表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/41

Scene2:断罪イベント開幕

 ――冷たい。


 最初に感じたのは、石床の硬さだった。


 白い光の余韻が消え、視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天井。高く、丸く、幾何学模様の装飾が施され、その中心に巨大な水晶が吊るされている。


 シャンデリアではない。


 水晶だ。


 内側から淡く脈打つように光っている。


 ……脈打つ?


 私はゆっくりと瞬きをした。


 豪奢なドレスの裾が視界に入る。深紅。重い。コルセットがきつい。腕には白い手袋。指先には見覚えのない宝石の指輪。


 ざわめき。


 耳に届くのは、さっきまでのアリーナの歓声ではなく、もっと抑制された、上品で、それでいて興奮を含んだざわめき。


 広い。


 そこは巨大な講堂だった。


 半円状に段差が連なり、無数の貴族たちが立ち並ぶ。色とりどりのドレスと軍服。胸元には勲章。壁面には金の装飾。床には精緻な魔法陣が刻まれている。


 そして、正面の高壇。


 一人の青年が、私を見下ろしていた。


 金髪。蒼い瞳。王族のマント。


 彼は凛とした声で告げる。


「アリア・ヴァレンシュタイン。貴様との婚約を、ここに破棄する」


 空気が、ぴんと張りつめる。


 ……は?


 私の名前?


 ヴァレンシュタイン?


 記憶が、ずるりと滑り込んでくる。


 乙女ゲーム。


 学園。


 聖女。


 悪役令嬢。


 断罪イベント。


 目の前の青年――


 王太子レオンハルト。


 彼の隣に立つ、銀髪の少女。


 淡い光をまとい、儚げに伏し目がちなその姿。


 聖女リュミエール。


 そして私は。


 彼女を嫉妬で陥れ、最後に公開断罪される悪役令嬢。


 思考が一瞬、真っ白になる。


(あ、これ乙女ゲームの断罪イベントだ)


 ゲームの知識が、冷たい水のように頭を満たす。


 テンプレ展開。


「嫉妬により聖女を陥れた罪は重い」


「王国の秩序を乱した責任を取ってもらう」


「国外追放とする」


 ざわめきが一段と大きくなる。


「悪役令嬢アリアは国外追放」


 その言葉が、宣告のように講堂に響いた。


 心臓が跳ねる。


 パニック。


 え、ちょっと待って。国外追放って何? どこ? この世界の治安どうなってるの? 私いまさっきまで日本でライブしてたよね?


 息が浅くなる。


 逃げ道は?

 弁明?

 いやでも原作通りならどうせ信じてもらえない。


 レオンハルトが問いかける。


「何か言い残すことはあるか、アリア」


 視線が集まる。


 数百の目。


 裁かれる側の視界。


 ……。


 不思議と、そこで、ふっと冷静になる。


 終わる。


 また?


 さっきも、終わらされたばかりなのに?


 私はゆっくりと顔を上げる。


 そのとき、気づく。


 天井の巨大水晶。


 壁面に刻まれた反響用の魔法陣。


 半円状の客席配置。


 音を中央に集める構造。


 舞台の中心には、明らかに“発声者”が立つことを前提にした円形紋様。


 これ。


 これ、完璧な音響構造じゃない?


 大講堂は、音律学院の心臓部。


 歌を魔法へと変換するための施設。


 増幅水晶。


 共鳴陣。


 観客席の段差。


 ステージ。


 ……ステージ?


 思考が、切り替わる。


 国外追放。


 破滅。


 断罪。


 そんな単語が、急速に色を失う。


 代わりに浮かぶのは、たった一つの感覚。


 観客、いるよね?


 しかも満員。


 音響、最高。


 照明、完備。


 マイクはないけど、水晶ある。


 これ――


 ライブ会場じゃん。


 胸の奥で、何かが弾ける。


 さっき途切れたはずの衝動が、もう一度、鼓動と重なる。


 ドクン。


 終わりたくない。


 レオンハルトが眉をひそめる。


「どうした。恐怖で言葉も出ぬか」


 違う。


 恐怖じゃない。


 私はゆっくりと、口角を上げる。


 思考は完全に切り替わっていた。


 断罪?

 国外追放?

 知らない。


 いま、ここに、最高の箱がある。


 ならやることは一つだ。


 私はドレスの裾を握り、半歩、前に出た。


 講堂の中心へ。


 視線がざわめく。


 誰かが囁く。


「何をする気だ……?」


 私は深く息を吸う。


 肺いっぱいに、この世界の空気を入れる。


 そして。


 叫んだ。


「今それどころじゃない!」


 講堂が静まり返る。


「ライブやるから!」


 ――三秒。


 完全な沈黙。


 王太子レオンハルト、困惑。


 貴族たち、騒然。


 聖女リュミエール、目を見開く。


 そして私は、中央の魔法陣の上に立った。


 断罪の場は、いつのまにか。


 私のステージに、変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ