表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/139

王レクイエム本格参戦Ⅰ.― 静域の拡大

三文化融合ライブから、四日後。


中立交易都市の外縁――

交易船の発着が絶えないはずの湾岸部で、異変が起きた。


最初に気づいたのは、子どもだった。


「……静かすぎる」


鳥が鳴かない。


いつもなら屋根の上で騒ぐ海鳥たちが、口を閉ざしている。


波が立たない。


満ち引きを繰り返していた海面が、鏡のように凪いでいる。


足音が吸われる。


石畳を踏んでも、乾いた反響が返らない。


音が消えたのではない。


止められている。


港の空気は張り詰め、振動だけが削ぎ落とされたような感覚が広がる。


局所的《静域》。


だが、以前のような破壊の気配はない。


崩壊も、圧壊も、凍結もない。


選択的停止。


砂漠代表の奏者が、恐る恐る太鼓を打つ。


ドン――


音は鳴る。


だが、持続が途中で切れる。


余韻が伸びない。


雪国の合唱団が低音を重ねる。


一層目は立ち上がる。


二層目に入った瞬間、上の層だけが崩れる。


積み上がらない。


海洋打楽の演奏者が刻む。


揺れは生まれる。


だが振幅が広がらない。


中央値で固定される。


増えない。


減らない。


ただ、均される。


アリアは息を呑む。


これは無差別制圧ではない。


構造を理解した上での干渉。


持続だけを切り、


層だけを削り、


振幅だけを制限する。


複合依存構造への、精密な観察。


彼女はゆっくりと呟く。


「これは警告じゃない」


視線を上げる。


空間が、歪む。


「観察だ」


音のない空が、裂ける。


裂け目から、影が降りる。


重力もなく、衝撃もない。


ただ、そこに“在る”という圧。


長い外套。


揺れない髪。


瞳は深い灰色。


世界から振動だけを抜き取ったような存在。


王レクイエム。


彼が一歩、地面に触れる。


だが足音はない。


完全な制御。


完全な静止。


港に集まった人々が、息を止める。


レクイエムは周囲を見渡す。


砂の奏者。


雪の合唱。


海の打楽。


そして中央に立つ、アリア。


その視線は冷たいわけではない。


怒りもない。


ただ、測定している。


「複合依存型共鳴構造」


低く、静かな声。


だがはっきりと届く。


「進化を確認した」


その瞬間、港の空気がさらに薄くなる。


圧迫ではない。


計測。


世界が試験台に載せられたような感覚。


アリアは一歩前に出る。


四拍を踏もうとする。


ト――


鳴らない。


彼女は理解する。


いまは発信ではない。


対話の場。


王は続ける。


「臨界点の予測を行う」


「再発可能性を算出する」


再発。


その言葉に、微かな影が宿る。


アリアは見逃さなかった。


恐怖。


この静寂は、冷酷さから生まれたのではない。


何かを、二度と起こさないためのもの。


王レクイエムの視線が、彼女に固定される。


世界が息を潜める。


揺れを止めた王と、


揺れを繋いだ少女。


観察は終わらない。


対話が、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ