Ⅱ.巡業の政治的背景
王城・円卓会議室。
高窓から落ちる光は冷たく、長い机の上に白い線を引いていた。
卓上には、学院中庭での異常記録が並んでいる。
波形ゼロ。
文明破壊指定術式――《絶対静域》。
沈黙を破ったのは、観測局長だった。
「四拍をどう扱うか」
それは長く議論されてきた問題だ。
最大値主義。
感情同期。
集団浮上。
不安定要素は多い。
拘束する案も出た。
分解・封印の提案もあった。
だが、別の声が上がる。
「拘束は悪手です」
円卓の一角。
レクイエム代表。
「四拍は未完成ですが、進化している」
「進化は予測不能だ」
「だからこそ、観測下に置くべきです」
封じれば地下化する。
追い詰めれば暴発する。
だが外に出せば、記録できる。
世界と接触させれば、構造が見える。
国家の判断は、冷徹だった。
四拍を拘束するより、
観測下に置いた方が有益。
そして決定が下る。
「文化親善巡業を提案する」
外交名目。
各国との文化交流。
音楽を通じた友好促進。
表向きは美しい。
王城広報は即座に文面を整える。
《学院代表ユニットによる諸国巡業計画》
平和。交流。相互理解。
だが会議室にいる者は知っている。
これはテストだ。
文明安定度テスト。
四拍が異文化と接触したとき、
どう変質するか。
衝突するのか。
融合するのか。
暴走するのか。
それを測る。
レクイエムは直接は動かない。
剣も魔法も振るわない。
だが遠隔観測網は強化される。
巡業先の上空に不可視の記録結界。
拍波計測装置の増設。
感情振幅ログの自動収集。
学院には正式監査官が同行する。
「支援」の名目で。
その実、観測者。
王は最後に短く言う。
「守るべきは拍ではない」
「世界だ」
四拍は危険かもしれない。
だが音の消失は、もっと危険。
もし四拍が静域に対抗し得る進化を見せるなら――
それは国家にとって利用価値がある。
もし暴走するなら――
そのときは処理すればいい。
冷酷だが合理的。
一方、学院。
巡業の知らせを受けたアリアは、複雑な表情を浮かべる。
「親善公演……?」
カイルは苦笑する。
「どう見ても監視付きだろ」
ミレイは静かに言う。
「でも、外に出られる」
アリアは空を見上げる。
閉じ込められるよりはいい。
観測されるなら、進化を見せればいい。
彼女はまだ知らない。
この巡業が、自分の思想を根底から揺さぶることを。
王城は冷静に盤面を動かした。
革命を抑えるでもなく、
全面支持するでもなく。
外へ放つ。
世界という試験場へ。
表向きは文化親善公演。
だがその実態は――
文明が自らを測る実験だった。
音が消える時代に、
音はどこまで形を変えられるのか。
国家は静かに見守る。
革命が進化するか、
あるいは自壊するかを。




