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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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8/15

Scene8:余波

翌朝。


 王立音律学院の空気は、明らかに変わっていた。


 廊下を歩く生徒たちの囁きは止まらない。


「昨日の光紋、見たか?」

「詠唱なしだぞ?」

「でも……正直、凄かった」


 断罪は――延期。


 公式発表は曖昧だった。


“状況確認のため審議を保留する”


 それは実質的な撤回に近い。


 だが誰も「撤回」とは言わない。


 言えない。


 なぜなら、あの場で起きた現象を、

 誰一人説明できないからだ。


■ 貴族社会の混乱


 王都の夜会では話題が一色に染まった。


「未登録周波数だと?」

「国家音律体系の欠陥では?」

「いや、あれは暴走の前兆だ」


 保守派は眉をひそめる。


「規律を乱す危険思想だ」


 革新派は目を光らせる。


「魔力なき者でも響かせられるなら――」


 それは、身分秩序の揺らぎを意味する。


 音律は、選ばれた者の特権。


 聖女と貴族だけが扱える力。


 だがアリアの歌は、それを前提から崩す。


■ 学院内の賛否


 掲示板には匿名の意見が張り出される。


「アリア様の次の公演希望」

「学院の品位を損なう行為を禁ず」

「非詠唱理論研究会設立」


 中庭では密かに手拍子の練習をする生徒たち。


 一方、教師陣は会議続き。


「理論外です」

「理論外だからこそ危険なのです」


 危険。


 その言葉が、日に何度も繰り返される。


■ アリアの現在地


 当の本人はというと。


「え、延期? じゃあ今日もライブできるじゃん」


 寮の部屋で、呑気にストレッチをしていた。


 監視の気配はある。


 窓の外、屋根の上、廊下の角。


(国家案件、ってやつ?)


 内心で苦笑する。


 だが恐怖はない。


 むしろ高揚がある。


 昨日の拍手。


 あの瞬間の光。


 魔力が爆ぜた感触。


(やっぱり、ステージは最高)


■ 呼び名の変化


 最初は「悪役令嬢」。


 次に「未登録振動源」。


 そして今――


「危険人物」


 学院長室で、その単語が静かに告げられる。


「監視を強化しますか?」


「いや……刺激は避けるべきだ」


 判断は慎重だ。


 なぜなら彼女は暴れていない。


 破壊もしていない。


 ただ、歌っただけ。


 それだけで秩序が揺れた。


 だからこそ、扱いに困る。


■ もう一つの呼び名


 だが、生徒たちの間では別の言葉が囁かれていた。


「革命の種」


 誰が最初に言ったのかは分からない。


 だが、その響きは静かに広がる。


 魔力を持たない平民の少年が、拳を握る。


「俺でも、あの光を起こせるかもしれない」


 貴族の令嬢が、扇の影で微笑む。


「もし理論が確立されたら……」


 希望と野心が混ざる。


 それはまだ小さい。


 芽吹いたばかりの双葉。


 だが確実に、土を押し上げている。


■ 王城からの視線


 王城最奥。


 報告書が机に積まれる。


“対象:アリア・ヴァレンシュタイン

危険度:測定不能

影響範囲:拡大傾向”


 静寂の王は、無言で目を通す。


 未登録周波数。


 制御不能の共鳴。


 そして、民衆の拍手。


 秩序は、武力よりも感情で崩れる。


 それを彼は知っている。


■ ラストカット


 夕暮れの中庭。


 アリアが立つ。


 まだ簡易的な、石段を使った即席ステージ。


 観客は昨日より多い。


 遠巻きに監視する騎士の姿もある。


 彼女は深呼吸する。


 空気が震える予感。


 その背後で、リュミエールが静かに見つめている。


 危険人物。


 革命の種。


 どちらでもいい。


 アリアは、ただ笑う。


「さあ、今日もいくよ?」


 拍手が起こる前から、

 世界はすでに揺れ始めていた。

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