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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Stage3:アリアの選択

 白光が、なおも講堂を満たしている。


 三拍は完璧だった。


 揺るがず、乱れず、教科書の理想そのもの。


 クラウスの足元では三重魔法陣が安定回転し、観客席からの魔力供給は寸分の狂いもなく流れ込んでいる。


 数値は上昇。


 出力は最大域へ。


 完成度でいえば、疑いようがない。


 圧倒的。


 正統の圧。


 


 アリアは、その光の中で目を細めた。


(……うん。勝てないね、これ)


 技術勝負なら。


 術式の精密さなら。


 詠唱の完成度なら。


 勝負にならない。


 自分には詠唱がない。


 導線もない。


 魔法陣も展開できない。


 白光の中で、彼女はただの“無”。


 


 だが――


 視線を上げる。


 観客を見る。


 数百の顔。


 学院生。貴族。教師。


 そして王城監察官。


 全員が、光を見ている。


 クラウスを見ている。


 だが、同時に。


 ほんのわずかに、退屈も混じっている。


 


 完成されすぎている。


 予想通りすぎる。


 「すごい」と思いながら、心は安全圏にいる。


 


(これ、術式の完成度勝負じゃない)


 司会が開始前に言った言葉を思い出す。


 観客は魔力供給を許可。


 強制は禁止。


 


 つまり。


 勝敗基準は、供給量。


 そしてその源は――


 観客の共鳴値。


 


 クラウスは観客から“安定供給”を受けている。


 だがそれは信頼による供給だ。


 安心による供給だ。


 心が揺れたわけじゃない。


 予定調和の循環。


 


 アリアの胸の奥で、何かが弾ける。


 


(あ、これ)


(ライブじゃん)


 


 彼女の土俵。


 術式ではなく、心拍。


 理論ではなく、衝動。


 完成度ではなく、体温。


 


 白光の中心でクラウスが最終段階へ入る。


 高音詠唱。


 魔法陣がさらに一段階拡張。


 講堂全体が規則正しく震える。


 


 その瞬間。


 アリアは、白光の外へ一歩踏み出した。


 境界線。


 光と影のあいだ。


 


 トン。


 


 床を踏む。


 


 今度は、はっきりと。


 一、二、三、四。


 一、二、三、四。


 


 三拍の世界に、異物が落ちる。


 


 最初は小さい。


 白光にかき消されるほどの微振動。


 


 だが彼女は、観客を見たまま言う。


 


「ねえ」


 


 詠唱ではない。


 呼びかけ。


 


「息、止めないで」


 


 数人が、はっとする。


 


「ちゃんと吸って、吐いて」


 


 彼女がもう一度踏む。


 


 トン。


 


 今度は手を叩く。


 パン。


 


 四拍。


 


 三拍の安定構造に対し、四拍は“不安定”とされる禁則。


 だがそれは理論上の話。


 


 人間の歩行。


 鼓動の高揚。


 走り出す直前のリズム。


 


 四拍は、本能だ。


 


 観客席の後方。


 平民出身の生徒が、無意識に足を鳴らす。


 トン。


 


 白光の下で、わずかなズレが生まれる。


 


 監察官の記録盤に、細い波形が走る。


「……?」


 


 クラウスの眉がわずかに動く。


 だが詠唱は崩れない。


 完璧だ。


 


 完璧だが。


 


 アリアは笑う。


 


(術式じゃない)


(心拍だよ)


 


 彼女は深く息を吸う。


 まだ歌わない。


 


 まず、揺らす。


 呼吸を。


 身体を。


 観客の“内側”を。


 


 白光が秩序なら。


 自分は衝動。


 


 そして衝動は、感染する。


 


 トン、パン。


 トン、パン。


 


 三拍の城壁の外側で、

 四拍が、確かに根を張り始めていた。

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