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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Scene7:ライブ終了

 最後の音が、ゆっくりと空へ溶けていった。


 高く、真っ直ぐに伸びた声が、

 魔導増幅水晶に触れ、淡く震え、

 やがて静かに消える。


 ――静寂。


 あれほどざわめいていた大講堂が、

 嘘のように静まり返る。


 誰も動かない。


 誰も息をしない。


 断罪の場だったはずの中央で、

 アリアはただ、肩で息をしていた。


 胸が上下する。


 指先が微かに震えている。


(やり切った……)


 魔力の流れはまだ残っている。

 詠唱も術式もないはずなのに、

 空間そのものが、余韻を抱えている。


 観客たちは理解できずにいた。


 何が起きたのか。


 これは魔法か。


 それとも、ただの歌か。


 そのとき。


 ――ぱち。


 乾いた音が、後方から響いた。


 誰か一人の拍手。


 年若い下級貴族の少年だった。


 彼は理屈など分からないまま、

 ただ胸が熱くなって、手を打った。


 ――ぱち、ぱち。


 隣の者が続く。


 ――ぱちぱちぱち。


 波紋のように広がる。


 やがてそれは連鎖し、

 大講堂を埋め尽くす拍手へと変わる。


 音の奔流。


 今度は人の手が生むリズム。


 その瞬間――


 天井の増幅水晶が、強く発光した。


 遅れて、魔力波が爆ぜる。


 観客の鼓動と拍手の振動が共鳴し、

 講堂上空に巨大な光紋が浮かび上がる。


 円環状の紋章。


 だがそれは既存のどの魔法陣とも一致しない。


 非詠唱共鳴の、完成形。


 断罪のために集められた魔力が、

 祝祭のエネルギーへと反転した瞬間だった。


 王太子レオンハルトは、呆然と立ち尽くす。


「……え?」


 手にしていた断罪宣言書が、

 はらりと床に落ちた。


 誰も拾わない。


 誰も見ていない。


 視線はすべて、中央へ。


 リュミエールでさえ、

 目を逸らせずにいた。


 アリアはゆっくりと息を整える。


 肺に残った熱を吐き出し、

 背筋を伸ばす。


 拍手はまだ鳴り止まない。


 頬にかかる金の髪を払い、

 堂々と王太子を見た。


「……」


 数秒、視線が交差する。


 断罪者と、断罪されるはずだった者。


 だが、空気は完全に逆転していた。


 アリアは小さく微笑む。


「断罪は後日で」


 さらり、と言う。


 講堂が一瞬しんとする。


 そして、彼女は続けた。


「次はちゃんとステージ組んで」


 貴族たちがざわめく。


「す、ステージ……?」


「組む、とは……?」


 王太子は完全に思考が停止している。


「いや、あの……断罪……」


 だがアリアは気にしない。


 くるりと踵を返し、

 光紋の下で軽く一礼する。


 それは舞踏会の礼ではない。


 ライブの、終演の礼。


 拍手が再び爆発する。


 断罪は、完全に空気と化した。


 王立音律学院大講堂。


 歴史上初めて。


 刑罰儀式が、アンコール待ちの空気に変わった日である。

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