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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Stage2:前半 ― 正統の圧

 先に動いたのはクラウスだった。


 静かな吸気。


 そして、正確無比な第一音。


 一、二、三。


 一、二、三。


 三拍が、大講堂を支配する。


 低く、安定した詠唱が床の魔法陣に触れた瞬間、幾何学模様が完璧な対称性で展開した。


 光は乱れない。


 揺らがない。


 誤差は、ない。


 高位詠唱――第七課程の上位構成。


 旋律は術式に沿い、術式は旋律に従う。


 導線は固定され、魔力は一本の川となって彼へと流れ込む。


 観客席の貴族たちが自然と頷いた。


「美しい」


「これぞ音律」


 学院生たちも、知らず肩の力を抜く。


 三拍は安定の象徴。


 揺るぎない基準。


 白光が講堂を満たす。


 天井の増幅水晶が規則正しく明滅し、計測盤の数値が整然と伸びていく。


 理想値。


 教科書通り。


 模範解答。


 クラウスの足元から広がる光紋は、まるで王都の城壁のようだった。


 守り。


 秩序。


 完成。


 その中央で、アリアはまだ歌っていない。


 白光に包まれながら、片目を細める。


「うわ……すご」


 正直な感想だった。


 技術は本物。


 積み重ねられた体系。


 訓練。


 努力。


 完成度は圧倒的だ。


 そして――


 安心感がある。


 観客はその光の中で安堵する。


「やはり正統が至高」


「異端など一過性の現象に過ぎぬ」


 ささやきが広がる。


 魔力供給は安定し、クラウスの周囲で白い環が幾重にも重なった。


 彼は揺るがない。


 視線すら動かさない。


 勝利を疑っていない者の姿勢。


 監察官の一人が記録盤を確認する。


「出力安定。危険性なし」


「これが基準値か」


 基準。


 その言葉が、舞台を二分する。


 基準を持つ者と。


 基準を持たない者。


 リュミエールは唇を噛む。


 この光景は、彼女にとっても誇らしいものだった。


 三拍は聖女体系の土台。


 世界を守る旋律。


 だが同時に、心の奥がざわつく。


(でも……)


 あの日の振動は、こんな光ではなかった。


 もっと、荒く。


 もっと、近く。


 もっと、身体に触れるものだった。


 白光が最高潮に達する。


 クラウスの詠唱は一段階上へ。


 高音域へと滑らかに移行し、魔法陣は三重展開。


 観客席からどよめきが上がる。


「完璧だ……」


「勝負は見えたな」


 アリアは、完全に不利に見えた。


 まだ何もしていない。


 導線もない。


 光もない。


 支援もない。


 ただ、立っているだけ。


 白に対して、無色。


 秩序に対して、無構造。


 だが。


 彼女の足先が、わずかに床を刻む。


 トン。


 まだ聞こえないほどの、小さな四拍の予兆。


 正統の圧が講堂を満たす中。


 白光の外側で、

 まだ誰も気づいていないリズムが、

 静かに、呼吸を始めていた。

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