自転車
三題噺もどき―はっぴゃくごじゅうに。
少し冷たい風が吹く。
今日は生憎、青空は見えない。
重たいとは言わずとも、白い雲が空を覆いつくしている。
「……」
このまま、曇り程度で一日が終わってくれればいい。
雨が降ると色々と面倒というか……自転車通学をしていると、合羽を着たりするのがとても面倒になるのだ。
「……」
今日のこの登校が、高校生活の最後だとか、あしたから長期休暇だとか、そういう言うのだったら、別に制服が濡れてもいいのだけど。よくはないが、どうせクリーニングに出される。
「……」
むしろ、クリーニングに出して帰ってきたばかりの。
今日からまた、学校生活が始まると言う今日のこの状況で。
制服を濡らすなんてことをしたら、なんと言われるか……予備があるからそうでもないか。
「……」
そういえば、今月から自転車のルールが厳しくなったらしいが、この田舎までそれは届いているんだろうか。
そもそも、学校からも何も言われていない。
それに……。
「……」
真隣の道路を走る車は、ものすごい勢いでか駆け抜けていく。
こんなのが走っている真横を、自転車で漕いでいくなんて、自殺行為にもほどがある。
怖いなんてものじゃないだろう……ちゃんと自転車用のレーンがある場所なんてこの町にはないし、少なくとも私は見たことがない。
「……」
それに、色々情報が飛び交っていて、何が正解なのか正直よくわからない所がある。
今日学校で何か言われるかもしれないが、その時はその時だろう。
そのルールを守れるかどうかは、分からないが……どうしよう歩道を走ってはいけないなんて言われたら。
「……」
制服で自転車に乗っていると、スカートが捲れたり、好き勝手暴れたりする。
これがそもそも危険だと私は思うのだけど……何かに引っかかったらどうする。たいして整備されている道路でもない。何かに躓いて倒れたら?
幅を取ればいいと言われているらしいけど、そんな真後ろを車が走っている状態が長時間続く方がストレスだ。
「……」
まぁ、こんなことを思ったところで、何かができるわけでもない。
それに、今日はようやくあの子に会えるかもしれない日だ。
会いに行くから、『会える日』にするけれど。
「……」
今日も部活はないだろうし、午前中で授業は終わる予定だ。
今日することは、始業式とクラス替えくらい。……明日の入学式の準備は、野球部とサッカー部がするらしい。
それが終われば、さっさとあの子と合流して、図書館にでも誘おう。
「……」
春休み中に借りていたものを返そうと思って。
自転車についている前カゴには、学校指定の鞄が入っている。
背中にリュックサックを背負い、その中に本が数冊入っているので地味に重い。
それに、学校の図書室で借りたものも入っているので、重いったらない。いや、それに関しては学校指定の鞄の方に入れているから、リュックの重さではないのだけど。
「……、」
目の前の信号が赤に変わる。
ブレーキをかけながら、徐々にスピードを落とし、少し離れた位置で止まる。
反対側の歩道には、同じ制服を着た学生が集団で歩いていた。
「……」
私は、いつものように、りんごのポーチを探す。
あわよくば、あの子に会えないかと思って。
そう簡単に会えることはないんだけど、約束しているわけでもないし。
「……」
まぁ、そうだよね。
いることないか。
「――~!」
「……!」
とまぁ、諦めた所。
学生の集団から少し離れた位置から、手が降られていた。
同じように自転車を漕ぎながら、器用に手を振っている。危ないからやめたらいいのに。
「おはよ~!」
丁度、そう言われたところで、信号が変わった。
心なし、高揚した気分のままに、漕ぎだしてしまわないように、慎重にペダルを漕ぐ。
いい、新学期の始まりだ。
お題:ポーチ・図書館・スカート




