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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Scene5:リュミエールの視点

 ――おかしい。


 最初にそう思ったのは、一音目だった。


 リュミエールは、幼いころから“正しい歌”を学んできた。


 王国の聖女として選ばれ、

 古来より伝わる音律を身体に叩き込まれた。


 第一音はこの高さ。

 第二音はこの間隔。

 魔力導入は呼気の三拍目。


 旋律は術式。

 歌は、秩序。


 だから分かる。


 目の前で響いているそれは、

 どの楽譜にも載っていない。


 詠唱句がない。


 魔力の導線がない。


 発動手順が、存在しない。


 なのに――


 空気が、揺れている。


 リュミエールは胸元に手を当てた。


 自分の心拍が、微かに速くなっていることに気づく。


 ドクン。


 ドクン。


 それに合わせるように、あの声が上下する。


 規則的なビート。


 単純なのに、逃れられない。


 魔力が、勝手に震える。


「……どうして」


 小さく呟く。


 旋律は術式に沿っていない。

 なのに、増幅水晶が明滅している。


 本来ならありえない。


 歌は正確であるほど強い。


 乱れは失敗を生む。


 そう教わってきた。


 けれど、彼女の歌は違う。


 完璧ではない。


 揺れている。


 感情がむき出しで、粗くて、危うい。


 それなのに。


 ――眩しい。


 リュミエールは目を細める。


 アリアは、笑っていた。


 断罪の中心で。


 糾弾される立場で。


 それでも楽しそうに、自由に、歌っている。


 自分には、あんな顔で歌えたことがあっただろうか。


 聖女としての責務。


 王国の象徴。


 失敗の許されない存在。


 正確に、美しく、乱れなく。


 それが“正しい歌”。


 でも、今。


 観客の視線は、完全にアリアへ向いている。


 誰も術式を組んでいないのに、

 魔力が立ち上る。


 自分が歌うときは、観客に構えを求める。


 導線を繋ぎ、魔力を預かる。


 でも彼女は違う。


 奪っていない。


 ただ、揺らしている。


 リュミエールの胸が、きゅっと痛む。


 これは、恐れ?


 違う。


 もっと、個人的で、醜い感情。


 ……悔しい。


 聖女である自分が起こせない現象を、

 悪役令嬢と呼ばれた少女が、いとも簡単に起こしている。


 知らない。


 こんな歌、知らない。


 こんな震え、教わっていない。


 でも。


 目が、離せない。


 最後の高音が講堂を満たした瞬間、

 水晶が強く光り、魔法陣が発光する。


 リュミエールの喉が、無意識に鳴る。


 ほんの、わずかなハミング。


 自分でも気づかないほど小さな音。


 だがその瞬間、

 胸の奥で何かが弾けた。


 悔しさと、憧れが、混ざる。


 初めて芽生えた感情。


 嫉妬。


 けれどそれは、

 相手を引きずり落としたいという黒ではない。


 並びたい。


 理解したい。


 あの領域に、触れたい。


 リュミエールはゆっくりと視線を上げる。


 光の中心に立つアリア。


 断罪されるはずだった少女。


 その背中が、やけに遠い。


 ――あなたは、何者なの?


 問いは、まだ声にならない。


 けれど確かに、二人の間に芽が落ちた。


 対立か。


 共鳴か。


 まだ分からない。


 ただ一つ、はっきりしているのは。


 今日この瞬間から。


 アリア・ヴァレンシュタインは、


 リュミエールにとって


 “ただの悪役”ではなくなった。

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