表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/139

Ⅲ.思想の対決

控室の静けさの中で、

遠くのホールから観客のざわめきが波のように届いていた。


開演まで、もう長くない。


だが二人はまだ動かない。


リュミエールは机の上の設計図を一枚取り上げた。

融合演奏の構造図。


幾重にも重なる線。

文化ごとの音域。

振幅の制御ライン。

分散アルゴリズム。


彼女はそれをアリアの方へ向ける。


「これが今の世界です」


指先が図の中央をなぞる。


「再現できます」


「どこでも」


「誰でも」


その声には誇りがあった。


「事故は起きません」


「暴走もありません」


「文化衝突も起きない」


彼女は少し間を置き、言う。


「革命は」


ゆっくりと、はっきり。


「構造として残すべきです」


それがリュミエールの思想だった。


制度化された革命。


再現性。

安全性。

長期安定。

分散制御。


革命を一度の奇跡で終わらせないために。


革命を世界の基盤にするために。


アリアはその図をしばらく見つめる。


やがて静かに言った。


「きれいだね」


リュミエールは驚かない。


アリアは続ける。


「完璧だと思う」


その言葉は皮肉ではなかった。


本当にそう思っている。


だからこそ――


アリアはゆっくり首を振る。


「でも」


彼女は胸に手を当てた。


「音楽は、そんなふうに始まらない」


リュミエールの目が少し細くなる。


アリアは言葉を探すように話す。


「歌は」


「誰かが設計して生まれるんじゃない」


「突然生まれる」


彼女の指が自分の胸を軽く叩く。


「ここで」


そして窓の外を指す。


「偶然、外の音と重なる」


「誰かと共鳴する」


「想定外の場所で広がる」


アリアは小さく笑う。


「ほとんど事故みたいなもの」


彼女はリュミエールを見た。


「でも」


「その事故が」


「文化を変える」


それがアリアの思想だった。


有機革命。


予測不能。

個体振動。

偶発共鳴。

進化。


革命は完成しない。


常に変化し続けるもの。


部屋の空気が少し張りつめる。


だが怒りはない。


リュミエールはゆっくり言う。


「あなたの革命は」


「美しい」


「でも危険です」


アリアはすぐに答える。


「あなたの革命は」


「安全」


「でも止まる」


二人は互いを見つめる。


長い沈黙。


外では観客の拍手が一度起きた。

開演前の合図だろう。


だが二人はまだ動かない。


そして、ほぼ同時に理解する。


これは――


勝ち負けの問題ではない。


リュミエールの革命だけなら、


世界は安定する。


だが、いずれ変化を失う。


アリアの革命だけなら、


世界は進化する。


だが、いずれ崩壊する。


どちらも正しい。


どちらも不完全。


リュミエールが静かに言った。


「……両方、必要ですね」


アリアは小さく息を吐く。


「うん」


少しだけ笑う。


「たぶん」


「最初から」


「そのはずだった」


控室の外で、

開演のアナウンスが響いた。


革命の完成を祝う演奏が、

今まさに始まろうとしている。


だがこの部屋では、


もう一つの理解が生まれていた。


革命は――


守る者と、揺らす者。


その両方がいて、

初めて未来になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ