそうに頭をかくトールの姿があった。
「あの……すみませんでした!
俺、見た目だけでバカにして……っ!
俺に、一番頑丈で折れない剣を売ってください!」
深々と頭を下げる少年の姿に、ルークは一瞬驚いたものの、すぐにニッと温かい笑みを浮かべた。
「頭を上げてください。自分の身を守るための武器を真剣に選びに来たんなら、大歓迎ですよ」
ルークは奥の棚から、しっかりと打ち鍛えられた一振りの鉄剣を取り出した。
「うちはミスリルみたいな珍しい金属は使ってません。
だけど、何度も折り返して鍛えたこの鉄なら、どんな戦場でもあなたを守ります。
……もし刃が欠けたら、いつでも持ってきてください。
安く研ぎ直しますから!」
トールはその重厚な剣をしっかりと握りしめ、目を輝かせた。
「はい……っ!
よろしくお願いします、店主さん!」
今日も『くろがね屋』には、本物の武器を求める冒険者たちの笑顔と、カンカンと響く心地よい槌の音が満ちていた。
(おしまい)
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